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タイガー・グローバルとは?投資戦略と2025年最新ポートフォリオを解説
本記事では、2020年にヘッジファンド収益ランキングで世界首位となり、投資家に100億ドル以上の利益をもたらしたタイガー・グローバル・マネジメント(Tiger Global Management)を紹介します。同社の創業背景や投資戦略、そして2025年3月末時点の最新ポートフォリオを解説します。Tiger global managementとはタイガー・グローバル・マネジメントは2001年に設立され、ニューヨーク市に本社を置く世界有数のヘッジファンドです。テクノロジーセクターへの集中投資で知られつつも、消費財、フィンテックといった幅広いセクターに投資しており、これまでに20以上のファンドを組成し、運用資産残高は700億ドルを超えています。創業者のチェイス・コールマン氏は、1997年から2000年にかけて著名投資家の故ジュリアン・ロバートソン氏(タイガー・マネジメント創業者)の下で投資の基礎を学びました。ロバートソン氏は、ジョージ・ソロス氏と並んで20世紀が生んだヘッジファンドの大御所と称され、築き上げた純資産総額は40億ドルを超えます。同氏の掲げた「最も長期成長を望める企業の株式を購入し、経営が悪い企業を空売りする」という運用手法は、現在のタイガー・グローバル・マネジメントの投資の核となっています。2000年にロバートソン氏がタイガー・マネジメントを閉鎖した際、コールマン氏は2,500万ドル以上の運用資金を託され、2001年にヘッジファンド「タイガー・テクノロジー」を設立(後に現社名へ改称)しました。2003年にはプライベート・エクイティ(未上場企業)投資に進出し、Facebook(現メタ・プラットフォームズ)やLinkedIn、JDドットコムなど、当時まだ黎明期にあったテック企業へのベンチャー投資を展開。これにより、上場・未上場の双方に投資する「クロスオーバー投資」のパイオニアとして名を馳せるようになります。コールマン氏はメディアへの露出を避けることで知られ、運用そのものに専念する姿勢を貫いています。近年は、AIやクラウド関連のグロース株への投資を積極的に進めており、2023年〜2024年第1四半期の公開株式ポートフォリオの収益率は80%超と、S&P 500のリターン(約35%)を大きく上回る成果を上げています。同時に、AI関連銘柄に偏重しすぎない分散投資も図っており、2024年の投資家向けレターでは、ポートフォリオのうち約30%は非AIセクターであり、これらのポジションも過去15カ月で約2倍に成長し、ヒット率は80%に達したと報告しています。Tiger Global Managementのポートフォリオ5月15日に米証券取引委員会(SEC)に提出された報告書「フォーム13F」により、タイガー・グローバル・マネジメントの2025年3月末時点でのポートフォリオが明らかになりました。上位10銘柄が全体の約63%を占めており、「マグニフィセント・セブン」で知られる大型テック銘柄が上位に並びます。上位保有銘柄メタ・プラットフォームズ(META) : 16.2%マイクロソフト(MSFT) : 8.81%シー(SE): 7.87%アルファベット(GOOGL) : 5.99%アマゾン・ドット・コム(AMZN): 4.71%テイクツー・インタラクティブ (TTWO): 4.55%エヌビディア(NVDA): 4.47%イーライリリー・アンド・カンパニー(LLY): 4.15%アポロ・グローバル・マネジメント(APO): 3.20%フラッター・エンターテインメント(FLUT): 2.81%生成AI領域への強気姿勢公開株式ポートフォリオは、生成AIサービスの成長に最も直接的な恩恵を受ける4大ハイパースケーラー(メタ、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン)が全体の三分の一以上を占めています。2025年の第一四半期には、多くのヘッジファンドがDeepSeekショックやトランプ関税への警戒から、マグニフィセント・セブン銘柄を売却する中で、タイガー・グローバル・マネジメントはマイクロソフト株を約17%、アマゾン株を2.7%買い増し、メタとアルファベットについては売却せず保有を継続しました。一方で、ショートポジションを活用したリスクヘッジをしており、同四半期はショートポジションが主要リターンドライバーとなっていることが報告されています。また、半導体セクターについては選別が進んでいます。同四半期に、エヌビディア株を13%、台湾セミコンダクターズ(TSM)株を17%、ブロードコム株を23%増やす一方で、クアルコム(QCOM)やアーム・ホールディングス(ARM)の株式は全て売却し、AIインフラを支える中核企業に絞った投資方針が読み取れます。デジタルエンタメ分野への投資も維持また注目すべきは、ポートフォリオ上位にデジタルエンターテインメントやゲーム分野の企業が多く含まれている点です。シー、テイクツー・インタラクティブ、フラッター・エンターテインメントなどは、いずれもZ世代以降の「消費の主戦場はリアルからデジタルへ」という潮流を踏まえた構成で、これらのポジションも維持されました。シーは、東南アジア最大のECプラットフォーム「Shopee」や、世界的なモバイルゲーム開発会社「Garena」、急成長中のデジタル金融サービス「Monee」を傘下に持ちます。同社はシンガポールが拠点のため、トランプ政権による関税強化の影響も比較的軽微と見られています。テイクツー・インタラクティブは、人気ゲーム『グランド・セフト・オート(GTA)』シリーズの開発元で、最新作『GTA VI』は2026年5月26日発売予定。ウォール街では、2027年度の予約額が90億ドルに達するとの予測も出ています。フラッター・エンターテインメントは、米国のスポーツベッティング最大手で、オンライン賭博の拡大に乗じて成長を加速させています。著名投資家のポートフォリオを簡単コピー?ブルーモ証券では、2025年3月末時点でのタイガー・グローバル・マネジメントのポートフォリオをもとに、同様の構成銘柄・投資比率で投資を始められるサービスを提供しています。ウォーレン・バフェット氏など他の著名投資家の最新ポートフォリオも閲覧、カスタマイズ可能。気に入った銘柄構成をベースに、自分好みのポートフォリオを簡単に作成できます。

なぜ日銀は国債買い入れ減額を緩和?財務省も異例の長期債発行見直しへ
6月17日、日本銀行(日銀)は政策金利を0.5%程度に据え置くとともに、国債買い入れ額の削減ペースを2026年4月以降に緩和する計画を発表しました。2026年3月までは引き続き国債の月間購入額を四半期ごとに4000億円ずつ削減し、2026年4月から2027年3月までは四半期ごとに2000億円ずつ削減。2027年第1四半期の月間購入額を約2.1兆円にする方針です。本記事では、新たな減額計画の背景や市場の反応を整理しつつ、今後の国債需給における注目点を解説します。なぜ日銀は減額ペースを緩和したのか現在、日本の超長期国債の利回りは発行開始以来の最高水準に達しており、日銀の国債買入れ方針は市場の注目を集めていました。日銀は2024年末時点で国債残高の約半分を保有しており、国債市場における最大の保有者です。今回の措置について、日銀は「国債市場の機能改善と安定の両立」を狙いとしています。植田総裁は記者会見にて「長期金利は金融市場で形成されることが基本」とした上で、国債買い入れの減額は金利形成の自由度を高めるものの、ペースを急ぎすぎるとボラティリティの急拡大を招き、経済に悪影響を与える可能性があると指摘しました。減額ペースの緩和は、こうしたリスクを回避し、市場の安定性への配慮に基づいたものと説明しています。市場では、発表内容は概ね事前の予想通りと受け止められ、目立ったサプライズはありませんでした。ただし、一部市場関係者からは「金融政策の正常化が一歩後退した」との指摘もあり、今回の対応が超長期ゾーンを中心とする国債需給悪化への対症療法的な措置であるとの見方もあります。また、米国の財政悪化懸念やトランプ政権の通商政策に対する不透明感を背景に、世界的に長期金利が上昇する中、日本の長期金利急騰によるグローバル金融市場の混乱を回避したいという意図も透けて見えます。財務省も異例の対応──超長期債発行を年度途中で見直し一方、超長期債の需給悪化を受けて、財務省も動きを見せています。6月20日に開かれた国債市場特別参加者(プライマリーディーラー、PD)会合では、2025年度の国債発行計画の変更案が提示され、20〜40年の超長期債の年間発行額を計3.2兆円減額する方針が明らかになりました。事前報道の予想を約9000億円上回る規模となり、20年債の減額幅は倍に拡大されました。補正予算によらず、年度途中で発行計画が見直されるのは極めて異例であり、超長期債市場の需給悪化に対する危機感の強さがうかがえます。今後の注目点とリスク要因今後、超長期債の流動性の回復とボラティリティの抑制が進むかは、7月以降の長期債・超長期債入札において投資家の堅調な需要が確保できるかにかかっています。また、金融政策を巡るリスクとして、トランプ政権との貿易交渉も引き続き注視が必要です。関税引き上げは日本企業の業績や賃金動向に影響を与える可能性があり、日銀の利上げタイミングにも関わってくるでしょう。先週行われた、石破首相とトランプ大統領の会談では貿易協議に進展は見られず、米国が設定した相互関税の猶予期限(7月9日)が迫る中、政権関係者から合意時期は「秋以降になる可能性が高い」との見方も出ています。こうした不確実性が払拭されない限り、日銀としても積極的な金融正常化には踏み切りづらい状況が続くと見られます。今後の注目イベント6月24日:20年債入札7月1日:10年債入札7月3日:30年債入札7月9日: 相互関税の猶予期限

