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ヘッジファンド利益番付首位TCIとは?投資戦略と最新ポートフォリオを解説
2023年にヘッジファンド収益ランキングで世界首位となった、The Children's Investment Fund(TCI)は2025年も好調を維持し、7月18日時点で年初来リターンは20%を超え、S&P 500指数の約3倍のパフォーマンスとなっています。本記事では、同社独自の投資戦略や2025年3月末時点のポートフォリオを解説します。The Children's Investment FundとはTCIは、2003年にクリストファー・ホーン卿によってロンドンで設立されたヘッジファンドです。「株主価値を最大化しつつ、その利益で子どもたちの未来を救う」という理念のもと、ファンダメンタル分析、バリュー投資、そしてアクティビズムを融合させながら、毎年利益の多くを世界の子どもたちの支援に還元しています。TCIの収益の多くは「チルドレンズ・インベストメント・ファンド財団(CIFF)」に自動的に寄付され、現在CIFFは資産規模84億ドル(約1.2兆円)を誇る世界最大級の児童支援財団となっています。集中投資と戦略的アクティビスムTCIは2013〜2024年にかけて平均年率リターン17%という実績を誇り、S&P 500のほぼ2倍の成績を維持しています。同社は、持続可能な収益性と競争優位性を備えた少数銘柄に集中投資し、中長期的に保有することで安定したリターンを得ています。WhaleWisdomによると、TCIの平均保有期間は約5.8年と非常に長く、四半期ごとの回転率も低水準となっています。一方で、TCIは企業の経営に対し積極的な関与も辞さず、「物言う株主」としても存在感を示しています。直近では、スペインの通信会社セルネックス・テレコムで取締役会の刷新を求めたほか、グーグルの親会社であるアルファベットに対しても、自社株買いや人員削減を要求した実績があります。また、TCIは株式だけでなく不動産融資ファンドも運用しています。主に北米や欧州の一等地における第一順位抵当権付きシニアローンに投資し、CIFFと連携する形で安定したキャッシュフローと高い担保価値を追求しています。この不動産部門は、TCIの「安全・品質・長期的価値重視」という投資信条を反映しています。TCIのポートフォリオ5月15日に米証券取引委員会(SEC)に提出された報告書「フォーム13F」によると、2025年3月末時点でTCIは434億ドル(約6.5兆円)を10銘柄に集中投資しており、上位5銘柄だけで総額の約76%を占めています。保有銘柄ゼネラル・エレクトリック(GE) : 21.95%マイクロソフト(MSFT) : 14.97%ムーディーズ(MCO): 14.13%ビザ(V) : 13.44%S&P グローバル(SPGI): 12.14%カナディアン パシフィック カンザス シティ(CP): 8.89%カナディアン・ナショナル鉄道(CNI): 6.04%アルファベット クラスC株(GOOG): 4.99%フェロビアル(FER): 1.99%アルファベット クラスA株(GOOGL): 1.46%GE エアロスペースとマイクロソフトのポジションが増加2025年第1四半期に、TCIが購入した銘柄はGE エアロスペースとマイクロソフトのみであり、7月18日時点でGE エアロスペースの株価は年初来54%上昇、マイクロソフトの株価も年初来22%上昇し、この2銘柄のリターンはポートフォリオ全体の成績向上に大きく貢献しました。GE エアロスペースは民間および軍事用のジェットエンジンや電子機器を製造しており、革新的な技術と高い品質から航空機エンジンメーカーとして確固たる地位を築いています。昨年、GEからヘルスケア部門、エネルギー部門が分社化し、スピンオフされました。一方、ムーディーズやビザ、S&Pグローバル、カナディアン・ナショナル鉄道の銘柄では、若干利益確定の売りが見られました。アルファベットは大幅な売りが見られ、リバランスが示唆されています。カナディアン・パシフィックとフェロビアルのポジションは維持されました。著名投資家のポートフォリオを簡単コピー?ブルーモ証券では、2025年3月末時点でのTCIのポートフォリオをもとに、同様の構成銘柄・投資比率で投資を始められるサービスを提供しています。ウォーレン・バフェット氏など他の著名投資家の最新ポートフォリオも閲覧、カスタマイズ可能。気に入った銘柄構成をベースに、自分好みのポートフォリオを簡単に作成できます。
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【スリーエム決算(2025年2Q)】分社後の収益力と訴訟対応の進捗を問う四半期(3M)
本記事では、スリーエム(MMM)の2025年4月発表2025年度第1四半期決算を振り返り、7月に控える2025年度第2四半期決算の見どころを解説します。今回の決算は、長年の重荷であったPFASおよび耳栓訴訟のコスト処理が一巡しつつある一方で、再編に伴うコストや構造改革の進捗、産業需要の底打ちなど、同時多発的に重要テーマを抱える局面です。株価は7月10日に159.47ドルと52週高値を更新したばかりであり、今後の上値余地と下振れリスクを見極めるうえで、今回の決算は個人投資家にとって重要な分岐点となります。前回決算のハイライト2025年4月に発表された第1四半期決算は、総じて良好な内容でした。売上高は約60億ドルと、前年同期比では小幅な減少となりましたが、市場予想をわずかに上回る結果となっています。一方、調整後1株利益(EPS)は1.88ドルと、前年に比べて約10%の増益を達成し、アナリスト予想の1.77ドルをしっかりと上回りました。営業利益率の改善も顕著で、前年より220ベーシスポイントの上昇となり、事業運営の効率性が向上していることが数字に表れました。しかしながら、明るい業績の陰で見過ごせなかったのが、米中貿易摩擦によるコスト増です。この影響を織り込む形で、経営陣は通期のEPS予想を従来よりも引き下げ、7.60〜7.90ドルのレンジに修正しました。このガイダンスの下方修正は、好決算にもかかわらず株価にマイナスの影響を及ぼし、発表後は一時的な下落を招いています。決算後に見られた主要な動き第1四半期決算以降、スリーエムを取り巻く状況にはいくつかの大きな変化がありました。中でも注目すべきは、長年の経営リスクとされてきたPFAS(有機フッ素化合物)問題と耳栓訴訟への対応です。5月には、ニュージャージー州とのPFAS関連訴訟において最大4.5億ドルの和解に至り、同様の訴訟リスクを大幅に圧縮する道筋が示されました。また、2023年に合意された耳栓訴訟の包括和解についても、今年5月時点で60億ドル中の約半額が既に支払われるなど、将来不確実性の解消に向けた取り組みが着実に進んでいます。財務面では、5月の配当発表で1株あたり0.73ドルの四半期配当が維持され、安定的な株主還元姿勢も確認されました。利回りは現在約1.9%で推移しており、長期保有を志向する投資家にとっては一定の魅力を保っています。今回決算の注目ポイント今回の第2四半期決算では、まず売上と利益率の動向が市場の関心を集めています。引き続き関税コストの増加が懸念される中で、オーガニックな売上成長を維持できるかが焦点です。現在の市場予想ではEPSは1.77ドル前後と見込まれており、この水準を達成できるかが株価の初動に影響を及ぼすと考えられます。さらに注目されるのが、前回引き下げられた通期ガイダンスの再修正が行われるかどうかという点です。PFASや耳栓関連での和解金の支払いが一巡した後も、訴訟に伴う支出が継続する可能性はあり、それがフリーキャッシュフローや将来の配当政策にどう響くかを見極める必要があります。また、昨年のSolventumのスピンオフによって収益構造が変化した現在、残された事業セグメント(特にセーフティ&インダストリアル部門など)がどのような成長戦略を打ち出してくるのかも重要なポイントです。経営陣が示す方向性と、その実現に向けた具体的な取り組みの内容次第では、企業価値の再評価につながる可能性もあります。株価への影響と投資家への示唆スリーエムの株価は、年初からの法的リスクの軽減と事業再編の進展を背景に一時回復基調を見せましたが、足元では160ドル前後での推移が続いています。今回の決算で収益性が予想以上に維持され、かつ通期ガイダンスにポジティブな見通しが示されれば、市場は一段の上昇余地を意識することになるでしょう。株価収益率(PER)で見た場合も、現在の水準はディフェンシブ銘柄としてはやや割安感があると評価されています。一方で、売上の鈍化や関税コストの増加が利益を圧迫し、通期見通しのさらなる下方修正に繋がるようであれば、株価は150ドルを割り込む展開もあり得ます。個人投資家としては、決算発表直後の株価の動きに加え、機関投資家の売買動向にも注目しつつ、戦略的なポジション調整を考えるタイミングと言えるでしょう。
