
ブルーモ証券代表取締役
中村 仁(Jin Nakamura)
米国株資産運用アプリを提供するブルーモ証券の代表取締役。東京大学法学部・大学院経済学研究科(修士)を卒業後、財務省にて総合調整・税務調査・国際金融業務に従事。その後、スタンフォード大学でMBAを取得し、米系コンサルティング会社のマッキンゼーにて主に金融機関向けのプロジェクトをリード。2022年にブルーモ証券を創業。大学院・財務省時代は各国の財政状況やニュースによって、国債金利がどのように変動するかをマクロ計量モデルで研究。
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日米金融政策は転換点。大型テクノロジー銘柄に資金は回帰するか
7月31日のマーケットは、ドル円が1.7%円高に振れて149円台になる一方、NASDAQは2.6%の大幅上昇となり、7月全体を象徴するような大きく揺れる相場でした。本記事では、今後を占う大きな材料の出てきた7月30−31日の市場動向をまとめています。日銀利上げとFRB利下げで日米金利差縮小が決定的に日銀はサプライズでの追加利上げを実施日銀は7月30-31日の金融政策決定会合で短期金利目標を0.25%に引き上げ、早期の利上げとして市場にサプライズを与えました。結果、会合前に155円台だったドル円は、2日間で149円台まで円高に急伸しています。日銀の金融政策についてはこちらの記事もご覧ください。FRBは9月利下げ可能性に言及し、市場はほぼ織り込み7月FOMCの結果としては金利据え置きとなりましたが、これは市場予想通りでした。注目されたのはFOMC後のFRBパウエル議長会見ですが、「早ければ9月に利下げの可能性」という発言が出たことから、市場は9月利下げに対する確信を高めることになりました。9月までの経済指標の結果が最終的な利下げ判断につながることになりますが、FOMC直前に発表されたADP雇用統計は下振れ(=雇用者数が伸びていないので物価や景気にはマイナスの影響)しており、このタイミングの材料としては利下げにポジティブなものが出ています。大型テクノロジー株は半導体の好材料で少し回復AMD好決算とMicrosoftの設備投資から半導体市況の見通しが改善7月30日のMicrosoft決算で、MicrosoftがAI向けのインフラ投資を増額するとの計画を発表したことで、Microsoftを大口顧客とするNVIDIAの株価は12%以上上昇しました。また、31日に決算発表したAMDも、データセンター部門が予想を超える売上結果となり、前年同期比で115%の成長となったことから、半導体・AI関連銘柄全般が大きく上昇しました。M7決算は現状Metaのみ好調先週のTeslaとAlphabet決算が期待外れとなり、NASDAQに2年ぶりの大幅下落をもたらすトリガーとなりました。今週はMicrosoftとMetaが31日までに決算を終え、AppleとAmazonの決算も控えています。Microsoftの決算はクラウド部門の成長見通しが従来より1-2%低く出されたため、四半期の決算結果自体は良かったものの、単体としては期待外れになりました。しかし、前述のようにAIインフラに対する投資の言及があったため、市場全体に対してはポジティブな材料となっています。Metaの決算は、今期のM7決算としては初めて市場の期待を超えてきました。四半期の結果は予想を上回り、前年同期比22%成長する広告ビジネスでシェアを伸ばしている点や、レイオフによって利益率の改善効果が出ている点が評価され、決算後の時間外取引で株価は5%程度上昇しています。また、AIに対する投資の増額も発表しており、前日のMicrosoft決算と同様にこの内容が半導体銘柄の株価に影響を与える可能性もあります。

リスクオフとは?相場下落時の3つのオプション
こんにちは、ブルーモ証券代表の中村です。米国株市場は近年右肩上がりで上昇していますが、上昇相場には「調整」と呼ばれる短期的な下落局面が必ず生まれます。これは、過熱した株価を適正水準に修正するような取引が生まれ、それまでとは逆方向に株価が揺れることを意味します。上昇相場の中で投資を始めた方も多く、下落局面を初めて経験する方もいると思うので、相場が下落した時にどうすれば良いのか、いくつか判断材料を提供できればと思います。ブルーモでは、リバランス機能によってポートフォリオの組み替えを簡単に実行できるので、今後の運用を迷っているユーザーの皆さんも是非読んでみてください。