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【アドバンスト・マイクロ・デバイセズ決算みどころ】MI300のAI事業貢献とデータセンター成長率がカギ(Advanced Micro Devices)
本記事では、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(Advanced Micro Devices)の2024年第4四半期決算を振り返り、5月1日に控える2025年第1四半期決算の見どころを解説します。AMDの2024年第4四半期決算は、売上高が過去最高の77億ドルを達成し、前年同期比24-27%増となりました。データセンター部門は前年比69%増の39億ドルと急成長し、PC向けクライアント部門も52%増と好調でした。一方、ゲーム部門は59%減と苦戦。新たなAI向けGPU「MI300」シリーズの本格出荷が開始され、Meta、Microsoft、IBMなど大手企業での採用が進んでいます。2025年第1四半期の売上高は約71億ドルを見込んでおり、前年比30%増、前期比7%減の予想です。前回決算(2024年第4四半期)ハイライト過去最高の売上と成長率: 前回の2024年第4四半期(2025年1月発表)で、AMDの売上高は過去最高となる77億ドルに達しました。前年同期比で約24〜27%増と力強い成長となり、市場予想も上回りました。粗利益率(売上総利益率)は51%と前年から4ポイント改善し、収益性も向上しています。非GAAPベースの1株当たり利益(EPS)は1.09ドルと予想を上回りました(GAAPベースでは0.29ドルで、リストラ費用等の特別要因により前年より減益)。この四半期はデータセンター向け製品とPC向け「クライアント」部門の伸びが全社の売上をけん引しました。データセンター事業の急成長:データセンター部門(サーバー向けCPU「EPYC(エピック)」やAI向けGPU「Instinct(インスティンクト)」シリーズを含む)は、前年同期比+69%という驚異的な成長で39億ドルの売上を記録し、過去最高の四半期売上となりました。この背景には、生成AI(人工知能)ブームによるAI関連の半導体需要の急増があります。クラウド事業者や企業がデータセンターに投資を加速させ、AI処理や高性能計算(HPC)向けにAMDのサーバー用製品を大量導入したことが寄与しました。AMDは2024年にデータセンターAI向け事業の売上を50億ドル超まで拡大させており、今後数年間でこの分野の年次売上が「数百億ドル(数十億ドル規模)に達する可能性がある」と経営陣は見込んでいます。AI対応のGPU「MI300」シリーズ(AMDの最新AIアクセラレーターチップ)も第4四半期中に出荷が本格化し始め、AI分野への本格参入が伺えました。PC・ゲーム向けチップの明暗:PC向けのクライアント部門(Ryzenプロセッサなど)は前年比+52%と大きく伸び、個人PC市場でシェア拡大に成功しました。2023年まで低迷していたPC需要が2024年後半にかけて底打ちし、世界PC出荷台数は2024年第4四半期に前年同期比+1.8%増と3年ぶりに増加しました。この市場回復と新製品効果により、AMDのPC向けCPU売上も改善しています。一方、ゲーム機・グラフィックス向けの「ゲーム部門」は苦戦しました。2024年第4四半期のゲーム部門売上は前年同期比59%減少し、約5.63億ドルにとどまりました。これはソニーのPlayStation 5やマイクロソフトのXbox Series向けセミカスタムチップ(ゲーム機用特別設計プロセッサ)の需要がピークを越え減速したことが主因です。現行世代機の普及が進み買い替え需要が落ち着いたことや、消費者のゲーム支出抑制などが影響しました。またディスクリートGPU(PC用グラフィックスカード)市場でも、競合NVIDIA(エヌビディア)のGeForceシリーズが高性能帯を席巻し、AMDのRadeonシリーズはシェア奪回に苦戦しています。株価の反応: 前回決算発表後、AMDの株価は急落しました。決算そのものは売上高が予想超え、2025年第1四半期の見通しも堅調と、一見ポジティブな内容でした。しかし市場が注目したデータセンター事業の動向が投資家の期待に届かなかったことが下落の要因です。第4四半期のデータセンター売上は市場予想を下回り、またAMDはアナリストとの会見で「2025年のデータセンター事業は力強い二桁成長を見込むが、上期より下期の方が好調になる」と説明しました。この慎重な見通しは、前年に売上が毎年2倍近く急拡大していたNVIDIAのAI事業と比較すると見劣りし、AMDのAI分野での伸びに対する失望感を招きました。結果、決算発表直後の時間外取引でAMD株は一時8〜10%近く急落しています。つまり、市場は「AMDがAI需要をどれだけ取り込めるか」に注視しており、期待値が非常に高かったことが伺えます。前回決算以降の主なニュースと業界動向AI半導体需要とMI300シリーズの採用拡大:前回決算以降も、生成AIブームによるAI半導体需要の高止まりが続いています。AMDはNVIDIAに次ぐ第2の選択肢として、大手ハイテク企業との連携を強化しています。例えばMeta(メタ)社は自社の大規模言語モデル「Llama 2 (405B)」のサービス提供にAMDのMI300X GPUを独占的に使用し始めました。またマイクロソフトも、生成AI機能「Copilot(コパイロット)」のバックエンドにMI300Xを採用し、数千規模のGPUクラスタを構築する新たなAIインフラをAzureクラウド上で展開しています。さらにIBMをはじめ、DigitalOceanやVultrといったクラウドサービス各社もAMDのInstinct GPUアクセラレータの導入を開始しており、多様な顧客層に広がりを見せています。AMDによれば、現時点で世界10社以上のクラウド事業者が同社のInstinctプラットフォームを採用しており、この数は2025年にさらに増える見通しです。このように主要顧客の採用事例が相次いだことで、AMDのMI300シリーズに対する市場の期待は一段と高まりました。もっとも、AI向けGPU市場では依然としてNVIDIAが「H100」など圧倒的シェアを握っており、AMDが本格的に食い込むには時間がかかるとの見方もあります。AMDは価格性能比の高さやオープンなソフトウェア環境を武器に差別化を図り、AI需要の取り込みを狙っています。サーバー・PC市場の回復と競合比較: データセンター向けサーバーCPU市場では、AMDが引き続き存在感を高めています。クラウド大手のMicrosoft AzureやGoogle CloudはAMDのEPYCプロセッサを搭載したサービスを拡充し、インテルのXeon CPUと激しく競合しています。2024年にはAMDのデータセンター部門売上が前年比+94%増と急伸し、同部門がAMD年間売上の約半分を占めるまでになりました。これはインテルからのサーバーCPUシェア奪取によるところが大きく、インテルは近年サーバー向け事業の伸び悩みから業績が低迷しています(Intel社の2024年10-12月期の売上高は前年同期比▲7%と減収)。PC市場についても、世界的に需要が持ち直しつつあります。前述の通り2024年Q4に世界のPC出荷台数が増加に転じ、Windows 10のサポート終了(2025年10月予定)を見据えた買い替え特需など追い風もありました。AMDはRyzenシリーズで性能面の競争力を維持しており、新たにAIエンジンを搭載したノートPC向けプロセッサも投入するなど、PC分野でもインテルとの差別化を進めています。一方で、グラフィックス&AI向けGPUではNVIDIAが巨額の受注残を抱えるほど引き合いが強く、AMDはまだシェア獲得の途上です。総じて、サーバー分野ではAMDがインテルを猛追し、AI・GPU分野ではNVIDIAに挑む構図です。AMD自身もこの流れを加速すべく戦略投資を行っており、2024年には米国のサーバーメーカーZTシステムズ社を約49億ドルで買収してAIサーバー事業を強化しました。また財務面では堅調なフリーキャッシュフローを背景に自社株買いによる株主還元も実施しています。例えば2024年第四四半期には約2億5620万ドル相当の自己株式を取得しており、今後も成長投資とバランスを取りつつ株主還元策を継続する方針です。今回(2025年1〜3月期)決算の注目ポイントと株価への影響いよいよ発表を迎える2025年第1四半期決算(1〜3月期)では、以下の点に市場の注目が集まっています。決算内容次第ではAMD株の短期的な値動きにも影響を与え得るため、個人投資家として押さえておきたいポイントです。MI300シリーズの売上寄与: AMDが注力するAI向けGPU「MI300」シリーズがどの程度この四半期の売上に貢献したかが注目されます。前四半期に本格出荷が始まったとはいえ、当初は大規模受注の立ち上がりに時間がかかる可能性があります。しかし、もし今回の決算でMI300関連の売上が顕在化し始めていれば、AMDがNVIDIA依存の強いAI需要の一角を切り崩しつつある証拠と捉えられるでしょう。具体的な数字や経営陣のコメントで、受注状況や出荷ペースに言及があるか要チェックです。ポジティブなサプライズがあれば株価上昇要因になり得ますし、逆に言及が乏しければ市場の期待先行に対する警戒から売り材料となる可能性もあります。データセンター部門の成長率: データセンター事業(サーバー向けCPUとデータセンターGPU)の成長動向は今回も最大の焦点です。前年同期比では大幅な増収が見込まれていますが、問題は前四半期(2024年Q4)からの勢い維持です。AMD自身の見通しでは「第1四半期の売上高は約71億ドル(±3億ドル)で前年比+30%増だが前期比では▲7%程度減少」とされています。この減少要因は全社的な季節要因(年末商戦後の落ち込み)ですが、データセンターは本来季節性の影響が小さいため、市場では「純粋な需要動向としてデータセンター売上が前期比で伸び悩むのではないか」との懸念もあります。もし今回の発表でデータセンター部門が前年同期比・前期比ともに力強い増収を示せば、AIやクラウド投資需要が引き続き堅調であることを確認でき、株価の追い風となるでしょう。一方、前期比で大きく減速しているようだと、「AI特需の一巡」や競合優位の継続が意識され、ネガティブに捉えられる可能性があります。粗利益率(グローマージン)の動向:製品ミックスの変化が粗利益率に与える影響も見逃せません。データセンター向けのEPYCプロセッサやMI300シリーズは一般に利益率が高い一方、ゲーム機向けセミカスタムチップや低価格帯PC向け製品は利益率が低めです。前四半期は高付加価値製品の構成比上昇により粗利益率が51%まで改善しました。今回、第1四半期は売上全体に占めるゲーム部門の割合が季節的に低下する一方で、データセンターやクライアント部門が伸びる見込みであるため、粗利益率も前年同期比で上振れる可能性があります。実際、AMD経営陣は2025年通年で全社の粗利益率改善を目標として掲げており、今期もそれが達成できているか注目です。市場予想を上回る高い粗利益率が示されれば収益力向上として好感されるでしょうし、逆にコスト増などで伸び悩めば株価の重石となり得ます。通期業績見通しの修正可能性:前回決算時点でAMDは「2025年通年で売上高・EPSともに前年比二桁成長を達成できる自信がある」とコメントしていました。しかしこれは保守的な前提に基づく可能性もあり、今回の決算発表で通期ガイダンス(業績予想)を上方修正してくるかがサプライズ要素となります。たとえば、AI関連の受注状況が想定以上であれば通期売上見通しを引き上げる余地がありますし、逆にPC・ゲーム市場の不透明要因を勘案して据え置くことも考えられます。ガイダンス引き上げは将来の成長期待を高めるため株価上昇要因となります。一方、据え置きや慎重な姿勢が示された場合、市場は「慎重姿勢=現状維持」と受け止めてしまい、一時的に失望売りを誘う可能性もあります。ただし保守的な見通しはハードルが下がる分、今後のサプライズ余地を残す点も考慮が必要です。以上のポイントを総合すると、今回のAMD決算は「AI関連ビジネスの進捗」と「従来型ビジネスの回復力」を測る重要な機会となります。個人投資家の視点では、短期的な株価反応に一喜一憂するだけでなく、これら指標が示すAMDの長期的な成長余力を見極めることが大切です。前回決算からの流れと今回発表内容をしっかり追いながら、AMDが引き続きデータセンターとAIという成長市場で優位性を拡大できるか注視していきましょう。個人投資家にとって、本記事の分析が今後の判断材料の一助となれば幸いです。

【パランティア決算みどころ】商業部門とAI事業の成長性から見る先行き(Palantir Technologies)
本記事では、パランティア(Palantir Technologies)の2024年第4四半期決算を振り返り、5月1日に控える2025年第1四半期決算の見どころを解説します。パランティアの2024年第4四半期決算は、売上高が前年同期比36%増の8億2800万ドルと市場予想を上回りました。米国商業部門が64%増、政府部門が45%増と高成長を達成し、純利益も7,900万ドルを計上して6四半期連続の黒字を維持しています。AIプラットフォーム(AIP)の導入が進み、NATOや米国防総省との大型契約獲得、さらに日本市場での展開も活発化しています。2025年通年の売上は31%増の見通しで、引き続き高成長が期待されています。パランティアについては以下動画でも事業を解説しているので、併せてご覧ください。前回決算(2024年第4四半期)のハイライト2025年2月に発表された2024年第4四半期(Q4)決算では、パランティアの業績が市場予想を上回り、大きな注目を集めました。売上高は前年同期比36%増の8億2800万ドルに達し、ウォール街予想(約7億7600万ドル)を大きく上回りました。特に米国事業の好調さが目立ち、米国売上は前年同期比52%増の5億5800万ドル、その内訳を見ると米国商業部門が64%増と急伸し、米国政府部門も45%増と力強い伸びを示しました。これまで政府向け収入への依存が懸念されていましたが、民間(商業)部門の高成長が確認できた点は重要です。利益面でも、パランティアは引き続き黒字を維持しました。GAAP(米国会計基準)ベースの純利益は7,900万ドル(純利益率10%)を計上し、6四半期連続の黒字となりました。一時的なストック・アプリーシエーション権(SAR)関連費用を除けば純利益は1億6,500万ドル(純利益率20%)に達しています。調整後の1株当たり利益(EPS)は0.14ドルと予想(0.11ドル前後)を上回り、前年同期(0.08ドル)比でも75%増と大幅な改善を示しました。GAAPベースのEPSは0.03ドルでしたが、こちらも前年の0.04ドルと同水準で黒字圏を維持しています。こうした好決算を受けて、発表直後に株価は急騰しました。発表翌日の時間外取引で株価は一時23%高となり、これは好調な四半期業績と強気のガイダンスが投資家心理を押し上げたためです。パランティアは2025年通年の売上ガイダンスを前年比+31%増と発表し、市場予想を大きく上回る強気な見通しを示しました。また2023年中頃にリリースした新製品であるAIプラットフォーム(AIP)の貢献も明らかになってきました。同社CEOのカルプ氏は「生成AI(大規模言語モデル)のコモディティ化は理論から事実となった」と述べており、AIPが業績の原動力になっていることが示唆されました。実際、AIPは企業が自社データに生成AIを組み込むことを可能にするプラットフォームであり、2023年後半から複数の企業に導入されています。第4四半期の商業部門の急成長には、このAIPの寄与が大きかったと考えられます。前回決算以降の主なニュースと動向2月の決算発表以降、パランティアを取り巻くビジネス環境にはいくつかポジティブなニュースがありました。まず米国政府との契約進捗では、国防領域での存在感が一段と高まりました。同社は米陸軍から受注していた次世代AIシステム「TITAN」の初号機を納入し、契約履行が順調に進んでいます。TITANは戦場のセンサー情報と攻撃システムをリアルタイムでつなぐAI搭載地上システムで、パランティアは2024年3月に1億7,800万ドル規模で10台の試作機を受注していました。受注から1年で最初の2台を予定通り・予算内で納入し、2026年までに全10台を完成させる見込みです。この進捗により、将来的に米軍が本格配備(100~150台規模と予想)を決定すれば、更なる大型契約獲得も期待できます。また欧州方面の契約として、NATO(北大西洋条約機構)との新たな連携が話題となりました。2025年3月末、NATO通信情報局はパランティアのAI戦闘支援システム「Maven Smart System」を採用する契約を締結しました。このシステムは戦場データの融合や生成AIの活用によって情報分析・意思決定を支援するもので、NATOの戦力近代化に寄与します。契約額は非公表ながら、発表直後にパランティアの株価が約8%急伸するなど市場の期待は大きく、NATO側も「要件策定からわずか6ヶ月での契約締結は史上最速級」とスピード発注を強調しました。さらに米国防総省内でも、全軍共通のAIプラットフォーム構築に向けて5年間・最大4億8千万ドル規模の契約をパランティアと締結済みであり、同社の技術が米欧の安全保障分野で広く採用されつつあることが伺えます。日本市場での展開にも注目です。パランティアは2019年に損保大手の損保ホールディングスと合弁で「パランティア・ジャパン」を設立して以来、日本企業や官公庁との協業を進めてきました。最近では富士通や日立製作所など国内IT企業との提携も報じられ、パランティアの基盤「Foundry(ファウンドリー)」を活用したデータ分析ソリューションの提供が始まっています※。例えば富士通は同社のハードウェア供給網最適化にファウンドリーを導入しつつ、国内初のファウンドリー販売代理店にもなりました(契約額8百万ドル)。日本企業にもAIPを含むパランティア技術への関心は高まっており、生成AIを業務に活かしたいというニーズに応える形でパランティアの案件が増える可能性があります。政府関連では、過去に日本厚生労働省のCOVID-19対策でパランティアがデータ分析を支援した実績もあり、今後も防災や社会インフラ分野での採用が期待されています。一方、商業部門でのAI活用事例もこの数ヶ月で着実に蓄積されています。医薬品開発受託機関のParexel社はパランティアとの複数年契約を結び、創薬の臨床試験データ管理にAIPを導入しました。これにより従来手作業だったデータ収集・解析を自動化し、試験デザインごとに専門家の作業時間を6~7時間短縮する効果が出ています。また、世界的な鉱山会社リオ・ティントはパランティアとのエンタープライズ契約を4年間延長し、同社のAIプラットフォームを継続利用することを決めました。リオ・ティントは既にパランティア製品で巨大鉱山のデジタル双子(デジタルツイン)を構築しており、AIPによって膨大なセンサーデータから坑内崩落リスクを予測するなど安全性と効率を飛躍的に高めています。保険分野でも、損保ホールディングス傘下のブラジル法人がパランティアのAIPを活用して保険引受やリスク評価を高度化する取り組みを開始しました。このように業種を問わず幅広い企業がパランティアのAIプラットフォームを採用し始めており、AIPの普及は順調に進んでいます。パランティア自身も2024年に顧客数が前年比43%増と大きく増加したと発表しており、その背景にはAIPを求める新規顧客の獲得があると見られます。株主還元策や業績見通しに関しては、前回決算以降特段のアップデートはありません。パランティアは2023年8月に最大10億ドルの自社株買いプログラムを承認しましたが、2023年末までに実際の買い戻しは行われず、キャッシュは今のところ成長投資に充てられています。同社は潤沢な現金(約52億ドルの手元資金)を背景に、引き続き研究開発や戦略投資を優先する方針です。また2025年通年ガイダンス(売上31%増)は据え置かれており、5月の決算発表までは公式な修正はありません。株主への直接的な還元よりも、まずは高成長の維持によって株価価値を高める戦略と言えるでしょう。今回決算(2025年1~3月期)での注目ポイントと株価への影響5月上旬に予定される2025年第1四半期(Q1)決算では、個人投資家は以下のポイントに注目すると良いでしょう。それぞれの動向が株価に与えるインパクトについても考察します。商業部門の成長率(AIPの貢献度):前述の通り、パランティアの商業部門はAIPの追い風を受けて急成長しています。Q4では米国商業売上が前年同期比+64%と驚異的な伸びを示しました。今回のQ1でも商業セグメント全体で30%以上の成長が続いているかが重要なチェックポイントです。生成AIブームの中で多くの企業がパランティア製品の導入を検討しているため、その需要が実際の売上成長に結びついているかを確認します。もし商業部門の成長が鈍化せず、高い伸び率を維持・加速していれば、市場は「AIP効果が本物だ」と評価し株価上昇要因となるでしょう。一方で期待ほど伸びない場合、AIブームによる特需が一巡したとの見方から失望売りを誘発する可能性もあります。政府部門の契約動向(更新・新規獲得状況)政府向け事業はパランティアの安定収入の柱であり、さらに最近はAI需要で追い風を受けています。Q4の米国政府売上は前年同期比+45%と大きく伸びました。この傾向がQ1でも続くか注目です。具体的には、既存契約(例:米陸軍向けプラットフォーム「Vantage」や前述のTITAN等)の更新・拡大や、新規の政府案件受注が報告されるかを確認しましょう。すでにパランティアは米国防総省との包括的なAI契約(5年総額4億8千万ドル)やNATOとの契約を得ており、これらが逐次売上に反映されます。Q1決算発表で政府部門の受注残高や新規契約のアナウンスがあれば、今後の業績拡大に弾みがつくと受け止められ株価プラス材料となるでしょう。ただし、政府予算の変動や契約遅延があれば成長鈍化懸念からネガティブに作用し得るため、その点も注視が必要です。収益性(営業利益率と黒字維持):営業利益率の動向も投資判断の重要なポイントです。パランティアは近年コスト最適化を進め、2024年通年で調整後営業利益率45%と高い収益性を誇りました。もっともQ4は一時的な報酬費用計上でGAAPベースの営業利益率が1%に落ち込みましたが、特殊要因を除けば17%程度確保しており健全です。同社は6四半期連続でGAAP黒字を達成しており、Q1でも黒字維持が確実視されています。決算では、この収益性がさらに改善しているか(例えば営業利益率の上昇や純利益の増加)に注目です。もし利益率の拡大傾向が確認できれば、成長と利益の両立に対する市場の信頼が増し、株価押上げ要因となります。特に生成AI関連の開発競争はコスト増を伴うため、そこでの投資と利益のバランスは重要です。反対に、売上は伸びても人材採用やR&D費用で利益率が低下している場合、将来の成長投資をどう見るかで市場の評価が割れるかもしれません。しかし現在のところフリーキャッシュフローも売上の30%以上を生み出しており、財務体質は良好です。大幅な利益率悪化がない限り、大崩れのリスクは限定的でしょう。AI市場における競争力:競争激化への耐性も見逃せません。生成AIブームにより、データ分析・AIプラットフォーム市場には大手クラウド企業や新興AI企業など多数のプレイヤーが参入しています。その中でパランティアが持続的な競争優位を維持できるか、今回決算のカンファレンスコールや株主向け資料で経営陣が語る内容に注目しましょう。例えば、同社のAIPは企業内の機密データと大規模言語モデルを安全に連携できる点が売りであり、「軍事レベルのセキュリティを持つ生成AI基盤」という独自ポジションを築いています。他社には真似しにくい政府実績もあり、これは大きな強みです。一方で、マイクロソフトやグーグルなども企業向けAIソリューションを強化しており、潜在的な競合となります。そのためパランティアが製品戦略やパートナーシップでどのように差別化を図っているかが重要です。最近ではデータブリックス社(データ分析基盤のリーダー)との提携を発表するなど、エコシステム拡大にも努めています。仮に決算説明で新しいプロダクト発表や有力企業との協業強化(例えばクラウドプロバイダーとの連携)が語られれば、競争力強化とみなされ株価の追い風になるでしょう。逆に具体策が見えない場合、市場シェア争いへの不安から株価が上値の重い展開になる可能性もあります。総じて、2025年Q1決算は「AI特需」を本格的な持続成長に転換できているかを占う重要なイベントです。前回決算で示された力強い業績がこの四半期も続けば、パランティアへの市場の信頼は一段と高まるでしょう。同社株は今年に入ってから大きく上昇しており、それに見合う結果が求められます。個人投資家としては、上記のポイントを踏まえて決算内容を精査し、長期的な成長ストーリーにブレがないかを確認することが肝要です。仮に短期的な株価変動があっても、AIプラットフォーム企業としての競争優位が維持されている限り、パランティアは今後も有望な投資対象であり続けるでしょう。今回の決算発表は、その見極めの材料を提供してくれるはずです。

【エヌビディア決算みどころ】ブラックウェルGPUとデータセンター成長率、粗利益率が焦点に(NVIDIA)
