投資を学ぶ/ライブラリー/中村 仁 Jin Nakamura

ブルーモ証券代表取締役

中村 仁(Jin Nakamura)

米国株資産運用アプリを提供するブルーモ証券の代表取締役。東京大学法学部・大学院経済学研究科(修士)を卒業後、財務省にて総合調整・税務調査・国際金融業務に従事。その後、スタンフォード大学でMBAを取得し、米系コンサルティング会社のマッキンゼーにて主に金融機関向けのプロジェクトをリード。2022年にブルーモ証券を創業。大学院・財務省時代は各国の財政状況やニュースによって、国債金利がどのように変動するかをマクロ計量モデルで研究。

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DeepSeekの衝撃!株式市場とAI戦略の行方。Microsoft/Meta決算と解説

DeepSeekの衝撃!株式市場とAI戦略の行方。Microsoft/Meta決算と解説

本記事では、中国発生成AIであるDeepSeekの登場の影響について解説します。DeepSeekの登場は「現在の最先端レベルのAIを低コストで再現する」ひとつの大きなブレイクスルーであり、そのインパクトは今後の生成AI開発の方向性を左右する可能性があります。とはいえ、米中AI競争の激化により地政学リスクをはじめとする外部要因も大きく変化する局面にあり、DeepSeekのインパクトもセクターによって均一ではないので、各セクターの中長期的な成長性とリスクをDeepSeek登場の影響も踏まえて評価することが必要になります。本記事はYouTube動画も併せて公開しています(動画リンク)。DeepSeekの登場生成AI開発を揺るがすコストイノベーション中国で開発された最新の生成AIモデル「DeepSeek」が世界を驚かせています。同モデルは、OpenAIのChatGPT-o1クラスに相当するトップレベルの生成AIを、わずか約600万ドルという低コストで開発したとされ、AI業界や株式市場に大きなインパクトを与えました。参考までに、OpenAIが1世代前のGPT-4を開発する際には最低でも7,800万ドル、さらに最新モデルにおいては数十億ドル単位の開発コストがかかると言われており、DeepSeekのコスト優位性が際立っています。加えて、ランニングコスト面でも注目を集めています。DeepSeekは“重要な計算だけ高性能GPUを使う”というソフトウェア最適化を行っており、従来よりもハードウェア依存度を下げることで維持費を大きく圧縮しています。結果として「高性能GPUの確保が必須」と考えられていた生成AI領域において、テック大手の独占体制に大きく疑問符を投げかける存在となっています。DeepSeekは最新技術をオープンソースで公開したことで、誰でも同レベルのAIモデルを作成できる可能性が広がりました。マーク・アンドリーセン氏はこれを「AIのスプートニク」と評し、1957年に旧ソ連が人工衛星の打ち上げに成功した際、米国など西側陣営が受けた衝撃になぞらえています。コストへの疑義と技術面のポイントとはいえ、DeepSeekの開発コストが「本当に600万ドル程度で済んだのか」という点には、複数の観点から疑義が提示されています。たとえば、基礎研究費やエンジニア人件費、インフラ構築などの実際の費用がどこまで含まれているのか、外部からははっきりと確認できていません。また、一部では「ChatGPTなどの出力データを学習に使ったのではないか」という指摘もあり、MicrosoftやOpenAIが状況を調査していると報じられています。さらに、DeepSeekは対中輸出規制を回避する形でNVIDIAの“H800”という高性能GPUを大量に確保・利用していたという見方もあります。H800は規制の抜け穴として一時的に輸出が許可されていた製品ですが、事実上“低速化版”とはいえ高性能であり、それを大量に導入して開発を進めていた可能性が取り沙汰されています。ただし、モデル自体のソフトウェア面での効率性は否定されていないため、「どこまで低コストか」の程度問題であり、イノベーションとしての意義が損なわれるわけではないと思われます。市場の反応株価動向とセクターの明暗DeepSeekが最新モデルを公開した直後の1月27日(月)米国市場では、株価が一時大きく下げる局面がありました。しかし翌日には「売られすぎ」と判断した投資家の買い戻しが入り、全体としては下落分を取り戻す動きが見られました。現状では、DeepSeekのショックが株式市場の大きな総崩れにまでは発展していない状況です。1月30日時点での過去5日間株価推移を指数(セクター)別に見ると、以下のような結果になっています。• 半導体セクター(NVDAなど)やフィラデルフィア半導体指数(SOX): 過去5日間で大幅下落• NASDAQ: マイナス• S&P 500: ややマイナス• ダウ平均(DJIA): プラス圏で推移この株価の差は、AI投資やサプライチェーンでの立ち位置が異なる企業によって明暗が分かれているからと考えられます。DeepSeekが「高性能GPUに大きく依存しないAI開発」を打ち出したことで、GPU需要の減速懸念が高まり、半導体関連銘柄には一時的に売りが先行しました。一方、GPU購入コスト負担が軽減される可能性が出てきたテック企業や、安価なAIがもたらす生産性向上メリットを享受する一般企業は相対的に下げ幅が少なく、あるいは株価が上昇する場面も見られました。AIサプライチェーン上での企業に対する影響DeepSeekの影響は、AIサプライチェーンでどこに位置付けられるかによって、以下のように変わってきます。これらの立ち位置の違いが、過去5日間での株価変動の差にもつながっていると考えられます。1. 半導体企業• 高性能GPU需要が従来の拡大ペースから減速するリスクがあり、短期的には株価が伸び悩む可能性。• ただし、AI市場そのものは拡大が見込まれるため、長期的には底堅い需要が期待できるとの見方も。2. テック企業(クラウド・ソフトウェアなど)• 開発コスト削減や効率化によって、より幅広いAI導入余地を確保できる。• 例えば、Snowflakeは早速DeepSeekモデルをAIモデルマーケットプレイスに追加し、顧客が生成AIを活用しやすい環境を整備。過去5日間で株価は約5%上昇し、市場の期待を証明している。3. 一般企業(非IT企業も含む)• 生成AIの利用コストが下がることで、さまざまな業種で自社の生産性やサービスの高度化につなげられる。• AIを本格活用する敷居が下がるため、デジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させる企業も増える可能性が高い。「本当にGPUが不要か?」将来世代の開発費には疑問もDeepSeekが現在の最先端レベルを安価に再現できる方法を示したことは事実ですが、「次の最先端モデル」も同様に低コストで開発できるかは未知数です。OpenAIの最新モデルを「蒸留」する形で開発していた可能性が指摘されているため、いずれにせよ根幹となる“最先端研究”には巨額の投資が必要という見方も残っています。GPUの大規模運用を本当に不要とできるか、あるいは高性能GPUや高速ネットワークへの依存度がゼロになるわけではないと考えられ、今後も継続的な調査や検証が求められそうです。NVIDIAもDeepSeekの進歩を認めつつ、今後のAI開発には引き続き大規模な計算処理が必要との見方を出しています。米中AI競争と地政学リスクさらに、AI分野での米中対立の激化はマクロ経済的なリスクも含んでいます。トランプ大統領による、対中輸出規制強化やトランプ関税の復活など、地政学リスクが再燃する可能性が高まっています。これによって半導体企業の需要に上限がかかったり、米国のインフレリスクが上昇したりするシナリオも考えられます。主要テック企業の決算から見るAI投資:減速は見られずMicrosoftの決算直近までの背景前四半期ではAI投資負担の増大とクラウドの成長鈍化が懸念され、株価は下落傾向。特に、OpenAIへの多額投資や自社データセンターへの設備投資が利益を圧迫するとの不安が浮上していました。今回の決算結果売上・EPSは市場予想を上回りましたが、クラウド事業(Azure)の成長率が31%と事前予測の32%に届かず、市場ではやや失望感が強まりました。設備投資は前年同期比で2倍水準とさらに拡大しており、AI分野への大規模投資は継続している様子。トランプ大統領主導のStargateプロジェクトへの参加で、OpenAIの負担を他企業と分担できる枠組みができつつあるのはポジティブ材料と見られています。サティア・ナデラCEOは、AIモデルのコモディティ化によって全体のリソース消費がむしろ増大するとする「ジェボンのパラドックス」を引き合いに出し、Microsoftのクラウドサービスや生成AIサービスの市場拡大に自信を示しています。Metaの決算直近までの背景前四半期の決算で売上が予想を上回ったものの、AIインフラへの投資拡大を嫌気され、一時株価が下落しました。TikTokが米国で禁止措置施行を延期されたことから、広告収入への影響を懸念する声もありました。今回の決算結果売上・EPSは市場予想を再度上回った一方、今期の売上成長率予想がやや鈍化する見通しが示され、市場の評価はマイナスに。ザッカーバーグCEOは2025年のAI投資額を2024年比で1.5倍にする意向を表明し、設備投資の拡大路線が継続。投資家からは「短期的な利益を圧迫しかねない」という不安も広がりました。結果としてアフターマーケットで株価は下落。とはいえ、Metaがメタバース戦略と並行してAI活用をさらに深める姿勢は崩しておらず、長期的には企業価値向上が期待できるとの分析もあります。両社とも「DeepSeekの登場によるGPU投資の大幅抑制」という動きは見られず、むしろテック大手はAIインフラをさらに強化する方針が明確になっています。この点は、半導体企業にとっては当面の需要源となり得るため、短期的にはやや安心材料と言えそうです。

