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【アマゾン決算みどころ】AWS成長率とAI戦略に注目、過去最高益更新なるか(Amazon)
本記事では、アマゾン(Amazon)の2024年第4四半期決算を振り返り、5月1日に控える2025年第1四半期決算の見どころを解説します。アマゾンの2024年第4四半期決算は、売上高1,878億ドル(前年比+10%)、純利益200億ドル(約2倍)と好調でした。AWSクラウド事業は売上高288億ドルで前年比+19%の成長を達成し、広告事業も173億ドルと前年比+18%増と堅調でした。2025年に入り、生成AI機能を搭載した次世代版「Alexa+」を発表し、クラウドインフラとAI関連への大規模投資を継続しています。コスト効率化と成長投資のバランスを取りながら、業績は順調に推移しています。今回決算は、AWSや広告といった高収益エンジンが順調でコスト管理もうまくいっていればポジティブ、一方で成長鈍化や投資増による利益圧迫が見られればネガティブという評価になりそうです。アマゾン株は直近まで大きく上昇してきたため、良い意味でも悪い意味でも市場の期待値が高まっています。その分ハードルも上がっていますが、裏を返せば複数の事業がバランスよく成長している強みが評価されているとも言えます。前回決算(2024年第4四半期)ハイライト売上高と利益が市場予想を上回る: 2024年10-12月期のアマゾン実績は、売上高が1,878億ドル(約28.2兆円)と前年同期比+10%と好調でした。為替の影響を除くと+11%の成長で、年末商戦(ホリデーシーズン)の強い消費需要が貢献しました。また営業利益は前年同期の132億ドルから61%増加し212億ドルに達し、純利益も前年同期の106億ドルから約2倍の200億ドルに急増しました。一株当たり利益(EPS)は$1.86となり、市場予想の$1.49を大きく上回っています。増収増益となった主因は、堅調な売上成長に加え、倉庫・物流網の効率化や人員削減によるコスト圧縮で採算が改善したためです。主要セグメント別の業績: アマゾンは事業を大きく「北米」「国際」「AWS(クラウド)」の3セグメントに分けて開示しています。北米(主に米国のECと関連事業)セグメントは売上1,156億ドル(+10%)と2桁成長し、プライム会員向け配送スピードの向上策やブラックフライデー・サイバーマンデーの販売好調が寄与しました。北米部門の営業利益も93億ドルと前年の65億ドルから約43%増加し、大幅な増益となりました。国際セグメント(北米以外のEC)は売上434億ドル(+8%、為替調整後+9%)で、営業損益は前年同期の▲4億ドルから本四半期は13億ドルの黒字へと改善しています。これはヨーロッパやアジアでEC需要が持ち直したことやコスト見直しの効果によるものです。AWSクラウド事業の成長: クラウドサービスの Amazon Web Services (AWS) は引き続きアマゾン全体の稼ぎ頭です。2024年Q4のAWS売上高は288億ドルと前年同期比+19%の伸びを記録しました。伸び率は前四半期(+19%)と同水準で、市場予想(約289億ドル)にほぼ達しています。AWSの営業利益は106億ドルと前年同期比+48%増加し、営業利益率は36.9%へ拡大しました。この高収益なAWS事業だけで全社営業利益の約5割を稼いでおり、アマゾンの利益成長を力強く牽引しています。AWS成長の背景には、企業のデジタルトランスフォーメーション需要やAI関連サービスの導入拡大があり、2024年Q4には自社開発のAI用半導体「Trainium2」の提供開始も成長を後押ししました。広告・その他事業の動向: アマゾンの広告事業も主要な成長セグメントです。同社サイトやFireタブレット、Twitchなどで展開する広告サービス収入は2024年Q4に173億ドルと前年同期比+18%増加し、四半期として過去最高水準に達しました。増収率は昨年同時期(+26%)からは鈍化したものの、依然として20%近い高成長を維持しています。アマゾンの広告売上はここ4年間で倍以上に拡大したとされ、GoogleやFacebookに次ぐデジタル広告プラットフォームとして地位を確立しています。また、物流部門やサブスクリプション(プライム会費など)も着実に成長しました。特に物流面ではサプライチェーン最適化や倉庫の自動化投資が奏功し、1個あたり配送コストの削減や翌日配送比率の向上につながっています。コスト効率の改善と株価反応: 前年から続く構造改革の成果で、アマゾンは大幅なコスト効率化を達成しました。2023年には全社で約27,000人の人員削減(主に本社部門)を断行し、組織のスリム化によって年間数十億ドル規模のコスト削減効果を見込んでいます。その結果、2024年Q4の営業費用の増加率は+5.7%に抑えられ、売上+10%を下回りました。これが前述の営業利益急増に直結しています。決算発表直後の株式市場の反応はやや波乱含みでした。時間外取引で株価は一時▲5%下落し、時価総額900億ドルが吹き飛ぶ場面もありました。主な要因はクラウド事業の伸び悩み懸念と、発表された2025年Q1ガイダンス(見通し)が市場予想を下回ったことです。ただしその後株価は持ち直し基調となり、2025年4月上旬には年初来で+20%以上上昇し2年半ぶりの高値水準を更新しています(市場全体のハイテク株上昇の追い風もあり)。個人投資家にとっては、このような決算直後の変動に惑わされず、長期的な成長ドライバーに注目する姿勢が重要と言えます。前回決算以降の主なニュース動向生成AI関連の戦略発表: 2025年に入り、アマゾンは生成AI(Generative AI)分野でいくつかの大きな動きを見せました。2月末には10年ぶりとなる音声アシスタント「Alexa(アレクサ)」の大型アップデートを発表し、次世代版「Alexa+(アレクサ・プラス)」を公開しました。新しいAlexa+は生成AIを活用した高度な会話能力を備え、従来のような一問一答形式でなく自然な対話の流れでユーザーの意図を汲み取り、コンサートやレストラン予約、メール送信など複雑なタスクを音声だけで処理できます。この刷新は当初計画より1年遅れとなりましたが、競合のChatGPTやGoogleアシスタントに対抗し、「AI時代における家庭内アシスタントの再定義」を目指すアマゾンの意気込みがうかがえます。またクラウド面でも、AWSは自社開発の大規模言語モデル(LLM)「Amazon Nova」シリーズを投入し、外部パートナーのAIモデル(例:Anthropic社のClaudeなど)も統合する生成AIプラットフォームを強化しています。こうした取り組みにより、アマゾンはクラウド顧客に対しAIソリューションを包括的に提供し、マイクロソフトやグーグルとのクラウドAI競争で後れを取らないよう努めています。AWSクラウドの成長と競争環境: 前述の通りAWSの直近成長率は+19%と堅調でしたが、クラウド業界全体では成長鈍化傾向がみられます。マイクロソフトのAzureやグーグルクラウドも2024年後半に伸び率が低下しており、企業のクラウド支出が一巡したことやコスト最適化の動きが背景にあります。アマゾン経営陣は決算説明で「需要に対し供給側の制約が成長を幾分抑制している」と述べ、特に高度なAI処理に必要な半導体チップやデータセンター電力の供給が追いつかず、もし供給制約がなければより高成長も可能だったとの認識を示しました。実際、AWSは需要増に対応するため2024年下期から2025年にかけて過去最大規模の設備投資を計画しています。この巨額投資には新規データセンター建設やAIチップ増産が含まれ、CEOのアンディ・ジャシー氏は「AIはインターネット以来の大きな機会」であり、中長期での成長拡大に向けた前向きな投資と強調しています。一方で競争も激化しており、例えば中国では低コストのAIクラウドを掲げる新興企業の台頭も報じられています。AWSが今後もクラウド首位の座を維持するには、高性能かつコスト効率の良いサービスを提供し続けることが不可欠です。広告事業の拡大と戦略: アマゾンの広告ビジネスは、前回決算で示されたように年率+18%と順調に拡大しています。特に動画ストリーミング「プライム・ビデオ」への広告導入は大きな話題となりました。アマゾンは2024年から米国や欧州でプライム会員向け動画に広告を挿入し始め、そして日本でも2025年4月よりプライム・ビデオに広告付きプランを導入しました(従来会費に月数百円を追加すれば広告無し視聴も可能)。この施策は動画配信サービス全体の潮流であり、自社オリジナル作品などコンテンツ投資を続けるための収益源確保が目的です。広告主にとっても、アマゾンの豊富な購買データに基づくターゲティング広告や、音声AIアシスタント(Alexa経由の広告など新形態含む)は魅力的であり、今後も広告事業はグーグルやメタ(旧Facebook)に次ぐ第3のデジタル広告巨頭として成長が期待されています。コスト管理と投資戦略のバランス: 2023年に大規模リストラを実施したアマゾンは、2024年以降も継続して経費構造の見直しを図っています。直近では2025年1月にもコーポレート部門で若干の追加レイオフが行われました。同社は「組織の階層をフラット化し、迅速な意思決定を妨げるポジションを整理した」と説明しており、肥大化した本社機能をスリムに保つ姿勢を示しています。一方で将来の成長分野への投資は惜しまない方針です。特にリソースを投入しているのがクラウドインフラとAI関連で、前述のように2024年第4四半期の設備投資額は263億ドルにも上りました。CFOのブライアン・オルサブスキー氏によれば「今後もこのペースの高水準投資を続ける見通し」とのことで、最新技術への積極投資により競争優位を維持する戦略です。キャッシュフロー面では、2024年の営業キャッシュフローは前年から+82%増の849億ドルと潤沢で、フリーキャッシュフローも大幅黒字に転換しています。このため財務的な投資余力は十分にあり、AI・物流・デバイスなど複数の分野で「次の成長のタネ」を蒔きつつあります。株主還元と株価動向: アマゾンは伝統的に利益を事業再投資に充てて成長を優先してきた企業で、配当は無配、株主還元(自社株買い)も同業他社と比べ控えめです。2022年に100億ドル規模の自社株買い枠を設定しましたが、2023年までの買い戻し実績は60億ドル程度に留まっており、過去4四半期でも発行済株式数は1%弱しか減っていません(※社員へのストックオプションによる希薄化をほぼ相殺する水準)。しかし足元でキャッシュ創出力が急向上したことから、一部では「そろそろ株主還元を拡充すべき」との声も出始めています。実際2024年末時点で手元現金は約1000億ドルに達しており、負債を除いたネットキャッシュも潤沢です。もっとも、経営陣は依然としてAIや物流網への大型投資に前向きで、短期的に配当開始や大規模買戻しを行う可能性は低いと見られます。そのため株主還元よりも株価自体の上昇によるリターン(キャピタルゲイン)が当面の投資妙味となるでしょう。昨年から今年にかけてアマゾン株は力強く反発しており、2023年の低迷からV字回復しました。個人投資家としては、業績動向と併せて株価トレンドにも目を配りつつ、押し目があれば中長期の視点で投資判断するスタンスが求められます。今回(2025年Q1)決算での注目ポイントと株価への影響クラウドAWSの成長率と収益性: 最大の注目はやはりAWS事業の動向です。市場では「AWS成長率は底打ちしたのか」が関心事となっています。前年(2024年)前半に一時10%台前半まで減速したAWS成長率は、後半に18~19%まで持ち直しました。今回発表の2025年Q1でも引き続き15~20%程度の前年同期比成長を維持できるかがポイントです。もっとも前回決算時に示されたQ1の会社売上ガイダンスは全社で+6~8%増程度と保守的で、これを踏まえるとAWSも若干鈍化する可能性があります。供給制約(チップ不足など)の影響がどの程度続いているか、決算説明での経営陣コメントも重要です。AWSの営業利益率(直近36.9%)が今期も高水準を保てるかもチェックしましょう。旺盛な設備投資によって減価償却費や運用コストが増えれば短期的に利益率は圧迫される懸念がありますが、前四半期同様にコスト増を売上拡大が上回れば高収益性を維持できます。もしAWS成長が再減速したり利益率低下が見られれば、発表直後に株価下落要因となり得ます。一方で予想以上の成長加速やポジティブな見通しが示されれば、株価押上げの原動力となるでしょう。広告収入の伸びと収益源の多様化: 第2の注目点は広告事業の動向です。前述のようにアマゾンの広告売上は四半期170億ドル規模に達しており、同社にとってAWSに次ぐ利益柱です。特に1-3月期は他の四半期と比べホリデー要因がなく広告売上が落ち込みやすい傾向がありますが、それでも前年同期比で二桁成長を維持できるかがポイントです。競合のグーグルやメタもデジタル広告市場で持ち直しを見せている中、アマゾン広告が引き続きシェア拡大できていれば、収益源の多様化という観点で投資家の安心材料となります。またプライム・ビデオへの広告導入効果や、生成AIを活用した広告クリエイティブ自動生成ツール(出品者が商品の広告画像や動画をAIで簡単に作成できるサービスなど)の普及状況にも注目です。広告事業は利益率が高く、売上1ドルの増加がそのまま利益寄与しやすいため、今期も順調なら全社の営業利益を底支えするでしょう。コアEC部門の成長率とコスト最適化: アマゾンの原点であるオンライン小売(EC)部門も引き続き注視すべきです。米国を中心とした個人消費はインフレや景気動向の影響を受けやすく、2025年初にはやや減速懸念も取り沙汰されています。その中でアマゾンの商品売上(自社販売+マーケットプレイス手数料)が前年同期からどの程度伸びたか、見極めが必要です。前回Q4は北米+10%、国際+8%でしたが、1-3月期は季節的な低調期であるため一桁前半~中盤の成長にとどまる可能性があります。プライム会員数やその購買頻度、サブスクリプション収入(プライム年会費、Audibleなど)の伸びも参考情報です。またEC部門の収益性改善にも注目しましょう。これまで赤字だった国際セグメントが直近黒字化したように、巨大な物流ネットワークの効率化や在庫管理の高度化(データ分析による適正在庫配置)、配送の自動化などが奏功すれば、低マージンと言われたEC事業が着実に利益を生む体質へ変わりつつある可能性があります。もし今回の決算でもEC部門の利益率改善が確認できれば、中長期でアマゾンの収益ポテンシャルを押し上げる好材料となります。生成AIサービスの進捗とガイダンス修正: 決算発表では、今後の戦略や見通しについて経営陣が語る「ガイダンス」も重要です。特にAI関連では、先述のAlexa+の提供開始スケジュールやユーザー反応、AWSにおける生成AIサービス(Amazon Bedrock経由での各種AIモデル提供)の顧客利用状況などについてアップデートがあるか注目されています。AIは短期的な収益貢献よりも将来への投資色が強い分野ですが、アマゾンが具体的な成果(例:大口顧客の導入事例やサービス利用数の拡大)を示せれば投資家心理の改善につながります。また2025年Q2の会社側見通し(売上高レンジや営業利益レンジ)が上方修正されるかもポイントです。前回発表時点では2025年Q1見通しが市場予想を下回り失望を招いただけに、今回のガイダンスが保守的すぎないかどうかマーケットは敏感に反応するでしょう。仮にガイダンスが強気に修正されれば、年後半に向けた成長加速への自信と受け取られ株価の追い風となり得ます。逆に引き続き慎重な見通しの場合、一時的に売り材料となる可能性もあります。株価への総合的なインパクト: 上記の各ポイントの結果如何によって、決算後の株価は上下に振れやすい状況です。総じて、AWSや広告といった高収益エンジンが順調でコスト管理もうまくいっていればポジティブ、一方で成長鈍化や投資増による利益圧迫が見られればネガティブという評価になりそうです。アマゾン株は直近まで大きく上昇してきたため、良い意味でも悪い意味でも市場の期待値が高まっています。その分ハードルも上がっていますが、裏を返せば複数の事業がバランスよく成長している強みが評価されているとも言えます。個人投資家としては、決算発表の数字と経営陣コメントを丹念に分析し、短期的な株価変動に一喜一憂するのではなく、クラウド・広告・EC・AIという複数の成長エンジンを持つアマゾンの中長期的な企業価値を見極めることが肝要でしょう。今回の決算は、そうした判断材料を提供してくれる重要なイベントとなりそうです。

【アップル決算みどころ】iPhone 16eとサービス成長で中国減速をカバーできるか(Apple)
本記事では、アップル(Apple)の2024年第4四半期決算を振り返り、5月1日に控える2025年第1四半期決算の見どころを解説します。アップルの2025年第1四半期(2024年10-12月期)決算は、売上高1,243億ドル(前年比+4%)、EPS2.40ドル(同+10%)と過去最高を記録しました。地域別では米国+4%、欧州+11%と好調な一方、中国は-11%と苦戦しています。新製品のVision Proは販売不振で生産縮小の可能性があり、生成AI機能の開発も遅れが生じています。一方で、iPhone 16eの投入により世界スマホ市場シェアで首位を獲得し、サービス部門は過去最高の263億ドルの売上を記録するなど、明暗が分かれる結果となりました。今回の決算は「減速する中国をその他地域やサービス収入で補えるか」がテーマといえます。iPhone販売台数やサービス収入の着実な伸びが確認できれば、アップルは逆風下でも成長持続可能との評価から株価にプラスです。一方、中国需要悪化やAI対応の遅れが響いて弱い決算となれば、一時的に株価が調整するリスクもあります。ただアップルは豊富なキャッシュを背景に積極的な株主還元と長期視点の事業投資を続けており、中長期の企業価値は底堅いと見る向きも多いです。2025年第1四半期(10~12月期)決算ハイライト2025会計年度第1四半期(2024年10~12月期)のアップルの業績は、売上高1,243億ドル(前年同期比+4%)と過去最高を記録し、希薄化後EPS(一株当たり利益)は2.40ドル(前年同期比+10%)となりました。地域別に見ると、米国+4%、欧州+11%、中国は-11%と地域間で明暗が分かれました。特に日本は+15%と大きく伸びており、2年連続の増収となっています。製品別では、iPhone売上高が前年同期比0.8%減とわずかに減少したものの、Macは+15%増、iPadも+15%増とパソコン・タブレットが好調でした。サービス部門(App Storeやサブスクリプションなど)は過去最高の263億ドルの売上を計上し前年比+13%増と引き続き高い成長を示し、ウェアラブル・ホーム・アクセサリ部門(Apple WatchやAirPods等)は-2%減とやや減速しました。純利益は363億ドルと前年を上回り、同四半期として過去最高水準です。こうした堅調な決算を受け、株価は決算発表後に上昇しました。発表当日(米国時間1月30日)終値は前日比0.74%安でしたが、時間外取引では+3.26%高の245.34ドルまで買われています。市場予想を上回る収益と、為替の影響を除けば堅調な次期売上見通しが評価されたためです。アップルは第1四半期に約300億ドル(約4兆円超)もの資金を自社株買いと配当の形で株主に還元しており、取締役会は四半期配当(1株0.25ドル)の支払いも決議しました。潤沢なキャッシュフローを背景にした株主還元策は株価下支え要因となっています。前回決算以降の主なニュースと動向Vision Proの販売状況: 2024年2月に米国で発売されたアップルの高価格帯MR(複合現実)ヘッドセット「Apple Vision Pro」は販売が伸び悩んでいます。報道によれば、アップルは需要低迷を受けて現行モデルの生産を大幅縮小し、2024年末までに一時生産停止の可能性もあるとのことです。実際、発売直後の四半期(2024年2~3月)に10万台も売れず、その後も需要減速から生産台数をピーク時の半分程度に抑制している模様です。アップルは第2世代Vision Proの開発を少なくとも1年延期し、まず低価格モデルの開発に注力する方針とも報じられています。超高額(米国で3,499ドル、日本では約50万円)の初代モデルでは市場拡大が難しく、価格引き下げと「キラーアプリ」の出現による普及拡大を狙う戦略と考えられます。現時点でVision Proの売上への貢献はごく僅かで、ウェアラブル部門全体の売上も前年割れとなっていることから、投資家は今後の販売動向と収益寄与を引き続き注視する必要があります。生成AI機能(Apple Intelligence)の開発動向: アップルはiPhoneやMac向けに独自の生成AI機能群「Apple Intelligence」の提供を進めていますが、その展開は計画より遅れています。2024年秋のiOS 18リリース時に一部機能を提供開始したものの、目玉であるSiriの高度な生成AIアップデートの開発が難航しています。アップルは2024年6月のWWDCで発表したSiriのAI強化機能の提供時期が当初予定(2025年4月頃)より遅れ、2026年初頭までずれ込む可能性を認めました。実際、2025年3月7日に広報を通じ「当社が考えていたよりもこれらの機能の提供に時間がかかる」と声明を出し、事実上の大幅延期を発表しています。このニュースを受けて株価は3月中旬に急落し、アップルのAI戦略への投資家懸念が高まりました。競合のGoogleやAmazonが音声アシスタントに生成AIを相次ぎ統合する中、アップルの出遅れは将来のiPhone買い替え需要に影響しかねないと指摘されています。もっともアップルはプライバシー重視からデバイス上で動作する省電力AIに注力しており、完成度を高めた上で順次機能拡張する方針です。個人投資家としては、秋発売の次期iPhoneに間に合う形でどこまでAI機能強化が進むか注目したいところです。iPhone販売と主要市場の需要動向: 前述のとおり、直近四半期(2024年末)のiPhone売上は前年比微減となりましたが、地域別の動向に特徴が出ています。中国市場ではiPhoneが不振で、第1四半期(10-12月)の売上高は前年同期比11%減少しました。背景には、中国本土でアップルの生成AI機能(Apple IntelligenceやChatGPT)が規制により利用できず魅力が削がれていることや、景気減速による消費低迷があるとアップル経営陣は分析しています。実際、調査会社Counterpointによると2024年Q4の中国におけるAppleスマホ販売台数は前年同期比18.2%減と大きく落ち込み、同年通期の中国スマホ市場シェアでもAppleは首位から4位に転落しました。一方、米国や欧州では年末商戦期の需要が堅調で売上横ばいを維持し、日本や新興国での需要は強い伸びを見せています。特に注目すべきはインド市場で、アップルは2023年に同国で初の直営店をオープンし販売体制を強化するとともに、製造面でもインド生産を拡大しています。直近1年間でインドでのiPhone生産量を60%増やし、世界出荷台数の20%がインド製となったことが報じられており、地政学リスク分散と現地需要取り込みに努めています。インドでのアップルのスマホシェアはまだ約8%程度ですが、2024会計年度の売上は約80億ドルに達しており今後も二桁成長が見込まれています。こうした新興国市場でのシェア拡大は、既に成熟した米欧中市場に代わる中長期成長シナリオとして重要です。さらに2025年2月末には新型の「iPhone 16e」を投入しました。これは現行のiPhone16シリーズの廉価版モデルで、価格を抑えつつ最新機能(Apple Intelligenceなど)を搭載した製品です。低価格帯の16e投入は新規需要を喚起し、日本やインドでの販売増に奏功したと伝えられています。調査会社のデータでは、2025年第1四半期(暦年、1~3月期)の世界スマホ市場シェアでアップルが19%を占め、サムスンを抑えて首位となりました。欧米や中国の販売が苦戦する中でも、iPhone 16eの寄与と日本・インドの堅調な需要が世界シェア首位奪還の原動力となっています。このように前回決算後、地域間で明暗を分けるiPhone需要動向が鮮明になりました。中国市場の減速を他地域での伸びと新製品投入でどこまでカバーできるかが、今後の業績を左右するポイントです。規制リスクと株主還元策: マクロ環境や規制面のニュースも見逃せません。米国と中国の間の貿易摩擦は2025年に入って激化し、米国政府が中国からの輸入品に最大150%の関税を課す可能性が取り沙汰されました。アップル株はこの報道を受け4月初旬に一時25%以上急落する場面がありました。その後、スマートフォンなど一部製品は関税適用除外となる見通しが伝わり株価は持ち直しましたが、依然として中国生産への依存や中国販売減速に対する地政学リスクは株価の重石となっています。また欧州ではデジタル市場法(DMA)の施行により、アップルはEU圏内でiPhoneへのサードパーティ製アプリストア解禁やアプリ内決済手段の開放を余儀なくされています。これは中長期的にApp Store手数料収入(サービス部門)に影響を及ぼす可能性があり、アップルは慎重に対応を進めています。こうした規制リスクの一方で、株主還元策は引き続き強化されています。アップルは12年連続で四半期配当を増配しており、前述の自社株買いも継続中です。昨年同時期(2024年Q2)には追加で1,100億ドル(約17兆円)もの自社株買い枠を承認し、四半期ベースで過去最高額の買い戻しを実施しました。これほどの巨額買い戻しは自社株への信頼の表れであり、1株当たり利益の押し上げ効果もあります。個人投資家にとっては、規制環境の変化による向かい風と、手元資金を活用した株主還元による追い風の両方を考慮することが重要です。今回発表(2025年第2四半期、1~3月期)決算の注目ポイントと株価への影響5月上旬に公表予定の2025年第2四半期決算(1~3月期)では、上述の動向を踏まえいくつかの重要ポイントが予想されます。それぞれが株価に与えるインパクトを整理しましょう。iPhone売上の回復または減速: 最大の注目点はiPhone部門の売上動向です。前年の2024年1~3月期は中国での販売低迷などからiPhone売上が減少(前年同期比 -X%)しており、今回はその反動による増収が期待されています(注: 2024年Q2はiPhone含む主力製品が軒並み減収でした)。特に今年は2月末に発売した「iPhone 16e」の販売寄与が約1か月分含まれるため、中価格帯需要の取り込みでiPhone全体を下支えした可能性があります。実際、前述の通り1-3月期の世界シェアでアップルは首位となっており、数量ベースでは健闘したとみられます。もっとも中国市場の需要回復は不透明で、引き続き前年比マイナスが続くリスクも残ります。iPhone売上が市場予想を上回る増収となればポジティブサプライズとなり株価上昇要因ですが、逆に回復が鈍く横這い~減収に留まる場合は失望売りを招きかねません。決算発表では地域別のiPhone販売動向や、新興国での伸長が中国減速をカバーできたか注視しましょう。サービス部門の成長継続: サブスクリプション収入やApp Storeを含むサービス部門は、第1四半期に過去最高売上を記録するなどアップルの稼ぎ頭となっています。第2四半期も前年比二桁増の堅調成長が続くかが重要ポイントです。