(最終更新:2024年8月)目次前提:長期投資であれば時間は味方リスクオフとは?「何もしない」以外の3つのオプションオプション1:株式に追加投資していくオプション2:安全資産の比率を高めるオプション3:一時的に安全資産に逃避する安全資産とは?おすすめのリスクオフ先米国短期債券ゴールド2024年の調整局面4月:米国利下げ延期見通しと中東情勢で、上昇相場に調整が入った7月:過熱した株価に企業業績が追いつかず、調整局面へ下落相場の中でも上がっているポートフォリオは?前提:長期投資であれば時間は味方まず基本的な部分ですが、長期で分散した投資をしている場合、足下の相場が下落しても慌てる必要はありません。投資期間が1ヶ月のような短期ではなく、10年以上のような長期であれば、世界経済が成長する中でリターンが出る確率は高いです。以下は当社HPにも掲載している過去30年の株式相場推移ですが、少なくとも米国市場は過去に大きなショック(ドットコムバブル、リーマンショック、コロナショック)もありましたが、長期的に株式市場は上昇しています。もう少し細かく月次のS&P500指数の動きから、各ショックの継続期間と下落幅をまとめたものは以下になります。足下の相場下落はここまで大きな話になっていませんが、ワーストシナリオを知る意味で参考になります。なので、長期的な資産運用をするのであれば「ここで投資をやめる」は得策ではなく、「何もしない」でも大きな問題はないです。ただ、足下の下落に対して何か動きたい方に向けて、いくつかのオプションを解説したいと思います。リスクオフとは?「何もしない」以外の3つのオプション投資用語で「リスクオフ」とは、投資家が相場の下落に備えて金融資産をリスクの高い商品からリスクの低い商品(安全資産)に移すことを言います。逆に「リスクオン」とは、投資家がリスクの高い商品に移行することを指します。足下の相場に対して「リスクオフ」をするかどうかは、今後の市場に対する見立てに依存します。以下に「何もしない」パターン以外の投資オプションを、市場への見立てによってまとめました。オプション1:株式に追加投資していく仮に足下の相場下落が一時的な場合、下落した価格で投資できるチャンスと考えることができます。投資からのリターンは、投資している銘柄の平均取得単価(投資時の株価平均)と時価の差分で生まれるので、株価が低い時に資金をたくさん入れると、当然ですが将来上昇した時のリターンも大きくなります。なので、投資銘柄の平均取得単価を下げるため、新たに現金を投入して追加投資することがオプションになります。注意点としては、株価の下落がさらに続く場合、追加投資分も含めてしばらく損失が出るので、相場の下げ止まりに確信が持てない場合、分割して徐々に資金を入れていくのが得策です。積立投資設定をしている方は、何も設定を変えないと基本はこのオプションで投資が続きます。オプション2:安全資産の比率を高める相場が下落しても影響を受けない安全資産のポートフォリオ比率を高め、相場変動に対する影響を中和するオプションで、今回のオプション1とオプション3の中間に当たります。具体的には株式・暗号資産・不動産といったリスクの高い商品を売却し、債券などのリスクの低い商品に投資するリバランスを実行することになります。相場変動への影響中和は下落時も上昇時も同じなので、相場上昇時のリターンも限定的になる点には注意が必要です。基本は一時的に安全資産の比率を高める想定ですが、今回のような相場下落に備え、安全資産をこの先もある程度組み込むのも良いでしょう。オプション3:一時的に安全資産に逃避する3つ目は相場下落に対して最も大きな動きになりますが、一時的にポートフォリオ全体を安全資産で構成してリバランスするというオプションになります。相場下落の影響は全く受けなくなるので、どれだけ市場が悪化しても資産が減ることはなくなります(安全資産そのものに変動がある場合を除く)。「ここで投資をやめる」に近いように感じるかも知れませんが、大きな違いは「一時的なこと」「安全資産からも一定のリターンを期待する」点にあります。「一時的なこと」とは、上昇のタイミングでのリスクオン(安全資産から株式等にリバランスすること)を実行し、上昇局面でのリターンを取り逃がさないことを意味します。このオプションを取る場合、いつ戻すかをその後も検討するのが大事です。安全資産とは?おすすめのリスクオフ先現金以外の安全資産として、ブルーモからも投資できる代表的なものを2つ紹介します。うまく活用すれば下落相場でも一定のリターンを期待できます。米国短期債券安全資産の一番代表的なものは債券(特に国債)です。