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【アメリカン・エキスプレス決算(2025年2Q)】富裕層消費と信用リスクの均衡を問う決算(American Express)
本記事では、アメリカン・エキスプレス(AXP)の2025年4月発表2025年度第1四半期決算を振り返り、7月に控える2025年度第2四半期決算の見どころを解説します。過去1年で株価は40%以上上昇しており、富裕層や若年層の旅行・エンタメ支出の恩恵を強く受けてきました。前回決算では過去最高水準の純利益を記録し、今期もその勢いを保てるかが問われる局面です。一方で、金利高止まりや米国内経済の減速観測が強まるなか、カード利用の鈍化や与信費用の増加といったリスク要因も市場は慎重に見ています。前回決算の振り返りアメリカン・エキスプレスが発表した2025年第1四半期(1〜3月期)決算では、売上高が約170億ドルと前年同期比で8%の増加となり、純利益は26億ドル、1株当たり利益(EPS)は3.64ドルと、前年を上回る水準でした。特に旅行やエンタメ関連の支出が活発だったことで、総取扱高は前年同期比で8%増加しました。ミレニアル世代や富裕層を中心とするカード会員の利用が堅調で、高単価な支出が全体を押し上げた格好です。信用リスクの面でも安定感がありました。30日超の延滞率は1.3%、ネットチャージオフ率は2.1%と前四半期とほぼ変わらず、貸倒引当金も前年を下回る水準で済んでいます。経営陣は2025年通期のガイダンスを据え置き、売上成長8〜10%、EPS15〜15.5ドルを達成可能とする強気な見通しを維持しました。決算後の動きと注目材料第1四半期決算以降、アメリカン・エキスプレスは株主還元をさらに強化しています。5月支払い分から四半期配当を1株あたり0.70ドルから0.82ドルに引き上げ、年間ベースで約17%の増配となりました。さらに、4月以降の自社株買いはすでに15億ドルを超えており、潤沢なフリーキャッシュフローを背景にした資本政策が継続されています。カード利用の実勢も堅調です。特に海外旅行や高額な体験型消費が引き続き活発で、第2四半期における総取扱高も前年同期比で8〜10%程度の伸びが予想されます。一方で、件数ベースでの伸びが鈍化している兆しもあり、価格ベースの増加が支出全体を押し上げている構図も見られます。サービスの拡充も進められており、アメリカン・エキスプレスは中小企業(SMB)向けのビジネス・チェック口座の提供範囲を広げています。さらに、デルタ航空との提携を強化し、提携カード会員に対して新しい予約システム(NDC)を導入予定で、航空関連の利用をいっそう促進する施策にも取り組んでいます。今回決算の注目点今回発表される第2四半期決算では、EPSが3.85~3.87ドル、売上高は177億ドル前後とする市場予想が中心です。中でも最も注目されるのは、旅行旺盛期である第2四半期において、アメリカン・エキスプレスの取扱高がどの程度伸びたかという点です。もし前年比で2桁増が維持できれば、通期ガイダンスの上方修正が現実味を帯びてくる可能性があります。また、信用リスクの推移にも目を光らせる必要があります。現在のところ、延滞率や貸倒率は安定していますが、S&Pなどの格付機関は2025年後半にかけて米国のクレジットカード損失がじわじわと上昇すると見ています。アメリカン・エキスプレスがこの傾向からどの程度影響を受けるかは、今後のプロビジョン(引当金)動向に表れます。加えて、営業費用の動きも業績を左右します。前期はマーケティング支出やIT投資が増加し、営業費用率がやや上昇しました。今期も中小企業向けサービスやデジタル基盤の強化にともなう費用増が予想されており、収益性への影響が注視されます。さらに、経営陣が2025年通期のガイダンスを維持または引き上げるかどうかが、株価の方向性を決定づける材料となるでしょう。フリーキャッシュフローが堅調であれば、今後の増配や追加の自社株買いといった株主還元余地もさらに広がります。株価の現状と投資判断の視点アメリカン・エキスプレスの株価は7月10日時点で320ドル台となっており、年初来高値である329ドル台に迫る水準で推移しています。PERはおよそ22倍と、過去5年平均に近い水準です。これまでの上昇が業績好調を織り込んできたことを考えると、今回の決算が市場予想を上回れば340ドル超えも視野に入ります。一方で、カード利用の伸びが頭打ちとなった場合や、信用費用の想定以上の増加が確認された場合には、短期的な調整リスクも否定できません。まとめ2025年7月のアメリカン・エキスプレス決算は、旺盛な富裕層消費が続くなかで収益拡大と信用リスク管理の両立ができているかを確認する重要なタイミングとなります。取扱高が前年を上回り、信用指標が安定していれば、通期見通しの上振れ期待が強まり、株価の一段高につながる可能性もあります。逆に、取扱件数の鈍化や引当金の増加といった弱材料が出た場合は、利益確定売りのきっかけとなる可能性もあります。個人投資家としては、アメリカン・エキスプレスの成長性とリスク管理のバランス、特に高所得層を対象にしたビジネスモデルの強みがどこまで利益の安定性を支えているかを慎重に見極める必要があります。また、配当や自社株買いといった還元政策が持続可能かどうかも、中長期投資の判断材料として重要な視点となるでしょう。
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【ペプシコ決算(2025年2Q)】値上げ頼みから需要回復への転換点を探る(PepsiCo)
本記事では、ペプシコ(PEP)の2025年4月発表2025年度第1四半期決算を振り返り、7月に控える2025年度第2四半期決算の見どころを解説します。株価は年初来で軟調な推移を続けるなか、今回の決算は「値上げ頼み」から「数量回復」へと局面が移行できるかを占う重要な節目となります。前回決算の振り返りペプシコが発表した2025年1~3月期決算では、売上高が179億ドル、調整後1株利益(EPS)が1.48ドルとなり、いずれも市場予想を上回る結果でした。特に価格改定が利益を押し上げたことが大きく、北米飲料部門では価格が8%上昇し、全体の収益に寄与しました。しかし、北米飲料の出荷数量が3%減、食品部門が1%減となり、数量面の弱さが明らかになりました。スナック分野においても、フリトレー北米の成長率はわずか1%にとどまり、同社CEOのラグアルタ氏は「消費者のスナック需要が想定よりも早く鈍化している」と語っています。営業利益率はコスト削減策の効果で前年同期から70ベーシスポイント改善したものの、為替の逆風や価格弾力性の低下を考慮して通期のEPSガイダンスは7.86ドルへ引き下げられました。4月以降の主な動き決算後、ペプシコは株主還元姿勢を一段と強めました。2月には四半期配当を1株あたり1.355ドルへと約7%増配し、連続増配年数を53年に更新しました。3月には1億8,300万ドル規模の自社株買いも実施し、年間の買い戻し総額は20億ドルを超える規模に拡大しています。また、近年市場で話題となっているGLP-1系の減量薬(例:オゼンピックなど)による食品・飲料需要の減退懸念について、同社は「現時点で業績への影響は見られない」としています。ただし、リテールデータ上では小容量パッケージの売上比率が上昇しており、健康志向に応じた「ポーションコントロール」への戦略転換が始まっていることも確認されています。一方で、飲料・スナックの価格は年初に再び引き上げられており、特に北米では平均価格の上昇が継続しています。この価格戦略がどこまで消費者に受け入れられるかは、今後の需要回復に直結するため、重要な判断材料となります。今回の決算で見ておくべきポイント今回発表される第2四半期決算では、アナリストの予想として売上高が222~224億ドル、調整後EPSは2.03~2.04ドルが想定されています。市場の関心はまず、米国における飲料・スナックの販売数量が底入れしたかどうかに向けられています。年初から展開している広告キャンペーンや新商品の投入が奏功し、数量が回復傾向を示せば、投資家心理にプラス材料となるでしょう。また、ARPU(1人あたり平均売上)の動向にも注目です。年初の価格引き上げの効果が持続していれば、数量が横ばいでも収益が伸びる可能性がありますが、仮に価格が限界に達して消費者離れが進んでいるようであれば、今後の成長シナリオに不安が生じます。原材料コストや物流費の動向も利益率に大きく影響します。昨年高騰したPET樹脂や燃料価格は現在落ち着きを取り戻しており、これらのコストが下がっている場合、粗利益の改善要因として働く可能性があります。経営陣がどのようなコスト見通しを示すかにも注目が集まります。さらに、株主還元の原資となるフリーキャッシュフロー(FCF)の見通しが修正されるかどうかも評価材料となります。