足元ではApp Store規制緩和の動きもありますが、本決算への直接的な影響は限定的でしょう。むしろApple MusicやiCloud、有料保証AppleCare+の契約増加や値上げ効果で引き続き高い利益率の収入増が期待されます。サービス部門は粗利率が製品より高いため、売上成長が確認できれば利益面でプラス材料となります。仮に成長減速が見られると将来の収益予想に影響するため、有料サブスクリプション数の増減や地域別サービス売上にも注目です。サービス収入拡大が順調なら、アップルのエコシステム強化による安定収益源として評価され株価支援要因となるでしょう。中国市場の販売状況: 中国売上が前四半期(10-12月)に続き減少するか、あるいは春節需要などで持ち直すかも株価のカギを握ります。昨年末時点で中国売上は約185億ドルと全体の15%超を占めており、この巨大市場のトレンド変化はインパクトが大きいです。中国政府による消費刺激策や、ライバル華為技術(ファーウェイ)の勢いなど外部要因も絡みます。アップルは4月以降、生成AI機能の多言語展開により中国以外の地域で需要拡大を図ると述べていますが、肝心の中国本土でApple Intelligenceが使えない状況が続く限り販売回復は限定的かもしれません。もし中国売上が前年同期比で再び二桁減となればネガティブ材料ですが、一方で「底打ち」して減少幅縮小や横這いとなれば安心感から株価にはプラスでしょう。投資家は決算カンファレンスでのティム・クックCEOの中国市場に関するコメントにも耳を傾ける必要があります。Apple Vision Proの収益貢献: 2024年2月に米国発売となったVision Proの売上寄与が初めて今四半期に表れる見込みです。ただし前述の通り販売台数はごく少数に留まっているため、四半期売上(908億ドル※前年同期)に占める割合は数十億円程度とごく僅かと推測されます。それでも「Wearables, Home and Accessories」セグメントにおいて前年同期比の増減要因として触れられる可能性があります。むしろ重要なのは、アップルが決算説明でVision Proについて今後の販売国拡大や開発計画に何らかのアップデートを示すかどうかです。6月末には日本や欧州での発売も予定されており、その準備状況や初期ユーザーの反応などが語られれば、今後の収益モデルを占う手がかりとなります。仮に需要が想定以上に低迷し続ける場合、在庫や関連費用が業績圧迫要因となりかねず注意が必要です。投資判断としては現時点でVision Proに過度な期待を織り込むのは禁物ですが、長期的なプラットフォーム戦略として注視する価値はあります。ガイダンス修正の有無: アップルはパンデミック以降、正式な数値ガイダンスの提供を控えていますが、決算時に次四半期の売上トレンドについて定性的な見通しを示すことがあります。前回決算では「2025年1-3月期の売上高は為替影響を除けば中〜低シングル(一桁)台の成長」との見込みが示唆されました。今回その見通しに変化があるかどうか、例えば最近の関税問題や中国情勢を受けて保守的に下方修正するのか、あるいは新興国の好調や為替追い風で強気のトーンを維持するのかがポイントです。仮に経営陣が先行きに慎重姿勢を強めれば、将来成長への不安から株価は上値が重くなる可能性があります。逆に「業績は堅調に推移している」「需要は予想通り」といった自信を示せば、市場心理の改善につながるでしょう。特に今年後半にはiPhone新モデルや廉価版Vision Proの噂もあり、中長期見通しについて言及があるか注目です。加えて、例年この時期には新たな自社株買い枠の発表がなされる傾向があります。前述のように昨年は追加1100億ドル規模の買い戻しを決定しており、今回も巨額の資本還元策が示されれば株価の下支え要因となるでしょう。以上のポイントを総合すると、今回の決算は「減速する中国をその他地域やサービス収入で補えるか」がテーマといえます。iPhone販売台数やサービス収入の着実な伸びが確認できれば、アップルは逆風下でも成長持続可能との評価から株価にプラスです。一方、中国需要悪化やAI対応の遅れが響いて弱い決算となれば、一時的に株価が調整するリスクもあります。ただアップルは豊富なキャッシュを背景に積極的な株主還元と長期視点の事業投資を続けており、中長期の企業価値は底堅いと見る向きも多いです。個人投資家としては、決算数字そのものだけでなく経営陣のコメントや市場環境の変化に注意を払い、目先の株価変動に惑わされず長期的な視点でアップルの戦略と成長余地を評価することが肝要でしょう。

【マイクロソフト決算みどころ】Azureの成長率とAI投資効果が焦点(Microsoft)
本記事では、マイクロソフト(Microsoft)の2024年第4四半期決算を振り返り、4月30日に控える2025年第1四半期決算の見どころを解説します。マイクロソフトの2024年第4四半期決算は、売上高が前年比+12%の696億ドル、EPS3.23ドルと好調でした。Azure売上は前年比31%増で、特にAI関連需要が伸びを牽引しました。生成AI「Copilot」の利用は急拡大し、AI関連ビジネス全体で年間130億ドル規模に達しています。2025年に向けて約800億ドルのデータセンター投資を計画し、OpenAIとは2030年までの新提携契約を締結して競争力を維持する戦略です。マイクロソフトは通常、四半期ごとに売上高などの見通しレンジを提示しますが、今回そのレンジが上方修正されるかどうかが焦点です。もし経営陣が「予想以上に需要が強い」として将来ガイダンスを引き上げれば、市場は業績加速のシグナルと受け取り株価上昇要因となるでしょう。特にAzureやAI関連収入の強気見通しが示されれば評価は高まります。反対に、慎重な見通しや弱気なトーンが出れば、短期的に失望売りを招くリスクがあります。前回はAzure成長見通しがやや保守的だったため株価下落につながりました。今回はその反省も踏まえ、どの程度楽観度合いを調整してくるか注目です。前回決算(2024年第4四半期)ハイライト2024年第4四半期(10-12月)のマイクロソフト決算は、売上高・利益が堅調な成長を示しました。売上高は前年同期比+12%の696億ドルと市場予想を上回り、純利益は1株当たり3.23ドル(前年比+10%)を計上しています。主要事業セグメントの業績も概ね好調でした。インテリジェントクラウド部門(Azureなど): クラウドプラットフォーム「Azure(アジュール)」の売上は前年同期比31%増と高い伸びを維持しました。特に生成AI関連のクラウド需要が急増しており、この四半期のAzure成長率31%のうち13ポイントはAIサービス(大規模AIモデルの利用)によるものです。クラウド全体の収益は409億ドル(+21%)に達し、マイクロソフト全社の売上を牽引しています。プロダクティビティ&ビジネスプロセス部門(Officeなど): 「Microsoft 365(旧Office)」「Dynamics 365」やLinkedInなどを含むこの部門も前年同期比+14%と堅調でした。企業向けMicrosoft 365クラウド売上が+16%と引き続き2桁成長し、個人向けMicrosoft 365も加入者数増加で+8%伸びています。これは在宅勤務やデジタルトランスフォーメーション需要に支えられたものです。モアパーソナルコンピューティング部門(Windowsやデバイスなど): 個人向け製品部門の売上は147億ドルで横ばいでした。内訳を見るとWindows OEM(PCメーカー向けライセンス)売上は+4%と微増し、市場のPC需要低迷から持ち直しつつあります。一方、Surfaceなどデバイス売上は減少しましたがXboxコンテンツサービスは+2%と小幅増、また検索広告(Bingなど)は+21%と好調でした。検索広告の伸びには、AI搭載検索機能(Bing Chatなど)の強化が寄与した可能性があります。生成AI「Copilot(コパイロット)」の拡大状況: 決算説明会でサティア・ナデラCEOは、生成AIを活用した新サービス群「Copilot」の利用が急速に拡大していると強調しました。マイクロソフトのAI関連ビジネス全体は年換算130億ドル規模に達し、前年比+175%という爆発的な成長を示しています。例えばGitHub Copilot(プログラミング支援AI)は企業利用が前年の3倍近くに増え、年間20億ドル規模の収益ペースに到達しました。また2023年後半に提供開始したMicrosoft 365 Copilot(オフィスAIアシスタント)は、企業ユーザーの日次利用者数が四半期で2倍に増加するなど過去のMicrosoft 365製品の中でも最速の広がりを見せています。Copilot導入企業の多くが追加ライセンスを継続購入していることも明らかになり、生成AIが既存製品の付加価値向上と収益拡大に貢献し始めていることが示唆されました。株価の反応: 前回決算発表直後のマーケットの反応はややネガティブでした。好調な売上・利益にもかかわらず、Azure成長率の先行きに慎重な見通しが示されたことや、巨額のAI投資負担への懸念から、発表翌日の株価は一時約4.5%下落しました。特にクラウド事業の成長鈍化(Azureの成長率が市場予想を下回ったこと)や、次四半期のAzure売上成長見通しが31~32%と期待より低めに示された点が失望を誘いました。また、「AIブーム」に沸くテック業界全体でデータセンター投資競争が激化し、中国企業による低コストのAIモデル参入も報じられたことから、将来的な価格競争(クラウドAIサービスの値下げ競争)への警戒感も広がりました。こうした理由で短期的には株価が調整しましたが、それでも決算後の株価水準は前年同期比でなお上昇基調にあり、長期的なAI成長期待から投資家の信頼は維持されています。前回決算以降の主なニュースとトレンド2025年初頭から決算発表までの間、マイクロソフトを取り巻く状況では生成AIサービスの展開加速とパートナー戦略・設備投資に関する重要なニュースが相次ぎました。生成AIサービスの進展とOpenAIとの提携動向前回決算後もマイクロソフトは生成AI搭載サービスの拡充を積極的に進めています。Windows 11への「Windows Copilot」統合や、Dynamics 365向けのAI支援機能、新たなBing Chatの機能強化など、個人から企業まで幅広い製品にAIを組み込む戦略が継続しました。企業のIT担当者の関心も高く、ある調査では95%のCIOが今後12か月でマイクロソフトの生成AI製品を採用すると回答しており、この割合は1年前の63%から大きく上昇しています。生成AIは一過性のブームではなく、企業ITに本格浸透する段階に入りつつあると言えるでしょう。こうした中、ChatGPT開発元のOpenAIとの提携関係にも新たな動きがありました。2024年末にはOpenAIの経営体制を巡る騒動がありつつも、マイクロソフトは引き続きOpenAIの主要パートナーとして協業を深化させています。2025年初め、マイクロソフトとOpenAIは2030年までの新たな提携契約を結び直し、OpenAIがマイクロソフト以外のクラウドも一部活用できる柔軟性を持たせる一方で、マイクロソフトは優先交渉権を保持する内容となりました。この契約により、マイクロソフトはOpenAIの先端AI技術(GPT系モデルなど)の独占的な商用利用権を引き続き得ると同時に、OpenAIが他社クラウドを追加利用する場合でもマイクロソフトが最優先で提供機会を得る権利(ROFR)が確保されています。実際、OpenAIはオラクル(Oracle)との間で新たなデータセンター利用契約を締結しましたが、OpenAIの商用モデル提供の大部分は今後もマイクロソフトAzure上でホスティングされる見通しです。つまり競合他社とも協力しつつ、マイクロソフトはOpenAIとの強固なパートナーシップと技術優位性を維持する戦略です。この提携再構築により、マイクロソフトのCopilot各種サービスにはOpenAIの最先端モデルを引き続き優先的かつ独占的に組み込めるため、同社のAIサービス競争力は今後も高い水準に保たれるでしょう。クラウド/AIインフラへの巨額投資と株主還元方針生成AI需要の急拡大に対応するため、マイクロソフトはクラウドインフラへの設備投資を大幅に増強しています。その規模は驚くべきものです。2025会計年度(2024年7月~2025年6月)に約800億ドル(約11兆円)をデータセンター増強に投じる計画であることを、ブラッド・スミス副会長が明らかにしました。この800億ドルのうち半分以上は米国内の施設拡充に充てられる予定で、残りも欧州やアジアなど世界各地のクラウド拠点強化に投資されます。実際、2024年10-12月期までにAI需要が既存設備の限界に達したため、同社は2025年初めまでに約20億ドルの追加投資を実行しデータセンター建設を加速しました。この四半期の設備投資額は前年同期の2倍近い226億ドルに達し、市場予想(約209億ドル)を上回るペースで資本投入しています。さらに今後も「需要に応じて四半期ごとに継続的な増強を行う」と最高財務責任者(CFO)のエイミー・フッド氏は述べており、少なくとも2025年中は大規模投資が続く見通しです。巨額投資により短期的な減価償却負担やフリーキャッシュフローへの影響が懸念されるものの、経営陣は中長期的視点で利益率向上に繋がると強調します。実際、クラウドとAIのインフラは共通のアーキテクチャ上に構築されており、AI用途向けに先行投資しても規模の経済が働くことで長期的な収益性向上(オペレーティングレバレッジの確保)が可能としています。フッドCFOは「クラウド需要とAI需要の両方を一体的に捉え、需要動向に応じて柔軟にコスト構造を調整する」方針を語っており、目先の利益率に過度に囚われず将来の成長機会に備える姿勢です。また、社内ではコスト削減のためAIモデルの効率化(演算最適化による処理コスト低減)や自社開発AIチップの活用なども進めており、ナデラCEOは「最新モデルでコスト性能が10倍改善した」と述べるなど、投資効率向上にも取り組んでいます。膨大な投資額には驚きもありますが、これは生成AI時代の「設備競争」に勝つための先行投資と言え、マイクロソフトがクラウド/AI基盤で主導権を握り続けるための布石と捉えられます。一方、こうした成長投資を進めながらも株主還元は堅実に継続しています。マイクロソフトは潤沢なキャッシュフローを背景に、自社株買いと配当を組み合わせた安定的な株主還元を長年実施してきました。前回四半期も約97億ドルを配当と自社株買いの形で株主に還元しており、投資と還元のバランスを保っています。2023年には四半期配当を約10%増額しており、増配は連続20年以上続く見込みです。自社株買いも大型の承認枠の下で継続中で、株価下落局面では機動的に買い増す姿勢を示しています。つまり、攻めの投資と守りの還元を両立する財務戦略が採られており、この点は長期投資家にとって安心材料となるでしょう。今回(2025年第1四半期)決算の注目ポイント最後に、4月下旬に発表予定の2025年第1四半期(1-3月期)決算で個人投資家が特に注目すべきポイントを整理します。今回は生成AIブームの中で迎える初めての年明け決算となり、AI需要がどこまで業績数値に表れているかが焦点です。以下の観点が重要でしょう。Azureクラウド成長率の行方: マイクロソフト全体の成長エンジンであるAzureの伸びが加速に転じるか、それともさらに減速するかは株価へのインパクトが大きいポイントです。前回発表時に示された今四半期のAzure売上ガイダンスは前年比+31~32%成長で、直前四半期(+31%)からほぼ横ばい~微減速の見通しでした。市場予想(+33%前後)より控えめなため、実際の結果がこれを上回るかどうか注目されます。生成AI需要の追い風で上振れるようなら成長鈍化懸念が和らぎ株価押上げ材料となり得ます。一方、依然として一部大口顧客のクラウド支出抑制や販売パートナー経由案件の弱含みが続けば、Azure成長率が予想を下回り再度失望売りを誘うリスクもあります。特に今年後半にかけてはGoogleやAWSとのクラウド競争に加え、中国発の低コストAIモデル(例:DeepSeek)の登場で価格競争が激化する懸念も指摘されています。Azureの成長サプライズとともに利益率(クラウド部門の営業利益率)がどう推移するかも見逃せません。AI用途拡大に伴う電力・設備コストでクラウドの利益率が低下していないか、経営陣がどの程度効率化できているかが、投資家の評価を左右するでしょう。Copilot(生成AI)の収益貢献度: Microsoft 365 CopilotやGitHub Copilotなど、追加料金が発生する新AIサービスがどの程度売上に寄与し始めているかもポイントです。現時点ではCopilot関連の売上規模はAzure全体に比べれば小さいですが、着実に積み上がりつつあります。すでにGitHub部門ではCopilotが収益成長の40%以上を占めるまでに拡大しており、Office製品群でも大企業を中心にCopilot有償ライセンスの採用が進んでいます。今回の決算発表やカンファレンスコールで、例えば「Microsoft 365 Copilotの契約社数や利用ユーザー数」「Copilot搭載製品のアップセル(上位プランへの移行)状況」などについて言及があるか注目しましょう。具体的な数値開示がなくとも、経営陣がCopilotの商業的成功に自信を示すかどうかは重要です。特に「ユーザー当たり単価(ARPU)の押し上げにつながっている」といったコメントが出れば、今後数年間の収益押上げ要因として好感される可能性があります。一方、「まだ収益貢献は限定的」「普及に時間を要する」といったトーンであれば、市場の期待先行に対する警戒感から短期的に株価の重荷となるかもしれません。投資家としては、Copilotが将来のサブスクリプション収入増に寄与する成長ストーリーの確度を見極めたいところです。PC需要とWindows業績の底打ち: マイクロソフトの業績のうちWindows関連売上(Windows OEMやSurfaceなど)は、世界PC市場の需要動向に左右されます。2022年から2023年前半にかけてPC出荷台数は減少が続きましたが、直近では企業のハード更新や在庫調整の一巡で市場が回復傾向にあります。実際、2024年Q4(10-12月)の世界PC出荷は前年比+1.8%、続く2025年Q1(1-3月)は+4.8%と、約2年ぶりの増加に転じました。この追い風を受け、前回は横ばいだったWindows OEM売上も今四半期は前年同期比でプラスに戻る可能性があります。CFOも「PC市場は予想通り持ち直している」とコメントしており、今回の決算ではモアパーソナルコンピューティング部門全体での増収が期待されます。特にWindows 10のサポート期限が2025年に迫る中、企業のWindows 11搭載PCへの更新需要が本格化すれば、Windows Commercial(法人向けWindows)の収益も伸びるでしょう。ただし、依然として消費者向け需要の弱さや、MacやChromeOSとの競合、部品供給問題など不透明要因も残るため、大幅成長とまではいかない見通しです。いずれにせよPC事業が最悪期を脱したかどうかは、マイクロソフトの安定収益基盤を占う上で注目されます。ガイダンス修正の有無: 決算発表時に示される次四半期以降の業績見通し(ガイダンス)も株価に直結します。マイクロソフトは通常、四半期ごとに売上高などの見通しレンジを提示しますが、今回そのレンジが上方修正されるかどうかが焦点です。もし経営陣が「予想以上に需要が強い」として将来ガイダンスを引き上げれば、市場は業績加速のシグナルと受け取り株価上昇要因となるでしょう。特にAzureやAI関連収入の強気見通しが示されれば評価は高まります。反対に、慎重な見通しや弱気なトーンが出れば、短期的に失望売りを招くリスクがあります。前回はAzure成長見通しがやや保守的だったため株価下落につながりました。今回はその反省も踏まえ、どの程度楽観度合いを調整してくるか注目です。また、巨額設備投資について「当面は高水準が続く」旨の発言が出た場合も、短期利益圧迫要因と受け止められる可能性があります。一方で、「投資ピークアウトの見通し」や「AIコストの効率化進展」など前向き材料が語られれば、先行投資への不安が和らぐでしょう。総じて、経営陣の口ぶりや示唆するシナリオを注意深く読み取ることが肝要です。以上、マイクロソフトの最新決算に関する注目点を整理しました。前回までの実績を見ると、生成AIブームを追い風に2桁増収増益を維持しつつあり、財務的にも体力十分であることが分かります。一方で、膨大なAI関連投資や競争激化など克服すべき課題も見えています。株価は2023年にAI期待で大きく上昇した後、2025年初には調整が入りましたが、依然として長期成長ストーリーに対する信頼は揺らいでいません。個人投資家としては、今回の決算で示される数字やコメントを材料に、マイクロソフトが描く「AI時代の持続的成長シナリオ」の現実味を評価すると良いでしょう。短期的なアップダウンに一喜一憂するより、クラウド×AIでの競争優位と安定した収益基盤の両面を兼ね備えた同社の中長期的なポテンシャルに注目して判断することをおすすめします。

【メタ決算みどころ】生成AI加速とRL赤字拡大、投資家注目の展望と課題(Meta)
本記事では、メタ(Meta)の2024年第4四半期決算を振り返り、4月30日に控える2025年第1四半期決算の見どころを解説します。Metaの2024年第4四半期決算は、売上高483.9億ドル(前年比+21%)、純利益208億ドルと好調でした。広告事業は堅調で、DAU(デイリーアクティブユーザー)は33.5億人に達し、AIに注力する2025年に向けて600~650億ドルの大規模投資を計画しています。一方でReality Labs部門は赤字が続いており、2024年は約177億ドルの損失を計上しました。今回のMeta決算は「堅調な広告収益成長」と「膨らむ先行投資」の綱引きとなりそうです。市場予想通りの増収増益であれば株価への影響は中立的でしょうが、どちらかのサプライズが出れば大きく動く可能性があります。特にガイダンスや経営陣コメントによって今後数四半期の見通しが変わるため、決算当日はボラティリティ(変動)が高まることも念頭に置く必要があります。前回決算(2024年第4四半期)のハイライト2025年1月29日に発表された2024年10-12月期(Q4)の決算は、市場予想を上回る好調な内容でした。主なポイントは以下の通りです。力強い業績: 売上高は483.9億ドル(約6.4兆円)で前年同期比+21%と大きく増加しました。純利益は208億ドル、EPS(一株当たり利益)は8.02ドルとなり前年から50%もの高成長となりました。デジタル広告事業が堅調で、広告インプレッション(表示回数)は前年同期比+6%、広告単価(広告1件あたりの平均価格)は+14%と上昇に転じています。これは、Appleのプライバシー規制強化による逆風を乗り越え、広告ターゲティング精度や需要が改善したことを示唆します。ユーザー動向とエンゲージメント: ファミリー全体(Facebook, Instagram, WhatsAppなど)のDAUは33.5億人と前年比+5%の伸びを維持しました。特にInstagramの短編動画機能であるReels(リール)は利用が拡大しており、1日あたりの動画シェア数が45億回を超える盛況ぶりです。また、2023年夏に公開した新SNSアプリThreads(スレッズ)は月間利用者数が3億2,000万人に達し、1日あたり100万件以上の新規登録が続いています。さらに、傘下のメッセージングサービスWhatsAppも収益化余地の大きい米国市場で月間1億人超のユーザーを獲得するまでに成長しました。Reality Labs部門の赤字拡大: 一方、メタバース関連の研究開発を担うReality Labs (RL)部門の収益は伸び悩んでいます。Q4のRL売上高は約10.8億ドルに留まる一方、営業損失は49.7億ドルに達し前年同期より赤字幅が拡大しました。同部門はVRヘッドセット「Quest」や仮想空間サービス「Horizon」への巨額投資を続けていますが、2024年通年のRL赤字は約177億ドル(約2.3兆円)に上り、2020年以降の累積損失は420億ドル(約5.5兆円)超とも報じられています。本業で稼いだ利益をメタバースに注ぎ込む構図が続いており、投資家の間では採算改善への懸念も根強い状況です。株価の反応: 前回決算発表後、Meta株は時間外取引で約4%上昇しました。売上・利益の予想超過や+21%という高い増収率が評価され、今後の大型投資計画(2025年はAI分野に最大650億ドルの投資予定)の実行力への不安が和らいだためです。実際、翌日の市場でも株価は上昇基調で推移し、決算前に比べて堅調な値動きとなりました。昨年からの業績回復を背景に、Meta株はすでに前年同期比で大幅上昇し高値圏にあります。こうした状況下、投資家は引き続きファンダメンタルズ(基礎的収益力)の改善が続くか注目しています。前回決算以降の主なニュース前回の決算発表(1月末)から今回の発表までの約3ヶ月間に、Metaを取り巻く環境ではAI戦略の進展や広告事業のトレンド、メタバース投資とコスト構造に関する重要なニュースがいくつかありました。それぞれ順に整理します。生成AI開発の加速とLlamaの進展: Metaは「AIの年」と位置付ける2025年に向け、AI分野で攻勢を強めています。ザッカーバーグCEOは「今年は非常に重要な年になる」と述べ、パーソナライズされたAIアシスタントを10億人以上に届ける計画を示しました。実際、同社が昨年提供開始した対話型AIの「Meta AI」は、FacebookやWhatsApp上で利用できるチャットボット機能ですが、すでに月間7億人以上のユーザーが利用するまで急拡大しています。MetaはこのAIアシスタントを強化するため、スタンドアロン(独立)型のAIチャットボットアプリを2025年第二四半期にもリリースする計画と報じられています。さらに、このAIに有料のプレミアム機能を設けたサブスクリプションサービスのテストも予定しているとのことです。自社開発の大規模言語モデルLlama(ラマ)についても、オープンソース戦略を継続中です。2023年公開のLlama2は無償提供により開発者コミュニティで広く採用され、競合のOpenAIに対抗するエコシステムを育てる狙いがあります。次世代のLlama 3やマルチモーダル対応のLlama 4の開発も順調とされ、今年中に最先端のAIモデルを公開する計画が示唆されています(Llama 4は画像や音声も扱える「オムニモデル」として開発中)。こうしたAI開発を支えるための投資も桁違いです。Metaは2025年の資本的支出(設備投資)を600~650億ドルと見込んでおり、この大半をAI関連インフラに投じる計画です。これは前年(推定380~400億ドル)の1.5倍以上という規模で、巨大データセンターの建設やAI人材の積極採用を含んでいます。米国政府主導でOpenAIや大手が数千億ドル規模のAI投資を表明する中、「決してAI競争で後れを取らない」という強いメッセージを市場に発信している状況です。これらの先行投資は短期的には費用増となりますが、長期的に「AIアシスタントの普及やオープンソース戦略が優位に立てば、広告・利用時間の増加など間接収益につながる」と期待されています(※なお直接的なマネタイズ(収益化)は数年先になるとの経営者の発言もあり、足元では将来の成長余地として注目されます)。広告事業の最近の動向: 広告収入はMetaの収益の約97%を占める中核事業です。