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中国の報復関税で貿易摩擦に。世界で危機感が広がる中、相場下落の歴史を振り返る
トランプ大統領が4月2日に公表した関税政策の衝撃から2日、4月4日も世界の株式市場は大きく下落しました。米国だけの問題ではなく、世界全体の危機とも言える状況となり、米国ではFRBによる利下げが急速に織り込まれつつあります。一方、こうした下落局面は過去を振り返ると何度も起きていることなので、長期投資であれば冷静に「市場に居続けること」の大事さを認識することも重要です。長期投資の基本については以下記事も参考にしてみてください。以下、詳細に解説します。「解放の日」から2日後、4月4日の動き米国株式市場はコロナショック以来の下落4月4日のニューヨーク株式市場は、トランプ米大統領が追加関税を発表したことに端を発した米中貿易戦争への懸念から、前日に続いて急落しました 。ダウ工業株30種平均は前日比2,231ドル安(-5.5%)の38,314.86ドルと大幅下落し、昨年12月の史上最高値から10%以上下げて調整局面入りしたことが確認されています 。ハイテク株中心のナスダック総合指数も5.8%安で取引を終え、昨年12月の最高値から22.7%下落して弱気相場(ベアマーケット)入りが明確となりました 。S&P500種指数もこの2日間で10.5%下落し、主要3指数の2日間下落率はいずれも2020年の新型コロナ・ショック以来の大きさとなっています 。マーケット全体の時価総額で見ると、1月中旬以降の下落で約9.6兆ドルもの価値が失われ、そのうち約5兆ドルはわずか直近2日間で蒸発した計算です 。これは史上最大規模の2日間の時価総額減少であり、市場がいかに衝撃を受けたかを物語っています。投資家の不安心理も急激に高まりました。いわゆる「恐怖指数」として知られるVIX指数(ボラティリティ指数)は8カ月ぶりの高水準に急上昇し、リスク回避ムードが一気に広がりました 。市場では「貿易戦争がどこまで激化するのか不透明だ」との不安が支配的で、「トランプ政権が本気で関税措置をエスカレートさせるなら、市場は明確にノーを突き付けている」との声も聞かれました 。貿易摩擦の懸念は世界に広がる業種別の動きを見ると、エネルギー株の下げが特に顕著でした。中国の報復関税発表を受けて景気後退懸念が強まったことで原油価格が急落し、WTI原油先物は一時1バレル=62ドル前後と約4年ぶりの安値をつけました 。その結果、エネルギーセクター指数はS&P主要11セクター中で最大の下げ幅となりました 。また、ハイテク株や工業株など貿易摩擦の影響を受けやすい銘柄が軒並み売られています。例えば中国市場への依存度が高いアップルはこの日7.3%の急落となり 、米市場に上場する中国企業(アリババやバイドゥなど)の株価も大きく値下がりしました 。半導体や自動車などの輸出関連株、ボーイングなど大型製造業も大幅安となり、金融株も金利低下を嫌気して売られるなど、ほぼ全面安の展開でした。この急落は米国市場に留まらず世界に波及しました。4月4日には東京市場や欧州市場も連日の大幅安となり、世界同時株安の様相を呈しています 。米国が2日に発表した追加関税措置への対抗として、4日には中国政府が「10日から米国からの全輸入品に対し34%の追加関税を課す」と表明し、米中双方が強硬な姿勢を示したことが不安に拍車をかけました 。さらに英国・オーストラリア・イタリア各国の首脳が緊急協議に動くなど、各国政府も対応に追われているとの報道が伝わると、市場では「貿易戦争が世界経済に波及する」との見方が一段と強まり、株価の下げ幅は一層拡大しました 。こうした動きにより、投資家心理は極度に冷え込み、リスクオフ(危険資産から安全資産へ資金を避難させる動き)が鮮明となったのが4月4日の市場と言えます。米経済・世界経済への影響と市場の今後の見通しFRBへの利下げ圧力が強まるこうした中、金融政策を司る米連邦準備制度理事会(FRB)の動向にも注目が集まっています。パウエルFRB議長は4日に行った講演で、今回の新たな関税措置について「予想以上に大きなもの」であり、インフレや経済成長への影響も「同様に予想以上になる公算が大きい」と指摘しました 。もっとも現時点では「金融政策スタンスの調整(=利下げ)を検討する前に、より明確な状況を見極める必要がある」と述べ、性急な対応を慎重に避ける姿勢も示しています 。しかし市場の方はすでに「FRBが利下げで景気を下支えせざるを得ない」という見方を強めています。実際、短期金融市場では利下げ織り込みが急速に進みました。4日の時点で「年内4回の0.25ポイント利下げ」が完全に織り込まれ、さらに年内5回もの利下げが行われる確率も50%に達したとされています 。これはトランプ大統領が2日に関税を発表する前は年内3回の利下げが織り込まれていたのに比べ、大幅な変化です。トランプ大統領自身も4日、パウエル議長に対し露骨な利下げ圧力をかけました。大統領はSNS上に「パウエル議長が金利を引き下げるには今が絶好のタイミングだ。議長はいつも遅れているが、今ならそのイメージを覆し素早く行動できる」などと投稿し、利下げの決断を迫りました 。伝統的に、大統領がFRBの金融政策に直接言及することは避けられてきましたが、トランプ氏は以前から再三にわたり低金利政策を求めており、今回の市場急落を受けてその圧力を一段と強めた形です。今後のリスクシナリオと楽観シナリオでは、市場や経済の先行きはどう見通せるでしょうか。まず、米中対立がエスカレートした場合の最悪シナリオとしては、関税の応酬が長期化し企業マインドが萎縮、本格的な景気後退に陥る可能性があります。その場合、企業収益の悪化や雇用の縮小を通じて、株式市場も更なる下落基調が続きかねません。一部の専門家は「ホワイトハウス(米政権)は遅くとも2カ月以内に今回の“相互関税”を撤回するような妥協策を見出さなければ、2025年の市場は2022年のような低迷に陥るだろう」と警鐘を鳴らしています 。一方で、楽観シナリオとして考えられるのは、米中がある程度早期に歩み寄り関税措置を緩和するか、あるいはFRBの機動的な利下げなど政策支援によって市場心理が改善する展開です。もし貿易摩擦が沈静化すれば、企業業績や経済見通しの不透明感が薄れ、株式市場が落ち着きを取り戻す可能性があります。また仮に景気が減速しても、FRBによる予防的な利下げや各国政府の財政出動が速やかに行われれば、リセッションを浅く短いものに食い止められるとの見方もあります。現在のところ米国ではインフレ率が低下傾向にあるため、金融当局としても比較的柔軟に緩和策を講じやすい環境です。実際、10年物米国債利回りは今回の動揺で一時4.0%を割り込み、昨年のトランプ氏再選前の水準まで低下しました 。これは市場が将来的な利下げと低インフレを織り込んだ動きで、長期金利の低下自体が企業や住宅市場には下支え材料となり得ます。個人投資家への今後の影響過去の弱気相場との比較も参考になります。今回ナスダック総合やラッセル2000指数(小型株指数)が20%以上下落して弱気相場入りしましたが、歴史を振り返ると弱気相場は定期的に発生しています 。第二次大戦後だけでも米国株は17回前後の弱気相場を経験しており、平均すると下落率は約30%前後、期間は1年弱に及ぶと言われます 。例えば直近の大きな弱気相場としては、2008年の金融危機時にはS&P500がピーク比で約57%下落し1年以上低迷しました。また2020年のコロナ禍では最深部で約34%下げましたが、その後わずか数カ月で急回復しています。歴史的に見ると、暴落の原因は様々でも最終的には株価が持ち直し、過去の高値を上回って成長を続けてきたケースがほとんどです 。したがって現在の下落局面も永遠に続くわけではなく、いずれ転機を迎える可能性が高いと言えるでしょう。ただし、底入れまでの道のり(時間や下落幅)はケースバイケースであり、今後数週間から数カ月は景気指標や米中交渉の行方、政策対応などに一喜一憂する不安定な相場が続くことを念頭に置いておく必要があります。個人投資家がいま取るべき行動市場に居続けることが長期投資では大事以上のような荒れた市場環境に直面していると、短期的な値動きに心を揺さぶられ、不安になる個人投資家の方も多いでしょう。しかし、こういう時こそ長期目線を持つことが何より重要です。歴史が示す通り、株式市場は10%程度の調整や20%を超える弱気相場を織り交ぜながらも長期的には成長してきました 。実際、S&P500指数は過去35年間に幾度も調整や暴落を経験しながらも、その都度回復し、配当再投資込みで年平均10.4%という高いリターンを残しています 。ドットコム・バブル崩壊(2000年代初頭)やリーマン・ショック(2008年)、コロナ・ショック(2020年)など、大きな危機が起こるたびに理由は違えど株価は急落しました。しかしその後いずれも乗り越え、結果的に過去の高値を更新してきました 。今回の関税ショックも「理由が違うだけでパターンは同じ」と考えれば、長期投資家にとっては一時的な試練に過ぎない可能性があります。重要なのは、この下落局面を長期的な資産形成の妨げとしないことです。まず避けるべきは、感情に駆られた短絡的な売買です。急激な下げを目の当たりにすると、不安からつい持ち株をすべて売りたくなるかもしれません。しかし、感情的な売却は多くの場合、後になって後悔する結果を招きます。下落局面で慌てて売ってしまうと、その時点で大きな損失が確定してしまいます。そして往々にして、一般の投資家は売った後に再び買い戻すタイミングを逃しがちです。市場が落ち着きを取り戻し上昇に転じた頃には買い戻せず、結果として「安値で売って高値で買い戻す」最悪の展開になりかねません。特に、急落直後の相場では一時的なテクニカル反発(自律反発)も起こりやすく、大きく下げた後の数日で急騰する局面も歴史的に頻繁にあります。もし現金化してその後の反発を逃すと、長期のトータルリターンが大きく削られる恐れがあります。長期投資では「市場に居続けること(Time in the market)」が「市場のタイミングを計ること(Timing the market)」よりも重要だと言われますが、まさに今はその格言を胸に刻むべき時でしょう。守りと攻めのバランスをでは具体的に個人投資家はどう行動すべきか、守りと攻めのバランスという観点で考えてみます。守り(リスク管理)の面まず、自分の資産配分(ポートフォリオ)を見直してみましょう。今回の急落で感じた不安の大きさは、リスク許容度に見合った投資をしていたかを測る試金石でもあります。仮に「夜も眠れないほど不安」だったのであれば、株式の比率が高すぎた可能性があります。無理のない範囲で債券やゴールドなど安定資産を組み入れ、分散投資を徹底することが重要です。十分な緊急予備資金(生活費の数ヶ月分など)を現金で確保しておけば、株価が低迷している間に生活費のために株をやむなく売却する必要も減り、余裕を持って長期戦に臨めます。また、今回株価が大きく下がったことで、自身の目標とする資産配分から乖離が生じたかもしれません。その場合は、落ち着いた段階でリバランス(資産比率の調整)を検討しましょう。例えば、本来株式50:債券50を目指していたのに株価下落で株式が40:債券60になっているなら、安くなった株式を買い増すことで目標比率に戻す、といった対応です。これにより、結果的に安値で優良資産を仕込むことにもなり、将来のリターン向上が期待できます。攻め(長期成長を捉える)の面長期的な資産成長のためには、株式などリスク資産への投資を続ける姿勢も維持しましょう。ただし「一度に大金を投入する」のではなく、積立投資やドルコスト平均法などで時間分散しながら段階的に投資するのがおすすめです。これならば仮にこの先さらなる下落局面があっても平均購入単価を引き下げることができますし、心理的な負担も軽減されます。加えて、「何に投資するか」も大切です。個別株の場合は財務健全性が高く競争力のある優良企業に焦点を当て、中長期の成長ストーリーが崩れていないかを確認しましょう。不況期でも安定した収益を出せるディフェンシブ株や、高配当で下支え要因のある株にも注目です。一方、過度なレバレッジを伴う投機的なポジションや、短期の値動きだけを狙ったギャンブル的な取引はこの局面では極力避けるのが賢明です。相場が荒れている時ほど冷静さを失わず、「この投資は5年後10年後を見据えて自信を持てるか?」と自問しながら行動すると良いでしょう。大事なのは一貫性と粘り強さ最後に、長期投資家にとって何より重要なのは一貫性と粘り強さです。市場環境は常に変動しますが、自分の将来設計(例えば老後資金づくりや住宅資金など)のタイムフレームに合わせて、長期的な計画を立て、それをブレずに実行することが大切です。株式市場は歴史的に見れば上昇と下落を繰り返しつつ右肩上がりの成長を遂げてきました 。今回の急落も長い投資人生の中ではひとつの通過点に過ぎません。むしろ、長期投資家にとっては将来のリターンを高めるための買い増しの好機と捉えることもできます。ただし無理は禁物ですので、自身の資金計画に照らして余裕資金で臨むようにしてください。不安定な相場状況ではありますが、こうした時こそ基本に立ち返り、「長期・分散・積立」という王道を守ることが、個人投資家にとって最善策となります。過去の暴落局面でも、それを乗り越えて利益を得たのは、短期的なノイズに振り回されずに持ち続けた投資家でした 。ぜひ目先の値動きに一喜一憂しすぎず、長期的な資産形成の視点を忘れないでください。市場の回復には多少時間がかかるかもしれませんが、歴史が示す通り悲観一色の中にこそ次のチャンスの種があるものです。冷静に守りを固めつつ攻めるべきところは攻め、将来のリターンに備えていきましょう。今は嵐のような市場環境ですが、いずれ晴れ間が訪れたときにしっかりと恩恵を受けられるよう、長期的な視点で航路を守り抜くことが肝心です。