【2025年ドル円相場見通し:後編】日本のマクロ環境は円高への追い風を作りきれないか。2025年末で155円予想

【2025年ドル円相場見通し:後編】日本のマクロ環境は円高への追い風を作りきれないか。2025年末で155円予想

こんにちは。ブルーモ証券代表の中村です。本記事では、前回記事で紹介した市場関係者の2025年末ドル円相場見通しに対して、筆者の予想とその根拠を解説していきたいと思います。結論としては、日本のマクロ環境は円高への追い風を作りきれないまま、米国側での高金利は続くので、現状の円安環境は来年も続くと考えています。よって、ドル円相場のレンジとしては145-165円、中央値としての相場見通しは155円と予想します。なお、本記事は筆者が財務省で勤務した経験に基づき、「政策当局で自分が担当だったらこういう方針にする」という目線で予想を立てているもので、政策当局に対する具体的なヒアリングに基づくものではないことを申し添えておきます。本記事は公式YouTubeでの動画でもご覧いただけます(こちら)おさらい:市場関係者による2025年末の米ドル円相場見通し主要金融機関による2025年末の米ドル円相場見通しみずほ銀行:154(11月29日時点)三菱UFJ銀行:148(11月29日時点)三井住友銀行:133-149(12月20日時点)野村證券:140(12月6日時点)りそなHD:140(12月9日時点)ゴールドマン・サックス:159(11月14日時点)JPモルガン:148(12月17日時点)モルガン・スタンレー:138(11月14日時点)日本のマクロ環境はどこまで円高に追い風か2025年中には日銀の利上げが想定され、財務省も行き過ぎた円安に対して為替介入を行う可能性がありますが、どちらも効果は限定的と見ています。金利を上げきれない日本銀行日銀は金融緩和を段階的に終わらせ、金融引き締めに向かっていますが、長らくゼロ金利・マイナス金利の緩和的環境を続けた日本経済が「金利ある環境」に戻るハードルは高いです。現在の日本のマクロ経済は消費者物価が上昇基調にあるため、金利が上がっても生活実態との乖離は小さいのですが、金利が上がることによる政府部門に対する影響が懸念されます。国の借金である国債残高は現在1100兆円を超えており、政府予算に占める国債の償還金・利払い費は既に一般会計予算の1/4程度になっています。金利が上がると国債費が膨張し、政府はさらに国債を発行して資金調達をする必要に迫られます。資料:財政に関する資料(財務省)政府が国債発行すると、市中銀行がその国債を買いますが、これまでは日銀が緩和政策を取っていたため、市中銀行はすぐに国債を日銀に売却できました。しかし、日銀が金融引き締めに入ると国債の買い取り額が減るため、市中銀行の国債保有残高は急増し、それをどこまで消化可能なのかという問題に直面します。資料:東京財団日本国債の需要が市場で低迷すると、金利はさらに上昇することになるので、国内のマクロ経済環境は意図せず悪化します。東京財団の研究では、政策金利が1%程度にとどまった場合でも、10年金利が7%を超えるシミュレーションも出ています。資料:東京財団このシナリオは日銀も避けたいところなので、国債の市中消化をさらに求めることになる政府の財政悪化は日銀にとっても懸案事項となります。結果、日銀は政府の財政政策と協調しながら利上げをしていくことになり、日本政府がすぐに増税して国債以外での歳入増を図る道筋が見えない中では、利上げによるマクロ経済的リスクは高く、中々踏み込んだ利上げは難しい構造になっています。このため、日本の政策金利が1%を超える水準になるのはだいぶ先になるのではないか(そこまで引き上げるのは無理ではないか)というのが、筆者の見立てです。財務省の為替介入は投機的取引の牽制に使われるが、為替水準への決定打にならないドル円相場に対するもう一つの決定要因が財務省の為替介入です(筆者の古巣で、関係者は大体過去に一緒に仕事をした仲間でもあります)。前提として、財務省の為替介入はファンダメンタルズに逆らって為替水準を決定できるほどの効果はなく、主には投機的取引による相場撹乱を抑えるために実行されます(そもそも相場操縦的な為替介入は国際ルールで禁止されています)。2024年の為替介入も、円キャリー取引が活発化した中で、そうしたヘッジファンドの動きを止める意味合いもあって実行されました。とはいえ、為替水準として異常値と見られる相場レンジはあり、現状だと160-165円がひとつの目安になると思われます。この水準を超えてくる場合、投機筋の動きなどをより財務省も見るようになり、為替介入の確度が高まることになります。よって、財務省の為替介入はドル円のレンジに対して円安方向の限界値を形成するような効果があるものの、大きく円高に流れを変えるほどの効果はないと筆者は見ています。高金利環境の続く米国一方、米国側は新政権の政策方針が生むマクロ環境と、再度の利上げ環境に追い込まれたくないFRBの思惑が交差し、当面は高金利環境が続くと想定されます。トランプ政権での高関税・インフレは既定路線に2024年12月のFOMCで発表された経済見通しサマリーで、FRBは2025年のインフレ率上振れを予想していますが、トランプ政権での関税政策や積極的な財政政策などの影響で、米国のインフレ圧力が強まるトレンドは確定しています。トランプ大統領の任期は最短でも2025年から29年までなので、当面の経済環境としてインフレ圧力が続くと市場は見通しています。FRBはソフトランディングが見えれば利下げを止めるFRBはというと、パウエル議長の悲願であったソフトランディング(景気後退せずにインフレを抑制する)に対して、実体経済側の懸念は薄まりつつあるので、積極的に利下げを打ち出すモメンタムはなくなっています。むしろ「インフレを抑制できたか」が課題で、仮にインフレ率がさらに上振れすることになると、逆に再度の利上げなども検討せざるを得なくなり、マクロ経済環境に混乱をもたらします。FRBとしては利上げ検討が必要な環境にしたくないはずなので、利下げは2025年の早期に手仕舞いとなり、当面は金利を維持して様子見すると考えられます。むしろ、2026年の利下げも現在の予測通りに実行されるか怪しい環境だと筆者は考えています。