前回Q4は広告単価が前年比+14%と急回復しましたが、こうしたトレンドが2025年も続くか注目されています。広告単価上昇は、AIを活用したターゲティング改善や、リール動画など新広告枠の収益化が奏功した結果とみられます。広告主の需要環境も、世界経済の底堅さを背景に安定成長軌道に戻りつつあります。実際、競合のマイクロソフトやグーグルなど他社の最新決算でもデジタル広告需要は堅調で、特にAI導入による広告効果の向上が売上を押し上げています。ユーザー数についても、Meta全体の利用者は引き続き増加基調です。Facebook単体のMAU(月間アクティブユーザー)は世界全体で30億人の大台を超え、ファミリーアプリ全体のMAUは40億人規模に迫っています。発展途上国で新規ユーザーが伸びているほか、先進国でもInstagram ReelsやThreadsなど新サービスを通じ若年層のエンゲージメントを引き留めています。こうした利用者基盤の拡大は広告インプレッション増につながり、たとえユーザー1人あたりのマネタイズ(収益化)が横ばいでも全体の広告収益成長を支えます。ただし、競合環境には注意が必要です。短尺動画分野ではTikTokとの競争が続き、Metaはクリエイターへの収益還元策や機能改善で対抗しています。また規制面のリスクも潜在しています。EUでは個人情報保護や独占規制の強化(例: デジタル市場法によるターゲティング広告規制検討など)、米国でもTikTok禁止論や反トラスト法の議論があり、業界動向によってはユーザーデータ活用や広告ターゲティングに制約が生じる可能性があります。足元では顕在化していませんが、今後のニュースに留意が必要です。メタバース関連投資と経費構造: Metaは2022~2023年にかけ「経営の効率化」(大量リストラ等)を断行しましたが、その一方でメタバースへの長期投資は継続しています。ザッカーバーグ氏は「2025年はメタバースにとっても重要な転換点になる」と述べており、高精細な次世代VR/ARデバイスや仮想空間プラットフォームの完成度が飛躍的に高まる見通しを示しています。実際、昨年発売のQuest 3ヘッドセットは好評で、VR利用者数(Horizonなど)は着実に増えているとのことです。とはいえ、Reality Labs部門の巨額損失が短期で解消する見込みは立っていません。2024年通年で約1.77兆円の赤字となったRL事業ですが、2025年もさらに損失が拡大する可能性があると以前から会社側は認めています(2023年時点で「来年はRL損失がさらに大きくなる」との見解を示していました)。このため、コア事業であるファミリーアプリ部門から得られる営業利益を引き続きメタバースに振り向けざるを得ず、事業間の収益ミックスという点で投資家の賛否が分かれています。もっとも、足元ではAI投資が話題をさらっており、メタバース関連の話題性は低下しています。Meta経営陣も対外的にはAIの成果を前面に出す戦略を取っており、メタバースについては「長期の種まき」のフェーズと位置付けて腰を据えている状況です。その意味で、Reality Labs部門は「将来の成長オプション」と捉えて、中核の広告ビジネス動向と切り分けて評価する視点が重要です。経費・人員と株主還元策: 前回決算で示された2025年の費用見通しは、総コストが1,140~1,190億ドルと前年(約951億ドル)から約20%増になるというものでした。特にサーバー増強やAI専用ハードウェアなどインフラ関連費用が最大の増加要因で、次いで人件費(高度人材の追加採用)がコスト押し上げにつながるとされています。実際、Metaの従業員数は2024年末時点で74,067人となり前年から10%増加しました。リストラ完了後に優先分野(インフラ、マネタイゼーション、RL、AIなど)で再び採用を拡大しているためです。もっとも、費用増に対しては減価償却期間の延長など会計上の効率化策も講じています。例えばサーバー設備の耐用年数見直しにより、2025年の減価償却費を約29億ドル削減できる見込みで、この効果はガイダンスに織り込み済みです。一方、株主還元については引き続き自社株買いを中心に実施しています。Metaは配当は行っていませんが、2024年通年で297.5億ドルもの自己株式を買い戻しました。特に株価が低迷していた2022年末~2023年にかけて大規模買い戻しを実施し、その後株価が反騰したこともあり、結果的に株主価値向上に寄与しました。直近の四半期(2024年Q4)は買い戻しを一時停止しましたが、依然として現金同等物777.8億ドルの潤沢な手元資金と強力なフリーキャッシュフロー(2024年Q4だけで131.5億ドルのFCF)を有しており、将来的にも必要に応じて機動的に自社株買いを実施できる体力があります。株主還元策の充実は個人投資家にとっても安心材料と言えるでしょう。以上のように、前回決算から今回までにAI戦略の前進や収益構造の変化がみられました。それでは、これらを踏まえ今回の2025年Q1決算で具体的に何をチェックすべきか、そして株価に与える可能性のある影響について考えてみます。今回(2025年第1四半期)決算の注目ポイントと株価への影響2025年1-3月期(Q1)決算で投資家が注目すべきポイントは、大きく業績の持続成長性と費用増・投資のバランスに関する指標です。それぞれ株価への影響を念頭に押さえておきましょう。広告収益の成長率: コア事業である広告収入の伸びが引き続き二桁成長を維持できるかが最大の焦点です。前年同期(2024年Q1)は売上高+27%という高成長を記録しました。この反動もあり、会社側は今期Q1の売上ガイダンスを395~418億ドル(前年比+8~15%増)とやや控えめに提示しています。市場コンセンサスでは売上410億ドル前後を見込む声が多く、広告事業の減速感がどの程度かを慎重に見極める展開です。具体的には、広告インプレッション数と平均単価の内訳動向に注目です。前述の通り2024年Q4には単価が+14%上昇に転じましたが、景気環境や広告在庫(広告枠)拡大余地によってはこの単価上昇が鈍化する可能性もあります。一方でリールやメッセージ系広告など新フォーマットの埋め込みが進めば、広告の総露出量(インプレッション)はさらに増加できるでしょう。したがって、「インプレッション増 × 単価増」の両輪で前年超えの成長率を維持できているかがポイントになります。仮に成長率が一桁台前半まで減速するようだと、高成長期待で上昇してきた株価にはマイナス材料となり得ます。一方、二桁成長キープや市場予想超えの売上となれば、ポジティブサプライズとなり株価押上げ要因となるでしょう。ユーザー数(MAU/DAU)の動向: 利用者指標としてファミリー全体のDAU/MAUや地域別のユーザー数にも注目です。SNS市場が成熟した中でも、Metaは引き続きユーザー基盤を拡大しています。前回時点でDAU33.5億人(+5%)でしたが、今回も同程度の前年比成長を維持できているか確認しましょう。特に北米や欧州など成熟市場でユーザー数が飽和状態にあるため、今後はインドや東南アジアなど新興市場でのユーザー増加が収益源拡大の鍵です。ユーザー数そのものは短期株価への直接インパクトは小さいものの、「Facebook離れ」や「若年層離れ」が起きていないかを示す重要なヘルスチェック指標です。もし予想外にアクティブユーザー数が減少に転じるようなことがあれば、長期的な成長ストーリーに黄信号が灯りかねず、ネガティブ材料となります。ただ現状、Threadsなど新サービスで補完しつつFacebook/Instagramのエコシステム全体でユーザー滞在時間を維持しているため、大きな崩れはないと見られています。費用増加と利益率のバランス: コスト構造の変化にも目を配る必要があります。Metaは今年、AIインフラやReality Labsへの投資拡大により費用が前年より大幅増となる計画です。今回Q1では、その兆候がどの程度数値に現れているか注視しましょう。具体的には、営業利益率や営業費用の前年比に注目です。2024年Q4は売上+21%に対し費用+5%増に抑えたため、営業利益率は48%と非常に高い水準でした(一時的な法務費用減少の恩恵もあり)。しかし2025年は先行投資モードに入るため、利益率の低下は避けられません。市場予想ではQ1のEPSは約5.22ドルと前年同期(4.71ドル)から+11%程度の増益を見込んでいます。増収率の鈍化を考えると妥当な伸びですが、裏を返せば費用増を吸収して二桁増益を維持できるかが試金石です。もし人件費やインフラ費が想定以上に嵩み、EPS成長が止まる/減益となれば失望売りを誘発しかねません。一方、費用の伸びが計画内に収まり増益継続となれば、利益率低下への不安は和らぐでしょう。また、経営陣の発言にも注目です。ザッカーバーグ氏や李(スーザン・李)CFOが決算カンファレンスで「効率的な成長」や「コスト管理」に言及すれば投資家は安心しますが、逆にAI・メタバースへのさらなる投資強化ばかり強調すると短期的には不安視される可能性があります。昨年の同時期(2024年Q1)決算では、好決算にもかかわらず翌期ガイダンスの弱さと費用増計画が嫌気され株価が時間外で最大17%急落した経緯があります。今回も同様に、将来見通しに市場予想との差異があれば株価は敏感に反応するでしょう。特にQ1発表時にはQ2売上ガイダンスが示される見込みで、ここで強気な見通し(例えば二桁台の増収継続)が出ればポジティブ、弱気な見通し(ひと桁前半の成長など)ならネガティブに作用する可能性があります。Reality Labs部門の赤字動向: メタバース部門(RL)の損益にも引き続き目が離せません。Q1は季節要因でVRデバイスの販売が落ち込みやすいため、RL売上は前四半期から減少する可能性があります。その一方で研究開発費は引き続き重くのしかかるため、四半期で数十億ドル規模の赤字が継続すると見られます。前述のように経営陣は長期視点で取り組んでいるため、短期での収支改善は期待薄です。しかし、投資家としては赤字幅がさらに拡大していないか確認することが重要です。たとえば前年同期(2024年Q1)のRL損失と比べてどの程度増減したか、会計上の特損などが含まれていないか、といった点です。赤字幅縮小や兆候でも見られれば好感される可能性がありますが、逆に損失拡大が続くようだと株価の重荷となり得ます。また、メタバース関連の定性的な進捗報告(「ユーザー数が○○に増えた」「新製品ロードマップが順調」等)があれば、将来への手応えとして評価材料となります。今回の決算カンファレンスでも、ザッカーバーグ氏がメタバースについてどのようなアップデートを語るか注目です。生成AI製品の収益貢献度: 前述のAIアシスタント「Meta AI」やクリエイター向けAIツールなど、生成AI関連の新サービスがどの程度収益に寄与しているかも気になるポイントです。現状では、これらAI機能は主に無料提供または付加価値サービスとしてプラットフォーム内エンゲージメント向上に寄与している段階です。そのため直接的な売上計上はごく限定的ですが、間接的な効果(ユーザーの滞在時間増加→広告露出増、広告主がAI生成コンテンツで広告制作効率向上→広告出稿増など)が表れている可能性があります。投資家としては数値への直接インパクトよりも、経営陣のコメントに注目しましょう。例えば「Meta AIの利用が広告ビジネスに好循環を生んでいる」や「将来的にAI機能に課金オプションを導入予定」といった発言が出れば、今後の収益拡大シナリオを描きやすくなります。逆に「これらAIのマネタイズ(収益化)は数年先になる」というスタンスであれば、短期的には収益押し上げ材料にならないため株価への寄与も限定的と見るべきでしょう。もっとも、生成AI分野は現在市場の関心が極めて高いテーマであり、たとえ収益貢献が小さくともポジティブな戦略が示されれば投資家心理を改善する効果があります。昨今は他社(MicrosoftやGoogleなど)も生成AIの成果をアピールしていますが、Metaも負けじとユーザー数やユースケース拡大を発表してくると予想されます。以上を総合すると、今回のMeta決算は「堅調な広告収益成長」と「膨らむ先行投資」の綱引きとなりそうです。市場予想通りの増収増益であれば株価への影響は中立的でしょうが、どちらかのサプライズが出れば大きく動く可能性があります。特にガイダンスや経営陣コメントによって今後数四半期の見通しが変わるため、決算当日はボラティリティ(変動)が高まることも念頭に置く必要があります。個人投資家への示唆としては、Metaのビジネスは広告という安定収益源を核に据えつつ、AIやメタバースといった将来領域への投資を並行して進める二面性があります。短期的な株価ドライバーは依然として広告業績とコスト管理ですが、長期成長ドライバーとしてAI・メタバースの進捗も無視できません。決算発表ではこの両面の情報をバランス良く把握し、自分の投資スタンス(短期か長期か)に応じて評価すると良いでしょう。たとえば短期目線では「広告収入やEPSが市場予想を上回るか」「費用増がコントロールされているか」に注目し、長期目線では「ユーザーエコシステムの維持・拡大」や「AI・メタバースの将来ビジョン」が確認ポイントとなります。2025年に入りテクノロジー業界はAIブームで活況を呈しています。そうした中、広告という収益源を持ちながらAIでも主導権を狙うMetaは、市場で大きな注目を集めています。今回の四半期決算はその評価を左右する重要なイベントです。結果如何では株価が大きく変動し得るため、上記のチェックポイントを踏まえて冷静に分析し、今後の投資判断に役立ててください。

【アルファベット決算みどころ】クラウド黒字維持とAI投資効果に注目(Alphabet)
本記事では、アルファベット(Alphabet)の2024年第4四半期決算を振り返り、4月24日に控える2025年第1四半期決算の見どころを解説します。2024年第4四半期決算は、売上高964.7億ドル(前年比+12%)を記録し、広告事業は堅調な成長を示しました。クラウド事業は前年比30%増と高成長を維持し、営業利益率17.5%を達成しました。2025年4月24日に発表予定のQ1決算では、検索広告の成長持続性、YouTube広告の伸び率、クラウド事業の収益性維持が注目されます。また、750億ドル規模のAI投資計画による収益・コストへの影響も重要な観点となっています。前回2024年Q4決算のハイライトアルファベット(Google親会社)が2月初旬に発表した2024年第4四半期(10-12月期)決算は、売上高が964億7000万ドルと前年同期比+12%増加しましたが、市場予想の965億6000万ドルにはわずかに届きませんでした。主力のデジタル広告事業は合計売上高724億6000万ドル(前年比+10.6%)と堅調で、検索連動広告が540億3000万ドル(+12.5%)と引き続き高い成長を示しました。YouTube(ユーチューブ)広告も104億7300万ドルに達し前年同期比+13.8%増と好調で、特に2024年末の米国選挙関連広告の追い風を受けたことが寄与しました。一方、クラウド事業の売上高は119億6000万ドル(+30%)と高成長を維持したものの、前四半期(+35%)から成長が鈍化し、市場予想(約121億6000万ドル)にも届きませんでした。それでもGoogle Cloud部門は2023年下期に悲願の黒字化を果たしており、2024年Q4の営業利益率(オペレーティングマージン)は約17.5%に達しています。これによりアルファベット全体の営業利益は前年同期比+31%増と大きく伸長し、1株当たり利益(EPS)も2.15ドルと市場予想の2.13ドルを僅かに上回りました。2024年Q4決算発表直後の株式市場の反応はネガティブでした。クラウドの伸び悩みと想定外の巨額投資計画が嫌気され、決算発表後の時間外取引で株価は約9%急落しました。これは同社が発表した2025年の大規模投資計画(後述)に対する投資家の警戒感も背景にあります。また、この決算を受けてから直近4月中旬までにアルファベット株は約24%下落しており、個人投資家にとっても慎重な状況認識が必要となっています。前回決算以降の主なニュースと業績動向生成AIモデルの展開と収益化: 前回決算後、Googleは対話型AI「Bard(バード)」をより高性能なAIモデル「Gemini(ジェミニ)」に改称し、生成AIサービスの本格的な収益化に乗り出しました。具体的には、新たに高度なAI機能を利用できるサブスクリプションプラン「Google One AIプレミアム」を開始し、月額19.99ドルで高性能モデル「Gemini アドバンスト(Ultra 1.0搭載)」へのアクセスを提供しています。このサービスには2TBのクラウドストレージ(月額9.99ドル相当)も含まれており、Microsoft/OpenAI陣営のChatGPT有料版に対抗する戦略です。生成AI(ユーザーからの指示で文章や画像などを生成するAI)を自社サービスに組み込むことで、Googleは検索やクラウド利用の活性化と新たな収益源の創出を図っています。実際、ピチャイCEOは検索結果にAI要約(生成AIによる回答)を表示することで検索利用が増加傾向にあると述べており、AIの活用がコア事業のエンゲージメント向上につながっていると強調しました。デジタル広告市場の動向: 広告業界全体では2023年後半から回復基調が見られ、アルファベットの広告売上も2024年を通じて持ち直しました。もっとも競合環境は厳しく、広告主のマーケティング予算がMeta(旧Facebook)やTikTokなどソーシャルメディアに流れる傾向も指摘されています。そうした中、YouTubeの動画広告収益は短尺動画(YouTube Shorts)の収益化や年末商戦・選挙広告の追い風もあってQ4に過去最高を記録しました。ただし選挙関連の特需は一過性であり、2025年Q1ではYouTube成長率の平常化が予想されます。一方、検索連動型広告は引き続き堅調で、特に小売やサービス分野での広告出稿が順調でした。総じて広告市場は持ち直しつつあるものの、経済環境の不透明さや他プラットフォームとの競争を踏まえ、アルファベットの広告事業が今後も二桁成長を維持できるかは注目されています。クラウド事業の競争力: Google Cloudは引き続き高成長を維持し、前年比30%前後の売上増を続けています。他社と比べても伸び率は高く、同四半期のMicrosoft Azureの伸び悩みやAmazon AWSの成長鈍化と対照的です。もっとも成長ペースは徐々に緩やかになりつつあり、市場ではクラウド収益の減速に敏感になっています。前回決算では「クラウドAIサービスの提供能力に一部制約があった」(十分なサーバー容量を用意できず需要に応えきれなかった)ことが示唆されており、これは裏を返せば需要が旺盛であるもののインフラ整備が追いついていない状況とも言えます。Googleは生成AI分野で後発の懸念もあったため、クラウド向けAI基盤(Tensorプロセッサやデータセンター)の増強に力を入れており、開発者向け大規模モデル「Gemini」の利用者数は半年で倍増(440万人)に達しました。クラウド事業は2023年に悲願の黒字化を達成し、コスト意識も高まっています。競合他社も含めクラウド各社が利益重視にシフトする中、Google Cloudが成長と収益性の両立をどこまで実現できるかが、今後の評価ポイントとなります。コスト削減と投資戦略: 前述の通り、アルファベットはAI分野で先行投資を加速させています。その一方で事業効率化にも取り組んでおり、不要不急の分野ではリストラ(事業再編や人員削減)も実施しています。2023年初頭に全社員の約6%に当たる12,000人の大規模レイオフを敢行したのに続き、2025年4月にもハードウェア部門を中心に数百人規模の追加削減が報じられました。Google担当者は「より俊敏で効率的な運営」を目的とした措置と説明しており、こうしたコスト削減努力が同社の利益率改善に寄与しています。実際、2024年末の従業員数は18.3万人程度と前年から横ばいで、人件費抑制に努めた結果、営業利益率は32%へと大きく改善しました。一方で、AI分野への設備投資は極めて大型であり、2025年には約750億ドル(約10兆円)を投資する計画です。この額は市場予想を30%近く上回る水準で、特にデータセンターや半導体チップなどAIインフラ構築に投じられます。投資家の中には巨額投資と利益圧迫への懸念からアルファベットの支出計画に批判的な声もあります。しかし経営陣は「AI利用コストは将来低減し、巨大な機会が拓ける」として攻めの投資を正当化しています。以上のように、前回決算以降、生成AIの商用展開や広告事業の動向、そして大胆な投資戦略とコスト管理が大きなトピックとなりました。今回(2025年Q1)決算での注目ポイントと株価への影響まもなく発表される2025年第1四半期(1-3月期)決算では、以下のポイントに市場の注目が集まります。検索広告の成長率: Google検索に連動する広告収入が引き続き二桁成長を維持できるかが最大の焦点です。前年同期は生成AI競合の台頭や景気減速懸念がありましたが、その後はAI導入で検索利用が増えているとのことで、2025年Q1も安定成長が期待されます。ただし、2024年Q1は前年の反動で売上が好調だったためベース効果があり、今回前年比の伸び率が鈍化する可能性もあります。経営陣は為替のドル高や2024年がうるう年だった反動(今年は2月の日数が1日少ない)による売上へのマイナス影響にも言及しており、そうした要因を除いたコアの成長力が問われるでしょう。もし検索広告の伸びが市場予想を下回るようだと、将来の競争激化への懸念も相まって株価には下押し圧力となります。一方、堅調な成長を示せば安心感から株価上昇要因となるでしょう。YouTube広告収益の動向: YouTubeの広告収入が引き続き増加トレンドを維持できるかも注目です。前四半期は選挙特需などもあって前年比+13.8%と伸びましたが、今回Q1ではそうした特殊要因がなくなります。ショート動画(Shorts)のマネタイズ改善やCTV(テレビ視聴)増加によって収益性が向上しているとはいえ、競合TikTokの台頭もあり油断できません。前年同期(2024年Q1)のYouTube広告は微増にとどまっていたため、今年Q1はある程度の前年比成長が見込まれますが、もし成長が失速すれば市場は動画プラットフォーム競争への不安を強めるでしょう。逆に堅調な増収を示せばGoogleのエコシステムの強さが評価され、株価にもプラスです。Google Cloudの収益性維持: 前述の通りGoogle Cloudは2024年に黒字転換しましたが、今回のQ1でその黒字を維持できるかが重要です。クラウド事業は一般に年末に予算消化で売上が伸びやすく、新年のQ1は季節的に伸びが緩慢になりがちです。しかし市場コンセンサスでは2025年Q1のクラウド売上は約123億ドルと前四半期(119億ドル)からの増加が見込まれており、需要自体は底堅いと予想されています。問題は利益率で、積極投資によるコスト増がどの程度響くかです。アナリスト予想ではクラウド部門の営業利益率は15%前後(前四半期17.5%)とされています。大きな設備投資を伴う分野だけに、仮に再び赤字に転落するようだと収益性への疑念から株価の逆風となりかねません。一方で黒字継続はもちろん、予想を上回る効率改善が示されれば、近年の投資拡大が正当化され株価にも追い風となるでしょう。AI関連コストと収益への貢献:生成AIや大型言語モデルへの投資が業績にどう表れてくるかも見逃せません。コスト面では、GPU/TPUなどAI用ハードウェアやデータセンター拡張による設備投資増がQ1から本格化します。前述のように2025年Q1だけで約160〜180億ドルもの設備投資を計画しており、減価償却費など固定費の増大が利益率を圧迫する可能性があります。またAIモデルを走らせるための電力やネットワークコストも無視できません。一方、収益面では、先述の有料版GeminiサービスなどAI由来の新収入がどの程度寄与し始めるか注目です。現時点ではこれら新規サービスの収益規模は限定的でしょうが、企業向けの生成AIソリューション提供(クラウド経由のモデル利用料)やGoogleワークスペースへのAI機能付加による単価上昇など、中長期でのマネタイズストーリーが描けるかが問われます。今回の決算発表やカンファレンスコールで経営陣がAI戦略による収益機会についてどのようなコメントをするかは、株価の将来見通しにも影響するでしょう。業績見通しとガイダンス: アルファベットは具体的な数値ガイダンス(業績予想)は公表しない方針ですが、決算会見で示唆されるトレンドや経営陣コメントから市場は今後の見通しを判断します。特に広告需給や景気動向に関する言及、そして設備投資計画や経費のコントロールについてのアップデートが注目されます。前回決算ではドル高や暦要因でQ1売上の逆風要素に言及がありましたが、今回その通りになったか確認されるでしょう。さらに、Q2以降の需要見通しやAI投資の進捗についてポジティブな示唆があれば、弱気に傾いていた市場心理を好転させる可能性があります。逆に慎重な発言や追加コストの表面化があれば、目先の利益成長鈍化懸念から株価にはマイナスに働くかもしれません。総合的に見て、2025年Q1決算はアルファベットが直面する「AI時代への先行投資」と「コア事業の安定成長」のバランスが問われる内容となりそうです。市場予想では売上高約890億ドル、EPS約2.00ドルと堅実な増収増益が見込まれています。株価は前回決算以降下落基調でしたが、これは投資負担への警戒が大きかったためです。そのため今回の決算で収益面の健闘や効率改善が確認できれば、見直し買いが入る余地があります。一方、もし成長減速や費用増が目立てば、失望売りにつながる可能性も残ります。個人投資家としては、決算数字そのものだけでなく経営陣のコメントや今後の戦略にも目を配り、中長期的な視点でアルファベットの企業価値を評価することが重要です。

【プロクター・アンド・ギャンブル決算みどころ】ブランド力で成長維持 インフレ収束下で売上増大なるか(P&G)