米国史上最大の貿易ショックに。コロナ危機以来の株価下落で個人投資家は何を考えるべきか
2025年4月2日、トランプ大統領が関税政策を発表し、米株式市場は4月3日に急落。特にアップルなど主要ハイテク株の下落が顕著で、景気後退への懸念が高まりました。今後数ヶ月の交渉次第で市場はさらに荒れる可能性がありますが、個人投資家は短期的な動揺を避け、長期視点で分散投資を続けることが重要です。以下、市場動向の詳細を解説します。関税政策発表の概要とそのインパクト2025年4月2日、トランプ大統領は大規模な関税政策を発表しました。この新たな関税措置は多くの輸入品に高い関税を課すもので、市場ではこれが「米国史上最大の貿易ショック」になるとの見方も出ています。実際、専門家の試算によれば、この関税によって米国の平均関税率が2024年時点のわずか2.4%から約23%へと急上昇する見込みで、貿易政策の大転換となりました。このような関税率の急上昇は、アメリカ企業のサプライチェーン(部品調達網)や消費者物価に大きな影響を与える可能性があります。トランプ大統領はホワイトハウスのローズガーデンで「Make America Wealthy Again(アメリカを再び富ませる)」と題した演説を行い、関税強化の方針を明らかにしました。彼はこれを「相互的」な関税措置と位置付け、米国の産業を守るための施策であると強調しました。しかし、この発表が貿易戦争(各国が互いに関税を掛け合う状況)にエスカレートするのではとの懸念が広がり、発表直後から市場には緊張感が走りました。投資家たちは当初、この4月2日の発表で長引く貿易政策の不透明感が解消され、相場が安定に向かうことを期待していました。しかし結果はその逆で、不透明感は増し、マーケットには「ショック」が走る形となりました。幅広い関税によるコスト上昇や各国の報復関税の可能性が浮上し、米国経済の先行きやインフレへの懸念も一気に高まったのです。こうした懸念はすぐさま株式市場に表れ、翌日以降の相場に大きな影響を与えることになりました。発表後の米国株式市場の反応関税発表の翌日である4月3日、米国の株式市場は急落しました。代表的な株価指数であるS&P500種株価指数は当日274.45ポイント、率にして約4.8%もの大幅下落となり、これは2020年以降で最大の一日下げ幅となりました。ダウ平均株価(工業株30種平均)も1日の下げ幅が1700ドル以上に及び、ナスダック総合指数も大きく値を崩すなど、主要指数が総崩れの展開となりました。株式市場全体で見ると、この一日で約3.5兆ドル(約470兆円)もの企業価値(時価総額)が消失した計算となり、投資家にとってはパンデミック初期以来の歴史的な急落となりました。特に値下がりが目立ったのが、米国株式市場を牽引してきた大型ハイテク銘柄群です。俗に「マグニフィセント・セブン(Magnificent Seven)」と呼ばれるアップル、マイクロソフト、アルファベット(グーグルの親会社)、アマゾン、メタ(旧フェイスブック)、エヌビディア、テスラの7社は総じて急落し、グループ全体で合計1兆ドル(約135兆円)もの時価総額を一日で失いました。これはこのグループにとって過去最大の1日あたり時価総額減少で、従来の記録(2025年3月10日に失った約7587億ドル)を大きく上回る損失です。中でもアップル(Apple)の下落が顕著でした。アップル1社だけで約3,110億ドル(約40兆円近く)の時価総額が吹き飛び、同社史上最大の一日減少額となりました。アップルは世界有数のハードウェア企業であり、その製品は世界中で販売されていますが、高関税により輸入コストが上昇すれば利益率の低下や販売価格の上昇につながりかねません。投資家はそうしたリスクを懸念し、アップル株をはじめハイテク株を売り急いだと考えられます。実際、関税発表後には「投資家はアップルのハードウェア事業への影響を懸念している」との指摘もあり、アップル株価は大きく下押しされました。他のハイテク大手も同様で、アマゾンやメタ(フェイスブックの親会社)などは、それぞれeコマース(電子商取引)事業やデジタル広告収入への逆風が意識されて大きく売られました。半導体大手のエヌビディアや電気自動車メーカーのテスラも下落し、これまで米国市場を支えてきた大型成長株が軒並み崩れる展開となりました。このように関税政策の発表直後、株式市場は全面安となり、「逃げ場なし」と表現されるような状況でした。投資家心理の悪化により売りが売りを呼ぶ形で連鎖的な売り圧力がかかり、一時はフリーフォール(自由落下)とも言える勢いで相場が下落しました。2020年のコロナ・ショック以来の厳しい下げとなり、市場は動揺に包まれました。投資家心理とリセッション懸念関税ショックによる株価急落の背景には、投資家心理の急激な悪化があります。大統領の発表が「思わぬ形での貿易政策の不透明感拡大」となってしまったため、投資家は先行きへの不安を強めました。その最大の懸念が、関税による景気後退(リセッション)リスクです。関税が高くなれば輸入品価格が上昇し、企業のコスト増や消費者の購買力低下を招きます。その結果、企業業績の悪化や経済成長の減速につながりかねず、最悪の場合リセッション(景気後退)に陥る可能性があります。実際、トランプ大統領の強硬な関税アプローチが世界的な貿易戦争を引き起こすリスクに市場は神経質になっています。報復関税の応酬になれば、米国だけでなく世界経済全体にブレーキがかかる恐れがあります。こうした不安から、発表翌日の株価暴落時には債券や現金など安全資産への資金逃避が見られました。米国債が買われて長期金利(債券利回り)は急低下し、2025年の過去最低水準まで低下したとも報じられています(2024年10月頃の水準まで金利低下)。投資家がそれだけ景気悪化に備え始めたということです。また、市場では米連邦準備制度理事会(FRB)による金融政策への期待も変化しました。利上げから一転して、今度は「景気を下支えするため利下げに転じるのではないか」という観測が強まったのです。実際、金融市場の指標(フェドウォッチによる先物市場の予想)では、2025年末までに4回程度の利下げが織り込まれる状況となりました。これは投資家がそれだけ先々の景気に悲観的になり、早期に金融緩和が必要になると考えていることを示唆しています。そしてもう一つ、インフレ(物価上昇)に対する心理も複雑です。関税は輸入物価を押し上げるため、短期的にはインフレ圧力を高める可能性があります。しかし景気が冷え込めば需要が落ち、インフレ抑制要因にもなります。このインフレと景気後退の板挟みになる状況は、いわゆる「スタグフレーション(景気停滞下でのインフレ)」への懸念にもつながりかねません。投資家にとって、景気もインフレも先が読みづらい状態となり、不安が不安を呼ぶ心理状況に陥りました。結局のところ、関税発表後の市場では「リセッション(不景気)に陥るのではないか」「企業利益が圧迫されるのではないか」という悲観的な見方が広がりました。そのため、株式から一時撤退して安全資産に避難しようという動きが強まったのです。この投資家心理の急変が、前述の歴史的な株価急落を招いた大きな要因でした。今後の見通しと注目ポイント急落後の市場は依然として不安定ですが、今後を見通す上でいくつかの注目ポイントがあります。まず、貿易交渉の行方とタイムラインです。専門家の見解によれば、ホワイトハウス(米政権)は「今後2ヶ月以内」に今回の関税問題について主要貿易相手国と合意し、多くの対象関税を撤回できるかどうかが鍵になるとされています。もし2ヶ月以内(6月初旬頃まで)に交渉がまとまらなければ、株式市場や経済へのダメージが深刻化し、2025年後半の市場は2022年のような低迷に逆戻りする可能性があるとの指摘があります。2022年といえば米株式市場が弱気相場に陥った年であり、インフレ高進と金融引き締めでS&P500指数が年間約20%下落した時期です。投資家としては、同じような状況を回避できるかどうか、今後の交渉の進展を注意深く見守る必要があります。次に、FRB(米連邦準備制度理事会)の対応も重要なポイントです。4月4日(金)にはパウエルFRB議長の講演が予定されており、市場はその発言内容に強く注目しています。関税発表後の市場動揺を受け、投資家は「FRBが景気下支えの姿勢を示すか」を気にしています。仮にパウエル議長が景気見通しの悪化に言及し、必要なら利下げも厭わない姿勢を示せば、市場心理は幾分落ち着くかもしれません。一方でインフレ動向にも触れ、関税による物価押し上げを懸念する発言が出れば、市場は金融政策運営が難しくなると受け止める可能性もあります。さらに同日発表される米国の3月雇用統計(非農業部門雇用者数)も大きなイベントです。雇用統計は景気の健康状態を示す重要指標であり、結果次第で市場の受け止めが変わります。もし雇用者数の伸びが大きく鈍化したり失業率が上昇したりすれば、関税ショックと相まって景気後退懸念が一段と高まるでしょう。逆に堅調な雇用が確認されれば、足元の経済はまだ耐えているとの安心感が広がるかもしれません。ただし、雇用が強すぎるとインフレ圧力との綱引きにもなり得るため、一筋縄ではいかないところです。企業の業績発表(決算)も見逃せません。4月中旬から5月にかけて2025年1~3月期の米企業決算が相次ぎますが、経営者が関税の影響についてどのようにコメントするかが注目ポイントです。たとえば輸入コスト増に直面する製造業者や、小売業で輸入品を販売する企業が利益見通しを下方修正するようだと、市場全体のムードも慎重さを増すでしょう。一方、関税の影響を価格転嫁できている企業や、内需中心で恩恵を受ける企業が好調な決算を出せば、銘柄やセクターによって明暗が分かれる展開も考えられます。投資家は企業の決算発表や経営者の発言を通じて、関税の実経済への影響度を測っていく必要があります。最後に、各国の政策対応も今後の焦点です。米国の強硬な関税策に対し、貿易相手国が報復措置を取るのか、あるいは交渉によって緊張を緩和できるのかが、今後数週間~数ヶ月のマーケットを左右します。仮に中国やEUなどが強い報復関税で応酬すれば、残念ながら市場はさらなる荒波に揉まれるでしょう。逆に舞台裏で外交交渉が進み、相互の関税引き下げや妥協が見えてくれば、「関税戦争」への懸念が和らぎ株式市場も落ち着きを取り戻す可能性があります。トランプ政権の真意(本当に関税を長期化させるつもりなのか、交渉戦術の一環なのか)も含め、今後の政策対応には引き続き注意が必要です。個人投資家が今とるべき姿勢歴史的な株価急落を目の当たりにし、不安を感じている個人投資家の方も多いでしょう。このような局面では長期的視点を持つことが何より重要です。株式市場は短期的には政策やニュースで大きく上下しますが、長い目で見れば企業の本質的な価値や経済の成長力が最終的に株価を決めます。したがって、一時的な混乱に慌てて資産を手放すよりも、まずは落ち着いて状況を見極める姿勢が大切です。過去を振り返れば、急落局面でパニック的に売却した後に後悔するケースも少なくありません。例えば2020年のコロナ・ショック時、株価は急落しましたが、その後大規模な経済対策や金融緩和もあって比較的短期間で回復しました。今回も同様に、政府や中央銀行の対応次第で状況が改善し、売ってしまった投資家が「安値で手放してしまった」となる可能性も十分あります。特にトランプ大統領は自身が株式市場の動向を非常に重視しており、「株価を上昇させたい(市場を盛り上げたい)」という意向が強いとされています。実際、ウォール街の著名ストラテジストであるトム・リー氏も「トランプ大統領は株高を望んでいるので、投資家は絶望するべきではない」と楽観的な見方を示しています。政権が市場テコ入れ策に転じる可能性もあるため、悲観しすぎずに構えることも重要でしょう。いずれにせよ、情報収集と冷静な判断が大切です。マーケットのニュースを継続的にフォローしつつも、過度に悲観的な予想や過熱した噂に振り回されないよう注意しましょう。専門家の意見も参考になりますが、自分のリスク許容度や資産状況に照らし合わせて判断することが重要です。今回の関税ショックは確かに大きな波乱ですが、長い投資人生においてはこうした局面も乗り越えていく必要があります。「ブレない軸」を持ち、長期的な視野でコツコツと資産形成を続ける姿勢こそ、個人投資家に求められる心構えです。市場が不安定な今こそ、冷静さと忍耐強さが試される時と言えるでしょう。

「解放の日」トランプ関税ショックと株式市場への影響