キャリートレードとは?日本の金利上昇がもたらす円キャリートレード解消リスク
本記事では、「キャリートレード」の基本的な仕組みを解説した上で、円キャリートレードの巻き戻しリスクと、日本の長期金利上昇が円キャリートレードに与える影響について掘り下げていきます。キャリートレードとは「キャリートレード」とは、金利の低い通貨で資金を調達し、高利回りの資産に投資することで、その利回り差から利益を得る投資手法です。例えば、円を借りて米国のハイテク株や新興国通貨建て債券といった相対的にリスクの高い資産に投資し、最終的に外貨を円に戻して元本を返済するという流れが挙げられます。為替レートが安定していれば、調達金利と投資先利回りの差による利益が期待できますが、為替変動や金融政策の転換によって損失を被るリスクもあります。なお、金融用語で「キャリー」とは、保有資産から継続的に得られる金利や収益のことを指します。なぜ「円」がキャリートレードの調達通貨として選ばれるのか円キャリートレードが本格的に広がったのは、1999年に日本でゼロ金利政策が導入されたことが契機でした。デフレと低成長が続いた日本では、日本銀行(日銀)がマイナス金利政策やイールドカーブ・コントロール(YCC)など、長期にわたり緩和的な金融政策を継続してきました。特に、2013年の量的・質的金融緩和以降は、米国の利上げ局面と円安の進行が重なり、円キャリートレードは活発化。円は「低コストで借りやすい通貨」として、国際金融市場での地位を確立しました。また、為替のボラティリティが比較的低いことも調達通貨としての魅力を高めています。2022~2023年にかけては、米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を5%超に引き上げる一方、日銀はゼロ金利を維持。結果として金利差が拡大し、キャリートレードは一段と活性化しました。2025年6月時点、日銀の短期金利は0.5%にとどまっており、円キャリートレードの環境は依然として存在しています。円キャリートレードの巻き戻しとは「巻き戻し」とは、キャリートレードによって積み上げられたポジションが、何らかの要因で一斉に解消される動きを指します。これは、金融政策の転換や市場のボラティリティ上昇などをきっかけに発生しやすく、投資家はリスク資産の売却と同時に、調達通貨である円の買い戻しに動きます。レバレッジをかけた取引が多いため、巻き戻しは急激に進行し、株式・債券市場を含む幅広い資産価格の下落を引き起こすことがあります。2024年以降、日銀はマイナス金利とYCCを終了し、政策正常化に舵を切りました。利上げは一時停止中とはいえ、日本国債の利回り上昇観測は資金調達コストの上昇を意味するため、円を借りてリスク資産に投資するメリットが低下しつつあります。昨年8月に円キャリートレードの巻き戻しが進み、急激な円高が発生したことも記憶に新しいところです。日本の長期金利上昇がキャリートレードに与える影響現在、日本の長期金利は過去最高水準付近で推移しており、キャリートレード解消への警戒感が市場で高まっています。この状況に対し、ソシエテ・ジェネラルのアルバート・エドワーズ氏は最近の顧客向けレポートで、日本国債の利回り急上昇により、米国の株式・国債市場の支えとなってきた日本の資金が急激に流出する可能性を指摘。これにより、米国のハイテク株など、円キャリートレードの恩恵を受けてきた資産が下落するリスクがあるとしています。一方、円キャリートレードの巻き戻しが昨年8月のように急激に進むとの見方には慎重論もあります。資産運用会社アムンディのガイ・ステア氏は、「大きなキャリーポジションは通常、為替トレンドが強いとき、または為替ボラティリティが非常に低いとき、そして短期金利差が大きいときに積み上がる」と述べ、短期金利差が縮小している現在、昨年よりも円の空売りポジションが減少していると指摘しています。アムンディのデータによると、2024年第2四半期には米日2年国債の利回り差は4.5%だったのが、直近では3.2%まで縮小し、キャリートレードの収益性を低下させています。日本の金融政策が大きな転換点を迎える中、円キャリートレードを取り巻く環境も徐々に変化しつつあります。特に、円金利の上昇は国際的な資金フローや米国市場のリスク資産価格にも影響を及ぼす可能性がある点で、投資家にとって重要な視点となります。

イーロン・マスクCEOとトランプ大統領の関係が与えるテスラ株への影響とは
イーロン・マスク氏とドナルド・トランプ大統領の関係は、米国株市場における政治リスクの典型例として浮上しています。特にテスラ株は、両者の確執によって大きく振れ、単なる企業業績だけでなく、政権との関係性や政策の方向性といった外部要因に大きく左右される銘柄となっています。 両者の関係の推移(2016~2025年)2016年、マスク氏はトランプ氏の大統領当選を受けて政権の経済諮問委員に就任。当初は協調姿勢を見せましたが、2017年のパリ協定離脱に抗議して辞任し、気候政策を巡る立場の違いが浮き彫りになりました。その後2020年には、コロナ禍によるカリフォルニア州の工場閉鎖命令に反発したマスク氏を、トランプ氏がSNSで支持。再び接近の兆しを見せたものの、2022年にはマスク氏がフロリダ州知事ロン・デサンティス氏の支持を示唆すると、トランプ氏は激しく非難。以降、両者の関係は冷却化しました。2024年の大統領選ではマスク氏が最終的にトランプ陣営に巨額献金を行い、選挙戦を側面支援。トランプ氏が再選を果たすと、2025年にはホワイトハウス内にマスク氏主導の政府改革タスクフォースが設置され、一時的な蜜月が復活します。マスク氏は行政の無駄を削減する「政府効率化」プロジェクトの中心人物として政権内で重用され、SpaceXの宇宙通信インフラやAI開発推進といった分野でも協業が見込まれていました。しかし、2025年春に提出された大型減税・歳出法案「Big Beautiful Bill」にEV補助金の撤廃が含まれていたことをきっかけに、両者の関係は急速に悪化。マスク氏は法案を「財政規律を無視し、EV産業を冷遇するもの」と批判。トランプ氏は「マスクは補助金目当て」と反発し、テスラやSpaceXに対する連邦契約・補助金の見直しを示唆しました。この対立は短期間で一気に激化し、マスク氏はSNSで「トランプ大統領は弾劾されるべき」と投稿。さらに、政権がテスラ車の認証や政府調達の面で冷遇している可能性に言及するなど、直接的な企業運営への干渉を警戒する姿勢を鮮明にしました。トランプ氏もマスク氏を「恩知らず」と非難し、Starlinkや宇宙インフラ事業への契約停止にまで言及するなど、対立は制御不能なレベルにまで達しました。2025年6月のテスラ株急落(14%下落)の背景2025年6月5日、マスク氏とトランプ氏の確執が鮮明になる中、テスラ株は1日で14.2%下落。時価総額ベースでは約1,520億ドルが失われました。これはテスラにとって過去最大級の下落であり、政治的発言が株価に直撃する構図が改めて浮き彫りとなりました。背景には、(1)EV補助金撤廃の具体化、(2)政府契約打ち切りリスクの高まり、(3)ホワイトハウスとの関係断絶による将来的不確実性、といった複数の懸念が市場に波及したことがあります。投資家の売買動向ヘッジファンド:トランプ政権との関係悪化を“売り材料”と見なし、テスラ株の空売りを急増。6月5日の1日で約40億ドルのショート利益を得たとされます。アクティブ運用機関:ARK Investなどがテスラ株の一部を売却。政権リスクと収益鈍化の両面からポジションを減らす動きが見られました。個人投資家:下落を押し目と見て買い向かう層も多く、リテールは同日ネットで2億ドル以上の買い越し。レバレッジ型ETF(TSLLなど)への資金流入も増加しました。オプション市場:プットオプションの建玉が過去最高水準に膨らみ、ヘッジ需要の高まりと市場の警戒感が顕在化しました。市場では、「政治的な期待が剥落したことで、テスラ株のバリュエーションが現実に引き戻された」との評価が支配的となりました。テスラに影響を与える3つの構造リスク1. 政治リスクトランプ政権が政敵への報復的姿勢を見せた場合、テスラやマスク氏が関与するSpaceX・Starlinkなどの連邦契約が打ち切られる可能性があります。また、NHTSA(運輸省)による自動運転認可や安全審査にも政治的圧力がかかる恐れがあります。こうした契約の打ち切りは、マスク氏の資産構成にも影響を与え、テスラ株の売却圧力につながる懸念もあります。2. 政策リスクEV購入補助金の廃止、EVユーザーへの追加課税、州独自のZEV(ゼロエミッション車)義務撤廃などが含まれます。特に補助金撤廃はJPモルガンの試算で年間利益に最大12億ドルの影響とされ、テスラの利益構造に大きな圧力をかけます。また、中国製電池・パーツへの関税引き上げや米中対立の再燃により、テスラのコスト構造が不安定になる可能性もあります。上海工場に依存するグローバル供給体制が不安定化すれば、生産計画や価格戦略に影響を及ぼしかねません。3. ブランドリスクマスク氏の政治的発言やSNS上の言動が、テスラのブランドイメージを傷つけるリスクがあります。民主党系リベラル層はマスク氏の右傾化に反発し、保守層はトランプ批判に反発。結果的に「両サイドからの離反」が起こる可能性が指摘されており、顧客基盤の縮小に直結する懸念があります。また、環境志向の高い層や若年層がSNS上で「反マスク」的ムーブメントを強めることにより、購買意欲の低下やリセールバリューの下落といった間接的影響が出る可能性もあります。今後3〜6ヶ月の注目イベントと株価への影響予想直近の急落劇を受け、今後数ヶ月間のテスラ株は引き続き政局や政策ニュースに敏感な展開が予想されます。