本記事では、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の2024年第2四半期決算を振り返り、4月24日に控える2025年第3四半期決算の見どころを解説します。日用品から美容・ヘルスケアまで幅広いブランドを展開する同社は、世界180か国以上で消費者向け製品を提供し、人々の暮らしの質の向上に貢献しています。「パンパース」「アリエール」など、各カテゴリでトップシェアを誇るブランドを多数保有しており、グローバルなマーケティング力と製品開発力に定評があります。今回の決算では、主力製品群の販売数量の回復と、新興国市場での需要動向が注目点となります。特に、値上げ主導から数量主導への成長転換が進む中で、P&Gが展開する「大容量・高機能型」商品の販売戦略や、原材料・物流コストの吸収状況が焦点です。2024年Q2決算ハイライト堅調な売上と安定した利益成長P&Gの2025年度第2四半期(2024年10~12月)決算は、売上高が219億ドルと前年同期比+2%の増収となりました。為替やM&Aの影響を除いた売上高は+3%と順調な成長を維持しています。純利益は46億ドル(+33%増)で、EPSは前年の一時要因があった反動もあり1.88ドルと大幅増となりました。一方、特別要因を除いたコアEPS(調整後EPS)も1.88ドルで前年同期比+2%の増加となり、着実に利益を伸ばしています。主要セグメントの業績P&Gは事業をビューティー(美容)、グルーミング(男性用品)、ヘルスケア、ファブリック&ホームケア(洗濯洗剤・住居用製品)、ベビー・フェミニン・ファミリーケア(紙おむつ・女性用品・家庭紙製品)といったセグメント(事業部門)に分けています。前回の第2四半期は、いずれのセグメントも売上で前年を上回りました。特にベビー・フェミニン・ファミリーケア部門が+4%と全社を牽引し、家庭用紙製品の強い需要に支えられました。次いでファブリック&ホームケア部門も+3%と堅調で、北米市場での洗剤需要の伸びが寄与しています。ヘルスケア部門も+3%(オーラルケア製品やOTC医薬品)、ビューティー部門は+2%、グルーミング部門(シェーバーなど)も+2%成長と概ねバランスよく成長しました。販売数量と価格の寄与注目すべきは、販売数量の増加です。前回決算では売上+3%のうち、約+2%分は販売数量の増加から来ています。さらに+1%は地域ミックス(販売好調な地域の比率上昇)効果で、価格は前年並みでした。これはP&Gにとって2019年以来初めて値上げに頼らない成長を達成した四半期となりました。以前まで各地域で実施していた価格引き上げが一巡し、消費者に受け入れられた結果、数量ベースでの売上増加に繋がった形です。利益率(マージン)の動向売上総利益率(粗利率)と営業利益率にも目を向けましょう。第2四半期の粗利率は52.4%で、前年同期より0.3ポイント低下しました。これは製品ミックスの変化や原材料・物流コスト上昇によるマイナス影響が、値上げやコスト削減効果で相殺しきれず若干利益率を押し下げたためです。また営業利益率(コアベース)も26.2%と前年より0.8ポイント低下しました。一部で広告・マーケティングなど将来成長に向けた再投資コストが増えたことも利益率をわずかに圧迫しました。とはいえ為替中立ベースでは営業利益率の低下幅は0.5ポイントにとどまっており、依然として高い収益性を維持しています。ガイダンスの達成状況P&G経営陣は、第2四半期までの実績が計画通りとして2025年度通期の会社予想を据え置きました。通期の売上高ガイダンスは前年比+2~4%増で、為替と事業売却の影響を差し引いた実質成長を着実に見込んでいます。また通期EPSガイダンスも前年比+10~12%増とされており、金額レンジではEPS6.91~7.05ドルを目標としています。第2四半期終了時点で「上半期の好調な結果により通期ガイダンス達成軌道に乗っている」とコメントされており、会社計画範囲内で順調に推移していることが示されました。なお、同四半期までにフリーキャッシュフローの84%を利益に転換し、健全な資金創出を維持しています。これを背景に、株主還元も積極的に行われ、第2四半期単独で合計49億ドル株主に還元されました。このように前回決算は、売上・利益ともに市場予想を上回る堅調な内容で、P&Gのブランド力とコスト管理の巧みさを示す結果となりました。前回決算(2024年Q2)後の主なニュースと業況インフレと為替の影響前回決算後も、原材料価格や物流費といったインフレ圧力、および為替変動(ドル高)の影響が引き続き注目されています。P&Gは通期で原材料コスト約2億ドル増の逆風を予想しており、為替も約3億ドルのマイナス要因になると見込んでいます。合わせて1株当たり約0.20ドルの利益圧迫要因となる計算で、依然として収益に対する外部環境の逆風はあるものの、その規模は売上規模(年間800億ドル超)から見れば限定的です。また、為替については通期売上成長率に-1%程度の押し下げ要因になる見通しで、足元では米ドル高がやや一服傾向にあるものの依然前年より強めで推移しています。こうしたインフレや為替動向がどのように業績に影響しているかは投資家から注目されるポイントです。消費者の価格感応度と需要動向値上げ局面で重要なのは消費者がどれだけ価格に敏感に反応するかですが、P&Gはこれまでのところ消費者の離反を最小限に抑えることに成功しています。日用品という必需財を扱う強みもあり、多少の値上げでも消費者は購入を続けており、むしろ性能や品質を重視して大容量サイズや高付加価値の商品を選ぶ動きさえ見られました。実際、P&GのCFOによれば消費者は「非常に製品の性能を重視している」ため、同社は扱う10カテゴリー中8カテゴリーで数量シェア・金額シェアともに維持できており、これらの分野では小売店のプライベートブランドのシェアも横ばいか縮小しているとのことです。つまり、P&Gは値上げによる一時的な数量減少を過去の平均よりも小さく留めることに成功していると言えます。ただし経営陣は、「今後は消費者の価格に対する反応(需要弾力性)が歴史的水準に戻る」可能性もあると指摘しており、長期的には引き続き注意が必要です。とはいえ、足元では日用品の需要は底堅く、消費者の購買行動も概ね想定内に収まっています。例えば米国市場では、昨年10月にハリケーンや港湾スト懸念でトイレットペーパーの買い溜め需要が発生した一方、その反動で11月に一時需要が落ち込むなど月ごとの変動はありましたが、12月には持ち直すなど総じて底堅い消費動向でした。新興国では景気減速の影響も注視されていますが、日常必需品カテゴリは景気に左右されにくいため、P&Gの売上は比較的安定しています。ブランド戦略と商品展開P&Gは値上げ局面でも消費者に選ばれ続けるために、ブランド力の強化や製品イノベーションに注力しています。具体的には、各カテゴリーでプレミアム製品を投入して付加価値で勝負する戦略を取りました。例えばビューティー分野では高級スキンケアブランドのSK-IIがコロナ後の中国市場停滞で苦戦する一方、北米やその他地域で根強い支持を得ており、高価格帯需要で下支えしています。また家庭用品分野では、食器洗い洗剤「Cascade」ブランドから新製品『Cascade Platinum Plus』を発売し、コメディアンのケナン・トンプソンを起用したプロモーションを展開するなど話題作りも行いました。このように既存ブランドの革新やマーケティング強化によって、消費者の関心を引き留めています。さらに同社は近年、デジタル戦略やECにも力を入れており、オンライン販売比率が増加傾向です。店舗での販売に加えデジタル接点を強化することで、幅広い消費者層へのリーチを拡大しています。これらの取り組みは競合他社との差別化につながり、「製品の優位性」で選ばれるブランドを目指すP&Gの戦略の柱となっています。競合他社との比較世界の日用品業界では、P&Gと同様に価格戦略の転換と需要動向の見極めが課題となっています。他の大手、例えば英ユニリーバも2022~2023年にかけて大幅な値上げを実施し一時は販売数量を落としましたが、最近の2024年通年決算では数量+2.9%増と増加に転じており(売上成長+4.2%)、業界全体で価格一辺倒から数量重視へとシフトし始めています。P&Gは豊富なブランドポートフォリオと高いマーケティング力で競合に対抗しており、値上げ局面でもシェアをほとんど落としていません。むしろ前述のとおり、自社製品の品質優位性を強調する戦略によって、一部ではプライベートブランドとの差を広げることに成功しています。これはブランド力による参入障壁を持つP&Gの強みであり、競合他社との差別化要因となっています。一方で、競合各社もサステナビリティ対応商品や新興国市場での攻勢など新たな戦略を打ち出しており、P&Gとしても引き続きイノベーションと効率化で先行する姿勢が求められています。株価の推移と投資家の評価P&Gの株価は前回の決算発表後、市場予想を上回る内容とガイダンス据え置きが好感され、発表直後に一時3%以上上昇しました。その後は米国市場全体の変動要因(インフレ動向や金利動向など)に影響を受けつつも概ね堅調に推移し、過去1年では+11%以上の株価上昇を記録しています。これはS&P500指数には及ばないものの生活必需品セクター平均は上回っています。投資家からの評価も総じて良好で、2025年4月には四半期配当を5%増額(1株あたり1.0568ドルに引上げ)すると発表しており、これで69年連続の増配を達成しました。この長期にわたる増配記録はP&Gの安定したキャッシュフロー創出力と株主重視の姿勢を物語っており、インカムゲイン(配当収入)を重視する個人投資家にも評価されています。今回発表(2025年Q3)決算の注目ポイントでは、4月発表予定の2025年Q3決算(1~3月期)では具体的にどんな点に注目すればよいでしょうか。個人投資家がチェックすべき主なポイントを以下に整理します。販売数量と価格のバランス最大の注目点は、前回に続き販売数量の伸びが維持できているかです。2025年Q2にP&Gは値上げに頼らず数量増で売上を伸ばすことに成功しましたが、これは業界全体にとっても明るい兆しと評されています。今回Q3でも、各地域での販売数量が順調に増加しているか、あるいは値上げ再開の動きがあるのか、その売上成長の内訳に注目です。特に、これまで値上げで失われた一部のボリューム(販売数量)を取り戻せているか、競合他社やPB商品とのシェア争いの動向も確認する必要があります。また、前年同Quarterとの比較で価格の上げ下げが売上にどう影響したか(値下げでシェア奪還を図っていないか)など、値付け戦略も重要なチェックポイントです。P&Gが引き続き「品質優位×適正価格」で売上拡大を図れているかどうかは、将来の収益性にも関わるポイントと言えるでしょう。コスト構造の改善と利益率 原材料高や物流コスト増といったコスト圧力に対する対応状況も見逃せません。前回までの決算では、生産性向上やコスト削減努力によってこうしたコスト上昇分をかなり吸収していました。今回のQ3では、主要原材料(石油化学製品や紙パルプ等)の市況がやや落ち着きつつある中で、粗利益率の改善が見られるか注目です。会社計画では通期で約2億ドルの原材料コスト逆風を見込んでいましたが、実際にその影響が縮小傾向にあるかをチェックしましょう。また、販管費の効率化(マーケティング費用対効果など)による営業利益率の動きにも注目です。もし粗利率や営業利益率が改善傾向を示せば、インフレ下での採算悪化懸念が和らぎ、株価にプラス材料となる可能性があります。逆にコスト増が利益を圧迫し続けているようだと、今後の課題として認識されるでしょう。地域別・カテゴリー別の動向地理的な売上動向では、中国市場の回復度合いが焦点となります。中国の消費者需要は前四半期時点で売上-3%と減少が続いていましたが、前々期の-15%からは大きく改善しており、徐々に底打ちしつつあります。今回のQ3で中国がプラス成長に転じるか、あるいは引き続きマイナスでも減少幅がさらに縮小するか注目しましょう。北米市場については、前回10月に発生したハリケーン関連の駆け込み需要の反動が1~3月期に現れる可能性があります。そうした一時要因を除いた米国の基調需要が安定成長を続けているか注目する必要があります。欧州や新興国など他の地域でも、それぞれの経済環境下でP&G製品の販売がどう推移しているかをセグメント別売上から読み解きましょう。加えて、カテゴリー別ではファミリーケア(紙製品)やホームケアなどコロナ禍以降需要が伸びている分野の継続的な成長や、ビューティー(高級スキンケア等)部門の回復にも注目です。とりわけSK-IIやOlayといった高価格帯美容製品の売上が中国景気の影響からどこまで持ち直すか、逆に洗剤やヘルスケアなど日用品カテゴリが安定成長を維持できているかを見ることで、今後のセグメント戦略のヒントが得られるでしょう。以上、P&Gの今回2025年Q3決算発表に向けた注目ポイントを整理しました。前回決算は数量増による堅調な成長と強力な株主還元策が光りましたが、今回もその流れが維持できるかが焦点です。特にインフレ収束局面で「質と量のバランス成長」を実現できれば、株価にとっても追い風となるでしょう。一方、景気減速や競合環境による逆風が見られれば短期的に慎重姿勢が強まる可能性もあります。個人投資家の皆さんも、ぜひこれらのポイントを念頭に決算発表資料や経営陣コメントに目を通し、今後の投資判断に役立ててください。

【メルク決算みどころ】2つの看板商品が売上を下支え 巨額の研究開発費の効果は(Merck & Co.)
本記事では、メルク(Merck & Co.)の2024年第4四半期決算を振り返り、4月24日に控える2025年第1四半期決算の見どころを解説します。がん免疫療法やワクチンなど革新的な医薬品の研究・開発・販売を手がける同社は、世界100か国以上で患者に医療ソリューションを提供し、人々の健康寿命の延伸に貢献しています。「キイトルーダ」「ガーダシル」など、がんや感染症領域で高いシェアを誇るブロックバスター薬を複数保有しており、強固な研究開発力とグローバルな商業展開力に定評があります。今回の決算では、主力の免疫チェックポイント阻害薬「キイトルーダ」の売上成長の持続性や、ワクチン事業の回復状況が注目点となります。特に、ポスト・キイトルーダ時代に向けたパイプライン戦略の進捗や、中国など成長市場での需要回復、加えて原材料費・研究開発費が利益率に与える影響が焦点です。2024年Q4決算ハイライト堅調な売上高とEPS 2024年Q4のメルクの売上高は約156億ドル(前年同期比+7%)に達し、為替の影響を除く実質成長率は+9%でした。主力製品の好調に支えられ、同四半期の調整後EPSは1.72ドルとなり前年から増益となりました。この結果は市場予想とほぼ一致する堅実なもので、2024年通年でも売上高642億ドル(前年比+7%)と会社予想のレンジ上限付近で着地し、計画通りの成長を遂げました。キイトルーダの力強い成長がん免疫療法薬「キイトルーダ」は依然としてメルクの成長を牽引しています。2024年Q4単独の売上は約78億ドルと前年同期比+19%の大幅増収となりました。主に癌の転移症例向けの需要増に加え、乳がんや肺がんなど早期ステージでの適応拡大による使用増が貢献しています。年間では295億ドルを売り上げ、世界で最も売れている処方薬となりました。このようにキイトルーダはメルク全体の売上の約半分近くを占める屋台骨であり、引き続き二桁成長を維持しています。ガーダシルの一時的な落ち込み一方、HPVワクチン「ガーダシル」は地域要因で足踏みしました。2024年Q4のガーダシル売上高は15.5億ドル(前年同期比-17%)と減少し、主因は中国市場での需要低迷です。中国では流通在庫の積み上がりにより出荷調整が行われたため販売が落ち込んだものの、その影響を除けば日本など他の国際市場では引き続き堅調な需要がありました。通年ではガーダシル売上は86億ドル(前年比-3%)にとどまり、中国市場の逆風が成長を一時的に押し下げた形です。ただし中国当局が2025年1月にガーダシルの男性への接種適応を承認しており、将来的な需要拡大が見込まれる点は明るい材料です。動物薬と他部門の堅調メルクのもう一つの柱である動物用医薬品部門は安定成長を続けています。2024年通年の動物薬売上高は59億ドル(前年比+4%)となり、ペット需要の拡大や家畜向け製品の価格上昇が寄与しました。新製品では、肺高血圧症治療薬「Winrevair(ウィンレアビル)」が2024年に米国で上市され、初年度に4億ドル超を売り上げる順調な滑り出しを見せています。一方、特許切れが進む糖尿病薬ジャヌビアなどは減収となりましたが、オンコロジー(抗癌剤)やワクチン事業の伸びがそれを補っています。利益率とガイダンス達成状況収益性の面でも改善が見られました。2024年Q4の粗利益率は約80%と前年より向上し、キイトルーダやガーダシルに関するロイヤルティ費用低減などが寄与しました。研究開発費や一部の一時費用を除いた営業利益率も高水準を維持しています。こうしたコスト管理と売上成長により、メルクは2024年通年の業績ガイダンスをほぼ達成しました。前年Q3時点で示していた通年売上見通し636~641億ドルに対し実績642億ドルと上限をわずかに上回り、EPS見通し7.72~7.77ドルに対して実績7.65ドルとほぼレンジ内に収まりました。このことは、同社経営陣の計画精度と業績の安定性を示しており、投資家の信頼につながっています。前回決算(2024年Q2)後の主なニュースと業況がん免疫療法の適応拡大メルクは主力の免疫療法薬「キイトルーダ」の適応拡大に積極的です。2025年2月には、キイトルーダを手術前後に使用する頭頸部がん治療についてFDA(米食品医薬品局)が優先審査を受理しました。これはKEYNOTE-689試験の良好な結果に基づく申請で、承認されれば頭頸部がんの早期治療成績を向上させる可能性があります。また欧州でも婦人科がん領域で新たに適応が承認されるなど、キイトルーダの適応症は世界で30種類以上に広がっています。それに伴い、キイトルーダの売上は競合BMSのオプジーボを大きく上回っており、2024年Q4時点の比較ではキイトルーダ約78億ドル vs オプジーボ約24億ドルと3倍以上の開きがあります。臨床開発・パイプラインの進展メルクはパイプライン(開発中の新薬候補)の強化にも注力しています。前回決算発表時にはキイトルーダの皮下投与製剤の第3相試験で主要目標を達成したと公表されました。皮下投与版キイトルーダは点滴より患者の負担を軽減でき、2025年9月までに米国で承認判断が下りる見通しです。同製剤の投入は投与時間を30分から数分に短縮し、患者の利便性向上だけでなく知的財産の延長によるキイトルーダ後継戦略としても注目されています。またワクチン分野ではRSウイルス(乳幼児の肺炎原因ウイルス)予防の長期抗体「クレスロビマブ」の生物製剤承認申請がFDAに受理され、順調に審査が進行中です。さらに2024年には新薬ウィンレアビル(肺高血圧症治療薬)の上市成功や、腎臓病・心不全向けの分野での開発なども報告されており、既存事業の先を見据えたR&D投資が続いています。買収・提携など事業開発の動き特許切れリスクに備え、メルクは企業買収や提携によるパイプライン補強にも積極的です。直近では中小バイオ企業とのライセンス契約を複数締結し、医薬品を独占的に導入しました。さらに注目すべきは、2023年10月に発表された第一三共との大型提携です。メルクは第一三共が開発中の抗体薬物複合体(ADC)3製品の共同開発・販売に合意し、最初に40億ドルの前払金など計55億ドルを支払い、開発成功時には最大220億ドル規模に達する契約を結びました。ADCは抗体に抗がん薬を結合して腫瘍を狙い撃ちする新世代のがん治療で、メルクにとってはキイトルーダに続く次世代がん治療の柱を育てる狙いがあります。この提携に伴いメルクは開発費用として2023年Q4に55億ドル(1株当たり約1.70ドル)の特別損失を計上しましたが、それを含めても財務体質は健全で、豊富なキャッシュフローを活かした戦略投資が行われています。なお2023年には自己免疫疾患の新薬候補を持つPrometheus社の約108億ドルでの買収も実施しており、オンコロジー以外の領域にも成長の種を広げています。株価から見た市場評価2025年通期の慎重な見通しや中国でのガーダシル減速を受けて、市場は一時ネガティブ反応を示しました。実際、Q4決算発表直後の2月初旬には株価が約10%以上急落し、一時1株87ドル台まで下落しています。これは中国向けガーダシル出荷停止による2025年前半の売上影響が嫌気されたためです。しかしその後は市場も冷静さを取り戻し、キイトルーダ中心の業績拡大路線に大きな変化はないとの評価が支配的です。株価は下落前の水準に一部戻しつつあり、依然として配当利回り約3%の高配当株としての魅力や堅調な業績見通しが下支えしています。総じてメルクは安定成長と将来への投資バランスが評価されていると言え、短期的な波乱はあったものの長期的な市場信頼は維持されています。今回発表(2025年Q3)決算の注目ポイント2025年1Q決算では、上記を踏まえて以下のポイントに注目が集まります。キイトルーダ売上の成長持続 看板製品キイトルーダが引き続き高成長を維持できるかが最大の注目点です。前年同期(2024年1Q)も力強い伸びを示しており、今回も前年比二桁%の増収が続くかに投資家の目が向いています。適応拡大や新興国での普及拡大に支えられ、売上成長率の減速がないか(あるいは更なる上振れがあるか)を確認しましょう。キイトルーダはメルクの収益の柱であり、その勢いが続けば2025年通期計画達成にも大きく前進します。ガーダシルおよびワクチン事業の回復動向ガーダシルの中国における需要低迷は2024年後半の懸念材料でしたが、2025年1Qに底打ちの兆しが見られるか注目です。中国向け出荷は在庫調整のため一時停止中であり、1Qのガーダシル売上は前年同期比で大きく減少する可能性があります。しかし、中国以外の地域(米国や欧州、日本等)での需要は堅調なため、他地域でどこまでカバーできているかがポイントです。また中国での男性適応承認という追い風が今後の需要回復につながるとの見方もあり、経営陣が決算説明会で示すガーダシル事業の見通しに注目しましょう。加えて、メルクの他のワクチン(小児用ワクチンや肺炎球菌ワクチン「バクニューバンス」等)の売上動向も確認が必要です。パンデミック後に回復基調にあるワクチン事業全体がガーダシル減速を補完できているか、投資家は注視しています。動物薬部門の需給環境安定成長を続けてきた動物用医薬品部門の動向も見逃せません。ペットブームを背景にペット向け医薬品の需要は引き続き強いと予想されますが、景気動向による影響が出ていないか確認しましょう。例えば競合のゾエティス社などもペット需要の堅調さを報告しており、メルクも寄与が期待されます。また家畜向けでは商品価格や疾病流行の影響で需給が変動する可能性があります。1Qでは動物薬全体で前年を上回る成長が維持できているか、あるいは一時的な要因で伸び悩んでいないか、セグメント別の売上をチェックしましょう。動物薬部門は景気に比較的強いディフェンシブ事業としてメルクの安定収益源となっているため、その健全な推移が確認できれば安心材料です。研究開発費と利益率のバランス巨額のR&D投資が続く中で、利益率がどう推移しているかも重要な観点です。メルクは第一三共との提携に伴う前払金計上や、Prometheus買収などで開発費用や一時費用が増加しています。2025年1Qでも大型提携・買収の影響による費用計上や研究開発費の増額が想定され、その結果営業利益率や純利益率がどの程度確保できているかがポイントです。幸いキイトルーダをはじめとする高収益製品群により利益率自体は高水準にありますが、今後の成長投資とのバランスを投資家は見極めようとしています。もし1Q時点で研究開発費の伸びが売上成長を上回り、利益成長を圧迫しているようであれば短期的な株価のボラティリティ要因となり得ます。一方で、経営陣が「長期成長のための投資」として理解を求める可能性も高く、費用増と利益率低下が一時的かつ戦略的であるとの説明があるか注目です。総じて、開発投資による将来価値創造と四半期利益の確保という二律背反のバランスに市場の関心が集まります。以上、メルクの2025年1Q決算に関するポイントを整理しました。前回の堅調な業績と最近のニュースを踏まえると、キイトルーダを中心とした成長の持続性とガーダシルの課題からの回復が焦点となりそうです。加えて、将来を見据えた研究開発投資の成果や大型提携の進捗、株主還元のバランスにも目を配る必要があります。メルクは世界有数の製薬企業として安定した利益基盤を持ちながら変革期にあり、今回の決算も短期業績と長期戦略の両面でマーケットから評価されるでしょう。今後のメルクの展開に注目です。

【アッヴィ決算みどころ】特許満了で売上減少か 新薬の目まぐるしい成長ペースに注目(AbbVie)
本記事では、アッヴィ(AbbVie)の2024年第4四半期決算を振り返り、4月25日に控える2025年第1四半期決算の見どころを解説します。自己免疫疾患やがん領域を中心に革新的な医薬品を展開する同社は、世界175か国以上で治療ソリューションを提供し、患者の生活の質の向上に貢献しています。「ヒュミラ」「スキリージ」「リンヴォク」など、免疫疾患分野で高いシェアを誇る製品を多数保有し、買収によるパイプライン強化や高い営業利益率にも定評があります。今回の決算では、ヒュミラの減収影響を後継薬でどこまで補えているか、そして美容医療やがん領域など他分野の成長が注目点となります。とくに、高収益モデルを維持しながら、研究開発投資と株主還元をどう両立させるかが焦点です。2024年Q4決算ハイライト2024年Q4決算は、新薬の好調な売上に支えられ、市場予想を上回る増収増益となりました。売上高は151億ドル(前年同期比+5.6%)で、予想の148.7億ドルを上回り、調整後1株利益(EPS)は2.16ドルと予想の2.13ドルを上回りました。以下、主要項目のハイライトです。売上総利益率・営業利益率: 調整後売上総利益率は約82.9%、調整後営業利益率は42.2%にも達し、高い収益性を維持しました。ヒュミラ (Humira): 自己免疫疾患治療の主力製品。売上は16.8億ドルと前年同期比-48.7%と大幅減少しました。米国では前年比-54.5%の急減(約12.5億ドル)で、2023年1月の特許満了によるバイオ後続品参入が響きました。スキリージ (Skyrizi): 乾癬などの皮膚病治療薬。売上37.8億ドル(+57.9%)と急成長し、ヒュミラを大きく上回りました。2024年通年売上も117億ドルとヒュミラ(約90億ドル)を逆転しています。リンヴォク (Rinvoq): 関節リウマチなど向け治療薬。売上18.3億ドル(+47.1%)とこちらも高成長。スキリージと並ぶヒュミラ後継の柱です。両製品合計の売上は56.1億ドルにのぼり、四半期ベースでヒュミラ減収分を充分に補いました。イムブルビカ (Imbruvica): 血液がん治療薬。売上8.48億ドル(-6.2%)と微減ながら、市場予想を上回りました。新規経口治療薬との競合で米国売上は-8.6%減となりました。エステティック事業: 美容医療関連。売上13.0億ドル(-4.4%)と減収でした。看板商品のボトックス(美容向け)が6.87億ドル(-3.4%)、充填剤ジュビダームが2.79億ドル(-15.1%)と低調でした。ガイダンスとの比較: 2024年Q4は売上・EPSとも会社目標を上回る好結果でした。通年では売上563.3億ドル(+4.6%)・調整後EPS 10.12ドル(-8.9%)となり、2025年については調整後EPS 12.12~12.32ドルの見通しが示されています。また2029年まで高いシングル-digit(年率高%台)の売上成長率を維持できるとの長期見通しも示されました。上述のように、前回決算はヒュミラの急減を新薬群が補い、全体として堅調な業績を維持した点がポイントです。「ヒュミラ後」を支えるスキリージとリンヴォクは合計年商約180億ドル規模へ成長し、2027年には2剤合計310億ドル規模に達するとの強気な予測も発表されました。一方、エステティック事業の伸び悩みや、一部成熟薬(ヒュミラ、イムブルビカ)の減収幅には引き続き注意が必要となっています。前回決算(2024年Q2)後の主なニュースと業況ヒュミラのバイオシミラー影響拡大2025年に入り、米国市場でヒュミラからバイオシミラー(後発薬)への置き換えがさらに進みました。大手保険PBM(薬剤給付管理)は2025年からヒュミラを保険リストから外し、代替バイオシミラーのみを優先的にカバーすると発表しています。例えば米国最大手のCVSケアマークやOptumは2024年まではヒュミラを含む最大8製品を処方選択肢に入れていましたが、2025年からはヒュミラ本体が標準処方リストから消える見通しです。この方針転換により2025年のヒュミラ売上は一段と減少する可能性があります。ただ、幸いにもアッヴィは早期から後継薬へ患者をシフトさせており、医師もヒュミラからスキリージやリンヴォクへの切り替えを進めています。