債券は一定の利率を設定して発行された借入のための有価証券です。国債であれば借入元は政府なので、(特に先進国なら)債務不履行のリスクはほとんどなく、利率から安定したリターンを期待できます。今回の相場下落の大きな要因にもなっている「米国の高金利」ですが、これは裏を返すと米国の債券の利率が高いことを意味しています。なので、米国債に投資することで相場変動を回避しつつ、日本の金利よりは遥かに高いリターン(2024年4月時点で年利回り5%程度)を得ることができます。ただし、リスクオフを目的に債券投資する場合、気をつけないといけないのが「短期債であること」です。長期債の場合、金利が上がると価格が下がる関係にあるため、米国の利下げがさらに遅れるとそのタイミングで価格下落に直面するリスクがあります。ブルーモでも取り扱っている具体的な商品としては、「米国短期国債ETF(SHV)」と「米ドル建て投資適格変動金利ETF(FLRN)」がリスクの低さからおすすめです。米国短期国債ETF(SHV)残存期間1年未満の米国債に投資するETFで、流動性が極めて高いため、金利が上下してもほとんど価格が変動しません。過去5年間の値動きでも、+0.47%~-0.71%の間でしか動いておらず、ほぼ現金見合いとも言える変動の低さです。ここまで安全だとリターンも低そうですが、足下の米国金利の高さから分配年利回りは2024年4月時点で5.27%と、安全資産としては安定したインカムリターンを提供してくれます。米ドル建て投資適格変動金利ETF(FLRN)こちらは変動金利債に投資するETFで、投資債券の金利自体が市場水準に合わせて変動するので、金利の影響での価格変動は限定的です。こちらも2024年4月時点の分配金利回りは5.97%と、一定のインカムリターンを提供してくれます。SHVも同様ですが、短期債は金利が下落するとそれに伴い分配金利回りもすぐ下がるので、将来的にも年5%のリターンを約束されているわけではなく、金利下落局面(そしておそらくは株価上昇局面)での見直し検討は必要です。ゴールドもう一つの代表的な安全資産がゴールド(金)です。信用リスクのない(投資先が破綻したりがない)現物資産として、金はリスクオフのタイミングで買われる傾向にあります。最近は世界の中央銀行が運用先として金を買っていることから、さらに相場が上がっており、株式市場が下落する中でも金は上がり続けています。金に手軽に投資する方法は、ETFを購入することで、ブルーモでもゴールドETF(GLD)を取り扱っています。ゴールドETFは過去5年で83%上昇しており、過去1ヶ月間でも9.3%上昇しています。ただし、短期債と違って、金は現物資産の取引状況によって下落する可能性もあるので注意が必要です。資産価格の変動をどれだけ排除したいかで、短期債ETFにするかゴールドETFにするかを決めると良いでしょう。2024年の調整局面2024年の相場は年間で好調なものの、何度か調整局面が出ています。ここでは7月末時点での調整局面を紹介します。4月:米国利下げ延期見通しと中東情勢で、上昇相場に調整が入った2024年第2四半期は世界的に株式市場が調整局面に入り、4/15-4/19の1週間で米国のS&P500指数は3.8%下落、日本の日経平均も5%下落するなど、大きな市場変動が起きています。そもそもの話として、4月に入ってからの株式市場で何が起きているかを振り返ります。2024年の株式相場は、米国での利下げ期待により好調でした(上昇を続けていました)。利下げで企業業績が良くなり、株価上昇を見越した投資家が米国株への投資を進めたことで、相場全体が上がっていました。ここに「利下げ延期見通し」と「中東情勢の不安定化」が飛び込んできました。「利下げ延期見通し」は、米国経済の強すぎる指標(物価指数など)が明らかになることで、FRBが利下げを予想通りには実行できない見通しが出てきたことを意味します。経済が強いのは良いことなのですが、結果的に利下げ延期見通しになって株式相場を下落させています。「中東情勢の不安定化」は、イスラエルと周辺勢力の関係が悪化することで原油の流通に問題が出て、原油価格の高騰から経済の低成長につながるのではないかという株価を伸びにくくしています。大きな危機が顕在化している状況ではなく、米国に限れば実体経済は堅調ですが、上記による不確実性から株式市場のリスクオフが進んでいるのが現状です。7月:過熱した株価に企業業績が追いつかず、調整局面へ2024年第2四半期は、4月の調整局面後、7月頭まで半導体中心に株価の急上昇が続きました。