個人投資家が適切な判断を下せるよう、この先3〜6ヶ月の主要なイベント・ニュースフローと、そのテスラ株への潜在的影響を整理します。以下に、政策スケジュールや外部環境の主なポイントをまとめました。EV税額控除の撤廃法案の行方 2025年夏〜秋(議会審議)7,500ドルの税優遇廃止が成立すれば需要減退・利益圧迫要因となり、年間12億ドル規模の減益試算となります。成立阻止ならポジティブ材料になります。米中通商協議と関税措置 2025年後半(首脳会談模索)トランプ政権による対中関税・輸出規制の強化リスクとなります。車両関税や電池素材の供給制限が生じればコスト増で株価下押し要因となるでしょう。逆に首脳会談で摩擦緩和なら調達コスト改善に寄与し好材料になります。実際6月には鉱物紛争が一時懸念されました。自動運転規制の動向 2025年内(FSD調査結果等)NHTSAによる「完全自動運転(FSD)」機能の調査や、運輸省によるロボタクシー車両の認可動向に注視します。政権が非協力的なら認可遅延・追加規制の可能性もあります。ロボタクシー実証実験(2025年6月予定)への政府対応も焦点となります。前向きな規制緩和なら株価の追い風になります。政治・政策を巡る不透明感はテスラの評価に強く影響を与え続けます。両者の関係改善の兆しが見えれば、再評価の機運が高まる一方、対立が長期化すればバリュエーションの修正圧力が続くと見られます。政策リスクと感情的対立が株式市場に波及する構図は、今後の米国株全体にも示唆を与える重要なテーマといえるでしょう。

テスラ、ロボタクシー開始で株価上昇なるか?自動運転の現状とWaymoとの違いは
米電気自動車(EV)大手テスラは、6月22日からテキサス州オースティンで無人配車サービス「ロボタクシー」サービスを開始する予定です。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は「自動運転車とロボットはテスラの時価総額を少なくとも30兆ドルに押し上げる可能性がある」と述べており、本記事ではテスラの自動運転技術の現状、競合との違い、市場関係者の評価を紹介します。完全自動運転とはギャップ、開始後倒しの可能性もオースティンでのロボタクシー展開は、完全自動運転「FSD(Full Self-Driving)」ソフトウェアを搭載したモデルYが約10台導入される予定です。走行エリアは「最も安全」とされたオースティン地域の一部に限定され、遠隔監視によって緊急時に人間が介入できる体制となっています。マスク氏は4月の決算説明会で「ロボタクシーの導入はモデルY10〜20台で開始し、急速に規模を拡大し、年内に他の米国都市へ展開。来年後半には数百万台のテスラ車が完全自動運転で稼働する」と述べていました。しかし、現時点でのテスラ車の自動運転レベルはレベル2〜3の間にとどまり、AIによる完全自律走行とは乖離があります。安全性や収益性には懐疑的な見方も根強く存在し、マスク氏自らもX上で「安全性について神経質になっていて、オースティンでのサービス開始日が変更される可能性がある」と示唆しています。先行するWaymoと中国勢アルファベット傘下のWaymoは、2020年に無人配車サービスを開始。現在は、フェニックス、サンフランシスコ、ロサンゼルスとオースティンの一部でロボタクシーを商用運用しており、アトランタ、マイアミ、ワシントン、そして東京への進出が予定されています。Waymoは急成長を遂げており、サービスは週に25万回以上利用され、米国内の総賃走回数は1,000万回を突破しました。中国では、百度のApollo Go、WeRide、Pony AIが合計1,700台規模のロボタクシーサービスを展開。中東市場への進出も進めており、S&Pグローバル・モビリティは「今後10年間でレベル4自動運転の実現を牽引するのは主に中国」と予想しています。自動運転システムの違い─車載センサー「LiDAR」の有無Waymoは、車体にリモートセンシング技術「LiDAR(Light Detection And Ranging)」やレーダー、カメラを搭載し、事前に作成された自動走行用の精密な地図に従って走行するという方針を採用しています。未知の土地では原則自動運転を行わず、安全性を重視し、都市単位で段階的にサービスを展開しています。テスラもかつて車載センサーやレーダーを使用していましたが、2022年に廃止。現在は、複数の外部カメラで周囲の状況を把握し、カメラ映像のみを使用する「Vision-only」方式に移行しています。マスク氏は、LiDARを「高価で不必要」と評し、Waymo車の課題はコストであると指摘しています。視覚ベースの運転支援技術に賭ける方針は、中国のEV大手Xpengも追随しており、2024年後半にLiDARとレーダーを廃止した自動運転システムを発表しました。LiDARの不使用はコストとスケーラビリティにおいて優位性がありますが、専門家の多くは「LiDARの方が障害物検知に優れ、安全である」と指摘しています。米運輸省道路交通安全局は、FSD搭載車の「太陽光や霧、空気中の塵などにより視界が悪化した状況下での衝突事故」に関する調査を公表していますが、テスラは大規模データとAI学習によって雨や霧でも人間ドライバーが目視できる範囲は克服できると主張しています。投資家の期待とリスクテスラは現在、主力のEV事業が伸び悩みに直面しており、2024年には年間売上高が初めて前年割れし、四半期ベースでも過去最大の減収を記録しました。マスク氏の政治活動が消費者の離反を招いたとの見方もあります。一部のアナリストは、テスラの株価はロボタクシーやヒューマノイドロボットといった「まだ実現していないビジョン」に支えられていると指摘しています。長年テスラに強気なウェドブッシュ証券のダン・アイブス氏は「テスラ株のバリュエーションの多くは、自動運転ビジョンの実現性にかかっている」とし、目標株価を500ドルに維持。今後1年で全米20~25都市にロボタクシーが導入されると予想しています。スタイフェル・ファイナンシャルのスティーブン・ゲンガロ氏は、「700万台の車両を擁するテスラが、ロボタクシーを実現すれば市場を席巻できる」とスケーラビリティにおける優位性を評価。Waymoなどの競合他社は数千台規模にとどまり、大規模展開には巨額の設備投資が必要であると指摘しています。一方、モーニングスターのセス・ゴールドスタイン氏は、来年収益化というマスク氏の予測は「非常に速いペース」とし、来年までの売上高と利益の予測が実現しなければ、投資家の失望を招く可能性があると警告。しかし、2028年までにテスラがWaymoと競合するロボタクシーシステムを立ち上げると予想しています。

【米国株動向】TACOトレード、トランプ・マスク対立とは?トランプ相場、次なる市場の焦点は
S&P500指数は、トランプ米大統領による関税措置で生じた下落分を取り戻して年初来のプラス圏に回復しました。本記事では「TACOトレード」や、トランプ氏とイーロン・マスク氏の対立といった米国株式市場で注目を集めるトピックを解説いたします。TACOとはTACOは「Trump Always Chickens Out(トランプ氏はいつも尻込みする)」の略語であり、関税政策で強気な姿勢を示しながらも最終的には譲歩に転じるというトランプ氏の行動パターンを揶揄した表現です。フィナンシャル・タイムズのコラムニスト、ロバート・アームストロング氏が生み出した造語で、ウォール街やソーシャルメディアを通じて拡散され、ホワイトハウスにまで届きました。トランプ関税による相場下落で買い入れる「TACO」トレードTACOトレードは、トランプ氏による新たな関税または引き上げ発表で株価が一時的に下落した際にリスク資産を買い入れ、その後関税導入の延期または撤回により市場が回復した時に利益を狙う投資戦略です。トランプ氏のこれまでの行動を振り返ると、極端な関税政策は市場への配慮から最終的に撤回・延期されるケースが多く、短期的な株価の下落を買い場と見なす投資家も少なくありません。実際、米国株式市場は4月初旬に底値を付けた後、S&P500指数は23%、ナスダック指数は32%の反発を見せています。TACOトレードの典型的なアプローチとしては、相場下落後の1〜2日間を目安に、一般消費財、テクノロジー、金融、工業、エネルギー等の景気敏感株への段階的な投資が検討されます。これらのセクターは短期的に最も大きく下落しやすい一方で、反発局面ではリターンが最も大きくなる傾向があります。強気派は「正常化シナリオ」に賭けるが、懐疑的な声も米国株式市場の今後の動きは、関税・財政政策や米連邦準備政策理事会(FRB)の金利動向等にかかっています。米国株の強気派は、今後数ヶ月間でTACOトレードが継続し、多くの事態が正常化すると見立てており、「関税がインフレを加速させることなく、米政府の財政懸念は和らぎ、景気後退は回避」され、そして「FRBが年内に利下げを行う」シナリオを想定しています。しかし、そうした見立てに対して懐疑的な声も存在します。JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)やブリッジウォーターの創設者レイ・ダリオ氏らは、米国財政の持続可能性に警鐘を鳴らしており、一部の投資家はロングポジションを維持しながらも、リスク資産への投資配分の見直しを始めています。トランプ氏とマスク氏の対立も市場の波乱要因に加えて、市場ではトランプ氏とイーロン・マスク氏の関係悪化も注目されています。6月3日、マスク氏は米議会上院で審議されている税制・歳出法案に公然と反対の意を表明。これを受け、トランプ氏は6月5日に自身のソーシャルメディアで「マスク氏に失望した」と述べ、マスク氏の企業への政府契約や補助金を打ち切る可能性があると示唆しました。一連の応酬を受け、テスラの株価は6月5日の終値で14.3%下落し、約1500億ドル(約22兆円)の時価総額が失われました。他の大型テクノロジー銘柄も値下がりとなり、市場全体のリスクセンチメントが一時的に悪化しました。トランプ氏とマスク氏の関係の見通しも不透明感が続いており、両者の対立とそれに伴う金融市場への波及は、産業と政府の権力を一個人に集中させる脆弱性が指摘されています。市場の次なる焦点は「利下げのタイミング」FRBの金融政策への関心も大きく高まっています。FRBは昨年12月に0.25%の利下げを実施した以降、FF金利を4.25〜4.50%のレンジに据え置いており、現在も「インフレ鈍化の持続性」と、「関税・財政政策が景気や物価に与える影響」の見極めに慎重な姿勢を保っています。市場では、年内に少なくとも1回の利下げがあるとの期待が残る一方、その実施時期については見方が分かれています。6月FOMC会合でのドットプロット(政策金利見通し)やパウエル議長の記者会見が、今後の方向性を大きく左右する可能性があります。また、財政拡大が続くなかでのインフレ再燃リスクが高まれば、FRBは「予防的な利下げ」よりも「忍耐強い据え置き」を選択する可能性が出てくるでしょう。