実際、2023年通年でスキリージとリンヴォクは約50億ドルの増収要因となり、潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患(IBD)領域で両剤がシェア50%程度を獲得したと報告されています。特にスキリージは乾癬治療で処方シェア40%に達するなど市場浸透が進んでいます。後継新薬の成長状況スキリージとリンヴォクは上記の通り高成長を続けており、アッヴィ経営陣も「予想以上のシェア拡大」として2027年売上予測を従来より40億ドル上方修正(合計310億ドル)しました。特に炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)での適応拡大が追い風となっています。2024年にはスキリージが潰瘍性大腸炎のFDA承認も取得し(関連領域で次々と適応拡大)、ヒュミラ発売前の2022年のヒュミラ+後継2薬合計売上290億ドルを、2027年には後継2薬単独で上回る見通しです。このように「ポスト・ヒュミラ」の柱は順調に育っているとの評価がなされています。研究開発・承認の進捗2024年末から2025年初にかけて、アッヴィは研究開発強化の動きを活発化させました。2023年11月には米ImmunoGen社の買収(約101億ドル)を発表し、2024年2月に早期完了しました。この買収により、ImmunoGen社の抗体薬物複合体(ADC)エラヘレ (Elahere)がアッヴィの製品ポートフォリオに加わりました。エラヘレは2022年承認の卵巣がん治療薬で、ADCとしては同適応で唯一の承認薬です。アッヴィはエラヘレをより早期の治療ラインへ拡大すべく開発を進めています。また2024年3月にはエラヘレがFDAの完全承認を取得し、販売拡大に弾みがつきました。さらに自社開発・提携案件でも、精神疾患向け新薬候補のフェーズ2試験で主要評価未達という残念な結果もありましたが、用量見直し試験など開発継続を表明しています。一方でパーキンソン病治療薬候補(tavapadon)のフェーズ3で良好な結果が出るなど、将来の成長に向けたパイプライン育成も着々と進められています。加えて中国企業との提携(SIM0500という分子の開発オプション契約、最大約10.55億ドル規模)や、創薬ベンチャーAbCelleraとのT細胞エンゲージャー創薬での協業拡大など、オープンイノベーションにも積極的です。これらの動きはヒュミラ後を見据えた事業多角化とパイプライン強化として投資家から注目されています。株価の推移と投資家の評価株式市場では、2023年はヒュミラ特許切れによる業績懸念からアッヴィ株は低迷しました。しかし2024年に入り新薬の売上が想定以上に伸びたことで投資家心理は改善し、前回決算(2025年1月発表)直後に株価は7%上昇しました。市場では「アッヴィはヒュミラの崖をうまく管理しており、成長見通しに十分な透明性が出てきた」との声もあります。実際、証券会社のアナリストは「ヒュミラ減収は想定内であり、強力な新薬群のおかげで短期・長期とも力強い成長が期待できる」と評価しています。株価は配当利回りの高さもあって個人投資家にも根強い人気があり、2024年後半から2025年前半にかけて持ち直し傾向が見られます。高配当・連続増配という魅力に加え、ヒュミラ後の業績底打ちから再成長への転換点に差し掛かったとの見方から、改めて注目が集まっています。今回発表(2025年Q3)決算の注目ポイント2025年1Q決算では、上記を踏まえて以下のポイントに注目が集まります。ヒュミラ売上の減少幅最大の注目点は依然ヒュミラ売上の落ち込みがいつ底を打つかです。前年2024年Q1時点でヒュミラは前年比-35%減(22.7億ドル)でした。その後競合品の本格参入で2024年Q4には-49%減まで減少幅が拡大しています。今回2025年Q1では、前年同期比で50%前後の減収となる可能性もあります。上述のように2025年からは保険適用上もヒュミラ排除の動きがあるため、米国売上のさらなる減少は避けられません。投資家としては、ヒュミラ減収が会社計画の範囲内か、想定より速いペースでシェア喪失していないかを見極める必要があります。もし減収率が予想以上に緩やか(例えば-40%程度)であればポジティブ材料ですが、逆に予想以上に急激な減少となれば短期的に株価下押し要因となり得ます。スキリージ・リンヴォクの成長ペースヒュミラ減収を埋め合わせる新世代の免疫疾患治療薬2本柱の動向も要チェックです。2024年Q1はスキリージ+47%増、リンヴォク+59%増と爆発的な伸びを示しました。今回2025年Q1でも引き続き40~50%前後の高成長率が維持できるかが注目されます。両製品の売上合計がヒュミラ減収分を上回れば、免疫領域トータルで再成長に転じます。実際前年Q1の免疫領域売上は5.3億ドル減(-3.9%)でしたが、Q4にはプラス成長に転じました。今回もヒュミラ減を補って余りある成長を示せるかが、投資家の信頼回復につながります。会社側も2025年通年の売上成長を「ミッド・シングルディジット(中程度の一桁成長)」と予測しており、その前提となる両薬の四半期進捗を確認する形です。特に新適応が増えたIBD領域や国際市場での売上寄与にも注目です。ボトックス含むエステティック事業の成長性エステティック(美容医療)事業は2024年Q4売上は-4.4%減と落ち込みました。2025年Q1も前年同期比で若干の減収が見込まれます(前年Q1は12.49億ドルで-4.0%)。しかし美容医療需要自体は底堅く、競合製品も限定的なため、中長期的には持ち直す余地があります。特に米国では新興の競合製品(例:Revance Therapeutics社の長時間型ボトックス類似品など)の動向や、景気環境が与える影響を注視する必要があります。今回決算ではボトックス(美容向け)の売上トレンドに注目です。もし減少幅縮小や横ばい転換など下げ止まりの兆しが見えればポジティブ材料です。またボトックス治療用途やその他眼科・医療美容製品の成長も合わせてチェックしましょう。例えばボトックス治療用途は好調であり、全社として美容・眼科を含む神経科学領域売上は前年Q1比+15.9%と伸長しました。美容と治療の両輪でこのセグメントが成長維持できるかがポイントです。研究開発費と利益率のバランス巨大製薬企業であるアッヴィは積極的な研究開発投資を続けています。前回2024年Q4もR&D費用は前年同期比+18.3%増と大きく増加しました。短期的には研究開発費や買収に伴う無形資産償却などが利益を圧迫し、調整後ベースのEPSは前年比減益となる四半期もありました。しかし同時に高い粗利益率(80%以上)を維持しており、将来の成長に向けた投資とのバランスをどう取るかが注目されています。2025年Q1でもR&D費用の増減や営業利益率に注目です。前年Q1は調整後営業利益率42.2%と高水準でしたが、今回も40%前後を維持できれば健全と言えます。もし大規模買収の影響や開発費増で利益率が大きく低下していれば、一時的要因か慎重に見極める必要があります。以上、アッヴィの2025年1Q決算について、前回の振り返りから今回注目ポイントまで解説しました。ヒュミラの特許切れによる「一時的な谷」を、新薬群の成功でどこまで埋め戻せているかが焦点です。アッヴィは堅実な経営と株主還元で定評があり、足元の業績転換期を乗り越えられれば再評価も充分に可能でしょう。決算発表後の株価動向にも注目しつつ、長期目線で企業の基礎体力を見極めることが重要です。

【決算サマリー】2025/4/14-18週の決算(ジョンソン・エンド・ジョンソン / ネットフリックス / ユナイテッドヘルス ほか)
本記事では、4月に決算が発表された『ゴールドマン・サックス、ジョンソン・エンド・ジョンソン、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、ネットフリックス、アボット・ラボラトリーズ、ユナイテッドヘルス』の7社について、決算を振り返りながら解説します。全体としては、好調なトレーディング収益や消費の底堅さが企業業績を下支えする一方で、セクター間の明暗が鮮明となる結果となりました。金融大手は市場ボラティリティを追い風に好決算が目立ち、テックやヘルスケア企業も概ね堅調でしたが、ユナイテッドヘルスに見られる医療費の想定外の増加など、業種特有の課題が浮き彫りになった四半期でもありました。ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)米投資銀行大手ゴールドマン・サックスの2025年第1四半期決算は、売上高が150.6億ドル(前年同期比6%増)、純利益が47.4億ドル(前年同期比15%増)となりました。1株当たり利益(EPS)は14.12ドルと、アナリスト予想の12.35ドルを大きく上回り、市場予想を上回る好決算となりました。変動の大きい市場環境を追い風に、株式トレーディング収入は前年同期比27%増の42億ドルと四半期ベースで過去最高を記録し、債券・通貨・商品(FICC)トレーディング収入も2%増の44億ドルと堅調でした。一方で、市場低迷の影響で投資銀行部門の手数料収入は前年同期比8%減の19億ドルに落ち込むなど、部門間で明暗が分かれました。また機関投資家・富裕層向け資産運用部門の収益は市場評価損の影響で3%減となったものの、運用資産残高は過去最高の3兆1,700億ドルに達しています。デービッド・ソロモンCEOは決算発表で「第2四半期は年初とは大きく異なる事業環境に直面しており、大きな不確実性が存在する」と述べ、先行きへの警戒感を示しましたそれでも「不透明な時代には顧客は当社に求めるものだ。当社は引き続き顧客を支援できると確信している」と語り、顧客支援を続ける能力に自信を見せています。ソロモン氏はまた、米国政府が貿易障壁の見直しを通じて米国の競争力強化に取り組んでいる点を評価するコメントも残しました。決算発表を受けて株価は当日2%強上昇し、堅調な業績に対する投資家の信頼感が示されました。総じて、マーケット部門の好調が業績を牽引し、市場予想を上回る結果に投資家は安堵した形です。ジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)ヘルスケア大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の第1四半期決算は、売上高が219億ドルと前年同期比4.2%増加し、市場予想(約216億ドル)を上回りました。調整後EPSは2.77ドルとなり前年同期比で約2%の増益、こちらも予想の2.58ドルを7%以上上回るサプライズでした。純利益は前年から大幅に増加し約110億ドルに達しましたが、前年同期にあった一時的費用の反動によるものです。主力の医薬品や医療機器部門が堅調で、抗がん剤「ダーザレックス」や免疫疾患治療薬「トレムフィア」など主要製品が大きく売上を伸ばしたことが増収に寄与しました。地域別では米国売上が+5.9%と牽引し、国際売上も+2.1%と堅実に伸びています。同社はこの四半期、63年連続となる増配を発表し、四半期配当を1株あたり1.24ドルから1.30ドルへ引き上げました。経営陣は業績好調にもかかわらず慎重な姿勢を崩さず、通期業績見通しを据え置きました。2025年通期の調整後EPSガイダンスは10.50~10.70ドルとされており、売上成長率は3.3~4.3%増を見込んでいます。見通し据え置きの背景には、米国政権による医薬品への関税方針など外部環境の不透明感もありますが、同社CFOは「当社の主力新薬は関税の影響を受けにくい可能性が高い」と述べ、過度に懸念する必要はないとの見解を示しました。また米国内での生産強化にも言及し、今後数年間で米国における大規模投資と新製造施設の建設計画を発表しています。決算発表直後、好決算にもかかわらず株価はわずかに0.4%下落して取引を終えました。これは市場全体の不安要因や将来の課題への懸念から投資家が慎重姿勢を保ったためで、堅調な内容が織り込み済みだった面もあるようです。バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)米大手銀行のバンク・オブ・アメリカ(BofA)が4月15日に発表した第1四半期決算は、純利益が74億ドル(EPS:0.90ドル)と前年同期比11%増加し、市場予想の0.82ドルを上回りました。金利上昇を背景に利ざや収入(NII)が3%増の144億ドルに拡大し、手数料収入も堅調だったことが増益に貢献しました。総収入も前年から約6%増加したとみられます。マーケット部門も好調で、債券・為替・商品(FICC)トレーディング収入が前年同期比5%増の35億ドル、株式トレーディング収入は17%増の22億ドルと過去最高を記録し、トレーディング全体で9%の増収となりました。この結果、市場関連収入は10年以上ぶりの高水準に達し、JPモルガンやゴールドマン・サックスなど他行と同様に市況混乱を追い風に大きなトレーディング収益を上げています。逆に投資銀行部門の手数料収入はM&AやIPOの低迷で前年同期比3%減の15億ドルに留まりましたが、CFOによれば案件パイプラインは前四半期より強く、第2四半期以降の回復に含みを残しました。ブライアン・モイニハンCEOはアナリストとの電話会議で「関税や政策を巡る不確実性は多いが、現時点で当社エコノミストは景気後退を想定していない」と述べ、米経済が緩やかな成長を続けるとの見方を示しました。顧客の動向についても、「労働市場は健全で消費者も底堅い」と強調し、懸念材料である貿易摩擦が早期解消されれば2025年後半の更なる業績押し上げにつながる可能性に言及しました。また、仮に経済環境が悪化しても備えられるよう、将来の失業率上昇に備えた引当金を積み増すなど慎重なリスク管理も行っています。なお、利ざや収入については従来予想した2025年第4四半期におけるNII $155~157億の見通しを維持し、金利動向にかかわらず安定した収益基盤を確保できるとの自信を示しました。決算発表を受けて株価は当日4%以上急騰し、好調な収益と予想上振れを好感した投資家の買いが集まりました。シティグループ(Citigroup)シティグループの第1四半期利益は純利益41億ドル(EPS:1.96ドル)と前年同期比21%増加し、こちらも市場予想の1.85ドルを上回りました。相場変動に乗じてトレーディング部門が躍進し、株式トレーディング収入は前年同期比23%増と顕著な伸びを示しました。金利・為替市場のボラティリティを受けて顧客がポートフォリオの組み替えを進めたことが背景にあり、トレーダー部門の「追い風」となりました。同業他社同様、債券市場関連収入も好調だったとみられます。投資銀行部門も明るい兆しを見せ、M&A助言収入の増加により投資銀行収入は前年同期比12%増となりました。もっともCEOのジェーン・フレイザー氏は電話会議で「不透明感の中で多くの顧客が様子見に入っており、第2四半期の案件実行は停滞している」と述べ、足元では企業の資金調達や大型取引が減速していることを認めています。収益の改善により、シティが重要指標とする有形自己資本利益率(ROTCE)はこの四半期に9%に達し、2026年までに目標とする10~11%に近づいてきました。フレイザーCEOは「不確実な環境下でも顧客支援を続けている」と述べる一方、「長年の貿易不均衡是正など構造変化が一巡すれば、米国経済が依然として世界の牽引役であり、ドルも基軸通貨の地位を保つだろう」と発言し、足元の逆風にもかかわらず米国経済の長期的な優位性に自信を示しました。経営陣は2025年通年の収入および経費見通しを従来計画から変更しない方針であることも明らかにし、コスト管理と収益力強化の両面で計画通り進捗していることを強調しました。さらに、長らく売却方針とされてきたメキシコ子会社バナメックスのIPO準備が年内にも整う見通しであることもアップデートとして言及されました。決算発表後、シティの株価は約2.7%上昇し、増益基調と収益目標への前進を好感する動きが見られました。ネットフリックス(Netflix)動画配信大手ネットフリックスの2025年第1四半期決算は、売上高105.4億ドルと前年を上回り、自社計画および市場予想(約105.2億ドル)をわずかに上回りました。純利益は29億ドルで、希薄化後1株利益(EPS)は6.61ドルとなり、こちらは予想の5.71ドルを大きく上回る結果です。会員数は全世界で3億人を超える規模まで拡大しており、この四半期も低価格の広告付きプランへの加入が順調に増加しました。共同CEOのグレッグ・ピーターズ氏は決算説明で、足元の景気動向や米政権の関税政策による消費者マインドへの影響について問われた際に「顧客行動に有意な変化は見られず、景気後退局面でもストリーミング需要は堅調だ」と述べ、景気逆風下でも動画サービスへの需要は粘り強いとの認識を示しました。また「自宅で楽しめるエンターテインメントの価値は不況期ほど高まる。Netflixは家計にとって圧倒的にコストパフォーマンスの高いサービスだ」と強調し、価格以上のコンテンツ価値提供に努めている点をアピールしています。事実、広告付き低価格プランは提供国における新規加入の55%を占めるまでに成長しており、値ごろ感のあるサービスが会員基盤拡大に寄与しています。コンテンツ面でも、限定シリーズ「Adolescence」やドラマ「Zero Day」、リアリティ番組「Temptation Island」など多様なジャンルの話題作を投入し、ユーザーエンゲージメントを高めました。同社は2025年第2四半期の売上高見通しを110.4億ドルと提示し、これは市場予想(約109億ドル)を上回る強気のガイダンスとなっています。また2025年通年の売上高予想を435億~445億ドルと据え置き、この中には会員数の健全な増加や段階的な値上げ、広告収入の倍増(前年比)が織り込まれています。併せて、共同創業者のリード・ヘイスティングス氏が取締役会の非業務執行会長に退き、経営陣の世代交代を進めることも発表されました。決算発表後の株価は時間外取引で約2.7%上昇し、予想以上の収益力と強気の売上見通しが投資家心理を支えました。年初来の株価上昇率も+9%と市場平均をアウトパフォームしており、堅調な業績見通しが株価を下支えしています。アボット・ラボラトリーズ(Abbott Laboratories)医療機器・ヘルスケア製品大手のアボット・ラボラトリーズは、第1四半期に売上高103.6億ドル(前年同期比+4%)を計上し、為替影響を除いたオーガニックベースでは+6.9%成長と堅調な拡大を続けました。新型コロナ関連の特需が一巡した影響を除けば実質+8.3%という高い伸び率です。純利益は13.3億ドル(+8.2%)となり、調整後EPSは1.09ドルと前年同期比11%増益、市場予想の1.07ドルを2セント上回りました。成長ドライバーは医療機器部門で、特に血糖値測定システム「フリースタイル・リブレ」を中心とした糖尿病関連製品が世界的に好調です。医療機器部門の売上は49億ドルに達し、オーガニック成長率+12.5%と牽引役となりました。診断薬部門と栄養剤部門はいずれも21億ドル規模で推移し、医薬品部門(エスタブリッシュト医薬品)は13億ドル(8%増)とバランスの取れた成長を実現しています。幅広い製品ポートフォリオに支えられ、同社の粗利益率は前年より1.4ポイント改善し57.1%に、営業利益率も1.3ポイント改善し21%に向上しました。ロバート・フォードCEOは決算説明で、為替やサプライチェーンの逆風にもかかわらず「各製品の需要動向や我々の実行力には確信を持っている」と述べ、主力事業の勢いに自信を示しました。実際、当初は慎重に見積もっていた2025年通年業績について、関税問題が浮上しなければ上方修正も検討していたことを明かしています。しかしながら、米国が中国からの輸入品に対し追加関税を課す方針を示したことを受け、同社は通期の業績見通しを据え置きました。フォードCEOは「新関税により年間数億ドル規模のコスト増を見込む」が「周到に策を講じており十分に緩和可能」と投資家に説明しています。具体策として、米国内の生産能力増強に5億ドルを投資し、中国に依存しない供給体制の強化を図る計画を発表しました。イリノイ州とテキサス州で進める新工場・研究施設のプロジェクトは2025年末までに稼働予定で、製造拠点を需要地に近接させる同社の長期戦略の一環です。また心疾患治療領域でも心房細動治療用の新技術について想定より早く欧州で承認を取得したことを明らかにするなど、製品イノベーション面の前進も強調されました。市場はこうした同社の対応力と成長持続性を好感し、決算発表翌日の株価は5~6%上昇しました。投資家は関税リスクにも揺るがない業績見通しと戦略的投資によるリスクヘッジを評価しており、アボットは引き続きトップクラスの成長を維持できるとの見方が広がっています。ユナイテッドヘルス(United Health)ユナイテッドヘルス・グループの第1四半期決算は、売上高が1,096億ドル(前年同期比10%増)、調整後EPSは7.20ドルと前年の6.91ドルから増加しましたが、市場予想の7.29ドルを下回りました。保険事業では加入者が78万人増加し、高齢者向け保険の加入者は前年同期比で約50万人増の824万人に拡大しました。しかし、特に高齢者向けプランでの医療サービス利用が想定を超え、医療費率(MCR)は前年の84.3%から84.8%に上昇。外来診療や医師サービスの急増がコスト増を招き、業績に大きく影響しました。Optum部門では調剤薬局が堅調だった一方、医療提供部門でリスク調整モデル変更や新規加入者の健康データ不足が影響し、収益が想定を下回りました。これを受けて同社は通期の調整後EPS予想を大幅に下方修正(29.50~30.00ドルから26.00~26.50ドル)し、CEOのアンドリュー・ウィッティ氏は「正直想定外で受け入れ難い」と強い懸念を示しました。決算発表後、株価は約22%急落し、保険セクター全体に波及。ヒューマナは7%、CVSヘルスも2%を超える下落となり、同社1社でダウ平均を800ドル超押し下げる展開となりました。経営陣は高齢者層のケア改善や2026年保険設計への織り込みを通じた巻き返しを図る方針を示しており、今後の実行力が問われます。

【インテル決算みどころ】AIチップ戦略と構造改革で業績回復なるか(Intel)
インテルの2025年第1四半期決算に向けた見どころを解説します。個人投資家は今回の決算でインテルの転換点を見極めることになります。インテル株は現在歴史的な低水準にあり、マーケットは同社の苦境を織り込んでいます。しかしそれゆえに、もし業績が予想以上に底堅く「最悪期は脱した」との手応えが得られれば、株価は大きく反発する可能性があります。特にデータセンター向けやAI分野で前向きな指標が出れば、将来の成長ストーリーに繋がるとの期待から買い材料となるでしょう。一方で、依然としてPC・サーバー市場で苦戦が続き見通しも慎重なままだと、失望売りで株価が一段安となるリスクも残ります。インテルの経営陣は「焦らず着実に信頼回復を図る」としています。投資家としても短期的な数字の上下に一喜一憂するだけでなく、2025年後半から2026年にかけての本格的な業績回復シナリオが現実味を帯びてくるかどうか、腰を据えて見定めることが肝要と言えます。前回決算(2024年第4四半期)ハイライト2024年10–12月期のインテル決算は、市場予想を上回る内容となりました。売上高は143億ドルで前年同期比7%減少しましたが、アナリスト予想(約138億ドル)を上回りました。調整後1株当たり利益(EPS)は0.13ドルと予想を0.01ドル上回り、わずかな黒字を確保しています(GAAPベースでは0.03ドルの赤字)。もっとも、前年同期は0.63ドルの黒字だったため、大幅な減益となりました。通年では売上高531億ドル(前年比2%減)と2年連続の減収で、最終損益は大幅な赤字に転落しています。部門別の業績を見ると、PC向けのクライアント・コンピューティング部門(CCG)の売上高は80億ドルと前年同期比9%減少し、個人向けPC需要の低迷が続きました。データセンター&AI部門(DCAI)は34億ドルで3%減とほぼ横ばいでした。ネットワーク&エッジ部門(NEX)は16億ドルで10%増と健闘しました。これら主要事業の合計売上は130億ドル(6%減)となり、全社売上の大半を占めています。一方、社内の製造部門を独立採算で計上する「インテル・ファウンドリ」の売上高は45億ドルでしたが(主に社内取引を含む)、大幅な損失を計上しており、これが業績の重荷となっています。株価の反応は冷ややかでした。好決算にもかかわらず、発表直後の通常取引でインテル株は約2.9%下落し、時間外取引でもわずかに下落しました。市場は慎重なガイダンス(後述)や競争激化への懸念を映し出した形です。決算時点で株価は20ドル前後と52週安値(18.51ドル)近辺に沈んでおり、近年の業績低迷を反映しています。前回決算以降の主なニュースと業界動向経営体制の変化と構造改革: 前回決算発表後、インテルでは経営面で大きなニュースがありました。2024年12月にパット・ゲルシンガーCEOが退任し、2025年3月から業界ベテランのリップ・ブー・タン氏が新CEOに就任しています。タン新CEOの下、早速大胆な構造改革が進められました。2月には、インテルが2015年に買収したFPGA(書き換え可能チップ)部門のアルテラ事業の株式51%をシルバーレイク社に売却する契約を発表しました。売却額は44億6000万ドルで、この取引によりアルテラ事業の評価額は87.5億ドル(買収時の約半分)となります。インテルはこの資金で財務基盤を強化し、主力事業に経営資源を集中する狙いです。タンCEOは「コア事業に焦点を絞りコスト構造を改善し、バランスシートを強化する決意の表れだ」と述べており、不要な資産の売却も含めた合理化戦略を進める考えを示しました。この発表を受け、市場はインテルの再建努力を好感し、4月14日の株価は前日比2.9%上昇しています。AIチップ開発の進捗: インテルはAI分野での巻き返しを図っています。2024年末にはデータセンター向けAIアクセラレータ「Gaudi 3」を発表し、競合のNVIDIAに対抗する姿勢を鮮明にしました。2025年4月にはIBMのクラウドサービス上でGaudi 3が利用可能になったと発表されており、生成AI(人工知能)需要の高まりに応じてIntel製AIチップの活用が広がり始めています。Gaudi 3は5nmプロセスで製造され、前世代比で計算性能を大幅に向上させた製品です。インテルはまた、CPU自体へのAI機能搭載にも注力しており、2024年末に発表した次世代ノートPC向けCPU「Core Ultra(開発コード名:Meteor Lake)」ではAI支援エンジンを内蔵しました。「AI PC」と称し、2025年末までに1億台超のPCへAI機能を提供する目標を掲げるなど、PC分野でもAI機能強化を進めています。とはいえ、現状のAI計算向け半導体市場はNVIDIAのGPUが支配的であり、インテルはクラウド大手への提案やソフトウェア最適化で巻き返しを図る段階です。競合のAMDも2024年にデータセンター向け大規模AIチップ(MI300シリーズ)を投入しており、AI分野での三つ巴の競争が激化しつつあります。ファウンドリ受託事業の動向: インテルは自社工場を外部にも開放するファウンドリ事業に力を入れています。社内では2024年から「インテル・ファウンドリ」という独立採算の組織を立ち上げ、製造部門の透明性とコスト意識を高める改革を実施中です。