投資を学ぶ/ライブラリー/中村 仁 Jin Nakamura

ブルーモ証券代表取締役

中村 仁(Jin Nakamura)

米国株資産運用アプリを提供するブルーモ証券の代表取締役。東京大学法学部・大学院経済学研究科(修士)を卒業後、財務省にて総合調整・税務調査・国際金融業務に従事。その後、スタンフォード大学でMBAを取得し、米系コンサルティング会社のマッキンゼーにて主に金融機関向けのプロジェクトをリード。2022年にブルーモ証券を創業。大学院・財務省時代は各国の財政状況やニュースによって、国債金利がどのように変動するかをマクロ計量モデルで研究。

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それでも米国株は魅力的か?米国株投資の強みとリスク

それでも米国株は魅力的か?米国株投資の強みとリスク

直近の株価と為替の急変動を見て、今後の資産運用に不安を感じる方もいると思います。足下の相場変動から少し距離をおいて考えると、米国株投資には①イノベーションの中心地としての恩恵、②株主還元の徹底した経済構造、③マクロ経済の頑健性といった強みがあり、いくつかのリスクはあるものの、他のアセットクラスと比較しても引き続き長期投資のコアとしての優位性はあると考えられます。2024年はAIブーム、FRB利下げ、米国景気後退懸念、大統領選、日銀利上げと大きなイベントが続き、相場が急変動しやすい環境が続いています。新NISAで投資を始めた方で日々不安に感じている方も多いと思うので、本記事では改めて米国株投資の強みとリスクについて解説していきたいと思います。米国株投資の強みまず、米国株投資を魅力的にさせている、米国経済のファンダメンタルな(本質的な)強みを解説します。要約すると、①イノベーションの中心地として米国の代替先がないこと、②株主還元の徹底した経済構造、③内需と利下げ余地に支えられたマクロ経済の頑健性が強みと考えています。イノベーションの中心地として米国の代替先がない皆さんの日々の生活を支えている半導体・OS・クラウドインフラ・SNS・検索サービスなど、情報社会のインフラは、Alphabet, Amazon, Microsoft, Apple, Meta, NVIDIAといった米国のテクノロジー企業に独占されています。さらに次の技術革新と言われるAIや自動運転の研究開発も米国がリードしており、この領域でも米国企業が付加価値の大部分を取っていきそうな情勢です。生成AIではChatGPTのOpenAIやClaudeのAnthropicは米国企業ですし、自動運転の最先端はTeslaとAlphabetの子会社Waymoが走っています。こうしたイノベーションが生まれる土台になっているのは、世界から人材を集める米国の教育・雇用システムと、シリコンバレーを中心としたITスタートアップのエコシステムです。米国のトップ大学は世界から優秀な人材を集めつつ、移民社会がチャレンジする活力を生んでいます。私のスタンフォードMBA時代の同級生も、移民の両親が機械工をしながら教育に力を入れた結果、スタンフォード大学→CIA→業界トップのVC(かつスタンフォードMBAを働きながら取得)という成功したキャリアを移民2世として築いていました。ITスタートアップのエコシステムはここで語り尽くせないですが、上場株にも関係する話としては、スタートアップのM&Aが活発なところが大きな特徴です。Cisco, Salesforce, Adobeといった企業は老舗ですが、新興テック企業を買収することで持続的な成長に成功しています。こうした資金循環がスタートアップのチャレンジを加速しつつ、上場企業の技術進歩にも貢献していると言えます。少し前までは中国のテック企業の成長が凄まじく、世界を中国企業が席巻するのではないかと言われましたが、その後グローバルに広がる様子は見えず、イノベーションの世界は米国の一極構造が続いています。イノベーションの中心地として米国を代替できる存在が見えてこない中では、世界全体での技術進歩の果実を米国が最も大きく享受する構造が続き、米国企業の成長率への追い風は変わらないと言えます。株主還元の徹底した経済構造米国の資本市場(=機関投資家・ファンド)は企業に株主還元を強く求めるため、上場企業で非効率な経営は放置されず、経営陣の交代も頻繁に起きます。こうした経営の効率化に加え、成長投資のない内部留保や余剰アセットの保有を企業に許さないプレッシャーがかかり、利益の株主への配当還元も優先されます。成熟した米国よりも経済成長率が高い国もありますが、新興国では経済成長の果実を投資家が得る前に、政府が取っていったり(国有企業などがある場合)、消費者に配分されるケース(価格統制など行われた場合)も見られます。例えば、中国経済は過去5年間で年間平均5%弱で成長していますが、中国の代表的な株式指数の1つである上海総合指数は過去5年間で9%も下落しています。投資先企業に対する影響力が皆無の個人投資家にとって、激しい競争の中で全ての株主に対して全力で還元してくれる米国企業は、お得な投資先と言えるでしょう。内需と利下げ余地に支えられたマクロ経済の頑健性グローバルで稼げるテクノロジー企業の成長を背景に、米国の内需も活発です。こうした内需が非テクノロジー企業の業績向上にも貢献し、経済全体が強い状態が続いています。経済が強すぎるが故に、米国は高いインフレを引き起こし、2022年頃から大規模な金融引き締めが進んで現在に至ります。足下では金融引き締めが効果を出して、インフレ鎮静化傾向が見えてきたのですが、同時に製造業中心に企業業績にも翳りが見えています。これが景気後退懸念として、2024年の米国株式市場を不安定化させている大きな要因です。しかし、現状FRBはまだまだ金利引き下げの余地を残しており、経済を刺激できる状態です。インフレ鎮静化と景気拡大の継続を両立する「ソフトランディング」を実現することをFRBとして目指していますが、仮に一時的な景気後退に入ったとしても、利下げで景気回復を進められる見通しは高いと言えます。こうしたマクロ経済の頑健性が、金融危機やコロナショックのタイミングと異なり「出口の見えない不透明性」を排除しているのも強みです。米国株投資のリスク為替変動の影響は一旦考慮せず(直近では日本株相場も円高の時に下がる傾向にあり、米国株投資だけの話でもないため)、米国株相場の観点から米国株に投資することのリスクを解説します。短期的なリスク:高まりすぎた期待値との調整短期的な市場変動は、企業業績や米国経済全体の成長といったファンダメンタルズ(本質)では決まらず、株式市場の需給で決まります。これを大きく左右するのが、アクティブに運用している機関投資家やヘッジファンドです。米国株式市場の短期的な変動は大手投資家のセンチメント(今後の市場動向に対する見立て・温度感)が大きな要因となり、その方向性次第で短期的な株価下落のリスクがあります。2023年後半からの米国株市場は、Magnificent7と言われる大型テクノロジー企業7社に資金を入れておけば上がっていく相場環境で、短期的・裁量的な売買を繰り返すヘッジファンドも「Magnificent7のロング(長期保有)」戦略を取っていました。こうした資金集中が2024年の大型テクノロジー株の上昇を支えていた面もあるので、この高まりすぎた期待値が修正され、ヘッジファンドの資金が離れると短期的には株価が下落するリスクがあると言えます。しかし、こうした株価下落は短期動向なので、企業業績が健全に伸びていれば一定の株価上昇は見込めるものとして、心配しすぎることはないと言えます。中期的なリスク:米国経済の景気後退局面中期的なリスクとしては、米国経済が金融引き締め後のソフトランディングに失敗し、景気後退局面入りすることです。以前に記事でもまとめていますが、景気後退入りした場合、平均10ヶ月間程度は株価の上がりにくい状態が継続することになります。FRBが利下げをするのは確定路線なので、焦点となるのはFRBの利下げスピードです。インフレを沈静化しつつも、縮小しつつある米国景気の底上げに間に合うかどうかが今後の大きなポイントになります。利下げは2025年にかけて行われると予想されるので、市場予測ベースでは2025年中までに45%程度の確率で景気後退入りするリスクがあると見積もれば良いでしょう。長期的なリスク:テクノロジーでの敗北長期投資目線で最も注目すべきなのは、米国株投資の強みの源泉であるイノベーションの中心地としての地位が今後も安泰かという点です。今後、他の国や地域が世界の技術進歩をリードするようなトレンドが生まれれば、その地域により重点的に資産を配分した方が有利となります。長期的なリスクなので、はっきりと顕在化したタイミングを言えるわけではありませんが、以下のようなポイントに注目しておくと良いでしょう。まず、日常生活の前提となっているテクノロジーやサービスに占める米国企業の割合が減っていかないかという点です。例えば、クラウドサービスやモバイルOSに米国企業以外の大手テクノロジー企業が占める割合が増えてきたら、それは危険な兆候といえます。次に、大きな技術革新のタイミングで米国以外のテクノロジー企業が台頭してこないかという点です。過去の米国経済の急成長は、GAFAをはじめとした現在の大型テクノロジー企業の台頭で説明されるため、次世代のこうした企業が米国から出続けなければ、長期的な成長に翳りが出ると考えられます。運用先として他のオプションはあるのか株式指数の間での比較過去10年、過去5年での各国指数の推移を下記で計算しました。過去10年では、NASDAQ>S&P500・ブラジル株式・インド株式>日経平均>ヨーロッパ株式>中国株式過去5年では、インド株式>NASDAQ>S&P500>日経平均>ヨーロッパ株式>ブラジル株式>中国株式という結果になりました。株式で見ると米国株・インド株への投資リターンが最も高かったことになります。IXIC:NASDAQ、SPX:S&P500、NIKKEI:日経225、SX5E:ユーロ株式指数、DAX:ドイツ株式指数、HSI:香港ハンセン指数、NIFTY:インド株式指数、IBOV:ブラジル株式指数10年推移(2015/3/10-2024/9/9)5年推移(2019/12/31-2024/9/9)アセットクラス横断の比較また、他のアセットクラスとして、債券や不動産のような商品で固定利回りを得ると考え、安定利回りとして年率+3%くらいをベースレートとしておくと、5年間で+16%、10年間で+34%くらいの成長率になります。S&P500の成長率は過去5年で+69%、過去10年で+167%なので、株式は価格変動があり短期ではロスが出ることもありつつ、長期の運用では固定利回り商品に比べて大きな差がつくことになります。全く違う観点で金に投資すると考えてゴールドETFの値動きを見ると(計測期間は先ほどの株式指数比較と同じ)、過去5年間で+62%、過去10年間で+107%と、この期間でのリターンはS&P500には及ばないものの、実はかなり良かったことになります。結論:長期投資のコアは米国株優位で揺るがず過去リターンの結果からは、一部の新興国や金は有力なオプションにもなりつつ、米国株のリターンの高さが際立っていました。このことから、短期的な安定性を求める(=近いタイミングでの取り崩し・出金を考えている)場合以外は、米国株がリターンの観点からは有利だったと言えます。今後の見通しについては、長期的な成長性や経済構造⁨⁩は強いので、それが崩れるかどうかだけを見ておけば(特にイノベーションの中心地としてのポジション)、米国株を長期投資のコアとして据えることに、十分な優位性があると考えられます。