2025年4月2日、トランプ大統領は全輸入品に一律10%、国別に最大46%の関税を課す新政策を発表しました。これにより米国株は急落し、翌日には世界市場も下落しました。日本では自動車産業を中心に影響が懸念され、政府も対応を協議中です。個人投資家は長期的な視点を持ち、分散投資を検討することが望ましいです。以下、詳細な状況と個人投資家としての考えるべきポイントを解説します。4月2日発表のトランプ関税の影響トランプ大統領が4月2日に公表した関税政策は衝撃だった2025年4月2日、ドナルド・トランプ米大統領はホワイトハウスのローズガーデンで新たな関税政策を発表し、戦後75年以上続いた自由貿易体制を事実上覆す内容に各方面が衝撃を受けました 。今回の政策では、全ての輸入品に一律10%の関税を課す「ベースライン関税」を導入するとともに、各国の対米貿易障壁に応じてより高い「相互関税」(レシプロカル関税)を上乗せするという画期的なものです。例えば、中国からの輸入品には追加34%の関税(既に課している20%と合わせ実質54%)を課すとし、日本に対しては24%、EU(欧州連合)には20%といった具合に国別の関税率が公表されました 。ベトナム46%、インド26%など最高で半分近い関税が課される国もあり、これらはいずれも相手国が米国製品に課している関税・非関税障壁の「おおむね半分」に相当する水準だとトランプ大統領は述べています。一方、イギリスやブラジル、シンガポールのように対米貿易で赤字を出している国については追加関税がなく10%の最低税率に据え置かれました 。また、自動車や自動車部品、鉄鋼、アルミニウムなど既に安全保障などの名目で25%関税を課している品目は今回の相互関税の対象から除外されています。トランプ政権はこれを「不公正な貿易慣行への対抗措置」であり、各国に対し対米関税の引き下げを促す狙いがあると説明しています。しかし、主要貿易相手国すべてに幅広い関税を課すこの方針は「リベレーション・デー(解放の日)」と銘打たれ 、同盟国を含め世界中に波紋を広げる結果となりました。米国株式市場は公表直後からアフターマーケットで下落この重大発表が行われたのは4月2日(水)米株式市場の取引終了後でしたが、ニュースが伝わるや否や株価指数先物は急落しました。S&P500先物は時間外取引で約1.6%下落し、ナスダック先物は約2.4%急落と主要指数が軒並み大きく値を崩しました。ハイテク株を中心とする「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる米国大型ハイテク株も軒並み下落となり、アップルは時間外で6%近く値下がりしました。この急落は、投資家が今回の関税による企業コスト増加や貿易摩擦激化を懸念しリスク回避に動いたためです。実際、発表前から関税への不安で相場は神経質になっており、S&P500指数は2025年1~3月期に2022年以来の最悪の四半期となる下落を記録していました。市場では貿易戦争による景気減速懸念が高まっており、安全資産の米国債や金に資金が逃避する動きも鮮明でした。4月3日には世界の市場でも株価が下落し、世界的な混乱に4月3日(木)になると、その影響はアジア・欧州を含む世界の市場に波及しました。東京市場では日経平均株価が一時前日比4%以上急落し、終値でも-2.8%(34,735円)安と8ヶ月ぶりの安値水準に沈みました。自動車株や銀行株など輸出関連を中心に売られ、トヨタ自動車は5.2%の急落、ソニーも4.8%下落するなど主要企業の株価が軒並み急落しています。香港や上海など他のアジア市場も軟調で、ソウルのKOSPI指数は1%以上下落しました(韓国への関税は25%と発表)。ヨーロッパ市場でも株安が波及し、ドイツDAX指数は前日比1.7%安、フランスCAC40指数は1.8%安と大幅続落となりました。イギリスFTSE100指数も1.2%の下落を記録しています。投資家心理の悪化により「リスクオフ」の動きが広がり、為替市場では円やスイスフランなど安全通貨が急騰しました。ドル円相場は発表前の1ドル=149円台から147円台前半まで円高が進み、ユーロも対ドルで一時乱高下しました。また金価格は安全資産需要から史上最高値を更新し 、逆に景気に敏感な銅など工業用金属価格は2%以上下落、原油先物も1%近く値を下げるなど商品市場にも波紋が広がりました。各国市場が揃って急落する様子は、まさに世界的な混乱(グローバル市場のパニック)と言える状況でした。経済学者や市場関係者からは「今回の二桁関税引き上げは世界経済に大きな衝撃を与え、景気後退(リセッション)のリスクを高めている」との警鐘も鳴らされています。トランプ関税公表後の見通し各国政府の声明と対応まとめ(中国、日本、EUなどの反応)関税政策の公表を受け、各国政府は相次いで声明を発表しました。その概要を中国、日本、EUを中心に整理します。中国即座に強く反発しました。中国商務省は声明で「アメリカが直ちに最新の関税を取り消すよう強く促す。中国は断固反対するとともに、自国の正当な権益を守るため必要な対抗措置を取る」と表明し、対抗関税など報復措置も辞さない構えを示しました。また「貿易戦争に勝者はいない。保護主義では行き詰まるだけだ」とも述べ、今回の米国の一方的措置が多国間の貿易秩序を損ない世界経済を危うくすると強く非難しています。実際に中国外交部(外務省)も北京での記者会見で「今回の米国の行為はグローバル経済発展を危うくし、自国の利益にも跳ね返る」と批判し、米国に即時撤回を要求しました。中国政府は具体的報復策には言及しなかったものの、習近平国家主席に近い専門家からは人民元安誘導やレアアース輸出規制など報復カードの可能性も示唆されています。日本日本政府は慎重な対応を見せています。石破茂首相は4月3日朝、「極めて残念であり不本意」と述べ、米政府の対応に懸念を示しました。また経済産業相の武藤洋二氏は「世界貿易機関(WTO)協定との整合性には深刻な懸念を有している」と述べました。林芳正官房長官は「極めて遺憾」と表明し、米側に対し日本への適用除外を強く求めていることを明らかにしています。「米国による一方的な関税措置は極めて遺憾であることを伝え、適用しないよう強く要請した」という発言からも、日本政府が水面下で働きかけを続けている様子が伺えます。一方で、日本は同盟国であることから報復措置については言及を避けました。対抗関税など「報復」に関する質問には慎重な姿勢を示しています 。日本としては冷静に影響を精査しつつ、まずは外交交渉を通じてダメージを最小化する方策を探る考えとみられます。欧州連合(EU)EUも強い懸念と失望を表明しました。ウルズラ・フォンデアライエン欧州委員会委員長は「今回の米国の関税は世界経済に対する重大な打撃であり、その影響は何百万もの人々にとって深刻なものになるだろう」と厳しく非難しました。さらにEUは対抗措置の準備にも言及しており、「交渉が失敗した場合に備えた追加的な報復手段の準備を進めている」と表明しています。もっともEU側は即座に報復関税を発動するよりもまず米国との協議を模索する構えで、フォンデアライエン委員長は「依然として対話の扉は開かれている」と述べ、外交的解決の余地を残しました。一方、フランスやドイツなど加盟各国からは米国製品に対する独自の関税引き上げを求める声も出ており、EU内部でも対応を巡る議論が活発化しています。欧州は自動車など重要産業が米関税の標的になっているだけに、強い危機感を持って臨んでいる状況です。自動車産業をはじめ日本経済に対する影響も大きい今回の関税強化により日本経済、とりわけ自動車産業への影響は甚大だとみられています。自動車は日本の対米輸出の約3割強を占める最重要品目であり、トランプ政権は以前から日本車に対する関税引き上げを示唆していました。今回、日本からの輸入品には24%の相互関税が課されることになりましたが、これとは別に米国は全ての外国製自動車に一律25%の関税を課す方針も示しています。そのため日本車は実質的に非常に高い関税障壁に直面することになり、日本の自動車メーカー各社の競争力低下は避けられません。実際、マーケットでは発表直後からトヨタやホンダなど自動車株が急落しました。4月3日の東京市場でトヨタ自動車株は前日比5.2%安と大幅下落し、ホンダも約4%安となっています。さらに関税により米国向け輸出コストが増大すれば、生産体制の見直しや現地生産へのシフトなど企業戦略にも影響が及ぶでしょう。自動車以外でも、日本の主要輸出品である機械・電子部品・化学製品など幅広い分野が影響を受けます。ソニーのようなハイテク企業の株価も4.8%下落するなど 、対米売上比率の高い企業ほど懸念が強まっています。また日本の大手銀行株(例えば三菱UFJフィナンシャル・グループは-7.2%)も急落しました。これは米関税で日本の輸出産業が打撃を受ければ景気が冷え込み、日銀の利上げ継続期待も後退するとの見方からです。エコノミストは「日本からの輸出に24%の関税がかかれば、日本のGDP成長率を大きく押し下げる可能性がある」と指摘しており、企業収益の下振れは避けられないとの見解が多数です。株式市場の今後の見通しについては様々な見解が出ている急激な関税引き上げによる世界経済・市場への影響について、専門家の見解は分かれています。悲観的な見方としては、「各国の報復合戦が終わりの見えない関税合戦(スパイラル・オブ・ドゥーム)に発展すれば、景気後退に陥る可能性が高い」という指摘があります。実際、ドイツ銀行のジム・リード氏は今回の措置を「最悪のケースが現実になった。米国の平均関税率は25~30%と20世紀初頭以来の水準だ」と述べており、フィッチ・レーティングスのエコノミストも「米国の全輸入品に対する平均関税率は2024年の2.5%から約22%に跳ね上がった。1910年頃の水準だ。これはゲームチェンジャーであり、長期間この関税率が続けば多くの国がリセッションに陥るだろう。現在の経済予測はほとんど意味をなさなくなる」と警鐘を鳴らしています。一方で、やや楽観的な見方を示す市場関係者もいます。「今回発表された関税はあくまで交渉のスタート地点であり、今後各国との協議を通じて最終的な税率は引き下げられる可能性が高い」と分析する向きもあります。実際、トランプ大統領自身も各国が対米関税を引き下げれば米側も措置を再考すると示唆しており、最終的に妥協が図られる余地は残されています。投資家の間でも「初期の不透明感は払拭され、むしろ材料出尽くしで落ち着きを取り戻す」との期待もあります。例えば北欧の運用大手ノルデアのエルムグレン氏は「今回の関税は市場予想よりも悪材料だったが、ショック療法的な側面があり、これが交渉の糸口となって貿易システムが再構築されれば不確実性が減少する可能性もある」と指摘しています。市場予想については強気・弱気様々ですが、中には「株価急落によって割安感が生じ、むしろ有望な買い機会が到来している」との見解もあります。実際、欧州株式については「足元の急落で割安になっており、長期的に見れば大きな上昇余地がある」という指摘も聞かれます。個人投資家はどうすべきか一時的な株価下落に動揺せず長期投資は継続すべき今回の相場急変動を目の当たりにして、不安を感じた個人投資家も多いでしょう。しかし、短期的な下落に過剰反応せず、長期的な視点で投資を続けることが重要です。歴史的に見ても、貿易摩擦や地政学リスクで株式市場が急落する局面は何度もありましたが、その都度市場は回復し、長期的な成長トレンドは維持されています。著名投資家の多くも「悲観に売り、楽観に買うな(安い時こそ買い、高い時に売れ)」という格言を残している通り、急落局面で冷静さを保てるかが長期投資の成果を大きく左右します。実際、今回の下落についても「市場のボラティリティは忍耐強い投資家にとって投資機会をもたらす」と指摘する専門家がいます。将来的に米国と各国の交渉が進み関税が引き下げられれば、企業業績や株価は再評価される可能性があります。現時点で悲観一色の予想も、状況改善で覆る余地があることを念頭に置くべきです。特に、積立投資やインデックス投資を行っている方は、マーケットタイミングを計ろうとせず継続することで、安値局面で多くの口数を取得できるメリットもあります。足元の乱高下に振り回されず、自身の資産運用の目的や期間に照らして冷静に行動することが肝要でしょう。相場変動が気になる方は米国債や金のETFへの投資を検討しても良いとはいえ、「長期的には戻る」と頭で分かっていても大きな変動が続くと不安になるものです。値動きへの不安がどうしても拭えない方は、ポートフォリオの一部を比較的安全な資産に振り向けることも検討に値します。具体的には、米国債券や金(ゴールド)などの安全資産への投資です。実際、トランプ関税発表で株が急落した局面では、米国債券や金に資金が流れ込み、米国10年債利回りは低下(債券価格は上昇)し、金価格は過去最高値を更新する動きが見られました。安全資産は市場の混乱時に価値が相対的に上がりやすいため、株式の下落ヘッジ(緩和策)として有効です。ただし、安全資産といえど価格変動リスクがゼロになるわけではありません。米国債価格は金利動向に左右されますし、金も平時には値下がりすることがあります。そのため、資産配分(アセットアロケーション)の一環として、自分のリスク許容度に応じた比率で組み入れるのが望ましいでしょう。重要なのは、「不安だから全部売却」ではなく不安に備えて適度にヘッジするという発想です。こうすることで、株式相場の乱高下にもより落ち着いて対処できるようになるでしょう。リスクとチャンスのバランスをウォール街のアナリスト予想では、今回の関税発表を受けて2025年末時点のS&P500目標水準が相次いで下方修正されています(例えば大手投資銀行は年末予想を従来より数百ポイント引き下げたとの報道があります)。これは関税による企業収益悪化や景気減速を織り込んだものですが、一方で悲観的な予想が広がり過ぎているとの指摘もあります。市場が最悪シナリオを織り込んでいる今だからこそ、長期目線ではエントリーチャンスと見る向きもあるのです。確かにリスク要因は残ります。仮に米中をはじめ各国が報復措置を強化し、関税合戦が長期化すれば企業業績の低迷や世界的な景気後退が現実となる恐れも否定できません。その場合、株式相場の低迷も長引き、年末のS&P500が現在水準を下回る可能性もあります。つまり「落ちてくるナイフをつかむ」リスクもゼロではないことは念頭に置くべきです。しかし逆に、数ヶ月先を見据えれば状況が改善する可能性もあります。米大統領選挙への思惑なども絡み、トランプ政権が年末までに各国と貿易交渉で一定の妥協を引き出す展開になれば、市場のセンチメントは好転しうるでしょう。その際には、現在過度に織り込まれた悲観が修正され、株価が急反発する展開も考えられます。以上を踏まえ、個人投資家としてはリスクとチャンスのバランスを見極めることが重要です。すなわち、短期的な追加下落リスクに備えつつ、長期的なリバウンドのチャンスも逃さない姿勢です。2025年末の相場見通しについて悲観的な予測が出ているとはいえ、それも状況次第で修正され得る可変的なものです。最終的には、自身の投資目的と時間軸に照らして、今この局面を「ピンチ」ではなく将来のための「チャンス」と捉えられるかどうかが大きな分かれ目になるでしょう。

リーマン危機とアベノミクス前夜の円高局面と比較する。2025年の円高シナリオとは?