【FOMC6月会合プレビュー】FRBが利下げに慎重な理由とは?市場はドットプロットに注目
6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)を前に、市場では米金融政策動向に注目が集まっています。本記事では、FRBのスタンスと6月会合での注目ポイントを解説します。FRBは利下げ慎重姿勢を維持米連邦準備制度理事会(FRB)は、昨年12月の利下げ以降、フェデラルファンド(FF)金利を4.25%~4.5%に据え置いています。5月28日に公表された会合の議事録では、経済の先行きが見通しづらくなるなか、FOMC参加者が「インフレと経済の見通しがより明確になるまでは、(利下げを急がずに)慎重なアプローチを取るのが適切との認識で一致した」と記されています。特に、トランプ政権の関税政策によりインフレが想定以上に持続するリスクに対して、警戒感が示されました。また、今後数ヶ月はインフレ再加速や失業率上昇の可能性があり、FRBが掲げる「物価安定」と「最大雇用」という二大目標のバランスが問われる難しい局面になると指摘されています。一方、経済成長は依然として堅調であり、労働市場は弱まるリスクは高まっているものの「おおむね維持されている」との見方が示されました。貿易摩擦緩和で景気後退懸念は和らぐ前回会合以降、米景気に対する悲観的な見方はやや後退しています。トランプ大統領は対中関税の一部を90日間引き下げることに合意し、欧州連合(EU)への新関税も7月9日まで延期されました。こうした貿易摩擦の緩和を受け、急速な景気減速への警戒感が和らぎ、投資家のリスク回避姿勢も落ち着きを見せています。Polymarketなどの予測市場によると、2025年に米国が景気後退に陥る確率は、5月初旬の60%超から現在は40%未満へと低下。S&P500指数も、4月の急落から持ち直し、年初来でわずかながらプラス圏に回復しています。6月会合の焦点:ドットプロットと年後半の利下げ観測現在、FRB高官らは引き続き「財政政策や貿易政策の見通しがより明確になるまでは、追加利下げには慎重」とのスタンスを示しています。この見方に市場も呼応しており、少なくとも9月の会合まで利下げは行われないと見込んでいます。5月29日時点のFedwatchでは、9月と10月会合で0.25%ずつの利下げが実施されるとの見方が優勢です。6月会合では、FOMC参加者それぞれの金利見通しを示す「ドットプロット」が発表され、年後半の金融政策の方向性を理解する上で重要な手がかりとなります。ただし、見通しは会合前の数週間に発表される一連の経済指標にも左右されます。市場コンセンサスのベースケースは、金利据え置きと年内1回の利下げ見通しですが、インフレ指標が強い内容となれば、利下げ観測後退=タカ派サプライズが起こる可能性もあり、ドル高要因となります。6月前半の注目イベント6月6日:雇用統計6月11日:消費者物価指数(CPI)6月12日:生産者物価指数(PPI)6月17日: 小売売上高6月17-18日:FOMC

トラス・ショックとは何か?米国・日本で同様の金融危機は起きるか徹底解説
本記事では、2022年にイギリスで起きた「トラス・ショック」という財政政策起因の金融危機を紹介し、同様の動きが米国・日本で生じるかを分析していきます。比較の観点としては、「通貨・国債の地位」と「中央銀行の独立性」が重要で、結論として米国・日本ともに全く同じ動きが起きる可能性は低いものの、特に日本では長期金利のパスを通じた危機誘発メカニズムが存在し、為替を通じた金融危機のリスクに注意することが必要です。イギリス「トラス・ショック」で何が起きたか2022年9月、当時のリズ・トラス英首相は、大規模な減税策を柱とする「ミニ・バジェット」と呼ばれる一連の財政政策を発表しました。減税の規模は 「過去50年で最大」 と報じられ、その総額は約450億ポンドにのぼりました。具体的には所得税の基本税率を引き下げる時期を前倒しし、高額所得者に適用される45%の最高税率を撤廃(のちに撤回)し、さらに法人税率の引き上げを凍結するなど、大胆な減税が含まれていました。これらの減税策は財源の大半を国債発行によって賄う「財源なき減税」であり、中長期的な財政悪化リスクを伴うものでした。市場はこの発表に即座に反応し、発表直後から英ポンド急落と英国債の利回り急騰という激しい動きが起きました。9月23日、ポンド相場は対ドルで一時1ポンド=1.09ドル台まで下落し、約37年ぶりの安値水準となりました。株式市場も影響を受け、FTSE100株価指数が当日2%下落するなどトリプル安(通貨・債券・株式の同時下落)の様相を呈しました。急激な金利上昇は、イギリスの年金基金にまで波紋を広げました。多くの企業年金基金は将来の給付に備えてLDI(負債主導型投資)戦略と呼ばれる手法で国債を活用しており、金利変動に対するヘッジのためデリバティブ取引を行っていました。ところが金利が急騰すると、これらLDI取引では担保(証拠金)不足が生じ、年金基金は追加の証拠金を差し入れるよう緊急要求(マージンコール)を受けました。資金繰りのため年金基金や運用ファンドが保有国債を次々と売却した結果、市場にさらなる売り圧力がかかり、金利は一段と上昇するという悪循環に陥ったのです。このままでは年金基金が破綻しかねない危機的状況となり、イングランド銀行(英中央銀行)は金融システム安定化のため異例の緊急介入(長期国債の買い入れ)に踏み切りました。中央銀行による「最後の買い手」としての介入でなんとか市場の連鎖的不安は沈静化しましたが、トラス政権も減税策の大部分を撤回せざるを得なくなりました。結局、発表から1か月も経たないうちにトラス首相は辞任に追い込まれ、在任わずか44日という英国史上最短の政権に終わっています。この一連の騒動は、一般に「トラス・ショック」と呼ばれます。市場はなぜここまで過敏に反応したのでしょうか。背景には政府債務と英国政府への信頼低下があります。市場参加者は「減税による景気刺激」そのものよりも、「財政規律を無視した大規模減税がもたらす国債増発リスクとインフレ加速」に強い懸念を示しました。実際、米国のサマーズ元財務長官は当時「英国の振る舞いは新興国が自滅していく様子に似ている」とまで指摘し、政策への市場不信が極度に高まっていたことを物語っています。つまり、政府の経済運営に対する市場の信認が揺らいだことが、ポンド急落・金利急騰という形で表れたのです。(出典) https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202306/202306k.pdfイギリスと米国・日本の共通点と相違点比較ポイントその1:安全資産としての通貨・国債の地位「トラス・ショック」は、政府債務の健全性と通貨・債券市場の信認の関係を浮き彫りにしました。一般に、投資家はある国の財政運営に不安を感じると、その国の通貨や国債を売却します。信用が低下した通貨は売られて下落し(通貨安)、国債も売られて利回りが上昇(債券価格は下落)します。しかし、注目すべきは、平時には債務残高が高水準でも市場の信認が維持されている国も存在することです。そのカギとなるのが、「その国の国債が安全資産とみなされているか」という点です。たとえば米国債は世界的な安全資産と見なされており、基軸通貨ドル建てであることも相まって、海外政府や機関投資家から安定的な需要があります。米国は経常収支赤字が常態化し巨額の政府債務を抱えていますが、それでもドル需要が根強いため通貨安や国債離れが起きにくく、市場の安定性が保たれやすいのです。実際、米国ではたとえ格付け会社が国債を格下げした場合でも一時的な混乱に留まり、むしろ危機時には「世界の最も安全な資産」として資金が流入する傾向すらあります。日本国債もまた、国際的な基軸通貨ではないものの安全資産とみなされる側面があります。日本は競争力ある輸出産業と巨額の対外純資産を背景に経常収支の黒字が続いており、国内の潤沢な貯蓄によって国債が安定的に消化されてきました。このため、日本国債の大部分は国内投資家が保有し(海外保有比率は約1割強)、為替変動リスクを嫌う「ホームバイアス」(自国資産を選好する偏り)が強く働いています。結果として、日本では自国通貨建ての巨額債務があっても国内で資金が循環し、市場の信認が維持されやすい構造になっています。一方で英国債はどうでしょうか。かつて世界の基軸通貨だったポンドは、第二次大戦後にその地位を喪失し、英国債も徐々にグローバルな安全資産としての地位を失ってきました。英国は長年にわたり貿易赤字による経常収支の慢性的な赤字国であり、不足する資金を海外からの投資に頼っています。その結果、英国債の約半分は海外投資家(民間部門)に保有されるまでになり、自国投資家による安定保有の割合が相対的に低下していました。