9月初日は大きな下落。過去データから予測する年末までの動き

9月初日は大きな下落。過去データから予測する年末までの動き

本記事では、厳しいスタートになった9月初日の米国市場を振り返り、過去データも踏まえて今後投資家が注目すべきポイントをまとめます。要約すると、①9月初日の下落は弱い製造業指数と9月アノマリーへの警戒が原因、②今月中の相場回復はFRB利下げと経済指標のサプライズ次第、③年末に向けては好材料が多い見通し、となります。弱い製造業指数を受けて9月初日は大幅下落9月3日の米国市場は、S&P500が2.1%下落、NASDAQ総合が3.3%下落し、月初の取引日での下落幅としては2020年以来の大幅下落となりました。特にNVIDIAは10%近い下落で、時価総額が2790億ドル減少し、米国企業の1日の時価総額減少としては最大記録を更新しました。市場のボラティリティ(変動性)を示すVIX指数も、33%上昇して20程度まで上がっています。この動きの背景には、昨日発表されたISM製造業指数が7月よりも上がったものの低い水準となり、新規受注の減少や在庫増から、製造業の低迷がしばらく続くことが予測され、市場全体に不安心理が広がったことがあります。また、9月は歴史的に株価パフォーマンスが悪いというアノマリー(規則性)が存在し、9月に入って投資家がこの動きを警戒したとも見られています。出所:Marketwatch9月の相場は利下げ動向と経済指標次第か歴史的にパフォーマンスの悪い傾向にある9月ですが、過去平均で見ると1%下落くらいが平均であり、初日の大幅下落から回復する可能性は十分にあると言えます。8月にも大きな相場下落があり、一時的に市場は恐慌状態に陥りましたが、その後懸念が晴れると株価は元の水準に戻っていきました(日本の個人投資家は円高がかなり進んだので、それでもマイナスとなりましたが)今年の9月は17−18日にFOMCが予定され、FRBがここで長らく期待されていた利下げを発表する見込みなので、利下げ決定とその後の見通しに対するFRB高官からのコメント次第で、株価が上昇する材料となります。一方、今後出てくる経済指標次第では、景気後退懸念が再燃するため、株価のリバウンド上昇は限定的になる恐れもあります。9月3日のISM製造業指数で雇用は改善していたことから、今のところ経済全体での景気後退懸念を示唆する内容ではありませんが、今後の指標には注意が必要です。足下は厳しいが年末に向けては好材料以前に米国市場のアノマリー記事で解説したように、大統領選のある年の米国市場は選挙前の9−10月は様子見の相場が続きますが、選挙が終わって大統領が決定した後から年末にかけて株価が再び上昇に転じる傾向にあります。大統領選後の情勢安定化・上昇トレンドを抜きにしても、Labor day(9月2日の米国祝日・市場休場日)から年末までの株価パフォーマンスを見ると、過去50年の平均では3%程度の上昇が観測されています。出所:Marketwatchまた、ほぼ確定となっているFRBの9月利下げに続き、さらに年内1−2回の追加利下げの可能性もあることから、年末に向けては好材料が出る余地はまだまだある状況です。足下の急激な株価下落で不安になるかも知れませんが、歴史的な8月暴落後に株価が復調した動きも思い出し、是非皆さんには長期目線での資産運用を継続いただければと思います。