本記事では、2025年3月時点での円高進行を、過去の円高局面との比較からどのような共通点・相違点があるかを分析した上で、今後の円高リスクシナリオ(及び円安シナリオ)を洗い出します。今後の為替水準について見通しを深めたい方に向けた、やや専門的な記事になっています。過去の円高局面との比較最近の円高局面を理解するために、過去に起きた大きな円高局面と比較してみましょう。特に、2008年のリーマンショック後から2012年頃にかけての世界的な金融危機期、および2011年頃の歴史的円高(アベノミクス開始直前)の局面と比べると、共通点と相違点が浮かび上がります。リーマンショック後の円高(2008-2012)との比較世界的な金融危機である2008年のリーマンショック後、日本円は主要通貨に対して急激な価値上昇(円高)を遂げました。例えばドル円相場は、リーマン破綻前の2007年には1ドル=120円台だったものが、危機直後の2008年末には一気に84円台まで円高が進みました 。実際、リーマンショック発生からわずか3カ月間で円相場が18円も円高方向に動いたとの分析もあります 。これは「有事の円買い」と呼ばれ、世界的な危機に際して投資家がリスク資産を売却し、日本円など相対的に安全とみなされる通貨を買い込む動きが背景にありました 。当時は米連邦準備制度(FRB)が政策金利をゼロ近くまで急低下させ、日米金利差がほぼゼロになったことも円高を後押ししました。結果として2008年末から2011年にかけて長期にわたり円高基調が続き、ドル円は80円前後の高い円価値水準で推移することになります。今回の局面と比較すると、共通点は「リスク回避の円買い」が見られる点ですが、相違点も明確です。まず金利環境が異なります。リーマン後は米国も日本もゼロ金利状態で利下げ余地がなく、世界的な超低金利時代だったのに対し、2025年現在は米国金利が依然として高水準にあります(利下げ途中とはいえ政策金利は4%台)。したがって日米金利差が当時ほど縮小しておらず、円の急激な独歩高にはなりにくい構造です。また危機の性質も異なります。リーマン期の円高は金融システム不安という実体経済への深刻な打撃を伴う危機が震源でしたが、現在の円高はどちらかと言えば「将来の政策変更や景気循環を先読みした投機的な動き」が主となっています。つまり、過去のような極端な円高が長期化する可能性は低く、ある程度のところで頭打ちになるとの見方が強い点が、リーマンショック後との大きな違いです。アベノミクス開始前の円高(2011-2013)との違い次に、直近の歴史的円高ピークであった2011年前後の局面と比較します。2011年は東日本大震災が発生し、日本の保険会社が巨額の保険金支払いに備えて海外資産を売却し円を調達する必要に迫られるという観測が出ました。実際、投資家やヘッジファンドは日本の保険会社やその他の富裕層が保険金支払いのため海外資産を本国に送金すると見込んで円を買い進めました。その結果、同年10月末にはドル円が1ドル=75.32円という戦後最高の円高水準を記録しています 。この円高基調は2012年まで続きましたが、2012年末に第2次安倍政権が発足すると状況が一変しました。安倍政権は「デフレからの脱却」を掲げ、大胆な金融緩和や財政出動を含む経済政策(いわゆる「アベノミクス」)を打ち出します。市場はこれを好感し円安方向へ反応、わずか数カ月で円相場は大きく反転しました。事実、2012年11月まで70円台だったドル円は、翌2013年1月後半には90円台、そして2013年4月には100円近辺まで急速に円安(ドル高)が進んでいます 。このように金融政策の転換によって為替のトレンドが大きく変わったのが2013年前後の特徴です。当時の円高から円安への流れは日本政府の大きな政策方針によって形成されましたが、今回の円高では日本政府がアベノミクスのように「分かりやすい」円安につながる政策を打ち出すことは考えにくいと思われます。しかし、現在の円高要因を支えている「日銀の利上げ」については、国債市場における金利急騰リスクや政府債務を圧迫する利払い費増加の観点から、修正が入る可能性があり、そのような政策変更があればアベノミクスほど分かりやすくなくとも、政策方針による円安進行はあり得ると言えます。今後のシナリオ分析今後のドル円相場について、考えられるいくつかのシナリオを展望します。ここでは 「日銀が市場の想定より早く利上げを行った場合」、「米国の景気後退が深刻化した場合」、「市場が安定し円安基調に戻った場合」の三つを取り上げ、それぞれ円相場への影響を分析します。日銀が想定以上に早く利上げした場合の影響まず、日銀が市場の予想を上回るペースで早期に利上げを実施した場合です。たとえば本年中に追加利上げを連続的に行い、日本の政策金利が想定より速く1%近くまで引き上げられるようなケースを考えてみましょう。こうしたサプライズ利上げが起これば、市場では日米金利差の一段の急縮小が織り込まれ、短期的に円買い・ドル売りが加速する可能性が高いです。為替相場では円高がさらに進み、ドル円が140円を割り込むような局面もあり得るでしょう。実際、2025年1月に日銀が約17年ぶりの政策金利水準に利上げを決定した際には、瞬間的にドル円が0.8%近く急落し円高方向に振れています 。想定以上の利上げはそれ以上のインパクトを持つと考えられ、円高幅も大きくなることが予想されます。ただし、このシナリオには注意点もあります。日銀の積極利上げは日本国内の景気や金融市場に対しては引き締め効果を強く与え、株式相場の下落や国債利回りの急騰を招くリスクがあります。仮にマーケットに動揺が走れば、安全資産としての円買いとリスク回避のドル買いが相殺しあい、為替への影響が一過性に留まる可能性もあります。また、日本政府にとっても金利上昇は国債の利払い負担増につながるため、政策当局からの牽制が入りやすく、日銀が極端に早いペースで利上げを続けられるかは疑問です。このため「日銀サプライズ利上げ」で円高が続くとしても、それは短期的な現象にとどまりやすく、中長期では別の要因に収れんしていくでしょう。米国景気後退が深刻化した場合のシナリオ次に、米国経済が市場の懸念通りに本格的な景気後退に陥った場合のシナリオです。この場合、投資家心理は大きくリスクオフ(危険資産回避)に傾き、リーマンショック時のような有事の円買いが一段と強まる可能性があります。米連邦準備制度(FRB)は景気下支えのため大幅な利下げに踏み切ることが予想され、米国金利が低下すれば日米金利差も急速に縮小または逆転するでしょう。その結果、為替市場ではドル安・円高がさらに進行し、ドル円が130円台半ばや場合によっては120円台まで急激に円高が進む展開も否定できません。現に、2008年のリーマン危機時にはドル円が1年で40円近く円高方向に振れた例があります 。同様に深刻な米国不況・金融不安が起これば、歴史的な円高水準に挑む勢いで円買いが進むシナリオも考えられます。もっとも、そのような極端な円高局面では各国当局も黙って見ている可能性は低いでしょう。日本政府・日銀は急激な円高が国内景気に与える悪影響を緩和するため、為替介入や金融緩和の停止(利上げ見送り)といった対抗策を取るかもしれません。一方、米国側もドル安が行き過ぎれば金融市場の混乱につながるため、各国と協調して市場安定化を図る可能性があります(いわゆる「協調介入」や政策協調)。したがって、米国経済の深刻な悪化に伴う円高シナリオでは、一時的に大幅な円高が生じても、最終的には各国の政策対応によって落ち着きどころが見いだされる展開が予想されます。市場が落ち着き円安に戻るシナリオ最後に、足元の不透明要因が解消され市場が安定を取り戻した場合、円安方向に回帰するシナリオを考えてみます。具体的には、日銀は慎重な姿勢を崩さず追加利上げをゆっくりと進める一方、米国経済はソフトランディングに成功して景気後退を回避し、金融市場のボラティリティ(変動性)が低下するようなケースです。この場合、投資マネーは再び相対的に利回りの高いドルや他国資産に向かいやすくなります。日米金利差は依然として米国優位の水準が維持され、円を売ってドルで運用する動き(キャリートレード)が復活すれば、徐々に円安基調が強まるでしょう。ドル円レートは150円を再び超えて、今年後半には155円前後まで円安が進行するとの見方もあります 。このシナリオでは、日本国内では輸出企業を中心に追い風となり株価が上昇基調を取り戻す反面、輸入物価の上昇によるコスト高が再び問題化する可能性があります。日銀にとってはインフレ率が高止まりする懸念から追加利上げの判断を迫られる場面も想定され、そうなれば再度円高材料となりうるため油断はできません。つまり、市場が落ち着き円安方向に振れるシナリオでは、一方向に進み続けるというより円安・円高要因が綱引きしながら緩やかな円安基調が進行するイメージです。投資家としては、このような状況下では過度な円安への期待や円高への恐怖に振り回されず、日米両国の経済指標や中央銀行の発言動向を注視しつつ柔軟に対応することが求められるでしょう。

調整局面の米国株、安全な投資先として需要が高まる銘柄とは?