本記事では、エヌビディア(NVIDIA)の2025年2月発表2025会計年度第4四半期決算を振り返り、5月に控える2026会計年度第1四半期決算の見どころを解説します。エヌビディアの2025年2月期第4四半期決算は、売上高が前年同期比78%増の393億ドルと好調でした。主力のデータセンター部門は生成AIブームにより93%増と急成長し、新型GPU「ブラックウェル」も110億ドルの売上を記録しました。今後の注目点は、ブラックウェルの本格展開による売上寄与、データセンター部門の成長持続性(市場予想は前年比68%増の380億ドル)、そして供給制約とTSMCの生産能力拡大の進展です。5月の2026年度第1四半期決算では、売上高430億ドル(±2%)という強気な見通しの達成が焦点となります。前回決算(2025年2月発表、2025会計年度第4四半期)のハイライトエヌビディア(NASDAQ: NVDA)は2025年2月26日に2025会計年度第4四半期(2024年11月~2025年1月期)の決算を発表しました。結果は市場予想を上回る好調さで、売上高は前年同期比+78%の 393億ドル に達し、過去最高を更新しました。この急成長をけん引したのは主力の データセンター部門 (クラウド向けAI計算用半導体事業)で、同部門売上は前年同期比+93%という驚異的な伸びを示しました。これは生成AI(Generative AI)ブームによる大規模言語モデル向けGPU需要の爆発的増加が背景にあります。エヌビディアCEOのジェンスン・フアン氏も、新世代AI用半導体「ブラックウェル (Blackwell)」の量産に成功し、「需要は驚異的だ」と述べています。利益面でも力強く、調整後EPS(1株当たり利益)は前年同期比+71%の 0.89ドル に達し、こちらも市場予想(約0.85ドル)を上回りました。高成長分野の比率拡大で収益性も高水準を維持していますが、一方で 粗利益率(売上総利益率)は73.5%となり、前年同期の76.7%や直前Q3の75.0%からは低下しました。この要因として、新製品ブラックウェルの立ち上げに伴う一時的なコスト上昇が挙げられます。もっとも、同社は以前から初期段階では粗利率低下を見込んでおり、2026年1月期後半には粗利益率が再び70%台半ばに回復する見通しとも説明しています。つまり目先の利益率低下は想定内であり、長期的な収益性に大きな不安はないと見られます。決算発表直後の株価反応は 比較的冷静 でした。決算当日2月26日の通常取引で株価は前日比+3.7%と上昇していましたが、好決算発表後の時間外取引では一時小幅上昇した後、最終的には発表前の水準とほぼ同じ 129.32ドル で推移しました。これは、業績・見通しが市場予想をわずかに上回る程度で「サプライズ」が小さく、既に高成長期待を織り込んでいた投資家が冷静に受け止めたためと考えられます。直前に株価が大きく上昇していたこともあり、「材料出尽くし」で一服した格好です。前回決算以降の主なニュースと業界動向前回の決算発表後、エヌビディアを取り巻く環境でもいくつか重要なニュースがありました。その一つが、新型GPU「ブラックウェル」チップの本格出荷開始です。ブラックウェルはH100の後継となる次世代AI向けGPUで、第4四半期に売上高 110億ドル を計上し、同社史上最速の立ち上げを記録しました。立ち上げ当初は冷却(過熱)問題による出荷遅れも報じられましたが、現在は大量生産に成功し、大手クラウド事業者(ハイパースケーラー)各社からの旺盛な引き合いに応えています。実際、ブラックウェル関連の需要はデータセンター売上の約半分を占めるまでになっており、生成AIブームを背景にエヌビディアの業績を大きく押し上げています。生成AI需要の拡大 も引き続き鮮明です。ChatGPTに代表される生成AIの普及以降、米国のMicrosoftやAmazon、Meta、Alphabet(Google)といったテクノロジー大手はAIインフラへの巨額投資を競い合っています。エヌビディアはそうした企業にとって不可欠な高性能GPUを供給しており、前述のようにデータセンター向け事業が売上の約8割に達するまでに成長しました。主要顧客の動向としては、例えばMicrosoftがデータセンター拡張計画の一部見直しを検討しているとの報道もありましたが、全体としてクラウド各社のAI投資熱は冷めていません。むしろ生成AIを活用したクラウドサービス競争が激化する中、エヌビディアへの引き合いは今後も強含みで推移するとの見方が一般的です。一方、サプライチェーン(供給網)と供給制約 の状況にも注目が集まっています。エヌビディア製品の製造を請け負うTSMC(台湾積体電路製造)では、高度なチップパッケージ技術(CoWoSなど)の需要急増に伴い生産能力がひっ迫していると報じられています。実際、エヌビディアは需要に応えるため部材の前倒し調達や設備投資を進めており、2025年1月期末時点で 在庫 は前年同期比+31%(101億ドル)に増加、将来の製造能力確保のための前払金 も約51億ドルに達しています。これは供給面のボトルネック解消に向けた先行投資と言えます。前四半期はGPUの供給タイト化により一部のゲーミング向けGPU販売が制約を受けた(売上減少となった)ほどで、エヌビディアとしてもサプライチェーン強化は最優先課題です。幸いTSMCは2024年を通じてAIチップ向けパッケージ能力を大幅増強する計画とされ、エヌビディアも2025年にかけて安定供給の体制を整えつつあります。競合環境 に目を向けると、AI半導体分野での競争も激しさを増しています。米AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)はエヌビディアに対抗すべく「MI300」シリーズと呼ばれるデータセンター向けAIアクセラレータを開発中で、2024年前半から大手クラウド企業への採用が始まりました(例えばIBMクラウドがMI300Xを導入予定)との報道があります。また、中国では新興のAI企業DeepSeek(ディープシーク)が高性能な大規模AIモデルを極めて低コストで動かしたと発表し、市場を驚かせました。DeepSeekによると、同社の最新AIモデルは米国トップクラスのモデルに匹敵する性能を持ちながら、NVIDIAの先代GPU(H800)を数万枚投入することで安価に学習できたとされます。このニュースが伝わった直後、エヌビディアの株価は1日で50兆円超($0.5トリリオン)もの時価総額を失う急落に見舞われ、投資家心理の動揺を招きました。しかし専門家は、「フロンティア(最先端)AIを支えるには依然としてエヌビディアのような高度な半導体が必要」と指摘しており、DeepSeek台頭による需要減退懸念は現時点では過度に心配する必要はないとの見方が強いようです。加えて、米政府の対中輸出規制によりエヌビディアの最先端GPUは中国企業へ直接販売できない状況もあり、高性能チップ市場では当面エヌビディアとAMDが二強として先行する構図です。総じて、競争圧力は高まりつつあるものの、足元ではエヌビディアが技術・市場シェアともに大きなリードを保っています。今回決算(2026会計年度第1四半期)の注目ポイントと株価へのインパクト5月に発表予定の2026会計年度第1四半期(2025年2月~4月期)の決算では、上述の流れを受けて3つのポイントに注目が集まります。ブラックウェルチップの売上寄与:最新GPUブラックウェルの本格展開によって、今回四半期は前四半期以上の売上寄与が期待されます。前四半期に110億ドルを売り上げたブラックウェルが四半期フルで寄与することで、データセンター部門の売上はさらに増加する見通しです。市場予想では、データセンター売上高は前年同期比+68%の 380億ドル規模 に達するとの見方もあります。ブラックウェルの供給が順調に拡大すれば、エヌビディア全体の業績を押し上げる原動力となるでしょう。特に今回決算では、ブラックウェルの売上構成比や受注残(バックログ)について経営陣から言及があるかがポイントです。仮にブラックウェルの生産・供給が計画通り進み、「需要超過で受注残を積み増している」ような状況が示されれば、今後数四半期にわたる安定成長への信頼感から株価にプラス材料となり得ます。データセンター成長率の持続性:驚異的な成長を遂げてきたデータセンター部門ですが、この高成長がどこまで持続するかも注目点です。直近四半期で+93%だった前年同期比成長率は、今回決算では約60~70%増程度まで減速する見通しです。これは前年の水準が急拡大してハードルが上がっているためで、成長ペースが落ちても依然として極めて高い伸び率である点に留意が必要です。投資家としては、売上の絶対額が市場予想(約430億ドル)に届いているか、さらに上振れるかが焦点となります。エヌビディア経営陣は前回決算時に2025年2-4月期の売上ガイダンスを 430億ドル(±2%) と示しており、市場予想平均(約421億ドル)を上回る強気な見通しでした。これが達成・超過できれば、AI需要が引き続き堅調である証左となり、株価の下支え要因となるでしょう。特に、大口顧客であるクラウド各社の発注動向や、受注のキャンセル・延期がないかといった点についても開示や質疑応答で確認されるはずです。もし需要面で何らかの陰り(例えば主要顧客による発注調整)が見られれば、成長期待に敏感な市場はネガティブ反応を示しうるため注意が必要です。供給制約リスクと粗利益率の見通し:前述のように、エヌビディアにとって供給能力の確保は業績拡大のカギを握ります。今回決算では、生産能力や在庫の状況、サプライチェーンのボトルネック解消への取り組みに関する言及が注目されます。幸い、TSMCをはじめサプライヤー各社は需要増に対応する投資を行っており、エヌビディア自身も前払金で製造枠を確保するなど手を打っていますが、依然として供給制約が成長の上限となりうるリスクは残ります。例えば、予想以上に需要が強まった場合に供給が追いつかず、納期遅延や販売機会の損失が生じる可能性です。投資家としては、経営陣が示す製造キャパシティ見通しや在庫水準をチェックすることで、このリスクの大きさを判断する材料になります。また、粗利益率(グロスマージン)の動向も株価へのインパクトが大きいポイントです。前四半期はBlackwell立ち上げの影響で73.5%まで低下しましたが、会社側は今回はさらに若干低下し 70~71%程度 になるとの見通しを示しています。これは市場コンセンサス(約72%)をやや下回る水準でしたが、前述のようにBlackwell関連コストが先行する一時的な現象と考えられています。重要なのは今後の粗利益率の方向性であり、経営陣が供給コストの低減や製品ミックス改善によって年度後半にかけて利益率が回復基調に戻ると示せれば、利益面の不安は和らぐでしょう。逆に、予想以上に粗利益率の低下傾向が続く場合やコスト増大が報告された場合、超高水準の株価収益率(2025年予想PERは約45倍)で取引されるエヌビディア株には下押し圧力となる可能性があります。株価は既にAIブームを織り込み過去5年で+1800%という驚異的な上昇を遂げており、高い成長期待に支えられているため、わずかなマイナス材料にも敏感になり得る点には注意が必要です。まとめ:個人投資家への示唆エヌビディアの2025年5月発表予定の決算は、AIブームの最中で迎える極めて重要なイベントです。前回決算で示された爆発的な業績成長が今回も続くのか、そしてそれが市場予想を上回る勢いなのかが株価のカタリスト(変動要因)となります。個人投資家は、データセンター部門の売上やBlackwellチップの寄与度、主要顧客の需要動向に加え、供給体制や利益率といった裏側の指標にも目を配る必要があります。エヌビディア経営陣はAI需要の持続に自信を示しており、実際に第1四半期も前年比6割以上の増収が見込まれる状況です。こうした高成長が確認できれば、同社株は引き続き強気相場を維持しやすいでしょう。一方で、供給制約や競合動向など不確実要素も存在するため、一極集中リスクにも注意しつつ、最新の決算情報を今後の投資判断に活かすことが重要です。注目ポイントのおさらい 前回決算は売上・利益が大幅増となりAI需要の勢いを裏付けました。その後もBlackwell出荷や生成AI拡大など追い風が吹いていますが、供給能力や競合にも目を光らせる局面です。今回発表の決算では、Blackwellがどれだけ売上を押し上げたか、データセンター成長が高水準を維持できるか、そして利益率が安定軌道にあるかがポイントとなります。それらの指標が総じて良好であればエヌビディア株への信頼感は一段と増すでしょうし、万一伸び悩みが見られれば短期的な株価調整もあり得ます。個人投資家としては、こうした点を踏まえつつエヌビディアの中長期的な成長ストーリーを再点検し、ポートフォリオ戦略に反映させると良いでしょう。

【クラウドフレア決算みどころ】エンタープライズ顧客とAI事業の進展を注視(Cloudflare)
本記事では、クラウドフレア(Cloudflare)の2024年第4四半期決算を振り返り、5月に控える2025年第1四半期決算の見どころを解説します。クラウドフレアの2024年第4四半期決算は、売上高が前年同期比27%増の4億5990万ドルを達成し、Non-GAAPベースのEPSは0.19ドルと黒字を確保しました。大口顧客数は3,497社に達し、売上の69%を占めています。ゼロトラスト製品やAI関連のWorkersプラットフォームが好調で、大手企業との大型契約獲得が続いています。2025年第1四半期は売上高4億6800万~4億6900万ドルを見込み、前年同期比23%の成長が期待されています。2024年Q4決算ハイライトまず、クラウドフレアが直近発表した2024年第四四半期(Q4)決算の主要ポイントを振り返ります。売上高: 4億5990万ドルと前年同期比+27%の増収でした。市場予想を上回る堅調な成長で、前年から引き続き高い拡大ペースを維持しています。EPS (1株当たり利益): Non-GAAPベースのEPSは0.19ドル(前年同期比+26.7%)と予想を上回り、黒字を確保しました(GAAPベースでは0.04ドルの赤字)。収益性の改善が示されたことで投資家に好感されています。年間経常収益の成長(ARR成長率): ARR(Annual Recurring Revenue、年間経常収益)は売上高と同様に力強く成長しています。既存顧客からの収益拡大を示すドルベースネット継続率(DBNRR)は111%となり、前四半期から1ポイント改善しました。これは現在の顧客が引き続きクラウドフレア製品への支出を増やしていることを意味し、安定したリカーリング収益の基盤を示しています。大口顧客数: エンタープライズ分野での拡大も顕著で、年間10万ドル以上を支払う大口顧客数は3,497社に達し、前年同期比+27%の増加となりました。こうした大口顧客からの売上は全売上高の69%を占め、前年の66%から比率が上昇しています。さらに、年間100万ドル超を支払う超大口顧客も173社に増加し(前年比+47%増)、クラウドフレアがより大型の契約を獲得できていることを示しています。Zero Trust製品の動向: クラウドフレアが注力するゼロトラスト(注: 社内外問わず全てのアクセスを常に検証する最新のセキュリティモデル)関連サービスも好調です。例えばQ4中には、Secure Access Service Edge (SASE) を含むゼロトラスト製品群で、米国のある大手投資会社と3年間・400万ドル規模の契約を獲得しました。このような大型案件の受注は、従来型のネットワークセキュリティ企業(レガシーVPNやファイアウォール企業)からシェアを奪い、クラウドフレアの包括的ゼロトラストプラットフォームが評価されている証と言えます。決算発表後の株価反応: 2025年2月初旬の決算発表直後、クラウドフレア株は時間外取引で急伸し、その後2月14日には年初来高値となる177.37ドルを記録しました。強い業績が好感された形です。その後はハイテク株全体の調整もあって高値から28%下落し、4月上旬時点では年初来騰落率+18%程度に落ち着きました。このように株価は業績に敏感に反応しており、ボラティリティ(変動の大きさ)が高い点には留意が必要です。前回決算以降の主なニュースと動向Q4決算発表後の2025年2月以降、クラウドフレアに関するニュースやトピックも数多く報じられています。個人投資家として把握しておきたい主な動向を整理します。AI/Workers製品の採用動向: 生成AIブームを背景に、クラウドフレアのエッジ開発基盤「Workers」や新サービス「Workers AI」が注目を集めています。クラウドフレアの経営陣によれば、自社のAI向けプラットフォームは従来のハイパースケーラー(大手クラウド事業者)に比べ最大10倍の価格性能比を提供できるとのことで、AI関連企業からの引き合いが強まっています。その一例として、「ある著名なAI企業」との契約拡大(追加契約額1,350万ドル)が第4四半期に実現し、大規模なAIワークロードがクラウドフレア上で稼働していることが明らかになりました。今後もAIスタートアップなどによる同社ネットワーク・開発基盤の採用動向が注視されています。政府・大企業との新規契約: エンタープライズ分野では、前述の超大口顧客の増加に象徴されるように大型契約の獲得が続いています。特に昨年末から今年にかけて、5年間で2,000万ドル規模の契約(米フォーチュン100企業)や前述のAI企業との1,350万ドル契約など、高額ディールが相次ぎました。またゼロトラスト製品を含むSASE分野でも、3年総額400万ドルの契約(米大手投資会社)を獲得するなど、企業のネットワーク安全保障ニーズを捉えています。さらに公共部門への進出に向けた基盤整備も進行中です。クラウドフレアは米国政府のクラウド認定制度で最高水準となるFedRAMP High認証の取得プロセスを開始しており、認証を得られれば連邦政府機関との取引拡大が期待されます。このように政府・大企業との関係強化は、同社の安定成長に寄与する重要なトピックです。競合との比較・プロダクト拡張: クラウドフレアは競争環境の中でも優位性を発揮しつつあります。同社は従来から提供するWebセキュリティ製品でも高い評価を獲得しており、2025年Q1のForrester WaveレポートではWebアプリケーション・ファイアウォール(WAF)分野のリーダーに選出されました。これはイノベーションや検知能力など22項目中15項目で最高評価を得た結果で、競合他社(例えばAkamaiやImperva、Fastly等)に対する製品力の高さが裏付けられています。またゼロトラスト領域においても、クラウドフレアはシンプルで統合されたプラットフォームを強みに旧来型ベンダーからの置き換えを進めています。例えばZscalerなど専業ゼロトラスト企業との比較では、クラウドフレアは自社のグローバルネットワーク基盤と開発者向けサービスを一体提供できる点で差別化しています。加えて、2025年4月にはコンテナ実行環境の提供発表など開発プラットフォームの拡張も行われ、単なるCDN(コンテンツ配信)企業から包括的な「接続性クラウド」企業へと進化を続けています。こうした継続的な製品強化と差別化戦略により、市場での競争力を維持・向上している点は注目に値します。株価の推移: 前述したように、クラウドフレア株は決算発表直後に急騰した後、3月〜4月にかけて調整局面を迎えました。2月中旬の高値から約9%下落したとの指摘もあり、直近1ヶ月で見ると株価は軟調でした。ただし年初来ではなお+18%の上昇(4月上旬時点)とマーケット全体を上回るパフォーマンスを保っています。この株価推移には、金利上昇やハイテク株全体の変動といったマクロ要因も影響しています。クラウドフレアは高成長株ゆえにバリュエーションが高めで、良いニュースには大きく反応する一方、相場環境の悪化時には下落圧力を受けやすい傾向があります。個人投資家にとっては、このボラティリティを念頭に置きつつ、押し目が一時的な調整なのか見極めることが重要です。2025年Q1決算の注目ポイントと株価への影響いよいよ5月発表予定の2025年第一四半期(1〜3月期)決算に目を向けます。個人投資家がチェックすべきポイントと、それらが株価に与え得るインパクトを整理します。売上成長率の継続性: Q1の会社側ガイダンスでは売上高4億6800万〜4億6900万ドルが見込まれており、これは前年同期比で約+23%の成長に相当します。前年Q4の+27%からやや成長率は低下する見込みですが、この20%台中盤の成長を維持できるかが最重要視されます。市場予想を上回る売上成長(ガイダンス超え)を達成できれば、クラウドフレアが旺盛な需要を引き続き取り込んでいる証となり株価の追い風となるでしょう。特に経営陣も「2025年は後半に向けて売上が加速する」と述べており、Q1が順調なスタートを切れば年間を通じた成長への安心感が高まります。一方で、もし成長ペースの減速が顕著になったりQ2以降の売上見通しが慎重に修正されるようだと、高いバリュエーションを正当化しづらくなり株価の下押し要因となり得ます。エンタープライズ売上の構成比: 前述のとおりクラウドフレアの売上に占める大口エンタープライズ顧客の比率は約69%に達しています。今決算でも、この大型顧客セグメントの動向が注目です。具体的には、「年間10万ドル以上の大口顧客数がさらに増加しているか」「既存の大口顧客が契約を拡大しているか(ネット継続率の動向)」といった点がチェックポイントです。大口顧客の増加や契約拡大が続いていれば、売上の質(安定性)が高まっていると評価できます。エンタープライズ比率の上昇は、一契約あたりの売上が拡大し営業効率が上がっていることを示唆するため、中長期の収益予見性向上につながります。ただし一方で、中小顧客や新規顧客獲得の勢いにも留意が必要です。大口偏重が進みすぎると成長ドライバーの裾野が狭まる可能性もあるため、理想的にはエンタープライズと中小企業双方でバランスよく成長しているのが望ましいでしょう。この点について経営陣が決算説明会で言及する顧客動向にも注目です。AIプラットフォームの貢献: AIブームの中でクラウドフレアが提供する開発者向けプラットフォーム(WorkersおよびWorkers AI)がどの程度業績に寄与し始めているかも見逃せません。現在、同社は「マルチクラウド対応やエッジコンピューティング能力により、AIワークロード向けインフラとして最適なポジションにいる」とアピールしており、AIスタートアップや大企業からの引き合いが強まっています。実際、先述のようにAI企業との大型契約も成立しています。Q1決算では、この分野に関連する売上や利用量について何らかの定量的・定性的なコメントがあるか注目です。例えば「AI関連スタートアップの採用事例が増加している」「Workers上でのAIリクエストが急増している」といったトレンドが示されれば、新たな成長エンジンとして期待が高まり株価にもプラスに作用するでしょう。逆に特段触れられない場合でも、今後のポテンシャルが大きい領域であるため、投資家としては引き続き四半期ごとのアップデートを追っていく必要があります。営業利益率とガイダンス修正の可能性: 高成長と並行して収益性の改善もクラウドフレアの重要テーマです。前回Q4ではNon-GAAP営業利益率が14.6%まで上昇し(前年同期比+3.6ポイント)、コスト管理の徹底で利益体質が強化されました。今回Q1について会社は営業利益(Non-GAAP)5,400万〜5,500万ドルを見込み、営業利益率は約11〜12%程度と想定しています。これは保守的な計画とも考えられ、実際にはさらなる効率改善や増収効果で上振れる可能性もあります。注目すべきは通年ガイダンスの修正で、もしQ1好調を受けて2025年通期の売上見通し(現在+25%成長見込み)を上方修正するようなことがあれば、株式市場はポジティブに反応するでしょう。また営業利益や利益率の目標引き上げもサプライズとなり得ます。一方、データセンター拡張やAIインフラ投資のための設備投資比率引き上げ計画(売上の12〜13%を投資に充当予定)も公表されており、当面はフリーキャッシュフローが投資に回る局面が続く点には注意が必要です。ガイダンスに変更がなくとも、投資計画や費用見通しについて経営陣からどのような説明があるかによって、マーケットの受け止め方は変わるでしょう。以上の点を総合すると、今回の決算は「成長率の維持」と「収益性の改善」のバランスが焦点となります。クラウドフレアはゼロトラストやエッジ開発基盤といった将来性の高い分野で競争力を示しており、長期成長ストーリーは魅力的です。しかしその一方で、足元のバリュエーションは高めで株価変動も大きいため、決算ごとの達成度合いが株価に直結しやすい状況です。個人投資家としては、今回の決算数字や経営陣コメントをしっかり吟味し、高成長の持続可能性と利益創出力の強まりを確認することが重要と言えるでしょう。仮に市場予想を上回る結果や前向きなガイダンスが示されれば株価上昇の材料になりますし、逆に失望を誘うような内容であれば短期的な株価下落リスクも考慮しつつ、長期目線で企業価値の推移を見定める姿勢が求められます。今回の決算は、クラウドフレアが2025年の更なる飛躍に向け順調な滑り出しを切れているかを占う意味でも、個人投資家の今後の判断材料となる重要なイベントとなるでしょう。

【ウォルト・ディズニー決算みどころ】Disney+黒字化とパーク事業好調で増益、ESPNはDTC化へ転換期(Walt Disney)
本記事では、ウォルト・ディズニー(Walt Disney)の2025年度第1四半期決算を振り返り、5月に控える2025年度第2四半期決算の見どころを解説します。ウォルト・ディズニーの2025年度第1四半期(2024年10-12月期)は好調な決算となりました。売上高は前年同期比5%増の247億ドル、調整後EPSは$1.76を達成。Disney+とHuluのストリーミング部門が黒字化し、テーマパーク部門も高収益を維持。映画部門は『モアナ2』『インサイド・ヘッド2』『デッドプール3』のヒットにより営業利益が前年比95%増。ESPNを含むスポーツ部門も黒字転換を果たし、全社的な業績改善が見られました。前回決算(2025年度第1四半期)のハイライト2025年度第1四半期(2024年10~12月期)のウォルト・ディズニー決算は、売上高・利益とも市場予想を上回る好結果となりました。売上高は前年同期比+5%の247億ドル、調整後1株当たり利益(EPS)は$1.76(予想$1.45)と大幅な増益を達成しています。以下に主なポイントをまとめます。売上高とEPSの成長: 売上高は247億ドル(前年同期比+5%)に達し、純利益は26億ドル(前年同期19億ドル)に増加。希薄化後EPSは前年$1.04から$1.40に35%増と好調で、調整後EPSは$1.76と市場予想を上振れました。ストリーミング事業の動向: Disney+やHuluを中心としたストリーミング部門が黒字化しました。第1四半期の同部門営業利益は約2億9,300万ドルの黒字となり、前年の赤字(1.38億ドルの損失)から劇的に改善しました。これは広告付きプラン導入や料金値上げによるARPU(加入者あたり収益)向上、コンテンツ費削減などの効果が大きく、2024年Q4に初黒字転換した流れが継続しています。Disney+の有料会員数は1億2,460万人(2024年12月時点)と前四半期から予想通りわずかに減少しましたが、Huluは5,360万人まで増加し、両サービス合計では1億7,800万人規模とほぼ横ばいを維持しています。価格改定による解約増加は限定的であったと報告されています。パーク&エクスペリエンス部門: テーマパークやリゾート、クルーズを含むパーク部門は前年並みの高収益を維持しました。2024年度通期の同部門売上高は341億ドル(前年比+5%)と過去最高水準で、営業利益も約92.7億ドルに達しています。最新の第1四半期でも営業利益31億ドルと前年並みを確保しました。米国内パークはハリケーン直撃や新型クルーズ船準備費用といった一時要因で前年同期比▲5%の減益でしたが、上海ディズニーランドやパリの海外パークは同+28%と大幅増益となり国内分を補っています。パーク事業は引き続きディズニーの強力な収益源として全社業績を下支えしました。映画スタジオ&メディア(エンターテインメント)部門: 映画興行のヒットが業績を牽引しました。映画スタジオを含むエンターテインメント部門の営業利益は17億ドルと前年の2倍近くに拡大。特にディズニー長編アニメ『モアナ2』が世界興行収入10億ドルを突破する大ヒットとなり(2025年1月時点)、ピクサー続編『インサイド・ヘッド2(Inside Out 2)』やマーベルのR指定映画『デッドプール&ウルヴァリン(Deadpool 3)』も相次いで世界興収10億ドル超えの成功を収めました。この結果、映画・テレビを含むエンタメ部門の営業利益は前年比+95%と飛躍的な伸びを示しています。一方、伝統的なテレビネットワーク(ABCやケーブルチャンネル)の営業利益は11%減と引き続き縮小傾向にあります。スポーツ(ESPN)部門:スポーツメディア部門も黒字転換しました。ESPNを中心としたスポーツ部門の営業利益は2億4,700万ドルの黒字となり、前年同期の赤字から大きく改善。米国内のESPN広告収入が前年同期比+15%と好調だったことに加え、インドのスポーツ事業(Star India)のコスト削減や経営統合準備が奏功したためです。これにより、スポーツ部門の収益性改善も会社全体の利益押し上げに寄与しました。株価の反応: 前回決算発表直後のマーケットの反応はやや慎重でした。