決算結果が予想を上回るも株価は下落?24/8のNVIDIA決算の市場への影響

決算結果が予想を上回るも株価は下落?24/8のNVIDIA決算の市場への影響

こんにちは。ブルーモ証券代表の中村です。米国時間8/28の市場閉場後に、注目されていたNVIDIAの24年5-7月期決算が発表されました。結果は市場予想を上回ったものの、NVIDIAの株価は閉場後の時間外取引で6%程度下落しています。本記事では決算結果の紹介と、今後の市場に与える影響について分析していきたいと思います。NVIDIA決算の結果今期決算内容のサマリー売上:300億ドル(予想は287億ドル)EPS:68セント(予想は65セント)現四半期の見通し:中間値で325億ドル(予想は317億ドル)自社株買い:500億ドル分を追加NVIDIAの売上は過去1年間で2倍以上になっており(+122%)、業績に関しては引き続き強い内容でした。NVIDIAの四半期売上推移グラフ出所:Barron's決算後の会見での発言決算後の会見で事業に関するポイントをまとめます。データセンター売上成長の鈍化:売上の8割以上を占めるデータセンター事業で、四半期成長が+16.4%で、前四半期の+22.6%に比べて鈍化した。大きな取引先である中国市場が、輸出規制もあり厳しい状況にあると発言。新商品Blackwellの見通し進展:新しいAI半導体チップBlackwellの出荷遅延は生産効率を向上させるための仕様変更によるものだったと発表。第4四半期から本格的な出荷・売上計上が始まり、来年にかけて広がっていくと発言。営業利益率は高水準を維持:NVIDIAの営業利益率は62%と高い水準で、S&P500の情報技術セクターの67社中では2番目に高い。1年前の50%からは大幅に上がっているが、前四半期の64%からは僅かに下がった。今後の株式市場への影響NVIDIAに対する過剰期待の落ち着き2024年の株式相場はNVIDIAの急成長に牽引されていましたが、どんな事業でも永続的に指数関数的な成長を続けることは不可能で、どこかで成長は鈍化していくと考えるのが合理的です。NVIDIAの場合、業績は好調なものの、高すぎる期待に対する調整が入ったのが今回決算だったと言えます。市場全体への影響はどうかというと、決算後のNVIDIA株価変動の方向とS&P500指数の変動の方向が一致したのは、過去8回の決算中4回だけです。NVIDIA株価とS&P500指数の相関係数は0.65(1が完全に同じように動き、-1が完全に逆に動く)なので、連動はしているもののそこまで一致はしていません。なので、NVIDIAをはじめとするとMagnificent7の株価が急上昇した近年の相場環境では市場全体への影響は大きかったですが、今回のNVIDIA決算と株価下落によって市場全体が大きく下落していくとまでは言えないと考えます(仮に決算が予想を下回っていたら、AIエコシステムや経済全体への懸念から、市場全体への下落圧力になりましたが、決算自体は予想以上の内容でした)。市場は利下げによる全体底上げ型の上昇相場に入れるか次第Magnificent7の株価急上昇という上昇ファクターは薄れつつある米国市場ですが、9月の利下げに伴う市場全体底上げ型の成長余地は残されていると考えられます。そして、利下げに伴う上昇相場が来る場合、小型株や半導体以外のセクターでも成長が期待できると考えられます。その意味で、今回の決算結果はNVIDIAに頼った成長からの調整・転機であり、投資家としては広範な市場の成長に期待しつつ、FRBの金融政策により注目すべき環境になったと言えます。