第1四半期の時点でFCFは35億ドルを超えており、もし通期の見通しが引き上げられるようであれば、配当や自社株買いの強化が期待され、株価の支援材料となるでしょう。株価動向と投資判断の視点株価は7月10日時点で136.08ドルとなっており、年初来の高値からはおよそ24%下落した水準にありますが、同業のコカ・コーラに比べるとやや優位なパフォーマンスとなっています。現在のPERは約22倍で、過去5年平均の25倍を下回っており、業績の持ち直しが確認できれば再評価される余地は残っています。逆に、今回の決算で数量回復の兆しが見られなかった場合や、価格弾力性の限界が露呈した場合には、120ドル台前半まで調整する可能性も考えられます。個人投資家としては、今後の投資スタンスを「インカム重視(配当)」とするか、「キャピタルゲイン狙い(株価上昇)」とするかを明確にしたうえで、数量・価格・コスト・キャッシュフローのバランスを冷静に見極める必要があります。まとめペプシコの今期決算は、ここ数年続いてきた価格主導の成長が一巡し、実需ベースでの回復に転じるきっかけとなるかを見極めるうえで非常に重要です。販売数量の底打ち、原材料コストの減少、株主還元の持続性が確認できれば、株価は再び150ドルを目指す動きが見込めます。一方で、数量が戻らず値上げの余地も限られる場合は、しばらくもみ合いの展開が続く可能性もあります。個人投資家としては、業績が景気動向に左右されにくい消費財株であるペプシコの安定感を評価しつつも、足元の需要環境やコスト構造、成長投資の配分に目を配りながら、自身の投資目的に合ったスタンスで臨むことが求められます。
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【ネットフリックス決算(2025年2Q)】広告拡大とスポーツ投資の成果を見極める(Netflix)
本記事では、ネットフリックス(NFLX)の2025年4月発表2025年度第1四半期決算を振り返り、7月に控える2025年度第2四半期決算の見どころを解説します。株価はすでに過去1年で88%近く上昇しており、今回の決算では非常に高い期待が織り込まれた状況の中での発表となります。注目されるのは、広告付きプランの拡大とパスワード共有制限が引き続き実を結んでいるか、そしてスポーツ分野への多額の投資が財務面にどう影響しているかです。前回決算の振り返り2025年1〜3月期に発表されたネットフリックスの決算は、市場の期待を上回る内容となりました。売上は105億ドルに達し、前年同期比で約13%の増加を記録しました。純利益も大幅に増加し、28.9億ドルと前年同期比で24%増となりました。調整後EPSは6.61ドルとなり、これもアナリスト予想を大きく上回りました。最大の要因は、有料会員数の大幅な伸びです。2025年1~3月期の全世界有料会員数は外部推計で約1,900万純増と見られています。背景には、世界的に進められているパスワード共有制限の浸透があります。加えて、新規加入者の過半数が広告付きプランを選択するなど、価格帯の多様化と収益モデルの転換が進展したことも貢献しました。4月以降の主な動き直近3か月で、ネットフリックスは事業領域の拡張と収益構造の多様化にさらに踏み込んでいます。最も象徴的なのは、ライブ・スポーツ分野への本格的な参入です。1月に発表されたWWE「Monday Night RAW」の独占配信契約は、10年間で約50億ドルという大型契約であり、2025年以降のグローバル戦略の柱と位置づけられています。加えて、NASCARやNBAに関連したドキュメンタリーなど、スポーツコンテンツの拡充にも力を入れており、映像ジャンルの多角化が加速しています。一方で、値上げも段階的に進めています。1月から3月にかけて、北米や中南米の一部プランにおいて価格が引き上げられました。この施策は1加入者あたり売上(ARPU)の押し上げを狙ったもので、全体の収益力向上に寄与する見込みです。広告事業についても進展がありました。ネットフリックスは「Ads Suite」と呼ばれる広告プラットフォームを立ち上げ、データパートナーシップを通じてターゲティングの精度を高め、広告在庫の販売量を拡大しています。会社側は2025年通期の広告収入について「前年の倍近くまで伸ばす見通し」と説明しています。今回決算で注目されるポイント今回の決算でまず注視されるのは、会員数の純増動向です。アナリスト予想では純増が約1,300万人とされており、総会員数は3億人を突破するかがひとつの節目となります。特に北米市場での離脱率、南米市場での値上げ影響、アジア地域での広告付きプランの広がりといった地域別の動きも見逃せません。次に、広告付きプランによるARPUの改善がどこまで進んでいるかも重要です。広告付きプランの加入者数はすでに9,400万人を超えており、広告収入の成長がEPSや営業マージンにどう寄与しているかが問われます。また、ライブ・スポーツへの投資の会計処理が今期の業績にどう反映されているかも注目されるところです。WWEなどの権利取得には前払費用が伴うため、それらが売上原価として計上されるタイミングや割合によっては、短期的な利益率に影響を及ぼす可能性があります。会社側はこの投資について「広告収入と国際配信を通じて十分回収可能」と説明していますが、決算における具体的な数字の裏付けが求められるでしょう。さらに、フリーキャッシュフロー(FCF)とガイダンスの修正にも目を向ける必要があります。前回時点でのFCFは28億ドルで、前年同期比で60%以上の増加となっていました。今回の決算で通期のFCF見通しが引き上げられるようであれば、株主還元余力に対する期待も高まります。株価動向と投資家への視点株価は2025年7月10日時点で1,280.85ドルと、過去1年で約88%、年初来で45%上昇しています。PERは38倍前後と過去平均をやや上回る水準にあり、すでに高い成長期待が織り込まれています。今回の決算で、加入者数や広告事業、キャッシュフローのいずれかでも期待を下回る結果となれば、調整圧力が一時的に強まる可能性もあります。とはいえ、広告とライブコンテンツによる収益源の拡張が軌道に乗るようであれば、長期的には評価がさらに高まる余地も残されています。特に動画配信市場が成熟に向かう中で、ネットフリックスがどれだけ収益モデルを多角化しつつ利益を伸ばしていけるかが問われる局面にあります。まとめ今回のネットフリックス決算では、加入者数の拡大、広告付きプランの収益性、スポーツコンテンツへの投資とその採算性、フリーキャッシュフローの推移という4つの視点から判断が下されることになります。それぞれが期待通りの進展を見せるかどうかが、短期的な株価の方向性を大きく左右するでしょう。個人投資家としては、短期のボラティリティには注意を払いながら、中長期的には広告モデルの拡張やコンテンツ多様化によってどこまで持続的な利益成長が見込めるかを見極める姿勢が求められます。広告主、視聴者、株主の三者をバランスよく取り込むビジネスモデルが確立できれば、ネットフリックスは依然として成長企業としての魅力を維持する可能性が高いといえるでしょう。
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【GEエアロスペース決算(2025年2Q)】エンジン供給と投資の成果が問われる局面(GE Aerospace)
本記事では、GEエアロスペース(GE)の2025年4月発表2025年度第1四半期決算を振り返り、7月に控える2025年度第2四半期決算の見どころを解説します。株価はすでに過去1年で50%以上上昇しており、市場の期待感が高まる中での発表となります。今回の決算は、エンジン出荷の正常化と新規受注の進展、供給網への投資がどのような成果を上げているかを測る重要なタイミングとなります。前回決算の振り返りGEエアロスペースが発表した2025年1〜3月期決算は、商用サービスの好調を背景に力強い内容となりました。売上高は99億ドルと前年同期比で2桁の伸びを示し、調整後1株利益(EPS)は1.49ドルと市場予想を大きく上回りました。特に商用エンジンのサービス収入が17%増えたことが全体の業績を牽引しました。また、防衛関連の事業も堅調で、前年より5%増加しています。受注面でも明るい兆しが見られ、期中の新規受注は123億ドル、期末の受注残は過去最高水準に達しました。とはいえ、LEAPエンジンの供給には引き続き制約が残っています。耐久性向上のための改修作業が継続していた影響もあり、供給体制の再構築が喫緊の課題であることが改めて浮き彫りになりました。決算後の主要な動き4月以降、GEエアロスペースは積極的な投資と受注拡大を進めてきました。まず、3月に発表された米国内のサプライチェーン強化に向けた10億ドルの投資計画が具体化しつつあり、5,000人規模の雇用創出と設備増強が始まっています。