好決算にも関わらず、Disney+会員数が伸び悩む見通しが嫌気され、発表翌日の株価は通常取引で約2.4%下落しました。もっとも、これは加入者数減少予測という短期的懸念によるものと見られ、ストリーミング黒字化や映画・パーク好調という長期価値向上の兆しはポジティブに評価されています。前回決算以降の主なニュースと業績への影響前回の決算発表(2025年2月初旬)以降、ディズニーに関する重要なニュースや経営トピックがいくつか報じられました。これらは今回(2025年1~3月期)の決算にも影響し得るため、主要テーマごとに整理します。Disney+の広告プラン導入と価格改定:ディズニーはストリーミング事業の赤字解消に向け、Disney+に広告付きの低価格プランを導入し、並行して従来プランの値上げを世界各地域で進めています。米国では既に広告付きプランを投入済みで、欧州や日本などでも順次展開中です。日本では2025年3月に料金プラン改定が発表され、ディズニープラス(月額)のスタンダードプランが990円から1,140円、プレミアムプランが1,320円から1,520円へと値上げされました。こうした施策により加入者一人当たりの収益改善と採算向上が図られており、前回決算でも値上げによる解約は想定内の小幅に留まっています。また、パスワード共有の取り締まりも2024年中に開始予定と発表されており、不正視聴を減らすことで正規会員数と収益の底上げを狙っています。さらに、Huluの完全子会社化にも動きがありました。2023年末に米コムキャストがHulu残り33%の売却権を行使し、ディズニーが約86億ドルで買収する契約に合意しています(最終評価額次第では追加支払いの可能性あり)。これによりディズニーはDisney+とHuluのサービス統合を進めやすくなり、将来的には一本化したプラットフォームで効率的な運営が期待されます。テーマパーク事業 集客動向と海外展開の強化: パーク&エクスペリエンス部門では、来園者数の堅調推移と積極的な投資拡大が続いています。米国のフロリダ(ウォルト・ディズニー・ワールド)やカリフォルニア(ディズニーランド)では入園者数がコロナ禍から回復し高水準を維持していますが、高インフレ下でのチケット値上げや需要動向に注目が集まっています。昨年から今年にかけてはハリケーンによる休園や物価高による消費者心理への影響も見られましたが、春休みシーズンを含む2025年初も概ね堅調な集客が報告されています。一方、海外パークの好調と拡張が目立ちます。中国・上海ディズニーランドでは世界初の「ズートピア」エリアが2023年末に開業し、香港ディズニーランドでも世界初となる「アナと雪の女王」のテーマランド(ワールド・オブ・フローズン)が2023年11月にオープンしました。これらが呼び水となり、アジアのパーク来園者数は増加傾向です。また東京ディズニーシーでも大型拡張プロジェクト(ファンタジースプリングス)が進行しており、2024年度中の開業が控えています。さらに、本社は今後10年間でパーク事業に約600億ドルを投資予定と表明しており、米国内外で複数の新エリア(ヴィランズテーマランドや『インディ・ジョーンズ』『エンカント』など映画IPを題材にしたアトラクション)や新クルーズ船4隻の投入計画が発表されています。これらの積極策により、「体験価値」で競合に差をつけ、更なる来園者増と収益拡大を図っています。パーク事業は伝統的に高い利益率を誇るため、同部門の動向は今後も全社の業績を左右する重要なポイントです。映画興行収入とIP(知的財産)の活用戦略: ディズニーのコンテンツ事業は大型IPの続編投入によって活況を呈しています。前述のとおり2024年後半には『モアナ2』『インサイド・ヘッド2』『デッドプール3』など複数の映画が世界的ヒットとなり、2024年通年のディズニー映画興行収入は他社を圧倒しました。一方でオリジナル新作の興行は『マーベルズ』や『ウィッシュ』など苦戦もみられ、既存フランチャイズの頼みに偏る傾向も指摘されています。こうした中、ディズニーは豊富な人気IP資産の一貫活用戦略を強化しています。劇場映画のみならず、人気キャラクターをDisney+向けドラマやスピンオフ作品として展開したり、テーマパークの新アトラクションに取り入れたりと、1つのIPから複数の収益源を創出する取り組みです。例えば「スター・ウォーズ」シリーズはDisney+オリジナル番組でファン層を拡大し、マーベル作品も映画と連動したドラマを配信するなどクロスメディア展開が進んでいます。また将来に向けても『アナと雪の女王3』や『トイ・ストーリー5』、さらには実写リメイク作品などの制作計画が公表されており、強力なコンテンツラインアップへの期待が高まっています。映画部門の成功はグッズ販売やパーク入場動員にも波及するため、ディズニーにとってIPの総合活用は引き続き成長戦略の中核です。ESPNとスポーツ中継ビジネスの戦略: スポーツ専門局ESPNを抱えるディズニーは、変化するメディア環境に合わせたスポーツ事業戦略を模索しています。近年のケーブルテレビ離れで従来のESPN視聴者数が減少する中、同社はESPNのストリーミング展開を本格化させる方針です。具体的には、2025年秋にもESPNの主力番組を直接視聴できるDTC(直接契約)サービスを開始予定であると明言しています。すでにDisney+上でESPNのコンテンツ配信を試験的に行っており、今後は「ESPNアプリのフラッグシップ版」として独立サービスを提供する計画です。同時に、巨額の放映権料が収益を圧迫しないよう戦略的パートナーの受け入れも検討中です。ボブ・アイガーCEOは「ESPN事業において資本参加を含むパートナーを模索している」と繰り返し発言しており、テック企業やスポーツリーグとの提携が取り沙汰されています。実際、NBAやWNBAとは2025-2035年の長期放映契約を更新しており(総額増加はあるもののESPNが引き続き主要パートナー)、一部試合はAmazonやNBCとの分担となる見込みです。またスポーツベッティング分野への進出として、2023年にはESPNブランドを冠した「ESPN Bet」を立ち上げました。提携先のPenn Entertainment社と10年間・20億ドル規模のライセンス契約を結び、米国のオンラインスポーツ賭博市場での存在感拡大を狙っています。もっともサービス開始直後の市場シェアは限定的で、競合に差をつけるには時間がかかるとの見方もあります。総じて、ESPN部門は依然高収益ではあるものの伝統的な有料テレビ依存からの脱却が課題であり、ストリーミング移行のロードマップや収益モデルの転換が投資家の注目点となっています。株主還元とコスト構造改革の動き: 株主還元策の再開・強化も前回決算以降の注目トピックです。ウォルト・ディズニーは2020年以来中断していた四半期配当を2024年に復活させ、2024年1月に1株当たり0.30ドルの配当を実施しました。さらに取締役会は次回配当額を50%増額(約0.45ドルに)する方針を表明し、加えて最大30億ドルの自社株買い枠を2024年度中に実行する計画を発表しています。これらは業績回復への自信の表れであり、株主に対する利益還元を重視する姿勢として好意的に受け止められました。加えて経営のスリム化・構造改革も進行中です。ボブ・アイガーCEOは復任後、組織再編(エンターテインメント、ESPN、パークの3事業部体制への再構築)やコスト削減プログラムを断行しました。2023年には約55億ドル規模のコスト削減計画を発表し、人員削減(約7,000人)やコンテンツ制作費の見直し、不採算事業の整理を実施しています。実際、2025年度のコンテンツ支出計画は当初240億ドルから230億ドルへ引き下げられました。さらにグローバル戦略の見直しとして、インド事業からの撤退・統合を決断しました。2023年末から交渉されていたインドのテレビ・配信事業(Disney StarとDisney+ Hotstar)と現地大手企業リライアンス社との統合作業が2025年初頭に完了し、推定85億ドル規模の事業統合(ジョイントベンチャー)が成立しています。これにより年間数十億ドルに上るIPLクリケット放映権などの負担から解放され、ディズニーは株式の一部と引き換えにインド市場の経営をリライアンスに委ねる形となりました。今後は米国内の一部テレビネットワーク(ABCや地方テレビ局)の売却検討もうわさされており、アイガーCEOも「一部の小規模ネットワークについてオーナーシップを含め再構成の可能性を排除しない」と発言しています。こうした非中核資産の切り離しや事業ポートフォリオ再編も視野に入れることで、本業であるスタジオ&ストリーミング、テーマパーク、ESPNに経営資源を集中させる狙いです。以上のように株主還元強化と構造改革の進展は、財務健全性の向上と将来の成長余地を高めるものとして、個人投資家にとっても重要な観点となっています。今回(2025年1~3月期)決算の注目ポイントと株価への影響以上を踏まえ、今回発表される2025年度第2四半期(1~3月期)決算で個人投資家が注目すべきポイントと、それぞれが株価に与えうる影響を整理します。ストリーミング事業の黒字化進捗: Disney+を中心とするストリーミング事業が連続黒字を維持できるかが最大の注目点です。前四半期までにDTC部門は3四半期連続で黒字を計上しましたが、今回1~3月期も引き続き黒字幅を拡大できれば、「赤字垂れ流し」との市場の不安は大きく後退するでしょう。もっともDisney+会員数は前回値上げの影響で減少傾向にあり、今回決算でも小幅な純減が見込まれています。減少幅が経営陣の予想より大きい場合、一時的に失望感から株価が下押しされる可能性もあります。逆に、解約抑制策(年間プラン誘導やパスワード共有対策)が奏功して会員数が早期に安定すれば、ストリーミング損益の黒字定着と相まって株式市場の評価は好転する見込みです。投資家にとっては、「加入者数より収益性重視」への転換がどこまで進んでいるかを見極める決算となります。パーク収益の持続性: 前四半期でやや伸び悩んだ米国内パークの業績動向が焦点です。1~3月期はホリデー需要が一巡しオフシーズン気味とはいえ、春休みやイースター休暇の集客で前年並みの高稼働を維持できたか注目されます。もし米パークの収益成長が鈍化するようだと、「高物価下で来園者が節約に転じ始めたのではないか」という懸念から株価の重石となりかねません。一方、ハリケーンなどの特殊要因が剥落した分、フロリダの業績が持ち直し前年並み以上の増益が確認できれば、パーク部門は引き続き安定収益源だとの安心感から株価の下支え要因となるでしょう。また海外パークについても、前期好調だった反動で伸びが一服する可能性がありますが、新エリア効果やインバウンド旅行需要の復調で高成長が続けばポジティブ材料です。総じてパーク事業はディズニーの「収益の柱」であり、その利益水準の持続性が確認できるかどうかは投資判断に直結します。映画・コンテンツ部門の業績: 1~3月期は前年同期比で映画部門が好調を維持できたか注目です。前年の同四半期(2024年初)は目立ったヒット作が少なかったため、今年は『モアナ2』の興行収入が1月以降も寄与することで増収増益が期待されます。もっとも新作公開自体は少なく、興行収入の規模は前四半期(ホリデーシーズン)ほどではない可能性があります。そのため四半期ベースではエンタメ部門の利益が前期比で減少することも考えられますが、これは想定内と言えます。重要なのは、経営陣が今後の映画ラインナップやコンテンツ投資計画について自信を示すかどうかです。もし決算説明で大型IP続編(例えば『アナ雪3』やマーベル新作)の公開時期や戦略にポジティブなアップデートがあれば、市場心理は明るくなり株価の追い風となるでしょう。逆に、ハリウッドのストライキ影響などでコンテンツ供給の遅れや制作費増大への懸念が強調されると、今後の成長力に不透明感が生じ株価の上値を抑える可能性があります。いずれにせよ、「ヒットを出せるか」というコンテンツ企業の根幹に関わるポイントだけに、映画部門の数字とコメントには投資家の関心が集まります。ESPNの収益構造と戦略動向:スポーツ部門の利益動向も株価に影響し得る要素です。前期はESPNが黒字転換しましたが、今回も安定的に利益を確保できたかが問われます。米国内ではカレッジフットボール決勝やNFLプレーオフ(ワイルドカード)の一部放映などが1月にあり、広告収入を下支えした可能性があります。一方で、3月のNCAAバスケ「マーチマッドネス」中継権は他局が握っているため、スポーツイベントのボリューム次第で四半期間の増減はありえます。より重要なのはESPN事業の将来戦略に関する示唆です。今回の決算カンファレンスで経営陣が、ESPNのDTCサービス開始時期やパートナーシップについて言及すれば、市場の不透明感が和らぎ株価にプラスとなる可能性があります。例えば「来年秋のESPNストリーミング開始に向け順調」「交渉中の戦略パートナー候補がいる」等の言葉が出れば安心材料となるでしょう。反対に言及がなく先送り感が漂う場合、引き続き*「ESPN部門の将来像が見えない」との理由で評価が割り引かれるリスクがあります。加えて、スポーツ放映権料の高騰によるコスト圧力についてどの程度言及があるかも注目です。NBA新契約などで今後支出増が避けられないため、その負担軽減策(例えば共同出資や配信収益拡大)が示されるか注視しましょう。ESPNはディズニー内でも賛否分かれる事業だけに、その数字と展望は株価のモメンタムに影響を与えやすいポイントです。コスト削減と事業分割の可能性: ディズニーは現在進行形で構造改革を進めており、追加のコスト削減策や事業ポートフォリオ見直しに関する示唆があるかも要チェックです。すでに進めている55億ドル規模のコスト削減について、CFOから「さらなる非効率の洗い出しを継続している」との発言が前回ありました。今回も引き締め効果で利益率が改善していればポジティブですし、追加の削減目標が発表されれば収益底上げ期待から株価の支援材料となり得ます。逆に、コンテンツ予算超過や一時費用増加などで経費が嵩んだ場合、利益見通しの不確実性が嫌気される可能性があります。また事業分割の可能性にも市場は関心を寄せています。例えばESPN部門の切り離しや、放送ネットワーク(ABC等)の売却検討について、経営陣が「選択肢を排除しない」と再度言及すれば、企業価値の分割や再評価につながるとの思惑で株価にプラスに働く場合があります。実際、他社ではコムキャストが一部のケーブルチャンネル分離を準備中と報じられており、ディズニーにもポートフォリオ最適化の圧力が高まっています。もっとも、具体策に踏み込まなかったり慎重な姿勢を示したりすれば、当面は現状維持と受け止められ大きな株価インパクトはないでしょう。コスト構造と事業構成の将来像について、どのようなコメントが出るか注目です。ガイダンス修正と総合的な株価影響: 最後に、通期業績見通し(ガイダンス)の修正があるかも注目ポイントです。前回ディズニーは2025年度の調整後EPS成長率を「一桁台後半」とする指針を示しました。今回の四半期までの進捗次第では、この見通しが上方修正される余地もあります。例えば、ストリーミング部門が計画以上のペースで黒字改善しパークも堅調であれば、経営陣が自信を深め強気のガイダンスを出す可能性があります。そうなれば市場は将来利益予想を引き上げ、株価上昇につながる展開が期待できます。逆に、景気動向やコスト要因から保守的な姿勢を崩さず見通し据え置きまたは慎重なコメントに終始した場合、株価は即座には反応しなくとも上値は重くなるかもしれません。またガイダンスを下方修正するような事態(現時点では考えにくいですが)があれば、ネガティブサプライズとなり株価急落もあり得ます。総合的には、ディズニーは「テーマパークの強さ+ストリーミング黒字化の進展」対「伝統的メディアの構造的逆風」という構図の中にあり、今回決算もその綱引きを反映したものとなるでしょう。個人投資家としては、各セグメントの数値と経営陣のコメントから事業転換が順調か、課題が残るかを見定め、今後の投資判断材料とすることが肝要です。株価はここ1年で持ち直しつつありますが、依然としてコロナ前の水準には届いていません。今回の決算が「魔法の復活劇」の継続を市場に印象付けることができれば、ディズニー株のさらなる上昇も現実味を帯びるでしょう。一方、課題が浮き彫りになれば短期的な調整もあり得ます。いずれにせよ、長期目線では確固たるIP資産と多角的ビジネスモデルを持つディズニーだけに、そのポテンシャルとリスクを冷静に分析し、今後の投資戦略に活かしていきたいところです。

【ウーバー決算みどころ】広告収入10億ドル突破と自動運転展開に注目 収益基盤の強化進む(Uber Technologies)
本記事では、ウーバー(Uber Technologies)の2024年第4四半期決算を振り返り、5月に控える2025年第1四半期決算の見どころを解説します。Uberの2024年第4四半期は売上高が前年比20%増の120億ドルと好調で、モビリティ部門(+25%)とデリバリー部門(+21%)ともに成長を示しました。広告収入は年間10億ドル規模に達し、調整後EBITDAは18億ドルと収益性も改善しています。2025年に入ってからは自動運転分野での提携を強化し、ドバイでの実証実験開始やフォルクスワーゲンとの協業を発表。さらに15億ドルの自社株買いを実施するなど株主還元も開始しています。前回決算(2024年Q4)のハイライト売上高20%増とEPS急伸、税務上の利益計上も寄与Uberの2024年Q4決算は「過去最高の四半期」と称されるほど好調でした。売上高は前年同期比+20%の120億ドルに達し、アナリスト予想(約117.6億ドル)も上回りました。特に一株当たり利益(EPS)は3.21ドルと予想(0.50ドル)を大幅に上回り、前年同期の0.66ドルから約386%もの大幅増となりました。このEPS急伸の背景には、本業の改善に加えて約64億ドルの繰延税金資産の計上(税務上の評価引き上げによる一時利益)があり、この税効果が最終利益を押し上げる要因となりました。結果として四半期の純利益は69億ドルに達しましたが、これは一時要因によるものである点には留意が必要です。モビリティとデリバリー両部門が堅調な成長Uberの主要2部門であるモビリティ(配車サービス)とデリバリー(Uber Eats 等)はいずれも堅調な成長を示しました。モビリティ部門の売上高は前年同期比+25%の69.1億ドルに拡大し、デリバリー部門も+21%の37.7億ドルに増加しました。利用者の外出需要回復や飲食宅配ニーズの定着が背景にあり、予約総額(Gross Bookings)ベースでもモビリティは228億ドル(+18%)、デリバリーは201億ドル(+18%)と、ともに二桁成長を記録しています。特にモビリティはコロナ禍からの需要回復で力強い伸びを見せ、一方デリバリーも成長率こそ落ち着いたものの高い水準を維持しました。旅行需要や外食再開が進む中でもデリバリー利用が堅調である点は、Uberのプラットフォームが生活に定着しつつあることを示唆しています。広告事業の拡大と収益性の改善Uberが近年力を入れる広告事業も著しい成長を示しています。2024年末時点で、Uberの広告収入は年間10億ドル規模のランレート(年間換算売上高)を突破し、前年(約6.5億ドル規模)から大きく拡大しました。実際、2024年Q4のデリバリー部門売上増加の一因として広告収入の伸びが挙げられており、広告ビジネスの拡大が本業の収益性押し上げに寄与し始めています。Uberは配車・宅配のプラットフォーム上でスポンサー掲載やプロモーション枠を販売することで、新たな収益源を開拓しました。調整後EBITDA(利払い・税・償却前利益)は全社で18億ドル(前年同期比+44%)に達し、営業利益も7.7億ドルの黒字となっています。デリバリー部門も調整後EBITDAで7.27億ドルの黒字を計上し、予約総額に対する利益率は3.6%と前年から改善しました。このように両主力部門が黒字化し、フリーキャッシュフローも17億ドルと倍増するなど、Uberの収益基盤は着実に強化されています。決算発表後の株価反応:好決算もガイダンスに市場は慎重好調な決算数値にも関わらず、発表直後の株価反応は一進一退でした。2025年2月の決算発表翌日、Uber株は一時7%超下落し約66ドル台まで売り込まれました。これは今後の成長見通しに対する市場の高い期待が背景にあります。Uber経営陣は2025年Q1の総予約額成長率見通しを+17〜21%(定率為替ベース)と示しましたが、市場では更なる上振れを期待する声もあったため、ガイダンスを保守的と捉えた投資家の利確売りが出た模様です。また、純利益の大幅黒字は税務上の一時要因によるものだったため、コア事業の継続的な利益成長を見極めたいとの慎重姿勢もありました。その後株価は持ち直し、2025年4月末時点で約79ドルと過去最高値(86.34ドル)に迫る水準まで回復しています。市場はUberの成長持続と収益改善に引き続き期待を寄せていると言えるでしょう。前回決算以降の主なニュース動向戦略的パートナー提携と米国外での展開強化前回決算後、Uberは各地で戦略的パートナーシップを進めています。例えば2025年4月、ドバイの道路交通局(RTA)および中国発の自動運転企業WeRideと提携し、ドバイでの自動運転車両サービス実証に乗り出しました。また同月には独フォルクスワーゲン傘下の自動運転部門と提携し、電動自動運転車「ID.Buzz」の車両数千台を今後Uberの米国ネットワークに展開する長期計画も発表されています。自動運転分野での大手企業との連携は、将来のドライバー不足やコスト削減に備えた布石と言えます。さらに、海外市場でのサービス拡充も進んでいます。イタリアでは主要鉄道運行会社Italoと提携を拡大し、乗客が鉄道予約と同時にUberの配車を手配できるサービスを12都市で開始しました。このように各国の現地企業・自治体との協業により、Uberは米国外でもユーザーベース拡大と地域ニーズへの適応を図っています。日本や中東、欧州など規制や競合の壁がある市場でも、タクシー会社との連携や既存インフラとの統合を通じて存在感を高める戦略が取られています。フードデリバリー競争環境:成長鈍化も淘汰と利益志向へフードデリバリー業界はパンデミック急拡大期を経て成長の適温化と競争の整理が進んでいます。米国ではUber Eatsと双璧をなすDoorDashが2024年Q4に売上高25%増の29億ドルを計上し、初のGAAP黒字(純利益1.41億ドル)を達成しました。これは前年同期間の1.54億ドルの赤字からの黒字転換であり、業界全体が成長より利益重視のフェーズに入りつつあることを示します。Uber EatsとDoorDashはいずれも約20%前後の注文増加を維持しており、需要自体は堅調ながら、各社がプロモーション費用抑制や手数料最適化を進めた結果、採算が改善してきました。一方、各地域での競合他社との勢力図も変化しています。欧州ではJust EatやDeliverooとの競争が続きますが、一部市場では統合や撤退も見られ、Uberにシェア拡大の機会が生まれています。例えばアジアでは、インドのZomatoや東南アジアのGrabといった現地企業との競争が激しいものの、市場再編によりUberが再参入・拡大を模索する余地も出ています。総じて、フードデリバリー市場は成長率こそピークを過ぎたものの依然として拡大傾向にあり、その中でUberはサービスの多角化(例:食料品や日用品デリバリー)や定額会員「Uber One」の普及によって競争優位性を高めています。競争環境の変化は中長期的な利益率改善につながる可能性があり、投資家にとっても各社動向のチェックが重要です。広告収入の拡大と株主還元策の始動前述のとおり、Uberの広告事業(Uber Advertising)は著しい成長を遂げています。2025年4月には、ライバル関係にあるInstacart社と意外な提携を発表しました。Instacartの広告プラットフォーム「Carrot Ads」を活用し、Uber Eatsのアプリ内でのスポンサー掲載(「Sponsored Items」と呼ばれる商品広告)のリーチを拡大する狙いです。これにより食品・日用品メーカー(CPG企業)はInstacartとUber両プラットフォームのユーザーに広告展開でき、Uber側は広告主を増やし収入源を強化できます。競合同士が広告で協業する異例の提携ですが、Uberにとってはデータと流通網をテコに収益性の高い広告ビジネスを伸ばす戦略の一環と言えます。また、株主還元策にも動きが見られました。Uberはこれまで成長優先で無配当を貫いており、「2019年のIPO以来一度も配当を出しておらず、現時点でその計画もない」と明言しています。しかし収益基盤の安定化を受け、まずは自社株買いによる還元を開始しました。2024年に総額70億ドルの自社株買い枠を承認し、2025年1月には15億ドルの株式を買い戻す加速型自社株買い(ASR)契約を締結しています。経営陣は「当社株は依然割安と考えており、機動的に自社株を買い増す計画だ」と述べており、株価上昇による株主価値向上に意欲を示しています。配当こそまだ導入されていませんが、自社株買いによる間接的な株主還元と発行株数の希薄化抑制に舵を切った点は、個人投資家にとっても注目すべき変化です。今回(2025年1〜3月期)決算の注目ポイントと株価への影響総取扱高(GMV)の成長動向:需要拡大の持続性をチェック今回発表される2025年Q1決算でまず注目したいのは、プラットフォーム全体の取扱高(GMV, Gross Bookings)の成長率です。会社側はQ1について前年同期比+17〜21%(定率為替ベース)の総予約額成長を見込んでいました。実際の結果がこのレンジ上限を上回るようであれば、需要拡大が想定以上に続いている証拠として投資家心理を大きく改善させるでしょう。特にモビリティ需要は経済活動の正常化で引き続き強く、都市部でのライドシェア利用増や空港送迎需要の伸びがGMVを押し上げている可能性があります。一方でレンジ下限付近に留まった場合でも、前年が20%成長と高いベースだった点を考慮すれば一定の健闘と評価されそうですが、市場予想を下回ると失望売りで株価が短期的に揺らぐリスクは否めません。為替要因による見かけの成長率鈍化(会社想定で約5.5ポイントのマイナス影響)もあるため、現地通貨ベースの実質成長率にも注目です。部門別の収益性:デリバリーの黒字維持とモビリティの稼働率次に部門別の売上・利益動向です。モビリティ(配車)はUberの収益を支える屋台骨であり、前四半期同様に高い営業レバレッジ効果(固定費に対する収益伸長)による利益創出が期待されます。乗車あたりの平均単価上昇や効率改善によって、モビリティ部門の調整後EBITDAマージンは前年同期7.5%から8%前後に上昇しており、今回も二桁近いYoY増益が見込まれます。一方、デリバリー(Uber Eats)部門が黒字を維持できるかも重要ポイントです。前年まで赤字だった同部門は2024年下期から黒字転換を果たしました。今回も引き続き積極的なプロモーション支出を抑え、注文あたり収益を確保できているかが問われます。広告収入の寄与拡大や配達効率の向上が進めば、デリバリー部門の利益率はさらに改善し、全社の収益安定性が高まる材料となるでしょう。逆にデリバリーが再び赤字化するようなことがあれば、「成長のために利益を犠牲にしている」との懸念から株価にマイナスに働く可能性があります。なお小規模ながら貨物輸送(フレイト)部門にも目を配る必要があります。景気減速懸念で物流市況が低迷する中、Uber Freightは前四半期に売上横ばい・若干の赤字でした。もしこの部門で赤字拡大や特別損失(事業再編費用等)の計上があれば、全社EPSの足を引っ張りかねません。もっともUber経営陣は必要に応じて外部資本導入やコスト削減を進める構えであり、投資家としてはフレイト事業の戦略について言及があるかも注視したいところです。EPSの動向:調整後利益の積み上げと黒字定着なるかEPS(一株利益)は、前年同期(2024年Q1)は-0.06ドルの赤字でしたが、今回はプラスに転じる可能性が高いと見られます。前四半期のような巨額の税務上特益はありませんが、本業の利益成長により安定的に黒字を計上できるかが焦点です。市場コンセンサスでは2025年通年EPSが約2.35ドルと前年比+28%成長を予想しており、この達成には四半期ごとに概ね0.50ドル前後のEPSを積み上げる計算になります。したがってQ1で0.40〜0.60ドル程度の調整後EPS(特別要因を除くベース)が実現できれば順調な滑り出しと言えるでしょう。仮に予想を上回るEPSとなれば、コスト効率化やテクノロジー活用による利益率改善が想定以上との評価につながり株価押上げ要因となりえます。一方、営業費用増などでEPSが低調に終わった場合は、一時的に株価が売られる可能性があります。ただし前述の通りUberは現在自社株買いを実施中であり、株価下落局面では会社自身が買い支え要因となることも念頭に置いておきましょう。株主還元と資本効率化の進展:ガイダンス修正にも注目最後に、株主還元策や資本効率の改善策がさらに進展するかにも注目です。Uberは既に発表済みの自社株買い計画(残額約55億ドル規模)を今後も機動的に実行すると示唆しています。Q1決算で余剰資金が順調に積み上がれば、追加の株式買い戻しや将来的な配当検討について前向きなコメントが出る可能性があります。とりわけフリーキャッシュフローが引き続き高水準であれば、資本配分のメリハリ(成長投資と還元の両立)を評価して機関投資家の買いが入ることも考えられます。一方で現時点では配当開始に踏み切る公算は小さいものの、まずは自社株買いによる株主価値向上策がどこまで株数削減・株価上昇に寄与するかがポイントです。また、2025年通期見通しの修正があるかも要チェックです。Uberは2024年通期業績で自身の中期目標を上回った経緯もあり、好調が持続すれば年内にガイダンス引き上げ(例:総予約額成長率や調整後EBITDA目標の上方修正)に踏み切る可能性もあります。特に競合他社が強気な見通しを出す中で、Uberが保守的すぎる姿勢を修正すれば市場の評価は一段と高まるでしょう。反対に、不確実性(景気動向や規制リスクなど)を理由にガイダンス据え置きや慎重なコメントに終始すれば、短期的には失望感から株価が伸び悩むリスクもあります。まとめ:投資判断に活かすポイント2025年Q1決算は、Uberが成長路線と収益性改善を両立できているかを占う重要な指標となります。前回決算で示された力強い売上成長と黒字化トレンドがこの四半期も継続すれば、Uber株は中長期的にさらなる上昇余地を見込めるでしょう。特にモビリティ・デリバリー両翼の成長バランスや、新興の広告事業からの収益寄与、そして株主還元への前向きな姿勢は個人投資家にとってポジティブ材料です。一方で、競合との熾烈な争い やマクロ経済の変化(インフレや景気減速)は依然リスク要因として存在します。決算発表後の株価動向を左右するのは、数字そのものよりもむしろ経営陣の示す将来展望と言えます。成長戦略や収益見通しに自信を示すコメントが出れば株価追い風となりうるため、投資家は決算短信やカンファレンスコールでのメッセージにも注目しましょう。今回の決算情報を総合的に判断材料とし、皆様の今後の投資判断に役立てていただければ幸いです。