2025年利下げ鈍化見通しで米国株式市場は急落。今後の市場への示唆とは

2025年利下げ鈍化見通しで米国株式市場は急落。今後の市場への示唆とは

ブルーモ証券代表の中村です。12月18日のFOMC結果を受け、米国株式市場が大きく下落したので、背景で何が起きているのか・今後の市場への示唆は何かについて解説していきたいと思います。要約すると、2025年の利下げは鈍化見通しとなりましたが、事前にある程度予想されていたので、株式市場に対して継続的な影響があるとは考えにくい内容といえます。ただ、2025年の米国経済がインフレ・高金利環境になる方向性が明確になったことを理解してしておくと良いでしょう。12月FOMCの結果政策金利は引き下げられるも、2025年の利下げ鈍化見通しで株価が急落2024年最後のFOMCが12月18日に開催され、FRBは追加で0.25%の利下げを決定しました。利下げ自体は景気・株価に対してプラスなのですが、今回の利下げは事前に予想されていたため、それ自体が追加で株価上昇の材料になることはなく、同時に公表された2025年の利下げ見通しに注目が集まりました。FRBの2025年の利下げ見通しが、24年9月会合時点での1%から、24年12月会合時点では0.5%に後退しています。これは2025年に想定より利下げが行われないことを意味するので、企業の資金環境に対する追い風の減速懸念から12月18日の市場で株価は大きく下落しました。引用:Marketwatch2025年はインフレ基調とFRBは予想そもそも、FOMCでは四半期に一度(3月、6月、9月、12月)に「経済予想サマリー(SEP, Summary of Economic Projections)」という経済見通し資料をあわせて発表します。これはFOMC参加者の経済予想を集計したもので、実質GDP成長率、失業率、インフレ率、政策金利の見通しの要素を含みます。これらの予測は米経済の情勢を示し、金融政策の方向性を示す重要な指標です。なかでも、米国の短期金利であるFF(フェデラルファンド)レートの水準を点として図示した、「ドットチャート」からは利上げ/利下げ幅を予測できることから市場からの注目が高くなっています。24年12月に公表された経済予想サマリーでは、24年9月に比べて政策金利の分布が3.88-4.12%のレンジに大きくシフト・集中していることが分かります。FRBのその他経済指標の見通しを24年9月と24年12月で比べると、実態経済指標(GDPや失業率)には大きな変化はないものの、インフレ率(PCE inflation rate)の見通しが大きく上がっていることが分かります。つまり、今回のFRB利下げ見通しの後退は、24年9月時点と比べてFRBの米国インフレ率見通しが変わったことが直接の原因と言えます。今後の市場への示唆一時的に株価は下落したが、予想はされていた展開FOMCでの利下げ鈍化見通しはサプライズとして受け取られ、12月18日に株式市場を急落させましたが、FRBは事前にこの方向性を示唆するコメントを出しており、ある程度予想はできていた展開と言えます。2024年11月5日の米大統領戦でトランプ新大統領が当選したことを受け、米経済のインフレ基調は見えていたので、11月15日にFRBパウエル議長は「現在の強い経済状態であればFRBが利下げを急ぐ必要はない」とメッセージを出していました。なので、ある程度サプライズではあるものの織り込まれていたシナリオではあり、今後の株式市場の見通しに与える影響は限定的で、ここから大きく株価が下がり続けるリスクは低いと考えられます。引用:Reutersトランプ新政権でのインフレ・高金利環境がより明確に12月FOMC後の会見で、「FOMC参加者がインフレ率の上振れを予想している理由は大統領選にあるか」と聞かれ、FRBパウエル議長は「実際にそれだけではない」と回答し、足元のインフレ率が高止まりしていることも影響したと説明しています。しかし、11月15日のタイミングでコメントを出したことを考えると、トランプ新政権で予想される政策が大きく影響していることは明らかです。11月5日の大統領選後は、「トランプトレード」と呼ばれる一部銘柄の上昇と、米国株式市場全体の上昇相場が続きましたが、トランプ大統領の政策には関税引き上げが盛り込まれており、インフレ圧力がかかることに注意が必要です。2025年1月20日にトランプ新大統領は就任しますが、2025年はインフレ・高金利環境になる見通しは今回FOMC結果もあり、明確になってきたと言えます。2025年の米国株式市場も上昇基調の強気相場の予想が各社から出ていますが、同時に米国金利も高い状態が続くので、株式市場のパフォーマンスは常に債券金利の水準と比較される環境になると考えられます。