こうした脆弱性の中で、トラス政権の減税によって財政悪化への警戒感が一気に高まったため、外国人投資家を中心に英国資産から資金が引き揚げられやすくなったと考えられます。要するに、政府債務への信認は各国の経常収支構造や国債の保有者構成、通貨の国際的地位によって左右されます。もっとも、その信認も無限ではなく、財政運営があまりに軽率になれば試練を迎える可能性がある点には注意が必要です。比較ポイントその2:中央銀行の独立性「トラス・ショック」を考える上でもう一つ重要なのが、中央銀行と政府(財政当局)の関係です。政策の協調または独立性のあり方が、市場の受け止めに大きな影響を与えるからです。まず、英国は中央銀行の独立性が高い状態を維持しています。トラス政権が登場する直前の英国はインフレ率が10%前後に達しており、イングランド銀行(BoE)は利上げによるインフレ抑制(金融引き締め)を進めていました。そこへ政府が突然、大幅減税による財政拡張路線を打ち出したため、金融政策と財政政策が真っ向から衝突する構図となりました。市場は「中央銀行がインフレ抑制のため利上げを加速せざるを得なくなる一方、政府は景気刺激を図るという政策矛盾」に敏感に反応し、英国債売りが加速した面があります。対照的に日本では、金融政策と財政政策の協調性が特に強いと指摘されます。日銀は法律上は独立していますが、デフレ脱却を目的とした2013年以降の異次元緩和や2016年以降のイールドカーブ・コントロール(YCC)政策の下で、事実上政府の巨額国債発行を極めて低い金利で支える形となっています。現在日銀は国債残高の約5割を保有するまでに至っています。このように中央銀行が事実上「政府の銀行」のような役割を果たしてきたことで、日本では政府債務が増大しても金利が急騰する事態が抑えられてきました。米国の連邦準備制度理事会(FRB)もまた高い独立性を持つ中央銀行ですが、そのスタンスは英国と日本の中間に位置すると考えられます。過去にはリーマンショック後や新型コロナ危機時に大規模な国債買入れ(QE)を実施し、結果的に政府の巨額財政出動を支える形となった局面もありましたが、それらは非常時の景気下支え策として位置づけられ、インフレが高進した2021年以降は一転して急速な利上げとQT(量的引き締め)に転じています。つまり、米国では平時において中央銀行と財政当局は基本的に独立した政策運営を行い、必要に応じて危機対応では一時的に協調するというバランスが取られているのです。以上を整理すると、英国と米国は中央銀行の独立性が高く、財政が暴走すれば金融政策がそれを打ち消す方向に働くのに対し、日本は中央銀行が事実上財政を支える協調関係にある点が大きな違いです。英国や米国では「財政出動がインフレや金利上昇を招けば中央銀行がブレーキを踏む」という前提があるのに対して、日本では「財政が積極策を取っても日銀が緩和的態度を崩さない」という前提が浸透してきました。しかし日本のインフレ率が上昇局面に転じた今、その前提が試される局面に差し掛かっています。各国それぞれの中央銀行と政府の関係性が、市場の安定性や政策の信頼性に与える影響は無視できないと言えるでしょう。米国と日本で「トラス・ショック」のような混乱は起こり得るか?最後に、同様の財政政策や市場混乱が米国と日本で生じるリスクについて、英国との比較を意識しながら検討してみます。重要なのは、単純に米国と日本を比較するのではなく、「英国とは何が共通し、何が異なるのか」という視点から分析することです。英国と米国の比較:信認と市場規模がもたらす違い結論から言えば、英国に比べて米国で「トラス・ショック」に類似する事態が起こるリスクは低いと考えられます。その最大の理由は前述した米ドルと米国債の圧倒的な信認です。米国は世界最大の経済規模と基軸通貨を背景に、財政赤字を抱えても国内外から資金を調達しやすい立場にあります。市場規模が桁違いに大きく流動性が高いこともあり、「国債の消化に困る」という状況になりにくいのです。また、米国の場合は政策決定プロセスにおいて議会や機関のチェック(議会審議・独立機関の試算など)が効きやすく、英国のミニ・バジェットのように突然市場を驚かせる“サプライズ要因”が比較的少ないことも安定性に寄与しています。しかし、「リスクが低い」=「リスクがゼロ」ではありません。米国でも財政運営への信頼が揺らげば市場は反応します。その兆候として近年指摘されているのが、米国債の長期金利上昇と国債格下げです。2023年には米国の財政赤字拡大見通しに対する懸念から長期金利が上昇し、主要国の間で米国債が相対的に売られる場面が見られました。また、政治面でもたびたび連邦政府の債務上限問題が浮上し、一時的にデフォルト(債務不履行)リスクが意識される局面があります。これまで債務上限は最終的に引き上げられてきたため実際の債務不履行は起きていませんが、その過程で格付け会社が米国債を格下げして市場が動揺することもありました。米国と英国を比較すると、共通点は中央銀行の独立性が高いため財政政策は金融政策と衝突しやすいという点です。トラス・ショック時の英国も、当時インフレ率10%超でBoEが利上げ中というタイミングで減税を強行したことが事態悪化の一因でした。同様に米国でも、例えばインフレが収まらない状況で減税や歳出拡大が打ち出されれば、市場はインフレ長期化や財政悪化を織り込み金利を押し上げるでしょう。ただし相違点として、米国はその信用力と市場規模によってショックを緩衝しうるため、英国のような急激かつ破滅的なスパイラルに陥る可能性は小さいと考えられます。言い換えれば、「市場の猶予」が米国の方が長いのです。この猶予を政策当局が乱用しない限り、トラス・ショック級の混乱は避けられるでしょう。英国と日本の比較:極端な財政・金融一体運営の功罪日本の場合、トラス・ショックと表面的に似た状況(高債務・大規模財政出動)であっても、危機発現の仕方が英国とは大きく異なると考えられます。日本政府の債務残高対GDP比は英国や米国をはるかに上回る水準(約250%超)ですが、それにもかかわらず長期金利は長らく低い水準に抑え込まれ、国債市場のボラティリティ(変動)は低く保たれてきました。前述の通り、これは日銀の強力な国債買い入れと国内資金で国債が循環している特殊事情によるものです。したがって、日本では英国のような「市場が政策を拒否して急激な売り浴びせに出る」現象は起こりにくい構造にあります。しかし、日本にも別の形のリスクが存在します。それは通貨(円)の下落を通じた市場のシグナルです。日本円は米ドルほどの基軸通貨ではないとはいえ、国際的に信用の高い通貨です。ところが財政・金融の一体運営が行き過ぎたり、インフレ目標を超えても緩和的な政策を続けたりすれば、為替市場で円安が急激に進む可能性があります。実際、2022年以降日米金利差の拡大と日本のインフレ上昇を背景に慢性的な円安が進んでおり、一時1ドル=160円を超えるタイミングもありました。これは英国のポンド急落とは性質が異なりますが、市場が日本の金融政策・財政状況を評価する一つの現れだと言えます。今後もし日本政府が明らかに財政規律を損なう大型減税や歳出を打ち出し、なおかつ日銀が低金利維持を続ければ、国債金利こそ日銀が押さえ込めても、円相場が大きく下落しインフレを輸入するリスクがあります。円安は輸出企業には恩恵でも、国民生活にとっては輸入物価高騰を通じた痛みを伴うため、これも広義の「市場の混乱」と言えるでしょう。また、日本の国債市場自体も完全に安定しきっているわけではありません。近年では、日銀のマイナス金利解除と国債買い入れ減額をきっかけに、長期国債(10年債以上)の利回りが急上昇する場面が散見されています。例えば2023年末から2024年にかけて、次期選挙を見据えた減税・財政支出の観測が強まる中で超長期債の利回りが一時的に急騰し、年金や保険といった長期投資家に追加担保を求める動きが発生しました。これは英国のLDI危機と比べれば秩序だった調整ですが、日銀の支配力が及びにくい市場の部分(長期金利や為替市場)では、やはり財政への懸念が薄くないことを示唆しています。こうした長期金利の上昇局面において、巨額となった政府債務の利払い費増加がさらなる財政悪化をもたらし、国債残高の50%を保有する日銀のバランスシートが毀損することで通貨安を誘発するという、潜在的な危機誘発メカニズムが存在しています。英国と日本を比較すると、共通点は「市場の信認」に対して財政拡張が与える影響は無視できないという点です。その影響が英国ではLDI取引で増幅されましたが、日本は政府の利払い費増大と日銀のバランスシート悪化で増幅される可能性があります。相違点として、日本は自国通貨建て債務かつ自前の中央銀行でコントロール可能という強みがあり、一夜にして国債が暴落するといったリスクは英国より低いでしょう。しかし、その強みに頼りすぎると円の信認や将来のインフレ安定に跳ね返ってくるため、形を変えた「トラス・ショック」的な痛みが起こり得ることは念頭に置くべきです。おわりにイギリスのトラス・ショックは、先進国であっても市場の信頼を損ねれば如何に急激な制裁を受けるかを如実に示しました。日本の個人投資家にとっても他人事ではなく、各国の財政・金融政策が自国資産やマーケットに与える影響を理解する上で貴重な教訓と言えます。米国や日本では英国ほど単純に同じ事態が起こる可能性は低いものの、それぞれ市場の信認を維持する努力が求められている点に変わりはありません。個人投資家としては、こうしたリスク環境を理解した上で、幅広い地域・資産に分散して投資を行うことが重要です。

【解説】なぜ日本の長期金利が急騰?日銀のジレンマと6月会合で問われるQTの今後