LEAPエンジンの増産体制整備がその中心に据えられています。技術開発の面では、次世代エンジン「RISE」プログラムの開発が進んでおり、テストの規模や頻度も拡大。2030年代の商用投入を目指し、研究開発体制が強化されています。一方で、部品不足や人手不足など、供給網に対するプレッシャーも続いています。同社はデジタル管理ツール「FLIGHT DECK」を活用して優先サプライヤーへの投入材供給を8%増やすなど、生産効率の改善に取り組んでいます。今回決算で注目されるポイント今回の決算では、アナリスト予想として売上が約103億ドル、EPSが1.62〜1.68ドルとされており、前回を上回る内容が期待されています。まず注目されるのは、LEAPエンジンの出荷がどの程度回復しているかという点です。耐久性改修による遅延が峠を越えつつあるとすれば、供給能力の正常化が見えてきます。エアバスA320neoやボーイング737MAXの生産拡大計画にも直結するため、同社にとっては信頼回復の要です。次に重要なのが、商用サービス部門の収益性です。世界的に航空旅客需要が高水準で推移する中、エンジン整備やスペアパーツへの需要が高まっており、同部門のマージン改善が続くかが注視されます。会社側は引き続き2桁成長が可能だとしていますが、今回の決算でそれが裏付けられるかが注目されます。さらに、研究開発や生産投資が利益率にどう影響しているかも焦点です。RISEやハイブリッド電動推進技術、Catalystターボプロップなど次世代技術への投資が進む一方で、これらがどの程度コストとして計上されているかによって利益構造が大きく左右されます。最後に、通期業績見通しの修正があるかどうかも大きな注目点です。現時点で商用・サービス部門の売上高は「10%台半ばの成長」、フリーキャッシュフローは大幅な増加が見込まれており、いずれも維持または上方修正されるかが株主の判断材料になります。株価動向と投資家への視点7月9日時点でGEエアロスペースの株価は249.91ドルとなり、過去1年間で40%以上の大幅上昇を記録しています。4月につけた280ドル台後半の上場来高値が意識される水準にあり、今期決算が市場予想を上回る内容となれば、高値更新への期待も高まります。一方で、供給制約の長期化や生産体制の改善が想定ほど進んでいないことが明らかになれば、一時的に230ドル台前半の200日移動平均線を意識した調整局面も想定されます。決算発表後には、同社が進める供給網改善策の進捗状況や、キャッシュ創出力の見通しについてのコメントにも注目が集まるでしょう。まとめ今回のGEエアロスペースの決算は、供給網の改善が本格化しているか、そして成長投資が実際の利益拡大につながっているかを見極めるうえで非常に重要なタイミングです。LEAPエンジンの出荷回復、商用サービス部門の収益性、次世代技術への投資とその費用対効果、そしてフリーキャッシュフローと株主還元の余力という複数の視点が交差する中、ポジティブなサプライズがそろえば株価は300ドル台を視野に入れることになるでしょう。個人投資家としては、短期の株価変動に備えるとともに、航空機需要の中長期トレンドとGEの技術競争力、製造体制強化の進捗に注目しながら、冷静な投資判断を心掛けることが大切です。
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【ゴールドマン・サックス決算(2025年2Q)】増収基調と株主還元強化のバランスをどう読むか(Goldman Sachs)
本記事では、ゴールドマン・サックス(GS)の2025年4月発表2025年度第1四半期決算を振り返り、7月に控える2025年度第2四半期決算の見どころを解説します。同行の株価は7月9日時点で696.36ドルと52週高値圏にあり、決算内容が期待を上回れば上場来高値の更新も視野に入ります。前回決算の総括4月14日に発表された2025年1〜3月期決算では、純収入が150億6,000万ドル、純利益が47億3,800万ドルに達し、希薄化後1株利益(EPS)は14.12ドルへ伸長しました。自己資本利益率(ROE)は16.9%と、グローバル投資銀行の中でも高い水準を確保しています。部門別では株式トレーディングが想定を上回る収益を上げ、資産運用ビジネスでも堅調な資金流入が続いています。結果として決算発表直後の株価は2.2%上昇し、市場は収益力の底堅さを素直に評価しました。4月以降の主なトピック決算後の最大イベントは、6月末に公表された米連邦準備制度理事会(FRB)のストレステストです。ゴールドマン・サックスは十分な資本余力を示し、配当増額と大規模自社株買いの再開を発表し、株主還元姿勢を一段と強化しています。ストレステストに合格した大手行が揃って還元を拡大するなかでも、ゴールドマン・サックスは配当増額率の大きさが際立ちました 。事業面では投資銀行部門の巻き返しが注目です。大型M&A案件の受託件数は増加しており、アドバイザリーの案件残高は厚みを増していると報じられています。一方、経営の効率化を掲げる「Project Voyage」の一環として、VP層を中心に約2,000人規模のリストラを進める計画も浮上しており、非利息経費の削減がどこまで進むかが注目されています。今回決算で注目すべきポイント第一の論点は投資銀行収益の回復度合いです。リフィニティブによる市場予想では、今期の手数料収入が前年同期比で二桁台の増加に転じる見通しとされています。CEOのデイビッド・ソロモン氏は「2025年は資本市場が活気づく年になる」と繰り返し語っており、その言葉が数字で裏付けられるかが試金石になります。二点目はグローバルマーケッツ部門、特に株式トレーディングの持続力です。前期はボラティリティを巧みに収益化しましたが、4〜6月期も同じ勢いを維持できるかは株価感応度が高いでしょう。債券・為替を含む FICC 収益の方向感にも注目です。三点目は資産運用ビジネスへの純流入です。ブルームバーグなどはゴールドマン・サックスを「一貫して資金純流入を確保するリーダー」と位置付けますが、四半期ベースでもプラスを維持できれば手数料収入の底上げにつながるでしょう。四点目はコスト削減の成果です。Project Voyage に伴うリストラ費用計上が一巡し、非利息経費が減少して経費率(効率化率)が70%を下回れば、利益率押し上げ要因としてポジティブに映るでしょう。最後に資本政策です。配当増額の実施とともに、自社株買い枠の消化ペースが明らかになれば、株価の下値を支える効果が期待できます。アナリストは配当と買い戻しを合算した総還元利回りを4%前後と試算しており、米国金融セクターでは魅力度が高いでしょう。株価動向と投資判断ゴールドマン・サックス株は年初来で約23%上昇し、現在は予想PER16倍程度で取引されています。投資銀行手数料の大幅な伸びとトレーディング収益の維持が確認できれば、52週高値700ドル台前半を超え、700ドル台半ばへの上昇が見込まれます。一方で、手数料収入の回復が弱かったりリストラ費用が再び膨らんだ場合は、200日移動平均線のある650ドル台への調整リスクも無視できないでしょう。まとめ今回の決算では「①投資銀行手数料の伸展度合い」「②マーケット部門の持続的な稼ぐ力」「③資産運用への継続的な資金流入」「④Project Voyage によるコスト効率化」「⑤増配と自社株買いを軸とする資本還元」という五つのポイントが鍵となります。これらが総じてポジティブサプライズとなれば、株価は高値を更新しやすい地合いとなりますが、期待値が高いだけに失望要因が出れば下振れ反応も速いでしょう。個人投資家は短期では決算後の値動きを慎重に見極めつつ、長期では高いROEと厚い株主還元を評価してポートフォリオに組み込むかどうかを判断すると良いでしょう。
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【モルガン・スタンレー決算(2025年2Q)】投資銀行復調と資産運用が株価の鍵に(Morgan Stanley)