【アマゾン決算みどころ】AWS成長率とAI戦略に注目、過去最高益更新なるか(Amazon)
本記事では、アマゾン(Amazon)の2024年第4四半期決算を振り返り、5月1日に控える2025年第1四半期決算の見どころを解説します。アマゾンの2024年第4四半期決算は、売上高1,878億ドル(前年比+10%)、純利益200億ドル(約2倍)と好調でした。AWSクラウド事業は売上高288億ドルで前年比+19%の成長を達成し、広告事業も173億ドルと前年比+18%増と堅調でした。2025年に入り、生成AI機能を搭載した次世代版「Alexa+」を発表し、クラウドインフラとAI関連への大規模投資を継続しています。コスト効率化と成長投資のバランスを取りながら、業績は順調に推移しています。今回決算は、AWSや広告といった高収益エンジンが順調でコスト管理もうまくいっていればポジティブ、一方で成長鈍化や投資増による利益圧迫が見られればネガティブという評価になりそうです。アマゾン株は直近まで大きく上昇してきたため、良い意味でも悪い意味でも市場の期待値が高まっています。その分ハードルも上がっていますが、裏を返せば複数の事業がバランスよく成長している強みが評価されているとも言えます。前回決算(2024年第4四半期)ハイライト売上高と利益が市場予想を上回る: 2024年10-12月期のアマゾン実績は、売上高が1,878億ドル(約28.2兆円)と前年同期比+10%と好調でした。為替の影響を除くと+11%の成長で、年末商戦(ホリデーシーズン)の強い消費需要が貢献しました。また営業利益は前年同期の132億ドルから61%増加し212億ドルに達し、純利益も前年同期の106億ドルから約2倍の200億ドルに急増しました。一株当たり利益(EPS)は$1.86となり、市場予想の$1.49を大きく上回っています。増収増益となった主因は、堅調な売上成長に加え、倉庫・物流網の効率化や人員削減によるコスト圧縮で採算が改善したためです。主要セグメント別の業績: アマゾンは事業を大きく「北米」「国際」「AWS(クラウド)」の3セグメントに分けて開示しています。北米(主に米国のECと関連事業)セグメントは売上1,156億ドル(+10%)と2桁成長し、プライム会員向け配送スピードの向上策やブラックフライデー・サイバーマンデーの販売好調が寄与しました。北米部門の営業利益も93億ドルと前年の65億ドルから約43%増加し、大幅な増益となりました。国際セグメント(北米以外のEC)は売上434億ドル(+8%、為替調整後+9%)で、営業損益は前年同期の▲4億ドルから本四半期は13億ドルの黒字へと改善しています。これはヨーロッパやアジアでEC需要が持ち直したことやコスト見直しの効果によるものです。AWSクラウド事業の成長: クラウドサービスの Amazon Web Services (AWS) は引き続きアマゾン全体の稼ぎ頭です。2024年Q4のAWS売上高は288億ドルと前年同期比+19%の伸びを記録しました。伸び率は前四半期(+19%)と同水準で、市場予想(約289億ドル)にほぼ達しています。AWSの営業利益は106億ドルと前年同期比+48%増加し、営業利益率は36.9%へ拡大しました。この高収益なAWS事業だけで全社営業利益の約5割を稼いでおり、アマゾンの利益成長を力強く牽引しています。AWS成長の背景には、企業のデジタルトランスフォーメーション需要やAI関連サービスの導入拡大があり、2024年Q4には自社開発のAI用半導体「Trainium2」の提供開始も成長を後押ししました。広告・その他事業の動向: アマゾンの広告事業も主要な成長セグメントです。同社サイトやFireタブレット、Twitchなどで展開する広告サービス収入は2024年Q4に173億ドルと前年同期比+18%増加し、四半期として過去最高水準に達しました。増収率は昨年同時期(+26%)からは鈍化したものの、依然として20%近い高成長を維持しています。アマゾンの広告売上はここ4年間で倍以上に拡大したとされ、GoogleやFacebookに次ぐデジタル広告プラットフォームとして地位を確立しています。また、物流部門やサブスクリプション(プライム会費など)も着実に成長しました。特に物流面ではサプライチェーン最適化や倉庫の自動化投資が奏功し、1個あたり配送コストの削減や翌日配送比率の向上につながっています。コスト効率の改善と株価反応: 前年から続く構造改革の成果で、アマゾンは大幅なコスト効率化を達成しました。2023年には全社で約27,000人の人員削減(主に本社部門)を断行し、組織のスリム化によって年間数十億ドル規模のコスト削減効果を見込んでいます。その結果、2024年Q4の営業費用の増加率は+5.7%に抑えられ、売上+10%を下回りました。これが前述の営業利益急増に直結しています。決算発表直後の株式市場の反応はやや波乱含みでした。時間外取引で株価は一時▲5%下落し、時価総額900億ドルが吹き飛ぶ場面もありました。主な要因はクラウド事業の伸び悩み懸念と、発表された2025年Q1ガイダンス(見通し)が市場予想を下回ったことです。ただしその後株価は持ち直し基調となり、2025年4月上旬には年初来で+20%以上上昇し2年半ぶりの高値水準を更新しています(市場全体のハイテク株上昇の追い風もあり)。個人投資家にとっては、このような決算直後の変動に惑わされず、長期的な成長ドライバーに注目する姿勢が重要と言えます。前回決算以降の主なニュース動向生成AI関連の戦略発表: 2025年に入り、アマゾンは生成AI(Generative AI)分野でいくつかの大きな動きを見せました。2月末には10年ぶりとなる音声アシスタント「Alexa(アレクサ)」の大型アップデートを発表し、次世代版「Alexa+(アレクサ・プラス)」を公開しました。新しいAlexa+は生成AIを活用した高度な会話能力を備え、従来のような一問一答形式でなく自然な対話の流れでユーザーの意図を汲み取り、コンサートやレストラン予約、メール送信など複雑なタスクを音声だけで処理できます。この刷新は当初計画より1年遅れとなりましたが、競合のChatGPTやGoogleアシスタントに対抗し、「AI時代における家庭内アシスタントの再定義」を目指すアマゾンの意気込みがうかがえます。またクラウド面でも、AWSは自社開発の大規模言語モデル(LLM)「Amazon Nova」シリーズを投入し、外部パートナーのAIモデル(例:Anthropic社のClaudeなど)も統合する生成AIプラットフォームを強化しています。こうした取り組みにより、アマゾンはクラウド顧客に対しAIソリューションを包括的に提供し、マイクロソフトやグーグルとのクラウドAI競争で後れを取らないよう努めています。AWSクラウドの成長と競争環境: 前述の通りAWSの直近成長率は+19%と堅調でしたが、クラウド業界全体では成長鈍化傾向がみられます。マイクロソフトのAzureやグーグルクラウドも2024年後半に伸び率が低下しており、企業のクラウド支出が一巡したことやコスト最適化の動きが背景にあります。アマゾン経営陣は決算説明で「需要に対し供給側の制約が成長を幾分抑制している」と述べ、特に高度なAI処理に必要な半導体チップやデータセンター電力の供給が追いつかず、もし供給制約がなければより高成長も可能だったとの認識を示しました。実際、AWSは需要増に対応するため2024年下期から2025年にかけて過去最大規模の設備投資を計画しています。この巨額投資には新規データセンター建設やAIチップ増産が含まれ、CEOのアンディ・ジャシー氏は「AIはインターネット以来の大きな機会」であり、中長期での成長拡大に向けた前向きな投資と強調しています。一方で競争も激化しており、例えば中国では低コストのAIクラウドを掲げる新興企業の台頭も報じられています。AWSが今後もクラウド首位の座を維持するには、高性能かつコスト効率の良いサービスを提供し続けることが不可欠です。広告事業の拡大と戦略: アマゾンの広告ビジネスは、前回決算で示されたように年率+18%と順調に拡大しています。特に動画ストリーミング「プライム・ビデオ」への広告導入は大きな話題となりました。アマゾンは2024年から米国や欧州でプライム会員向け動画に広告を挿入し始め、そして日本でも2025年4月よりプライム・ビデオに広告付きプランを導入しました(従来会費に月数百円を追加すれば広告無し視聴も可能)。この施策は動画配信サービス全体の潮流であり、自社オリジナル作品などコンテンツ投資を続けるための収益源確保が目的です。広告主にとっても、アマゾンの豊富な購買データに基づくターゲティング広告や、音声AIアシスタント(Alexa経由の広告など新形態含む)は魅力的であり、今後も広告事業はグーグルやメタ(旧Facebook)に次ぐ第3のデジタル広告巨頭として成長が期待されています。コスト管理と投資戦略のバランス: 2023年に大規模リストラを実施したアマゾンは、2024年以降も継続して経費構造の見直しを図っています。直近では2025年1月にもコーポレート部門で若干の追加レイオフが行われました。同社は「組織の階層をフラット化し、迅速な意思決定を妨げるポジションを整理した」と説明しており、肥大化した本社機能をスリムに保つ姿勢を示しています。一方で将来の成長分野への投資は惜しまない方針です。特にリソースを投入しているのがクラウドインフラとAI関連で、前述のように2024年第4四半期の設備投資額は263億ドルにも上りました。CFOのブライアン・オルサブスキー氏によれば「今後もこのペースの高水準投資を続ける見通し」とのことで、最新技術への積極投資により競争優位を維持する戦略です。キャッシュフロー面では、2024年の営業キャッシュフローは前年から+82%増の849億ドルと潤沢で、フリーキャッシュフローも大幅黒字に転換しています。このため財務的な投資余力は十分にあり、AI・物流・デバイスなど複数の分野で「次の成長のタネ」を蒔きつつあります。株主還元と株価動向: アマゾンは伝統的に利益を事業再投資に充てて成長を優先してきた企業で、配当は無配、株主還元(自社株買い)も同業他社と比べ控えめです。2022年に100億ドル規模の自社株買い枠を設定しましたが、2023年までの買い戻し実績は60億ドル程度に留まっており、過去4四半期でも発行済株式数は1%弱しか減っていません(※社員へのストックオプションによる希薄化をほぼ相殺する水準)。しかし足元でキャッシュ創出力が急向上したことから、一部では「そろそろ株主還元を拡充すべき」との声も出始めています。実際2024年末時点で手元現金は約1000億ドルに達しており、負債を除いたネットキャッシュも潤沢です。もっとも、経営陣は依然としてAIや物流網への大型投資に前向きで、短期的に配当開始や大規模買戻しを行う可能性は低いと見られます。そのため株主還元よりも株価自体の上昇によるリターン(キャピタルゲイン)が当面の投資妙味となるでしょう。昨年から今年にかけてアマゾン株は力強く反発しており、2023年の低迷からV字回復しました。個人投資家としては、業績動向と併せて株価トレンドにも目を配りつつ、押し目があれば中長期の視点で投資判断するスタンスが求められます。今回(2025年Q1)決算での注目ポイントと株価への影響クラウドAWSの成長率と収益性: 最大の注目はやはりAWS事業の動向です。市場では「AWS成長率は底打ちしたのか」が関心事となっています。前年(2024年)前半に一時10%台前半まで減速したAWS成長率は、後半に18~19%まで持ち直しました。今回発表の2025年Q1でも引き続き15~20%程度の前年同期比成長を維持できるかがポイントです。もっとも前回決算時に示されたQ1の会社売上ガイダンスは全社で+6~8%増程度と保守的で、これを踏まえるとAWSも若干鈍化する可能性があります。供給制約(チップ不足など)の影響がどの程度続いているか、決算説明での経営陣コメントも重要です。AWSの営業利益率(直近36.9%)が今期も高水準を保てるかもチェックしましょう。旺盛な設備投資によって減価償却費や運用コストが増えれば短期的に利益率は圧迫される懸念がありますが、前四半期同様にコスト増を売上拡大が上回れば高収益性を維持できます。もしAWS成長が再減速したり利益率低下が見られれば、発表直後に株価下落要因となり得ます。一方で予想以上の成長加速やポジティブな見通しが示されれば、株価押上げの原動力となるでしょう。広告収入の伸びと収益源の多様化: 第2の注目点は広告事業の動向です。前述のようにアマゾンの広告売上は四半期170億ドル規模に達しており、同社にとってAWSに次ぐ利益柱です。特に1-3月期は他の四半期と比べホリデー要因がなく広告売上が落ち込みやすい傾向がありますが、それでも前年同期比で二桁成長を維持できるかがポイントです。競合のグーグルやメタもデジタル広告市場で持ち直しを見せている中、アマゾン広告が引き続きシェア拡大できていれば、収益源の多様化という観点で投資家の安心材料となります。またプライム・ビデオへの広告導入効果や、生成AIを活用した広告クリエイティブ自動生成ツール(出品者が商品の広告画像や動画をAIで簡単に作成できるサービスなど)の普及状況にも注目です。広告事業は利益率が高く、売上1ドルの増加がそのまま利益寄与しやすいため、今期も順調なら全社の営業利益を底支えするでしょう。コアEC部門の成長率とコスト最適化: アマゾンの原点であるオンライン小売(EC)部門も引き続き注視すべきです。米国を中心とした個人消費はインフレや景気動向の影響を受けやすく、2025年初にはやや減速懸念も取り沙汰されています。その中でアマゾンの商品売上(自社販売+マーケットプレイス手数料)が前年同期からどの程度伸びたか、見極めが必要です。前回Q4は北米+10%、国際+8%でしたが、1-3月期は季節的な低調期であるため一桁前半~中盤の成長にとどまる可能性があります。プライム会員数やその購買頻度、サブスクリプション収入(プライム年会費、Audibleなど)の伸びも参考情報です。またEC部門の収益性改善にも注目しましょう。これまで赤字だった国際セグメントが直近黒字化したように、巨大な物流ネットワークの効率化や在庫管理の高度化(データ分析による適正在庫配置)、配送の自動化などが奏功すれば、低マージンと言われたEC事業が着実に利益を生む体質へ変わりつつある可能性があります。もし今回の決算でもEC部門の利益率改善が確認できれば、中長期でアマゾンの収益ポテンシャルを押し上げる好材料となります。生成AIサービスの進捗とガイダンス修正: 決算発表では、今後の戦略や見通しについて経営陣が語る「ガイダンス」も重要です。特にAI関連では、先述のAlexa+の提供開始スケジュールやユーザー反応、AWSにおける生成AIサービス(Amazon Bedrock経由での各種AIモデル提供)の顧客利用状況などについてアップデートがあるか注目されています。AIは短期的な収益貢献よりも将来への投資色が強い分野ですが、アマゾンが具体的な成果(例:大口顧客の導入事例やサービス利用数の拡大)を示せれば投資家心理の改善につながります。また2025年Q2の会社側見通し(売上高レンジや営業利益レンジ)が上方修正されるかもポイントです。前回発表時点では2025年Q1見通しが市場予想を下回り失望を招いただけに、今回のガイダンスが保守的すぎないかどうかマーケットは敏感に反応するでしょう。仮にガイダンスが強気に修正されれば、年後半に向けた成長加速への自信と受け取られ株価の追い風となり得ます。逆に引き続き慎重な見通しの場合、一時的に売り材料となる可能性もあります。株価への総合的なインパクト: 上記の各ポイントの結果如何によって、決算後の株価は上下に振れやすい状況です。総じて、AWSや広告といった高収益エンジンが順調でコスト管理もうまくいっていればポジティブ、一方で成長鈍化や投資増による利益圧迫が見られればネガティブという評価になりそうです。アマゾン株は直近まで大きく上昇してきたため、良い意味でも悪い意味でも市場の期待値が高まっています。その分ハードルも上がっていますが、裏を返せば複数の事業がバランスよく成長している強みが評価されているとも言えます。個人投資家としては、決算発表の数字と経営陣コメントを丹念に分析し、短期的な株価変動に一喜一憂するのではなく、クラウド・広告・EC・AIという複数の成長エンジンを持つアマゾンの中長期的な企業価値を見極めることが肝要でしょう。今回の決算は、そうした判断材料を提供してくれる重要なイベントとなりそうです。

【アップル決算みどころ】iPhone 16eとサービス成長で中国減速をカバーできるか(Apple)
本記事では、アップル(Apple)の2024年第4四半期決算を振り返り、5月1日に控える2025年第1四半期決算の見どころを解説します。アップルの2025年第1四半期(2024年10-12月期)決算は、売上高1,243億ドル(前年比+4%)、EPS2.40ドル(同+10%)と過去最高を記録しました。地域別では米国+4%、欧州+11%と好調な一方、中国は-11%と苦戦しています。新製品のVision Proは販売不振で生産縮小の可能性があり、生成AI機能の開発も遅れが生じています。一方で、iPhone 16eの投入により世界スマホ市場シェアで首位を獲得し、サービス部門は過去最高の263億ドルの売上を記録するなど、明暗が分かれる結果となりました。今回の決算は「減速する中国をその他地域やサービス収入で補えるか」がテーマといえます。iPhone販売台数やサービス収入の着実な伸びが確認できれば、アップルは逆風下でも成長持続可能との評価から株価にプラスです。一方、中国需要悪化やAI対応の遅れが響いて弱い決算となれば、一時的に株価が調整するリスクもあります。ただアップルは豊富なキャッシュを背景に積極的な株主還元と長期視点の事業投資を続けており、中長期の企業価値は底堅いと見る向きも多いです。2025年第1四半期(10~12月期)決算ハイライト2025会計年度第1四半期(2024年10~12月期)のアップルの業績は、売上高1,243億ドル(前年同期比+4%)と過去最高を記録し、希薄化後EPS(一株当たり利益)は2.40ドル(前年同期比+10%)となりました。地域別に見ると、米国+4%、欧州+11%、中国は-11%と地域間で明暗が分かれました。特に日本は+15%と大きく伸びており、2年連続の増収となっています。製品別では、iPhone売上高が前年同期比0.8%減とわずかに減少したものの、Macは+15%増、iPadも+15%増とパソコン・タブレットが好調でした。サービス部門(App Storeやサブスクリプションなど)は過去最高の263億ドルの売上を計上し前年比+13%増と引き続き高い成長を示し、ウェアラブル・ホーム・アクセサリ部門(Apple WatchやAirPods等)は-2%減とやや減速しました。純利益は363億ドルと前年を上回り、同四半期として過去最高水準です。こうした堅調な決算を受け、株価は決算発表後に上昇しました。発表当日(米国時間1月30日)終値は前日比0.74%安でしたが、時間外取引では+3.26%高の245.34ドルまで買われています。市場予想を上回る収益と、為替の影響を除けば堅調な次期売上見通しが評価されたためです。アップルは第1四半期に約300億ドル(約4兆円超)もの資金を自社株買いと配当の形で株主に還元しており、取締役会は四半期配当(1株0.25ドル)の支払いも決議しました。潤沢なキャッシュフローを背景にした株主還元策は株価下支え要因となっています。前回決算以降の主なニュースと動向Vision Proの販売状況: 2024年2月に米国で発売されたアップルの高価格帯MR(複合現実)ヘッドセット「Apple Vision Pro」は販売が伸び悩んでいます。報道によれば、アップルは需要低迷を受けて現行モデルの生産を大幅縮小し、2024年末までに一時生産停止の可能性もあるとのことです。実際、発売直後の四半期(2024年2~3月)に10万台も売れず、その後も需要減速から生産台数をピーク時の半分程度に抑制している模様です。アップルは第2世代Vision Proの開発を少なくとも1年延期し、まず低価格モデルの開発に注力する方針とも報じられています。超高額(米国で3,499ドル、日本では約50万円)の初代モデルでは市場拡大が難しく、価格引き下げと「キラーアプリ」の出現による普及拡大を狙う戦略と考えられます。現時点でVision Proの売上への貢献はごく僅かで、ウェアラブル部門全体の売上も前年割れとなっていることから、投資家は今後の販売動向と収益寄与を引き続き注視する必要があります。生成AI機能(Apple Intelligence)の開発動向: アップルはiPhoneやMac向けに独自の生成AI機能群「Apple Intelligence」の提供を進めていますが、その展開は計画より遅れています。2024年秋のiOS 18リリース時に一部機能を提供開始したものの、目玉であるSiriの高度な生成AIアップデートの開発が難航しています。アップルは2024年6月のWWDCで発表したSiriのAI強化機能の提供時期が当初予定(2025年4月頃)より遅れ、2026年初頭までずれ込む可能性を認めました。実際、2025年3月7日に広報を通じ「当社が考えていたよりもこれらの機能の提供に時間がかかる」と声明を出し、事実上の大幅延期を発表しています。このニュースを受けて株価は3月中旬に急落し、アップルのAI戦略への投資家懸念が高まりました。競合のGoogleやAmazonが音声アシスタントに生成AIを相次ぎ統合する中、アップルの出遅れは将来のiPhone買い替え需要に影響しかねないと指摘されています。もっともアップルはプライバシー重視からデバイス上で動作する省電力AIに注力しており、完成度を高めた上で順次機能拡張する方針です。個人投資家としては、秋発売の次期iPhoneに間に合う形でどこまでAI機能強化が進むか注目したいところです。iPhone販売と主要市場の需要動向: 前述のとおり、直近四半期(2024年末)のiPhone売上は前年比微減となりましたが、地域別の動向に特徴が出ています。中国市場ではiPhoneが不振で、第1四半期(10-12月)の売上高は前年同期比11%減少しました。背景には、中国本土でアップルの生成AI機能(Apple IntelligenceやChatGPT)が規制により利用できず魅力が削がれていることや、景気減速による消費低迷があるとアップル経営陣は分析しています。実際、調査会社Counterpointによると2024年Q4の中国におけるAppleスマホ販売台数は前年同期比18.2%減と大きく落ち込み、同年通期の中国スマホ市場シェアでもAppleは首位から4位に転落しました。一方、米国や欧州では年末商戦期の需要が堅調で売上横ばいを維持し、日本や新興国での需要は強い伸びを見せています。特に注目すべきはインド市場で、アップルは2023年に同国で初の直営店をオープンし販売体制を強化するとともに、製造面でもインド生産を拡大しています。直近1年間でインドでのiPhone生産量を60%増やし、世界出荷台数の20%がインド製となったことが報じられており、地政学リスク分散と現地需要取り込みに努めています。インドでのアップルのスマホシェアはまだ約8%程度ですが、2024会計年度の売上は約80億ドルに達しており今後も二桁成長が見込まれています。こうした新興国市場でのシェア拡大は、既に成熟した米欧中市場に代わる中長期成長シナリオとして重要です。さらに2025年2月末には新型の「iPhone 16e」を投入しました。これは現行のiPhone16シリーズの廉価版モデルで、価格を抑えつつ最新機能(Apple Intelligenceなど)を搭載した製品です。低価格帯の16e投入は新規需要を喚起し、日本やインドでの販売増に奏功したと伝えられています。