2025年、ドナルド・トランプ大統領の関税政策やその他の政策の不透明感による貿易戦争や景気後退への懸念が、米国株下落の波を引き起こしています。本記事では、先行き不安の強い米金融市場において安全投資先として需要が高まっている銘柄を紹介します。1. 中小型バリュー株景気後退懸念時には、安定した収益を上げている企業や割安な株が見直されやすく、バリュー株へ新たな資金が流入しています。特に、関税などのマイナス要因よりも規制緩和や減税の恩恵が大きい中小型株が注目され、ドラッグストア運営と処方箋の販売および管理を提供するヘルスケア企業CVSヘルス(CVS)の年初来上昇率は50%超、世界最大のたばこメーカーフィリップ・モリス・インターナショナル(PM)は25%超、アッヴィ(ABBV)は17%超と主要指数を大きく上回るパフォーマンスを発揮しています。また、バリュー投資家として知られるウォーレン・バフェットが率いる投資会社バークシャー・ハザウェイ(BRK.B)は金利上昇により同社の投資収益が増加し、株価が年初来上昇率は13%超となっています2. 大型高配当株市場の不確実性がますます高まる中、安定した四半期配当を提供する高配当銘柄の一部も好調に推移しています。米国で財務が健全な高配当企業を厳選したETFであるiシェアーズ・コア高配当株ETF(HDV)は年初来で5%超上昇。同指数の組入上位銘柄である医薬品・日用品大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)の年初来上昇率は12%超、コカ・コーラ(KO)は11%超といずれも年初来上昇率が2桁に達しています。3. 金・銀ETF古くから市場の不確実性に対するヘッジとして見られる金は、安全資産としての魅力がさらに高まっています。中央銀行による金買い需要も堅調であり、SPDRゴールドETF(GLD)は年初来で12%超上昇。銀価格も堅調に推移し、iシェアーズ シルバーETF(SLV)は年初来で14%超上昇しています。3月14日、金スポット価格は史上初めて1オンス=3000ドルを突破しました。過去1年、アナリストらは金価格予想を上方修正してきており、一部アナリストは1オンス=3500ドルが次の目標になると予想しています。一方で、貿易問題の解決が見え株式市場の混乱が解消すれば、大幅な調整が起きる可能性があるとの見方も示されています。4. 米国債安全資産需要から米国債相場も急上昇し、昨年11月5日の大統領選以降の期間では米国株を上回るリターンとなっています。また、ベッセント米財務長官が「当面は長期債増発の計画がない」「トランプ氏の政策により米10年債利回りは自然に低下するはずだ」と述べたことや、複数のFRB当局者が量的引き締め(QT)の停止ないし縮小に言及したことも米国債への強気姿勢を促しました。債券投資を行う際は、個別債券への投資のほか債券型のETFによる投資も可能です。債券ETFであれば、少額から投資可能で、満期がなく取引所が空いている間リアルタイムで取引を行うことができます。また、株式と一体に証券口座内で管理できるため、損益状況やポートフォリオが把握しやすいというのも特徴です。

ドル円は146円台へ。円高はこのまま続くのか
2025年3月時点で外国為替市場では急速に円高が進み、ドル円レートは一時1ドル=146円台という約5カ月ぶりの円高水準を記録しました 。わずかな期間で円高が進行した背景には、日本と米国それぞれの金融政策見通しや景気見通しの変化が影響しています。以下では、特に日銀(日本銀行)の利上げ観測と米国の景気後退懸念という二つの要因に焦点を当て、そのメカニズムを解説します。急激に円高が進んだ背景とは日銀の早期利上げ見通しが日米金利差の縮小期待を形成したまず、日本側の要因として日銀の金融政策スタンスの変化が挙げられます。近年、日本では物価上昇率が日銀の目標である2%を上回り、賃金も上昇傾向にあることから、日銀が金融緩和を転換し利上げに踏み切るとの見通しが市場で高まりました 。実際に日銀は2025年1月に政策金利を0.25%から0.5%へと引き上げており、追加利上げへの期待もくすぶっています 。日銀の早期利上げ観測が広がると、日本と米国の金利差(利回り差)が縮小するとの予想につながり、これが円を買う動きを促しました。金利差縮小によりドルを持つ魅力が相対的に低下するため、投資家がドル資産から円資産へとシフトし、結果として円高圧力が強まったのです 。米国の景気後退懸念がドルから資金流出を招いている一方、米国側の要因として、景気後退(リセッション)への懸念がドル安・円高を後押ししました。2025年に入り、米国では高関税政策の影響などで経済成長の減速懸念が台頭し、株式市場が不安定化しています 。特に「貿易戦争」による先行き不安から「有事の円買い」と呼ばれる現象が起こり、リスク回避志向の投資家が安全資産とみなされる円を買う動きが強まりました 。具体的には、米国経済の減速リスクが意識され始めた3月上旬、米株価の急落に追随して投資マネーがドルから流出し、日本円やスイスフランといった安全通貨に流入しました。その結果、ドルは対円で売られ、為替相場は急激な円高方向(ドル安方向)へ振れたのです 。このように、日米金利差だけでなく景気見通しによる資金の流れも円高の背景にあると言えます。円高傾向が長期で続くかは疑問直近の円高は顕著ですが、この円高傾向が長期にわたって持続する可能性は低いのではという懐疑的な見方も専門家から出ています。その理由として、米国の金融政策が思ったほど早く緩和(利下げ)に転じない見通しや、日本国内の金融・財政面での日銀利上げの制約、そして将来的に米国景気の不安要因が解消した際の資金フローの逆転が挙げられます。以下で順に説明します。米国はトランプ関税で利下げが遅れる見通し第一に、米国の金融政策に関して、早期の利下げが見込みにくい状況があります。トランプ大統領による関税引き上げ(いわゆる「トランプ関税」)が再び導入・維持されたことで物価の先行きに不透明感が生じ、インフレ圧力が残るとの見方があるためです。実際、米連邦準備制度理事会(FRB)は直近で追加利下げを急がない方針を示していますが、その背景には米国経済が比較的堅調であることに加え、第2次トランプ政権の高関税政策による世界経済の不確実性が影響しています 。世界的に他国の中央銀行が利下げに動く中で、FRBは「米国経済への信頼が強く、現時点での追加利下げは必要ない」と判断している状況です 。このため日米金利差はすぐには大きく縮小せず、円高基調が長く続く決定打には欠けるとの見通しが強いのです。日本の市中銀行は国債を消化できず日銀の利上げは難しい第二に、日本国内の事情として、日銀が大幅な追加利上げや金融引き締めを行うには高いハードルがあります。長年の金融緩和で日銀が国債市場で圧倒的な存在感を持ってきたため、市中の銀行や機関投資家が国債を安定的に消化する体制が十分に整っていないからです。実際、国内の銀行や保険など機関投資家は10年物国債金利がおおむね2%程度に達しないと、本格的に国債を買い増すのは難しいとの姿勢を示しています 。現在の長期金利水準(1%前後)では、民間が積極的に国債を吸収するインセンティブが弱く、国債市場の安定消化は日銀の買い入れに依存しているのが実情です 。このため日銀が利上げによって国債買い入れを減らそうとすると金利急騰や市場混乱を招くリスクがあり、日銀は利上げに慎重にならざるを得ません。要するに、日本の構造的な事情から日銀は急ピッチの金融引き締めが難しく、円高要因である日米金利差縮小も緩やかになりやすいのです。米国の景気後退懸念が解消するとドルへ資金が還流する第三に、現在円高を促している米国景気への悲観論も永続するわけではありません。仮に米国の景気後退懸念が今後薄れ、経済が安定軌道に戻ると市場参加者のリスク回避姿勢も和らぐでしょう。そうなれば、安全資産とされる円への資金流入は減少し、代わって成長期待のあるドルや新興国通貨への投資資金が戻っていく可能性が高いと考えられます。過去を振り返っても、大きな危機の際に急騰した円は、その危機が去れば徐々に反落し円安基調に戻る傾向があります。今回も米国経済がソフトランディング(景気後退を回避)すれば、現在進んでいるような円高圧力は次第に弱まり、中長期的には再び円安方向に振れていくシナリオが有力です。

S&P500はどうなる?トランプ危機への対応は
2025年3月10日、米国株式市場で大幅な暴落が起き、S&P500指数は1日で2.7%安、ナスダック総合指数も4%安と今年最大の下げ幅を記録しました 。ダウ平均株価は一時1100ドル超下落し、終値でも890ドル安(-2.08%)となっています。この急落の背景には、トランプ政権による政策への不透明感と、それに伴う景気後退(リセッション)への懸念が急速に広がったことがあります。以下では「トランプ危機」とも言える今回の状況について、その原因と背景を詳しく見ていきます。1. 何が起きているのか1-1. トランプ政権の不透明感が相場を止めた今回の相場急落の大きな要因は、トランプ大統領による政策運営の不透明さです。就任当初、市場はトランプ氏の減税や規制緩和といった成長重視の政策に期待し株高が進んでいました。しかし足元では貿易関税の引き上げや連邦政府職員の大量解雇など、場当たり的で予測困難な政策運営により投資家心理が冷え込んでいます 。実際、トランプ大統領の関税政策による不確実性が景気悪化懸念を招き、S&P500指数の時価総額は2月の過去最高値から約4兆ドルも減少しました 。主要な貿易相手国(カナダ・メキシコ・中国)への関税方針が二転三転するなど、不安定な政策運営が市場の先行き見通しを困難にしています 。米株式市場を牽引してきたハイテク大型株も売りの直撃を受け、アップルやエヌビディアが5%前後の急落、テスラに至っては15%安と急落しました 。かつて「トランプトレード」と呼ばれた楽観的な買いムードは完全に影を潜め、市場はトランプ政権の政策リスクを意識して慎重姿勢に転じています。ジョーンズ・トレーディングのチーフ市場ストラテジストのコメントも、この状況を端的に表しています。「以前はトランプ氏就任で何もかも素晴らしくなるという圧倒的コンセンサスがあった」が、「構造的変化には不確実性と摩擦が伴う。市場参加者が懸念を強め利益確定に動き始めたのも理解できる」と指摘されています 。つまり、これまで追い風だった政策期待が一転、政策の不透明感が株式相場の重しとなり、上昇基調を止めてしまったのです。1-2. 景気後退懸念が市場を支配政策への不安に加え、景気後退(リセッション)への懸念が投資家心理を一気にネガティブに傾けました。引き金となったのはトランプ大統領自身の発言です。3月9日放送のFOXニュースのインタビューで、トランプ氏は「米経済は今、過渡期にある」と述べ、2025年内に景気後退入りする可能性を明確には否定しませんでした 。年内リセッション予測について問われた際、「そういった予測は好まない。我々はいま非常に大きなことを進めているので、過渡期がある」と述べ、事実上景気後退の可能性を排除しなかったのです。この発言に市場は敏感に反応し、以前から警戒感を募らせていた投資家の間で不安が一気に広がりました 。その結果、「景気後退が来るかもしれない」という恐怖が市場を支配し、大量の売りが発生しました。ウォール街の恐怖指数と呼ばれるVIX指数は年初来最高水準に急上昇し、CNNの「恐怖と強欲指数」でも直近2週間は「極度の恐怖」が市場を支配している状態です 。米国株だけでなくリスク資産全般に売りが波及し、暗号資産のビットコインですら7万8000ドル近辺まで急落し昨年11月以来の安値を付けました 。一方で、安全資産とされる米国債が買われ長期金利が低下するなど、市場は典型的なリスクオフの動きを示しています 。こうした景気後退懸念の高まりが、短期的な投機筋の動きも巻き込み相場下落に拍車をかけました。ヘッジファンドは3月上旬にかけて株式ポジションを大幅に縮小し、ここ2年で最大規模の売り越しを行ったとの指摘もあります 。投資家のリスク回避姿勢が極度に強まった結果、昨年11月の大統領選以降の米株上昇分はほぼ帳消しとなり、主要株価指数は調整局面(高値から10%以上の下落)入りが意識される水準にまで低下しました 。言い換えれば、市場は「トランプ政権下で景気後退が起こる」という最悪シナリオを相当織り込み始めた状態と言えます。2. 今後の見通しはどうなるかでは、今後の市場はどう動くのでしょうか。短期的には不安定な動きが続く可能性がありますが、中長期的に見ると過度に悲観する必要はないとの見方も多くあります。ここでは、実体経済の状況と金融政策の見通しを踏まえ、短期と長期それぞれの視点から今後の展望を整理します。2-1. 実体経済は堅調で景気後退リスクは高くないまず押さえておきたいのは、足元の実体経済は依然として堅調だという点です。株式市場が悲観に傾いている一方で、米国経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は決して悪化していません。たとえば失業率は依然歴史的低水準にあり、個人消費も堅調さを維持しています。企業の業績も総じて良好で、金融システム不安などの兆候も見られません。このため、「米国経済がすぐに景気後退に陥る可能性は低い」とする専門家の声が多数を占めています。実際、エコノミストの間では「米国は景気後退には至らず、ソフトランディング(穏やかな経済軟着陸)の可能性が高い」との見通しが有力です。2024年12月時点では第一生命経済研究所の藤代主席エコノミストからも「多くのエコノミストも同様に主張しており、確率的には8割ほどの確度でソフトランディングするだろう。景気後退(GDPが2四半期連続マイナス成長)はまず考えにくい」との指摘がなされています 。つまり、多少の景気減速はあっても「大惨事」にはならず、米経済は底堅さを維持すると見られています。この見立ては3月10日の大幅下落後も大きく変わらず、JPモルガンアセットマネジメントは米国の景気後退確率を15%から20%に引き上げましたが、それでもまだ80%の確率でソフトランディングの見通しを持っています。また、年末時点でのS&P500指数は6400を予想しており、2024年末に予想していた水準と大きく変わらないものとなっています。加えて、インフレ率の低下傾向も追い風となる可能性があります。昨年まで高騰していた物価上昇率は世界的にピークアウトしつつあり、米国でもエネルギー価格の落ち着きなどからインフレ圧力が和らいできました。ニッセイ基礎研究所の井出主任研究員はこちらの記事で「世界的にインフレ率は低下しており、その上米国の景気は底堅い。結果として2025年は米国株の強さが際立つ年になるだろう」と指摘しています 。これは、実体経済の堅調さがいずれ市場にも評価され、過度な悲観は修正されるという見方です。したがって、足元の景気後退不安はあくまで「心理的なもの」が先行している面が強く、現実の経済がすぐ悪化に向かう可能性は高くないと考えられます。