物価・景気の鈍化がFRBの利下げ期待を引き上げ、NVIDIAはじめ半導体企業の好業績がテクノロジー銘柄の株高を牽引しました。しかし、7月中旬くらいから大型テクノロジー株への過度な資金集中を避けるための資金流出が始まり、過熱した半導体相場も米中関係への懸念から調整が入りました。また、2024年第3四半期発表の決算も、NVIDIAを除くM7銘柄はMetaとAppleを除いて内容は期待に満たないもので、これまで高金利で抑制が必要だった米国企業業績に陰りが出てきて、それが株価の下落につながりました。9月の利下げは市場に織り込まれる中、製造業指数などで景気鎮静化のシグナルが出ると、景気後退(=企業業績の悪化)シグナルと捉えられ、株価が下落する関係も出てきました。これは、2024年上半期の市場が景気鎮静化が利下げ期待につながって株価上昇をもたらしたのと、大きく異なる傾向です。下落相場の中でも上がっているポートフォリオは?ブルーモでは、「週間比ランキング」から直近でどんなユーザーのポートフォリオが評価損益で上昇しているか分かります。2024年4月の調整局面での動きを見ると、高配当株の公式ポートフォリオをコピーして運用しているユーザーのポートフォリオが伸びていました。具体的には「ダウの犬」「高配当株式セレクション」の公式ポートフォリオは週間比で1.8%くらいの上昇を見せていました(同期間でS&P500は3.8%下落)。また、債券ETFをミックスした公式ポートフォリオも価格変動しておらず、一定の分配金利回りがあることを考えると、これらのポートフォリオをコピーして運用している場合もリスクオフ時の投資としてはうまくいっていそうです。セクター特化のポートフォリオでは、「小売・生活必需品」「金融サービス」の週間比上昇が大きく、リスク時に強いセクターも見えています。

日銀が追加利上げを決定。金融政策と為替の行方
2024年7月30-31日に開催された日本銀行の金融政策決定会合で、日銀は追加利上げを決定し、市場に大きなインパクトを残しました。本記事では、今回の金融政策決定会合の主要ポイントと市場の反応を解説していきます。前提:これまでの日銀の金融政策日銀は2000年頃から長期にわたって短期金利についてはゼロ〜マイナスの水準を目標としつつ、長期金利もYCC(イールドカーブコントロール)によって操作し、「量的・質的金融緩和政策」と呼ばれる大規模な金融緩和(=日銀による多額の国債やETFの買入れ)を続けてきました。この方針は植田総裁の就任後、国内の物価水準が上昇基調になったこともあり、大きく転換しているのが現状です。2024年3月の金融政策決定会合では「マイナス金利解除」が決定され、以下の方針転換がされました。日銀当座預金(金融機関が日銀に預けている預金)に対する金利を-0.1%から+0.1%に引き上げ、日銀の短期金利目標を0-0.1%に設定YCCを廃止し、長期金利を市場決定に委ねる(YCCの下では長期金利を下げるための国債買入れが行われた)ETF・REIT買入れの終了(買入れするのは国債のみに=質的金融緩和の終了)2024年3月の大きな政策転換により、長期デフレで日銀が講じた特殊な緩和政策は終了しましたが、「政策金利の更なる引き上げ」「量的緩和の縮小」が次のステップとして期待されていたのが2024年7月の金融政策決定会合でした。24年7月の金融政策決定会合のポイント短期金利目標の引き上げ日銀は短期目標を0-0.1%から0.25%に引き上げました。前回3月の引き上げに続いて2度目となり、7月の段階でここまで踏み込まないのではないかという見通しが優勢だったため、市場からはサプライズになりました。日銀は、2024-26年の消費者物価が安定的に2%程度の上昇することが見通せており、円安でさらなる物価上振れリスクもあるため、現時点での利上げが適切と判断しました。また、9月ではなく7月に利上げに踏み切った理由としては、春闘の結果を踏まえて賃金も安定的に上昇する見通しがあったためとしています(総裁記者会見より)。国債買入れの段階的縮小日銀は現在月額5.7兆円程度の規模で国債を買入れています(=市場に資金を量的注入することによる金融緩和)この国債買入れ額を毎四半期に4000億円ずつ減額し、2026年第1四半期には月額2.9兆円と、現在の半分程度の買入れ額に抑える方針を示しました。これにより、2026年3月までに日銀の国債保有残高はおよそ7-8%減少する見込みとされています。一方、長期金利が急激に上昇した場合、計画以上の買入れをする可能性も示しており、長期金利上昇に対する牽制も盛り込まれています。