本記事では、モルガン・スタンレー(MS)の2025年4月発表2025年度第1四半期決算を振り返り、7月に控える2025年度第2四半期決算の見どころを解説します。株価が 52 週高値 145 ドルに迫るなか、市場は EPS を2.01ドル前後、売上高を160~161億ドルと予想し、投資銀行収益の持ち直しとウェルスマネジメント部門への資産流入がどこまで上積みされるかに大きな関心が寄せられています。前回決算の総括2025 年 1~3 月期にモルガン・スタンレーは純収入 177 億ドル、純利益 43 億ドル、EPS 2.60 ドルを計上し、いずれも市場予想を超えました。株式トレーディング収益が 41 億ドルと過去最高を更新したほか、債券・為替収益(FICC)も 5%増と底堅かったことが寄与しています。ウェルスマネジメント部門ではネット資産流入が 940 億ドルと堅調で、総顧客資産は 7.7 兆ドルへ拡大しました。もっとも、人員削減に絡む 1 億 4,400 万ドルの一時費用を計上したものの、経費率は 68%へ改善し、有形株主資本利益率(ROTCE)は 23%に達するなど高い収益性を維持しました。4 月以降の主なトピック決算後、最も大きなニュースは米連邦準備制度理事会(FRB)のストレステストを通過したことです。この結果を踏まえ、モルガン・スタンレーは四半期配当を 1 株 1.00 ドルへ引き上げ、新たに総額 200 億ドルの自社株買い枠を再承認しました。資本政策の強気姿勢は株価の下支え要因と受け止められています。経営面では 1 月に就任したテッド・ピック CEO が取締役会長も兼務し、ガバナンス体制の移行が完了しました。コスト面では約 2,000 人規模の人員再配置が報じられ、今後の費用削減効果が注目されています。また、金利が落ち着きを見せる一方、株式市場のボラティリティが高止まりしたことで、投資銀行案件のパイプラインは着実に拡大していると伝えられています。今回決算で押さえるべきポイントまず焦点となるのは投資銀行部門の収益です。ロンドン証券取引所グループ(LSEG)の集計によれば、モルガン・スタンレーの第 2 四半期投資銀行手数料は前年同期比で 2 桁増へ転じるとの予想が示されています。M&A や株式引受の案件が進捗している場合、ガイダンス上振れの可能性が意識されるでしょう。次に、マーケット部門の持続性です。株式・債券のトレーディング収益が前四半期の勢いを維持できるかは、株価感応度の高い要素です。もしボラティリティ環境を生かし切れずに失速するようなら、短期的な調整リスクが高まります。三つ目はウェルスマネジメント部門の資産流入です。1~3月期に 940 億ドルを記録したネット・ニューアセットが加速すれば、手数料収入の増額とともに投資家から高評価を得る可能性があります。四つ目は経費動向です。前期に計上したリストラ費用が剥落し、効率化率が 70%台前半に改善するかどうかが利益率を左右します。最後に資本還元ペースも見逃せません。自社株買いの具体的な進捗が示されれば、株価の下支え材料となるでしょう。株価へのインパクトと投資家への示唆モルガン・スタンレーの株価は年初来で約 30%上昇し、7 月 10 日には 142 ドル台と高値圏で推移しています。予想 PER は 16 倍前後と、S&P500 の金融セクター平均をやや上回りますが、配当と自社株買いを合わせた総還元利回りは 4%程度と見積もられ、割高感を和らげています。今期決算で EPS と売上高がそろってコンセンサスを上回り、投資銀行とウェルスマネジメントの双方で上振れが確認できれば、52 週高値 145 ドルのブレイクアウトも現実味を帯びます。一方、いずれかの部門で失速が見られると市場の期待値が高いだけに失望売りが出やすく、130 ドル台前半の 200 日移動平均線が下値めどになる可能性があります。まとめ個人投資家が今回のモルガン・スタンレー決算で注視すべきテーマは、投資銀行収益の回復度合い、マーケット部門の持続力、ウェルスマネジメントの資産流入、コスト効率の改善、そして増配・自社株買いの実行力です。これらが総じて好結果となれば株価の上昇余地が広がりますが、一部でも期待を下回れば調整局面も想定されるため、決算発表後のマーケットの反応を見極めたうえで投資判断を行うことが望まれます。長期的には、資産運用とグローバルマーケットを両輪とする統合モデルの強みと、安定した資本還元姿勢が魅力であり、金融セクターの中核銘柄としてポートフォリオに組み入れる選択肢となり得るでしょう。
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【ジョンソン・エンド・ジョンソン決算(2025年2Q)】医薬品成長と訴訟リスクに市場の関心集中(Johnson & Johnson)
本記事では、ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)の2025年4月発表2025年度第1四半期決算を振り返り、7月に控える2025年度第2四半期決算の見どころを解説します。前期は売上 218.9 億ドル、調整後 EPS 2.77 ドルと堅調で、通期ガイダンスも引き上げられました。その後は 63 年連続となる増配、14.6 億ドル規模の中枢神経系領域の M&A 完了、手術ロボ「OTTAVA」の初症例、そしてタルク訴訟の再逆転など、材料が入り混じっています。前回決算の振り返り前回の決算では、ジョンソン・エンド・ジョンソンは市場予想を上回る堅調な業績を示しました。売上高は218.9億ドルと前年同期比で2.4%の増加、調整後EPS(一株利益)も2.77ドルと、前年同期を2.2%上回る内容でした。業績を牽引したのは主に医薬品部門で、抗がん剤CARVYKTIや多発性骨髄腫治療薬DARZALEXが大きく貢献しました。また、医療機器(メドテック)部門もABIOMEDの心疾患関連デバイスが好調で、収益成長に貢献しました。しかし、今後の懸念として挙げられたのは、大型薬STELARAの特許失効に伴う収益減少です。特許期限が迫り、価格の引き下げが始まったため、売上成長にマイナスの影響が出始めています。前回の決算は、業績の堅調さを示す一方で、医薬品特許切れというリスクを改めて認識させるものとなりました。決算後の主な動きとニュース5月には、次世代の手術支援ロボット「OTTAVA」の初の臨床症例が成功したことが報告されました。これはメドテック部門の成長期待を高めるニュースとして、市場でも好感されています。また、株主還元の観点では、四半期配当を前年より4.8%引き上げて1株あたり1.30ドルとし、連続増配を63年に更新しました。配当を重視する個人投資家にとって、これはポジティブな動きと言えるでしょう。一方、ネガティブな材料もありました。米国の連邦破産裁判所は、タルク(ベビーパウダー)訴訟をめぐるジョンソン・エンド・ジョンソンの約100億ドル規模の一括和解案を却下し、再び訴訟リスクが高まっています。これにより将来的な損失リスクが意識され、市場では不安が再燃しています。今回決算の注目ポイント市場のコンセンサス予想では、今回のEPSは2.65~2.70ドル、売上高は223~225億ドルとされ、前年同期より小幅ながら成長が見込まれています。特に注目すべきポイントは以下の通りです。まず、医薬品部門の収益の推移が重要です。抗がん剤CARVYKTIなど主力製品が引き続き伸びるか、一方で特許が切れるSTELARAなどの薬価引き下げによる収益減少がどの程度かを確認する必要があります。バイオシミラー(後発品)参入が近いため、投資家は特許切れの影響を慎重に見極めるべきでしょう。次に、メドテック部門における収益の持続性です。心疾患デバイスABIOMEDの販売好調が続いているか、そして手術ロボットOTTAVAの商業化に向けた進展状況が具体的に示されれば、市場から評価されるでしょう。また、タルク訴訟関連の費用や引当金の動向も見逃せません。訴訟費用が予想を上回って発生した場合、短期的には利益を圧迫し、株価のネガティブ材料となる恐れがあります。株価への影響と今後の見通しジョンソン・エンド・ジョンソンの株価は7月9日時点で156.28ドルと、年初来では7%ほど上昇して推移しています。現在の水準は過去1年の高値(約170ドル)を下回っているものの、低値からは大きく回復しています。今回の決算で市場予想を上回る収益成長や医薬品部門の安定性が確認され、タルク訴訟の追加費用がなければ、株価は160ドル台後半に達する可能性があります。一方、予想を下回る内容や訴訟リスクの再燃が顕著になれば、150ドル以下への調整も考えられます。長期的には、安定した配当や事業基盤、そして高い資本力を背景に、株価は一定の底堅さを維持すると考えられますが、医薬品特許切れリスクや訴訟関連の影響には引き続き注意が必要です。まとめと個人投資家としての対応今回のジョンソン・エンド・ジョンソン決算を評価するポイントとして、「医薬品部門の収益成長力」「メドテック部門の進展」「タルク訴訟の費用リスク」「株主還元姿勢」の4つが特に重要です。短期投資の観点では、決算発表直後の株価変動を利用した取引も検討できますが、リスク管理は必須です。一方、中長期的な視点での投資では、安定した配当利回りや景気変動に強い安定性を評価し、ポートフォリオの一部としての位置づけを考えるのも良いでしょう。特許切れや訴訟などのリスクを意識しつつ、配当再投資や段階的な買い増しなどの戦略で、安定性を重視した投資スタイルを心掛けることが望ましいでしょう。
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【バンク・オブ・アメリカ決算(2025年2Q)】金利収入の持続性と資本還元の行方を注視(Bank of America)