それでも米国株は魅力的か?米国株投資の強みとリスク

それでも米国株は魅力的か?米国株投資の強みとリスク

直近の株価と為替の急変動を見て、今後の資産運用に不安を感じる方もいると思います。足下の相場変動から少し距離をおいて考えると、米国株投資には①イノベーションの中心地としての恩恵、②株主還元の徹底した経済構造、③マクロ経済の頑健性といった強みがあり、いくつかのリスクはあるものの、他のアセットクラスと比較しても引き続き長期投資のコアとしての優位性はあると考えられます。2024年はAIブーム、FRB利下げ、米国景気後退懸念、大統領選、日銀利上げと大きなイベントが続き、相場が急変動しやすい環境が続いています。新NISAで投資を始めた方で日々不安に感じている方も多いと思うので、本記事では改めて米国株投資の強みとリスクについて解説していきたいと思います。米国株投資の強みまず、米国株投資を魅力的にさせている、米国経済のファンダメンタルな(本質的な)強みを解説します。要約すると、①イノベーションの中心地として米国の代替先がないこと、②株主還元の徹底した経済構造、③内需と利下げ余地に支えられたマクロ経済の頑健性が強みと考えています。イノベーションの中心地として米国の代替先がない皆さんの日々の生活を支えている半導体・OS・クラウドインフラ・SNS・検索サービスなど、情報社会のインフラは、Alphabet, Amazon, Microsoft, Apple, Meta, NVIDIAといった米国のテクノロジー企業に独占されています。さらに次の技術革新と言われるAIや自動運転の研究開発も米国がリードしており、この領域でも米国企業が付加価値の大部分を取っていきそうな情勢です。生成AIではChatGPTのOpenAIやClaudeのAnthropicは米国企業ですし、自動運転の最先端はTeslaとAlphabetの子会社Waymoが走っています。こうしたイノベーションが生まれる土台になっているのは、世界から人材を集める米国の教育・雇用システムと、シリコンバレーを中心としたITスタートアップのエコシステムです。米国のトップ大学は世界から優秀な人材を集めつつ、移民社会がチャレンジする活力を生んでいます。私のスタンフォードMBA時代の同級生も、移民の両親が機械工をしながら教育に力を入れた結果、スタンフォード大学→CIA→業界トップのVC(かつスタンフォードMBAを働きながら取得)という成功したキャリアを移民2世として築いていました。ITスタートアップのエコシステムはここで語り尽くせないですが、上場株にも関係する話としては、スタートアップのM&Aが活発なところが大きな特徴です。Cisco, Salesforce, Adobeといった企業は老舗ですが、新興テック企業を買収することで持続的な成長に成功しています。こうした資金循環がスタートアップのチャレンジを加速しつつ、上場企業の技術進歩にも貢献していると言えます。少し前までは中国のテック企業の成長が凄まじく、世界を中国企業が席巻するのではないかと言われましたが、その後グローバルに広がる様子は見えず、イノベーションの世界は米国の一極構造が続いています。イノベーションの中心地として米国を代替できる存在が見えてこない中では、世界全体での技術進歩の果実を米国が最も大きく享受する構造が続き、米国企業の成長率への追い風は変わらないと言えます。株主還元の徹底した経済構造米国の資本市場(=機関投資家・ファンド)は企業に株主還元を強く求めるため、上場企業で非効率な経営は放置されず、経営陣の交代も頻繁に起きます。こうした経営の効率化に加え、成長投資のない内部留保や余剰アセットの保有を企業に許さないプレッシャーがかかり、利益の株主への配当還元も優先されます。成熟した米国よりも経済成長率が高い国もありますが、新興国では経済成長の果実を投資家が得る前に、政府が取っていったり(国有企業などがある場合)、消費者に配分されるケース(価格統制など行われた場合)も見られます。例えば、中国経済は過去5年間で年間平均5%弱で成長していますが、中国の代表的な株式指数の1つである上海総合指数は過去5年間で9%も下落しています。投資先企業に対する影響力が皆無の個人投資家にとって、激しい競争の中で全ての株主に対して全力で還元してくれる米国企業は、お得な投資先と言えるでしょう。内需と利下げ余地に支えられたマクロ経済の頑健性グローバルで稼げるテクノロジー企業の成長を背景に、米国の内需も活発です。こうした内需が非テクノロジー企業の業績向上にも貢献し、経済全体が強い状態が続いています。経済が強すぎるが故に、米国は高いインフレを引き起こし、2022年頃から大規模な金融引き締めが進んで現在に至ります。足下では金融引き締めが効果を出して、インフレ鎮静化傾向が見えてきたのですが、同時に製造業中心に企業業績にも翳りが見えています。これが景気後退懸念として、2024年の米国株式市場を不安定化させている大きな要因です。しかし、現状FRBはまだまだ金利引き下げの余地を残しており、経済を刺激できる状態です。インフレ鎮静化と景気拡大の継続を両立する「ソフトランディング」を実現することをFRBとして目指していますが、仮に一時的な景気後退に入ったとしても、利下げで景気回復を進められる見通しは高いと言えます。こうしたマクロ経済の頑健性が、金融危機やコロナショックのタイミングと異なり「出口の見えない不透明性」を排除しているのも強みです。米国株投資のリスク為替変動の影響は一旦考慮せず(直近では日本株相場も円高の時に下がる傾向にあり、米国株投資だけの話でもないため)、米国株相場の観点から米国株に投資することのリスクを解説します。短期的なリスク:高まりすぎた期待値との調整短期的な市場変動は、企業業績や米国経済全体の成長といったファンダメンタルズ(本質)では決まらず、株式市場の需給で決まります。これを大きく左右するのが、アクティブに運用している機関投資家やヘッジファンドです。米国株式市場の短期的な変動は大手投資家のセンチメント(今後の市場動向に対する見立て・温度感)が大きな要因となり、その方向性次第で短期的な株価下落のリスクがあります。2023年後半からの米国株市場は、Magnificent7と言われる大型テクノロジー企業7社に資金を入れておけば上がっていく相場環境で、短期的・裁量的な売買を繰り返すヘッジファンドも「Magnificent7のロング(長期保有)」戦略を取っていました。こうした資金集中が2024年の大型テクノロジー株の上昇を支えていた面もあるので、この高まりすぎた期待値が修正され、ヘッジファンドの資金が離れると短期的には株価が下落するリスクがあると言えます。しかし、こうした株価下落は短期動向なので、企業業績が健全に伸びていれば一定の株価上昇は見込めるものとして、心配しすぎることはないと言えます。中期的なリスク:米国経済の景気後退局面中期的なリスクとしては、米国経済が金融引き締め後のソフトランディングに失敗し、景気後退局面入りすることです。以前に記事でもまとめていますが、景気後退入りした場合、平均10ヶ月間程度は株価の上がりにくい状態が継続することになります。FRBが利下げをするのは確定路線なので、焦点となるのはFRBの利下げスピードです。インフレを沈静化しつつも、縮小しつつある米国景気の底上げに間に合うかどうかが今後の大きなポイントになります。利下げは2025年にかけて行われると予想されるので、市場予測ベースでは2025年中までに45%程度の確率で景気後退入りするリスクがあると見積もれば良いでしょう。長期的なリスク:テクノロジーでの敗北長期投資目線で最も注目すべきなのは、米国株投資の強みの源泉であるイノベーションの中心地としての地位が今後も安泰かという点です。今後、他の国や地域が世界の技術進歩をリードするようなトレンドが生まれれば、その地域により重点的に資産を配分した方が有利となります。長期的なリスクなので、はっきりと顕在化したタイミングを言えるわけではありませんが、以下のようなポイントに注目しておくと良いでしょう。まず、日常生活の前提となっているテクノロジーやサービスに占める米国企業の割合が減っていかないかという点です。例えば、クラウドサービスやモバイルOSに米国企業以外の大手テクノロジー企業が占める割合が増えてきたら、それは危険な兆候といえます。次に、大きな技術革新のタイミングで米国以外のテクノロジー企業が台頭してこないかという点です。過去の米国経済の急成長は、GAFAをはじめとした現在の大型テクノロジー企業の台頭で説明されるため、次世代のこうした企業が米国から出続けなければ、長期的な成長に翳りが出ると考えられます。運用先として他のオプションはあるのか株式指数の間での比較過去10年、過去5年での各国指数の推移を下記で計算しました。過去10年では、NASDAQ>S&P500・ブラジル株式・インド株式>日経平均>ヨーロッパ株式>中国株式過去5年では、インド株式>NASDAQ>S&P500>日経平均>ヨーロッパ株式>ブラジル株式>中国株式という結果になりました。株式で見ると米国株・インド株への投資リターンが最も高かったことになります。IXIC:NASDAQ、SPX:S&P500、NIKKEI:日経225、SX5E:ユーロ株式指数、DAX:ドイツ株式指数、HSI:香港ハンセン指数、NIFTY:インド株式指数、IBOV:ブラジル株式指数10年推移(2015/3/10-2024/9/9)5年推移(2019/12/31-2024/9/9)アセットクラス横断の比較また、他のアセットクラスとして、債券や不動産のような商品で固定利回りを得ると考え、安定利回りとして年率+3%くらいをベースレートとしておくと、5年間で+16%、10年間で+34%くらいの成長率になります。S&P500の成長率は過去5年で+69%、過去10年で+167%なので、株式は価格変動があり短期ではロスが出ることもありつつ、長期の運用では固定利回り商品に比べて大きな差がつくことになります。全く違う観点で金に投資すると考えてゴールドETFの値動きを見ると(計測期間は先ほどの株式指数比較と同じ)、過去5年間で+62%、過去10年間で+107%と、この期間でのリターンはS&P500には及ばないものの、実はかなり良かったことになります。結論:長期投資のコアは米国株優位で揺るがず過去リターンの結果からは、一部の新興国や金は有力なオプションにもなりつつ、米国株のリターンの高さが際立っていました。このことから、短期的な安定性を求める(=近いタイミングでの取り崩し・出金を考えている)場合以外は、米国株がリターンの観点からは有利だったと言えます。今後の見通しについては、長期的な成長性や経済構造⁨⁩は強いので、それが崩れるかどうかだけを見ておけば(特にイノベーションの中心地としてのポジション)、米国株を長期投資のコアとして据えることに、十分な優位性があると考えられます。