2-2. 短期では利下げ延期リスクあるが、年末にかけては戻すのでは短期的な視点では、依然として金融政策をめぐる不確実性が相場の波乱要因となり得ます。市場では当初、2025年半ば以降に米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げに転じるとの期待があり、金利先物市場は6月・7月・10月に各0.25%の利下げを織り込んでいました 。しかし、トランプ政権の掲げる大規模な減税や歳出拡大策、関税引き上げなどが短期的にインフレ(物価上昇)圧力を高める可能性があり、FRBが利下げ開始を遅らせるリスクも指摘されています 。実際、ゴールドマン・サックスはこうした政策の影響を踏まえ米国の成長率見通しを引き下げる一方、インフレ率見通しを引き上げました 。仮に物価上昇が続けば、FRBは景気下支えよりもインフレ抑制を優先し、政策金利の引き下げを当初予定より「延期」せざるを得なくなる可能性があります。FRBが利下げを渋れば、目先の株式市場には逆風となるでしょう。利下げ期待で先行していたハイテク株などは失望売りにさらされやすく、投資家心理も不安定さを増すかもしれません。ただし、こうした短期的な金融政策リスクは一時的なものとの見方もあります。仮にインフレが再燃しそうになっても、トランプ政権も物価高対策に動くと表明しており、FRBと政府が協調してインフレ抑制に努める可能性が高いからです 。実際、「そもそも世界的にインフレ率は低下傾向にある中で、米国景気は底堅い。結果として大幅な株価下落リスクは小さい」と指摘する専門家もいます 。短期的に利下げ開始が数ヶ月遅れる程度であれば、実体経済の強さが勝り、企業業績や投資マインドは年後半にかけて持ち直す可能性があります。年末にかけては市場が落ち着きを取り戻し、株価が回復基調に戻るとの予想も少なくありません。実例として、株式ストラテジスト4人による2025年1月下旬時点でのこちらの予測では「2025年前半はトランプ政権の影響で調整局面があるものの、年後半からは上昇に転じ最高値更新へ」との見通しが示されています 。この背景には、前述したように政策の不透明感が徐々に解消し、実体経済の強さが評価され直す展開が想定されているためです。米国株も同様に、「今年後半には景気の底堅さを反映して株価が持ち直す」との見方が現時点では優勢と言えます。従って、短期的には乱高下があり得るものの、2025年全体で見れば緩やかな上昇基調を維持し、年末にかけて株価は今より高い水準に戻っている可能性が十分考えられます。3. 個人投資家はどうすべきか以上を踏まえ、急落局面において個人投資家はどのように行動すべきでしょうか。結論から言えば、長期的な視点を持つことと、機械的な積立投資の継続が鍵となります。相場の下落局面は不安を感じるものですが、こうした局面でこそ冷静に対応し、将来のための有利な投資行動を取ることが重要です。以下では投資期間の長さに応じた戦略と、具体的な資産運用上のポイントを解説します。3-1. 10年以上の長期目線なら投資継続で一択まず、投資期間が10年以上と十分長い場合は、基本戦略は「継続保有」一択と言ってよいでしょう。歴史的に見ても、株式市場は短期的な暴落を何度も乗り越え、長期では成長してきました。例えばリーマンショックやコロナショックのような大暴落でも、その数年後には株価は回復し過去の高値を更新しています。長期の資産形成を目指す個人投資家にとって、目先の下落で保有資産を手放すことは、長い目で見れば機会損失になりかねません 。実際、ある調査によれば弱気相場が終わった後の1年間でフルに株式市場で投資を続けていた場合のリターンは平均+38.3%だったのに対し、下落時に現金化して株式市場への復帰が遅れた場合は+8.0%にとどまったとのデータもあります 。つまり、下落局面で投資をやめてしまうと、その後の大きな反発局面の恩恵を受け損ねるリスクが高いのです。長期目線の投資家は、今回の下落をむしろ「時間を味方につける」好機と捉えるべきです。積立投資を継続している人にとって、一時的な価格下落はドルコスト平均法の効果を高めるチャンスでもあります。こちらの記事の通り「一時的な株価の下落は、長期積立投資をしている人にとってやめるタイミングではなく、むしろドルコスト平均法を実践する時だ」との指摘もあります 。価格が下がった局面で淡々と買い増すことで、取得単価を引き下げ将来のリターンを高められる可能性があるからです。実際、今回のような相場急落時に冷静さを保ち投資を続けられるかどうかが、長期投資の成果を大きく左右すると言えます。要するに、10年以上先の目標に向けて投資している場合、今回の下落で戦略を変える必要はありません。焦って売却したり、タイミングを計って出たり入ったりするよりも、基本方針を貫き通すことが最善策です。米国株式市場の長期的な成長ストーリー(人口増加や技術革新による経済拡大)は大きく変わっておらず、むしろこの局面は割安に仕込む好機とも考えられます。自分のポートフォリオやリスク許容度を再点検しつつ、「長期投資の王道」を継続する姿勢が肝要です。3-2. 積立継続・増額は良いが、大きな買いのタイミングは難しい次に、積立投資を行っている場合の戦略です。基本的には、現在の積立投資(例えば毎月の買付)をそのまま継続するのが賢明です。先ほど触れたドルコスト平均法の通り、価格が下がったときにこそ同じ金額でより多くの口数を購入でき、将来価格が元に戻るだけでプラスのリターンを得られる可能性が高まります 。実際、「相場が下がったときに買った株は、相場回復で値上がりし、元に戻るだけで利益が出る」ことから「下落時こそ積立継続」を推奨する金融機関もあります 。したがって、今回の下落局面でも積立を止めず、むしろ余裕資金があるなら積立額を一時的に増やすことも検討に値します。一方で、「今が買いの好機だからといって、一度に大金を投じる」のは注意が必要です。確かに大きく下がった直後にまとめて買えれば理想的ですが、現実には誰も株価の大底を正確に見極めることはできません。多くの投資家が「もう少し下がってから買おう」と思って現金のまま待機しますが、そのうちに相場が反転して上昇に乗り遅れてしまうケースがよくあります 。マーケットタイミングを完璧に図るのはプロでも難しく、底値を逃してしまうとリターンを大きく損なう可能性があるのです 。ですから、「ここが底だ」と決め打ちしての一括投資はリスクが高く、避けた方が無難でしょう。つまり、個人投資家にとって現実的なのは“時間分散”による投資です。既に積立投資を行っている人は、その計画を崩さず続けることが最善策ですし、追加投資をする場合も何回かに分けて少しずつ買い増す方法がリスクを抑えられます。逆に、「暴落したから全力で買う」といった衝動的な行動は慎むべきです。投資はあくまで余裕資金で、生活に支障が出ない範囲で続けることが大原則 です。この原則を守りながら、下落局面でも計画的に資産形成を継続することこそ、長期的に見た最良の結果につながるでしょう。2024年夏の相場下落をケーススタディに取りつつ、こうした長期・分散・積立投資の大切さを解説した記事はこちらなので、今後の運用方針に迷われる方は併せてお読みください。

【米国株】NISAで買える、2025年急成長グロース銘柄を解説
2025年、トランプ政策を巡る懸念などから、米国株市況は最高値付近で停滞する状況が続いていますが、一部銘柄は主要指数を大きく上回るパフォーマンスを発揮しています。本記事では、2025年に急成長している米国グロース銘柄を解説します。2025年急成長グロース銘柄10選1. テンパスAI(TEM)テンパスAIは、AI技術を活用した精密医療診断サービスプロバイダーです。同社は、腫瘍学や神経精神医学、心臓病学、感染症学、放射線学などの分野で遺伝子検査を販売し、アストラゼネカといった製薬大手などを顧客に持ち、グーグルやソフトバンクグループなどが出資しています。今年1月に、患者のためのAI対応パーソナルヘルス・コンシェルジュアプリ「olivia」 をリリースしたことに加え、株式の女王として知られる元下院議長ナンシーペロシ氏がテンパス株を購入したことが明らかになり、株価が急騰。テンパスの株価は年初来で約85%、直近1年で約56%上昇のパフォーマンスとなっています。2. ヒムズ・ハーズ・ヘルス(HIMS)ヒムズ・ハーズ・ヘルスは、2017年に設立された遠隔医療会社で、オンライン診療や処方箋の提供、サプリメントの販売を行っています。同社は、減量薬分野において製薬大手のノボ・ノルディスクやイーライ・リリーが供給不足に苦しむなか、同じ有効成分を低価格で消費者に提供することで市場参入に成功しました。直近では、2月19日にニュージャージー州を拠点とする在宅検査施設「Trybe Labs」の買収を発表。2月21日には、国内サプライチェーンの強化に向けて、カリフォルニア州に所在する米国のペプチド製造施設の買収を発表し、新たなカテゴリーへの参入が期待されています。ヒムズの株価は年初来で約63%、直近1年で約300%上昇のパフォーマンスとなっています。3. スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)スーパー・マイクロ・コンピューターは、ITソリューションプロバイダーで、AIサーバー向けのソリューションが注目を集めています。同社は、昨年会計規則に違反したとする元従業員の告発を受けて、株価が大幅下落。ナスダック上場廃止の危機に陥りましたが、未提出となっていた2024年度の決算報告書を米証券取引委員会(SEC)に2月25日までに提出できるとの見通しを示し、上場廃止回避への期待感が高まりました。また2月6日、エヌビディアの「Blackwell GPU」を搭載し、次世代冷却システムを備えたAIデータセンター向けのラックソリューションの本格生産開始の発表を受け、株価が急騰。スーパー・マイクロの株価は年初来で約63%上昇、直近1年で約45%下落のパフォーマンスとなっています。4. オクロ(OKLO)オクロは、小型モジュール原子炉(SMR)を開発する企業で、特別買収目的会社(SPAC)との合併を通じて2024年5月にニューヨーク証券取引所に上場しました。同社は、OpenAIのサム・アルトマン氏が会長を務めており、アルトマン氏は「核融合による先進的エネルギーソリューションの商業化において、最も有利な位置につけている」と評価し、2015年に出資をしました。米国では近年、グーグルやアマゾンをはじめとするハイテク大手がAIシステム運用に必要な大規模データセンターの電力需要に対応するため、原子力発電への投資を強化。米国政府も原子力容量を3倍にする目標を掲げ、民間を後押ししています。オクロの株価は年初来で約51%、直近1年で約211%上昇のパフォーマンスとなっています。5. クラウドフレア(NET)クラウドフレアは、クラウドサービスプロバイダーで、Webサイトの表示速度を高速化する「コンテンツデリバリネットワーク(CDN)」やインターネットセキュリティサービスを提供しています。同社は2月の決算発表で、大口顧客が前年比27%増加し、大口顧客からの収益が前年同期比69%上昇したことを発表し、大きな注目を集めました。アナリストも決算を受け、生成AI関連やサイバーセキュリティ分野の需要拡大を見込み、一斉に目標株価を引き上げました。クラウドフレアの株価は年初来で約29%、直近1年で約47%上昇のパフォーマンスとなっています。6. ASTスペースモバイル(ASTS)ASTスペースモバイルは、米国を拠点とする上場衛星製造企業で、英通信大手ボーダフォンや米国の通信大手AT&Tと提携し、スペースXのスターリンクと競合する商業用衛星と携帯電話を直接つなぐモバイル・ブロードバンドサービスの提供を開発しています。1月末に、モバイル・ブロードバンドサービスを年内に欧州の顧客に提供し始めると報じられたことで、株価が上昇。日本では楽天モバイルと提携し、2026年内の低軌道衛星による通信サービス提供を目指しています。ASTの株価は年初来で約28%、直近1年で約764%上昇のパフォーマンスとなっています。7. ロビンフッド・マーケッツ(HOOD)ロビンフッド・マーケッツは、米国の金融サービス企業であり、主にミレニアル世代やZ世代の投資家をターゲットに、直感的なインターフェースと低コストの取引サービスを特徴とした投資アプリ「Robinhood」を通じて、株式、ETF、暗号資産の取引を提供しています。同社は、手数料無料の取引所として急成長し、近年は暗号資産事業などの拡大に注力しており、トランプ政権下での暗号資産に対する規制緩和の恩恵を受けると期待されています。ロビンフッドの株価は年初来で約19%、直近1年で約203%上昇のパフォーマンスとなっています。8. リカージョン・ファーマシューティカルズ(RXRX)リカージョン・ファーマシューティカルズは、米国を拠点とするバイオ医薬品企業で、AIソフトウェアを使用して医薬品開発のペースを1年で10倍に加速させています。同社の株価は、2023年にエヌビディアがリカージョンの創薬用AIモデルの訓練加速に5000万ドルを投じる公表したときに急騰し、直近では、2月14日にエヌビディアがSECに提出した書類で、2024年の10-12月中にいくつかのAI関連株の持ち株を売却したにもかかわらず、リカージョンの約770万株すべてを保有し続けたことが明らかになったことで、再び注目を集めています。リカージョンの株価は年初来で約19%上昇、直近1年で約42%下落のパフォーマンスとなっています。9. アップラビン(APP)アップラビンは、AIを活用したマーケティングプラットフォーム企業で、特にモバイルゲーム市場に強みを持ち、ROI(投資対効果)ベースで広告の最適化配信を行うのが特徴です。2月12日の決算発表では、主力の広告事業が前年同期比73%増の10億ドルに大幅成長し、第1四半期の業績見通しも市場予想を上回ったことから、翌日に株価は一時40%高となりました。アップラビンの株価は年初来で約13%、直近1年で約552%上昇のパフォーマンスとなっています。10. パランティア・テクノロジーズ(PLTR)パランティア・テクノロジーズは、ビッグデータ解析を手掛ける企業で、ペイパル共同創業者のピーター・ティール氏らによって設立されました。政府機関や企業向けのデータ活用支援に強みを持っており、2024年9月にS&P 500指数の構成銘柄に採用されたことで株価が急成長しました。直近では、2月19日に米国防総省の予算削減が報道されたことで、株価が10%下落。同社の総売上高の半分以上を政府向けが占めており、政府関連業務がここ数年間の売上急増に寄与していました。パランティアの株価は年初来で約17%、直近1年では約274%上昇のパフォーマンスとなっています。

【ナンシー・ペロシのポートフォリオ解説】株式取引の女王の2025年注目銘柄は?