5年に1度の相場下落?個人投資家にとってピンチかチャンスか

5年に1度の相場下落?個人投資家にとってピンチかチャンスか

過去1ヶ月間を振り返ると、7月上旬の最高値から相場は大きく下落し、個人投資家の資産も大きく目減りしていますが、実は日本の個人投資家にとって今回は5年に1度くらいの大きさのインパクトでした。本記事では、過去の相場動向・景気循環の歴史・資産別での変動を分析することで、①今回は日本の個人投資家には5年に1度のイレギュラーだった、②下落のダメージは分散していた投資家ほど小さかった、③5年に1度の相場下落でも慌てず「長期・積立・分散」を継続すべき、点を解説していきたいと思います。日本の個人投資家には5年に1度のイレギュラーだった株安・円高が重なり、日本人にとってコロナショック以来の相場下落2024年7月から1ヶ月間の相場下落は、過去10年の円建てS&P500の推移で見ると、2020年のコロナショック以来の下落幅だったことが分かります。下落率で比較をするとコロナショック当時(2020/2/20-2020/3/23)の下落率は-34%、今回下落(2024/7/10-2024/8/5)の下落率は-18%と、それでもコロナショックの時の方がインパクトは大きかったです。一方、ドル建てS&P500はここまでの下落になっていないので、今回下落は「株安」と「円高」が重なったことによるダブルパンチが問題の本質でした。円建てS&P500のチャートドル建てS&P500のチャート出所:S&P Globalまた、米国市場としてはコロナショックと現在までの間に「FRB利上げ」によって株価が低迷した時期があった(2022年)のですが、その時期はちょうど円安が進行していたため、日本の個人投資家は円建てで資産を見た時に大きなロスは出ませんでした。ドル円と米国株式の変動方向が揃ったことが、今回下落が日本人にとって「コロナショック以来」の出来事になった背景にあります。過去10年で見ると「コロナショック」「今回の円高・株安ショック」が2つの大きな暴落で、さらにその前10年間を振り返ると「ドットコムバブル崩壊」「リーマンショック」があるので、今回下落は「5年に1度」と呼んで良い相場変動だと言えます。今回の相場下落が続くかは米国経済のソフトランディング次第景気には拡大期と後退期が存在し、現在は2020年4月以降の景気拡大期と捉えられています。FRBの利上げによるインフレ抑制が、この景気拡大期を終わらせて米国経済が景気後退に入るかが、相場の低迷が続くか上昇に戻るかの大きな岐路になります。「ハードランディング」シナリオは、FRBの高金利政策継続の影響で米国経済が景気後退に入るパターンです。この場合は平均10ヶ月間ほど経済活動が停滞し、株価の上がりにくい状態が続くことになります。このシナリオに対する懸念から、直近の株式市場は乱高下していました。「ソフトランディング」シナリオは、景気後退を経ずにインフレ率が下がり、米国金利が低下して景気拡大が続くパターンです。過去最長では10年間も景気拡大が続いたことがあるので、長い場合だと2030年まで景気拡大となることもあり得ます。過去には、1991−2001年の景気拡大期は、途中でFRBが利上げをしても景気後退を起こさなかった「ソフトランディング」が成功した事例として有名です。8月12日現在の最新見通しでは、JP Morganが年内の景気後退入りの確率を35%、2025年下半期までの景気後退入りの確率を45%と見込んでいます。出所:JETRO(日本貿易振興機構)今回下落のダメージは分散していた投資家ほど小さかった債券や金を組み込んだポートフォリオのダメージが比較的小さかった2024年7月10日を相場の頂点として、2024/7/10-2024/8/9の1ヶ月間の資産別の株価変動を比較したのが以下のグラフです結果はダメージの小さい方から、金(GLD)が+2.37%、米国短期国債(SHV)が+0.06%、世界株式・オルカン(VT)が-4.19%、S&P500(VOO)が-5.04%、FANG+(NYFANG)が-13.47%、日経平均(NIKKEI)が-16.96%、NVIDIA(NVDA)が-22.36%で、この期間のドル円は-9.31%でした円高を避けて日本株式に投資していたら良かったかというとそうでもなく、日本株は過去1ヶ月の間に-16%も下落しており、米国株式や世界株式と比較しても大きなマイナスとなっています。円高効果と合わせてS&P500に投資しているのとマイナスは大きく変わりませんでした。S&P500かオルカンかも大きな論点ではなく、オルカンの構成要素で米国株式が6割で、米国市場が落ちる時は世界的にも株価が落ちるため、誤差程度の差分しか出ていません。株式の集中という意味では、NVIDIA単体に投資していた場合はドル建てで-20%(円建てではおよそ-30%)と、かなり大きなマイナスになりました。一方、テクノロジーセクターに集中したFANG+インデックスは-13%、S&P500指数では-4%と、分散するほどにマイナスが小さかったことが分かります。さらに異なるアセットクラスで見ると、債券はほぼ変動せず、ゴールドはむしろやや上昇と、下落局面において全く異なる動きを見せています。債券や金をポートフォリオに入れてリスクヘッジしていた場合、ダメージを緩和できていた可能性が高いです。まとめると、今回のような下落局面では当たり前ですがリスクの高いポートフォリオほどマイナスが大きく、ダメージの大きさとしては「テック株集中」>「株式分散」>「バランス型(債券・金など組み合わせ)」という順番になりました。相場下落時にダメージを抑える効果のある資産については以下記事も参考にしてみてください。時間分散できていた投資家はインパクトが小さい保有資産の分散度合いでインパクトを分析しましたが、加えて投資タイミングの時間分散についても考えます。ポートフォリオの中身以外の観点から、今回の相場下落で「勝ち組」だった投資家を分類すると、以下のように整理できます。①大幅下落時に資金投入できた人:日経平均が歴代1位の下落幅だった8月5日など、大きく相場が落ちたタイミング(その後反発上昇するタイミング)で資金投入できた投資家は、全体がマイナスの期間でもプラスのリターンだった可能性があります。実際に8月5日の開場時に投資した場合、S&P500は1週間で4%も上昇しています。②投資余力をまだ残している人:まだ相場が底をついているか不透明なこともあり、今後追加で資金投入する余力を残している投資家は、下落からの回復局面でリターンを得られる可能性があるので、資金投入の時期次第ではリターンを向上させられます。③積立投資をしている人:そもそも積立で定期的に投資しているタイプの人で、いつ市場が底を打っても特定の一時点で集中投資する場合に比べてリターンが平準化されます。今回のような下落局面においても買いを継続的に入れているため、リターンにプラスの影響があったはずです。また、これまで投資してきた人は今回ショックで大きくダメージを受けていますが、最近投資を始めた人(まだ資金をそこまで投資に回していない人)は傷が浅いので、実は最近投資を始めた(これから始める)人にとっては有利な環境でもあります。5年に1度の相場下落でも慌てず「長期・積立・分散」を継続投資をやめたり、リスクの高い取引に走らないこと今回のような大幅下落に直面して、個人投資家として「やるべきではないこと」は以下のような行動になります。①投資をやめてしまうこと:今回の下落を受けた損切りで投資をやめてしまうことです。資産運用は下落時も上昇時も保有し続け、長期で負けないことが大事なので、下落局面でも歴史から長期の上昇を信じて投資し続けましょう。また、一度投資から資金を引くと、日々忙しい中で市場をチェックして再び戻ってくることは難しいです。②短期逆転トレードを狙うこと:一時的な損失を取り返すため、ハイリスク・ハイリターンな取引に手を出すこともお勧めできません。具体的にはレバレッジ型の取引や上下の激しい小型株への集中投資が挙げられます。今回の相場下落は、分散していれば-20%くらいの減少でしたが、さらにレバレッジがかかっていると-60% 超の下落となり、そこから巻き返すのにはかなり時間がかかってしまいます。※ 参考:24/7/10-24/8/9でSOXL(半導体セクターの3倍レバレッジETF)に投資した場合、ドル建てでも-54%の下落となります(円建てでは-60%以上)③上昇した銘柄を後追いすること:市場全体が下落する中でも、決算結果が良好だった銘柄などは上昇することがあります。こうした銘柄はいつも以上に目立ちますが、後追いで投資してもそこから短期での株価上昇は難しいケースもあります。「この企業は長期的になくならそうだから」でも「ブランドが好きだから」でも良いので、足下の株価上昇以外で自分が納得できる理由がある場合に投資すると良いでしょう。相場を気にしすぎず、積立投資でどっしり構えるくらいが良い最後に、今回の下落相場と足下で不安定な市場動向を受け、個人投資家の資産運用としてのアドバイスを3つご紹介します。①短期の変動を気にしすぎない:自分の資産変動はどうしても気になりますが、長期目線の投資であれば短期変動は気にし過ぎないことも大事です。本記事のようなコンテンツも気になる方のために書いていますが、資産運用の方針がクリアならそこまで日々のニュースを追わなくても良いです。②積立投資で下落相場の果実を得る:今後の相場がどちらに転んでも勝てるように、積立投資で定期的に資金投入するとリターンが安定するのでお勧めです。株安・円高のニュースが入った場合でも、「定期的に投資するタイミングで安く買えて良いか」とも思えるので、精神衛生上もプラスです。③投資余力あれば下落時に追加投資:まだ投資余力のあって相場動向も追いたい方は、さらなる下落があったタイミングで追加的に資金投入して、銘柄の平均取得単価を下げることも効果的です。ただ、相場の底を見極めて投資実行するのはかなり難しいので、ある程度下落した時に入れられていたらプラスくらいに捉えると良いでしょう。ブルーモで資産運用されているユーザーも長期目線の方が多いので、相場下落時もむしろ追加投資する方がいたり、最近リリースされたリバランス付き自動つみたて投資機能を活用される方が多いのが特徴的でした。資産運用の原則である「長期・積立・分散」については、以下記事もご覧ください。