2024年12月には、初めての外部顧客向けチップ設計のテープアウト(設計完了)をIntel 16(16nm世代のプロセス)で達成し、2025年後半にアイルランド工場で量産開始予定と報じられました。これはインテルが外部顧客を獲得し始めている兆しと言えます。また、最先端のIntel 18Aプロセス(約1.8nm相当)の準備も進展しており、米アリゾナ州のFab 52で製造装置の搬入を開始しています。政府支援も追い風です。米国のCHIPS法に基づき、インテルは最大78.6億ドルの補助金契約を商務省と締結しており、2024年第4四半期に11億ドル、2025年1月にも11億ドルを受領しました。この資金は先端プロセス開発や工場建設に充てられ、インテルの国内製造強化と米国の半導体供給網強靭化に寄与します。さらにインテルは2024年Q3に、将来的にファウンドリ事業を独立子会社化する意向も表明しました。これは外部資本の導入や他社との協業を視野に入れた動きで、実現すればTSMCやサムスンに対抗する独立系ファウンドリとして再出発する可能性があります。ただし足元では、ファウンドリ事業は大規模な赤字を計上しており、採算確保には時間を要する見通しです。競合とのシェア争い: インテルの主要市場であるPCおよびサーバー向けCPUでは、AMDとのシェア争いが一段と激しくなっています。AMDの躍進は著しく、2024年10–12月期のAMDのデータセンター向け事業売上は39億ドルに達し前年比+69%と急拡大しました。同時期のインテルDCAI部門(34億ドル)を規模で上回り、サーバーCPU市場での逆転も視野に入る勢いです。これはクラウド事業者や企業が、性能面や電力効率で優れるAMDのEPYCプロセッサを採用するケースが増えたためです。また、PC向けでもAMDのRyzenプロセッサが健闘しており、特にノートPCやゲーミングPCでシェアを伸ばしています。インテルは依然として世界のPCの約7割にプロセッサを供給する最大手ですが、過去に比べ盤石ではなくなりました。さらに、アップルが自社開発のMシリーズチップへ移行したことで、高価格帯PC市場でもインテルは一部シェアを失っています。AI分野ではNVIDIAが独走状態で、クラウドのGPU需要をほぼ独占しています。インテルはGPU「Flexシリーズ」やAIアクセラレータで挑戦しますが、市場シェアは限定的です。こうした競争環境について、前回決算のカンファレンスコールでも「クライアント及びデータセンターでのシェア低下」や「AI分野での競争激化」がリスクとして指摘されており、経営陣も競合対策が急務であると認識しています。経営陣のコメントとガイダンス: 前回決算時に暫定共同CEOを務めたミシェル・ジョンストン・ホルトハウス氏は、「安易な楽観はせず、確実に達成できる約束のみを行う」と述べ、現実的な目標設定と信頼回復にフォーカスする姿勢を示しました。デビッド・ジンスナーCFOも「顧客の成功が我々の成功につながる」と強調し、顧客本位の戦略で需要回復を図る考えを示しています。前回決算では2025年Q1のガイダンスを売上高117~127億ドルと慎重なレンジで示し、季節要因に加え在庫調整や競争環境を踏まえて二桁の減収を見込んでいました。インテルは2025年後半にかけて徐々に利益率が改善すると予想しており、特に大規模リストラや製造コスト削減の効果が表れるとしています。しかし明確な成長軌道に乗るのは容易ではなく、「短期で魔法のように業績が回復することはない」という趣旨の発言もなされています。経営陣は長期戦の構えで2026年以降の本格回復を目指している状況です。今回(2025年第1四半期)決算での注目ポイントと株価への影響今月下旬に発表予定の2025年1〜3月期決算(Q1)では、個人投資家として以下のポイントに注目したいと思います。AI/サーバー向け事業の売上動向: データセンター&AI部門(DCAI)の売上が底打ちするかどうかが最大の焦点です。前四半期は前年比わずか3%減まで持ち直しましたが、これは主に企業やクラウド向けCPU「Xeon」売上の動きによります。2024年末に投入した新型Xeon(開発コード名:Emerald Rapids)や、省電力コア版Xeonの投入計画(2025年予定のSierra Forest)がどれだけ需要を喚起しているか注目されます。またAI需要に関連して、Habana Labs由来のGaudiシリーズなどAIアクセラレータの売上貢献も焦点です。まだ規模は小さいものの、IBMクラウドでの採用開始など明るい材料も出てきており、「生成AIブーム」をインテルが収益機会に繋げられているか確認しましょう。もしDCAI部門の売上が予想以上に伸びたり前向きな受注動向が語られれば、株価にプラスです。逆に引き続き低迷やシェア喪失が示唆されるようだと、競合優位が意識され株価の重荷となり得ます。ファウンドリ事業の採算性と進捗: 巨額投資中のファウンドリ事業(受託生産)の収益改善ペースも重要です。インテルはこの事業で2024年に約134億ドルの営業赤字を計上しており、短期的に利益を求める段階にはありません。経営陣は2027年までに収支トントン(ブレークイーブン)に持っていく計画を明かしています。今回の決算発表でも、ファウンドリ事業の四半期損失額や設備投資計画について言及があるでしょう。損失幅が縮小傾向にあるか、あるいは新たな受託顧客の獲得状況(例えばメディアテックなど既報の顧客以外の案件)が語られれば、将来の収支改善期待から株価の安心材料になります。逆に損失拡大や計画遅延が示唆されれば、巨額投資への不安から株価の上値を抑える要因となります。加えて、先述の政府補助金の効果で資本投下の負担がどれだけ和らぐか、キャッシュフロー面での言及にも注意しましょう。業績ガイダンスの修正: Q1決算発表時には、4〜6月期(Q2)や通年2025年の見通しについて経営陣からアップデートがある可能性があります。前回示されたQ1ガイダンスは前年同期比では横這いか微減程度とみられ、保守的でした。実際のQ1売上がガイダンス上限を超えるようなら業績底打ち感が強まり、今後のガイダンスレンジが引き上げられる期待があります。特にPC市場に在庫調整完了の兆しが出ていれば、クライアント向けの復調見込みが示されるかもしれません。一方、依然不透明な需給が続く場合はガイダンスも慎重なものにとどまるでしょう。粗利益率の動向も見逃せません。インテルは2023年に製品価格低下や工場稼働率低下で利益率が大きく悪化しましたが、2025年に向けてはコスト削減で徐々に改善すると述べています。今回の決算で原価率が改善傾向にあるか、または値下げ競争などで苦戦しているかを確認し、今後の利益復元力を占う必要があります。ガイダンス上でポジティブな修正(例えば通年売上成長への自信や利益率見通し引き上げ)があれば、株価の押し上げ材料となるでしょう。キャッシュフローと財務健全性: フリーキャッシュフロー(FCF)の状況も投資家の判断材料です。インテルは先進工場への巨額投資負担でここ数四半期はフリーキャッシュフローがマイナスに陥っていました。しかし2024年後半からコスト削減と在庫是正が進み、FCFは徐々に改善しつつあります。前回2024年通年では営業キャッシュフロー83億ドルを確保し、設備投資などを差し引いたFCFの赤字幅は縮小しました。今回のQ1でも営業キャッシュフローの動向に注目です。加えて、先述のアルテラ株売却による約44.6億ドルの資金調達や、アポロ・ブルックフィールドとの半導体設備投資提携(ファブ共同投資)といった取り組みが財務にプラスとなる点も考慮すべきでしょう。キャッシュ面で余裕が出てくれば、研究開発や将来投資への不安が和らぎ株価の下支え材料となります。一方でキャッシュの燃焼が続き自己資本比率の低下や追加の資金調達リスクが意識されると、株主リターン(配当維持等)にも影響しかねず注意が必要です。以上のポイントを踏まえ、個人投資家は今回の決算でインテルの転換点を見極めることになります。インテル株は現在歴史的な低水準にあり、マーケットは同社の苦境を織り込んでいます。しかしそれゆえに、もし業績が予想以上に底堅く「最悪期は脱した」との手応えが得られれば、株価は大きく反発する可能性があります。特にデータセンター向けやAI分野で前向きな指標が出れば、将来の成長ストーリーに繋がるとの期待から買い材料となるでしょう。一方で、依然としてPC・サーバー市場で苦戦が続き見通しも慎重なままだと、失望売りで株価が一段安となるリスクも残ります。インテルの経営陣は「焦らず着実に信頼回復を図る」としています。投資家としても短期的な数字の上下に一喜一憂するだけでなく、2025年後半から2026年にかけての本格的な業績回復シナリオが現実味を帯びてくるかどうか、腰を据えて見定めることが肝要と言えます。

【IBM決算みどころ】新ソフトウェアの業績とAI競争に注目(IBM)
本記事では、IBM(IBM)の2024年第4四半期決算を振り返り、4月24日に控える2025年第1四半期決算の見どころを解説します。クラウド・AI・コンサルティングを中核とした事業を展開する同社は、世界中の企業や政府機関に高度なITソリューションを提供し、デジタルトランスフォーメーションの推進を支援しています。現在、株価は2024年末の急騰を経て高値圏で推移しており、時価総額は約1,600億ドル(約24兆円)と、米テクノロジーセクターの中でも老舗かつ安定した存在感を保っています。 今回の決算では、生成AIやハイブリッドクラウドの需要拡大を背景に、同社の「Red Hat」「Watsonx」などの最新プラットフォームの進捗が注目点となります。特に、2024年から展開を加速している生成AI基盤「Watsonx」は、金融・医療・製造業など幅広い業界において実装事例が増加しており、2025年は商業化フェーズに本格突入する見込みです。2024年4Q決算ハイライト2025年1月末に発表された2024年Q4(10-12月期)決算では、IBMは市場予想を上回る利益を計上し、株価が急伸しました。主要数字とトピックスをまとめると次のとおりです。売上高:第四四半期の売上高は約175.5億ドル(約2.3兆円)となり、前年同期比でほぼ横ばい(1%増)でした。為替の影響を除いた恒常為替ベースでは+2%程度の成長で、アナリスト予想(約175.6億ドル)とほぼ一致する水準です。全体として横ばいでしたが、内訳を見ると明暗が分かれました。EPS(1株当たり利益):調整後EPSは3.92ドルと、市場予想の3.78ドルを上回りました。前年同期比では増益となっており、この「EPSの予想超え」が好感されて発表翌日の株価は一時+10%前後急騰しました。なお通期ではフリーキャッシュフローが127億ドルに達し、IBMの資金創出力の高さも示されています。ソフトウェア部門:ソフトウェア事業が好調で、Q4の売上は前年同期比+10%と大きく伸びました。中でも2019年に買収したRed Hat製品が+16%、自動化ソフトが+15%成長するなど牽引役となりました。ソフトウェア部門の売上は全社の約45%を占め、IBMの収益源の中心です。ソフトウェアは利益率(マージン)が高いため、この成長によって全社の採算性も向上しています。コンサルティング部門:コンサルティング事業(IBMコンサルティング、旧GTS/GBS)は前年同期比-2%とやや減収でした。従来型のIT導入支援などが伸び悩む一方、AI導入に関する大型プロジェクトの契約は増えており、将来の売上パイプラインは厚みを増しています。実際、生成AI関連の「注文残高」は2024年末時点で50億ドル規模に達し、前四半期(2024年Q3)から20億ドル増加しました。この約80%はコンサル経由の案件で、売上への貢献はこれから本格化するとされています。インフラストラクチャー部門:インフラ事業(サーバーやメインフレーム、ストレージ等のハードウェア)は前年同期比-8%と大きく減収しました。特にメインフレームの製品サイクルが一巡し販売が落ち着いたことが響いています。もっとも、インフラ部門は全体の収益に占める割合が2割弱と以前より小さくなっており、今のIBMの主力はあくまでソフトとコンサルである点は押さえておきましょう。AI関連事業の動向:前述の通り、生成AIやハイブリッドクラウド関連がソフトウェア・コンサルの両面で成長をけん引しています。CEOのアービンド・クリシュナ氏も決算発表で、AI戦略が順調に成果を上げていることを強調しました。また同社のAIモデル群「Granite」をオープンソース化するなど独自路線を打ち出しており、これはマイクロソフトなど競合他社とは異なるアプローチだと報じられています。AI戦略の成功によりIBM株は「AI銘柄」の一角として見直されつつあります。ガイダンスの達成状況と見通し:IBMは通年業績見通し(ガイダンス)として「2024年は恒常為替ベースで+3%成長」を掲げていましたが、結果的に通年+3%を達成しました。また2024年のフリーキャッシュフロー目標も当初見込み(約100億ドル)を上回り127億ドルに達しました。これらの実績を踏まえ、2025年のガイダンスとして「売上成長+5%以上(恒常為替ベース)、フリーキャッシュフロー135億ドル前後」が示されています。前年より強気な目標で、経営陣は「AIとクラウド戦略への自信の表れ」とコメントしています。1Q決算ではこのガイダンスに対する進捗も注目されます。前回決算(2024年Q4)後の主なニュースと業況2024年Q4決算発表(1月末)から今回1Q決算発表(4月予定)までの間、IBMを取り巻く主なニュースを振り返ります。AI戦略の進展や大型契約・提携、株価の推移など、個人投資家が押さえておきたいトピックをまとめます。AI関連の展開強化IBMは引き続きAI分野で積極的な動きを見せました。特に企業向けAIプラットフォームWatsonxの受注好調が株価を押し上げています。前述のように生成AI関連の案件パイプラインは50億ドル規模に達しており、「AIシフトがソフトウェア業績を押し上げている」と評価されています。実際、IBM株は1月末の決算発表後に翌日14%近く急騰し(引け値でも+9%)、以降もAI関連の好材料が出るたびに買われる展開となりました。例えば3月上旬には、IBMがルーマニアにクラウド研究開発センターを開設すると発表したことを受け、株価が一日で+5.2%上昇しています。Watsonxプラットフォームを活用した生成AIの実用事例も増えており、4月のマスターズ・ゴルフ大会では大会公式アプリにIBMのAIを導入してファン向けの新機能を提供しました。Graniteと呼ばれる大規模言語モデルを用いたホールごとのショット分析やAI解説などが実現しており、スポーツの世界でもIBMのAI技術が活躍しています。このように「AI×○○」の具体例が増えることで、IBMのAI戦略に対する投資家の期待も高まっています。大型契約・買収・提携前回決算後、IBMはM&A(企業買収)も積極化しています。中でも注目はDataStax社の買収発表です。DataStaxはオープンソースの分散型データベース(Apache Cassandraのクラウドサービス等)を手掛ける企業で、生成AI時代のビッグデータ処理に強みを持ちます。IBMは2025年2月にこのDataStax買収を発表し、Watsonxポートフォリオに統合することで大規模データのAI活用を加速する狙いです。さらにHashiCorp社の買収もトピックです。HashiCorpはクラウドインフラ自動化ツール「Terraform」で有名な企業で、IBMは約64億ドル(約8,400億円)もの巨額を投じてこの買収を完了しました。目的はRed Hatの自動化ソフトとの相乗効果で、企業のハイブリッドクラウド環境構築をワンストップで支援できる体制を整えることです。この他、Qualcomm社との提携強化も見逃せません。IBMとQualcommは2025年3月のモバイル見本市で、エッジ端末向けの生成AIを共同推進する協業を発表しました。QualcommのAIチップ上でIBMのAIモデルを最適化して動かすもので、クラウドとエッジをまたぐAIソリューションの提供を目指しています。さらに、東京エレクトロンとの半導体研究提携延長や、フェラーリとのスポンサー契約など技術・マーケティング両面のニュースもありました。総じて、IBMはAIとクラウドに絡む領域で積極的に投資・提携を行い、将来の成長基盤を強化していることがうかがえます。株価の推移と評価こうした好材料を受けて、IBMの株価は2025年に入り堅調です。2025年初から3月末までの第1四半期で株価は約13%上昇し、同期間のS&P500指数やNASDAQ指数を大きく上回りました。前年からの1年間でも株価は+20%近く上昇しており、ハイテク業界全体では低迷する企業も多い中で「健闘している」と言えるでしょう。株価上昇によりは現在約3%前後となっており、近年では最低水準の配当利回りです。これは市場がIBMの安定配当よりも成長期待で株を買っている状況とも解釈できます。アナリストの評価を見ると強気派と慎重派が混在しており、ウォール街の目標株価平均は約252ドルで現値より一割ほど上値余地がある水準です。「適度に割安なAI関連株」と捉える向きもあり、株価収益率(P/E)や売上倍率(P/S)の面では同業他社に比べ割高感が強くないとの分析もあります。一方で、3月下旬には米政府系機関(USAID)の契約キャンセル報道が出てIBM株が瞬間的に6%急落する場面もありました。このニュースは、IBMが受注していた約5年間・総額9500万ドル規模のサイバーセキュリティ支援契約が取り消されたというもので、コンサル部門への逆風を嫌気した売りが出た形です。結果的に株価への影響は一時的でしたが、コンサル分野の不確実性も意識された出来事でした。総合すると、IBM株は堅調ではあるもののAI期待と伝統的事業の不安要素が混在し、投資家の間でも見方が分かれています。次の1Q決算がその評価を左右する可能性もあるため、注目が集まっています。今回発表(2025年Q1)決算の注目ポイント最後に、4月発表の2025年1Q決算で個人投資家がチェックすべきポイントをまとめます。今回の決算は、前述のAI追い風が実際の業績数字にどう表れるかを見る上で重要です。以下の点に注目してみましょう。ソフトウェア収益の伸び持続最大の注目点は、主力のソフトウェア部門がどれだけ成長を続けているかです。前年同期(2024年1Q)はソフト部門が2桁成長していたため、その反動で伸び率が鈍化する可能性もあります。しかしWatsonxやRed Hat関連の需要増を考えると、引き続き高成長が期待されています。ソフトウェア比率の上昇は全社の利益率押し上げにも直結するため、もし市場予想以上の増収を達成すれば株価にとって大きなプラス材料です。一方、伸び悩みの場合は失望売りが出るリスクもあり、「成長エンジン」が順調かどうかを見極める必要があります。AI・ハイブリッドクラウドの貢献度ソフト部門内でも特にAI関連製品やハイブリッドクラウドの売上寄与に注目です。具体的には、決算説明で「Watsonxプラットフォームの商談状況」や「生成AI案件の受注残高」などがアップデートされる可能性があります。先述のとおり前四半期時点で生成AIの累計受注は50億ドルに達しており、これがさらに増加しているか注目されます。また、HashiCorp買収の完了でTerraform関連の売上が計上され始める点や、DataStax買収の見通しについて言及があるかもポイントです。IBMは「ハイブリッドクラウドとAIの会社」へ舵を切って久しく、その戦略が数字に表れているかを確認しましょう。ここが順調であれば、IBMの変革が軌道に乗っている証拠となり、中長期の成長期待が高まります。利益率(マージン)の維持成長と同時に収益性もチェックが必要です。特にコンサル部門が伸び悩む局面では、人件費負担が重くなり利益率低下につながる恐れがあります。逆にソフト部門比率が上がれば高マージンなので、全社の営業利益率は改善傾向が続く可能性があります。前回決算では調整後純利益ベースで22.4%のマージンを確保しましたが(前年は約17%)、この水準を維持できるか注目です。コスト管理や価格戦略について経営陣からコメントが出るかも見どころです。一般に利益率が市場予想を上回れば株価には追い風となり、逆に予想比で大きく低いと失望されるので、売上だけでなく利益面も忘れず確認しましょう。株主還元(配当・自社株買い)の動向安定配当はIBM株の魅力の一つです。IBMは28年連続で増配しており、2025年も例年通り4月に四半期配当を1株あたり1.67ドルに引き上げました。このように長年にわたり配当を維持・増加させている点は個人投資家に安心感を与えます。一方、自社株買いについては、近年大型買収に資金を投じてきた経緯もあり控えめでした。しかしフリーキャッシュフローが増大する中、今後の買い戻し再開にも注目が集まります。過去には取締役会が大規模な追加買収枠を承認した例もありますが、まずは債務削減と成長投資を優先する姿勢が続くと見られます。今回の決算でも直接の言及はないかもしれませんが、配当方針に変更がないか(増配率や配当性向のコメント)、あるいは余剰資金の使途について示唆があれば重要です。株主還元の強化は株価の下支え要因になるため、中長期投資の観点ではチェックしておきたいポイントです。IBMの2025年1Q決算は、AI旋風に乗るIBMが、実際の数字でもその恩恵を示せるかを判断する上で重要なイベントです。ソフトウェアの好調持続とAI関連の具体的成果、そして収益性と先行きに対する自信が確認できれば、マーケットの評価も一段と高まるでしょう。一方でコンサルやインフラの低迷が続いたり、弱気な見通しが示されれば株価は上値の重い展開になる可能性があります。個人投資家にとっては高配当のディフェンシブ銘柄であると同時に、AI時代の成長ポテンシャルを秘めた銘柄でもあるため、今後の動きに注目です。

【インテューイティブ・サージカル決算みどころ】新型ロボットの売上拡大と海外市場開拓に期待(Intuitive Surgical)
本記事では、インテューイティブ・サージカル(ISRG)の2024年第4四半期決算を振り返り、4月23日に控える2025年第1四半期決算の見どころを解説します。「ダ・ヴィンチ」手術ロボットを中心とした事業で知られる同社は、世界中の病院に手術支援ロボットを提供し、低侵襲手術の拡大を牽引しています。現在、株価は昨年来の高値圏で推移し、時価総額は約1,920億ドル(約25兆円)に達する巨大企業です。今回の決算では、高成長を続ける手術ロボット事業の最新状況が論点となります。同社の成長戦略の中核となっている、新世代の手術システム「ダ・ヴィンチ5」は、市場から高い評価を受けており、2025年中頃からの本格的なグローバル展開が予定されています。一方で、グローバル市場では各地域特有の課題も見られており、地域別の販売台数などに注目が集まっています。2024年4Q決算ハイライトまず、直近の決算となる2024年4Q(昨年10~12月期)の結果を振り返りましょう。インテューイティブ・サージカルはこの四半期で市場予想を上回る好業績を収めました。主なハイライトは以下の通りです。売上高: 約24億1,000万ドル(前年同期比+25%)を記録しました。低侵襲手術需要の拡大により、売上は大きく伸びています。EPS(一株当たり利益): 1株利益は調整後ベースで2.21ドルとなり、前年同期の1.60ドルから大幅増加。これは市場予想を約1.79ドルも上回る水準でした。好調な売上増加が利益面にも反映されています。ダ・ヴィンチ手術ロボットの販売台数: 四半期中に493台の「ダ・ヴィンチ」手術システムを世界で設置(販売)し、前年同期の415台から19%増加しました。このうち174台は最新世代の「ダ・ヴィンチ5」システムで、2024年に投入された新モデルの需要が堅調です。手術稼働件数: ダ・ヴィンチによる手術件数(プロシージャ数)は前年同期比+18%と大きく伸び、2024年通年でも+17%の成長を遂げました。低侵襲手術への需要回復と、新規導入先の増加が背景にあります。特に米国の一般外科手術が+19%、米国外も+23%と世界的に件数が増加しています。粗利率: 製品の高付加価値により、粗利率(グロスマージン)は約69%と高水準を維持しました。前年より約1ポイント改善しており、収益性の高さがうかがえます。なお同社は2024年通年の非GAAP粗利率が69.1%であったと発表しています。ガイダンス達成状況: 手術件数や売上成長は会社の見通し範囲内かつ市場予想以上で着地しました。例えば前年の電話会議で示した2024年通年の手術件数+16~17%増との予測に対し実績は+17%と上限達成。売上・EPSも予想を上回り、経営陣の計画達成能力が示されています。2024年Q4は売上・利益ともに好調で、「ダ・ヴィンチ」システムの販売と手術件数が順調に拡大していることが確認できました。特に最新モデル「ダ・ヴィンチ5」の立ち上がりが寄与し、業績は市場予想を上回るサプライズとなりました。この結果を受けて株価も決算発表直後に上昇し、2025年初めには過去最高値を更新する展開となっています。また、同社は2025年の世界手術件数成長率を+13~16%程度と予想しており、引き続き二桁成長が続く見通しを示しました。前回決算(2024年Q4)後の主なニュースと業況前回決算発表(2025年1月下旬)から今回のQ1決算発表までの間に、インテューイティブ・サージカルおよび周辺業界ではいくつか注目すべきニュースがありました。新製品の進展や規制当局の動き、株価動向や病院の投資環境など、個人投資家として押さえておきたいポイントを整理します。新製品「ダ・ヴィンチ5」の本格展開 2024年にFDA(米食品医薬品局)の承認を得た第5世代のダ・ヴィンチ手術システムは、限定的な出荷からスタートしつつも強い需要を示しています。2024年通年で362台のダ・ヴィンチ5が設置され(うちQ4に174台)、約3.2万件の手術がこの新システムで行われました。2025年中頃には本格的なグローバル展開が予定されており、さらなる売上ドライバーとして期待されています。既存モデルと比べ150以上の改良点を備え高性能化したダ・ヴィンチ5は、多くの外科医から注目を集めており、「最新機種への更新需要」が顕在化しています。Ion(アイオン)・SPプラットフォームの成長主力の多関節ロボット「ダ・ヴィンチ」シリーズに加え、気管支鏡ロボットの「Ion」や単一ポート手術ロボットの「da Vinci SP」も高成長を遂げています。2024年はIonによる手術件数が前年比+78%、単一ポートのSPも+72%と、それぞれ急増しました。これらは基数がまだ小さいものの、新分野でのロボット手術普及を示す好材料です。特にIonシステムは肺がん診断の低侵襲化に貢献し、米国内で導入が進展しています。一方、SPシステムは泌尿器科や耳鼻科領域向けに2018年以降展開され、2025年4月にはSP向けの専用ステープラー(縫合器具)がFDA承認されるなど、機能拡充が図られています。SPはすでに日本や欧州、韓国などでも承認・導入されており、適応手術の拡大とともに利用件数が増加しています。FDAや各国規制の動向上記のとおり、2024年3月に「ダ・ヴィンチ5」がFDA承認、2025年4月にSP用ステープラー承認など、規制当局からの承認取得が順調です。これによって製品ラインナップの強化・手術適応の拡大が進み、同社の競争力向上につながっています。また海外では、インテューイティブが欧州各国で販売代理店を買収し直販体制を整備する動きも報じられました。例えばイタリアの代理店を取り込むことで、欧州でのダ・ヴィンチやIonの普及をさらに加速させる狙いがあります。一方、中国市場では現地企業の台頭や政府政策によりシェア競争が激化しており、2024年の中国における手術件数成長率は全社平均を下回ったとされています。