9月初日は大きな下落。過去データから予測する年末までの動き

9月初日は大きな下落。過去データから予測する年末までの動き

本記事では、厳しいスタートになった9月初日の米国市場を振り返り、過去データも踏まえて今後投資家が注目すべきポイントをまとめます。要約すると、①9月初日の下落は弱い製造業指数と9月アノマリーへの警戒が原因、②今月中の相場回復はFRB利下げと経済指標のサプライズ次第、③年末に向けては好材料が多い見通し、となります。弱い製造業指数を受けて9月初日は大幅下落9月3日の米国市場は、S&P500が2.1%下落、NASDAQ総合が3.3%下落し、月初の取引日での下落幅としては2020年以来の大幅下落となりました。特にNVIDIAは10%近い下落で、時価総額が2790億ドル減少し、米国企業の1日の時価総額減少としては最大記録を更新しました。市場のボラティリティ(変動性)を示すVIX指数も、33%上昇して20程度まで上がっています。この動きの背景には、昨日発表されたISM製造業指数が7月よりも上がったものの低い水準となり、新規受注の減少や在庫増から、製造業の低迷がしばらく続くことが予測され、市場全体に不安心理が広がったことがあります。また、9月は歴史的に株価パフォーマンスが悪いというアノマリー(規則性)が存在し、9月に入って投資家がこの動きを警戒したとも見られています。出所:Marketwatch9月の相場は利下げ動向と経済指標次第か歴史的にパフォーマンスの悪い傾向にある9月ですが、過去平均で見ると1%下落くらいが平均であり、初日の大幅下落から回復する可能性は十分にあると言えます。8月にも大きな相場下落があり、一時的に市場は恐慌状態に陥りましたが、その後懸念が晴れると株価は元の水準に戻っていきました(日本の個人投資家は円高がかなり進んだので、それでもマイナスとなりましたが)今年の9月は17−18日にFOMCが予定され、FRBがここで長らく期待されていた利下げを発表する見込みなので、利下げ決定とその後の見通しに対するFRB高官からのコメント次第で、株価が上昇する材料となります。一方、今後出てくる経済指標次第では、景気後退懸念が再燃するため、株価のリバウンド上昇は限定的になる恐れもあります。9月3日のISM製造業指数で雇用は改善していたことから、今のところ経済全体での景気後退懸念を示唆する内容ではありませんが、今後の指標には注意が必要です。足下は厳しいが年末に向けては好材料以前に米国市場のアノマリー記事で解説したように、大統領選のある年の米国市場は選挙前の9−10月は様子見の相場が続きますが、選挙が終わって大統領が決定した後から年末にかけて株価が再び上昇に転じる傾向にあります。大統領選後の情勢安定化・上昇トレンドを抜きにしても、Labor day(9月2日の米国祝日・市場休場日)から年末までの株価パフォーマンスを見ると、過去50年の平均では3%程度の上昇が観測されています。出所:Marketwatchまた、ほぼ確定となっているFRBの9月利下げに続き、さらに年内1−2回の追加利下げの可能性もあることから、年末に向けては好材料が出る余地はまだまだある状況です。足下の急激な株価下落で不安になるかも知れませんが、歴史的な8月暴落後に株価が復調した動きも思い出し、是非皆さんには長期目線での資産運用を継続いただければと思います。

決算結果が予想を上回るも株価は下落?24/8のNVIDIA決算の市場への影響

決算結果が予想を上回るも株価は下落?24/8のNVIDIA決算の市場への影響

こんにちは。ブルーモ証券代表の中村です。米国時間8/28の市場閉場後に、注目されていたNVIDIAの24年5-7月期決算が発表されました。結果は市場予想を上回ったものの、NVIDIAの株価は閉場後の時間外取引で6%程度下落しています。本記事では決算結果の紹介と、今後の市場に与える影響について分析していきたいと思います。NVIDIA決算の結果今期決算内容のサマリー売上:300億ドル(予想は287億ドル)EPS:68セント(予想は65セント)現四半期の見通し:中間値で325億ドル(予想は317億ドル)自社株買い:500億ドル分を追加NVIDIAの売上は過去1年間で2倍以上になっており(+122%)、業績に関しては引き続き強い内容でした。NVIDIAの四半期売上推移グラフ出所:Barron's決算後の会見での発言決算後の会見で事業に関するポイントをまとめます。データセンター売上成長の鈍化:売上の8割以上を占めるデータセンター事業で、四半期成長が+16.4%で、前四半期の+22.6%に比べて鈍化した。大きな取引先である中国市場が、輸出規制もあり厳しい状況にあると発言。新商品Blackwellの見通し進展:新しいAI半導体チップBlackwellの出荷遅延は生産効率を向上させるための仕様変更によるものだったと発表。第4四半期から本格的な出荷・売上計上が始まり、来年にかけて広がっていくと発言。営業利益率は高水準を維持:NVIDIAの営業利益率は62%と高い水準で、S&P500の情報技術セクターの67社中では2番目に高い。1年前の50%からは大幅に上がっているが、前四半期の64%からは僅かに下がった。今後の株式市場への影響NVIDIAに対する過剰期待の落ち着き2024年の株式相場はNVIDIAの急成長に牽引されていましたが、どんな事業でも永続的に指数関数的な成長を続けることは不可能で、どこかで成長は鈍化していくと考えるのが合理的です。NVIDIAの場合、業績は好調なものの、高すぎる期待に対する調整が入ったのが今回決算だったと言えます。市場全体への影響はどうかというと、決算後のNVIDIA株価変動の方向とS&P500指数の変動の方向が一致したのは、過去8回の決算中4回だけです。NVIDIA株価とS&P500指数の相関係数は0.65(1が完全に同じように動き、-1が完全に逆に動く)なので、連動はしているもののそこまで一致はしていません。なので、NVIDIAをはじめとするとMagnificent7の株価が急上昇した近年の相場環境では市場全体への影響は大きかったですが、今回のNVIDIA決算と株価下落によって市場全体が大きく下落していくとまでは言えないと考えます(仮に決算が予想を下回っていたら、AIエコシステムや経済全体への懸念から、市場全体への下落圧力になりましたが、決算自体は予想以上の内容でした)。市場は利下げによる全体底上げ型の上昇相場に入れるか次第Magnificent7の株価急上昇という上昇ファクターは薄れつつある米国市場ですが、9月の利下げに伴う市場全体底上げ型の成長余地は残されていると考えられます。そして、利下げに伴う上昇相場が来る場合、小型株や半導体以外のセクターでも成長が期待できると考えられます。その意味で、今回の決算結果はNVIDIAに頼った成長からの調整・転機であり、投資家としては広範な市場の成長に期待しつつ、FRBの金融政策により注目すべき環境になったと言えます。