中間評価は2025年6月今回の国債買入れ減額に対する中間評価は2025年6月に実施する予定が示され、そこで2026年3月以降の国債買入れ方針についても検討・公表される予定です。一方、短期金利目標はさらに追加で引き上げる可能性も示唆しており(総裁記者会見より)、国内物価の上昇によっては今後短期金利が0.5%へと引き上げられる可能性もあります。出典:https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/mpr_2024/k240731b.pdf市場の反応日銀が利上げをすると、日米の金利差が縮小するので円高圧力がかかることになります。7月30日には金融政策決定会合の結果が日経新聞等でリークされたことにより、公式発表に先駆けて円高が進行し、ドル円は154円台から152円台にまで円高となりました。7月31日の追加利上げ正式公表後は、更なる円高が進み、31日18時時点でドル円は150円台にまでなりました。一方、これ以降で日銀側からの材料は出てこない(さらなる追加利上げは現状すぐに想定されない)ため、この円高がどこまで進むかはFOMC側(米国の金融政策側)次第となっています。

NASDAQが2年ぶりの大幅下落?7月24日の市場で何が起きたのか
こんにちは。ブルーモ証券代表の中村です。7月24日の株式市場は、S&P500が2.3%下落、NASDAQが3.6%下落と、2022年以来の大幅下落となりました。続く翌日25日の日経平均も3%を超える下落となり、2024年の第3四半期は個人投資家にとって厳しい内容で始まりました。本記事では、こうした状況を受け、7月24日の市場で何が起きたのかと、今後何に注目すべきかをまとめています。相場下落時の対応については以下記事もご覧ください。7月24日の米国株式市場2022年以来の市場全体での大幅下落7月24日のS&P500とNASDAQの下落幅は、利上げで株式市場が大きく落ち込んだ2022年以来の大きさでした。取引日換算で過去400日近く(=およそ80週間ほど)NASDAQは1日に3%以上、S&P500は1日に2%以上下落していなかったので、市場にとってインパクトは大きいものでした。過去数週間の下落でS&P500とNASDAQはこれまでの上昇からかなり戻していますが、それでも2024年初から見ると引き続き13-15%上昇しており、2024年の年間パフォーマンスは好調というのが現時点での評価になります。過去数年の市場を振り返ると、2022年は利上げで大きく市場が落ち込み、2023年はその反発で大きく上昇、2024年は利下げ期待とAI投資の活性化で好調な相場が続いていました。上記を踏まえると、①数年単位でホールドしていれば大きな下落を挟んでもプラスだった、②2024年は経済環境的には好材料(2022年と違い)のため現在の下落は上昇トレンドに対する調整に見える、点に留意すべきでしょう。影響が大きかったのは情報通信セクターやM7銘柄以下はS&P500セクター別の株価変動です(以下数字の出典はこちら)。情報技術やコミュニケーションサービス、一般消費財が24日の下落で影響を受ける中、ヘルスケアや公益事業セクターは逆に上がっていたことがわかります。ヘルスケア・公益事業・生活必需品は2022年の下落時にも影響を受けていないので、下落局面に強いことが今回も証明された形になります。逆に今回大きなダメージを受けた(=S&P500の下落率を超えて落ちた)代表的な銘柄は以下のようなものになります。2024年初来でパフォーマンスが高かった銘柄に集中して下がったというより、半導体・大型テクノロジー株・直近の業績が良くなかった銘柄が大きく下落しています。景気変動とセクターパフォーマンスの関係は以下の記事もご覧ください。トリガーはTeslaとAlphabetの決算過熱した大型テクノロジー株を中心とした銘柄の株価に対する調整という整理は、前回記事で示した通りですが、特に今回はMagnificent 7銘柄最初の決算だったTeslaとAlphabetの決算結果が期待に届かなかったことが大きなドライバーになりました。Teslaは利益の減少と自動車販売の不調、ロボタクシー発表の延期から決算後に大きく下落しました。Alphabetは好調な決算内容でしたが、競争激化によりYouTube広告収入が予想を下回ったこともあり、株価は下落しました。この決算結果が2023年からS&P500の成長を牽引してきたMagnificent7銘柄からの資金逃避と株価下落を加速させ、7月24日の市場全体大幅下落のトリガーとなってしまいました。