日経平均は歴史的暴落。今後の長期投資で気をつけるべきこと

日経平均は歴史的暴落。今後の長期投資で気をつけるべきこと

8月5日の市場で日本株は大きく下げ、日経平均は下落幅-4451円(歴代1位)、下落率-12.4%(歴代2位)と、歴史に残る暴落の日となり、その余波は世界全体に波及していきました。本記事では、①今回の暴落で何が起きたか、②過去の暴落との比較、③今後の長期投資で気をつけるべきこと、を解説していきたいと思います。はじめに:相場下落時も「長期・積立・分散」が大事今回のような大きな暴落があった時でも、目的が資産運用であれば「長期・積立・分散」を守り、相場が下がった時ほどむしろ安く買えるチャンスと捉え、積立投資ならやめないことが重要です。8月5日の日経平均暴落後、鈴木財務大臣の記者会見コメントで以下のように発信しています。「新NISAをきっかけに投資を始めた方々に動揺が生じているという報道を目にしている。新NISAについては、相場の下落等の市場変動が進む中にあっても、長期・積立・分散投資の重要性を考慮して、冷静に判断していただきたい。金融庁としては、長期・積立・分散投資の重要性について広報・周知を行うとともに、国民の皆さんの金融リテラシー向上に向けて、関係方面と連携してさらに取り組んでいきたい」ブルーモでも、「長期・積立・分散」の重要性について解説した記事をリリースしているので、そちらも是非ご覧ください。今回の暴落で何が起きたか8月5日:日経平均の暴落を皮切りに世界全体で株安前週金曜日に公表された米国失業率が予想より悪かったため、米国には景気後退の懸念があり、日本市場も月曜日は下落すると見られていました。しかし、始まってみると日経平均は想定以上の大幅下落となり、早々にTOPIXでサーキットブレーカーが発動され、市場はパニック状態になります。また、米国市場の不安定化が円キャリー取引(金利の低い円を借りて米国で投資すること)のポジション縮小につながり、8月5日は円高もさらに進行して、開場時の145円が一時的に141円台までいきました。円高が進むと企業の業績不安から一層株安圧力となり、結果的に日経平均は-12.4%というブラックマンデー以来の歴史的な暴落で終わります。米国の景気後退不安と、時差から開場の早かった日本市場での歴史的な暴落を受け、アジア・ヨーロッパ市場も全体的に株価が下落します。特に韓国・台湾は8−9%と大きな下落幅でした。米国市場も下落から始まり、ISM非製造業指数の結果が予想を上回ったことでやや持ち直したものの、S&P500は-3%、NASDAQは-3.4%の下落で終えています。レバレッジのかかった市場構造が下落を拡大した今回の暴落は、ファンダメンタルズ(根本的な)要因としては、米国の景気後退懸念と中東情勢の悪化があります。しかし、株価がここまで急落したのには日本市場を取り巻く2つのレバレッジ取引があったと考えられます。それは「ヘッジファンドの円キャリーへのレバレッジ」と「日本の個人投資家の信用買い」です。1つ目は、円キャリー取引を行っていたヘッジファンドは利幅を増やすため、更にレバレッジをかけていました。今回の円高と米国市場不安定化に伴いポジションのリスクが上昇したため、ファンド全体のリスク管理の観点から、彼らは通貨以外の資産でもレバレッジを解消し、様々な株が売却されました。2つ目は、日本の個人投資家が上昇相場の中でレバレッジをかけた取引を続けており、信用取引の買いポジションは18年ぶりの高水準となっていました。8月5日の想定外の相場下落で、このポジションに対して追証(借入を維持するために追加で現金を拠出しないといけなくなること)が発生し、差し入れられないと判断した個人投資家の投げ売りが発生しました。この2つのレバレッジ取引の構造が、日銀の追加利上げと米国市場の不調により崩れ、一気に大きな下落へとつながったと考えられます。過去の暴落との比較過去の日経平均暴落と比較以下が過去の日経平均下落率ランキングです。1位はブラックマンデー(香港市場の下落に端を発したNY市場の大幅下落に引きずられた暴落)、3位はリーマンショック、4位は東日本大震災です。それ以降はやや古いものもありますが、5位はスターリン暴落(スターリンの死後、ソ連の政策転換による軍需減少を想定した暴落)、9位はスイスIOSショック(スイスの投資会社が日本株を売却するという噂を発端とする下落)、10位は英国のEU離脱ショックです。出所:日経平均プロファイルこれらを大きく分類すると、①自然災害・戦争(東日本大震災)、②金融危機(リーマンショック)、③一時的な市場動揺による下落(その他)、となります。今回の暴落は特に災害や金融危機を原因とするものではないので、この勢いで落ち続けたりする(リーマンショックのように)ものではないと考えるのが妥当でしょう。③のパターンで例えばブラックマンデーだと3ヶ月後には暴落前高値を更新して、日本経済はバブル景気に入っていきました。過去の米国株式市場の下落と比較日本の日経平均の暴落は、世界的な危機の発生ではないように見えるので、特に米国株に投資する個人にとって気になるのが、米国市場の停滞はいつまで続くかという点です。今回は特にどこで底をつくか(最大下落幅に達するか)を見ていきます。過去の米国株式市場の大幅下落イベントを以下で比較しています。金融危機と自然災害は動きが異なるので除いて、ドットコムバブル崩壊とFRB利上げショックを詳細に分析します。米国株市場にとってのワーストケースは、今回の相場上昇が「AIバブル」であり、その崩壊とともに2000年のドットコムバブル崩壊と同程度の影響が出る場合です。この点については、市場が最高値だった24年7月時点においても、テック株はドットコムバブルの最高潮と比較すると割安に評価されていたので、現時点では経済全体の停滞につながる可能性は低いと見られています。では、次にFRB利上げショック(FRBの急速な利上げにより、テック株を中心に株価が大幅下落したことを指す)と比較をすると、当時はインフレ率が高く、FRBとして利上げを緩めるオプションはなかったことから、株価の停滞打破は企業業績のみに依存した状態でした。それに比べて、2024年8月5日時点の市場は、FRBが利下げ余地を残しつつ景気は沈静化してきており、この沈静化が景気のハードランディングにならないか懸念されている状態です。よって、FRBにはまだ利下げによって経済を刺激する余地があるため、停滞状態を打破するチャンスは2022年当時より大きいと言えます。今後の長期投資で気をつけるべきこと冒頭でも紹介したように、「長期・積立・分散」の原則を守ることが大事で、その上で注目すべきポイントをいくつか紹介します。まず、相場を読み切るのは不可能な前提で、絶好の買い場となる下落時の投資機会を逃さないため、下落途中でも(むしろ下落途中こそ)積立での投資を継続していくことが重要です。過去の事例をみると、①一時的なショックで数ヶ月で市場は最高値に戻る(ブラックマンデー後の日本市場のケース)、②停滞が継続して年末年始ごろに底値になる(FRB利上げショックのケース)、③経済が長期停滞して2年後に底値になる(ドットコムバブルのケース)、というのが起こり得るオプションです。もし、定期的な積立投資だけでなく、機動的に資金投入する場合、現在のマーケットが①~③のいずれにいるかを判断することが必要です。今後の経済指標、テック企業の決算、FRBの金融政策は、基本的なことですが大きな変数なので、ある程度見ておくと追加での資金投入をする際の参考になると思います。個人投資家の皆さんには、生じている危機の正体と影響範囲を冷静に理解して、合理的な投資行動をとっていただければ幸いです。