6月16〜17日に開催される日銀の金融政策決定会合を前に、日本の国債市場は異例の需要低迷に直面しており、世界の金融市場への波及が懸念されています。本記事では、その背景と日銀金融政策決定会合の注目ポイントを整理しつつ、今後の金融市場への影響について解説します。歴史的需給悪化で超長期金利が上昇日銀利上げ観測の後退や日本の財政健全性への懸念から、5月20日に実施された20年国債の入札は、1987年以来の低調な需要を記録し、超長期国債が売られ、利回りが急上昇しました。翌21日には、30年債の利回りが3.185%、40年債は3.635%と過去最高を更新。日本国債のイールドカーブ(利回り曲線)は、長期金利が短期金利よりも上昇する「スティープ化」が進行し、長年続いた日銀の緩和政策下で見られたフラット化傾向とは対照的な展開となっています。超長期債の主要な買い手であった生命保険各社は、2025年度の国債保有を横ばいまたは減少させる計画を示しており、需要の縮小が一段と明確になってきました。また、都市銀行なども直近2か月間で超長期債を売却する動きを強め、国内投資家の売却が長期金利上昇に拍車をかけています。日銀は市場の安定化と経済成長支援の板挟み利回りの上昇は債務返済コストの増加を意味します。日本政府の債務残高はGDP比で250%を超え、主要先進国の中で最も高い水準にあります。長年続いた低金利環境のもと、金利の変動幅も極めて小さく抑えられてきましたが、足元の急激な金利上昇は、日銀が保有する国債の評価損拡大や債務超過リスクをもたらし、将来的な歳出削減や増税といった厳しい政策選択を迫る要因にもなり得ます。一部市場関係者からは「債券市場の混乱を放置すれば、信用格下げや追加財政対応を引き金に超長期債ショックを引き起こしかねない」として、日銀や財務省による公的支援の必要性を指摘する声も出ています。もっとも、日本経済は数十年にわたるデフレから脱却し、ようやく2%のインフレ目標に近づきましたが、経済成長は依然として力強さを欠いています。そうした中、日銀はマイナス金利を解除し、国債買い入れの縮小に着手しましたが、金融引き締めを急げば、景気の腰折れを招くリスクがあります。6月会合の焦点:来年4月以降の国債買い入れ方針6月会合では、日銀の今後のQT(量的引き締め)の進め方、とくに2026年3月までの国債買い入れ減額計画の中間評価と同4月以降の計画の議論が本格化する見通しです。植田総裁は5月1日の記者会見で、市場の意見も踏まえて「国債市場の動向、機能度をしっかり点検しつつ、2026年4月以降の姿も提示する」と述べており、市場安定と機能改善のバランスを今後の国債買い入れ減額方針にどのように反映させるかが焦点となります。現行計画は維持の見通し、オペ手法に変更あるか現時点では、2026年3月までの国債買い入れ計画を維持する方針に変わりはないと見られ、日銀は段階的に国債買い入れを減らして行く意向です。一方で、2026年4月以降の減額ペースは市場参加者の意見を聞いてから考えたいとの声が日銀内では出ており、急速な超長期金利の急上昇を受け、超長期債の扱いについても関心が向かっています。モルガン・スタンレーMUFG証券のストラテジストは、「超長期ゾーンの需給悪化が構造的に続いており、買い入れ減額の停止や、10年超の買い入れ拡大を求める声が出る可能性がある」と指摘。ただし、イールドカーブ・コントロール(YCC)の撤廃後、超長期金利の誘導余地は限られており、減額計画自体の変更は見込まれていません。日銀はこれまで、国債発行額に対する買い入れ比率を踏まえて、残存10年以下の国債を優先的に減額してきましたが、4月には初めて10〜25年債の買い入れも減額しており、足元の対応変化が注目されます。政策金利は据え置きがメインシナリオ5月のロイター調査では、年内にもう1回の利上げ(25bp)を予想する声が多数派となっていますが、エコノミストの約7割が9月までの利上げ見送りを予想。直近の4月30日–5月1日会合では、政策金利(無担保コール翌日物)は0.50%程度に据え置いています。利回り上昇が続いた場合は、世界の金融市場への波及リスクも5月22日、日銀の野口審議委員は超長期国債の利回りの急上昇は「急激だが異常ではない」と述べ、日銀によるむやみな市場介入は適切でないとの見解を示しました。一方、市場は日銀の対応を警戒しており、今後の展開には複数のシナリオが想定されます。望ましいシナリオとしては、日銀が的を絞った一時的な介入を通じて、市場を安定化させる展開が考えられます。より懸念されるシナリオとしては、国債市場の混乱が金融不安に発展し、円キャリートレードの巻き戻しや為替市場のボラティリティ上昇を招く可能性があります。バンク・オブ・アメリカは、政治リスクや財政への不信感を背景に、円安が今夏にかけて進む可能性を指摘しています。

【バフェットのポートフォリオ解説】金融株を縮小、昨年の新規投資4銘柄へ投資強化
ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイ(BRK.B)の2025年3月末時点でのポートフォリオが、5月15日に米証券取引委員会(SEC)に提出された報告書「フォーム13F」にて明らかになりました。本記事では、バフェット氏のポートフォリオについて解説します。バフェットポートフォリオの中身バフェット氏は集中度の高いポートフォリオを運用していることで知られ、上場ポートフォリオは上位5銘柄で約70%、上位10銘柄で約90%を占めています。上位保有銘柄アップル(AAPL) : 25.8%アメリカン・エキスプレス(AXP) : 15.8%コカコーラ(KO): 11.1%バンク・オブ・アメリカ(BAC) : 10.2%シェブロン(CVX): 7.7%オキシデンタル・ペトロリアム (OXY): 5.1%ムーディーズ(MCO): 4.4%クラフト・ハインツ(KHC): 3.8%チャブ(CB): 3.2%ダビータ(DVA): 2.1%金融株の保有を圧縮アップル、アメリカン・エキスプレス、コカコーラなどの主要保有銘柄に大きな変化はありませんでしたが、昨年後半に続いて、2025年1-3月もバンク・オブ・アメリカ株が7.2%売却されました。バークシャーの2024年9月末時点のポートフォリオでは、バンク・オブ・アメリカ株はポートフォリオの中で2番目に大きなポジションを占めていましたが、コカコーラに次ぐ4番目のポジションとなりました。また、シティグループ(C)、ヌー・ホールディングス(N)の全持ち株を売却。キャピタル・ワン・ファイナンシャルについても保有比率を4%縮小し、金融株からの撤退が目立ちました。このほか、オキシデンタル・ペトロリウムをわずかに追加購入し、ダビータの持ち分が減少していますが、ポートフォリオ全体への影響は軽微となっています。昨年の新規投資4銘柄へ投資強化一方で、追加購入規模は小さいものの、価格決定力のある消費者向け事業への投資が注目を集めています。2024年10-12月期に新規投資を開始した、米国最大のビール輸入会社のコンステレーション・ブランズ(STZ)の株式は560万株から倍増し、1,200万株超に増やしました。同社は、米国でコロナビールとモンデロビールの輸入・独占販売権を持つことで知られ、ロバート・モンダヴィといった高級ワインやスピリッツのブランドもいくつか所有しています。2024年7-9月期に新規投資が明らかになった、プール(POOL)への投資は145%、ドミノ・ピザ(DPZ)への投資は10%増加。2024年3-6月期に新規投資を開始したハイコ(HEI.A)への投資は11%増加しました。また、バークシャーは当四半期において一部の株式投資の開示を非公開とする「秘密保持請求」をSECに行っており、チャブの株式を非公開で保有していた過去の戦略を彷彿とさせます。この機密扱いの株式は、今後数四半期の開示で判明する可能性が高いですが、「商業、工業、その他」のカテゴリーに分類されており、バロンズは工業会社の可能性があると推測しています。手元資金は約50兆円に、バフェット氏は年末退任バークシャーは10四半期連続で株式を売り越し、現金と米短期債保有額を合計した広義の手元資金は3月末時点で3477億ドル(約50兆円)に達しました。国債利回りが高止まりする中、バークシャーは多額の利息収入を獲得しつつ、将来の投資機会に備えて流動性を確保しています。また、5月3日に開催された年次株主総会で、バフェット氏は年末までにCEOを退任する意向を発表しました。バフェット氏の退任後、後任としてグレッグ・エイベル副会長が就任する予定です。バフェットポートフォリオを簡単コピー?ブルーモ証券では、2025年3月末時点でのバークシャーのポートフォリオをワンタップでコピーし、投資を始めることができます。株式のみで構成されるポートフォリオのほか、米短期債を含む手元資金を反映したポートフォリオのコピーもできますし、そこから変更を加えてオリジナルのポートフォリオの作成も可能です。

なぜ「マールアラーゴ合意」が注目? 財政危機とドル安誘導への波紋