調査会社のデータでは、2025年第1四半期(暦年、1~3月期)の世界スマホ市場シェアでアップルが19%を占め、サムスンを抑えて首位となりました。欧米や中国の販売が苦戦する中でも、iPhone 16eの寄与と日本・インドの堅調な需要が世界シェア首位奪還の原動力となっています。このように前回決算後、地域間で明暗を分けるiPhone需要動向が鮮明になりました。中国市場の減速を他地域での伸びと新製品投入でどこまでカバーできるかが、今後の業績を左右するポイントです。規制リスクと株主還元策: マクロ環境や規制面のニュースも見逃せません。米国と中国の間の貿易摩擦は2025年に入って激化し、米国政府が中国からの輸入品に最大150%の関税を課す可能性が取り沙汰されました。アップル株はこの報道を受け4月初旬に一時25%以上急落する場面がありました。その後、スマートフォンなど一部製品は関税適用除外となる見通しが伝わり株価は持ち直しましたが、依然として中国生産への依存や中国販売減速に対する地政学リスクは株価の重石となっています。また欧州ではデジタル市場法(DMA)の施行により、アップルはEU圏内でiPhoneへのサードパーティ製アプリストア解禁やアプリ内決済手段の開放を余儀なくされています。これは中長期的にApp Store手数料収入(サービス部門)に影響を及ぼす可能性があり、アップルは慎重に対応を進めています。こうした規制リスクの一方で、株主還元策は引き続き強化されています。アップルは12年連続で四半期配当を増配しており、前述の自社株買いも継続中です。昨年同時期(2024年Q2)には追加で1,100億ドル(約17兆円)もの自社株買い枠を承認し、四半期ベースで過去最高額の買い戻しを実施しました。これほどの巨額買い戻しは自社株への信頼の表れであり、1株当たり利益の押し上げ効果もあります。個人投資家にとっては、規制環境の変化による向かい風と、手元資金を活用した株主還元による追い風の両方を考慮することが重要です。今回発表(2025年第2四半期、1~3月期)決算の注目ポイントと株価への影響5月上旬に公表予定の2025年第2四半期決算(1~3月期)では、上述の動向を踏まえいくつかの重要ポイントが予想されます。それぞれが株価に与えるインパクトを整理しましょう。iPhone売上の回復または減速: 最大の注目点はiPhone部門の売上動向です。前年の2024年1~3月期は中国での販売低迷などからiPhone売上が減少(前年同期比 -X%)しており、今回はその反動による増収が期待されています(注: 2024年Q2はiPhone含む主力製品が軒並み減収でした)。特に今年は2月末に発売した「iPhone 16e」の販売寄与が約1か月分含まれるため、中価格帯需要の取り込みでiPhone全体を下支えした可能性があります。実際、前述の通り1-3月期の世界シェアでアップルは首位となっており、数量ベースでは健闘したとみられます。もっとも中国市場の需要回復は不透明で、引き続き前年比マイナスが続くリスクも残ります。iPhone売上が市場予想を上回る増収となればポジティブサプライズとなり株価上昇要因ですが、逆に回復が鈍く横這い~減収に留まる場合は失望売りを招きかねません。決算発表では地域別のiPhone販売動向や、新興国での伸長が中国減速をカバーできたか注視しましょう。サービス部門の成長継続: サブスクリプション収入やApp Storeを含むサービス部門は、第1四半期に過去最高売上を記録するなどアップルの稼ぎ頭となっています。第2四半期も前年比二桁増の堅調成長が続くかが重要ポイントです。足元ではApp Store規制緩和の動きもありますが、本決算への直接的な影響は限定的でしょう。むしろApple MusicやiCloud、有料保証AppleCare+の契約増加や値上げ効果で引き続き高い利益率の収入増が期待されます。サービス部門は粗利率が製品より高いため、売上成長が確認できれば利益面でプラス材料となります。仮に成長減速が見られると将来の収益予想に影響するため、有料サブスクリプション数の増減や地域別サービス売上にも注目です。サービス収入拡大が順調なら、アップルのエコシステム強化による安定収益源として評価され株価支援要因となるでしょう。中国市場の販売状況: 中国売上が前四半期(10-12月)に続き減少するか、あるいは春節需要などで持ち直すかも株価のカギを握ります。昨年末時点で中国売上は約185億ドルと全体の15%超を占めており、この巨大市場のトレンド変化はインパクトが大きいです。中国政府による消費刺激策や、ライバル華為技術(ファーウェイ)の勢いなど外部要因も絡みます。アップルは4月以降、生成AI機能の多言語展開により中国以外の地域で需要拡大を図ると述べていますが、肝心の中国本土でApple Intelligenceが使えない状況が続く限り販売回復は限定的かもしれません。もし中国売上が前年同期比で再び二桁減となればネガティブ材料ですが、一方で「底打ち」して減少幅縮小や横這いとなれば安心感から株価にはプラスでしょう。投資家は決算カンファレンスでのティム・クックCEOの中国市場に関するコメントにも耳を傾ける必要があります。Apple Vision Proの収益貢献: 2024年2月に米国発売となったVision Proの売上寄与が初めて今四半期に表れる見込みです。ただし前述の通り販売台数はごく少数に留まっているため、四半期売上(908億ドル※前年同期)に占める割合は数十億円程度とごく僅かと推測されます。それでも「Wearables, Home and Accessories」セグメントにおいて前年同期比の増減要因として触れられる可能性があります。むしろ重要なのは、アップルが決算説明でVision Proについて今後の販売国拡大や開発計画に何らかのアップデートを示すかどうかです。6月末には日本や欧州での発売も予定されており、その準備状況や初期ユーザーの反応などが語られれば、今後の収益モデルを占う手がかりとなります。仮に需要が想定以上に低迷し続ける場合、在庫や関連費用が業績圧迫要因となりかねず注意が必要です。投資判断としては現時点でVision Proに過度な期待を織り込むのは禁物ですが、長期的なプラットフォーム戦略として注視する価値はあります。ガイダンス修正の有無: アップルはパンデミック以降、正式な数値ガイダンスの提供を控えていますが、決算時に次四半期の売上トレンドについて定性的な見通しを示すことがあります。前回決算では「2025年1-3月期の売上高は為替影響を除けば中〜低シングル(一桁)台の成長」との見込みが示唆されました。今回その見通しに変化があるかどうか、例えば最近の関税問題や中国情勢を受けて保守的に下方修正するのか、あるいは新興国の好調や為替追い風で強気のトーンを維持するのかがポイントです。仮に経営陣が先行きに慎重姿勢を強めれば、将来成長への不安から株価は上値が重くなる可能性があります。逆に「業績は堅調に推移している」「需要は予想通り」といった自信を示せば、市場心理の改善につながるでしょう。特に今年後半にはiPhone新モデルや廉価版Vision Proの噂もあり、中長期見通しについて言及があるか注目です。加えて、例年この時期には新たな自社株買い枠の発表がなされる傾向があります。前述のように昨年は追加1100億ドル規模の買い戻しを決定しており、今回も巨額の資本還元策が示されれば株価の下支え要因となるでしょう。以上のポイントを総合すると、今回の決算は「減速する中国をその他地域やサービス収入で補えるか」がテーマといえます。iPhone販売台数やサービス収入の着実な伸びが確認できれば、アップルは逆風下でも成長持続可能との評価から株価にプラスです。一方、中国需要悪化やAI対応の遅れが響いて弱い決算となれば、一時的に株価が調整するリスクもあります。ただアップルは豊富なキャッシュを背景に積極的な株主還元と長期視点の事業投資を続けており、中長期の企業価値は底堅いと見る向きも多いです。個人投資家としては、決算数字そのものだけでなく経営陣のコメントや市場環境の変化に注意を払い、目先の株価変動に惑わされず長期的な視点でアップルの戦略と成長余地を評価することが肝要でしょう。

【マイクロソフト決算みどころ】Azureの成長率とAI投資効果が焦点(Microsoft)
本記事では、マイクロソフト(Microsoft)の2024年第4四半期決算を振り返り、4月30日に控える2025年第1四半期決算の見どころを解説します。マイクロソフトの2024年第4四半期決算は、売上高が前年比+12%の696億ドル、EPS3.23ドルと好調でした。Azure売上は前年比31%増で、特にAI関連需要が伸びを牽引しました。生成AI「Copilot」の利用は急拡大し、AI関連ビジネス全体で年間130億ドル規模に達しています。2025年に向けて約800億ドルのデータセンター投資を計画し、OpenAIとは2030年までの新提携契約を締結して競争力を維持する戦略です。マイクロソフトは通常、四半期ごとに売上高などの見通しレンジを提示しますが、今回そのレンジが上方修正されるかどうかが焦点です。もし経営陣が「予想以上に需要が強い」として将来ガイダンスを引き上げれば、市場は業績加速のシグナルと受け取り株価上昇要因となるでしょう。特にAzureやAI関連収入の強気見通しが示されれば評価は高まります。反対に、慎重な見通しや弱気なトーンが出れば、短期的に失望売りを招くリスクがあります。前回はAzure成長見通しがやや保守的だったため株価下落につながりました。今回はその反省も踏まえ、どの程度楽観度合いを調整してくるか注目です。前回決算(2024年第4四半期)ハイライト2024年第4四半期(10-12月)のマイクロソフト決算は、売上高・利益が堅調な成長を示しました。売上高は前年同期比+12%の696億ドルと市場予想を上回り、純利益は1株当たり3.23ドル(前年比+10%)を計上しています。主要事業セグメントの業績も概ね好調でした。インテリジェントクラウド部門(Azureなど): クラウドプラットフォーム「Azure(アジュール)」の売上は前年同期比31%増と高い伸びを維持しました。特に生成AI関連のクラウド需要が急増しており、この四半期のAzure成長率31%のうち13ポイントはAIサービス(大規模AIモデルの利用)によるものです。クラウド全体の収益は409億ドル(+21%)に達し、マイクロソフト全社の売上を牽引しています。プロダクティビティ&ビジネスプロセス部門(Officeなど): 「Microsoft 365(旧Office)」「Dynamics 365」やLinkedInなどを含むこの部門も前年同期比+14%と堅調でした。企業向けMicrosoft 365クラウド売上が+16%と引き続き2桁成長し、個人向けMicrosoft 365も加入者数増加で+8%伸びています。これは在宅勤務やデジタルトランスフォーメーション需要に支えられたものです。モアパーソナルコンピューティング部門(Windowsやデバイスなど): 個人向け製品部門の売上は147億ドルで横ばいでした。内訳を見るとWindows OEM(PCメーカー向けライセンス)売上は+4%と微増し、市場のPC需要低迷から持ち直しつつあります。一方、Surfaceなどデバイス売上は減少しましたがXboxコンテンツサービスは+2%と小幅増、また検索広告(Bingなど)は+21%と好調でした。検索広告の伸びには、AI搭載検索機能(Bing Chatなど)の強化が寄与した可能性があります。生成AI「Copilot(コパイロット)」の拡大状況: 決算説明会でサティア・ナデラCEOは、生成AIを活用した新サービス群「Copilot」の利用が急速に拡大していると強調しました。マイクロソフトのAI関連ビジネス全体は年換算130億ドル規模に達し、前年比+175%という爆発的な成長を示しています。例えばGitHub Copilot(プログラミング支援AI)は企業利用が前年の3倍近くに増え、年間20億ドル規模の収益ペースに到達しました。また2023年後半に提供開始したMicrosoft 365 Copilot(オフィスAIアシスタント)は、企業ユーザーの日次利用者数が四半期で2倍に増加するなど過去のMicrosoft 365製品の中でも最速の広がりを見せています。Copilot導入企業の多くが追加ライセンスを継続購入していることも明らかになり、生成AIが既存製品の付加価値向上と収益拡大に貢献し始めていることが示唆されました。株価の反応: 前回決算発表直後のマーケットの反応はややネガティブでした。好調な売上・利益にもかかわらず、Azure成長率の先行きに慎重な見通しが示されたことや、巨額のAI投資負担への懸念から、発表翌日の株価は一時約4.5%下落しました。特にクラウド事業の成長鈍化(Azureの成長率が市場予想を下回ったこと)や、次四半期のAzure売上成長見通しが31~32%と期待より低めに示された点が失望を誘いました。また、「AIブーム」に沸くテック業界全体でデータセンター投資競争が激化し、中国企業による低コストのAIモデル参入も報じられたことから、将来的な価格競争(クラウドAIサービスの値下げ競争)への警戒感も広がりました。こうした理由で短期的には株価が調整しましたが、それでも決算後の株価水準は前年同期比でなお上昇基調にあり、長期的なAI成長期待から投資家の信頼は維持されています。前回決算以降の主なニュースとトレンド2025年初頭から決算発表までの間、マイクロソフトを取り巻く状況では生成AIサービスの展開加速とパートナー戦略・設備投資に関する重要なニュースが相次ぎました。生成AIサービスの進展とOpenAIとの提携動向前回決算後もマイクロソフトは生成AI搭載サービスの拡充を積極的に進めています。Windows 11への「Windows Copilot」統合や、Dynamics 365向けのAI支援機能、新たなBing Chatの機能強化など、個人から企業まで幅広い製品にAIを組み込む戦略が継続しました。企業のIT担当者の関心も高く、ある調査では95%のCIOが今後12か月でマイクロソフトの生成AI製品を採用すると回答しており、この割合は1年前の63%から大きく上昇しています。生成AIは一過性のブームではなく、企業ITに本格浸透する段階に入りつつあると言えるでしょう。こうした中、ChatGPT開発元のOpenAIとの提携関係にも新たな動きがありました。2024年末にはOpenAIの経営体制を巡る騒動がありつつも、マイクロソフトは引き続きOpenAIの主要パートナーとして協業を深化させています。2025年初め、マイクロソフトとOpenAIは2030年までの新たな提携契約を結び直し、OpenAIがマイクロソフト以外のクラウドも一部活用できる柔軟性を持たせる一方で、マイクロソフトは優先交渉権を保持する内容となりました。この契約により、マイクロソフトはOpenAIの先端AI技術(GPT系モデルなど)の独占的な商用利用権を引き続き得ると同時に、OpenAIが他社クラウドを追加利用する場合でもマイクロソフトが最優先で提供機会を得る権利(ROFR)が確保されています。実際、OpenAIはオラクル(Oracle)との間で新たなデータセンター利用契約を締結しましたが、OpenAIの商用モデル提供の大部分は今後もマイクロソフトAzure上でホスティングされる見通しです。つまり競合他社とも協力しつつ、マイクロソフトはOpenAIとの強固なパートナーシップと技術優位性を維持する戦略です。この提携再構築により、マイクロソフトのCopilot各種サービスにはOpenAIの最先端モデルを引き続き優先的かつ独占的に組み込めるため、同社のAIサービス競争力は今後も高い水準に保たれるでしょう。クラウド/AIインフラへの巨額投資と株主還元方針生成AI需要の急拡大に対応するため、マイクロソフトはクラウドインフラへの設備投資を大幅に増強しています。その規模は驚くべきものです。2025会計年度(2024年7月~2025年6月)に約800億ドル(約11兆円)をデータセンター増強に投じる計画であることを、ブラッド・スミス副会長が明らかにしました。この800億ドルのうち半分以上は米国内の施設拡充に充てられる予定で、残りも欧州やアジアなど世界各地のクラウド拠点強化に投資されます。実際、2024年10-12月期までにAI需要が既存設備の限界に達したため、同社は2025年初めまでに約20億ドルの追加投資を実行しデータセンター建設を加速しました。この四半期の設備投資額は前年同期の2倍近い226億ドルに達し、市場予想(約209億ドル)を上回るペースで資本投入しています。さらに今後も「需要に応じて四半期ごとに継続的な増強を行う」と最高財務責任者(CFO)のエイミー・フッド氏は述べており、少なくとも2025年中は大規模投資が続く見通しです。巨額投資により短期的な減価償却負担やフリーキャッシュフローへの影響が懸念されるものの、経営陣は中長期的視点で利益率向上に繋がると強調します。実際、クラウドとAIのインフラは共通のアーキテクチャ上に構築されており、AI用途向けに先行投資しても規模の経済が働くことで長期的な収益性向上(オペレーティングレバレッジの確保)が可能としています。フッドCFOは「クラウド需要とAI需要の両方を一体的に捉え、需要動向に応じて柔軟にコスト構造を調整する」方針を語っており、目先の利益率に過度に囚われず将来の成長機会に備える姿勢です。また、社内ではコスト削減のためAIモデルの効率化(演算最適化による処理コスト低減)や自社開発AIチップの活用なども進めており、ナデラCEOは「最新モデルでコスト性能が10倍改善した」と述べるなど、投資効率向上にも取り組んでいます。膨大な投資額には驚きもありますが、これは生成AI時代の「設備競争」に勝つための先行投資と言え、マイクロソフトがクラウド/AI基盤で主導権を握り続けるための布石と捉えられます。一方、こうした成長投資を進めながらも株主還元は堅実に継続しています。マイクロソフトは潤沢なキャッシュフローを背景に、自社株買いと配当を組み合わせた安定的な株主還元を長年実施してきました。前回四半期も約97億ドルを配当と自社株買いの形で株主に還元しており、投資と還元のバランスを保っています。2023年には四半期配当を約10%増額しており、増配は連続20年以上続く見込みです。自社株買いも大型の承認枠の下で継続中で、株価下落局面では機動的に買い増す姿勢を示しています。つまり、攻めの投資と守りの還元を両立する財務戦略が採られており、この点は長期投資家にとって安心材料となるでしょう。今回(2025年第1四半期)決算の注目ポイント最後に、4月下旬に発表予定の2025年第1四半期(1-3月期)決算で個人投資家が特に注目すべきポイントを整理します。今回は生成AIブームの中で迎える初めての年明け決算となり、AI需要がどこまで業績数値に表れているかが焦点です。以下の観点が重要でしょう。Azureクラウド成長率の行方: マイクロソフト全体の成長エンジンであるAzureの伸びが加速に転じるか、それともさらに減速するかは株価へのインパクトが大きいポイントです。前回発表時に示された今四半期のAzure売上ガイダンスは前年比+31~32%成長で、直前四半期(+31%)からほぼ横ばい~微減速の見通しでした。市場予想(+33%前後)より控えめなため、実際の結果がこれを上回るかどうか注目されます。生成AI需要の追い風で上振れるようなら成長鈍化懸念が和らぎ株価押上げ材料となり得ます。一方、依然として一部大口顧客のクラウド支出抑制や販売パートナー経由案件の弱含みが続けば、Azure成長率が予想を下回り再度失望売りを誘うリスクもあります。特に今年後半にかけてはGoogleやAWSとのクラウド競争に加え、中国発の低コストAIモデル(例:DeepSeek)の登場で価格競争が激化する懸念も指摘されています。Azureの成長サプライズとともに利益率(クラウド部門の営業利益率)がどう推移するかも見逃せません。AI用途拡大に伴う電力・設備コストでクラウドの利益率が低下していないか、経営陣がどの程度効率化できているかが、投資家の評価を左右するでしょう。Copilot(生成AI)の収益貢献度: Microsoft 365 CopilotやGitHub Copilotなど、追加料金が発生する新AIサービスがどの程度売上に寄与し始めているかもポイントです。現時点ではCopilot関連の売上規模はAzure全体に比べれば小さいですが、着実に積み上がりつつあります。すでにGitHub部門ではCopilotが収益成長の40%以上を占めるまでに拡大しており、Office製品群でも大企業を中心にCopilot有償ライセンスの採用が進んでいます。今回の決算発表やカンファレンスコールで、例えば「Microsoft 365 Copilotの契約社数や利用ユーザー数」「Copilot搭載製品のアップセル(上位プランへの移行)状況」などについて言及があるか注目しましょう。具体的な数値開示がなくとも、経営陣がCopilotの商業的成功に自信を示すかどうかは重要です。特に「ユーザー当たり単価(ARPU)の押し上げにつながっている」といったコメントが出れば、今後数年間の収益押上げ要因として好感される可能性があります。一方、「まだ収益貢献は限定的」「普及に時間を要する」といったトーンであれば、市場の期待先行に対する警戒感から短期的に株価の重荷となるかもしれません。投資家としては、Copilotが将来のサブスクリプション収入増に寄与する成長ストーリーの確度を見極めたいところです。PC需要とWindows業績の底打ち: マイクロソフトの業績のうちWindows関連売上(Windows OEMやSurfaceなど)は、世界PC市場の需要動向に左右されます。2022年から2023年前半にかけてPC出荷台数は減少が続きましたが、直近では企業のハード更新や在庫調整の一巡で市場が回復傾向にあります。実際、2024年Q4(10-12月)の世界PC出荷は前年比+1.8%、続く2025年Q1(1-3月)は+4.8%と、約2年ぶりの増加に転じました。この追い風を受け、前回は横ばいだったWindows OEM売上も今四半期は前年同期比でプラスに戻る可能性があります。CFOも「PC市場は予想通り持ち直している」とコメントしており、今回の決算ではモアパーソナルコンピューティング部門全体での増収が期待されます。特にWindows 10のサポート期限が2025年に迫る中、企業のWindows 11搭載PCへの更新需要が本格化すれば、Windows Commercial(法人向けWindows)の収益も伸びるでしょう。ただし、依然として消費者向け需要の弱さや、MacやChromeOSとの競合、部品供給問題など不透明要因も残るため、大幅成長とまではいかない見通しです。いずれにせよPC事業が最悪期を脱したかどうかは、マイクロソフトの安定収益基盤を占う上で注目されます。ガイダンス修正の有無: 決算発表時に示される次四半期以降の業績見通し(ガイダンス)も株価に直結します。マイクロソフトは通常、四半期ごとに売上高などの見通しレンジを提示しますが、今回そのレンジが上方修正されるかどうかが焦点です。もし経営陣が「予想以上に需要が強い」として将来ガイダンスを引き上げれば、市場は業績加速のシグナルと受け取り株価上昇要因となるでしょう。特にAzureやAI関連収入の強気見通しが示されれば評価は高まります。反対に、慎重な見通しや弱気なトーンが出れば、短期的に失望売りを招くリスクがあります。前回はAzure成長見通しがやや保守的だったため株価下落につながりました。今回はその反省も踏まえ、どの程度楽観度合いを調整してくるか注目です。また、巨額設備投資について「当面は高水準が続く」旨の発言が出た場合も、短期利益圧迫要因と受け止められる可能性があります。一方で、「投資ピークアウトの見通し」や「AIコストの効率化進展」など前向き材料が語られれば、先行投資への不安が和らぐでしょう。総じて、経営陣の口ぶりや示唆するシナリオを注意深く読み取ることが肝要です。以上、マイクロソフトの最新決算に関する注目点を整理しました。前回までの実績を見ると、生成AIブームを追い風に2桁増収増益を維持しつつあり、財務的にも体力十分であることが分かります。一方で、膨大なAI関連投資や競争激化など克服すべき課題も見えています。株価は2023年にAI期待で大きく上昇した後、2025年初には調整が入りましたが、依然として長期成長ストーリーに対する信頼は揺らいでいません。個人投資家としては、今回の決算で示される数字やコメントを材料に、マイクロソフトが描く「AI時代の持続的成長シナリオ」の現実味を評価すると良いでしょう。短期的なアップダウンに一喜一憂するより、クラウド×AIでの競争優位と安定した収益基盤の両面を兼ね備えた同社の中長期的なポテンシャルに注目して判断することをおすすめします。

【メタ決算みどころ】生成AI加速とRL赤字拡大、投資家注目の展望と課題(Meta)