5年に1度の相場下落?個人投資家にとってピンチかチャンスか

5年に1度の相場下落?個人投資家にとってピンチかチャンスか

過去1ヶ月間を振り返ると、7月上旬の最高値から相場は大きく下落し、個人投資家の資産も大きく目減りしていますが、実は日本の個人投資家にとって今回は5年に1度くらいの大きさのインパクトでした。本記事では、過去の相場動向・景気循環の歴史・資産別での変動を分析することで、①今回は日本の個人投資家には5年に1度のイレギュラーだった、②下落のダメージは分散していた投資家ほど小さかった、③5年に1度の相場下落でも慌てず「長期・積立・分散」を継続すべき、点を解説していきたいと思います。日本の個人投資家には5年に1度のイレギュラーだった株安・円高が重なり、日本人にとってコロナショック以来の相場下落2024年7月から1ヶ月間の相場下落は、過去10年の円建てS&P500の推移で見ると、2020年のコロナショック以来の下落幅だったことが分かります。下落率で比較をするとコロナショック当時(2020/2/20-2020/3/23)の下落率は-34%、今回下落(2024/7/10-2024/8/5)の下落率は-18%と、それでもコロナショックの時の方がインパクトは大きかったです。一方、ドル建てS&P500はここまでの下落になっていないので、今回下落は「株安」と「円高」が重なったことによるダブルパンチが問題の本質でした。円建てS&P500のチャートドル建てS&P500のチャート出所:S&P Globalまた、米国市場としてはコロナショックと現在までの間に「FRB利上げ」によって株価が低迷した時期があった(2022年)のですが、その時期はちょうど円安が進行していたため、日本の個人投資家は円建てで資産を見た時に大きなロスは出ませんでした。ドル円と米国株式の変動方向が揃ったことが、今回下落が日本人にとって「コロナショック以来」の出来事になった背景にあります。過去10年で見ると「コロナショック」「今回の円高・株安ショック」が2つの大きな暴落で、さらにその前10年間を振り返ると「ドットコムバブル崩壊」「リーマンショック」があるので、今回下落は「5年に1度」と呼んで良い相場変動だと言えます。今回の相場下落が続くかは米国経済のソフトランディング次第景気には拡大期と後退期が存在し、現在は2020年4月以降の景気拡大期と捉えられています。FRBの利上げによるインフレ抑制が、この景気拡大期を終わらせて米国経済が景気後退に入るかが、相場の低迷が続くか上昇に戻るかの大きな岐路になります。「ハードランディング」シナリオは、FRBの高金利政策継続の影響で米国経済が景気後退に入るパターンです。この場合は平均10ヶ月間ほど経済活動が停滞し、株価の上がりにくい状態が続くことになります。このシナリオに対する懸念から、直近の株式市場は乱高下していました。「ソフトランディング」シナリオは、景気後退を経ずにインフレ率が下がり、米国金利が低下して景気拡大が続くパターンです。過去最長では10年間も景気拡大が続いたことがあるので、長い場合だと2030年まで景気拡大となることもあり得ます。過去には、1991−2001年の景気拡大期は、途中でFRBが利上げをしても景気後退を起こさなかった「ソフトランディング」が成功した事例として有名です。8月12日現在の最新見通しでは、JP Morganが年内の景気後退入りの確率を35%、2025年下半期までの景気後退入りの確率を45%と見込んでいます。出所:JETRO(日本貿易振興機構)今回下落のダメージは分散していた投資家ほど小さかった債券や金を組み込んだポートフォリオのダメージが比較的小さかった2024年7月10日を相場の頂点として、2024/7/10-2024/8/9の1ヶ月間の資産別の株価変動を比較したのが以下のグラフです結果はダメージの小さい方から、金(GLD)が+2.37%、米国短期国債(SHV)が+0.06%、世界株式・オルカン(VT)が-4.19%、S&P500(VOO)が-5.04%、FANG+(NYFANG)が-13.47%、日経平均(NIKKEI)が-16.96%、NVIDIA(NVDA)が-22.36%で、この期間のドル円は-9.31%でした円高を避けて日本株式に投資していたら良かったかというとそうでもなく、日本株は過去1ヶ月の間に-16%も下落しており、米国株式や世界株式と比較しても大きなマイナスとなっています。円高効果と合わせてS&P500に投資しているのとマイナスは大きく変わりませんでした。S&P500かオルカンかも大きな論点ではなく、オルカンの構成要素で米国株式が6割で、米国市場が落ちる時は世界的にも株価が落ちるため、誤差程度の差分しか出ていません。株式の集中という意味では、NVIDIA単体に投資していた場合はドル建てで-20%(円建てではおよそ-30%)と、かなり大きなマイナスになりました。一方、テクノロジーセクターに集中したFANG+インデックスは-13%、S&P500指数では-4%と、分散するほどにマイナスが小さかったことが分かります。さらに異なるアセットクラスで見ると、債券はほぼ変動せず、ゴールドはむしろやや上昇と、下落局面において全く異なる動きを見せています。債券や金をポートフォリオに入れてリスクヘッジしていた場合、ダメージを緩和できていた可能性が高いです。まとめると、今回のような下落局面では当たり前ですがリスクの高いポートフォリオほどマイナスが大きく、ダメージの大きさとしては「テック株集中」>「株式分散」>「バランス型(債券・金など組み合わせ)」という順番になりました。相場下落時にダメージを抑える効果のある資産については以下記事も参考にしてみてください。時間分散できていた投資家はインパクトが小さい保有資産の分散度合いでインパクトを分析しましたが、加えて投資タイミングの時間分散についても考えます。ポートフォリオの中身以外の観点から、今回の相場下落で「勝ち組」だった投資家を分類すると、以下のように整理できます。①大幅下落時に資金投入できた人:日経平均が歴代1位の下落幅だった8月5日など、大きく相場が落ちたタイミング(その後反発上昇するタイミング)で資金投入できた投資家は、全体がマイナスの期間でもプラスのリターンだった可能性があります。実際に8月5日の開場時に投資した場合、S&P500は1週間で4%も上昇しています。②投資余力をまだ残している人:まだ相場が底をついているか不透明なこともあり、今後追加で資金投入する余力を残している投資家は、下落からの回復局面でリターンを得られる可能性があるので、資金投入の時期次第ではリターンを向上させられます。③積立投資をしている人:そもそも積立で定期的に投資しているタイプの人で、いつ市場が底を打っても特定の一時点で集中投資する場合に比べてリターンが平準化されます。今回のような下落局面においても買いを継続的に入れているため、リターンにプラスの影響があったはずです。また、これまで投資してきた人は今回ショックで大きくダメージを受けていますが、最近投資を始めた人(まだ資金をそこまで投資に回していない人)は傷が浅いので、実は最近投資を始めた(これから始める)人にとっては有利な環境でもあります。5年に1度の相場下落でも慌てず「長期・積立・分散」を継続投資をやめたり、リスクの高い取引に走らないこと今回のような大幅下落に直面して、個人投資家として「やるべきではないこと」は以下のような行動になります。①投資をやめてしまうこと:今回の下落を受けた損切りで投資をやめてしまうことです。資産運用は下落時も上昇時も保有し続け、長期で負けないことが大事なので、下落局面でも歴史から長期の上昇を信じて投資し続けましょう。また、一度投資から資金を引くと、日々忙しい中で市場をチェックして再び戻ってくることは難しいです。②短期逆転トレードを狙うこと:一時的な損失を取り返すため、ハイリスク・ハイリターンな取引に手を出すこともお勧めできません。具体的にはレバレッジ型の取引や上下の激しい小型株への集中投資が挙げられます。今回の相場下落は、分散していれば-20%くらいの減少でしたが、さらにレバレッジがかかっていると-60% 超の下落となり、そこから巻き返すのにはかなり時間がかかってしまいます。※ 参考:24/7/10-24/8/9でSOXL(半導体セクターの3倍レバレッジETF)に投資した場合、ドル建てでも-54%の下落となります(円建てでは-60%以上)③上昇した銘柄を後追いすること:市場全体が下落する中でも、決算結果が良好だった銘柄などは上昇することがあります。こうした銘柄はいつも以上に目立ちますが、後追いで投資してもそこから短期での株価上昇は難しいケースもあります。「この企業は長期的になくならそうだから」でも「ブランドが好きだから」でも良いので、足下の株価上昇以外で自分が納得できる理由がある場合に投資すると良いでしょう。相場を気にしすぎず、積立投資でどっしり構えるくらいが良い最後に、今回の下落相場と足下で不安定な市場動向を受け、個人投資家の資産運用としてのアドバイスを3つご紹介します。①短期の変動を気にしすぎない:自分の資産変動はどうしても気になりますが、長期目線の投資であれば短期変動は気にし過ぎないことも大事です。本記事のようなコンテンツも気になる方のために書いていますが、資産運用の方針がクリアならそこまで日々のニュースを追わなくても良いです。②積立投資で下落相場の果実を得る:今後の相場がどちらに転んでも勝てるように、積立投資で定期的に資金投入するとリターンが安定するのでお勧めです。株安・円高のニュースが入った場合でも、「定期的に投資するタイミングで安く買えて良いか」とも思えるので、精神衛生上もプラスです。③投資余力あれば下落時に追加投資:まだ投資余力のあって相場動向も追いたい方は、さらなる下落があったタイミングで追加的に資金投入して、銘柄の平均取得単価を下げることも効果的です。ただ、相場の底を見極めて投資実行するのはかなり難しいので、ある程度下落した時に入れられていたらプラスくらいに捉えると良いでしょう。ブルーモで資産運用されているユーザーも長期目線の方が多いので、相場下落時もむしろ追加投資する方がいたり、最近リリースされたリバランス付き自動つみたて投資機能を活用される方が多いのが特徴的でした。資産運用の原則である「長期・積立・分散」については、以下記事もご覧ください。