本記事では、バンク・オブ・アメリカ(BAC)の2025年4月発表2025年度第1四半期決算を振り返り、7月に控える2025年度第2四半期決算の見どころを解説します。前期は純利益74億ドル・EPS0.90ドルで前年同期比18%増、ネット金利収入(NII)も3%増と底堅さを示しました。その後、FRBストレステスト通過を受けて四半期配当を0.28ドルへ引き上げ、自社株買いも加速すると公表しました。前回決算(2025年1~3月期)のハイライト前回決算において、バンク・オブ・アメリカは前年同期を18%上回る74億ドルの純利益を計上しました。1株あたり利益(EPS)は0.90ドルと市場の予想を上回る好調な内容でした。特に収益の中心であるネット金利収入が前年同期比6%増と好調で、預金総額も約2兆ドルまで拡大するなど、安定した資金調達力を示しました。一方、消費者向けカード部門の貸倒関連費用が増加し、クレジットコストの拡大が懸念材料となりました。経費管理については、営業経費を178億ドルに抑えることで利益率を改善し、自己資本比率(CET1)も11.8%と規制の求める基準を大きく超える堅固な資本体質を示しました。全体としては、収益力の強さとリスク管理のバランスが評価された内容でした。決算後の主なニュース(2025年4月〜7月上旬)前回決算以降の最大のトピックは、6月末に行われた米連邦準備制度理事会(FRB)のストレステストの合格です。このテストにより、バンク・オブ・アメリカに求められる資本バッファが低下したため、7月1日付で四半期配当を0.26ドルから0.28ドルへ約8%増額しました。また、年間自社株買い計画を公式に発表し、積極的な株主還元の姿勢が鮮明になりました。また、米国政府が新たな関税政策を導入したことを背景に、世界的に市場のボラティリティが高まりました。これにより銀行業界のトレーディング収益が増加すると予測され、バンク・オブ・アメリカも恩恵を受けるとの期待が市場で高まっています。一方で、7月から「バーゼルⅢエンドゲーム」と呼ばれる新たな銀行規制が施行され、BofAを含む米国大手銀行の資本コストが増加する可能性があります。これが今後の資本還元策にどう影響するかも、投資家にとって重要な関心事となっています。今回決算(2025年4~6月期)の注目ポイント今回の決算では、市場の事前予想として、EPSが前年同期比微減の0.86ドル、売上高が約268億ドル程度とされています。個人投資家が注目すべき具体的なポイントは主に次の4点です。まず、ネット金利収入(NII)の伸びが持続するかどうかです。市場では前年同期比5~7%程度の増加が予想されていますが、預金コストの増加や融資の伸び悩みにより、成長が鈍化する懸念もあります。ここが予想を上回ると株価にはプラス要因となりますが、下回ればマイナスの影響を与える可能性があります。次に、マーケット(トレーディング)関連収益にも注目です。市場の変動性が増したことで増収が見込まれているほか、投資銀行部門の手数料収入も過去の低迷期から回復が期待されています。こうした収益回復が確認できれば株価の評価にポジティブな影響を与えるでしょう。また、クレジットカード事業の動向は注意が必要です。前回顕在化した貸倒コスト増加がさらに進行すると、短期的にはネガティブ材料となる可能性があります。特に、返済能力が低下しているカード利用者の動向が注目されます。最後に、資本還元策の実行状況も確認すべきポイントです。増配後の配当利回りや自社株買いの進捗スピードが投資家に評価されれば、株価を底堅く支える要因になります。株価への影響と今後の見通しバンク・オブ・アメリカの株価は決算直前の7月10日時点で46.97ドルと年初来高値圏にあり、年初から約6.9%の上昇を記録しています。今回の決算で予想を上回る内容が確認されれば、50ドルを超える水準への回復も期待されます。逆に、ネット金利収入の鈍化やカード事業の貸倒損失が予想以上に拡大すれば、一時的に43〜44ドル付近までの調整も考えられるため、注意が必要です。中長期的には、新規制による資本コスト増加の一方で、FRBによる監督緩和の動きや金利高止まりの環境下での収益性の安定が期待されています。株主還元利回りも高く、割安感もあるため、長期投資としては魅力的な水準ともいえます。まとめと個人投資家としての対応今回のバンク・オブ・アメリカ決算を評価するうえで、「金利収入の継続性」「マーケット収益の回復」「カード貸倒リスク」「資本還元のペース」の4点をしっかりと確認することが重要です。短期的な投資スタンスの場合、決算発表直後の株価変動を利用した取引を検討できますが、変動リスクには注意が必要です。一方、長期的な投資を考える場合、同社の資本還元の積極性や収益の安定性を評価しながら、段階的な買い増しや配当再投資を取り入れ、リスク管理を徹底する投資戦略が有効になるでしょう。バンク・オブ・アメリカの決算内容は米国経済や銀行業界全体の動向を反映する重要な指標です。個人投資家としては、市場の反応や経営陣の説明にも注意を払い、自分の投資スタイルに合った判断を行うことが求められます。
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【シティグループ決算(2025年2Q)】金利収入の継続性とカード貸倒リスクに要注目(Citigroup)
本記事では、シティグループ(C)の2025年4月発表2025年度第1四半期決算を振り返り、7月に控える2025年度第2四半期決算の見どころを解説します。今回の決算では前期の好調な収益を引き継げるかが焦点です。前回決算では金利収入とマーケット部門が業績を押し上げ、EPSは前年同期比21%増の1.96ドルとなりました。一方でカード貸倒費用の増加が懸念材料として浮上しています。前回決算(2025年1〜3月期)の振り返り前回の決算発表でシティグループは市場予想を上回る良好な業績を示しました。純利益は40億6400万ドル、1株あたり利益(EPS)は前年同期比21%増の1.96ドルと、好調な利益成長を記録しました。特に業績を押し上げたのはネット金利収入(NII)とマーケット部門のトレーディング収益です。これらの部門が力強い伸びを見せ、サービス部門においても高水準の収益を達成しました。しかし、好調な収益の一方で懸念材料も浮上しました。それはクレジットカード部門の貸倒費用の増加です。貸倒関連費用は増加傾向にあり、カード部門の貸倒リスクが徐々に高まっていることを示唆しました。決算発表後の主な動きとニュース(2025年4〜7月上旬)前回の決算以降の最も重要な動きは、6月に行われたFRB(米連邦準備制度理事会)のストレステストに合格したことです。この結果、シティグループはストレス資本バッファ(SCB)の要求水準が引き下げられる見通しとなり、規制による自己資本の拘束が緩和されました。この余裕を生かし、四半期配当の増額や自社株買いも進められています。経営面ではジェーン・フレイザーCEOが、「世界経済の多極化に伴う規制や税制の変化に対しても、シティは国際的な分散モデルの強みを生かして対応できる」と、国際業務の重要性を強調しました。一方、メキシコに保有する銀行子会社「バナメックス」の売却交渉が難航し、売却を諦めてメキシコとニューヨーク市場で新規上場させるという方向に舵を切ったことも注目されました。この判断は、資本効率を改善し、事業再編を加速する狙いがあるとされています。今回決算(2025年4〜6月期)の注目ポイント今回のシティグループの決算では、市場は1株当たり利益(EPS)を前年同期よりやや低い1.67ドル、売上高を220億ドル前後と予測しています。この予想を上回るかどうかが、株価に直接的な影響を与えるため、まず注目すべきポイントになります。具体的に特に注意しておきたいのが、ネット金利収入の伸びがどれだけ維持されるかです。預金金利の見直しなどによってネット金利収入の伸びに限界が見え始めているとする声もあり、成長が鈍化すれば株価へのネガティブ材料になる可能性があります。また、マーケットおよび投資銀行部門の収益にも注目です。市場では関税政策などを背景にトレーディング収益が好調になると予測されています。また投資銀行業務の手数料収益は過去数年間低迷していましたが、ようやく回復基調に入っているとの見方が強く、業績が回復傾向を示せば市場の評価も改善されるでしょう。一方で、前回も懸念となったクレジットカード部門の貸倒費用の動きには特に注意が必要です。カード貸倒率が市場予想を超えて上昇するようなことがあれば、一時的に株価を大きく下押しする可能性があります。また、SCB引き下げを受けて、配当や自社株買いなどの資本還元の具体的な進捗状況や、バナメックス上場計画の進展が示されれば、市場にとってポジティブな材料になる可能性があります。株価への影響と今後の見通しシティグループの株価は決算直前の7月10日終値で87.08ドルと年初来高値圏にあり、好調なパフォーマンスを見せています。今回の決算が市場の期待を上回る好調な内容となれば、株価はさらなる上昇が見込まれ、新高値を狙う展開もあり得るでしょう。一方で、もしネット金利収入が伸び悩んだり、クレジットコストが予想以上に悪化した場合には、一時的に80ドル前半程度まで株価が調整するリスクも想定しておく必要があります。まとめと個人投資家としての対応個人投資家が今回のシティグループの決算を見る上では、金利収入の持続力、マーケット関連収益の回復、カード事業の貸倒費用管理という3つのポイントを意識することが重要です。また、ストレステスト合格による資本余力の向上が株主還元を通じて長期的にプラス材料となる一方、クレジットリスクや新興国市場への依存などのリスク要因に対しては慎重な目を持つ必要があります。短期的な投資スタンスを取るならば、決算発表前後の株価変動を利用したトレードを検討できます。一方、中長期で保有を検討する場合には、ROE(自己資本利益率)の改善やバナメックス上場を通じた資本効率改善の動きを注視しつつ、段階的な買い増しや配当の再投資を活用してリスクを管理する投資戦略が考えられます。シティグループの今回の決算発表は、米国金融業界全体の今後の見通しにも影響を与える重要な指標になるため、冷静かつ丁寧に内容を確認し、自らの投資判断につなげていくことが求められるでしょう。