相場下落時に振り返る、資産運用の王道「長期・積立・分散」

相場下落時に振り返る、資産運用の王道「長期・積立・分散」

本記事では、相場が不安定で心配になる方向けに、資産運用の王道である「長期・積立・分散」の原則を紹介したいと思います。資産運用の王道は「長期・積立・分散」資産運用では「長期・積立・分散」の3つの原則が大事だと言われています。一時的な相場下落の影響は避けられない前提で、それでも資産運用を成功させるためのコツを紹介します。大前提として「ハイリスク・ハイリターンの一発逆転」を狙うのではなく、「負けずに長期的に一定のリターンを出す」ことを目的としています。長期投資であれば負けにくい過去の米国株市場を振り返ると、「15年超の長期で切り取ればどの期間でもプラス」ですが「短期で切り取るとマイナスになる場合もある」ということが分かります。つまり、時間軸が短期であればリターンを出すのは相場次第となり難しいですが、時間軸が長期であればリターンを出せる確率は上がります。実際に、今回の調整局面よりも遥かに世界全体に暗雲が立ち込めていた2007年のリーマンショックの場合、株価の下落幅は50%を超えていますが、それでも6年間で相場は回復しています。つまり、リーマンショック前の最高値で投資をしても、6年待てばリターンはプラスになることが分かります。しかし、これは一時的にマイナスが出ても、長期投資を継続して待つ必要があることを示してもいます。長期投資目線で、一時的な相場下落があっても辞めずに続けられるかどうかが、資産運用のスキルとしては重要です。つみたて投資をすれば相場の影響は受けにくい「安値で買って高値で売る」は理想ですが、相場を読み切って実行するのは限りなく難しいです。資産運用の観点からできるリスク回避策は「高値のタイミングでまとめて投資することを避ける」ことになります。例えば、先ほどのリーマンショックの例だと、ショック直前の高値のタイミングで全額を投資した場合、回復するまでに6年間かかりますが、高値の前後にタイミングを分散して投資することで、資産全体をプラスにするスピードをあげることができます。これは、「一番安い時に全額投資する」という最も大きいリターンを得られる可能性を捨てることで、「一番高い時に全額投資する」という最も大きい損失を出す可能性も排除することを意味します。なので、資産運用では「一気に投資する」ではなく「積立で徐々に投資する」ことが大事であり、その観点からブルーモでも「リバランス付き自動つみたて投資機能」をリリースしています。また、このように定期的に一定額を入金して投資する手法は「ドルコスト平均法」と呼ばれています。相場に関わらず一定額を定期的に入金することで、値下がりした時は多く、値上がりした時は少なく資産を買付け、平均購入単価(投資元本)を抑える効果が期待できます。つみたてすると下落局面でも感情に左右されず買い付けられるので、相場下落時の購入チャンスを逃しにくいというメリットがあります。ポートフォリオを分散することでリスクを下げられる資産運用する上での最後の原則は「ポートフォリオのリスク分散」です。価格変動の大きいテクノロジー企業の株を集中保有するポートフォリオは、当たればリターンは大きいですが、下落局面では大きな損失を出す可能性があります(これが「リスクが高い」という意味になります)。リスクを抑えたポートフォリオを作ることで、相場下落局面でも影響を限定的にすることが可能です。実践的に紐解くと、ポートフォリオのリスク分散をする上で重要なファクターは「銘柄の数」「銘柄の価格変動の大きさ」「銘柄同士の相関」になります。「銘柄の数」を増やすためには、ブルーモであれば個別株でも1%単位から細かく銘柄を組み込むことができますし、より簡単にはETFを組み入れることで投資する銘柄数を簡単に増やすことができます(ETFは数十から数千の銘柄に分散投資しているため)。「銘柄の価格変動の大きさ」を抑えるためには、個別株であればテクノロジー株だけではなく高配当株を組み入れたり、株式だけでなく債券のETFも組み入れることが有効です。「銘柄同士の相関」を抑える(=ある銘柄が下落する時に他の銘柄は上がるようにしてリスクを相殺する)ためには、個別株であれば業種を分散して保有したり(テクノロジー株とエネルギー株など)、米国株と価格の相関の低い資産を組み入れたり(債券・金・グローバル株式など)することが有効です。下落相場は初心者が資産運用を身につけるための試練今回のような相場下落は必ず定期的に発生します。直近では、コロナショックや2022年の米国利上げのショックで市場は大きく落ち込みました。短期的に資産が目減りすると損失に怖くなり、資産運用を中断するパターンもありますが、一度資金を引き上げると戻ってくるハードルも高いです。「もっと下がるかも」と待っている間に株価が上がって資金を入れにくくなり、そのうち日々の忙しさの中で忘れ、結果的に資産運用を続けられなくことが多いです。今回紹介した「長期・積立・分散」の原則を守れば、過去に例のない世界的な災害などが起きない限り、マイナスで終わる可能性は低いので、原則を信じて資産運用を続けていただきたいと思っています。2024年夏の相場下落を振り返る最後に、2024年の上昇相場は7月中旬から大きく調整局面に入り、特に日銀の利上げもあった7/29-8/2の市場は円高と株安が重なり、資産価格が急激に落ち込むことになりました。大きな相場下落前の環境(2024年7月頭まで)を整理すると、株式市場はAI普及の加速によりNVIDIAを筆頭とする半導体銘柄の成長に牽引されていた米国の大型テクノロジー銘柄の占める時価総額比率は歴史的高水準だったFRBの利下げ延期に加えて日銀の利上げ遅れにより歴史的な円安が続いていたという状況でした。こうした中、米国企業の第3四半期決算の内容が振るわず、経済指標も予想より悪化していたことで、米国の景気後退リスクが意識されました。これにより、1と2で過熱していた市場は一気に反転下落が始まり、米国市場全体の大幅下落につながりました。また、日銀の利上げが予想以上に早く実行されたことにより、急速に円キャリー取引が巻き戻され(円を借りてドルに投資する取引が解消され)、急速な円高が進みました。今回の相場下落は、戦争・パンデミック・金融システム危機のような世界的な災害が発生したわけではなく、金融政策とAIでの相場過熱が原因である点が重要です。状況が悪化すれば、FRBの利下げ幅の拡大や日銀のさらなる利上げ延期で経済を刺激するオプションもあるため、底の見えない落ち込みになるリスクは低いと考えられます。

日米金融政策は転換点。大型テクノロジー銘柄に資金は回帰するか

日米金融政策は転換点。大型テクノロジー銘柄に資金は回帰するか

7月31日のマーケットは、ドル円が1.7%円高に振れて149円台になる一方、NASDAQは2.6%の大幅上昇となり、7月全体を象徴するような大きく揺れる相場でした。本記事では、今後を占う大きな材料の出てきた7月30−31日の市場動向をまとめています。日銀利上げとFRB利下げで日米金利差縮小が決定的に日銀はサプライズでの追加利上げを実施日銀は7月30-31日の金融政策決定会合で短期金利目標を0.25%に引き上げ、早期の利上げとして市場にサプライズを与えました。結果、会合前に155円台だったドル円は、2日間で149円台まで円高に急伸しています。日銀の金融政策についてはこちらの記事もご覧ください。FRBは9月利下げ可能性に言及し、市場はほぼ織り込み7月FOMCの結果としては金利据え置きとなりましたが、これは市場予想通りでした。注目されたのはFOMC後のFRBパウエル議長会見ですが、「早ければ9月に利下げの可能性」という発言が出たことから、市場は9月利下げに対する確信を高めることになりました。9月までの経済指標の結果が最終的な利下げ判断につながることになりますが、FOMC直前に発表されたADP雇用統計は下振れ(=雇用者数が伸びていないので物価や景気にはマイナスの影響)しており、このタイミングの材料としては利下げにポジティブなものが出ています。大型テクノロジー株は半導体の好材料で少し回復AMD好決算とMicrosoftの設備投資から半導体市況の見通しが改善7月30日のMicrosoft決算で、MicrosoftがAI向けのインフラ投資を増額するとの計画を発表したことで、Microsoftを大口顧客とするNVIDIAの株価は12%以上上昇しました。また、31日に決算発表したAMDも、データセンター部門が予想を超える売上結果となり、前年同期比で115%の成長となったことから、半導体・AI関連銘柄全般が大きく上昇しました。M7決算は現状Metaのみ好調先週のTeslaとAlphabet決算が期待外れとなり、NASDAQに2年ぶりの大幅下落をもたらすトリガーとなりました。今週はMicrosoftとMetaが31日までに決算を終え、AppleとAmazonの決算も控えています。Microsoftの決算はクラウド部門の成長見通しが従来より1-2%低く出されたため、四半期の決算結果自体は良かったものの、単体としては期待外れになりました。しかし、前述のようにAIインフラに対する投資の言及があったため、市場全体に対してはポジティブな材料となっています。Metaの決算は、今期のM7決算としては初めて市場の期待を超えてきました。四半期の結果は予想を上回り、前年同期比22%成長する広告ビジネスでシェアを伸ばしている点や、レイオフによって利益率の改善効果が出ている点が評価され、決算後の時間外取引で株価は5%程度上昇しています。また、AIに対する投資の増額も発表しており、前日のMicrosoft決算と同様にこの内容が半導体銘柄の株価に影響を与える可能性もあります。