日経平均は歴史的暴落。今後の長期投資で気をつけるべきこと

日経平均は歴史的暴落。今後の長期投資で気をつけるべきこと

8月5日の市場で日本株は大きく下げ、日経平均は下落幅-4451円(歴代1位)、下落率-12.4%(歴代2位)と、歴史に残る暴落の日となり、その余波は世界全体に波及していきました。本記事では、①今回の暴落で何が起きたか、②過去の暴落との比較、③今後の長期投資で気をつけるべきこと、を解説していきたいと思います。はじめに:相場下落時も「長期・積立・分散」が大事今回のような大きな暴落があった時でも、目的が資産運用であれば「長期・積立・分散」を守り、相場が下がった時ほどむしろ安く買えるチャンスと捉え、積立投資ならやめないことが重要です。8月5日の日経平均暴落後、鈴木財務大臣の記者会見コメントで以下のように発信しています。「新NISAをきっかけに投資を始めた方々に動揺が生じているという報道を目にしている。新NISAについては、相場の下落等の市場変動が進む中にあっても、長期・積立・分散投資の重要性を考慮して、冷静に判断していただきたい。金融庁としては、長期・積立・分散投資の重要性について広報・周知を行うとともに、国民の皆さんの金融リテラシー向上に向けて、関係方面と連携してさらに取り組んでいきたい」ブルーモでも、「長期・積立・分散」の重要性について解説した記事をリリースしているので、そちらも是非ご覧ください。今回の暴落で何が起きたか8月5日:日経平均の暴落を皮切りに世界全体で株安前週金曜日に公表された米国失業率が予想より悪かったため、米国には景気後退の懸念があり、日本市場も月曜日は下落すると見られていました。しかし、始まってみると日経平均は想定以上の大幅下落となり、早々にTOPIXでサーキットブレーカーが発動され、市場はパニック状態になります。また、米国市場の不安定化が円キャリー取引(金利の低い円を借りて米国で投資すること)のポジション縮小につながり、8月5日は円高もさらに進行して、開場時の145円が一時的に141円台までいきました。円高が進むと企業の業績不安から一層株安圧力となり、結果的に日経平均は-12.4%というブラックマンデー以来の歴史的な暴落で終わります。米国の景気後退不安と、時差から開場の早かった日本市場での歴史的な暴落を受け、アジア・ヨーロッパ市場も全体的に株価が下落します。特に韓国・台湾は8−9%と大きな下落幅でした。米国市場も下落から始まり、ISM非製造業指数の結果が予想を上回ったことでやや持ち直したものの、S&P500は-3%、NASDAQは-3.4%の下落で終えています。レバレッジのかかった市場構造が下落を拡大した今回の暴落は、ファンダメンタルズ(根本的な)要因としては、米国の景気後退懸念と中東情勢の悪化があります。しかし、株価がここまで急落したのには日本市場を取り巻く2つのレバレッジ取引があったと考えられます。それは「ヘッジファンドの円キャリーへのレバレッジ」と「日本の個人投資家の信用買い」です。1つ目は、円キャリー取引を行っていたヘッジファンドは利幅を増やすため、更にレバレッジをかけていました。今回の円高と米国市場不安定化に伴いポジションのリスクが上昇したため、ファンド全体のリスク管理の観点から、彼らは通貨以外の資産でもレバレッジを解消し、様々な株が売却されました。2つ目は、日本の個人投資家が上昇相場の中でレバレッジをかけた取引を続けており、信用取引の買いポジションは18年ぶりの高水準となっていました。8月5日の想定外の相場下落で、このポジションに対して追証(借入を維持するために追加で現金を拠出しないといけなくなること)が発生し、差し入れられないと判断した個人投資家の投げ売りが発生しました。この2つのレバレッジ取引の構造が、日銀の追加利上げと米国市場の不調により崩れ、一気に大きな下落へとつながったと考えられます。過去の暴落との比較過去の日経平均暴落と比較以下が過去の日経平均下落率ランキングです。1位はブラックマンデー(香港市場の下落に端を発したNY市場の大幅下落に引きずられた暴落)、3位はリーマンショック、4位は東日本大震災です。それ以降はやや古いものもありますが、5位はスターリン暴落(スターリンの死後、ソ連の政策転換による軍需減少を想定した暴落)、9位はスイスIOSショック(スイスの投資会社が日本株を売却するという噂を発端とする下落)、10位は英国のEU離脱ショックです。出所:日経平均プロファイルこれらを大きく分類すると、①自然災害・戦争(東日本大震災)、②金融危機(リーマンショック)、③一時的な市場動揺による下落(その他)、となります。今回の暴落は特に災害や金融危機を原因とするものではないので、この勢いで落ち続けたりする(リーマンショックのように)ものではないと考えるのが妥当でしょう。③のパターンで例えばブラックマンデーだと3ヶ月後には暴落前高値を更新して、日本経済はバブル景気に入っていきました。過去の米国株式市場の下落と比較日本の日経平均の暴落は、世界的な危機の発生ではないように見えるので、特に米国株に投資する個人にとって気になるのが、米国市場の停滞はいつまで続くかという点です。今回は特にどこで底をつくか(最大下落幅に達するか)を見ていきます。過去の米国株式市場の大幅下落イベントを以下で比較しています。金融危機と自然災害は動きが異なるので除いて、ドットコムバブル崩壊とFRB利上げショックを詳細に分析します。米国株市場にとってのワーストケースは、今回の相場上昇が「AIバブル」であり、その崩壊とともに2000年のドットコムバブル崩壊と同程度の影響が出る場合です。この点については、市場が最高値だった24年7月時点においても、テック株はドットコムバブルの最高潮と比較すると割安に評価されていたので、現時点では経済全体の停滞につながる可能性は低いと見られています。では、次にFRB利上げショック(FRBの急速な利上げにより、テック株を中心に株価が大幅下落したことを指す)と比較をすると、当時はインフレ率が高く、FRBとして利上げを緩めるオプションはなかったことから、株価の停滞打破は企業業績のみに依存した状態でした。それに比べて、2024年8月5日時点の市場は、FRBが利下げ余地を残しつつ景気は沈静化してきており、この沈静化が景気のハードランディングにならないか懸念されている状態です。よって、FRBにはまだ利下げによって経済を刺激する余地があるため、停滞状態を打破するチャンスは2022年当時より大きいと言えます。今後の長期投資で気をつけるべきこと冒頭でも紹介したように、「長期・積立・分散」の原則を守ることが大事で、その上で注目すべきポイントをいくつか紹介します。まず、相場を読み切るのは不可能な前提で、絶好の買い場となる下落時の投資機会を逃さないため、下落途中でも(むしろ下落途中こそ)積立での投資を継続していくことが重要です。過去の事例をみると、①一時的なショックで数ヶ月で市場は最高値に戻る(ブラックマンデー後の日本市場のケース)、②停滞が継続して年末年始ごろに底値になる(FRB利上げショックのケース)、③経済が長期停滞して2年後に底値になる(ドットコムバブルのケース)、というのが起こり得るオプションです。もし、定期的な積立投資だけでなく、機動的に資金投入する場合、現在のマーケットが①~③のいずれにいるかを判断することが必要です。今後の経済指標、テック企業の決算、FRBの金融政策は、基本的なことですが大きな変数なので、ある程度見ておくと追加での資金投入をする際の参考になると思います。個人投資家の皆さんには、生じている危機の正体と影響範囲を冷静に理解して、合理的な投資行動をとっていただければ幸いです。