結果、Magnificent7の時価総額は7月24日だけで7680億ドル、過去2週間では1.7兆ドルも減少しました。今後の注目ポイントFRBの利下げ動向7月30-31日に開催されるFOMCの後、FRBのパウエル議長など要人から利下げに対するフォローアップのコメントが出るかに注目です。市場はインフレ沈静化もあり9月の利下げを織り込んで進んでいますが、トランプ前大統領は大統領選のある11月までFRBは利下げをすべきでないと言っています。トランプ前大統領自体は利下げに肯定的ですが、現政権(=民主党)のプラスになる利下げを選挙前に防ぎたい狙いがあります。実際に9月の利下げが行われるかは別として、こうした環境を踏まえてFRB要人から利下げについて何もFOMC後に発言がないと、市場に動揺が走る可能性があります。M7銘柄の決算今回の調整局面はM7銘柄の株価過熱が大きな要因だったこともあり、他のM7銘柄の決算が期待を超えられるかにも注目が集まります。前四半期もNVIDIAの株価高騰に対する不安で一時的に市場が落ち込む中、NVIDIA決算が予想を超えたことで更なる株価上昇局面となりました。今四半期は、Microsoft, Meta, Apple, Amazonの決算は来週に控えており、FOMCと合わせて大きく市場を動かすポイントになりそうです。ただ、再注目のNVIDIAの決算は8月末なので、もう1ヶ月くらい半導体銘柄にとっては不確実な期間が続きそうです。トランプトレードの行方トランプ前大統領が前回就任した際は、トランプ政権の掲げる減税や財政出動などの経済政策期待から米金利・株式・米ドルの急激な上昇が見られ、「トランプラリー」と呼ばれました。トランプ前大統領の暗殺未遂事件があってから、7月25日現在ではトランプ前大統領の再選確率が高いと見られており、トランプ前大統領の政策を先取りした投資活動が活発化することが予想されます(=トランプトレード)。ただ、現状はトランプ前大統領の政策が明確でないこと、民主党がバイデン大統領に代わりハリス副大統領が候補者になることで、選挙戦の行方がやや不透明になった(民主党の勝率が盛り返してきた)ことで、トランプトレードの効果は不透明な状況です。今後、トランプ陣営から明確な政策の発信があったり、選挙戦での進展が見られると、関係する株式の上昇・下落などの動きにつながると考えられます。

テクノロジー銘柄が下落する中、ダウ平均や小型株は好調?米国市場の現在地
こんにちは。ブルーモ証券代表の中村です。7月8日週から、米国株式市場ではテクノロジー銘柄の大きな下落と、為替市場ではドル円の円高への是正が進んでいます。特に7月17日の米国市場ではNASDAQが2.7%超の大幅下落をしました。これは2024年冒頭から続いたグロース株上昇と円安進行に対する大きな変化(ショック)で、驚かれている方も多いのではないかと思います。本記事では、足下の米国市場で何が起きているかを解説していきたいと思います。相場下落時の対応については以下記事もご覧ください。米国株式市場に対する調整の背景大型テクノロジー銘柄に過度な資金集中が生じていた2024年はNASDAQが21.8%上昇、S&P500が17.8%上昇と大きな相場上昇が続いていました(年初来、202年7月17日終値ベース)。特に2024年第2四半期(4-6月)はNVIDIAをはじめとする半導体企業の決算が好調だったこともあり、テクノロジー株に投資が集中して株価が上昇する一方、伝統的な大型銘柄は伸び悩んでいました。具体的には、第2四半期でS&P500とNASDAQは四半期でそれぞれ3.9%、8.3%上昇しましたが、ダウ工業株30種は1.7%安でした。こうした大型テクノロジー企業の株価好調に支えられ、S&P500の指数に占めるマグニフィセント7銘柄の比率は30%超と、歴史的な高水準に達していました。好調な業績を背景にしているとはいえ、この資金集中に対する巻き戻しが生じる可能性があったと言えます。資金集中の巻き戻しの結果、7月17日にNASDAQが2.7%下落した際も、ダウ工業株30種は上昇しています。高金利下で過小評価されていた小型株に見直しテクノロジー株から資金移動が起きる中、大きく上昇していたのは米国小型株です。この小型株への資金シフトトレンドが明確に現れたのはRussel2000という米国の小型株インデックスで、米国企業の時価総額1001位から3000位の2000銘柄で構成されています。