【JPモルガン・チェース決算(2025年2Q)】金利収入の勢いとクレジットリスクに注目(JPMorgan Chase)
本記事では、JPモルガン・チェース(JPM)の2025年4月発表2025年度第1四半期決算を振り返り、7月に控える2025年度第2四半期決算の見どころを解説します。前回1-3月期決算では純利益146億ドル・1株利益5.07ドルと市場予想を上回り、ネット金利収入(NII)は高水準を維持しました。前回決算の振り返り(2025年1~3月期)2025年1~3月期決算で、JPモルガン・チェースは市場予想を上回る146億ドルの純利益を記録しました。これは前年同期比で約9%の増加となり、1株当たり利益(EPS)も5.07ドルと好調でした。主力収益源であるネット金利収入(NII)は前年同期比で約0.8%増にとどまりましたが、会社側は通期NIIガイダンス(約945億ドル)の上方修正の可能性も示唆しています。一方、懸念材料としてクレジットカード部門での貸倒費用が増加しました。カードサービスの純貸倒率は約3.6%となり、貸倒費用の増加傾向が見られます。また、ダイモンCEOは「世界経済におけるスタグフレーションのリスクや地政学リスクを注視すべき」と慎重な姿勢を示しました。決算発表後の主な動きとニュース(2025年4~7月上旬)前回決算後、JPモルガン・チェースは四半期配当金を1株あたり1.15ドルから1.25ドルへと引き上げ、株主還元策を強化しました。一方で、マクロ環境については注意すべき点も浮上しました。ダイモンCEOは市場が金利上昇リスクを十分に織り込んでいないことを指摘し、今後の金利動向や経済環境の不確実性に警戒を促しています。また、新たな銀行規制(バーゼルⅢエンドゲーム)が2025年から段階的に施行され、JPモルガン・チェースを含む大手銀行の資本コストが増加する可能性が懸念されています。今回決算の注目ポイント(2025年4~6月期)今回の決算で特に注目すべきは、EPSと売上高が市場予想を超えるかどうかです。市場ではEPSが前年同期比約5%増の5.25ドル、売上高は約480億ドルと予想されています(2025年7月時点のアナリスト予想に基づく)。これらの予想を上回るかが、決算直後の株価を左右する要因となります。また、ネット金利収入(NII)のガイダンス修正にも注目が集まっています。前回CFOが通期ガイダンスの上方修正の可能性を示唆しており、今回の決算で具体的な数値が示されれば、株価にはポジティブな影響を与えるでしょう。さらに投資銀行業務の回復度合いや、クレジットカード部門の貸倒関連費用にも注意を払う必要があります。特にカード部門で貸倒率が想定以上に高まった場合には、短期的なネガティブ材料になる可能性があります。最後に、自社株買いの具体的な実施ペースや、規制強化を受けた資本政策(CET1比率の推移)などにも目を向けるべきでしょう。株価への影響と今後の見通しJPモルガンの株価は前回決算後に2.7%上昇し、ダウ平均株価の上昇を牽引しました。現在の株価(7月14日時点)は依然として高水準なため、市場はある程度ポジティブな内容を織り込んでいます。そのため、今回の決算でさらなる上振れ要素が確認できれば、株価の一段高が期待できます。一方、NIIの伸び鈍化やカード部門での悪化などが表面化すれば、一時的に調整するリスクも想定しておく必要があります。中長期的には、JPモルガンの豊富な資本力や強力な株主還元策が支援材料となるでしょう。ただし、ダイモンCEOが指摘するような金利上昇リスクや経済環境の不確実性が増す中、投資判断に際しては慎重さが求められます。まとめと個人投資家としての対応個人投資家としては、今回の決算を通じて「収益の伸び率(特にNII)」「カード貸倒リスク」「投資銀行業務の回復度合い」の3点を中心に、ポジティブサプライズやネガティブサプライズが発生するかを確認する必要があります。短期の投資戦略としては、決算を契機とした株価の変動を狙ったトレードも一つの選択肢となります。一方、中長期的に株式を保有する場合は、同社の高い資本余力や積極的な株主還元、さらには金利環境が変化した場合の収益安定性を評価して投資を継続するという視点も重要でしょう。JPモルガンの決算は米国金融業界全体を占う重要なイベントでもあります。個人投資家としては市場の反応や経営陣のメッセージを冷静に見極め、自身の投資スタイルやリスク許容度に応じて柔軟に対応することが求められます。

トランプ関税で相場は揺れ、一時的に下落するも回復。NVIDIAは4兆ドル企業へ|米国市場サマリー
先週は、トランプ政権による追加関税措置を巡る動きに振り回され、全体として不安定な展開となりました。週初に日本、韓国、欧州への25%追加関税が正式に発表されたことで、市場心理が急速に冷え込み、ダウ平均が400ドルを超える下落となるなど、大幅に反落しました。その後も、対象国拡大の懸念が相場の重石となる場面がありましたが、トランプ政権が関税措置の再協議を示唆したことで一時的に市場は反発。NVIDIAが時価総額4兆ドルを突破するなど、一部のテクノロジー株や航空株、製薬企業が好材料を背景に大きく上昇しました。しかし、週末にかけて再びトランプ大統領がカナダへの35%関税導入を検討していると発言したことで投資家心理が再度悪化。素材や資本財株が売られ、主要指数は再び下落に転じました。週を通じて追加関税措置を巡る報道が市場を揺さぶり、主要指数はボラティリティの高い推移を強いられる一週間となりました。為替は、トランプ政権が日本・韓国などへの追加関税を発表したことで週明けは144円台前半へ円高方向に動きました。しかし、その後関税措置の再協議が示唆されたことでリスク回避が和らぎ、米経済指標の堅調さも支援材料となってドルが反発。テクニカル的にも上値を追う展開となり、週末には147円台半ばへ急伸しました。米国株式市場:トランプ関税で一時相場は下がるも再協議で回復、NVIDIAは時価総額4兆ドルへ7月7日(月) 米国株式市場は大幅に反落し、ダウ工業株30種平均が422ドル(-0.9%)下落しました。トランプ政権が日本、韓国、欧州などに対し25%の追加関税を発表したことで、投資家心理が悪化しました。特にTeslaがトランプ大統領との対立報道を受け7%以上下落し、他のテクノロジー株も大きく売られました。S&P500とNASDAQも0.9%程度の下落となり、原油価格の下落を背景にエネルギー株も軟調でした。7月8日(火) 前日の急落後、市場は方向感を欠く展開となりました。ダウ平均は137ドル(-0.4%)下落しましたが、NASDAQはわずかにプラス(+0.03%)を維持しました。トランプ政権がさらに多くの国々への追加関税を検討しているとの報道を受け、素材株が売られる一方、小型株のRussell 2000指数は0.7%上昇し、相場の底堅さを示しました。公益セクターやヘルスケア株も比較的堅調でした。7月9日(水) 米国株は再び反発し、NASDAQは0.9%上昇して史上最高値を更新しました。トランプ政権が追加関税措置について再協議に前向きな姿勢を示したことが市場に安心感をもたらしました。S&P500は0.6%、ダウは0.5%の上昇となりました。個別では、AI需要を背景にNVIDIAが約4%上昇し、時価総額が4兆ドルを突破しました。また、製薬大手Merckが英国企業のVerona Pharmaの買収を発表したことを受けて株価が堅調でした。7月10日(木) 市場は引き続き上昇基調を維持し、S&P500とNASDAQが連日で史上最高値を更新しました。Delta Air Linesが業績見通しを引き上げたことを受けて12%の急騰、United Airlinesも14%上昇と、航空株が市場を牽引しました。