2025年に入り、米ドル安誘導を目指す「マールアラーゴ合意(プラザ合意2.0)」構想が、金融市場の中心的な議題として浮上しています。本記事では「マールアラーゴ合意」とは何かを解説し、注目される背景について説明します。国際金融秩序の再編を掲げる「マールアラーゴ合意」マールアラーゴ合意(Mar-a-Lago Accord)とは、米ドル高を是正し、米国の債務負担や貿易不均衡を再構築する構想であり、2024年6月に元クレディ・スイスの著名アネリストのゾルタン・ポザール氏が考案したものです。同年11月に当時ハドソン・キャピタルのシニアストラテジストであったスティーブン・ミラン氏が 「世界貿易システム再構築のためのユーザーガイド」 で取り上げ、関税、為替調整、債務再編を通じて貿易不均衡を改革するロードマップを提示しました。その後、トランプ大統領がミラン氏を経済諮問委員会(CEA)委員長に指名したことで、市場の注目を集めるようになりました。「マールアラーゴ合意」という名称は、1985年にG5(米・日・独・仏・英)が協調してドル高是正を目指した「プラザ合意」に由来し、トランプ氏の私邸があるフロリダ州パームビーチの「マールアラーゴ」にちなんで名付けられました。トランプ政権内では、この私邸にて通貨政策の国際的な合意を目指すことが検討されていると報じられています。債務再編とドル安誘導への警戒米国の財政赤字と国債の大量発行は、金融市場の大きな懸念材料となっています。2025年1月に債務上限が再適用されて以降、政府は資金繰りのための「特別措置」を講じていますが、議会予算局(CBO)は8月中にも財政資金が尽きる可能性が高いと指摘しています。これを背景に、米国債の信用リスクが意識され始め、投資家が求めるリターン(リスクプレミアム)は上昇しています。5月19日の取引では、30年債利回りが5%を超え、2年債やそれ未満の短期債でも一時4%を上回るなど、2007年や金融危機の前の水準に近づいています。こうした状況の中、ドル安を誘導し、米国債の借り入れコストを抑えるという政策課題が、マールアラーゴ合意に対する注目を高める一因となっています。一部では、トランプ政権が「他国が保有する米国債と米100年債を交換を奨励する」可能性も取り沙汰されています。スコット・ベッセント氏は、財務長官に指名される前の2024年6月「今後数年間で壮大な経済再編が起こる」と予想し、プラザ合意に類似するドル是正政策が動き出す可能性に言及していました。実現性は乏しいが、現行体制を問い直す契機にしかし、マールアラーゴ合意の実現可能性は現時点では非常に低いとされています。外国の債権者は、自国が保有する米国債の価値を毀損するような金融改革に応じる可能性は低く、また日本、英国、中国といった米国債の主要保有国は政治・地政学的な利害が複雑に絡み合っており、協調は困難を極めます。さらに、債務条件の変更は事実上の「デフォルト(債務不履行)」と見なされ、米国債の信用に対する再評価、そして長期金利の急騰を招くリスクも無視できません。マールアラーゴ合意は、ドルの基軸通貨としての信認、財政持続性、国際協調の枠組みなど、現行体制の持続可能性を問い直す材料となっており、今後の議論の行方が注目されます。

【バフェット年末退任】後継グレゴリー・アベル氏とは何者か
ウォーレン・バフェット氏は、年末にバークシャー・ハサウェイの最高経営責任者(CEO)を退任し、後任としてグレッグ・アベル副会長が2026年1月1日付でCEOに就任します。バフェット氏は引き続き同社の執行会長を務めます。本記事では、アベル氏の人物像とこれまでのキャリアを解説します。アベル氏の人物像とキャリアの歩み 年表1962 カナダ アルバータ州エドモンド生まれ1984 アルバータ大学で会計学学士を取得、PwC入社1992 地熱発電会社カルエナジー入社1998 カルエナジーがミッドアメリカン・エナジーを買収2000 バークシャーがミッドアメリカンの経営権を取得2008 ミッドアメリカンCEOに就任2011 同会長に就任2014 ミッドアメリカンがバークシャー・ハサウェイ・エナジーに改名2018 バークシャー取締役に就任、非保険事業を統括2021 バークシャーの後継者として公式に言及される2026 バークシャーCEOに就任予定ホッケーと育った青年期、キャリアは会計事務所からカナダ・エドモントンの平原地帯で生まれ育ったアベル氏は、幼い頃からホッケーに熱中していました。叔父のシド・アベル氏(元デトロイト・レッドウィングスの名選手)の影響もあり、毎日のように氷上で過ごす中で、チームプレーの重要性とリーダーシップを学んだと言います。1984年にアルバータ大学で会計学士を取得し、同年プライスウォーターハウスクーパース(PwC)に入社。公認会計士としてキャリアをスタートさせました。その後さらなる活躍の場を求めて、サンフランシスコ支社に異動しました。1992年、クライアントの一つであった地熱発電会社会社カルエナジーへ入社。当時のCEOは、のちにバフェット氏の後継者候補と目されたデビッド・ソコル氏でした。エネルギー事業で昇進し、大型買収を数多く手がけてきたアベル氏1998年、カルエナジーは電力・ガス会社ミッドアメリカン・エナジーを40億ドルで買収。アベル氏はソコル氏の要請で、合併後の新会社ミッドアメリカンの社長に就任しました。2000年に、バークシャー・ハサウェイ、ソコル氏、アベル氏、ウォルター・スコット氏(バークシャー元取締役で主要株主)らによって、会社は非公開化され、バークシャー傘下となりました。2008年、ソコル氏がバークシャー傘下のネットジェッツ再建を担当するためCEOを退いた後、アベル氏がミッドアメリカンのCEOに昇格。2011年には会長職を兼務し、同社を多角的なエネルギー企業へと成長させました。特に、エンロンのガスパイプラインと英国企業ノーザン・エレクトリックの買収など、大型ディールを冷静かつ着実に進めた手腕は高く評価されています。バフェット氏は長年にわたり、アベル氏とソコル氏の両名を「非常に優れた経営者」と高く評価していました。(ソコル氏は、バークシャーに対し買収を勧めていた化学会社ルーブリゾール社に事前に投資をしていたことが発覚し、2011年に辞任しました。)2014年、ミッド・アメリカンは「バークシャー・ハサウェイ・エナジー(BHE)」に社名を変更。アベル氏は米国、英国、カナダ、フィリピンで11の子会社を率いることになります。2018年にはバークシャーの取締役会に就任。非保険部門(合計90社以上)の統括を任され、後継者候補として注目される存在となりました。現在も、BHEの会長兼CEO、およびバークシャーの副会長として非保険事業全体を指揮しています。2021年にバークシャー後継CEOとして言及2021年5月、バークシャーの株主総会で、故チャーリー・マンガー氏はアベル氏がバフェット氏の後継者候補であることを示唆。その後、2024年2月に公開された株主への手紙では、バフェット氏はアベル氏について「あらゆる面で、明日にでもCEOに就任する準備が整っている」と強く支持を表明しました。今年2月の株主への手紙においても、経営トップ交代の近さを示唆し、「グレッグは、バークシャーの信条である『報告』こそがバークシャーのCEOが株主に対して毎年負うべき義務であるという考え方を共有している」と述べています。5月3日の株主総会では、アベル氏の経営スタイルについての質問に対して、バフェット氏は「トップとしてきちんと振る舞い、私利私欲で動かない人材が重要です。グレッグはその点でしっかりとした対処をしています。私はそこまで徹底できていなかったかもしれません」と答えています。また、チャーリー・マンガー氏も2023年のインタビューで、アベル氏を「考える力と行動力を兼ね備えた、驚異的なビジネスリーダー」と称賛。「他者を通して物事をスムーズに進める」に秀でた人物だと高く評価しています。バフェットポートフォリオを簡単コピー?ブルーモ証券では、バークシャーのポートフォリオをワンタップでコピーし、投資を始めることができます。株式のみで構成されるポートフォリオのほか、米短期債を含む手元資金を反映したポートフォリオのコピーもできますし、そこから変更を加えてオリジナルのポートフォリオの作成も可能です。

金融市場の米国離れ、国際分散先として有望な国・地域は
2025年米国の経済安定性やドルの信頼性に対する懸念が高まる中、投資家が米国資産を売却し、他の資産へと資金を移す「米国離れ(Sell America)」の動きが加速しました。先週、貿易交渉進展への期待から米主要指数は上昇したものの、米国資産の信頼性への懸念は続いており、投資家は世界的に資産を再配分し始めています。本記事では、米国からの国際分散先として有望な地域を紹介いたします。米国資産から流出した資金は欧州やアジアにモルガンスタンレーのポートフォリオ・マネジャーのヴィシャール・カンドゥジャ(Vishal Khanduja)氏は、米国資産から流出した資金は欧州や日本が引きつけていると述べています。またバーンスタインは、アジアが引き続き好調を維持すると予想しており、日本、インド、韓国を最も魅力的な市場として挙げています。欧州: 長期上昇期待も、銘柄の選定が重要に2025年、欧州先進国の主要銘柄で構成されるストックス600指数のパフォーマンスはS&P500指数を上回り、ドイツの主要株価指数であるDAX指数は年初来約12%上昇と堅調なパフォーマンスを見せています。上昇の背景には、EU(欧州連合)とドイツの財政拡張、欧州中央銀行(ECB)の利下げ、ウクライナ和平合意の可能性によるエネルギー価格の下落期待、中国の景気刺激策による輸出企業への追い風、好調な企業収益といった複数の要因があり、これらは今現在も健在であることから欧州株の回復モメンタムは今後数ヶ月間継続する可能性があります。一方で、トランプ政権による関税政策が特に自動車セクターに対して打撃を与えるリスクや、ウクライナ和平が成立してもロシア依存の脱却を目指すEUの方針からエネルギー価格が期待ほど下落しない可能性など、いくつかのリスク要因も存在します。アナリストらは、長期的には「欧州第一主義」的な政策スタンスや財政支援が市場を下支えすると予想していますが、株価水準は過去に比べて割高感も意識され、銘柄の選定とポートフォリオのバランスが求められます。日本: 割安感と収益性改善で株価回復か日本株は米関税政策の影響で一時急落しましたが、市場関係者の間では4月上旬の安値が大底との見方が広がり始めています。米国市場の株価純資産倍率(PBR)が3.9倍であるのに対し、TOPIX指数は1.3倍と大幅に割安であり、予想株価収益率(PER)も13倍と過去最低水準に近づいています。さらに、日本株はコーポレートガバナンスの改善や収益性の向上により上振れの可能性も期待され、魅力的な投資先とみなされています。また、日本も米関税政策の影響を受けると想定されていますが、他の国や米国と比較すると影響は小さいと予想する声が多くなっております。インド: 貿易合意期待も地政学リスクが脅威にインド株は昨年9月後半以降、低調な動きが続いていましたが、足元では米関税政策の影響が限定的との見方から海外投資家の資金が流入し、株価指数が上昇しています。4月28日に、ベッセント米財務長官が最初の貿易合意はインドとの間で締結される可能性が高いとの見通しも示したことも市場心理をさらに押し上げました。また今年2月には、インド政府が所得税の減税を盛り込んだ2025年度予算案を発表したほか、4月9日にインド準備銀行(中央銀行)が2月に続いて2会合連続の利下げを実施し、さらなる追加利下げの余地を示唆しました。これらの政策は、インドの景気を中長期に後押しすることが期待されています。ただし、直近ではカシミール地方で発生したテロ事件をめぐり、パキンスタンとの緊張が高まっており、4月29日にインド財務省は貿易摩擦と地政学リスクが2025/2026年度の経済成長に悪影響を及ぼす可能性があるとの見解を示しています。