Russel2000はS&P500やNASDAQが落ちる中、先週から10%近く上昇しており、特徴的な動きとして注目を集めています。小型株は一般的に債務負担が大きい(=借入をして事業に投資する)ため、高金利下では業績が伸び悩む傾向にありますが、足下でFRBの利下げが確定路線になったことで、収益改善の見通しが立って上昇していると考えられます。米政府の対中強行姿勢で半導体株が下落また、足下での動きとして、米国政府が中国に対する最先端の半導体輸出に対して規制をかける可能性があると報じられており、これが半導体企業の業績にマイナスの影響を与えると懸念され、半導体株が大幅下落しています。中国に対する規制検討は現行のバイデン政権での報道ですが、大統領選の対抗馬であるトランプ前大統領も中国に対して強行姿勢のため、いずれが政権を取った場合でも大きな方向性に変わりはないとも見られています。一方、半導体株への期待は足下で高まり過ぎていたところでもあるので、決算を前に一旦の落ち着きを見せて良かったと評価するアナリストもいます。為替市場でのドル高是正の背景日米金利差是正に向けた進展ドル円は160円台と歴史的な高水準に達していましたが、大きな要因は米国と日本の金利差(高金利の米国に低金利の日本から資金が流出する)にありました。2024年は当初利下げが期待されていたものの、第1四半期で中々インフレが沈静化しないのを見て、日米金利差は縮まらない状態でした。ところが、足下の1−2ヶ月間は重要なインフレ指標であるCPIも予想を下回る数字を見せており、FRBの利下げ路線が固まったと見られています。この利下げ予測が日米金利差の縮小を期待させて、円高へのプッシュとなりました。さらに、それを後押しするように7月17日には米国のトランプ前大統領からドル高是正のコメントが、日本の河野太郎デジタル相から日銀への利上げ要求コメントがあり、さらに日米金利差の縮小を期待させる要因になっています。日本の当局による断続的な為替介入こうした円高方向の為替変動トリガーとなるイベントに対して、日本の政府・日銀が断続的な為替介入も続けています。5月の大型介入の後、追加での為替介入はないと見ていた市場関係者からはこれがサプライズとなり、足下の円高進行を支えています。今後の注目ポイント足下の米国市場は、資金が一部のテクノロジー企業から市場全体に循環している動きなので、ある程度分散して投資をしていれば大きな懸念がある状態ではないと言えます。米経済のソフトランディングが進む中、FRBはまだまだ利下げ余地を残しているので、市場全体が大きく落ち込み続けるリスクは低いと言えます。テクノロジー銘柄に集中投資している場合、今後どこまで資金流出が進むかがポイントです。次回決算で出てくる業績が大きなファクターになりますが、足下で一旦過度な期待への調整が入ったので、決算が良かった企業にとってはアップサイドの大きい環境になっています。この機に集中投資からリスクを下げて分散したり、ポートフォリオの構成を見直したい方は以下の記事をご覧ください。ドル円相場はより予測が難しいですが、直近で追加のサプライズは出にくい環境になっています。まず、為替介入は無限に投下されるわけではないので、ここだけに期待することは難しいと見られています。FRBのFOMC(利下げを決める会合)や日銀の金融政策決定会合を控えているので、会合後のコメントで何かサプライズが出れば相場変動の要因になります。7月30日・31日開催予定のFOMCと日銀金融政策決定会合には注目です。金融市場の全体像やFRBの仕組みについての解説はこちらをご覧ください。

ゼロから学ぶ日銀のマイナス金利解除
こんにちは、ブルーモ証券代表の中村です。去年から度々経済ニュースで議論される「日銀のマイナス金利解除」について、この記事ではどんなものかを噛み砕いて解説し、海外株式に投資する個人投資家に対する影響を考察します。元関係者として政策決定の考察もできるのですが、今回は基本的な解説をします。もし、ディープな内容のリクエストあれば教えてください。この記事は投資初級者(投資はNISAとインデックスくらい)向けの内容です。筆者:中村 仁米国株資産運用アプリを提供するブルーモ証券の代表取締役。東京大学大学院経済学研究科(修士)を修了後、財務省にて総合調整・税務調査・国際金融業務に従事。その後、スタンフォード大学でMBAを取得し、米系コンサルティング会社のマッキンゼーにて主に金融機関向けのプロジェクトをリード。2022年にブルーモ証券を創業。大学院・財務省時代は各国の財政状況やニュースによって、国債金利がどのように変動するかをマクロ計量モデルで研究。