本記事では、メタ(Meta)の2024年第4四半期決算を振り返り、4月30日に控える2025年第1四半期決算の見どころを解説します。Metaの2024年第4四半期決算は、売上高483.9億ドル(前年比+21%)、純利益208億ドルと好調でした。広告事業は堅調で、DAU(デイリーアクティブユーザー)は33.5億人に達し、AIに注力する2025年に向けて600~650億ドルの大規模投資を計画しています。一方でReality Labs部門は赤字が続いており、2024年は約177億ドルの損失を計上しました。今回のMeta決算は「堅調な広告収益成長」と「膨らむ先行投資」の綱引きとなりそうです。市場予想通りの増収増益であれば株価への影響は中立的でしょうが、どちらかのサプライズが出れば大きく動く可能性があります。特にガイダンスや経営陣コメントによって今後数四半期の見通しが変わるため、決算当日はボラティリティ(変動)が高まることも念頭に置く必要があります。前回決算(2024年第4四半期)のハイライト2025年1月29日に発表された2024年10-12月期(Q4)の決算は、市場予想を上回る好調な内容でした。主なポイントは以下の通りです。力強い業績: 売上高は483.9億ドル(約6.4兆円)で前年同期比+21%と大きく増加しました。純利益は208億ドル、EPS(一株当たり利益)は8.02ドルとなり前年から50%もの高成長となりました。デジタル広告事業が堅調で、広告インプレッション(表示回数)は前年同期比+6%、広告単価(広告1件あたりの平均価格)は+14%と上昇に転じています。これは、Appleのプライバシー規制強化による逆風を乗り越え、広告ターゲティング精度や需要が改善したことを示唆します。ユーザー動向とエンゲージメント: ファミリー全体(Facebook, Instagram, WhatsAppなど)のDAUは33.5億人と前年比+5%の伸びを維持しました。特にInstagramの短編動画機能であるReels(リール)は利用が拡大しており、1日あたりの動画シェア数が45億回を超える盛況ぶりです。また、2023年夏に公開した新SNSアプリThreads(スレッズ)は月間利用者数が3億2,000万人に達し、1日あたり100万件以上の新規登録が続いています。さらに、傘下のメッセージングサービスWhatsAppも収益化余地の大きい米国市場で月間1億人超のユーザーを獲得するまでに成長しました。Reality Labs部門の赤字拡大: 一方、メタバース関連の研究開発を担うReality Labs (RL)部門の収益は伸び悩んでいます。Q4のRL売上高は約10.8億ドルに留まる一方、営業損失は49.7億ドルに達し前年同期より赤字幅が拡大しました。同部門はVRヘッドセット「Quest」や仮想空間サービス「Horizon」への巨額投資を続けていますが、2024年通年のRL赤字は約177億ドル(約2.3兆円)に上り、2020年以降の累積損失は420億ドル(約5.5兆円)超とも報じられています。本業で稼いだ利益をメタバースに注ぎ込む構図が続いており、投資家の間では採算改善への懸念も根強い状況です。株価の反応: 前回決算発表後、Meta株は時間外取引で約4%上昇しました。売上・利益の予想超過や+21%という高い増収率が評価され、今後の大型投資計画(2025年はAI分野に最大650億ドルの投資予定)の実行力への不安が和らいだためです。実際、翌日の市場でも株価は上昇基調で推移し、決算前に比べて堅調な値動きとなりました。昨年からの業績回復を背景に、Meta株はすでに前年同期比で大幅上昇し高値圏にあります。こうした状況下、投資家は引き続きファンダメンタルズ(基礎的収益力)の改善が続くか注目しています。前回決算以降の主なニュース前回の決算発表(1月末)から今回の発表までの約3ヶ月間に、Metaを取り巻く環境ではAI戦略の進展や広告事業のトレンド、メタバース投資とコスト構造に関する重要なニュースがいくつかありました。それぞれ順に整理します。生成AI開発の加速とLlamaの進展: Metaは「AIの年」と位置付ける2025年に向け、AI分野で攻勢を強めています。ザッカーバーグCEOは「今年は非常に重要な年になる」と述べ、パーソナライズされたAIアシスタントを10億人以上に届ける計画を示しました。実際、同社が昨年提供開始した対話型AIの「Meta AI」は、FacebookやWhatsApp上で利用できるチャットボット機能ですが、すでに月間7億人以上のユーザーが利用するまで急拡大しています。MetaはこのAIアシスタントを強化するため、スタンドアロン(独立)型のAIチャットボットアプリを2025年第二四半期にもリリースする計画と報じられています。さらに、このAIに有料のプレミアム機能を設けたサブスクリプションサービスのテストも予定しているとのことです。自社開発の大規模言語モデルLlama(ラマ)についても、オープンソース戦略を継続中です。2023年公開のLlama2は無償提供により開発者コミュニティで広く採用され、競合のOpenAIに対抗するエコシステムを育てる狙いがあります。次世代のLlama 3やマルチモーダル対応のLlama 4の開発も順調とされ、今年中に最先端のAIモデルを公開する計画が示唆されています(Llama 4は画像や音声も扱える「オムニモデル」として開発中)。こうしたAI開発を支えるための投資も桁違いです。Metaは2025年の資本的支出(設備投資)を600~650億ドルと見込んでおり、この大半をAI関連インフラに投じる計画です。これは前年(推定380~400億ドル)の1.5倍以上という規模で、巨大データセンターの建設やAI人材の積極採用を含んでいます。米国政府主導でOpenAIや大手が数千億ドル規模のAI投資を表明する中、「決してAI競争で後れを取らない」という強いメッセージを市場に発信している状況です。これらの先行投資は短期的には費用増となりますが、長期的に「AIアシスタントの普及やオープンソース戦略が優位に立てば、広告・利用時間の増加など間接収益につながる」と期待されています(※なお直接的なマネタイズ(収益化)は数年先になるとの経営者の発言もあり、足元では将来の成長余地として注目されます)。広告事業の最近の動向: 広告収入はMetaの収益の約97%を占める中核事業です。前回Q4は広告単価が前年比+14%と急回復しましたが、こうしたトレンドが2025年も続くか注目されています。広告単価上昇は、AIを活用したターゲティング改善や、リール動画など新広告枠の収益化が奏功した結果とみられます。広告主の需要環境も、世界経済の底堅さを背景に安定成長軌道に戻りつつあります。実際、競合のマイクロソフトやグーグルなど他社の最新決算でもデジタル広告需要は堅調で、特にAI導入による広告効果の向上が売上を押し上げています。ユーザー数についても、Meta全体の利用者は引き続き増加基調です。Facebook単体のMAU(月間アクティブユーザー)は世界全体で30億人の大台を超え、ファミリーアプリ全体のMAUは40億人規模に迫っています。発展途上国で新規ユーザーが伸びているほか、先進国でもInstagram ReelsやThreadsなど新サービスを通じ若年層のエンゲージメントを引き留めています。こうした利用者基盤の拡大は広告インプレッション増につながり、たとえユーザー1人あたりのマネタイズ(収益化)が横ばいでも全体の広告収益成長を支えます。ただし、競合環境には注意が必要です。短尺動画分野ではTikTokとの競争が続き、Metaはクリエイターへの収益還元策や機能改善で対抗しています。また規制面のリスクも潜在しています。EUでは個人情報保護や独占規制の強化(例: デジタル市場法によるターゲティング広告規制検討など)、米国でもTikTok禁止論や反トラスト法の議論があり、業界動向によってはユーザーデータ活用や広告ターゲティングに制約が生じる可能性があります。足元では顕在化していませんが、今後のニュースに留意が必要です。メタバース関連投資と経費構造: Metaは2022~2023年にかけ「経営の効率化」(大量リストラ等)を断行しましたが、その一方でメタバースへの長期投資は継続しています。ザッカーバーグ氏は「2025年はメタバースにとっても重要な転換点になる」と述べており、高精細な次世代VR/ARデバイスや仮想空間プラットフォームの完成度が飛躍的に高まる見通しを示しています。実際、昨年発売のQuest 3ヘッドセットは好評で、VR利用者数(Horizonなど)は着実に増えているとのことです。とはいえ、Reality Labs部門の巨額損失が短期で解消する見込みは立っていません。2024年通年で約1.77兆円の赤字となったRL事業ですが、2025年もさらに損失が拡大する可能性があると以前から会社側は認めています(2023年時点で「来年はRL損失がさらに大きくなる」との見解を示していました)。このため、コア事業であるファミリーアプリ部門から得られる営業利益を引き続きメタバースに振り向けざるを得ず、事業間の収益ミックスという点で投資家の賛否が分かれています。もっとも、足元ではAI投資が話題をさらっており、メタバース関連の話題性は低下しています。Meta経営陣も対外的にはAIの成果を前面に出す戦略を取っており、メタバースについては「長期の種まき」のフェーズと位置付けて腰を据えている状況です。その意味で、Reality Labs部門は「将来の成長オプション」と捉えて、中核の広告ビジネス動向と切り分けて評価する視点が重要です。経費・人員と株主還元策: 前回決算で示された2025年の費用見通しは、総コストが1,140~1,190億ドルと前年(約951億ドル)から約20%増になるというものでした。特にサーバー増強やAI専用ハードウェアなどインフラ関連費用が最大の増加要因で、次いで人件費(高度人材の追加採用)がコスト押し上げにつながるとされています。実際、Metaの従業員数は2024年末時点で74,067人となり前年から10%増加しました。リストラ完了後に優先分野(インフラ、マネタイゼーション、RL、AIなど)で再び採用を拡大しているためです。もっとも、費用増に対しては減価償却期間の延長など会計上の効率化策も講じています。例えばサーバー設備の耐用年数見直しにより、2025年の減価償却費を約29億ドル削減できる見込みで、この効果はガイダンスに織り込み済みです。一方、株主還元については引き続き自社株買いを中心に実施しています。Metaは配当は行っていませんが、2024年通年で297.5億ドルもの自己株式を買い戻しました。特に株価が低迷していた2022年末~2023年にかけて大規模買い戻しを実施し、その後株価が反騰したこともあり、結果的に株主価値向上に寄与しました。直近の四半期(2024年Q4)は買い戻しを一時停止しましたが、依然として現金同等物777.8億ドルの潤沢な手元資金と強力なフリーキャッシュフロー(2024年Q4だけで131.5億ドルのFCF)を有しており、将来的にも必要に応じて機動的に自社株買いを実施できる体力があります。株主還元策の充実は個人投資家にとっても安心材料と言えるでしょう。以上のように、前回決算から今回までにAI戦略の前進や収益構造の変化がみられました。それでは、これらを踏まえ今回の2025年Q1決算で具体的に何をチェックすべきか、そして株価に与える可能性のある影響について考えてみます。今回(2025年第1四半期)決算の注目ポイントと株価への影響2025年1-3月期(Q1)決算で投資家が注目すべきポイントは、大きく業績の持続成長性と費用増・投資のバランスに関する指標です。それぞれ株価への影響を念頭に押さえておきましょう。広告収益の成長率: コア事業である広告収入の伸びが引き続き二桁成長を維持できるかが最大の焦点です。前年同期(2024年Q1)は売上高+27%という高成長を記録しました。この反動もあり、会社側は今期Q1の売上ガイダンスを395~418億ドル(前年比+8~15%増)とやや控えめに提示しています。市場コンセンサスでは売上410億ドル前後を見込む声が多く、広告事業の減速感がどの程度かを慎重に見極める展開です。具体的には、広告インプレッション数と平均単価の内訳動向に注目です。前述の通り2024年Q4には単価が+14%上昇に転じましたが、景気環境や広告在庫(広告枠)拡大余地によってはこの単価上昇が鈍化する可能性もあります。一方でリールやメッセージ系広告など新フォーマットの埋め込みが進めば、広告の総露出量(インプレッション)はさらに増加できるでしょう。したがって、「インプレッション増 × 単価増」の両輪で前年超えの成長率を維持できているかがポイントになります。仮に成長率が一桁台前半まで減速するようだと、高成長期待で上昇してきた株価にはマイナス材料となり得ます。一方、二桁成長キープや市場予想超えの売上となれば、ポジティブサプライズとなり株価押上げ要因となるでしょう。ユーザー数(MAU/DAU)の動向: 利用者指標としてファミリー全体のDAU/MAUや地域別のユーザー数にも注目です。SNS市場が成熟した中でも、Metaは引き続きユーザー基盤を拡大しています。前回時点でDAU33.5億人(+5%)でしたが、今回も同程度の前年比成長を維持できているか確認しましょう。特に北米や欧州など成熟市場でユーザー数が飽和状態にあるため、今後はインドや東南アジアなど新興市場でのユーザー増加が収益源拡大の鍵です。ユーザー数そのものは短期株価への直接インパクトは小さいものの、「Facebook離れ」や「若年層離れ」が起きていないかを示す重要なヘルスチェック指標です。もし予想外にアクティブユーザー数が減少に転じるようなことがあれば、長期的な成長ストーリーに黄信号が灯りかねず、ネガティブ材料となります。ただ現状、Threadsなど新サービスで補完しつつFacebook/Instagramのエコシステム全体でユーザー滞在時間を維持しているため、大きな崩れはないと見られています。費用増加と利益率のバランス: コスト構造の変化にも目を配る必要があります。Metaは今年、AIインフラやReality Labsへの投資拡大により費用が前年より大幅増となる計画です。今回Q1では、その兆候がどの程度数値に現れているか注視しましょう。具体的には、営業利益率や営業費用の前年比に注目です。2024年Q4は売上+21%に対し費用+5%増に抑えたため、営業利益率は48%と非常に高い水準でした(一時的な法務費用減少の恩恵もあり)。しかし2025年は先行投資モードに入るため、利益率の低下は避けられません。市場予想ではQ1のEPSは約5.22ドルと前年同期(4.71ドル)から+11%程度の増益を見込んでいます。増収率の鈍化を考えると妥当な伸びですが、裏を返せば費用増を吸収して二桁増益を維持できるかが試金石です。もし人件費やインフラ費が想定以上に嵩み、EPS成長が止まる/減益となれば失望売りを誘発しかねません。一方、費用の伸びが計画内に収まり増益継続となれば、利益率低下への不安は和らぐでしょう。また、経営陣の発言にも注目です。ザッカーバーグ氏や李(スーザン・李)CFOが決算カンファレンスで「効率的な成長」や「コスト管理」に言及すれば投資家は安心しますが、逆にAI・メタバースへのさらなる投資強化ばかり強調すると短期的には不安視される可能性があります。昨年の同時期(2024年Q1)決算では、好決算にもかかわらず翌期ガイダンスの弱さと費用増計画が嫌気され株価が時間外で最大17%急落した経緯があります。今回も同様に、将来見通しに市場予想との差異があれば株価は敏感に反応するでしょう。特にQ1発表時にはQ2売上ガイダンスが示される見込みで、ここで強気な見通し(例えば二桁台の増収継続)が出ればポジティブ、弱気な見通し(ひと桁前半の成長など)ならネガティブに作用する可能性があります。Reality Labs部門の赤字動向: メタバース部門(RL)の損益にも引き続き目が離せません。Q1は季節要因でVRデバイスの販売が落ち込みやすいため、RL売上は前四半期から減少する可能性があります。その一方で研究開発費は引き続き重くのしかかるため、四半期で数十億ドル規模の赤字が継続すると見られます。前述のように経営陣は長期視点で取り組んでいるため、短期での収支改善は期待薄です。しかし、投資家としては赤字幅がさらに拡大していないか確認することが重要です。たとえば前年同期(2024年Q1)のRL損失と比べてどの程度増減したか、会計上の特損などが含まれていないか、といった点です。赤字幅縮小や兆候でも見られれば好感される可能性がありますが、逆に損失拡大が続くようだと株価の重荷となり得ます。また、メタバース関連の定性的な進捗報告(「ユーザー数が○○に増えた」「新製品ロードマップが順調」等)があれば、将来への手応えとして評価材料となります。今回の決算カンファレンスでも、ザッカーバーグ氏がメタバースについてどのようなアップデートを語るか注目です。生成AI製品の収益貢献度: 前述のAIアシスタント「Meta AI」やクリエイター向けAIツールなど、生成AI関連の新サービスがどの程度収益に寄与しているかも気になるポイントです。現状では、これらAI機能は主に無料提供または付加価値サービスとしてプラットフォーム内エンゲージメント向上に寄与している段階です。そのため直接的な売上計上はごく限定的ですが、間接的な効果(ユーザーの滞在時間増加→広告露出増、広告主がAI生成コンテンツで広告制作効率向上→広告出稿増など)が表れている可能性があります。投資家としては数値への直接インパクトよりも、経営陣のコメントに注目しましょう。例えば「Meta AIの利用が広告ビジネスに好循環を生んでいる」や「将来的にAI機能に課金オプションを導入予定」といった発言が出れば、今後の収益拡大シナリオを描きやすくなります。逆に「これらAIのマネタイズ(収益化)は数年先になる」というスタンスであれば、短期的には収益押し上げ材料にならないため株価への寄与も限定的と見るべきでしょう。もっとも、生成AI分野は現在市場の関心が極めて高いテーマであり、たとえ収益貢献が小さくともポジティブな戦略が示されれば投資家心理を改善する効果があります。昨今は他社(MicrosoftやGoogleなど)も生成AIの成果をアピールしていますが、Metaも負けじとユーザー数やユースケース拡大を発表してくると予想されます。以上を総合すると、今回のMeta決算は「堅調な広告収益成長」と「膨らむ先行投資」の綱引きとなりそうです。市場予想通りの増収増益であれば株価への影響は中立的でしょうが、どちらかのサプライズが出れば大きく動く可能性があります。特にガイダンスや経営陣コメントによって今後数四半期の見通しが変わるため、決算当日はボラティリティ(変動)が高まることも念頭に置く必要があります。個人投資家への示唆としては、Metaのビジネスは広告という安定収益源を核に据えつつ、AIやメタバースといった将来領域への投資を並行して進める二面性があります。短期的な株価ドライバーは依然として広告業績とコスト管理ですが、長期成長ドライバーとしてAI・メタバースの進捗も無視できません。決算発表ではこの両面の情報をバランス良く把握し、自分の投資スタンス(短期か長期か)に応じて評価すると良いでしょう。たとえば短期目線では「広告収入やEPSが市場予想を上回るか」「費用増がコントロールされているか」に注目し、長期目線では「ユーザーエコシステムの維持・拡大」や「AI・メタバースの将来ビジョン」が確認ポイントとなります。2025年に入りテクノロジー業界はAIブームで活況を呈しています。そうした中、広告という収益源を持ちながらAIでも主導権を狙うMetaは、市場で大きな注目を集めています。今回の四半期決算はその評価を左右する重要なイベントです。結果如何では株価が大きく変動し得るため、上記のチェックポイントを踏まえて冷静に分析し、今後の投資判断に役立ててください。

【アルファベット決算みどころ】クラウド黒字維持とAI投資効果に注目(Alphabet)
本記事では、アルファベット(Alphabet)の2024年第4四半期決算を振り返り、4月24日に控える2025年第1四半期決算の見どころを解説します。2024年第4四半期決算は、売上高964.7億ドル(前年比+12%)を記録し、広告事業は堅調な成長を示しました。クラウド事業は前年比30%増と高成長を維持し、営業利益率17.5%を達成しました。2025年4月24日に発表予定のQ1決算では、検索広告の成長持続性、YouTube広告の伸び率、クラウド事業の収益性維持が注目されます。また、750億ドル規模のAI投資計画による収益・コストへの影響も重要な観点となっています。前回2024年Q4決算のハイライトアルファベット(Google親会社)が2月初旬に発表した2024年第4四半期(10-12月期)決算は、売上高が964億7000万ドルと前年同期比+12%増加しましたが、市場予想の965億6000万ドルにはわずかに届きませんでした。主力のデジタル広告事業は合計売上高724億6000万ドル(前年比+10.6%)と堅調で、検索連動広告が540億3000万ドル(+12.5%)と引き続き高い成長を示しました。YouTube(ユーチューブ)広告も104億7300万ドルに達し前年同期比+13.8%増と好調で、特に2024年末の米国選挙関連広告の追い風を受けたことが寄与しました。一方、クラウド事業の売上高は119億6000万ドル(+30%)と高成長を維持したものの、前四半期(+35%)から成長が鈍化し、市場予想(約121億6000万ドル)にも届きませんでした。それでもGoogle Cloud部門は2023年下期に悲願の黒字化を果たしており、2024年Q4の営業利益率(オペレーティングマージン)は約17.5%に達しています。これによりアルファベット全体の営業利益は前年同期比+31%増と大きく伸長し、1株当たり利益(EPS)も2.15ドルと市場予想の2.13ドルを僅かに上回りました。2024年Q4決算発表直後の株式市場の反応はネガティブでした。クラウドの伸び悩みと想定外の巨額投資計画が嫌気され、決算発表後の時間外取引で株価は約9%急落しました。これは同社が発表した2025年の大規模投資計画(後述)に対する投資家の警戒感も背景にあります。また、この決算を受けてから直近4月中旬までにアルファベット株は約24%下落しており、個人投資家にとっても慎重な状況認識が必要となっています。前回決算以降の主なニュースと業績動向生成AIモデルの展開と収益化: 前回決算後、Googleは対話型AI「Bard(バード)」をより高性能なAIモデル「Gemini(ジェミニ)」に改称し、生成AIサービスの本格的な収益化に乗り出しました。具体的には、新たに高度なAI機能を利用できるサブスクリプションプラン「Google One AIプレミアム」を開始し、月額19.99ドルで高性能モデル「Gemini アドバンスト(Ultra 1.0搭載)」へのアクセスを提供しています。このサービスには2TBのクラウドストレージ(月額9.99ドル相当)も含まれており、Microsoft/OpenAI陣営のChatGPT有料版に対抗する戦略です。生成AI(ユーザーからの指示で文章や画像などを生成するAI)を自社サービスに組み込むことで、Googleは検索やクラウド利用の活性化と新たな収益源の創出を図っています。実際、ピチャイCEOは検索結果にAI要約(生成AIによる回答)を表示することで検索利用が増加傾向にあると述べており、AIの活用がコア事業のエンゲージメント向上につながっていると強調しました。デジタル広告市場の動向: 広告業界全体では2023年後半から回復基調が見られ、アルファベットの広告売上も2024年を通じて持ち直しました。もっとも競合環境は厳しく、広告主のマーケティング予算がMeta(旧Facebook)やTikTokなどソーシャルメディアに流れる傾向も指摘されています。そうした中、YouTubeの動画広告収益は短尺動画(YouTube Shorts)の収益化や年末商戦・選挙広告の追い風もあってQ4に過去最高を記録しました。ただし選挙関連の特需は一過性であり、2025年Q1ではYouTube成長率の平常化が予想されます。一方、検索連動型広告は引き続き堅調で、特に小売やサービス分野での広告出稿が順調でした。総じて広告市場は持ち直しつつあるものの、経済環境の不透明さや他プラットフォームとの競争を踏まえ、アルファベットの広告事業が今後も二桁成長を維持できるかは注目されています。クラウド事業の競争力: Google Cloudは引き続き高成長を維持し、前年比30%前後の売上増を続けています。他社と比べても伸び率は高く、同四半期のMicrosoft Azureの伸び悩みやAmazon AWSの成長鈍化と対照的です。もっとも成長ペースは徐々に緩やかになりつつあり、市場ではクラウド収益の減速に敏感になっています。前回決算では「クラウドAIサービスの提供能力に一部制約があった」(十分なサーバー容量を用意できず需要に応えきれなかった)ことが示唆されており、これは裏を返せば需要が旺盛であるもののインフラ整備が追いついていない状況とも言えます。Googleは生成AI分野で後発の懸念もあったため、クラウド向けAI基盤(Tensorプロセッサやデータセンター)の増強に力を入れており、開発者向け大規模モデル「Gemini」の利用者数は半年で倍増(440万人)に達しました。クラウド事業は2023年に悲願の黒字化を達成し、コスト意識も高まっています。競合他社も含めクラウド各社が利益重視にシフトする中、Google Cloudが成長と収益性の両立をどこまで実現できるかが、今後の評価ポイントとなります。コスト削減と投資戦略: 前述の通り、アルファベットはAI分野で先行投資を加速させています。その一方で事業効率化にも取り組んでおり、不要不急の分野ではリストラ(事業再編や人員削減)も実施しています。2023年初頭に全社員の約6%に当たる12,000人の大規模レイオフを敢行したのに続き、2025年4月にもハードウェア部門を中心に数百人規模の追加削減が報じられました。Google担当者は「より俊敏で効率的な運営」を目的とした措置と説明しており、こうしたコスト削減努力が同社の利益率改善に寄与しています。実際、2024年末の従業員数は18.3万人程度と前年から横ばいで、人件費抑制に努めた結果、営業利益率は32%へと大きく改善しました。一方で、AI分野への設備投資は極めて大型であり、2025年には約750億ドル(約10兆円)を投資する計画です。この額は市場予想を30%近く上回る水準で、特にデータセンターや半導体チップなどAIインフラ構築に投じられます。投資家の中には巨額投資と利益圧迫への懸念からアルファベットの支出計画に批判的な声もあります。しかし経営陣は「AI利用コストは将来低減し、巨大な機会が拓ける」として攻めの投資を正当化しています。以上のように、前回決算以降、生成AIの商用展開や広告事業の動向、そして大胆な投資戦略とコスト管理が大きなトピックとなりました。今回(2025年Q1)決算での注目ポイントと株価への影響まもなく発表される2025年第1四半期(1-3月期)決算では、以下のポイントに市場の注目が集まります。検索広告の成長率: Google検索に連動する広告収入が引き続き二桁成長を維持できるかが最大の焦点です。前年同期は生成AI競合の台頭や景気減速懸念がありましたが、その後はAI導入で検索利用が増えているとのことで、2025年Q1も安定成長が期待されます。ただし、2024年Q1は前年の反動で売上が好調だったためベース効果があり、今回前年比の伸び率が鈍化する可能性もあります。経営陣は為替のドル高や2024年がうるう年だった反動(今年は2月の日数が1日少ない)による売上へのマイナス影響にも言及しており、そうした要因を除いたコアの成長力が問われるでしょう。もし検索広告の伸びが市場予想を下回るようだと、将来の競争激化への懸念も相まって株価には下押し圧力となります。一方、堅調な成長を示せば安心感から株価上昇要因となるでしょう。YouTube広告収益の動向: YouTubeの広告収入が引き続き増加トレンドを維持できるかも注目です。前四半期は選挙特需などもあって前年比+13.8%と伸びましたが、今回Q1ではそうした特殊要因がなくなります。ショート動画(Shorts)のマネタイズ改善やCTV(テレビ視聴)増加によって収益性が向上しているとはいえ、競合TikTokの台頭もあり油断できません。前年同期(2024年Q1)のYouTube広告は微増にとどまっていたため、今年Q1はある程度の前年比成長が見込まれますが、もし成長が失速すれば市場は動画プラットフォーム競争への不安を強めるでしょう。逆に堅調な増収を示せばGoogleのエコシステムの強さが評価され、株価にもプラスです。Google Cloudの収益性維持: 前述の通りGoogle Cloudは2024年に黒字転換しましたが、今回のQ1でその黒字を維持できるかが重要です。クラウド事業は一般に年末に予算消化で売上が伸びやすく、新年のQ1は季節的に伸びが緩慢になりがちです。しかし市場コンセンサスでは2025年Q1のクラウド売上は約123億ドルと前四半期(119億ドル)からの増加が見込まれており、需要自体は底堅いと予想されています。問題は利益率で、積極投資によるコスト増がどの程度響くかです。アナリスト予想ではクラウド部門の営業利益率は15%前後(前四半期17.5%)とされています。大きな設備投資を伴う分野だけに、仮に再び赤字に転落するようだと収益性への疑念から株価の逆風となりかねません。一方で黒字継続はもちろん、予想を上回る効率改善が示されれば、近年の投資拡大が正当化され株価にも追い風となるでしょう。AI関連コストと収益への貢献:生成AIや大型言語モデルへの投資が業績にどう表れてくるかも見逃せません。コスト面では、GPU/TPUなどAI用ハードウェアやデータセンター拡張による設備投資増がQ1から本格化します。前述のように2025年Q1だけで約160〜180億ドルもの設備投資を計画しており、減価償却費など固定費の増大が利益率を圧迫する可能性があります。またAIモデルを走らせるための電力やネットワークコストも無視できません。一方、収益面では、先述の有料版GeminiサービスなどAI由来の新収入がどの程度寄与し始めるか注目です。現時点ではこれら新規サービスの収益規模は限定的でしょうが、企業向けの生成AIソリューション提供(クラウド経由のモデル利用料)やGoogleワークスペースへのAI機能付加による単価上昇など、中長期でのマネタイズストーリーが描けるかが問われます。今回の決算発表やカンファレンスコールで経営陣がAI戦略による収益機会についてどのようなコメントをするかは、株価の将来見通しにも影響するでしょう。業績見通しとガイダンス: アルファベットは具体的な数値ガイダンス(業績予想)は公表しない方針ですが、決算会見で示唆されるトレンドや経営陣コメントから市場は今後の見通しを判断します。特に広告需給や景気動向に関する言及、そして設備投資計画や経費のコントロールについてのアップデートが注目されます。前回決算ではドル高や暦要因でQ1売上の逆風要素に言及がありましたが、今回その通りになったか確認されるでしょう。さらに、Q2以降の需要見通しやAI投資の進捗についてポジティブな示唆があれば、弱気に傾いていた市場心理を好転させる可能性があります。逆に慎重な発言や追加コストの表面化があれば、目先の利益成長鈍化懸念から株価にはマイナスに働くかもしれません。総合的に見て、2025年Q1決算はアルファベットが直面する「AI時代への先行投資」と「コア事業の安定成長」のバランスが問われる内容となりそうです。市場予想では売上高約890億ドル、EPS約2.00ドルと堅実な増収増益が見込まれています。株価は前回決算以降下落基調でしたが、これは投資負担への警戒が大きかったためです。そのため今回の決算で収益面の健闘や効率改善が確認できれば、見直し買いが入る余地があります。一方、もし成長減速や費用増が目立てば、失望売りにつながる可能性も残ります。個人投資家としては、決算数字そのものだけでなく経営陣のコメントや今後の戦略にも目を配り、中長期的な視点でアルファベットの企業価値を評価することが重要です。