また、イタリアFerreroによる買収報道で食品メーカーのWK Kelloggが31%急伸するなど、M&A関連銘柄も活況でした。一方、前日に史上最高を更新したNVIDIAは一時的に利益確定売りに押されましたが、引き続き高値圏を維持しました。7月11日(金) 市場は再び下落し、ダウ平均が300ドル(-0.6%)下落しました。トランプ大統領が新たにカナダ製品への35%関税導入を検討していると表明したことで貿易摩擦への懸念が再燃しました。S&P500は0.3%、NASDAQは0.2%下落しました。関税懸念が広がった素材・資本財株が売られ、化学メーカーのAlbemarleはUBSの投資判断引き下げを受けて大きく下落しました。一方で、好調な四半期決算を発表したLevi Straussは11%上昇し、ビットコイン価格の上昇を背景にMicroStrategyやRiot Platformsといった暗号資産関連銘柄が大幅高となりました。為替市場:雇用統計でドル高になるも、税制・通商政策の不透明感から大きく動かず為替は米国の通商政策リスクと堅調な経済指標に振らされつつ、144~147円台のレンジ内で推移しました。週明け7日、トランプ政権による追加関税(日本・韓国など対象)報道を受け、ドルはリスク回避傾向の円に対し下落し、144.38円前後でスタート(週安値は144.37円) 。一方、米ドルはユーロやカナダドルに対しても軟調となり、全般的に弱含みとなりました。週の中頃(8~9日)はやや反発。通商摩擦懸念が和らぎつつ、米経済指標やテクニカル要因が下支えの役割を果たしました。特に9日は追加関税見直しの可能性により、ドル/円は146円台へ回復し、終値は146.32円前後に達しました。週後半(10~11日)は再び上昇トレンド加速。11日には一時147.44円を付けて週高値を更新、終値は147.39円で終了し、週間では+3.3%(約3円)のドル高圧力となりました。週を通して、ドル/円は通商政策の不透明感と米指標・テクニカル要因の両方に反応しつつ、144~147円のレンジ内で荒い値動きを演じました。特に追加関税懸念が発生すると円高に振れ、逆に見直しや強い経済指標が確認されるとドル高一途でした。ブルーモの公式Xでは決算や指標の速報をお届けしているので、興味ある方はフォローしてみてください。https://x.com/Bloomo_invest

日銀利上げ観測後退、円安進行──「対日関税25%」が市場に与える影響とは
7月7日(米東部時間)、トランプ米大統領は日本からの輸入品に対し、8月1日から25%の関税を課すと表明しました。ただし、市場開放や非関税障壁の撤廃などに応じれば「課税措置を修正する可能性もある」と譲歩の余地を残しています。本記事では、対日関税が市場に与える影響と今後の焦点を解説いたします。3週間の「猶予延長」も楽観できずかつてトランプ氏が日本に対して「30%〜35%の関税」を示唆していたことを考えると、25%という水準は最悪の事態は回避できた内容とも言えます。しかし、8月1日という関税発効日は、7月20日に参院選を控える日本にとっては、交渉材料を提示しづらいタイミングであり、実質的な交渉期間は限られています。仮に参院選後に政権の枠組みが変化すれば、関税協議の行方にも不透明感が増す可能性があります。日銀の利上げ観測が後退、長期金利は上昇今回の発表は、日銀の金融政策スタンスにも影響を与えています。次回の日銀会合(7月30〜31日)は関税猶予期間中となるため、新たな判断を下すことは難しくなりました。このため、市場では「早ければ10月にも利上げ」との観測が後退し、一部では利上げが2026年1月にずれ込むとの見方も浮上しています。一方で、財政悪化懸念から、超長期金利には上昇圧力がかかっています。7月8日の債券市場では、30年国債利回りが一時3.09%と、前日比12.5ベーシスポイント急上昇しました。みずほ証券の大森翔央輝チーフ・デスク・ストラテジストは「もはや理由のいかんを問わず、損失を抱えたポジションを解消しようとする投げ売りが加速している状況だ」と指摘。超長期債の脆弱性が再び浮かび上がりました。円安圧力の高まり為替市場でも影響が顕在化し、円は一時1ドル=146円台まで下落。円安を後押しする背景には以下のような構造的な要因があり、対日関税は円安を連想させる要素が多いというのが市場の共通認識です。高関税による輸出減少 → 貿易収支悪化日本企業の米国生産移管 → 対外直接投資の増加企業収益の圧迫 → 賃上げの鈍化 → 日銀利上げ後退利上げ観測の後退は円売りの地合いを強め、さらにしばらく円高方向に向かう材料は見当たらないとの見方が広がっています。今後の注目は、相互関税が米国内インフレを招く可能性に対する市場の反応です。仮に批判が高まれば、トランプ政権としても内容の見直しに動く可能性も否定できません。ただし、関税引き下げに代わって利下げやドル安誘導政策に軸足を移すとの見方も根強くあります。

2025年夏、米国株はサマーラリーか夏枯れか?今後の市場はどちらへ動く
7月末に大型ハイテク銘柄の決算報告やFOMC(米連邦公開市場委員会)といった重要イベントが控えるなか、市場では「サマーラリー」と「夏枯れ相場」という対照的なアノマリー(規則性や傾向)に注目が集まっています。本記事では両者の特徴を解説しつつ、2025年夏の米国株市場を展望していきます。 2025年後半の米国株見通しについては過去の記事にて取り上げていますので、ご関心のある方はあわせてご覧ください。2025年はサマーラリーか夏枯れ相場か「サマーラリー(Summer Rally)」は、夏季に株式市場が上昇する傾向を指し、米国では独立記念日(7月4日)からレイバーデー(9月第1月曜日)までの期間に見られます。機関投資家が夏季休暇の前に買いを入れる動きや、需給の偏りが要因とされています。なかでも、2025年のような大統領選挙翌年の7月は好調なパフォーマンスとなる傾向があり、1950年以降、7月のS&P500指数平均リターンは2.2%となっています。一方で「夏枯れ相場」とは、機関投資家の不在により株式市場の取引高が減少し、相場が上がりにくく、悪材料に反応して株価が下振れしやすい相場を指します。一般的には一時的な調整とされ、長期的な市場の健全性を損なうものではありません。株高の勢いは夏に持ち越されるか足元では、6月までの上昇を受けて、7月相場にも強気な見方が広がっています。Carson Groupチーフ・ストラテジストのライアン・デトリック氏は「5月・6月に株式市場が好調であると、その勢いは7月以降にも引き継がれる傾向がある。過去16回の類似ケースでは15回で下半期も上昇した」と指摘します。また、米ドル安(3年ぶりの安値水準)や中東の地政学リスク後退も米国株への買い意欲を後押ししています。センチメントにも変化が見られます。今後6ヶ月間の市場の方向性に関する個人投資家の意見を測定するAAIIセンチメント調査では、6月25日時点の調査では弱気派(40.3%)が強気派(35.1%)を上回っていたものの、7月2日には強気派(45.0%)が弱気派(33.1%)を逆転。投資家心理は改善傾向にあり、サウンドハウンドAI(SOUN)、ソーファイ・テクノロジーズ(SOFI)といったモメンタム株の物色も、投資家のリスク選好姿勢を裏付けています。株高は一部銘柄に依存、ハイテク決算が市場の方向性を左右か現在S&P500の予想PERは約22倍程度と高水準ですが、生成AIブームの追い風を受けた成長株への選好は根強く、特にエヌビディア(NVDA)は再び過去最高値を更新し、指数に対する影響力を強めています。ただし、株高は一部のハイテク銘柄に偏っており、S&P500構成銘柄の約30%は50日移動平均線を下回る状況となっています。中小型株を中心としたラッセル2000指数や、ダウ平均株価の軟調さもこの構造を裏付けており、テクノロジー株、特に「マグニフィセント・セブン」の決算結果は、市場全体の方向性を左右する重要イベントとなるでしょう。米関税や金融政策を巡るリスク要因は依然存在一方、投資家心理の重石となっているのが、米関税政策と金融政策の不確実性です。直近では、トランプ大統領が8月1日の相互関税発動日は確定しているとしつつ、各国から提案があれば延期も検討する用意があると述べましたが、アナリストらは、関税発動期限を緊張の大幅な高まりなく乗り越えることができれば、短期的には懸念事項が一つ減ると指摘しています。金融政策では、7月29〜30日のFOMCでFRB(米連邦準備制度理事会)が9月の利下げに含みを持たせるかが注目されます。現在FedWatchの9月利下げの織り込みは50%を超えていますが、パウエル議長は利下げについては引き続き「データ次第」と様子見の姿勢を崩しておらず、FOMCで引き続き慎重な姿勢が示された場合は、株価の調整リスクも残ります。今後の注目イベント7月15日:消費者物価指数(CPI)7月16日:生産者物価指数(PPI)7月17日: 小売売上高7月29-30日:FOMC8月1日:相互関税発動日