各国の規制・競合環境を注視しながらも、インテューイティブ・サージカルは着実にグローバル展開を拡大している状況です。病院の投資動向と市場環境世界的に医療機関のロボット投資意欲は高いものの、金利上昇や予算制約による慎重姿勢も見られます。欧州では英国やドイツを中心に政府の医療予算圧迫が報告されており、病院の大型設備投資に影響を及ぼす懸念があります。しかし、術後の患者回復を早めるロボット手術は長期的な医療コスト削減に寄与するため、競争力強化のためロボット導入を進める病院は増加傾向です。インテューイティブ・サージカルはそうした需要を取り込むため、販売モデルにも工夫を凝らしています。例えばリースや使用量に応じた従量課金制でシステムを提供し、初期費用負担を軽減する戦略です。2024年Q4には新規設置493台のうち約45%にあたる222台がリース形式で提供され、その半数以上が使用量連動型でした。この柔軟な販売手法により、中小規模病院でもロボット導入が進みやすくなっています。株価の推移インテューイティブ・サージカルの株価は、2024年Q4決算発表後に急伸し2025年1月には史上最高値となる約616ドルをつけました。好決算やダ・ヴィンチ5需要への期待感から投資家が買いを進め、一時は前年比で株価が約2倍になる勢いを見せました。しかしその後は、高値警戒感ややや控えめな成長ガイダンスもあり、株価は調整局面に入っています。4月中旬現在の株価は約490ドル前後で推移し、年初来高値から約20%下落した水準です。それでも依然として高PER(株価収益率)水準にあり(予想EPS基準で70~80倍程度)、市場の成長期待を織り込んだ株価と言えます。株価変動要因としては、四半期業績やガイダンスの上下ブレに加え、金利動向や競合他社の参入ニュース(例:メドトロニック社やJ&Jの手術ロボ開発)なども挙げられます。引き続き業績動向次第で株価は大きく反応しやすい局面であり、今回のQ1決算も株価に影響を与える重要イベントとなるでしょう。今回発表(2025年Q1)決算の注目ポイント2025年1Q(1~3月期)決算で個人投資家が注目すべきポイントを整理します。前述の流れを踏まえ、以下の点に注目することで、決算内容が株価に与える影響を読み解きやすくなるでしょう。手術件数の成長率最も重要な指標の一つがダ・ヴィンチ手術の件数増加率です。前年(2024年)通年で+17%の成長を達成した手術件数が、今年Q1でも引き続き2桁成長を維持できているか注目されます。会社側は2025年通年で+13~16%増と見込んでいますが、Q1時点でこのレンジに収まるか、それとも上振れ傾向にあるかがポイントです。件数増加=需要拡大を意味し、中核ビジネスの勢いを示すため、成長率が高水準なら株価にとってプラス材料となるでしょう。逆に予想比で明確に減速していれば、需要鈍化懸念から株価の重荷となる可能性があります。新規システムの販売台数(導入数)Q1におけるダ・ヴィンチシステムの販売・設置台数も重要です。四半期ごとの販売台数は病院の設備投資意欲を反映しており、通常、年末のQ4にピークを迎えやすくQ1はやや落ち着く傾向がありますが、それでも前年同期比で増加していれば順調です。昨年Q1(2024年1Q)の販売実績や前年Q4からの反動を踏まえ、今回も二桁%の台数成長が見られればポジティブでしょう。特に今年は最新モデル「ダ・ヴィンチ5」の貢献が大きくなる局面であり、「ダ・ヴィンチ5」が全販売に占める割合にも注目です。新製品への切り替え需要が順調なら、売上単価上昇や買替サイクル短縮につながるため、将来的な収益押上げ要因と捉えられます。逆に病院の資本支出抑制で販売台数が伸び悩むと、成長鈍化として警戒されるでしょう。利益率(マージン)の維持状況売上が伸びても利益率が低下すると最終利益の成長に響くため、粗利率や営業利益率の動向から採算性を見極める必要があります。インテューイティブ・サージカルは高い粗利率(非GAAPベースで約69%)を誇りますが、経営陣は2025年はややマージンが低下する可能性に言及しています。理由として、リース販売拡大による収益認識の遅れ、減価償却費の増加(新工場稼働による)、およびIonやSPなど利益率の低い新製品比率増が挙げられています。また米中貿易摩擦による新たな関税リスクも原価上昇要因です。そこで、今回のQ1で粗利率・営業利益率がどの程度確保されているかをチェックしましょう。前年並みの水準を維持できていれば健闘と評価され、株価にも安心感を与えます。一方、大きく低下している場合は「収益力悪化」と受け取られ株価の下押し要因となり得ます。特に部品コストや価格競争の影響が出ていないか、決算発表資料やカンファレンスコールでの解説に注目です。米国外市場での成長動向インテューイティブ・サージカルの成長余地として重要なのが海外市場での普及拡大です。2024年は米国外の手術件数が前年比+23%と米国以上の伸びを示しました。地域別では日本・ドイツ・英国など先進国で導入が加速し、新興国ではブラジルなども好調でした。今回のQ1でも、こうした海外市場が引き続き高成長を維持できているかを確認しましょう。特に中国市場は現地ロボット企業の参入や政府の国内優遇政策により競争が激化しており、同社の手術件数伸び率が全社平均を下回る状況です。この傾向がQ1でも続いているか、あるいは改善が見られるかは注目ポイントです。また日本や欧州での販売も、為替や景気要因の影響を受けていないか確認すると良いでしょう。海外市場が好調を維持すれば「成長の裾野拡大」として投資家には好材料となります。一方、もし特定地域で導入減速がみられれば、その理由(競合出現か景気要因か)を分析し、中長期成長シナリオへの影響を考える必要があります。2025年通期ガイダンスの修正有無 Q1決算発表時には、経営陣が通期見通し(ガイダンス)を修正するかどうかも重要です。前回示された2025年通期ガイダンスは「手術件数+13~16%成長、非GAAP粗利率67~68%、営業費用+10~15%増」などでした。Q1の実績が計画を上回って順調なら、通期予想レンジの上方修正やレンジ縮小(より楽観的な見通し提示)が行われる可能性があります。例えば手術件数成長率レンジを引き上げたり、収益見通しを上乗せする形です。ガイダンス引き上げは市場の信頼感を高め、株価上昇要因となり得ます。逆に慎重姿勢が崩れず据え置かれた場合、投資家によっては「保守的すぎる」と映るかもしれません。ただし、据え置き自体はネガティブと限らず、計画通り順調との判断にもなります。万一、何らかの理由でガイダンスレンジが引き下げられるようなことがあれば、成長鈍化懸念から株価にはマイナス材料となるでしょう。いずれにせよ、経営陣が最新の需給動向や経営環境をどう見ているかが反映される部分なので、見逃せません。経営陣のコメント決算発表と同時に行われるカンファレンスコール(電話会議)でのCEOやCFOの発言にも注目です。ここでは数値には現れないトピック、例えば病院からの需要感触や新製品の評価・今後の展開、競合動向への見解などが語られます。今回で言えば、最新機種ダ・ヴィンチ5の本格展開に向けた準備状況や、Ion・SPのさらなる市場開拓戦略についての言及が期待されます。また、米国で話題の肥満症治療薬(GLP-1製剤)普及による減量手術数への影響について前四半期に「肥満手術がやや減少した」とコメントがありましたが、この傾向が続いているかどうかも気になる点です。他にも、病院の資本支出に対するマインド(金利高の中でも設備投資意欲は堅調か)、競合ロボットへの対策(他社製品との差別化や価格戦略)、新興市場での規制対応(中国などでの戦略)など、経営陣の見解が株式市場に影響を与える可能性があります。個人投資家としては専門用語が飛び交う場面ではありますが、気になるトピックについてはニュース記事や決算要旨の解説を追い、経営陣が示す今後の方向性を把握すると良いでしょう。インテューイティブ・サージカルの2025年1Q決算は、高成長を続ける手術ロボット事業の最新状況を確認する上で重要なイベントです。前回決算で示された勢いが持続しているか、新製品や海外市場の動向が業績にどう寄与しているかがポイントとなります。特に手術件数とシステム販売の伸びが引き続き顕著であれば、年間計画達成に向け順調な滑り出しと評価されるでしょう。その場合、株価にとっても追い風となり得ます。一方で、利益率の低下や成長減速の兆候が見られれば、一時的に株価が調整する可能性もあります。個人投資家の方は、決算発表後の株価急変に振り回されないよう、上記の注目ポイントを踏まえて長短の視点で冷静に分析することが大切です。

【サービスナウ決算みどころ】AI戦略と事業拡大で高成長持続(ServiceNow)
サービスナウの2025年第1四半期決算に向けた見どころを解説します。サービスナウは生成AI時代の「勝者」の一社と目されており、2024年には株価が大きく上昇しました。しかし2025年に入り成長率見通しの鈍化などから株価は調整し、個人投資家にとっては「成長ストーリーに陰りはないのか?」を見極めるタイミングとなっています。幸いにも同社は依然として高成長を維持しつつ、AI分野への積極投資とパートナー網拡大で将来の飛躍に備えている状況です。1Q決算はその戦略が順調に進んでいるかを占う最初のチェックポイントとなります。2024年第4四半期(Q4)決算ハイライト2025年1月末に発表された2024年Q4の決算は、売上や利益が市場予想をおおむね上回る堅調な内容でした。しかし、発表後の株価は大きく下落する波乱も見られました。以下に主要な数字とトピックをまとめます。売上高(Revenue):総売上高は約29.57億ドルで前年同期比+21%と高い成長率を維持しました。このうちサブスクリプション収益(継続課金による売上)は28.66億ドル(前年同期比+21%)と順調に拡大しています。為替の影響を除いた実質成長率も21%増と同水準でした。EPS(1株当たり利益):EPSは$3.67となり、市場予想の$3.65をわずかに上回りました。増収効果や費用管理の改善により前年から増益を達成しています。営業利益率:営業利益率は29.5%に達し、前年から改善しました。同社は高成長と併せて収益性の向上にも成功しており、フリーキャッシュフローマージンも31.5%と堅調です。大口顧客数:年間契約価値(ACV)100万ドル超の大口顧客は2,109社となり、前年同期比+12%増加しました。さらに500万ドル超の超大口顧客も500社近くに上り(前年同期比+21%増)、既存顧客の拡大と大型契約の獲得が順調であることを示しています。なお、Q4単独で契約価値100万ドル超の新規契約を170件も獲得し、500万ドル超の超大型案件も19件成立しています。残存契約残高(RPO):将来の売上のパイプラインを示す残存履行義務(RPO)はQ4時点で約220.3億ドルと前年同期比+23%増加し、今後の収益基盤の強さを示しました。特に今後12か月以内に売上計上予定の契約残高(cRPO)は100.27億ドル(前年同期比+19%)と高水準です。株価の反応:決算発表直後の時間外取引でサービスナウ株は約11~13%急落し、発表翌日の取引終了時点で株価は約$1,013と発表前から大幅下落しました。これは売上・EPSが概ね予想通りだったにもかかわらず生じた下落で、投資家が決算内容以外の要因に懸念を示したことを意味します。サービスナウのQ4業績そのものは「予想を上回る強い内容」でしたが、後述する翌年度の成長見通し(ガイダンス)の慎重さが嫌気され、株価は決算後に下振れしました。それでも、前年通期のサブスクリプション収益は106億ドル(前年比+22.5%)に達し、クラウドソフト企業として依然トップクラスの成長を示しています。株価は2024年を通じて大きく上昇していた反動もあり、決算後には一時調整局面となりましたが、依然として長期的な成長期待は高い状況です。前回決算(2024年Q4)以降の主なニュースと動向前回の決算発表(2025年1月末)以降、サービスナウに関連していくつか重要なニュースやトピックが発表されています。特に生成AI(ジェネレーティブAI)分野での取り組み強化や大型契約の動向、製品ラインアップ拡充や提携、そして業績見通しに関する経営陣の発言が注目されました。それぞれ順に整理します。生成AIとAIエージェント戦略の進展生成AIを活用した機能拡充と戦略の進展は、サービスナウの近時の最大テーマです。サービスナウは自社プラットフォームにおいて生成AIを組み込んだ「Now Assist」機能を提供しており、Q4ではこの生成AI関連の新規契約価値(ACV)が大幅に伸びました。同社CFOのジーナ・マスタントゥオーノ氏は「第4四半期にNow Assist(サービスデスク向け)の案件数が前年同期比150%増加した」ことを明らかにしており、生成AIへの顧客需要が急拡大していることを示しています。さらに提供形態にも革新を加えており、生成AIソリューションに対しては従来のサブスクリプション(定額課金)だけでなく、実利用量に応じて料金が発生する「従量制(消費ベース)価格モデル」を導入しました。これは短期的な収益よりもまずAI機能の普及を優先する戦略で、当面は収益認識が抑えられる可能性があるものの、より幅広い顧客にAI機能を使ってもらい将来的な収益拡大につなげる狙いがあります。実際、サービスナウは「Agentic AI」(エージェント型AI)と称するビジョンを掲げ、人手を介さずAIエージェントが業務を自動化する世界を見据えて事業モデルを調整中です。こうしたAI戦略への大胆なシフトによって、短期的には2025年のサブスクリプション収益成長率が従来よりやや鈍化する見通しとなり投資家の不安要因となりましたが、長期的にはより高いAI採用率と収益機会の拡大が期待されています。経営陣も生成AI戦略への自信と意欲を強調しています。ビル・マクダーモットCEOは決算後のコメントで「我々は人々のためにAIを働かせている(AI is working for people)」と述べ、AI技術が顧客企業の生産性向上に直結して価値を生む点を強調しました。またジーナCFOも「複数のAIエージェントをシームレスに調整・管理できる能力と、統合データアーキテクチャを持つ我々のプラットフォームはユニークなポジションにある」と発言し、サービスナウが企業のAI導入を包括的に支援できる立場にあると述べています。さらに決算説明会の質疑では、アナリストからサブスクリプション+従量課金のハイブリッドモデルやAIエージェント戦略について質問がありましたが、経営陣は「大規模言語モデル(LLM)の計算コスト低下」への懸念に対し「AIがビジネスモデル自体を変革し得る」との見解を示し、自社の戦略方針に自信を見せました。要するに、AI活用が業務効率を劇的に高める潮流は不可逆であり、サービスナウはその波に乗ってビジネスを飛躍させる用意があるというメッセージです。大口契約と顧客基盤の拡大前述のとおり、サービスナウの大口顧客数(年契約額100万ドル超)は着実に増加しています。既存顧客の追加投資も盛んで、年契約額2000万ドルを超える超大型顧客も前年から35%増加しました。これは一部の巨大企業が同社プラットフォームへの投資をさらに深化させていることを意味します。実際、2024年Q4には新規大型契約(100万ドル超)を170件も獲得し、顧客基盤拡大の勢いが示されました。特に官公庁や政府系の顧客での導入も伸びており、米国では国防総省などとの大型契約獲得も報じられています。もっとも米政府予算の優先順位変化や2025年の政権交代に伴う承認遅れなど、公共部門特有の不確実性もあり、一部大型案件は年度後半にずれ込む可能性が指摘されています。経営陣は「政府機関のコスト効率化ニーズにサービスナウのソリューションは合致する」として官公庁ビジネスにも自信を示していますが、投資家としては公共分野の案件動向にも注意が必要でしょう。それ以外の民間分野では引き続き顧客基盤は拡大しています。サービスナウはITサービス管理(ITSM)からスタートした企業ですが、現在はIT、カスタマーサービス、人事、セキュリティ、開発運用など幅広い部門で使われるプラットフォームへと進化しています。ワークフローの自動化ニーズは業種を問わず高まっており、この追い風の中で同社の製品を複数同時に導入する企業も増加しています。例えば「複数の生成AI機能(Now Assist for ITSMやカスタマーサービス等)を導入した顧客数は、直近四半期で2倍に増加」すると報告されており、単一顧客がサービスナウの複数のソリューションを活用している状況が進んでいます。顧客あたり売上の増加(ARPAの向上)にもつながるため、広がる顧客基盤と深まる顧客あたり利用範囲は、中長期の収益成長にとってポジティブな兆候です。製品の拡充と戦略的パートナーシップサービスナウは積極的な製品拡充と他社との提携によって、自社プラットフォームの価値向上を図っています。2024年Q4には150を超える生成AI関連の新機能を自社プラットフォーム上でリリースしました。例えばAIガバナンス(統制)ツールの充実や、多言語対応の強化、さらに構成管理・契約管理・法務サービス・安全衛生といった特定業務領域向けのAIソリューションを投入し、企業内のあらゆるプロセスでAIが活用できるよう機能を拡張しています。2025年3月には、新たに「AIエージェント・オーケストレーター」や「AIエージェント・スタジオ」といった高度なAIエージェント群も提供開始されました。これにより、複数のAIエージェントが社内の様々なシステムや部門を横断して協調動作することが可能となり、企業は自社にカスタマイズしたAIエージェントを開発・展開できるようになります。これらは上位プラン(Professional+やEnterprise+)の一部として提供され、生成AIを実業務に組み込むための「制御塔(コントロールタワー)」としてサービスナウを位置付ける狙いがあります。また、他企業とのパートナーシップ強化も重要なトピックです。サービスナウは主要クラウド事業者やソフトウェア企業と提携し、自社プラットフォームの連携範囲を広げています。直近の発表ではGoogle Cloudとの協業拡大により、ServiceNowをGoogleのクラウドマーケットプレイスで提供したり、Googleの生成AIインフラ(Google Cloud AI)とServiceNowのデータ連携を深めたりすると発表されました。Amazon Web Services(AWS)とも提携し、AWSが提供する生成AI基盤(Bedrockなど)のモデルをServiceNowのプラットフォームから利用できるようにする取り組みを進めています。さらにMicrosoftとの連携強化も大きな話題です。2024年Q4には「Microsoftの生成AIツールCopilotとServiceNowのAIエージェントを組み合わせて企業のフロントオフィス業務を最新化する」というビジョンのもと、提携を拡大しました。この協業により、両社のプラットフォームの強みを融合して顧客企業の課題解決に当たる狙いです。他にもFive9(コンタクトセンターAI)やVisa(金融業務効率化)、Snowflake(データ連携)、Zoom、IBM、日本の富士通など数多くの企業とパートナーシップを結んでおり、強力なエコシステム(生態系)を形成しています。この豊富なパートナー基盤はサービスナウの市場競争力を高め、新規顧客獲得や既存顧客へのさらなる価値提供を後押しすると期待されています。製品拡充の一環としてM&A(企業買収)にも取り組んでいます。2025年1月には、AIネイティブな対話データ分析プラットフォームを提供する新興企業「Cuein」の買収を発表しました。この買収によりServiceNow上で次世代のAIエージェント開発を加速させ、会話データの分析知見を取り込む狙いです。同じくQ4中には産業制御システムのセキュリティ企業「Mission Secure」も買収し、製造業などのOT(Operational Technology)領域のサービス強化を図りました。これにより工場などの現場設備データまで含めた包括的な運用管理を支援し、顧客の意思決定やダウンタイム削減に資するサービスを提供できます。これらの投資は当面コストとなりますが、将来のサービス拡大による差別化と収益源の多様化につながると見られます。保守的なガイダンスと経営陣の見解前回決算で投資家が懸念を示したポイントの一つが、2025年の業績ガイダンス(会社予想)の慎重さでした。サービスナウは2025年通年のサブスクリプション収益見通しを126.35~126.75億ドル(前年比+18.5~19%増、為替一定ベースでは+19.5~20%増)と発表しました。これは前年の+22.5%増から成長率が減速する見込みで、市場コンセンサス(約128.5億ドル)を下回る水準でした。経営陣によれば、このやや控えめなガイダンスはいくつかの要因によるものです。為替の逆風約1.75億ドル(ドル高により海外売上のドル換算額が目減り)や、米連邦政府向けビジネスが後半に偏重する見込み(予算承認の遅れ等で上期は伸び悩む)といった外部要因が成長率を押し下げる見通しです。さらに前述のAI製品における従量課金モデル導入も短期的な収益計上を抑制するため、2025年の成長率にはマイナスに作用すると説明されています。こうした事情から「強気のビート&レイズ(好決算→ガイダンス上方修正)」を期待していた市場は肩透かしを食らい、前述のように決算直後に株価が下落する結果となりました。しかし、長期的な成長ストーリーに陰りが生じたわけではない点に注意が必要です。経営陣は「短期的な数字よりも長期の顧客基盤拡大とAI主導のイノベーションに重点を置いている」と強調しており、2025年の計画は将来の更なる飛躍のための布石と捉えられます。実際、約30億ドルの追加自社株買いプログラムを決定していることからも、自社の中長期的な成長と企業価値向上に自信を持っていることがうかがえます。また、2025年の営業利益率は30.5%程度(前年度29%台から改善)とする計画も示しており、高成長と高収益性の両立を目指す姿勢は継続しています。ビルCEOは「今なお巨大な機会の初期段階に過ぎない。我々のイノベーションと成長、収益性は唯一無二の存在だ」と語り、生成AIによるトップダウンでの企業IT再編という追い風を確信している様子です。またCFOも「2025年に打っている手は単にリードを維持するだけでなく拡大するため」のもので、「将来のエージェント型自動化の未来を我々が定義していく」と述べており、今後の戦略展開に自信をのぞかせました。総じて、前回決算以降のサービスナウは生成AIブームを追い風に、積極的な戦略投資と提携拡大で長期成長への布石を打っている状況です。一方で短期的な業績見通しは保守的で、市場の期待値とのギャップから株価が調整しました。しかしこれは裏を返せば、慎重な見積もりを上回る業績を出す余地があるとも言えます。では、まもなく発表される2025年1Q決算では具体的にどんなポイントに注目すべきか、そして株価へどのような影響が考えられるでしょうか。2025年第1四半期(1Q)決算で注目すべきポイントと株価への影響いよいよ発表が近づく2025年1Q決算では、以下のポイントに投資家の注目が集まっています。それぞれが株価に与え得るインパクトについても解説します。新規顧客数や大型顧客の増勢:まず新たな顧客獲得数や大口顧客(ACV100万ドル超)の増加ペースに注目です。前述のとおりサービスナウの大型顧客は前年比+12%で増えてきましたが、景気動向や競合状況によって新規案件の獲得ペースは変動します。1Qは年間のスタートとなる重要な四半期であり、どれだけ新規顧客や大型契約を積み増せたかが成長持続性の指標となります。もし顧客純増が加速していれば市場は成長加速のシグナルと捉え株価にはプラスでしょう。一方、大型案件の失速が見られれば懸念材料となり得ます。ただ、政府案件の季節要因などもあるため、一時的な減速かどうかを見極める必要があります。プラットフォームの成長性(クロスセル動向):単に顧客数が増えるだけでなく、既存顧客がサービスナウのプラットフォームをどれだけ深く広く使っているかも重要です。例えば「複数のServiceNow製品やAI機能を導入する企業が増えているか」「既存顧客の契約規模が順調に拡大しているか」などの指標です。前四半期には複数の生成AI機能を導入した顧客数がQoQで2倍になるなどクロスセルが進んでいました。1Qでも同様のトレンドが続けば、顧客あたり収益の向上につながり、中長期の成長に弾みがつきます。決算発表では顧客のアップセル/クロスセル状況や「$1M超の新規契約件数」などが語られる可能性があり、これらはプラットフォームの成長余地を測る手がかりとなります。好調が続けば株価にも好影響、伸び悩みが見られると失望売りを誘う可能性があります。生成AI機能の収益化動向:サービスナウの生成AI戦略がどれだけ早期に収益貢献するかも注視点です。具体的には、Now Assistなど生成AI関連の製品で新規に獲得した契約価値(GenAI由来のACV)や利用量ベース課金の状況などが重要です。前回決算では「Now Assist案件が急増し、新規ACV押上げに寄与した」ことが示されました。1Qでも生成AI関連の受注が好調であれば、従量課金モデルへの移行による一時的な減収懸念を払拭し、むしろAIが新たな成長ドライバーになっていると評価されるでしょう。特にサービスデスクやカスタマーサポート領域でのAI活用はROIが高いため、追加採用が進んでいるか確認が必要です。決算で経営陣が「今四半期のGenAI売上/ACVは○○に達した」など具体的な成果を語ればポジティブ材料です。逆に、まだ導入期ゆえ具体的数字が出せない場合でも、顧客事例やパイプラインの強さなど定性的なアピールがあるか注目しましょう。AI収益化が順調と受け止められれば、株価には追い風となります。ガイダンス(業績見通し)の変化:1Q決算発表では通常、第2四半期(2Q)や通年の業績ガイダンス更新が行われます。前回は慎重だったガイダンスに対し、市場は「今後上方修正されるか」を注目しています。もし1Qの実績が好調であれば、通期見通しのレンジ上限を引き上げたり、少なくとも保守的な見通しを据え置きつつ「上半期の進捗率○○%」といったコメントで強気の示唆を与えたりする可能性があります。特にサブスクリプション収益の通期成長率20%前後という見込みが情報開示の節目ごとにどう変化するかは株価反応を大きく左右します。ガイダンス引き上げや為替・経済環境の改善による上振れ余地に言及があれば株価にはプラス、一方で依然慎重な姿勢が崩れない場合は失望を誘うリスクがあります。また、1Q単独の結果が市場予想を下回った場合には、仮にガイダンス据え置きでも信頼性が疑われ株価下落要因となり得ます。したがって実績とガイダンスの両面をチェックし、それぞれ市場予想と比較することが重要です。利益率の動向とコスト管理:高成長を維持する一方で、どれだけ収益性を確保できているかも投資家の関心事です。サービスナウは近年営業利益率(Operating Margin)を30%前後で推移させており、2025年も30.5%を目標としています。1Qは売上規模がまだ小さい四半期ですが、それでも営業利益率が前年同期から改善しているか、あるいは少なくとも高水準を維持しているかがチェックポイントです。大規模言語モデルへの投資や販売費用の増加で一時的に利益率が低下する可能性もありますが、経営陣は同時に経費の効率化にも取り組んでいます。もし利益率が予想以上にしっかり確保できていれば「攻めつつもしっかり利益管理できている」と評価され株価に好影響でしょう。逆に予想外のコスト増(例えばAI関連コストや人員増強による費用増)で利益率が低下していれば、市場は短期的に懸念を示すかもしれません。ただし成長投資の文脈で説明できる範囲ならば、長期志向の投資家は織り込む可能性もあります。いずれにせよ売上成長と利益率のバランスに注目が集まります。以上のポイントを総合すると、2025年1Q決算は「サービスナウが提示した慎重ガイダンスのハードルをどう超えてくるか」が焦点となります。実績面では前年同期比で2割弱の成長が見込まれており、これは同社としてはややスローダウンしたペースですが、その背景が計画通りなのか想定以上に悪い/良いのかを見極める必要があります。また、生成AIブームの中で同社がどれだけ商機を捉えているか、例えばAI関連受注の具体例や数値がどの程度語られるかで、市場の評価が変わるでしょう。株価は決算内容や経営陣のコメントに敏感に反応すると予想され、ポジティブサプライズ(良い意味での予想外)があれば急騰も、逆に失望があれば下落もあり得る局面です。まとめサービスナウは生成AI時代の「勝者」の一社と目されており、2024年には株価が大きく上昇しました。しかし2025年に入り成長率見通しの鈍化などから株価は調整し、個人投資家にとっては「成長ストーリーに陰りはないのか?」を見極めるタイミングとなっています。幸いにも同社は依然として高成長を維持しつつ、AI分野への積極投資とパートナー網拡大で将来の飛躍に備えている状況です。1Q決算はその戦略が順調に進んでいるかを占う最初のチェックポイントとなります。個人投資家としては、決算発表資料やカンファレンスコールでこれまで挙げたポイントを確認し、短期的な数字の良し悪しだけでなく長期的な視野で評価することが大切です。例えば、仮に今期の成長率が一時的に20%を下回っても、それが戦略的投資の結果であり将来の30%成長に繋がる布石と考えられるなら、マーケットの過度な失望は買いの好機となるかもしれません。一方で競合環境の激化など構造的な減速リスクが見えた場合は慎重さが求められます。サービスナウは「AIプラットフォームによる企業変革」という大きな潮流の中心に位置しており、そのポテンシャルと現在地を今回の決算でしっかり見定めることで、今後の投資判断に役立てていきましょう。