【アッヴィ決算みどころ】特許満了で売上減少か 新薬の目まぐるしい成長ペースに注目(AbbVie)
本記事では、アッヴィ(AbbVie)の2024年第4四半期決算を振り返り、4月25日に控える2025年第1四半期決算の見どころを解説します。自己免疫疾患やがん領域を中心に革新的な医薬品を展開する同社は、世界175か国以上で治療ソリューションを提供し、患者の生活の質の向上に貢献しています。「ヒュミラ」「スキリージ」「リンヴォク」など、免疫疾患分野で高いシェアを誇る製品を多数保有し、買収によるパイプライン強化や高い営業利益率にも定評があります。今回の決算では、ヒュミラの減収影響を後継薬でどこまで補えているか、そして美容医療やがん領域など他分野の成長が注目点となります。とくに、高収益モデルを維持しながら、研究開発投資と株主還元をどう両立させるかが焦点です。2024年Q4決算ハイライト2024年Q4決算は、新薬の好調な売上に支えられ、市場予想を上回る増収増益となりました。売上高は151億ドル(前年同期比+5.6%)で、予想の148.7億ドルを上回り、調整後1株利益(EPS)は2.16ドルと予想の2.13ドルを上回りました。以下、主要項目のハイライトです。売上総利益率・営業利益率: 調整後売上総利益率は約82.9%、調整後営業利益率は42.2%にも達し、高い収益性を維持しました。ヒュミラ (Humira): 自己免疫疾患治療の主力製品。売上は16.8億ドルと前年同期比-48.7%と大幅減少しました。米国では前年比-54.5%の急減(約12.5億ドル)で、2023年1月の特許満了によるバイオ後続品参入が響きました。スキリージ (Skyrizi): 乾癬などの皮膚病治療薬。売上37.8億ドル(+57.9%)と急成長し、ヒュミラを大きく上回りました。2024年通年売上も117億ドルとヒュミラ(約90億ドル)を逆転しています。リンヴォク (Rinvoq): 関節リウマチなど向け治療薬。売上18.3億ドル(+47.1%)とこちらも高成長。スキリージと並ぶヒュミラ後継の柱です。両製品合計の売上は56.1億ドルにのぼり、四半期ベースでヒュミラ減収分を充分に補いました。イムブルビカ (Imbruvica): 血液がん治療薬。売上8.48億ドル(-6.2%)と微減ながら、市場予想を上回りました。新規経口治療薬との競合で米国売上は-8.6%減となりました。エステティック事業: 美容医療関連。売上13.0億ドル(-4.4%)と減収でした。看板商品のボトックス(美容向け)が6.87億ドル(-3.4%)、充填剤ジュビダームが2.79億ドル(-15.1%)と低調でした。ガイダンスとの比較: 2024年Q4は売上・EPSとも会社目標を上回る好結果でした。通年では売上563.3億ドル(+4.6%)・調整後EPS 10.12ドル(-8.9%)となり、2025年については調整後EPS 12.12~12.32ドルの見通しが示されています。また2029年まで高いシングル-digit(年率高%台)の売上成長率を維持できるとの長期見通しも示されました。上述のように、前回決算はヒュミラの急減を新薬群が補い、全体として堅調な業績を維持した点がポイントです。「ヒュミラ後」を支えるスキリージとリンヴォクは合計年商約180億ドル規模へ成長し、2027年には2剤合計310億ドル規模に達するとの強気な予測も発表されました。一方、エステティック事業の伸び悩みや、一部成熟薬(ヒュミラ、イムブルビカ)の減収幅には引き続き注意が必要となっています。前回決算(2024年Q2)後の主なニュースと業況ヒュミラのバイオシミラー影響拡大2025年に入り、米国市場でヒュミラからバイオシミラー(後発薬)への置き換えがさらに進みました。大手保険PBM(薬剤給付管理)は2025年からヒュミラを保険リストから外し、代替バイオシミラーのみを優先的にカバーすると発表しています。例えば米国最大手のCVSケアマークやOptumは2024年まではヒュミラを含む最大8製品を処方選択肢に入れていましたが、2025年からはヒュミラ本体が標準処方リストから消える見通しです。この方針転換により2025年のヒュミラ売上は一段と減少する可能性があります。ただ、幸いにもアッヴィは早期から後継薬へ患者をシフトさせており、医師もヒュミラからスキリージやリンヴォクへの切り替えを進めています。実際、2023年通年でスキリージとリンヴォクは約50億ドルの増収要因となり、潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患(IBD)領域で両剤がシェア50%程度を獲得したと報告されています。特にスキリージは乾癬治療で処方シェア40%に達するなど市場浸透が進んでいます。後継新薬の成長状況スキリージとリンヴォクは上記の通り高成長を続けており、アッヴィ経営陣も「予想以上のシェア拡大」として2027年売上予測を従来より40億ドル上方修正(合計310億ドル)しました。特に炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)での適応拡大が追い風となっています。2024年にはスキリージが潰瘍性大腸炎のFDA承認も取得し(関連領域で次々と適応拡大)、ヒュミラ発売前の2022年のヒュミラ+後継2薬合計売上290億ドルを、2027年には後継2薬単独で上回る見通しです。このように「ポスト・ヒュミラ」の柱は順調に育っているとの評価がなされています。研究開発・承認の進捗2024年末から2025年初にかけて、アッヴィは研究開発強化の動きを活発化させました。2023年11月には米ImmunoGen社の買収(約101億ドル)を発表し、2024年2月に早期完了しました。この買収により、ImmunoGen社の抗体薬物複合体(ADC)エラヘレ (Elahere)がアッヴィの製品ポートフォリオに加わりました。エラヘレは2022年承認の卵巣がん治療薬で、ADCとしては同適応で唯一の承認薬です。アッヴィはエラヘレをより早期の治療ラインへ拡大すべく開発を進めています。また2024年3月にはエラヘレがFDAの完全承認を取得し、販売拡大に弾みがつきました。さらに自社開発・提携案件でも、精神疾患向け新薬候補のフェーズ2試験で主要評価未達という残念な結果もありましたが、用量見直し試験など開発継続を表明しています。一方でパーキンソン病治療薬候補(tavapadon)のフェーズ3で良好な結果が出るなど、将来の成長に向けたパイプライン育成も着々と進められています。加えて中国企業との提携(SIM0500という分子の開発オプション契約、最大約10.55億ドル規模)や、創薬ベンチャーAbCelleraとのT細胞エンゲージャー創薬での協業拡大など、オープンイノベーションにも積極的です。これらの動きはヒュミラ後を見据えた事業多角化とパイプライン強化として投資家から注目されています。株価の推移と投資家の評価株式市場では、2023年はヒュミラ特許切れによる業績懸念からアッヴィ株は低迷しました。しかし2024年に入り新薬の売上が想定以上に伸びたことで投資家心理は改善し、前回決算(2025年1月発表)直後に株価は7%上昇しました。市場では「アッヴィはヒュミラの崖をうまく管理しており、成長見通しに十分な透明性が出てきた」との声もあります。実際、証券会社のアナリストは「ヒュミラ減収は想定内であり、強力な新薬群のおかげで短期・長期とも力強い成長が期待できる」と評価しています。株価は配当利回りの高さもあって個人投資家にも根強い人気があり、2024年後半から2025年前半にかけて持ち直し傾向が見られます。高配当・連続増配という魅力に加え、ヒュミラ後の業績底打ちから再成長への転換点に差し掛かったとの見方から、改めて注目が集まっています。今回発表(2025年Q3)決算の注目ポイント2025年1Q決算では、上記を踏まえて以下のポイントに注目が集まります。ヒュミラ売上の減少幅最大の注目点は依然ヒュミラ売上の落ち込みがいつ底を打つかです。前年2024年Q1時点でヒュミラは前年比-35%減(22.7億ドル)でした。その後競合品の本格参入で2024年Q4には-49%減まで減少幅が拡大しています。今回2025年Q1では、前年同期比で50%前後の減収となる可能性もあります。上述のように2025年からは保険適用上もヒュミラ排除の動きがあるため、米国売上のさらなる減少は避けられません。投資家としては、ヒュミラ減収が会社計画の範囲内か、想定より速いペースでシェア喪失していないかを見極める必要があります。もし減収率が予想以上に緩やか(例えば-40%程度)であればポジティブ材料ですが、逆に予想以上に急激な減少となれば短期的に株価下押し要因となり得ます。スキリージ・リンヴォクの成長ペースヒュミラ減収を埋め合わせる新世代の免疫疾患治療薬2本柱の動向も要チェックです。2024年Q1はスキリージ+47%増、リンヴォク+59%増と爆発的な伸びを示しました。今回2025年Q1でも引き続き40~50%前後の高成長率が維持できるかが注目されます。両製品の売上合計がヒュミラ減収分を上回れば、免疫領域トータルで再成長に転じます。実際前年Q1の免疫領域売上は5.3億ドル減(-3.9%)でしたが、Q4にはプラス成長に転じました。今回もヒュミラ減を補って余りある成長を示せるかが、投資家の信頼回復につながります。会社側も2025年通年の売上成長を「ミッド・シングルディジット(中程度の一桁成長)」と予測しており、その前提となる両薬の四半期進捗を確認する形です。特に新適応が増えたIBD領域や国際市場での売上寄与にも注目です。ボトックス含むエステティック事業の成長性エステティック(美容医療)事業は2024年Q4売上は-4.4%減と落ち込みました。2025年Q1も前年同期比で若干の減収が見込まれます(前年Q1は12.49億ドルで-4.0%)。しかし美容医療需要自体は底堅く、競合製品も限定的なため、中長期的には持ち直す余地があります。特に米国では新興の競合製品(例:Revance Therapeutics社の長時間型ボトックス類似品など)の動向や、景気環境が与える影響を注視する必要があります。今回決算ではボトックス(美容向け)の売上トレンドに注目です。もし減少幅縮小や横ばい転換など下げ止まりの兆しが見えればポジティブ材料です。またボトックス治療用途やその他眼科・医療美容製品の成長も合わせてチェックしましょう。例えばボトックス治療用途は好調であり、全社として美容・眼科を含む神経科学領域売上は前年Q1比+15.9%と伸長しました。美容と治療の両輪でこのセグメントが成長維持できるかがポイントです。研究開発費と利益率のバランス巨大製薬企業であるアッヴィは積極的な研究開発投資を続けています。前回2024年Q4もR&D費用は前年同期比+18.3%増と大きく増加しました。短期的には研究開発費や買収に伴う無形資産償却などが利益を圧迫し、調整後ベースのEPSは前年比減益となる四半期もありました。しかし同時に高い粗利益率(80%以上)を維持しており、将来の成長に向けた投資とのバランスをどう取るかが注目されています。2025年Q1でもR&D費用の増減や営業利益率に注目です。前年Q1は調整後営業利益率42.2%と高水準でしたが、今回も40%前後を維持できれば健全と言えます。もし大規模買収の影響や開発費増で利益率が大きく低下していれば、一時的要因か慎重に見極める必要があります。以上、アッヴィの2025年1Q決算について、前回の振り返りから今回注目ポイントまで解説しました。ヒュミラの特許切れによる「一時的な谷」を、新薬群の成功でどこまで埋め戻せているかが焦点です。アッヴィは堅実な経営と株主還元で定評があり、足元の業績転換期を乗り越えられれば再評価も充分に可能でしょう。決算発表後の株価動向にも注目しつつ、長期目線で企業の基礎体力を見極めることが重要です。

【プロクター・アンド・ギャンブル決算みどころ】ブランド力で成長維持 インフレ収束下で売上増大なるか(P&G)
本記事では、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の2024年第2四半期決算を振り返り、4月24日に控える2025年第3四半期決算の見どころを解説します。日用品から美容・ヘルスケアまで幅広いブランドを展開する同社は、世界180か国以上で消費者向け製品を提供し、人々の暮らしの質の向上に貢献しています。「パンパース」「アリエール」など、各カテゴリでトップシェアを誇るブランドを多数保有しており、グローバルなマーケティング力と製品開発力に定評があります。今回の決算では、主力製品群の販売数量の回復と、新興国市場での需要動向が注目点となります。特に、値上げ主導から数量主導への成長転換が進む中で、P&Gが展開する「大容量・高機能型」商品の販売戦略や、原材料・物流コストの吸収状況が焦点です。2024年Q2決算ハイライト堅調な売上と安定した利益成長P&Gの2025年度第2四半期(2024年10~12月)決算は、売上高が219億ドルと前年同期比+2%の増収となりました。為替やM&Aの影響を除いた売上高は+3%と順調な成長を維持しています。純利益は46億ドル(+33%増)で、EPSは前年の一時要因があった反動もあり1.88ドルと大幅増となりました。一方、特別要因を除いたコアEPS(調整後EPS)も1.88ドルで前年同期比+2%の増加となり、着実に利益を伸ばしています。主要セグメントの業績P&Gは事業をビューティー(美容)、グルーミング(男性用品)、ヘルスケア、ファブリック&ホームケア(洗濯洗剤・住居用製品)、ベビー・フェミニン・ファミリーケア(紙おむつ・女性用品・家庭紙製品)といったセグメント(事業部門)に分けています。前回の第2四半期は、いずれのセグメントも売上で前年を上回りました。特にベビー・フェミニン・ファミリーケア部門が+4%と全社を牽引し、家庭用紙製品の強い需要に支えられました。次いでファブリック&ホームケア部門も+3%と堅調で、北米市場での洗剤需要の伸びが寄与しています。ヘルスケア部門も+3%(オーラルケア製品やOTC医薬品)、ビューティー部門は+2%、グルーミング部門(シェーバーなど)も+2%成長と概ねバランスよく成長しました。販売数量と価格の寄与注目すべきは、販売数量の増加です。前回決算では売上+3%のうち、約+2%分は販売数量の増加から来ています。さらに+1%は地域ミックス(販売好調な地域の比率上昇)効果で、価格は前年並みでした。これはP&Gにとって2019年以来初めて値上げに頼らない成長を達成した四半期となりました。以前まで各地域で実施していた価格引き上げが一巡し、消費者に受け入れられた結果、数量ベースでの売上増加に繋がった形です。利益率(マージン)の動向売上総利益率(粗利率)と営業利益率にも目を向けましょう。第2四半期の粗利率は52.4%で、前年同期より0.3ポイント低下しました。これは製品ミックスの変化や原材料・物流コスト上昇によるマイナス影響が、値上げやコスト削減効果で相殺しきれず若干利益率を押し下げたためです。また営業利益率(コアベース)も26.2%と前年より0.8ポイント低下しました。一部で広告・マーケティングなど将来成長に向けた再投資コストが増えたことも利益率をわずかに圧迫しました。とはいえ為替中立ベースでは営業利益率の低下幅は0.5ポイントにとどまっており、依然として高い収益性を維持しています。ガイダンスの達成状況P&G経営陣は、第2四半期までの実績が計画通りとして2025年度通期の会社予想を据え置きました。通期の売上高ガイダンスは前年比+2~4%増で、為替と事業売却の影響を差し引いた実質成長を着実に見込んでいます。また通期EPSガイダンスも前年比+10~12%増とされており、金額レンジではEPS6.91~7.05ドルを目標としています。第2四半期終了時点で「上半期の好調な結果により通期ガイダンス達成軌道に乗っている」とコメントされており、会社計画範囲内で順調に推移していることが示されました。なお、同四半期までにフリーキャッシュフローの84%を利益に転換し、健全な資金創出を維持しています。これを背景に、株主還元も積極的に行われ、第2四半期単独で合計49億ドル株主に還元されました。このように前回決算は、売上・利益ともに市場予想を上回る堅調な内容で、P&Gのブランド力とコスト管理の巧みさを示す結果となりました。前回決算(2024年Q2)後の主なニュースと業況インフレと為替の影響前回決算後も、原材料価格や物流費といったインフレ圧力、および為替変動(ドル高)の影響が引き続き注目されています。P&Gは通期で原材料コスト約2億ドル増の逆風を予想しており、為替も約3億ドルのマイナス要因になると見込んでいます。合わせて1株当たり約0.20ドルの利益圧迫要因となる計算で、依然として収益に対する外部環境の逆風はあるものの、その規模は売上規模(年間800億ドル超)から見れば限定的です。また、為替については通期売上成長率に-1%程度の押し下げ要因になる見通しで、足元では米ドル高がやや一服傾向にあるものの依然前年より強めで推移しています。こうしたインフレや為替動向がどのように業績に影響しているかは投資家から注目されるポイントです。消費者の価格感応度と需要動向値上げ局面で重要なのは消費者がどれだけ価格に敏感に反応するかですが、P&Gはこれまでのところ消費者の離反を最小限に抑えることに成功しています。日用品という必需財を扱う強みもあり、多少の値上げでも消費者は購入を続けており、むしろ性能や品質を重視して大容量サイズや高付加価値の商品を選ぶ動きさえ見られました。実際、P&GのCFOによれば消費者は「非常に製品の性能を重視している」ため、同社は扱う10カテゴリー中8カテゴリーで数量シェア・金額シェアともに維持できており、これらの分野では小売店のプライベートブランドのシェアも横ばいか縮小しているとのことです。つまり、P&Gは値上げによる一時的な数量減少を過去の平均よりも小さく留めることに成功していると言えます。ただし経営陣は、「今後は消費者の価格に対する反応(需要弾力性)が歴史的水準に戻る」可能性もあると指摘しており、長期的には引き続き注意が必要です。とはいえ、足元では日用品の需要は底堅く、消費者の購買行動も概ね想定内に収まっています。例えば米国市場では、昨年10月にハリケーンや港湾スト懸念でトイレットペーパーの買い溜め需要が発生した一方、その反動で11月に一時需要が落ち込むなど月ごとの変動はありましたが、12月には持ち直すなど総じて底堅い消費動向でした。新興国では景気減速の影響も注視されていますが、日常必需品カテゴリは景気に左右されにくいため、P&Gの売上は比較的安定しています。ブランド戦略と商品展開P&Gは値上げ局面でも消費者に選ばれ続けるために、ブランド力の強化や製品イノベーションに注力しています。具体的には、各カテゴリーでプレミアム製品を投入して付加価値で勝負する戦略を取りました。例えばビューティー分野では高級スキンケアブランドのSK-IIがコロナ後の中国市場停滞で苦戦する一方、北米やその他地域で根強い支持を得ており、高価格帯需要で下支えしています。また家庭用品分野では、食器洗い洗剤「Cascade」ブランドから新製品『Cascade Platinum Plus』を発売し、コメディアンのケナン・トンプソンを起用したプロモーションを展開するなど話題作りも行いました。このように既存ブランドの革新やマーケティング強化によって、消費者の関心を引き留めています。さらに同社は近年、デジタル戦略やECにも力を入れており、オンライン販売比率が増加傾向です。店舗での販売に加えデジタル接点を強化することで、幅広い消費者層へのリーチを拡大しています。これらの取り組みは競合他社との差別化につながり、「製品の優位性」で選ばれるブランドを目指すP&Gの戦略の柱となっています。競合他社との比較世界の日用品業界では、P&Gと同様に価格戦略の転換と需要動向の見極めが課題となっています。他の大手、例えば英ユニリーバも2022~2023年にかけて大幅な値上げを実施し一時は販売数量を落としましたが、最近の2024年通年決算では数量+2.9%増と増加に転じており(売上成長+4.2%)、業界全体で価格一辺倒から数量重視へとシフトし始めています。P&Gは豊富なブランドポートフォリオと高いマーケティング力で競合に対抗しており、値上げ局面でもシェアをほとんど落としていません。むしろ前述のとおり、自社製品の品質優位性を強調する戦略によって、一部ではプライベートブランドとの差を広げることに成功しています。これはブランド力による参入障壁を持つP&Gの強みであり、競合他社との差別化要因となっています。一方で、競合各社もサステナビリティ対応商品や新興国市場での攻勢など新たな戦略を打ち出しており、P&Gとしても引き続きイノベーションと効率化で先行する姿勢が求められています。株価の推移と投資家の評価P&Gの株価は前回の決算発表後、市場予想を上回る内容とガイダンス据え置きが好感され、発表直後に一時3%以上上昇しました。その後は米国市場全体の変動要因(インフレ動向や金利動向など)に影響を受けつつも概ね堅調に推移し、過去1年では+11%以上の株価上昇を記録しています。これはS&P500指数には及ばないものの生活必需品セクター平均は上回っています。投資家からの評価も総じて良好で、2025年4月には四半期配当を5%増額(1株あたり1.0568ドルに引上げ)すると発表しており、これで69年連続の増配を達成しました。この長期にわたる増配記録はP&Gの安定したキャッシュフロー創出力と株主重視の姿勢を物語っており、インカムゲイン(配当収入)を重視する個人投資家にも評価されています。今回発表(2025年Q3)決算の注目ポイントでは、4月発表予定の2025年Q3決算(1~3月期)では具体的にどんな点に注目すればよいでしょうか。個人投資家がチェックすべき主なポイントを以下に整理します。販売数量と価格のバランス最大の注目点は、前回に続き販売数量の伸びが維持できているかです。2025年Q2にP&Gは値上げに頼らず数量増で売上を伸ばすことに成功しましたが、これは業界全体にとっても明るい兆しと評されています。今回Q3でも、各地域での販売数量が順調に増加しているか、あるいは値上げ再開の動きがあるのか、その売上成長の内訳に注目です。特に、これまで値上げで失われた一部のボリューム(販売数量)を取り戻せているか、競合他社やPB商品とのシェア争いの動向も確認する必要があります。また、前年同Quarterとの比較で価格の上げ下げが売上にどう影響したか(値下げでシェア奪還を図っていないか)など、値付け戦略も重要なチェックポイントです。P&Gが引き続き「品質優位×適正価格」で売上拡大を図れているかどうかは、将来の収益性にも関わるポイントと言えるでしょう。コスト構造の改善と利益率 原材料高や物流コスト増といったコスト圧力に対する対応状況も見逃せません。前回までの決算では、生産性向上やコスト削減努力によってこうしたコスト上昇分をかなり吸収していました。今回のQ3では、主要原材料(石油化学製品や紙パルプ等)の市況がやや落ち着きつつある中で、粗利益率の改善が見られるか注目です。会社計画では通期で約2億ドルの原材料コスト逆風を見込んでいましたが、実際にその影響が縮小傾向にあるかをチェックしましょう。また、販管費の効率化(マーケティング費用対効果など)による営業利益率の動きにも注目です。もし粗利率や営業利益率が改善傾向を示せば、インフレ下での採算悪化懸念が和らぎ、株価にプラス材料となる可能性があります。逆にコスト増が利益を圧迫し続けているようだと、今後の課題として認識されるでしょう。地域別・カテゴリー別の動向地理的な売上動向では、中国市場の回復度合いが焦点となります。中国の消費者需要は前四半期時点で売上-3%と減少が続いていましたが、前々期の-15%からは大きく改善しており、徐々に底打ちしつつあります。今回のQ3で中国がプラス成長に転じるか、あるいは引き続きマイナスでも減少幅がさらに縮小するか注目しましょう。北米市場については、前回10月に発生したハリケーン関連の駆け込み需要の反動が1~3月期に現れる可能性があります。そうした一時要因を除いた米国の基調需要が安定成長を続けているか注目する必要があります。欧州や新興国など他の地域でも、それぞれの経済環境下でP&G製品の販売がどう推移しているかをセグメント別売上から読み解きましょう。加えて、カテゴリー別ではファミリーケア(紙製品)やホームケアなどコロナ禍以降需要が伸びている分野の継続的な成長や、ビューティー(高級スキンケア等)部門の回復にも注目です。とりわけSK-IIやOlayといった高価格帯美容製品の売上が中国景気の影響からどこまで持ち直すか、逆に洗剤やヘルスケアなど日用品カテゴリが安定成長を維持できているかを見ることで、今後のセグメント戦略のヒントが得られるでしょう。以上、P&Gの今回2025年Q3決算発表に向けた注目ポイントを整理しました。前回決算は数量増による堅調な成長と強力な株主還元策が光りましたが、今回もその流れが維持できるかが焦点です。特にインフレ収束局面で「質と量のバランス成長」を実現できれば、株価にとっても追い風となるでしょう。一方、景気減速や競合環境による逆風が見られれば短期的に慎重姿勢が強まる可能性もあります。個人投資家の皆さんも、ぜひこれらのポイントを念頭に決算発表資料や経営陣コメントに目を通し、今後の投資判断に役立ててください。

【メルク決算みどころ】2つの看板商品が売上を下支え 巨額の研究開発費の効果は(Merck & Co.)