株式の女王として知られる元下院議長ナンシー・ペロシ氏は、株式ポートフォリオで2024年に54%の利益を上げ、多くの大手ヘッジファンドの業績を上回りました。本記事では、ナンシー・ペロシ氏のポートフォリオを紹介の上、2025年の取引動向について解説します。ナンシー・ペロシポートフォリオの中身ペロシ氏はハイテク株を中心に取引していることで知られ、株式ポートフォリオは11銘柄で構成されており、上位5銘柄で約60%を占めています。ナンシー・ペロシの保有銘柄エヌビディア(NVDA):19.4%アルファベット(GOOGL) : 13.6%パロアルトネットワークス(PANW): 10.7%テンパスAI(TEM): 9.6%アマゾン(AMZN): 9.5%ブロードコム(AVGO) : 9.1%ビストラ・コープ(VST): 8.7%クラウド(CRWD): 5.6%アップル(AAPL) : 5.3%マイクロソフト(MSFT): 4.7%テスラ(TSLA): 3.9%2025年は5銘柄を購入、テンパスAIが急成長2025年、ペロシ氏はテンパスAI、ビストラ・コープ、アマゾン、アルファベット、エヌビディア株を購入したことが、1月の定期取引報告書で明らかになりました。中でも、テンパスとビストラ株の新規購入は市場の注目を集め、ペロシ氏の保有開示により1月21日の時間外取引でテンパスは約19%、 ビストラは約6%株価が上昇しました。AI関連2銘柄を新規購入テンパスAIは、AI技術を活用した精密医療診断サービスプロバイダーです。同社は、腫瘍学や神経精神医学、心臓病学、感染症学、放射線学などの分野で遺伝子検査を販売し、アストラゼネカといった製薬大手などを顧客に持ち、グーグルやソフトバンクグループなどが出資しています。ペロシ氏は、2025年1月14日に5〜10万ドル相当のテンパス株を購入しました。その後、テンパスは患者のためのAI対応パーソナルヘルス・コンシェルジュアプリ「olivia」 をリリースしたことで、株価が急騰。テンパスの株価は2025年1月のみで約90%上昇して、非常に収益性の高い取引となりました。ビストラ・コープは、小売電力および発電の公益事業会社です。同社は、2024年に原子力発電能力を大幅に増強し、株価が年初来264%上昇を記録。 S&P 500株価指数でトップクラスのパフォーマンスとなりました。ペロシ氏は、2025年1月14日に5〜10万ドル相当のビストラ株を購入しました。大手ハイテク株への強気姿勢を維持また、ペロシ氏は2025年1月14日に25〜50万ドル相当のアマゾン、アルファベット、エヌビディア株を購入しました。ただし、エヌビディア株については2024年12月31日に100~500万ドル相当の1万株を売却しており、DeepSeekの低コストAIモデルや不透明な関税動向を巡って、エヌビディアが下落する前に売り抜けていたと一部投資家の中で話題となっています。

【バフェットのポートフォリオ解説】金融株削減し、石油・消費財株を買い増し
ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイ(BRK.B)の2024年12月末時点でのポートフォリオが、2月14日に米証券取引委員会(SEC)に提出された報告書「フォーム13F」にて明らかになりました。本記事では、バフェット氏の最新ポートフォリオを紹介します。バフェットポートフォリオの中身バークシャーの上場ポートフォリオは35社で構成されており、上位5銘柄で約70%、上位10銘柄で約90%を占めています。上位保有銘柄アップル(AAPL) : 28.1%アメリカン・エキスプレス(AXP) : 16.8%バンク・オブ・アメリカ(BAC) : 11.2%コカコーラ(KO): 9.3%シェブロン(CVX): 6.4%オキシデンタル・ペトロリアム (OXY): 4.9%ムーディーズ(MCO): 4.4%クラフト・ハインツ(KHC): 3.7%チャブ(CB): 2.8%ダビータ(DVA): 2.0%金融株を売却、オキシデンタル株を買い増しアップル、アメリカン・エキスプレス、コカコーラ などの主要保有銘柄に大きな変化はありませんでしたが、7-9月に続いて、10-12月もバンク・オブ・アメリカ株の約15%を売却しました。シティグループ、キャピタル・ワン・ファイナンシャル、ヌー・ホールディングスなど、その他の金融株についても一部売却をしましたが、金融セクターは依然としてポートフォリオの約4割を占めています。一方、ポートフォリオの中で6番目に大きなポジションを占める、オキシデンタル・ペトロリアムへは半年ぶりに890万株の追加投資をしました。原油安により、バークシャーはオキシデンタル普通株で一時22億ドルの含み損を抱えていたと報じられていましたが、エネルギー関連銘柄に対する強気姿勢が維持されました。2月7日には、さらにオキシデンタル株76万株を購入しています。そのほか、大きな保有額ではありませんでしたが、Vanguard S&P 500 ETF(VOO)とSPDR S&P 500 ETF(SPY)からの完全撤退も注目を集めました。バフェット氏は、バークシャーの2020年年次株主総会で「ほとんどの人にとって、S&P500インデックスファンドを保有することが最善策だ」と述べていました。トップアルコールブランドへの新規投資が明らかにバークシャーは、米国最大のビール輸入会社コンステレーションブランズ(STZ)へ12.4億ドルの新規投資を開始しました。コンステレーションブランズは、米国でコロナビールとモンデロビールの輸入・独占販売権を持つことで知られ、ワインやスピリッツのブランドもいくつか所有しています。1月の決算発表で、同社は売上高と利益で市場予想を下回り、通年の見通しを引き下げたことから、株価は現在年初来23%下落し、数年ぶりの安値で取引されています。市場関係者は、バクシャーは「将来のキャッシュフロー予測よりも大幅に割安で取引されている、価値の高い株を探している」とし、コンステレーションブランズはバリュー投資の完璧な例と指摘しています。また、7-9月期に新規投資が明らかになった、ドミノ・ピザ(DPZ)への投資を86%、プール(POOL)への投資を48%増やしました。バークシャーは2月22日に第4四半期の決算発表を予定しており、年次報告書と毎年恒例の「株主への手紙」を公開し、投資家に対してさらなる情報を提供する予定です。バフェットポートフォリオを簡単コピー?ブルーモ証券では、2024年12月末時点でのバークシャーのポートフォリオをワンタップでコピーし、投資を始めることができます。株式のみで構成されるポートフォリオのほか、米短期債を含む手元資金を反映したポートフォリオのコピーもできますし、そこから変更を加えてオリジナルのポートフォリオの作成も可能です。

トランプ関税に揺れる市場、米国株市場の先行きは
2月1日、ドナルド・トランプ大統領はメキシコとカナダからの輸入品に25%の関税、中国からの輸入品に10%の追加関税を4日から課す大統領令に署名しました。経済成長やインフレ再燃を巡る懸念から、週明け3日の米国株市況は、S&P 500指数が0.8%安、ナスダック総合指数が1.2%安となりました。本記事では、トランプ政権の関税政策動向を解説し、米国株市場の見通しについて市場関係者の見方を紹介いたします。対メキシコ・カナダ関税は発動1カ月見送り2月3日、メキシコとカナダに対する関税の発動延期が明らかになり、相場の多くが反転しました。両国は国境警備を強化し、合成麻薬フェンタニルの密輸取り締まりを強化することを約束しました。現時点では、トランプ氏にとって「関税は交渉ツール」との見方が市場では主流となっていますが、短期的な混乱で終わるかどうか判断するのは難しいとの声もあります。中国は対抗措置を発表も慎重姿勢一方、中国に対しては4日に追加関税を発動しました。同日、中国も米国からの輸入品に10日から最大15%の追加関税を課すと発表したほか、グーグルへの独占禁止法調査開始やタングステンなど金属5品目への輸出規制といった対抗措置とみられる発表が相次ぎました。しかし、中国の関税措置の対象が140億ドル(約2.2兆円)相当と、トランプ氏による関税措置の対象と比べてわずかに留めたことから、金融市場の大きな混乱は免れました。市場関係者は、中国の対米輸出が米国の対中輸出規模の3倍ほどあり、関税を課す対象品目が少なく米国との貿易不均衡が大きいため、全面的な関税戦争は中国の利益にはならないと分析しています。目下は、中国の関税措置が発動される10日までに両首脳が合意に至ることができるかどうかに注目が集まります。ただし、メキシコやカナダとは異なり、中国がトランプ氏の経済的・政治的要求をすんなりと受け入れるとは考えにくいことから、米中の関税動向が今年の市場変動の主因となる可能性があると指摘するアナリストもいます。米国株は短期的に下落も、長期的には楽観かストラテジストらは、トランプ政権による関税措置が適用されれば、企業の業績見通しが悪化し、S&P 500指数は短期的に5~10%下げるリスクがあると分析しています。ただし、関税が交渉のための一時的な措置と投資家が考えている限り、株式市場への影響は小さく、一方で関税が引き上げられるとの見方が強まれば、株式への影響はより大きくなると述べています。また、第1次トランプ政権の関税戦争に対する市場の反応を振り返ると、長期的には市場に大きな影響は出ない可能性があると、楽観視するアナリストもいます。2018年から2019年にかけての関税戦争も市場に大きな影響を及ぼし、交渉が決裂したり追加関税が適用されたりすると、米国株は売られ、2019年10月に第1段階の貿易協定が発表されると米国株は大幅に上昇しました。S&P 500指数は、2018年に4.4%下落しましたが、2019年には31.5%上昇しました。

DeepSeekの衝撃!株式市場とAI戦略の行方。Microsoft/Meta決算と解説
本記事では、中国発生成AIであるDeepSeekの登場の影響について解説します。DeepSeekの登場は「現在の最先端レベルのAIを低コストで再現する」ひとつの大きなブレイクスルーであり、そのインパクトは今後の生成AI開発の方向性を左右する可能性があります。とはいえ、米中AI競争の激化により地政学リスクをはじめとする外部要因も大きく変化する局面にあり、DeepSeekのインパクトもセクターによって均一ではないので、各セクターの中長期的な成長性とリスクをDeepSeek登場の影響も踏まえて評価することが必要になります。本記事はYouTube動画も併せて公開しています(動画リンク)。DeepSeekの登場生成AI開発を揺るがすコストイノベーション中国で開発された最新の生成AIモデル「DeepSeek」が世界を驚かせています。同モデルは、OpenAIのChatGPT-o1クラスに相当するトップレベルの生成AIを、わずか約600万ドルという低コストで開発したとされ、AI業界や株式市場に大きなインパクトを与えました。参考までに、OpenAIが1世代前のGPT-4を開発する際には最低でも7,800万ドル、さらに最新モデルにおいては数十億ドル単位の開発コストがかかると言われており、DeepSeekのコスト優位性が際立っています。加えて、ランニングコスト面でも注目を集めています。DeepSeekは“重要な計算だけ高性能GPUを使う”というソフトウェア最適化を行っており、従来よりもハードウェア依存度を下げることで維持費を大きく圧縮しています。結果として「高性能GPUの確保が必須」と考えられていた生成AI領域において、テック大手の独占体制に大きく疑問符を投げかける存在となっています。DeepSeekは最新技術をオープンソースで公開したことで、誰でも同レベルのAIモデルを作成できる可能性が広がりました。マーク・アンドリーセン氏はこれを「AIのスプートニク」と評し、1957年に旧ソ連が人工衛星の打ち上げに成功した際、米国など西側陣営が受けた衝撃になぞらえています。コストへの疑義と技術面のポイントとはいえ、DeepSeekの開発コストが「本当に600万ドル程度で済んだのか」という点には、複数の観点から疑義が提示されています。たとえば、基礎研究費やエンジニア人件費、インフラ構築などの実際の費用がどこまで含まれているのか、外部からははっきりと確認できていません。また、一部では「ChatGPTなどの出力データを学習に使ったのではないか」という指摘もあり、MicrosoftやOpenAIが状況を調査していると報じられています。さらに、DeepSeekは対中輸出規制を回避する形でNVIDIAの“H800”という高性能GPUを大量に確保・利用していたという見方もあります。H800は規制の抜け穴として一時的に輸出が許可されていた製品ですが、事実上“低速化版”とはいえ高性能であり、それを大量に導入して開発を進めていた可能性が取り沙汰されています。ただし、モデル自体のソフトウェア面での効率性は否定されていないため、「どこまで低コストか」の程度問題であり、イノベーションとしての意義が損なわれるわけではないと思われます。市場の反応株価動向とセクターの明暗DeepSeekが最新モデルを公開した直後の1月27日(月)米国市場では、株価が一時大きく下げる局面がありました。しかし翌日には「売られすぎ」と判断した投資家の買い戻しが入り、全体としては下落分を取り戻す動きが見られました。現状では、DeepSeekのショックが株式市場の大きな総崩れにまでは発展していない状況です。1月30日時点での過去5日間株価推移を指数(セクター)別に見ると、以下のような結果になっています。• 半導体セクター(NVDAなど)やフィラデルフィア半導体指数(SOX): 過去5日間で大幅下落• NASDAQ: マイナス• S&P 500: ややマイナス• ダウ平均(DJIA): プラス圏で推移この株価の差は、AI投資やサプライチェーンでの立ち位置が異なる企業によって明暗が分かれているからと考えられます。DeepSeekが「高性能GPUに大きく依存しないAI開発」を打ち出したことで、GPU需要の減速懸念が高まり、半導体関連銘柄には一時的に売りが先行しました。一方、GPU購入コスト負担が軽減される可能性が出てきたテック企業や、安価なAIがもたらす生産性向上メリットを享受する一般企業は相対的に下げ幅が少なく、あるいは株価が上昇する場面も見られました。AIサプライチェーン上での企業に対する影響DeepSeekの影響は、AIサプライチェーンでどこに位置付けられるかによって、以下のように変わってきます。これらの立ち位置の違いが、過去5日間での株価変動の差にもつながっていると考えられます。1. 半導体企業• 高性能GPU需要が従来の拡大ペースから減速するリスクがあり、短期的には株価が伸び悩む可能性。• ただし、AI市場そのものは拡大が見込まれるため、長期的には底堅い需要が期待できるとの見方も。2. テック企業(クラウド・ソフトウェアなど)• 開発コスト削減や効率化によって、より幅広いAI導入余地を確保できる。• 例えば、Snowflakeは早速DeepSeekモデルをAIモデルマーケットプレイスに追加し、顧客が生成AIを活用しやすい環境を整備。過去5日間で株価は約5%上昇し、市場の期待を証明している。3. 