リスクオフとは?相場下落時の3つのオプション

リスクオフとは?相場下落時の3つのオプション

こんにちは、ブルーモ証券代表の中村です。米国株市場は近年右肩上がりで上昇していますが、上昇相場には「調整」と呼ばれる短期的な下落局面が必ず生まれます。これは、過熱した株価を適正水準に修正するような取引が生まれ、それまでとは逆方向に株価が揺れることを意味します。上昇相場の中で投資を始めた方も多く、下落局面を初めて経験する方もいると思うので、相場が下落した時にどうすれば良いのか、いくつか判断材料を提供できればと思います。ブルーモでは、リバランス機能によってポートフォリオの組み替えを簡単に実行できるので、今後の運用を迷っているユーザーの皆さんも是非読んでみてください。(最終更新:2024年8月)目次前提:長期投資であれば時間は味方リスクオフとは?「何もしない」以外の3つのオプションオプション1:株式に追加投資していくオプション2:安全資産の比率を高めるオプション3:一時的に安全資産に逃避する安全資産とは?おすすめのリスクオフ先米国短期債券ゴールド2024年の調整局面4月:米国利下げ延期見通しと中東情勢で、上昇相場に調整が入った7月:過熱した株価に企業業績が追いつかず、調整局面へ下落相場の中でも上がっているポートフォリオは?前提:長期投資であれば時間は味方まず基本的な部分ですが、長期で分散した投資をしている場合、足下の相場が下落しても慌てる必要はありません。投資期間が1ヶ月のような短期ではなく、10年以上のような長期であれば、世界経済が成長する中でリターンが出る確率は高いです。以下は当社HPにも掲載している過去30年の株式相場推移ですが、少なくとも米国市場は過去に大きなショック(ドットコムバブル、リーマンショック、コロナショック)もありましたが、長期的に株式市場は上昇しています。もう少し細かく月次のS&P500指数の動きから、各ショックの継続期間と下落幅をまとめたものは以下になります。足下の相場下落はここまで大きな話になっていませんが、ワーストシナリオを知る意味で参考になります。なので、長期的な資産運用をするのであれば「ここで投資をやめる」は得策ではなく、「何もしない」でも大きな問題はないです。ただ、足下の下落に対して何か動きたい方に向けて、いくつかのオプションを解説したいと思います。リスクオフとは?「何もしない」以外の3つのオプション投資用語で「リスクオフ」とは、投資家が相場の下落に備えて金融資産をリスクの高い商品からリスクの低い商品(安全資産)に移すことを言います。逆に「リスクオン」とは、投資家がリスクの高い商品に移行することを指します。足下の相場に対して「リスクオフ」をするかどうかは、今後の市場に対する見立てに依存します。以下に「何もしない」パターン以外の投資オプションを、市場への見立てによってまとめました。オプション1:株式に追加投資していく仮に足下の相場下落が一時的な場合、下落した価格で投資できるチャンスと考えることができます。投資からのリターンは、投資している銘柄の平均取得単価(投資時の株価平均)と時価の差分で生まれるので、株価が低い時に資金をたくさん入れると、当然ですが将来上昇した時のリターンも大きくなります。なので、投資銘柄の平均取得単価を下げるため、新たに現金を投入して追加投資することがオプションになります。注意点としては、株価の下落がさらに続く場合、追加投資分も含めてしばらく損失が出るので、相場の下げ止まりに確信が持てない場合、分割して徐々に資金を入れていくのが得策です。積立投資設定をしている方は、何も設定を変えないと基本はこのオプションで投資が続きます。オプション2:安全資産の比率を高める相場が下落しても影響を受けない安全資産のポートフォリオ比率を高め、相場変動に対する影響を中和するオプションで、今回のオプション1とオプション3の中間に当たります。具体的には株式・暗号資産・不動産といったリスクの高い商品を売却し、債券などのリスクの低い商品に投資するリバランスを実行することになります。相場変動への影響中和は下落時も上昇時も同じなので、相場上昇時のリターンも限定的になる点には注意が必要です。基本は一時的に安全資産の比率を高める想定ですが、今回のような相場下落に備え、安全資産をこの先もある程度組み込むのも良いでしょう。オプション3:一時的に安全資産に逃避する3つ目は相場下落に対して最も大きな動きになりますが、一時的にポートフォリオ全体を安全資産で構成してリバランスするというオプションになります。相場下落の影響は全く受けなくなるので、どれだけ市場が悪化しても資産が減ることはなくなります(安全資産そのものに変動がある場合を除く)。「ここで投資をやめる」に近いように感じるかも知れませんが、大きな違いは「一時的なこと」「安全資産からも一定のリターンを期待する」点にあります。「一時的なこと」とは、上昇のタイミングでのリスクオン(安全資産から株式等にリバランスすること)を実行し、上昇局面でのリターンを取り逃がさないことを意味します。このオプションを取る場合、いつ戻すかをその後も検討するのが大事です。安全資産とは?おすすめのリスクオフ先現金以外の安全資産として、ブルーモからも投資できる代表的なものを2つ紹介します。うまく活用すれば下落相場でも一定のリターンを期待できます。米国短期債券安全資産の一番代表的なものは債券(特に国債)です。債券は一定の利率を設定して発行された借入のための有価証券です。国債であれば借入元は政府なので、(特に先進国なら)債務不履行のリスクはほとんどなく、利率から安定したリターンを期待できます。今回の相場下落の大きな要因にもなっている「米国の高金利」ですが、これは裏を返すと米国の債券の利率が高いことを意味しています。なので、米国債に投資することで相場変動を回避しつつ、日本の金利よりは遥かに高いリターン(2024年4月時点で年利回り5%程度)を得ることができます。ただし、リスクオフを目的に債券投資する場合、気をつけないといけないのが「短期債であること」です。長期債の場合、金利が上がると価格が下がる関係にあるため、米国の利下げがさらに遅れるとそのタイミングで価格下落に直面するリスクがあります。ブルーモでも取り扱っている具体的な商品としては、「米国短期国債ETF(SHV)」と「米ドル建て投資適格変動金利ETF(FLRN)」がリスクの低さからおすすめです。米国短期国債ETF(SHV)残存期間1年未満の米国債に投資するETFで、流動性が極めて高いため、金利が上下してもほとんど価格が変動しません。過去5年間の値動きでも、+0.47%~-0.71%の間でしか動いておらず、ほぼ現金見合いとも言える変動の低さです。ここまで安全だとリターンも低そうですが、足下の米国金利の高さから分配年利回りは2024年4月時点で5.27%と、安全資産としては安定したインカムリターンを提供してくれます。米ドル建て投資適格変動金利ETF(FLRN)こちらは変動金利債に投資するETFで、投資債券の金利自体が市場水準に合わせて変動するので、金利の影響での価格変動は限定的です。こちらも2024年4月時点の分配金利回りは5.97%と、一定のインカムリターンを提供してくれます。SHVも同様ですが、短期債は金利が下落するとそれに伴い分配金利回りもすぐ下がるので、将来的にも年5%のリターンを約束されているわけではなく、金利下落局面(そしておそらくは株価上昇局面)での見直し検討は必要です。ゴールドもう一つの代表的な安全資産がゴールド(金)です。信用リスクのない(投資先が破綻したりがない)現物資産として、金はリスクオフのタイミングで買われる傾向にあります。最近は世界の中央銀行が運用先として金を買っていることから、さらに相場が上がっており、株式市場が下落する中でも金は上がり続けています。金に手軽に投資する方法は、ETFを購入することで、ブルーモでもゴールドETF(GLD)を取り扱っています。ゴールドETFは過去5年で83%上昇しており、過去1ヶ月間でも9.3%上昇しています。ただし、短期債と違って、金は現物資産の取引状況によって下落する可能性もあるので注意が必要です。資産価格の変動をどれだけ排除したいかで、短期債ETFにするかゴールドETFにするかを決めると良いでしょう。2024年の調整局面2024年の相場は年間で好調なものの、何度か調整局面が出ています。ここでは7月末時点での調整局面を紹介します。4月:米国利下げ延期見通しと中東情勢で、上昇相場に調整が入った2024年第2四半期は世界的に株式市場が調整局面に入り、4/15-4/19の1週間で米国のS&P500指数は3.8%下落、日本の日経平均も5%下落するなど、大きな市場変動が起きています。そもそもの話として、4月に入ってからの株式市場で何が起きているかを振り返ります。2024年の株式相場は、米国での利下げ期待により好調でした(上昇を続けていました)。利下げで企業業績が良くなり、株価上昇を見越した投資家が米国株への投資を進めたことで、相場全体が上がっていました。ここに「利下げ延期見通し」と「中東情勢の不安定化」が飛び込んできました。「利下げ延期見通し」は、米国経済の強すぎる指標(物価指数など)が明らかになることで、FRBが利下げを予想通りには実行できない見通しが出てきたことを意味します。経済が強いのは良いことなのですが、結果的に利下げ延期見通しになって株式相場を下落させています。「中東情勢の不安定化」は、イスラエルと周辺勢力の関係が悪化することで原油の流通に問題が出て、原油価格の高騰から経済の低成長につながるのではないかという株価を伸びにくくしています。大きな危機が顕在化している状況ではなく、米国に限れば実体経済は堅調ですが、上記による不確実性から株式市場のリスクオフが進んでいるのが現状です。7月:過熱した株価に企業業績が追いつかず、調整局面へ2024年第2四半期は、4月の調整局面後、7月頭まで半導体中心に株価の急上昇が続きました。物価・景気の鈍化がFRBの利下げ期待を引き上げ、NVIDIAはじめ半導体企業の好業績がテクノロジー銘柄の株高を牽引しました。しかし、7月中旬くらいから大型テクノロジー株への過度な資金集中を避けるための資金流出が始まり、過熱した半導体相場も米中関係への懸念から調整が入りました。また、2024年第3四半期発表の決算も、NVIDIAを除くM7銘柄はMetaとAppleを除いて内容は期待に満たないもので、これまで高金利で抑制が必要だった米国企業業績に陰りが出てきて、それが株価の下落につながりました。9月の利下げは市場に織り込まれる中、製造業指数などで景気鎮静化のシグナルが出ると、景気後退(=企業業績の悪化)シグナルと捉えられ、株価が下落する関係も出てきました。これは、2024年上半期の市場が景気鎮静化が利下げ期待につながって株価上昇をもたらしたのと、大きく異なる傾向です。下落相場の中でも上がっているポートフォリオは?ブルーモでは、「週間比ランキング」から直近でどんなユーザーのポートフォリオが評価損益で上昇しているか分かります。2024年4月の調整局面での動きを見ると、高配当株の公式ポートフォリオをコピーして運用しているユーザーのポートフォリオが伸びていました。具体的には「ダウの犬」「高配当株式セレクション」の公式ポートフォリオは週間比で1.8%くらいの上昇を見せていました(同期間でS&P500は3.8%下落)。また、債券ETFをミックスした公式ポートフォリオも価格変動しておらず、一定の分配金利回りがあることを考えると、これらのポートフォリオをコピーして運用している場合もリスクオフ時の投資としてはうまくいっていそうです。セクター特化のポートフォリオでは、「小売・生活必需品」「金融サービス」の週間比上昇が大きく、リスク時に強いセクターも見えています。