本記事では、メルク(Merck & Co.)の2024年第4四半期決算を振り返り、4月24日に控える2025年第1四半期決算の見どころを解説します。がん免疫療法やワクチンなど革新的な医薬品の研究・開発・販売を手がける同社は、世界100か国以上で患者に医療ソリューションを提供し、人々の健康寿命の延伸に貢献しています。「キイトルーダ」「ガーダシル」など、がんや感染症領域で高いシェアを誇るブロックバスター薬を複数保有しており、強固な研究開発力とグローバルな商業展開力に定評があります。今回の決算では、主力の免疫チェックポイント阻害薬「キイトルーダ」の売上成長の持続性や、ワクチン事業の回復状況が注目点となります。特に、ポスト・キイトルーダ時代に向けたパイプライン戦略の進捗や、中国など成長市場での需要回復、加えて原材料費・研究開発費が利益率に与える影響が焦点です。2024年Q4決算ハイライト堅調な売上高とEPS 2024年Q4のメルクの売上高は約156億ドル(前年同期比+7%)に達し、為替の影響を除く実質成長率は+9%でした。主力製品の好調に支えられ、同四半期の調整後EPSは1.72ドルとなり前年から増益となりました。この結果は市場予想とほぼ一致する堅実なもので、2024年通年でも売上高642億ドル(前年比+7%)と会社予想のレンジ上限付近で着地し、計画通りの成長を遂げました。キイトルーダの力強い成長がん免疫療法薬「キイトルーダ」は依然としてメルクの成長を牽引しています。2024年Q4単独の売上は約78億ドルと前年同期比+19%の大幅増収となりました。主に癌の転移症例向けの需要増に加え、乳がんや肺がんなど早期ステージでの適応拡大による使用増が貢献しています。年間では295億ドルを売り上げ、世界で最も売れている処方薬となりました。このようにキイトルーダはメルク全体の売上の約半分近くを占める屋台骨であり、引き続き二桁成長を維持しています。ガーダシルの一時的な落ち込み一方、HPVワクチン「ガーダシル」は地域要因で足踏みしました。2024年Q4のガーダシル売上高は15.5億ドル(前年同期比-17%)と減少し、主因は中国市場での需要低迷です。中国では流通在庫の積み上がりにより出荷調整が行われたため販売が落ち込んだものの、その影響を除けば日本など他の国際市場では引き続き堅調な需要がありました。通年ではガーダシル売上は86億ドル(前年比-3%)にとどまり、中国市場の逆風が成長を一時的に押し下げた形です。ただし中国当局が2025年1月にガーダシルの男性への接種適応を承認しており、将来的な需要拡大が見込まれる点は明るい材料です。動物薬と他部門の堅調メルクのもう一つの柱である動物用医薬品部門は安定成長を続けています。2024年通年の動物薬売上高は59億ドル(前年比+4%)となり、ペット需要の拡大や家畜向け製品の価格上昇が寄与しました。新製品では、肺高血圧症治療薬「Winrevair(ウィンレアビル)」が2024年に米国で上市され、初年度に4億ドル超を売り上げる順調な滑り出しを見せています。一方、特許切れが進む糖尿病薬ジャヌビアなどは減収となりましたが、オンコロジー(抗癌剤)やワクチン事業の伸びがそれを補っています。利益率とガイダンス達成状況収益性の面でも改善が見られました。2024年Q4の粗利益率は約80%と前年より向上し、キイトルーダやガーダシルに関するロイヤルティ費用低減などが寄与しました。研究開発費や一部の一時費用を除いた営業利益率も高水準を維持しています。こうしたコスト管理と売上成長により、メルクは2024年通年の業績ガイダンスをほぼ達成しました。前年Q3時点で示していた通年売上見通し636~641億ドルに対し実績642億ドルと上限をわずかに上回り、EPS見通し7.72~7.77ドルに対して実績7.65ドルとほぼレンジ内に収まりました。このことは、同社経営陣の計画精度と業績の安定性を示しており、投資家の信頼につながっています。前回決算(2024年Q2)後の主なニュースと業況がん免疫療法の適応拡大メルクは主力の免疫療法薬「キイトルーダ」の適応拡大に積極的です。2025年2月には、キイトルーダを手術前後に使用する頭頸部がん治療についてFDA(米食品医薬品局)が優先審査を受理しました。これはKEYNOTE-689試験の良好な結果に基づく申請で、承認されれば頭頸部がんの早期治療成績を向上させる可能性があります。また欧州でも婦人科がん領域で新たに適応が承認されるなど、キイトルーダの適応症は世界で30種類以上に広がっています。それに伴い、キイトルーダの売上は競合BMSのオプジーボを大きく上回っており、2024年Q4時点の比較ではキイトルーダ約78億ドル vs オプジーボ約24億ドルと3倍以上の開きがあります。臨床開発・パイプラインの進展メルクはパイプライン(開発中の新薬候補)の強化にも注力しています。前回決算発表時にはキイトルーダの皮下投与製剤の第3相試験で主要目標を達成したと公表されました。皮下投与版キイトルーダは点滴より患者の負担を軽減でき、2025年9月までに米国で承認判断が下りる見通しです。同製剤の投入は投与時間を30分から数分に短縮し、患者の利便性向上だけでなく知的財産の延長によるキイトルーダ後継戦略としても注目されています。またワクチン分野ではRSウイルス(乳幼児の肺炎原因ウイルス)予防の長期抗体「クレスロビマブ」の生物製剤承認申請がFDAに受理され、順調に審査が進行中です。さらに2024年には新薬ウィンレアビル(肺高血圧症治療薬)の上市成功や、腎臓病・心不全向けの分野での開発なども報告されており、既存事業の先を見据えたR&D投資が続いています。買収・提携など事業開発の動き特許切れリスクに備え、メルクは企業買収や提携によるパイプライン補強にも積極的です。直近では中小バイオ企業とのライセンス契約を複数締結し、医薬品を独占的に導入しました。さらに注目すべきは、2023年10月に発表された第一三共との大型提携です。メルクは第一三共が開発中の抗体薬物複合体(ADC)3製品の共同開発・販売に合意し、最初に40億ドルの前払金など計55億ドルを支払い、開発成功時には最大220億ドル規模に達する契約を結びました。ADCは抗体に抗がん薬を結合して腫瘍を狙い撃ちする新世代のがん治療で、メルクにとってはキイトルーダに続く次世代がん治療の柱を育てる狙いがあります。この提携に伴いメルクは開発費用として2023年Q4に55億ドル(1株当たり約1.70ドル)の特別損失を計上しましたが、それを含めても財務体質は健全で、豊富なキャッシュフローを活かした戦略投資が行われています。なお2023年には自己免疫疾患の新薬候補を持つPrometheus社の約108億ドルでの買収も実施しており、オンコロジー以外の領域にも成長の種を広げています。株価から見た市場評価2025年通期の慎重な見通しや中国でのガーダシル減速を受けて、市場は一時ネガティブ反応を示しました。実際、Q4決算発表直後の2月初旬には株価が約10%以上急落し、一時1株87ドル台まで下落しています。これは中国向けガーダシル出荷停止による2025年前半の売上影響が嫌気されたためです。しかしその後は市場も冷静さを取り戻し、キイトルーダ中心の業績拡大路線に大きな変化はないとの評価が支配的です。株価は下落前の水準に一部戻しつつあり、依然として配当利回り約3%の高配当株としての魅力や堅調な業績見通しが下支えしています。総じてメルクは安定成長と将来への投資バランスが評価されていると言え、短期的な波乱はあったものの長期的な市場信頼は維持されています。今回発表(2025年Q3)決算の注目ポイント2025年1Q決算では、上記を踏まえて以下のポイントに注目が集まります。キイトルーダ売上の成長持続 看板製品キイトルーダが引き続き高成長を維持できるかが最大の注目点です。前年同期(2024年1Q)も力強い伸びを示しており、今回も前年比二桁%の増収が続くかに投資家の目が向いています。適応拡大や新興国での普及拡大に支えられ、売上成長率の減速がないか(あるいは更なる上振れがあるか)を確認しましょう。キイトルーダはメルクの収益の柱であり、その勢いが続けば2025年通期計画達成にも大きく前進します。ガーダシルおよびワクチン事業の回復動向ガーダシルの中国における需要低迷は2024年後半の懸念材料でしたが、2025年1Qに底打ちの兆しが見られるか注目です。中国向け出荷は在庫調整のため一時停止中であり、1Qのガーダシル売上は前年同期比で大きく減少する可能性があります。しかし、中国以外の地域(米国や欧州、日本等)での需要は堅調なため、他地域でどこまでカバーできているかがポイントです。また中国での男性適応承認という追い風が今後の需要回復につながるとの見方もあり、経営陣が決算説明会で示すガーダシル事業の見通しに注目しましょう。加えて、メルクの他のワクチン(小児用ワクチンや肺炎球菌ワクチン「バクニューバンス」等)の売上動向も確認が必要です。パンデミック後に回復基調にあるワクチン事業全体がガーダシル減速を補完できているか、投資家は注視しています。動物薬部門の需給環境安定成長を続けてきた動物用医薬品部門の動向も見逃せません。ペットブームを背景にペット向け医薬品の需要は引き続き強いと予想されますが、景気動向による影響が出ていないか確認しましょう。例えば競合のゾエティス社などもペット需要の堅調さを報告しており、メルクも寄与が期待されます。また家畜向けでは商品価格や疾病流行の影響で需給が変動する可能性があります。1Qでは動物薬全体で前年を上回る成長が維持できているか、あるいは一時的な要因で伸び悩んでいないか、セグメント別の売上をチェックしましょう。動物薬部門は景気に比較的強いディフェンシブ事業としてメルクの安定収益源となっているため、その健全な推移が確認できれば安心材料です。研究開発費と利益率のバランス巨額のR&D投資が続く中で、利益率がどう推移しているかも重要な観点です。メルクは第一三共との提携に伴う前払金計上や、Prometheus買収などで開発費用や一時費用が増加しています。2025年1Qでも大型提携・買収の影響による費用計上や研究開発費の増額が想定され、その結果営業利益率や純利益率がどの程度確保できているかがポイントです。幸いキイトルーダをはじめとする高収益製品群により利益率自体は高水準にありますが、今後の成長投資とのバランスを投資家は見極めようとしています。もし1Q時点で研究開発費の伸びが売上成長を上回り、利益成長を圧迫しているようであれば短期的な株価のボラティリティ要因となり得ます。一方で、経営陣が「長期成長のための投資」として理解を求める可能性も高く、費用増と利益率低下が一時的かつ戦略的であるとの説明があるか注目です。総じて、開発投資による将来価値創造と四半期利益の確保という二律背反のバランスに市場の関心が集まります。以上、メルクの2025年1Q決算に関するポイントを整理しました。前回の堅調な業績と最近のニュースを踏まえると、キイトルーダを中心とした成長の持続性とガーダシルの課題からの回復が焦点となりそうです。加えて、将来を見据えた研究開発投資の成果や大型提携の進捗、株主還元のバランスにも目を配る必要があります。メルクは世界有数の製薬企業として安定した利益基盤を持ちながら変革期にあり、今回の決算も短期業績と長期戦略の両面でマーケットから評価されるでしょう。今後のメルクの展開に注目です。

【決算サマリー】2025/4/14-18週の決算(ジョンソン・エンド・ジョンソン / ネットフリックス / ユナイテッドヘルス ほか)
本記事では、4月に決算が発表された『ゴールドマン・サックス、ジョンソン・エンド・ジョンソン、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、ネットフリックス、アボット・ラボラトリーズ、ユナイテッドヘルス』の7社について、決算を振り返りながら解説します。全体としては、好調なトレーディング収益や消費の底堅さが企業業績を下支えする一方で、セクター間の明暗が鮮明となる結果となりました。金融大手は市場ボラティリティを追い風に好決算が目立ち、テックやヘルスケア企業も概ね堅調でしたが、ユナイテッドヘルスに見られる医療費の想定外の増加など、業種特有の課題が浮き彫りになった四半期でもありました。ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)米投資銀行大手ゴールドマン・サックスの2025年第1四半期決算は、売上高が150.6億ドル(前年同期比6%増)、純利益が47.4億ドル(前年同期比15%増)となりました。1株当たり利益(EPS)は14.12ドルと、アナリスト予想の12.35ドルを大きく上回り、市場予想を上回る好決算となりました。変動の大きい市場環境を追い風に、株式トレーディング収入は前年同期比27%増の42億ドルと四半期ベースで過去最高を記録し、債券・通貨・商品(FICC)トレーディング収入も2%増の44億ドルと堅調でした。一方で、市場低迷の影響で投資銀行部門の手数料収入は前年同期比8%減の19億ドルに落ち込むなど、部門間で明暗が分かれました。また機関投資家・富裕層向け資産運用部門の収益は市場評価損の影響で3%減となったものの、運用資産残高は過去最高の3兆1,700億ドルに達しています。デービッド・ソロモンCEOは決算発表で「第2四半期は年初とは大きく異なる事業環境に直面しており、大きな不確実性が存在する」と述べ、先行きへの警戒感を示しましたそれでも「不透明な時代には顧客は当社に求めるものだ。当社は引き続き顧客を支援できると確信している」と語り、顧客支援を続ける能力に自信を見せています。ソロモン氏はまた、米国政府が貿易障壁の見直しを通じて米国の競争力強化に取り組んでいる点を評価するコメントも残しました。決算発表を受けて株価は当日2%強上昇し、堅調な業績に対する投資家の信頼感が示されました。総じて、マーケット部門の好調が業績を牽引し、市場予想を上回る結果に投資家は安堵した形です。ジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)ヘルスケア大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の第1四半期決算は、売上高が219億ドルと前年同期比4.2%増加し、市場予想(約216億ドル)を上回りました。調整後EPSは2.77ドルとなり前年同期比で約2%の増益、こちらも予想の2.58ドルを7%以上上回るサプライズでした。純利益は前年から大幅に増加し約110億ドルに達しましたが、前年同期にあった一時的費用の反動によるものです。主力の医薬品や医療機器部門が堅調で、抗がん剤「ダーザレックス」や免疫疾患治療薬「トレムフィア」など主要製品が大きく売上を伸ばしたことが増収に寄与しました。地域別では米国売上が+5.9%と牽引し、国際売上も+2.1%と堅実に伸びています。同社はこの四半期、63年連続となる増配を発表し、四半期配当を1株あたり1.24ドルから1.30ドルへ引き上げました。経営陣は業績好調にもかかわらず慎重な姿勢を崩さず、通期業績見通しを据え置きました。2025年通期の調整後EPSガイダンスは10.50~10.70ドルとされており、売上成長率は3.3~4.3%増を見込んでいます。見通し据え置きの背景には、米国政権による医薬品への関税方針など外部環境の不透明感もありますが、同社CFOは「当社の主力新薬は関税の影響を受けにくい可能性が高い」と述べ、過度に懸念する必要はないとの見解を示しました。また米国内での生産強化にも言及し、今後数年間で米国における大規模投資と新製造施設の建設計画を発表しています。決算発表直後、好決算にもかかわらず株価はわずかに0.4%下落して取引を終えました。これは市場全体の不安要因や将来の課題への懸念から投資家が慎重姿勢を保ったためで、堅調な内容が織り込み済みだった面もあるようです。バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)米大手銀行のバンク・オブ・アメリカ(BofA)が4月15日に発表した第1四半期決算は、純利益が74億ドル(EPS:0.90ドル)と前年同期比11%増加し、市場予想の0.82ドルを上回りました。金利上昇を背景に利ざや収入(NII)が3%増の144億ドルに拡大し、手数料収入も堅調だったことが増益に貢献しました。総収入も前年から約6%増加したとみられます。マーケット部門も好調で、債券・為替・商品(FICC)トレーディング収入が前年同期比5%増の35億ドル、株式トレーディング収入は17%増の22億ドルと過去最高を記録し、トレーディング全体で9%の増収となりました。この結果、市場関連収入は10年以上ぶりの高水準に達し、JPモルガンやゴールドマン・サックスなど他行と同様に市況混乱を追い風に大きなトレーディング収益を上げています。逆に投資銀行部門の手数料収入はM&AやIPOの低迷で前年同期比3%減の15億ドルに留まりましたが、CFOによれば案件パイプラインは前四半期より強く、第2四半期以降の回復に含みを残しました。ブライアン・モイニハンCEOはアナリストとの電話会議で「関税や政策を巡る不確実性は多いが、現時点で当社エコノミストは景気後退を想定していない」と述べ、米経済が緩やかな成長を続けるとの見方を示しました。顧客の動向についても、「労働市場は健全で消費者も底堅い」と強調し、懸念材料である貿易摩擦が早期解消されれば2025年後半の更なる業績押し上げにつながる可能性に言及しました。また、仮に経済環境が悪化しても備えられるよう、将来の失業率上昇に備えた引当金を積み増すなど慎重なリスク管理も行っています。なお、利ざや収入については従来予想した2025年第4四半期におけるNII $155~157億の見通しを維持し、金利動向にかかわらず安定した収益基盤を確保できるとの自信を示しました。決算発表を受けて株価は当日4%以上急騰し、好調な収益と予想上振れを好感した投資家の買いが集まりました。シティグループ(Citigroup)シティグループの第1四半期利益は純利益41億ドル(EPS:1.96ドル)と前年同期比21%増加し、こちらも市場予想の1.85ドルを上回りました。相場変動に乗じてトレーディング部門が躍進し、株式トレーディング収入は前年同期比23%増と顕著な伸びを示しました。金利・為替市場のボラティリティを受けて顧客がポートフォリオの組み替えを進めたことが背景にあり、トレーダー部門の「追い風」となりました。同業他社同様、債券市場関連収入も好調だったとみられます。投資銀行部門も明るい兆しを見せ、M&A助言収入の増加により投資銀行収入は前年同期比12%増となりました。もっともCEOのジェーン・フレイザー氏は電話会議で「不透明感の中で多くの顧客が様子見に入っており、第2四半期の案件実行は停滞している」と述べ、足元では企業の資金調達や大型取引が減速していることを認めています。収益の改善により、シティが重要指標とする有形自己資本利益率(ROTCE)はこの四半期に9%に達し、2026年までに目標とする10~11%に近づいてきました。フレイザーCEOは「不確実な環境下でも顧客支援を続けている」と述べる一方、「長年の貿易不均衡是正など構造変化が一巡すれば、米国経済が依然として世界の牽引役であり、ドルも基軸通貨の地位を保つだろう」と発言し、足元の逆風にもかかわらず米国経済の長期的な優位性に自信を示しました。経営陣は2025年通年の収入および経費見通しを従来計画から変更しない方針であることも明らかにし、コスト管理と収益力強化の両面で計画通り進捗していることを強調しました。さらに、長らく売却方針とされてきたメキシコ子会社バナメックスのIPO準備が年内にも整う見通しであることもアップデートとして言及されました。決算発表後、シティの株価は約2.7%上昇し、増益基調と収益目標への前進を好感する動きが見られました。ネットフリックス(Netflix)動画配信大手ネットフリックスの2025年第1四半期決算は、売上高105.4億ドルと前年を上回り、自社計画および市場予想(約105.2億ドル)をわずかに上回りました。純利益は29億ドルで、希薄化後1株利益(EPS)は6.61ドルとなり、こちらは予想の5.71ドルを大きく上回る結果です。会員数は全世界で3億人を超える規模まで拡大しており、この四半期も低価格の広告付きプランへの加入が順調に増加しました。共同CEOのグレッグ・ピーターズ氏は決算説明で、足元の景気動向や米政権の関税政策による消費者マインドへの影響について問われた際に「顧客行動に有意な変化は見られず、景気後退局面でもストリーミング需要は堅調だ」と述べ、景気逆風下でも動画サービスへの需要は粘り強いとの認識を示しました。また「自宅で楽しめるエンターテインメントの価値は不況期ほど高まる。Netflixは家計にとって圧倒的にコストパフォーマンスの高いサービスだ」と強調し、価格以上のコンテンツ価値提供に努めている点をアピールしています。事実、広告付き低価格プランは提供国における新規加入の55%を占めるまでに成長しており、値ごろ感のあるサービスが会員基盤拡大に寄与しています。コンテンツ面でも、限定シリーズ「Adolescence」やドラマ「Zero Day」、リアリティ番組「Temptation Island」など多様なジャンルの話題作を投入し、ユーザーエンゲージメントを高めました。同社は2025年第2四半期の売上高見通しを110.4億ドルと提示し、これは市場予想(約109億ドル)を上回る強気のガイダンスとなっています。また2025年通年の売上高予想を435億~445億ドルと据え置き、この中には会員数の健全な増加や段階的な値上げ、広告収入の倍増(前年比)が織り込まれています。併せて、共同創業者のリード・ヘイスティングス氏が取締役会の非業務執行会長に退き、経営陣の世代交代を進めることも発表されました。決算発表後の株価は時間外取引で約2.7%上昇し、予想以上の収益力と強気の売上見通しが投資家心理を支えました。年初来の株価上昇率も+9%と市場平均をアウトパフォームしており、堅調な業績見通しが株価を下支えしています。アボット・ラボラトリーズ(Abbott Laboratories)医療機器・ヘルスケア製品大手のアボット・ラボラトリーズは、第1四半期に売上高103.6億ドル(前年同期比+4%)を計上し、為替影響を除いたオーガニックベースでは+6.9%成長と堅調な拡大を続けました。新型コロナ関連の特需が一巡した影響を除けば実質+8.3%という高い伸び率です。純利益は13.3億ドル(+8.2%)となり、調整後EPSは1.09ドルと前年同期比11%増益、市場予想の1.07ドルを2セント上回りました。成長ドライバーは医療機器部門で、特に血糖値測定システム「フリースタイル・リブレ」を中心とした糖尿病関連製品が世界的に好調です。医療機器部門の売上は49億ドルに達し、オーガニック成長率+12.5%と牽引役となりました。診断薬部門と栄養剤部門はいずれも21億ドル規模で推移し、医薬品部門(エスタブリッシュト医薬品)は13億ドル(8%増)とバランスの取れた成長を実現しています。幅広い製品ポートフォリオに支えられ、同社の粗利益率は前年より1.4ポイント改善し57.1%に、営業利益率も1.3ポイント改善し21%に向上しました。ロバート・フォードCEOは決算説明で、為替やサプライチェーンの逆風にもかかわらず「各製品の需要動向や我々の実行力には確信を持っている」と述べ、主力事業の勢いに自信を示しました。実際、当初は慎重に見積もっていた2025年通年業績について、関税問題が浮上しなければ上方修正も検討していたことを明かしています。しかしながら、米国が中国からの輸入品に対し追加関税を課す方針を示したことを受け、同社は通期の業績見通しを据え置きました。フォードCEOは「新関税により年間数億ドル規模のコスト増を見込む」が「周到に策を講じており十分に緩和可能」と投資家に説明しています。具体策として、米国内の生産能力増強に5億ドルを投資し、中国に依存しない供給体制の強化を図る計画を発表しました。イリノイ州とテキサス州で進める新工場・研究施設のプロジェクトは2025年末までに稼働予定で、製造拠点を需要地に近接させる同社の長期戦略の一環です。また心疾患治療領域でも心房細動治療用の新技術について想定より早く欧州で承認を取得したことを明らかにするなど、製品イノベーション面の前進も強調されました。市場はこうした同社の対応力と成長持続性を好感し、決算発表翌日の株価は5~6%上昇しました。投資家は関税リスクにも揺るがない業績見通しと戦略的投資によるリスクヘッジを評価しており、アボットは引き続きトップクラスの成長を維持できるとの見方が広がっています。ユナイテッドヘルス(United Health)ユナイテッドヘルス・グループの第1四半期決算は、売上高が1,096億ドル(前年同期比10%増)、調整後EPSは7.20ドルと前年の6.91ドルから増加しましたが、市場予想の7.29ドルを下回りました。保険事業では加入者が78万人増加し、高齢者向け保険の加入者は前年同期比で約50万人増の824万人に拡大しました。しかし、特に高齢者向けプランでの医療サービス利用が想定を超え、医療費率(MCR)は前年の84.3%から84.8%に上昇。外来診療や医師サービスの急増がコスト増を招き、業績に大きく影響しました。Optum部門では調剤薬局が堅調だった一方、医療提供部門でリスク調整モデル変更や新規加入者の健康データ不足が影響し、収益が想定を下回りました。これを受けて同社は通期の調整後EPS予想を大幅に下方修正(29.50~30.00ドルから26.00~26.50ドル)し、CEOのアンドリュー・ウィッティ氏は「正直想定外で受け入れ難い」と強い懸念を示しました。決算発表後、株価は約22%急落し、保険セクター全体に波及。ヒューマナは7%、CVSヘルスも2%を超える下落となり、同社1社でダウ平均を800ドル超押し下げる展開となりました。経営陣は高齢者層のケア改善や2026年保険設計への織り込みを通じた巻き返しを図る方針を示しており、今後の実行力が問われます。