一般企業(非IT企業も含む)• 生成AIの利用コストが下がることで、さまざまな業種で自社の生産性やサービスの高度化につなげられる。• AIを本格活用する敷居が下がるため、デジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させる企業も増える可能性が高い。「本当にGPUが不要か?」将来世代の開発費には疑問もDeepSeekが現在の最先端レベルを安価に再現できる方法を示したことは事実ですが、「次の最先端モデル」も同様に低コストで開発できるかは未知数です。OpenAIの最新モデルを「蒸留」する形で開発していた可能性が指摘されているため、いずれにせよ根幹となる“最先端研究”には巨額の投資が必要という見方も残っています。GPUの大規模運用を本当に不要とできるか、あるいは高性能GPUや高速ネットワークへの依存度がゼロになるわけではないと考えられ、今後も継続的な調査や検証が求められそうです。NVIDIAもDeepSeekの進歩を認めつつ、今後のAI開発には引き続き大規模な計算処理が必要との見方を出しています。米中AI競争と地政学リスクさらに、AI分野での米中対立の激化はマクロ経済的なリスクも含んでいます。トランプ大統領による、対中輸出規制強化やトランプ関税の復活など、地政学リスクが再燃する可能性が高まっています。これによって半導体企業の需要に上限がかかったり、米国のインフレリスクが上昇したりするシナリオも考えられます。主要テック企業の決算から見るAI投資:減速は見られずMicrosoftの決算直近までの背景前四半期ではAI投資負担の増大とクラウドの成長鈍化が懸念され、株価は下落傾向。特に、OpenAIへの多額投資や自社データセンターへの設備投資が利益を圧迫するとの不安が浮上していました。今回の決算結果売上・EPSは市場予想を上回りましたが、クラウド事業(Azure)の成長率が31%と事前予測の32%に届かず、市場ではやや失望感が強まりました。設備投資は前年同期比で2倍水準とさらに拡大しており、AI分野への大規模投資は継続している様子。トランプ大統領主導のStargateプロジェクトへの参加で、OpenAIの負担を他企業と分担できる枠組みができつつあるのはポジティブ材料と見られています。サティア・ナデラCEOは、AIモデルのコモディティ化によって全体のリソース消費がむしろ増大するとする「ジェボンのパラドックス」を引き合いに出し、Microsoftのクラウドサービスや生成AIサービスの市場拡大に自信を示しています。Metaの決算直近までの背景前四半期の決算で売上が予想を上回ったものの、AIインフラへの投資拡大を嫌気され、一時株価が下落しました。TikTokが米国で禁止措置施行を延期されたことから、広告収入への影響を懸念する声もありました。今回の決算結果売上・EPSは市場予想を再度上回った一方、今期の売上成長率予想がやや鈍化する見通しが示され、市場の評価はマイナスに。ザッカーバーグCEOは2025年のAI投資額を2024年比で1.5倍にする意向を表明し、設備投資の拡大路線が継続。投資家からは「短期的な利益を圧迫しかねない」という不安も広がりました。結果としてアフターマーケットで株価は下落。とはいえ、Metaがメタバース戦略と並行してAI活用をさらに深める姿勢は崩しておらず、長期的には企業価値向上が期待できるとの分析もあります。両社とも「DeepSeekの登場によるGPU投資の大幅抑制」という動きは見られず、むしろテック大手はAIインフラをさらに強化する方針が明確になっています。この点は、半導体企業にとっては当面の需要源となり得るため、短期的にはやや安心材料と言えそうです。

サンタクロースラリーとは?期待と懸念入り混じる2024年年末相場
2024年、S&P 500指数は今週の大きな下落にもかかわらず、年初来で23%以上上昇し歴史的に好調な年間終値を迎えることが期待されています。本記事では、サンタクロースラリーについて解説のうえ、2024年末の米国株市場見通しについて紹介します。サンタクロースラリーとはサンタクロースラリー(Santa Claus Rally)は、12月の最後の5営業日と翌年の最初の2営業日にかけて株価が上昇する傾向を指し、1950年以来、S&P 500指数はサンタクロースラリー期間中に約80%の確率で上昇し、平均1.3%上昇しています。株価の上昇は、新年を好調なスタートで迎えたいというポジティブ投資家心理や年末調整で株を売った後の買い戻しなどが影響しているとされています。また、機関投資家が休暇期間中に取引を控えことが多く、市場の取引量が減って価格変動への抵抗が少なくなることから、上昇トレンドが生まれやすくなります。2024年は期待と懸念が入り混じる足元では、連邦準備制度理事会(FRB)が12月の会合で今後の利下げペースが鈍化する可能性が示され、米国株式主要3指数はいずれも8月以来の大幅安を記録し、金融市場に動揺が広がっています。市場関係者の間では、12月18日の下落について「市場の過熱感が一部解消され、反発の下地が出来た」という見方もあれば、「下落幅が大きかったため、トレーダーが利益確定を行えば売りがさらに進む可能性もある」という見方もあります。ファンドストラット・グローバル・アドバイザーズのトム・リー氏は、大幅な売りは一時的なものである可能性が高いと予想しています。リー氏は、12月18日にシカゴ・オプション取引所のボラティリティ指数(VIX)が74%急上昇し、史上過去2番目に高い上昇率を記録したことを指摘し、歴史的にVIXが大幅に急上昇した後、株価は1ヶ月以内に回復していると述べています。また連邦準備制度理事会(FRB)の姿勢はよりタカ派的になったものの、FRBは引き続き市場を支援しており、この売りはまたとない買いの機会となると述べています。一方、ドナルド・トランプ氏の大統領選勝利を受けて11月にS&P 500指数が5.7%、ナスダック総合指数が6.2%、ダウ平均株価が7.5%、小型株のラッセル2000が10.8%上昇したことを踏まえると、2024年は「年末のラリーが12月ではなく11月に早めに到来した可能性がある」と指摘する声もあります。2025年の米国株の見通しについての市場関係者の見方は、以下の記事をご覧ください。

2025年利下げ鈍化見通しで米国株式市場は急落。今後の市場への示唆とは
ブルーモ証券代表の中村です。12月18日のFOMC結果を受け、米国株式市場が大きく下落したので、背景で何が起きているのか・今後の市場への示唆は何かについて解説していきたいと思います。要約すると、2025年の利下げは鈍化見通しとなりましたが、事前にある程度予想されていたので、株式市場に対して継続的な影響があるとは考えにくい内容といえます。ただ、2025年の米国経済がインフレ・高金利環境になる方向性が明確になったことを理解してしておくと良いでしょう。12月FOMCの結果政策金利は引き下げられるも、2025年の利下げ鈍化見通しで株価が急落2024年最後のFOMCが12月18日に開催され、FRBは追加で0.25%の利下げを決定しました。利下げ自体は景気・株価に対してプラスなのですが、今回の利下げは事前に予想されていたため、それ自体が追加で株価上昇の材料になることはなく、同時に公表された2025年の利下げ見通しに注目が集まりました。FRBの2025年の利下げ見通しが、24年9月会合時点での1%から、24年12月会合時点では0.5%に後退しています。これは2025年に想定より利下げが行われないことを意味するので、企業の資金環境に対する追い風の減速懸念から12月18日の市場で株価は大きく下落しました。引用:Marketwatch2025年はインフレ基調とFRBは予想そもそも、FOMCでは四半期に一度(3月、6月、9月、12月)に「経済予想サマリー(SEP, Summary of Economic Projections)」という経済見通し資料をあわせて発表します。これはFOMC参加者の経済予想を集計したもので、実質GDP成長率、失業率、インフレ率、政策金利の見通しの要素を含みます。これらの予測は米経済の情勢を示し、金融政策の方向性を示す重要な指標です。なかでも、米国の短期金利であるFF(フェデラルファンド)レートの水準を点として図示した、「ドットチャート」からは利上げ/利下げ幅を予測できることから市場からの注目が高くなっています。24年12月に公表された経済予想サマリーでは、24年9月に比べて政策金利の分布が3.88-4.12%のレンジに大きくシフト・集中していることが分かります。FRBのその他経済指標の見通しを24年9月と24年12月で比べると、実態経済指標(GDPや失業率)には大きな変化はないものの、インフレ率(PCE inflation rate)の見通しが大きく上がっていることが分かります。つまり、今回のFRB利下げ見通しの後退は、24年9月時点と比べてFRBの米国インフレ率見通しが変わったことが直接の原因と言えます。今後の市場への示唆一時的に株価は下落したが、予想はされていた展開FOMCでの利下げ鈍化見通しはサプライズとして受け取られ、12月18日に株式市場を急落させましたが、FRBは事前にこの方向性を示唆するコメントを出しており、ある程度予想はできていた展開と言えます。2024年11月5日の米大統領戦でトランプ新大統領が当選したことを受け、米経済のインフレ基調は見えていたので、11月15日にFRBパウエル議長は「現在の強い経済状態であればFRBが利下げを急ぐ必要はない」とメッセージを出していました。なので、ある程度サプライズではあるものの織り込まれていたシナリオではあり、今後の株式市場の見通しに与える影響は限定的で、ここから大きく株価が下がり続けるリスクは低いと考えられます。引用:Reutersトランプ新政権でのインフレ・高金利環境がより明確に12月FOMC後の会見で、「FOMC参加者がインフレ率の上振れを予想している理由は大統領選にあるか」と聞かれ、FRBパウエル議長は「実際にそれだけではない」と回答し、足元のインフレ率が高止まりしていることも影響したと説明しています。しかし、11月15日のタイミングでコメントを出したことを考えると、トランプ新政権で予想される政策が大きく影響していることは明らかです。11月5日の大統領選後は、「トランプトレード」と呼ばれる一部銘柄の上昇と、米国株式市場全体の上昇相場が続きましたが、トランプ大統領の政策には関税引き上げが盛り込まれており、インフレ圧力がかかることに注意が必要です。2025年1月20日にトランプ新大統領は就任しますが、2025年はインフレ・高金利環境になる見通しは今回FOMC結果もあり、明確になってきたと言えます。2025年の米国株式市場も上昇基調の強気相場の予想が各社から出ていますが、同時に米国金利も高い状態が続くので、株式市場のパフォーマンスは常に債券金利の水準と比較される環境になると考えられます。

【トランプトレード】トランプ政権で株価上昇の恩恵が期待される銘柄10選
本記事では「トランプラリー」、「トランプトレード」で株価上昇の恩恵が期待される銘柄10選を紹介します。【暗号資産関連銘柄】COIN・MSTR7月末に開催された「ビットコイン2024」カンファレンスにて、トランプ大統領はアメリカを地球上の仮想通貨の首都にし、「戦略的ビットコイン準備金(SBR)」の立ち上げを示唆しました。暗号資産関連規制が緩和されるとの期待から、米大統領選でトランプ氏勝利後の2週間でビットコインの価格は約40%上昇し、仮想通貨関連銘柄も急騰しました。米国を拠点とする暗号資産取引所コインベース・グローバル(COIN)の株価は直近1ヶ月で約65%上昇。ビットコインを購入する会社として広く知られる、マイクロストラテジー(MSTR)の株価は約58%上昇しています。その他注目のビットコイン・暗号資産(仮想通貨)関連株については過去の記事でも解説していますので、関心のある方はあわせてご覧ください。【銀行関連銘柄】GS・JPMトランプ政権での金融規制緩和と金利上昇の見方から、銀行の純利息収入が増加するとの期待が強く、銀行株の上昇を後押ししています。ゴールドマン・サックス(GS)の株価は直近1ヶ月で約17.5%上昇。 JPモルガン・チェース(JPM)の株価は約12%上昇し、史上最高値を更新しています。直近では、バイデン政権が掲げてきた反トラスト法(独占禁止法)の規制が緩和される可能性も報道されており、運用緩和が実現した場合、M&A(企業の合併・買収)が活性化し、投資銀行をはじめとするM&A関連銘柄には追い風となります。【ハイテク・工業関連銘柄】TSLA・CAT・RTX大統領選挙でトランプ氏を支援し、トランプ次期政権の「政府効率化省(DOGE)」のトップに就任するイーロン・マスク氏のテスラ(TSLA)は直近1ヶ月で約38%上昇。トランプ氏がEV購入に対する補助金の削減や関税の引き上げを実施すれば、テスラは競争から守られるだろうとアナリストらは指摘しています。また規制緩和と保護関税の見通しが工業株の上昇を後押ししています。産業用機械メーカーキャタピラー(CAT)は直近1ヶ月で約8%上昇。中国市場へのエクスポージャーが限定的であり、国内生産への注力から恩恵を享受する見通しです。同盟国に安全保障政策の負担を求めるとの見方から、防衛株へも資金が流れ込んでいます。地対空ミサイル「Patriot(パトリオット)」、巡航ミサイル「Tomahawk(トマホーク)」などを手掛る、米大手防衛関連企業RTXコーポレーション(RTX)の株価はトランプ氏の勝利後、上場来最高値を記録しました。【石油・天然ガス関連銘柄】XOM・CVXトランプ氏は石油・天然ガス投資や掘削活動の拡大方針を表明しており、エクソンモービル(XOM)やシェブロン(CVX)などの石油生産会社やガソリン車メーカーも恩恵を受ける可能性があります。一部の市場関係者は、石油業界の規制緩和は供給過剰を引き起こし、原油価格を下落させるリスクがあると警告していますが、政策の変更が実際のエネルギー需給に影響を及ぼすには、数年単位の年月を要します。一方で、トランプ氏がイランへの制裁を強化することで、短期的には供給減少で原油価格が急伸する可能性も指摘されています。【小型株】IWM法人税減税や中小企業に対する規制緩和が近づいているとの楽観的な見方を反映し、小型株指数ラッセル2000(IWM)は直近1ヶ月で約10%の上昇となっています。 これらの企業は収益の多くを米国国内で上げているため、保護主義の高まりからも恩恵を受ける可能性が高く、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ観測も追い風となると予想されています。トランプ銘柄にワンタップで簡単投資?ブルーモ証券の提供する投資アプリ「Bloomo」では、米国株・ETFを組み合わせたポートフォリオで簡単に投資することが可能です。今回紹介したトランプ政権で株価上昇の恩恵が期待される10銘柄から構成された「トランプトレード」ポートフォリオをワンタップでコピーし投資を始めることができ、そこから変更を加えてオリジナルのポートフォリオの作成も可能です。投資信託と同様に日本円を入金するだけで投資ができ、自分でやると面倒なリバランスもワンタップで実行できるので、投資信託に興味がありつつも、自分でも中身をいじりたい方にはおすすめできます。