日銀が追加利上げを決定。金融政策と為替の行方

日銀が追加利上げを決定。金融政策と為替の行方

2024年7月30-31日に開催された日本銀行の金融政策決定会合で、日銀は追加利上げを決定し、市場に大きなインパクトを残しました。本記事では、今回の金融政策決定会合の主要ポイントと市場の反応を解説していきます。前提:これまでの日銀の金融政策日銀は2000年頃から長期にわたって短期金利についてはゼロ〜マイナスの水準を目標としつつ、長期金利もYCC(イールドカーブコントロール)によって操作し、「量的・質的金融緩和政策」と呼ばれる大規模な金融緩和(=日銀による多額の国債やETFの買入れ)を続けてきました。この方針は植田総裁の就任後、国内の物価水準が上昇基調になったこともあり、大きく転換しているのが現状です。2024年3月の金融政策決定会合では「マイナス金利解除」が決定され、以下の方針転換がされました。日銀当座預金(金融機関が日銀に預けている預金)に対する金利を-0.1%から+0.1%に引き上げ、日銀の短期金利目標を0-0.1%に設定YCCを廃止し、長期金利を市場決定に委ねる(YCCの下では長期金利を下げるための国債買入れが行われた)ETF・REIT買入れの終了(買入れするのは国債のみに=質的金融緩和の終了)2024年3月の大きな政策転換により、長期デフレで日銀が講じた特殊な緩和政策は終了しましたが、「政策金利の更なる引き上げ」「量的緩和の縮小」が次のステップとして期待されていたのが2024年7月の金融政策決定会合でした。24年7月の金融政策決定会合のポイント短期金利目標の引き上げ日銀は短期目標を0-0.1%から0.25%に引き上げました。前回3月の引き上げに続いて2度目となり、7月の段階でここまで踏み込まないのではないかという見通しが優勢だったため、市場からはサプライズになりました。日銀は、2024-26年の消費者物価が安定的に2%程度の上昇することが見通せており、円安でさらなる物価上振れリスクもあるため、現時点での利上げが適切と判断しました。また、9月ではなく7月に利上げに踏み切った理由としては、春闘の結果を踏まえて賃金も安定的に上昇する見通しがあったためとしています(総裁記者会見より)。国債買入れの段階的縮小日銀は現在月額5.7兆円程度の規模で国債を買入れています(=市場に資金を量的注入することによる金融緩和)この国債買入れ額を毎四半期に4000億円ずつ減額し、2026年第1四半期には月額2.9兆円と、現在の半分程度の買入れ額に抑える方針を示しました。これにより、2026年3月までに日銀の国債保有残高はおよそ7-8%減少する見込みとされています。一方、長期金利が急激に上昇した場合、計画以上の買入れをする可能性も示しており、長期金利上昇に対する牽制も盛り込まれています。中間評価は2025年6月今回の国債買入れ減額に対する中間評価は2025年6月に実施する予定が示され、そこで2026年3月以降の国債買入れ方針についても検討・公表される予定です。一方、短期金利目標はさらに追加で引き上げる可能性も示唆しており(総裁記者会見より)、国内物価の上昇によっては今後短期金利が0.5%へと引き上げられる可能性もあります。出典:https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/mpr_2024/k240731b.pdf市場の反応日銀が利上げをすると、日米の金利差が縮小するので円高圧力がかかることになります。7月30日には金融政策決定会合の結果が日経新聞等でリークされたことにより、公式発表に先駆けて円高が進行し、ドル円は154円台から152円台にまで円高となりました。7月31日の追加利上げ正式公表後は、更なる円高が進み、31日18時時点でドル円は150円台にまでなりました。一方、これ以降で日銀側からの材料は出てこない(さらなる追加利上げは現状すぐに想定されない)ため、この円高がどこまで進むかはFOMC側(米国の金融政策側)次第となっています。