【ダナハー決算みどころ】バイオプロセス事業の回復と利益率維持がカギ(Danaher Corporation)
ダナハーの2025年第1四半期決算に向けた見どころを解説します。今回1Q決算は「業績の底入れ確認」と「経営戦略の実行力評価」という二つの観点で重要と言えます。株価はここ1年で大きく調整しているものの、足元の弱材料は既に織り込みつつあります。市場予想ではダナハーの投資判断は総じて強気(アナリスト14人中11人が買い推奨)で、平均目標株価は約282ドル(現在株価比+25%)と設定されています。決算で明るい兆しが示されれば割安感からの買い戻しが期待できます。前回決算(2024年第4四半期)ハイライト堅調な売上とEPSの結果 2024年第4四半期(Q4)の売上高は65億ドルとなり前年同期比+2.1%の増収でした。EPS(1株当たり利益)は調整後ベースで2.14ドルとなり、前年から約2.4%増加しています。売上は市場予想(64億ドル)を上回りましたが、調整後EPSは予想(2.17ドル)をわずかに下回りました。前年通年(2024年)の売上は239億ドルで前年比横ばい(コア※売上は▲1.5%)と停滞気味でした。※コア売上:買収や為替の影響を除いた既存事業ベースの売上高部門別業績の明暗 ダナハーは主に「ライフサイエンス事業」「診断事業」「バイオプロセス事業」の3部門に分かれています。それぞれのQ4業績を見ると、ライフサイエンス部門(研究用機器・試薬等)は売上20億3千万ドルで前年同期比+5.5%(有機成長+1%)と小幅増収でした。この部門は近年買収した試薬メーカーのアブカム社(Abcam)の寄与もあり、全社を下支えしました。一方、診断部門(病院向け検査機器・試薬等)は26億4千万ドルで▲3%減収と低迷し、コア売上も▲2%減と振るいませんでした。パンデミック期に需要が急増したPCR検査機器Cepheid(セフィエ)の売上減少が一巡したものの、前年同期と比べると診断需要はなお若干低調でした。これに対しバイオプロセス事業(バイオ医薬品の製造装置・消耗品、旧「バイオテクノロジー部門」)は18億7千万ドルで前年同期比+6.5%増と健闘し、コア売上は+8%の高成長を記録しました。バイオプロセスは2023年から顧客の在庫調整で低迷していましたが、このQ4で8四半期ぶりに有機的な増収に転じたことになります。株価の反応Q4決算直後の株式市場の反応は厳しく、発表翌日にダナハー株は約10%急落しました。わずかなEPS予想未達と、後述する弱気なガイダンスが響いたためです。実際、ダナハーが四半期業績で市場予想を下回ったのは数年ぶりで、市場には過去の好調続きから高い期待があった分失望売りにつながりました。加えて、翌年第1四半期の保守的な見通しが示されたことで、発表後の株価は247ドル近辺から一時220ドル台前半まで下落しています。その後も株価は軟調で、2025年4月中旬時点では190ドル前後と、過去1年間で約19%下落する水準にあります。前回決算以降の主なニュースと業績トレンドライフサイエンス・診断事業の動向前回決算以降(2025年1~3月)、本業であるライフサイエンスおよび診断部門の市場環境や事業進展に大きな変化はありませんが、いくつか注目すべきポイントがあります。まず診断事業では、臨床検査分野が堅調です。パンデミック収束によりCOVID関連需要の減少はありましたが、代わりにインフルエンザや他の呼吸器疾患検査ニーズが増加し、Cepheidなど分子診断機器の稼働は底堅く推移しました。実際、病理診断機器を扱うLeica Biosystems(ライカ)や検体検査装置のBeckman Coulter(ベックマン)などで新製品がFDA承認を取得し、これらの投入が業績を下支えしています。2024年通年で診断部門のコア売上成長率は+3%とプラスに転じており、ダナハーは2025年もこの部門は「横ばい~1桁台前半の成長」を見込むとしています。つまり診断需要は平常時に戻りつつも、緩やかな成長軌道には乗っている状況です。一方、ライフサイエンス事業の一部では依然逆風が吹いています。特に研究所向け分析機器(質量分析計、フローサイトメーター、顕微鏡など)は中国市場での製薬・バイオ企業の設備投資減速の影響を受け、需要が低迷しました。その結果、ライフサイエンス部門の2024年通年コア売上は▲2%減少となり、装置ビジネスの低調さが浮き彫りとなりました。中国では政府の医療関連費削減策(ボリュームベース調達/VBP)の影響で機器価格競争も激化しており、ダナハーはこの地域で苦戦しています。ただし同部門でも試薬や消耗品の需要は底堅く、CEOのライナー・ブレア氏は「2025年を通じてライフサイエンス部門は徐々に改善していくだろう」との見通しを示しています。バイオプロセス事業の進展近年の注目事業であるバイオプロセス(バイオ医薬品製造支援)分野は、2024年を通じて顧客の在庫調整やバイオテック業界の資金調達難から大きく落ち込みました。2024年通年のバイオプロセス関連コア売上は前年から▲4.5%減と低迷しました。しかし前述の通り2024年Q4に+8%と大きく反転しており、在庫調整の局面は峠を越えつつあるようです。経営陣も「主要顧客が通常の発注パターンに戻り始めており、バイオプロセス事業の回復が進行中だ」と述べています。実際、同事業の中核企業である培養装置大手Cytiva(サイティバ)は新製品を投入しており、バイオ医薬品パイプライン拡大に伴う需要の長期的成長に備えています。ダナハーはこの分野で長期的に「高い成長率が期待できる」と強調しており、2025年後半以降の業績押上げ要因になる可能性があります。ポートフォリオ戦略とM&Aの動き事業ポートフォリオの最適化もこの半年で大きく進みました。ダナハーは2023年に環境・応用分析機器部門をベラルト社(Veralto)としてスピンオフ(分離・新会社化)しており、これにより現在はライフサイエンスと診断領域に経営資源を集中しています。CEOのブレア氏も「数年来の事業ポートフォリオの変革によって、当社はかつてなくライフサイエンスと診断に焦点を当てた企業となり、長期的な成長と高い利益率を実現できる態勢が整った」と述べています。この発言どおり、同社は2024年末にライフサイエンス研究用試薬メーカーの英アブカム社を約57億ドルで買収し、自社製品ポートフォリオを拡充しました。買収による売上寄与は2024年に+2%程度と試算されており、今後さらなるシナジー効果が期待されます。さらに直近では大型買収の観測報道も出ています。2025年4月、英フィナンシャル・タイムズ紙の報道によれば、競合の米医療機器メーカーであるベクトン・ディッキンソン(BD)がライフサイエンス部門の売却を検討しており、ダナハーはサーモフィッシャー社とともにその買収交渉に名乗りを上げているとされています。対象となるBDの事業は細胞分析装置などのバイオサイエンス部門および一部診断機器から成り、評価額は最大215億ドルに上るとの見方もあります。実現すればダナハーにとって近年最大級のM&Aとなる可能性があり、投資家はこの動向にも注意が必要です。経営陣も「戦略に沿ったM&A機会を引き続き積極的に追求する」方針を明言しており、潤沢なキャッシュフローと強固な財務基盤を背景にポートフォリオ強化に動いています。株主還元とその他トピックス 業績低迷期にもかかわらず、ダナハーは株主還元にも前向きです。2025年2月には四半期配当を0.27ドルから0.32ドルへと18.5%増配することを発表しました。増配は9年連続で、同社のフリーキャッシュフローの強さを示すものです。また経営陣は将来成長のための研究開発投資も継続しており、2025年1月にはデジタル医療プラットフォーム企業への戦略的出資(Innovaccer社との提携)も発表されました※。さらに2025年3月の投資家会議では、年間1億5千万ドル規模のコスト削減プランを表明し、中国市場の逆風への対策や利益率維持に努める姿勢も示しています。総じて前回決算以降、ダナハーは事業の選択と集中を進めつつ、新製品投入や効率化策で基盤強化に取り組んできたと言えるでしょう。※Innovaccer社:医療データプラットフォームを提供する米新興企業今回(2025年1Q)決算での注目ポイントと株価への影響間もなく発表される2025年第1四半期決算では、以下のポイントに注目が集まります。それぞれの動向が株価に与えるインパクトについて考察します。主要部門の売上動向: ライフサイエンス部門では、中国を中心とした装置需要の戻り具合に注目です。経営陣は中国の需要減退による収益影響を約1億5千万ドルと見積もり、コスト削減で対応中ですが、もし需要が底打ちし売上が改善すればポジティブ材料となります。診断部門は前年同期(2024年1Q)に大きく落ち込んだCOVID関連売上の反動で見かけ上は増収になる可能性があります。コアベースでも低成長ながらプラス維持が期待されており、ここが崩れなければ市場安心につながるでしょう。バイオプロセス事業については、前述の回復トレンドが本物かどうかを見極める重要な決算となります。前年の在庫調整が一巡しつつある中で、1Qも前年比増収を確保できれば、通年見通しに弾みがつき株価も好感すると考えられます。一方で再び減収に沈むようなら「Q4の反転は一時的だった」と失望され、株価の重石となりかねません。利益率とコスト管理: 売上の伸びが限定的な中、営業利益率の動向も重要です。ダナハーはQ4に全社の調整後営業利益率を約29.6%(前年同期比+0.9ポイント)まで高めました。今回1Qは売上減少が見込まれるため利益率低下圧力がありますが、どれだけコスト管理でカバーできるかが問われます。特に中国市場での収益悪化に対し、前述のコスト削減策の効果が数字に表れてくれば評価材料となるでしょう。また研究開発や新規プロジェクトへの投資額にも注目です。将来の成長に向けた投資は必要不可欠ですが、短期的には利益を圧迫します。経営陣は「利益率を拡大しつつ成長プロジェクトへ再投資する」というバランス重視の方針を掲げており、その進捗を確認したいところです。M&A戦略とガイダンス: 決算発表時には業績ガイダンス(会社予想)の修正があるかにも注目です。ダナハーは前回決算時に「2025年1Qのコア売上は前年比で1桁台前半の減少」とガイダンスを示しました。これは売上高にして約56億ドル程度を意味し、市場予想(59億ドル)を下回る慎重な見通しでした。実際にこのガイダンス通り低調な数字となるのか、あるいは保守的過ぎた予想を上回るのかは株価反応を大きく左右します。もしガイダンスを上回る決算となれば、昨年から売り込まれていた株価の見直し(リバウンド)につながる可能性があります。逆に売上や利益が会社計画にも届かないようだと、通年見通し3%成長の達成にも黄信号が灯り、さらなる失望売りを招くリスクがあります。また、決算カンファレンスでは大型M&Aの動向について言及があるかも注目されます。前述のBD社事業買収の噂について経営陣がコメントすればマーケットの関心は高く、内容次第では株価変動要因となるでしょう。ダナハーは豊富な資金余力があるため、今後も戦略的買収を模索する考えであることを表明済みです。具体的な案件進展やM&Aに関する方針が語られれば、投資家の評価も動く可能性があります。以上のポイントを踏まえると、今回1Q決算は「業績の底入れ確認」と「経営戦略の実行力評価」という二つの観点で重要と言えます。株価はここ1年で大きく調整しているものの、足元の弱材料は既に織り込みつつあります。市場予想ではダナハーの投資判断は総じて強気(アナリスト14人中11人が買い推奨)で、平均目標株価は約282ドル(現在株価比+25%)と設定されています。決算で明るい兆しが示されれば割安感からの買い戻しが期待できます。一方で、懸念事項が払拭されない場合は低迷が長引く可能性もあるため、個人投資家としては決算内容を注意深く見極め、今後の投資判断材料とする必要があるでしょう。

【テスラ決算みどころ】EVマージン低下と新戦略・AI展開に注目(Tesla)
テスラの2025年第1四半期決算に向けた見どころを解説します。今回の2025年1Q決算は、テスラが直面する「短期的な逆風」と「長期的な成長戦略」のせめぎ合いを映し出す場となりそうです。販売台数減少による業績への影響がどの程度顕在化するのか、それを補うコスト効率化や新事業の伸長が示されるかが焦点です。決算内容次第では投資家心理が大きく揺れ、株価も敏感に反応するでしょう。例えば利益率が底打ちし将来の成長路線に自信を示す内容であれば株価は好感しうる一方、予想を下回る業績や弱気な見通しが示されれば失望売りに繋がる可能性があります。イーロン・マスクCEOがこの逆風下でどのようなビジョンを示すのか――その言葉にも注目です。2024年第4四半期決算ハイライト2024年10-12月期のテスラ決算は、電気自動車(EV)販売台数こそ過去最高を記録しましたが、売上や利益は市場予想を下回り、マージン(利益率)の低下が目立ちました。EV販売台数(納車台数): 495,570台と四半期ベースで過去最高を更新しました。主力のModel 3/Yが471,930台、その他(高級モデルS/Xや新型Cybertruck含む)が23,640台で、前年同期比+2%程度の微増です。売上高: 257億ドル(約3.4兆円)を計上しました。前年同期比では約2%の増収でしたが、アナリスト予想(約272億ドル)を下回りました。大幅な値下げ戦略の影響で、販売台数増に対して売上の伸びは限定的でした。粗利益率: 売上総利益率(グロス・マージン)は大きく低下しました。特に、自動車部門の粗利益率(※環境規制を除く)は13.6%まで落ち込み、直前の7-9月期の17.1%や市場予想の16.2%を下回りました。値下げや高インフレ環境下でコスト増の中、利益率の圧迫が鮮明です。EPS: 希薄化後一株当たり利益(EPS)は調整後ベースで0.73ドルとなり、市場予想の0.76ドルを僅かに下回りました。会計基準(GAAP)ベースのEPSは0.66ドルでした。前年同期並みの水準ですが、値下げによる利幅縮小が利益に影響しています。以上を受け、決算発表直後の市場の反応は一時ネガティブでした。実際、発表直後は時間外取引でテスラ株が下落する場面もありました。しかしその後、決算説明会でイーロン・マスクCEOが「2025年上期に新型の安価なEVを投入予定」であることや「2025年6月までにテキサス州オースティンでドライバー不在の完全自動運転(FSD)サービスを開始テストする計画」を示すと、将来の成長期待が高まり株価は一転上昇しました。発表当日の時間外取引では最終的に株価+4%の上昇で引けています。マスクCEOの発言力の大きさを改めて印象付ける決算となりました。前回決算以降の主なニュースと動向第4四半期決算発表(1月末)後から今回の決算発表直前まで、テスラを取り巻く環境では以下のようなニュースやトピックスがありました。個人投資家として把握しておきたいポイントを整理します。価格戦略の動向: 2023年から続くAggressiveな値下げ戦略は年明け以降も継続しています。例えば、一部地域で在庫のModel Yに対し数千ドル規模の割引販売や低金利ローン提供など、需要喚起のための施策が取られました。こうした値下げや割引販売は販売促進に寄与する一方で、テスラ自らも認めるように自動車部門の利益率を圧迫する要因となっています。競争激化と高金利の中、値下げによるボリューム確保とマージン維持のバランスが引き続き課題です。納車台数の速報: 4月上旬に発表された2025年第1四半期の世界納車台数は336,681台で、前年同期(386,810台)から約13%減と大幅なマイナスに転じました。この数字は事前の市場予想(37〜40万台程度)を下回る弱い内容で、市場では驚きをもって受け止められました。納車台数減少の背景として、テスラは「全4工場でのModel Y生産ライン改良(刷新)により数週間の生産停止が発生した」と説明しており、実際に新型Model Y投入のための生産調整が生産台数を押し下げたようです。一方で、需要面でもマスク氏の言動や競合増加によるブランド力低下を指摘する声もあり、納車減は生産要因だけでなく需要鈍化の可能性も示唆されています。FSD(完全自動運転)・AI開発の進展: テスラの最大の強みであるソフトウェア・AI分野でも動きがありました。マスクCEOは前述のとおり決算電話会議で「2025年6月にテキサスで無人のロボタクシー(自動運転タクシー)サービスを開始テストする」計画に言及しました。この発言は、自社開発の運転支援ソフトウェア「Full Self-Driving(FSD)※」の進化に自信を示すものです(※FSD: テスラの完全自動運転ソフト。現在はドライバーの監視下で使用)。実際、2025年内にはカリフォルニアなど他州でも無人運転テストを行う予定とも述べています。また、テスラは独自のAIスーパーコンピュータ「Dojo(道場)」を開発・稼働開始しており、大規模データから学習することで自動運転精度向上を図っています。こうしたAI投資の加速により、将来的には車両販売だけでなくソフトウェア収入やロボタクシー事業といった高収益モデルへの転換を目指しています。新型車種の計画とロボタクシー構想: 製品ラインアップ面では、テスラは新型の低価格EV(通称「モデル2」相当)の投入構想を進めています。マスクCEOは昨年、2025年に20〜30%の販売台数成長を目指す中で「2025年前半に手頃な価格の新モデルを発売予定」と発言しており、実際にその開発が進行中です。ただし具体的な車名や価格帯など詳細はまだ公表されていません。既存モデルでは、主力SUV「Model Y」のデザイン刷新版(新型Model Y)が2025年初頭に中国で発売され、3月には米国・欧州でも提供開始されました。内外装のアップデートにより商品力を高め、競合EVとの差別化と需要喚起を図っています。また、話題の電動ピックアップトラック「Cybertruck(サイバートラック)」は2024年末にようやく初納車が始まりました。独特の近未来的デザインで注目を集めましたが、市場からはその品質や実用性への懸念も指摘されており、受注の勢いは想定より強くないとの報道もあります。Cybertruckの本格量産と収益貢献はこれからの課題ですが、テスラはこの新セグメントへの期待を込めて生産立ち上げを進めています。ギガファクトリー(大型製造拠点)の展開: テスラはグローバル生産能力の強化にも余念がありません。2024年には新たなGigafactory計画としてメキシコ新工場の建設を表明し、現在着工に向け準備中です。実現すれば北米向けの生産能力拡大とコスト削減に寄与する見込みですが、同時に米政権の通商政策リスクにも注意が必要です。例えばトランプ米大統領(※2025年就任)がメキシコからの輸入品に新関税を課す可能性に言及しており、もし発動されればメキシコ工場で組立てた車両のコスト増要因となり得ます。一方、既存のギガファクトリーでも増産投資が続いています。中国・上海工場とドイツ・ベルリン工場ではModel Yの生産が順調に拡大中で、米テキサス工場では前述の新型Model YやCybertruckの立ち上げに注力しています。さらにエネルギー部門向けには上海に大型蓄電システム「Megapack」専用のメガファクトリーを建設し、2024年末に稼働を開始しました。これにより蓄電ビジネスの生産能力も大幅に増強されており、テスラ全体として自動車+エネルギーの二本柱体制を強化しています。以上のように、第4四半期以降のテスラは価格競争と需要動向、新製品投入、そして生産能力増強と多角化戦略が大きなテーマとなりました。では、これらを踏まえて今回発表される2025年第1四半期決算では何を注視すべきでしょうか。今回決算(2025年第1四半期)の注目ポイントと株価への影響4月22日公表予定の2025年第1四半期決算は、テスラが直面する逆風と今後の成長戦略を占う上で重要な意味を持ちます。個人投資家が特に注目したいポイントを以下に整理します。販売台数と売上の動向: 冒頭で触れたとおり、1-3月期の納車台数は前年を下回りました。これに伴い四半期売上高も前年同期比減収となる可能性があります。実際、テスラは2024年通年で創業以来初めて年間販売台数が前年割れ(-1%)となっており、2025年はその減速局面からの再成長が課題です。今回の決算では、まず実際の売上がどの程度落ち込んだか、またテスラ経営陣が通年の販売見通しについてどのようなスタンスを示すかに注目しましょう。マスクCEOは前回決算時に「2025年は車両販売が再び成長軌道に戻る」と述べましたが、具体的なガイダンス(業績予想)は明示しませんでした。市場では2025年通年での増収増益への自信や、需要回復シグナルを経営陣が示すかどうか注視しています。利益率(マージン)の行方: 値下げ戦略の継続でテスラの利益率低下傾向は第1四半期も続く懸念があります。特に注目されるのは、自動車部門の粗利益率(売上総利益率)がさらに低下するのか、それともコスト削減効果で下げ止まるのかという点です。テスラは「1台あたりの製造コスト(部材+労務)が過去最低水準に達した」と強調しており、生産効率化やスケールメリットで利益率を支えようとしています。今回の決算では、値下げによる平均販売単価の下落をコスト効率化でどこまで相殺できたかがポイントです。もし粗利益率が市場予想以上に維持できていれば収益耐性が評価され株価押上げ要因となるでしょうし、逆に大幅低下が続けば今後の追加値下げ余地や利益計画に対する不安から株価下押し要因となり得ます。需要動向とガイダンス: テスラが直面する需要の強さについて経営陣がどう言及するかも重要です。競争環境が厳しくなる中、受注残や地域別の販売動向(米国、中国、欧州など)についてコメントがあるか注目です。特に、先述のModel Yリフレッシュモデル投入後の反響や、価格引き下げによる注文動向など、現在の需要状態が語られればマーケットの不安緩和につながります。また、正式な業績ガイダンス(例えば「年間○%成長を目指す」等)が示されるかにも注目しましょう。昨年時点でマスク氏は2025年の販売台数20〜30%増を目標としていましたが、前回1月の決算では具体な数値目標の言及は避けています。今回、改めて2025年後半に向けた需要見通しや生産計画について楽観・慎重いずれのトーンを示すかで、投資家心理と株価に影響が出そうです。AI・エネルギー部門の成長余地: 車両ビジネス以外の新たな収益源にもスポットライトが当たっています。まずエネルギー事業では、家庭用蓄電池「Powerwall」や大規模蓄電設備「Megapack」の需要が急拡大しており、2024年Q4の同部門売上は前年同期比+113%の30.6億ドルに達しました。テスラは2025年、このエネルギー部門でさらに50%以上の出荷増(グリッド向け蓄電システムの大幅拡大)を見込んでいるとされています。今回の決算でも、エネルギー部門の売上や利益がどこまで伸びているか、またその通年見通しが示されるかが見所です。エネルギー事業の収益貢献度が高まれば、テスラの収益構造が多角化し安定性が増すとの評価につながるでしょう。加えてAI関連では、FSDのソフトウェア売上(オプション購入やサブスクリプション収入)の動向や、将来的なロボタクシー事業の収益モデルについて言及があるか注目です。完全自動運転が商用化すれば、新たなサービス収入が生まれる可能性があり、投資家としても長期の成長ストーリーを描く上で重要なポイントです。マスクCEOのコメント: 経営トップの発言も株価に直結し得る要素です。前回は無人FSDの時期について踏み込んだ発言をしたマスクCEOですが、今回も決算説明会で様々な質問に答える中でキーフレーズが飛び出す可能性があります。例えば「需要は実は好調だ」「さらなる新モデル計画」「自社AIチップやスーパーコンピュータ戦略」「株主還元策」など、マーケットの関心が高い話題にどう答えるか注視しましょう。特に昨今はマスク氏の対外的な発言(政治や他事業に関する発信)がテスラブランドに影響を与える場面もありました。決算の場では株主に向けた前向きなビジョン提示が期待されます。もし将来展望にポジティブな発言が出れば株価の追い風となり得ますし、逆に需要不安を払拭できないような発言や保守的なスタンスが見られれば失望売りを誘発するリスクもあります。以上のポイントを総合すると、今回の2025年1Q決算は、テスラが直面する「短期的な逆風」と「長期的な成長戦略」のせめぎ合いを映し出す場となりそうです。販売台数減少による業績への影響がどの程度顕在化するのか、それを補うコスト効率化や新事業の伸長が示されるかが焦点です。決算内容次第では投資家心理が大きく揺れ、株価も敏感に反応するでしょう。例えば利益率が底打ちし将来の成長路線に自信を示す内容であれば株価は好感しうる一方、予想を下回る業績や弱気な見通しが示されれば失望売りに繋がる可能性があります。イーロン・マスクCEOがこの逆風下でどのようなビジョンを示すのか――その言葉にも注目です。個人投資家の皆様は決算発表後の株価変動リスクと機会を見極めつつ、ご自身の投資判断に活かしていきましょう。【脚注】※1 FSD(Full Self-Driving): テスラが開発する自動運転支援ソフトウェア。現時点ではドライバーの監視が必要な「運転支援」の域を出ませんが、将来的にドライバー不在でも走行可能な完全自動運転を目指しています。現行ではオプションとして車両購入時や後から$15,000程度で提供され、一部ユーザーにベータ版が配信中です。