相場下落時に振り返る、資産運用の王道「長期・積立・分散」

相場下落時に振り返る、資産運用の王道「長期・積立・分散」

本記事では、相場が不安定で心配になる方向けに、資産運用の王道である「長期・積立・分散」の原則を紹介したいと思います。資産運用の王道は「長期・積立・分散」資産運用では「長期・積立・分散」の3つの原則が大事だと言われています。一時的な相場下落の影響は避けられない前提で、それでも資産運用を成功させるためのコツを紹介します。大前提として「ハイリスク・ハイリターンの一発逆転」を狙うのではなく、「負けずに長期的に一定のリターンを出す」ことを目的としています。長期投資であれば負けにくい過去の米国株市場を振り返ると、「15年超の長期で切り取ればどの期間でもプラス」ですが「短期で切り取るとマイナスになる場合もある」ということが分かります。つまり、時間軸が短期であればリターンを出すのは相場次第となり難しいですが、時間軸が長期であればリターンを出せる確率は上がります。実際に、今回の調整局面よりも遥かに世界全体に暗雲が立ち込めていた2007年のリーマンショックの場合、株価の下落幅は50%を超えていますが、それでも6年間で相場は回復しています。つまり、リーマンショック前の最高値で投資をしても、6年待てばリターンはプラスになることが分かります。しかし、これは一時的にマイナスが出ても、長期投資を継続して待つ必要があることを示してもいます。長期投資目線で、一時的な相場下落があっても辞めずに続けられるかどうかが、資産運用のスキルとしては重要です。つみたて投資をすれば相場の影響は受けにくい「安値で買って高値で売る」は理想ですが、相場を読み切って実行するのは限りなく難しいです。資産運用の観点からできるリスク回避策は「高値のタイミングでまとめて投資することを避ける」ことになります。例えば、先ほどのリーマンショックの例だと、ショック直前の高値のタイミングで全額を投資した場合、回復するまでに6年間かかりますが、高値の前後にタイミングを分散して投資することで、資産全体をプラスにするスピードをあげることができます。これは、「一番安い時に全額投資する」という最も大きいリターンを得られる可能性を捨てることで、「一番高い時に全額投資する」という最も大きい損失を出す可能性も排除することを意味します。なので、資産運用では「一気に投資する」ではなく「積立で徐々に投資する」ことが大事であり、その観点からブルーモでも「リバランス付き自動つみたて投資機能」をリリースしています。また、このように定期的に一定額を入金して投資する手法は「ドルコスト平均法」と呼ばれています。相場に関わらず一定額を定期的に入金することで、値下がりした時は多く、値上がりした時は少なく資産を買付け、平均購入単価(投資元本)を抑える効果が期待できます。つみたてすると下落局面でも感情に左右されず買い付けられるので、相場下落時の購入チャンスを逃しにくいというメリットがあります。ポートフォリオを分散することでリスクを下げられる資産運用する上での最後の原則は「ポートフォリオのリスク分散」です。価格変動の大きいテクノロジー企業の株を集中保有するポートフォリオは、当たればリターンは大きいですが、下落局面では大きな損失を出す可能性があります(これが「リスクが高い」という意味になります)。リスクを抑えたポートフォリオを作ることで、相場下落局面でも影響を限定的にすることが可能です。実践的に紐解くと、ポートフォリオのリスク分散をする上で重要なファクターは「銘柄の数」「銘柄の価格変動の大きさ」「銘柄同士の相関」になります。「銘柄の数」を増やすためには、ブルーモであれば個別株でも1%単位から細かく銘柄を組み込むことができますし、より簡単にはETFを組み入れることで投資する銘柄数を簡単に増やすことができます(ETFは数十から数千の銘柄に分散投資しているため)。「銘柄の価格変動の大きさ」を抑えるためには、個別株であればテクノロジー株だけではなく高配当株を組み入れたり、株式だけでなく債券のETFも組み入れることが有効です。「銘柄同士の相関」を抑える(=ある銘柄が下落する時に他の銘柄は上がるようにしてリスクを相殺する)ためには、個別株であれば業種を分散して保有したり(テクノロジー株とエネルギー株など)、米国株と価格の相関の低い資産を組み入れたり(債券・金・グローバル株式など)することが有効です。下落相場は初心者が資産運用を身につけるための試練今回のような相場下落は必ず定期的に発生します。直近では、コロナショックや2022年の米国利上げのショックで市場は大きく落ち込みました。短期的に資産が目減りすると損失に怖くなり、資産運用を中断するパターンもありますが、一度資金を引き上げると戻ってくるハードルも高いです。「もっと下がるかも」と待っている間に株価が上がって資金を入れにくくなり、そのうち日々の忙しさの中で忘れ、結果的に資産運用を続けられなくことが多いです。今回紹介した「長期・積立・分散」の原則を守れば、過去に例のない世界的な災害などが起きない限り、マイナスで終わる可能性は低いので、原則を信じて資産運用を続けていただきたいと思っています。2024年夏の相場下落を振り返る最後に、2024年の上昇相場は7月中旬から大きく調整局面に入り、特に日銀の利上げもあった7/29-8/2の市場は円高と株安が重なり、資産価格が急激に落ち込むことになりました。大きな相場下落前の環境(2024年7月頭まで)を整理すると、株式市場はAI普及の加速によりNVIDIAを筆頭とする半導体銘柄の成長に牽引されていた米国の大型テクノロジー銘柄の占める時価総額比率は歴史的高水準だったFRBの利下げ延期に加えて日銀の利上げ遅れにより歴史的な円安が続いていたという状況でした。こうした中、米国企業の第3四半期決算の内容が振るわず、経済指標も予想より悪化していたことで、米国の景気後退リスクが意識されました。これにより、1と2で過熱していた市場は一気に反転下落が始まり、米国市場全体の大幅下落につながりました。また、日銀の利上げが予想以上に早く実行されたことにより、急速に円キャリー取引が巻き戻され(円を借りてドルに投資する取引が解消され)、急速な円高が進みました。今回の相場下落は、戦争・パンデミック・金融システム危機のような世界的な災害が発生したわけではなく、金融政策とAIでの相場過熱が原因である点が重要です。状況が悪化すれば、FRBの利下げ幅の拡大や日銀のさらなる利上げ延期で経済を刺激するオプションもあるため、底の見えない落ち込みになるリスクは低いと考えられます。