米国債務上限問題とは、市場はデフォルトリスク警戒
2025年、米国の債務上限問題は、米金融市場の安定性に深刻な影響を及ぼしています。本記事では、「米国債務上限」とは何かを解説し、FRBの金融政策対応やトランプ政権の政策の影響も触れつつ、金融市場が直面する構造的緊張について説明します。債務上限が2025年1月から再適用「債務上限」とは、政府が国債発行などで借り入れできる金額の法的な上限を指します。これは政府支出の予算編成とは異なる枠組みで定められており、主要先進国では米国独自の制度です。上限に達すると、議会の承認がない限り新たな借入ができなくなり、国債の元利払いが滞る「デフォルト(債務不履行)」のリスクが生じます。2023年に成立した「財政責任法」により、債務上限は一時的に停止されていましたが、2025年1月2日に約36.1兆ドルで再び適用されました。これにより、財務省は債務上限の突破を避けるために退職年金や保険基金などへの拠出を一時停止する「特別措置」で資金繰りを行っていますが、議会予算局(CBO)の推計によると、財政資金が8月に尽きる可能性が高いとしています。また、ベッセント米財務長官は、連邦政府が早ければ5月下旬から6月にかけて資金不足により一部の支払い義務を履行できなくなる恐れがあると指摘しています。米国債市場に広がる流動性リスク財政の不確実性から、安全性を重視するマネー・マーケット・ファンド(MMF)や機関投資家のリスク回避姿勢が強まる中、短期国債市場では資金枯渇見込み日前後に償還を迎える財務省短期証券(T-Bills)の流動性が低下し、利回りが上昇しています。こうした市場の機能不全を緩和すべく、連邦準備制度理事会(FRB)は2025年春に入り、量的引き締め(QT)の減速に踏み切る方針を打ち出しました。QTは、FRBが保有する国債や住宅ローン担保証券(MBS)を償還に任せる形で市場から資金を吸収するプロセスであり、4月のFOMC議事要旨では、「市場の緊張緩和と準備金の安定的な供給の必要性」を理由にQT減速を支持する声が挙がっており、6月にも月間縮小額の減額が正式に決定される可能性があります。債務上限の引き上げ時期は不透明一方、トランプ大統領が推進する減税案とともに債務上限を5兆ドル引き上げる条項が盛り込まれた「予算決議案」が米下院で可決されましたが、上院には大幅な歳出削減に反対する議員が複数いるため、最終段階で上院との対立が生じる可能性があり、債務上限の引き上げ時期は依然として不透明です。ジョンソン下院議長は、5月末までに税制法案を成立させる目標を掲げていますが、上院の共和党議員は8月までに手続きを完了できると述べています。ただし、非営利団体「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」の推定によれば、2025年の予算決議案は今後10年間の財政赤字を5.8兆ドル拡大させる恐れがあり、S&Pグローバル・レーティングは4月14日のレポートで、米国の財政状況を悪化させるようないくつかの事態が発生した場合、現在AA+である米国債の信用格付けをさらに1段階引き下げる可能性を示唆しています。つづく金融市場の構造的緊張債務上限問題、FRBの金融政策、トランプ政権の政策は、市場構造において密接に連関しています。とりわけ、関税政策の不透明感から、金融政策と財政政策の方向性が逆行するリスクは大きく、景気不安、財政不安、信用格付け懸念が同時に波及しています。今後数カ月間、議会による債務上限の見直しと、FRBによるQT減速の実行タイミングが市場の注目を集める展開となります。また、7月初旬の相互関税一時停止措置の期限が近づくにつれ、交渉の構図は一段と複雑化していくことが予想されます。今後の注目イベント5月6-7日:FOMC(QT減速の方針明確化の可能性)5月末:税制法案の成立目標6月17-18日:FOMC6月27日:特別措置延長期限7月初旬:相互関税一時停止期限

【米国株】トランプ関税で米景気後退入りしても成長が見込まれる銘柄は?
2025年、トランプ政権の貿易政策を巡る不透明さは一段と増し、市場は不安定な動きを見せています。投資銀行らは米景気後退が今後12カ月以内に起きる確率をゴールドマン・サックスが45%、JPモルガンが60%と予測しており、景気後退に陥る可能性を警告しています。本記事では、景気後退入りが現実となっても成長が期待される米国株7銘柄をご紹介します。【サブスクリプション銘柄】NFLX・SPOT・UBERサブスクリプションサービスは、サービス利用料がデジタル取引で完結するため、関税の影響を受けません。なかでもNetflixとSpotifyは、合計で5億人以上の月額有料会員を抱えており、テクノロジーとメディアセクターの中で最も不況に強い企業の一つとみられています。両社、広告事業を徐々に拡大しているものの、依然として全体の売上に占める割合はまだ小さく、景気変動の影響を大きく受けにくい構造となっています。Netflix(NFLX)多くのアナリストは、景気後退懸念が渦巻く中、ネットフリックスを安全な投資先と見ています。同社の株価は年初来で10%弱上昇しており、テクノロジー銘柄の中でも際立ったパフォーマンスを見せています。ローゼンブラットのアナリストは「景気後退が起きても、ネットフリックスは安価な在宅エンタメとして加入者離れが起きにくい」と指摘しています。また4月17日に発表された第1四半期決算は市場予想を上回り、今年の売上高についても強気な見通しを示しました。Spotify(SPOT)オーディオストリーミングサービス「Spotify」の株価も年初来で25%以上上昇しており、成長の加速が注目を集めています。アナリストらは、オーディオブック、動画、ポッドキャストといった複数ジャンルの最適化により、Spotifyが2025年顧客エンゲージメントと収益性をさらに高めると期待しています。Uber Technologies(UBER)JPモルガンは、サブスクリプション企業のサブグループにおいて、ストリーミングサービスのほか配車サービスや飲食サービス、クラウドサービスが厳しいマクロ環境に対して比較的耐性が高いと見ています。配車サービスとフードデリバリーの大手であるウーバー・テクノロジーズの株価は年初来で20%弱上昇しており、一部のアナリストらは同社の事業のほぼ半分が海外市場であることから、今後3年間世界経済動向にある程度左右されることなく、健全な売上高成長を持続できると見込んでいます。【サイバーセキュリティ銘柄】PANWサイバーセキュリティは企業にとって不可欠な投資項目であり、景気後退期でも予算が削られにくい分野とされています。また、技術サービスであるサイバーセキュリティも関税の対象外となっています。Palo Alto Networks(PANW)サイバーセキュリティ銘柄での注目は、パロアルト・ネットワークスです。同社はトップ5に入るサイバーセキュリティ企業でありながら、株価は公正価値から約20%割安であると評価されています。株価は年初来で7%下落していますが、同社のプラットフォーム戦略が成功すれば、年150億ドル規模の収益機会が生まれる可能性があり、将来的な成長が見込まれています。【ディフェンシブ銘柄】WMT・HCA・T歴史的に、生活必需品、ヘルスケア、公益事業などのディフェンシブ銘柄は、景気変動の影響を受けにくく業績が安定していることから、景気後退時に相対的に強いパフォーマンスを見せる傾向があります。経済状況に関わらず、消費者は食事をしなければならず、医療費や公共料金を支払わなければなりません。Walmart(WMT)世界最大の小売企業でありディスカウント業態も展開するウォルマートは、「毎日低価格」という姿勢から節約志向の消費者を惹きつけ、不況から恩恵を受ける傾向があります。また同社は、過去1年間で設備投資をほぼ倍増し、店舗の改装のほか物流と配送ネットワークの強化し、全米各地でウォルマートのプレゼンス拡大を牽引しました。HCA Healthcare(HCA)HCAヘルスケアは米国最大級の病院チェーンであり、医療需要は景気に左右されにくく、同社は過去の景気後退やパンデミック、インフレ環境でも過去5年間堅調な業績を維持してきました。競争の激しい業界でありながら、市場シェアも2012年の24%から10年間で27%に拡大しており、2030年には全米シェア29%を目指しています。AT&T(T)経済状況に関係なく不可欠なサービスである、無線通信やブロードバンドなどを提供するAT&Tは、株価が年初来で19%超、過去1年で66%近い上昇を記録しています。光ファイバーの純増は7年連続で100 万件を達成し、堅調な実績を積み重ねています。また、安定したキャッシュフローに裏付けられた高配当銘柄としても注目されており、2025年の予想配当利回りは4.1%となっています。