目次マイナス金利政策とは何か?前提:そもそも日銀の金融政策とは?長期化した金融緩和の果てがマイナス金利政策個人投資家は何を見ておくべきか?日銀の政策変更タイミング(を市場はどう予想するか)FRBの動きとも合わせた為替相場の動きマイナス金利政策とは何か?マイナス金利解除を語る前提として、マイナス金利政策とは何かを簡単に解説します。前提:そもそも日銀の金融政策とは?日銀の役割は「物価を安定させること」です。日銀HPより(日本銀行の目的は何ですか?)日本銀行の金融政策の目的は、物価の安定を図ることにあります。物価の安定は、経済が安定的かつ持続的成長を遂げていくうえで不可欠な基盤であり、日本銀行はこれを通じて国民経済の健全な発展に貢献するという役割を担っています(日本銀行法第1条第1項、第2条)。経済成長に適正なインフレ率は年間2−3%とされています。日銀はこの2−3%のインフレ率が継続する環境をつくるため、実体経済に働きかける手段として金融政策を実行しています(実体経済と中央銀行の関係についてはこちらの記事を参照)。なぜ「働きかける」という表現になるかというと、「物価」は日々の売買や企業の投資の中で決まっていく(たくさん買いたい人がいれば物価は上がるし、売りたい人が多ければ下がる)ので、それを直接日銀が操作できるわけではありません。日銀にできることは「日本円を発行すること」なので、基本は発行した日本円の流通量を変える等の手段で金利を操作し、それによって最終的に物価に働きかけようとします。金利が下がれば企業はお金をたくさん借りてたくさん使う(設備に投資する)はずなので物価は上昇し、金利が上がると逆に消費が減って物価は下落することが想定されています。大きな動きとしては、①日銀の金融政策→②金利の変化→③物価の変化、という図式を頭に入れていただければと思います。日銀は、インフレ率が低ければ金利を下げて経済活動を刺激し、高ければ金利を上げるというのが基本的なアクションになります。長期化した金融緩和の果てがマイナス金利政策日本は過去30年にわたってデフレ(インフレの逆で物価が下がること)が続き、経済成長にマイナスの影を落としてきました。「物価が下がるとお得で良いのではないか」と考えるかも知れませんが、モノの値段が上がらなければ賃金も上がらず、企業も投資を積極的にできない環境になるため、経済全体にとっては悪影響になります。これに対して日銀は金利を引き下げて物価上昇を目指しますが、金利は早々にゼロまで下がってしまい、そこから出口の見えない長期の金融緩和(=物価上昇を目指した金融政策)を続けることになります。日銀の植田総裁が、かつて日銀で勤務していた当時に書いた有名な書籍(私も学部時代に読みました)に「ゼロ金利との闘い」がありますが、20年前からゼロ金利でも上がらない物価に苦しんでいたことになります。2012年から始まった第二次安倍内閣では、デフレを中々脱却できない日本経済を大規模な経済政策で刺激する「アベノミクス」を展開しました。同じタイミングで日銀総裁に就任した黒田総裁は、政府と歩調を合わせて大胆な金融政策を順次展開していきました。その一つが2016年から現在まで続くマイナス金利政策です。「マイナス金利」とは、その名の通りお金を貸した(預けた)側が金利を支払う、通常とは全く逆の現象を意味します(通常はお金を借りると借りた側が金利を払う)。民間の銀行は余ったお金(預金として預かったお金のうち貸付等に当てられていない分)を日銀に預ける必要があります。通常はこのお金にプラスの金利がついて銀行の収入になるのですが、マイナス金利が適用されるとコストが発生します。銀行はお金が余って日銀に預けると損なので、なんとかお金を使おうとして積極的に貸し出しを進め、結果的に経済が活性化してデフレ脱却できるだろう、というのが当初の目算でした。しかし、効果は思ったより芳しくなく、マイナス金利を解除できないまま8年が経過して今に至ることになります。マイナス金利の前後でも、量的緩和やYCCなど様々な金融政策は実行されていますが、マイナス金利はデフレ脱却の苦しみを表す一つの象徴的な存在です。個人投資家は何を見ておくべきか?日銀の政策変更タイミング(を市場はどう予想するか)マイナス金利が解除されるとはどんな金融政策なのか、など技術的な話は一旦省略すると、マイナス金利解除で日本の短期金利はやや上がります。「やや」と表現したのは、上がると言っても1%などという単位ではなく、0.1-0.2%くらいの幅になります。日銀の金利が上がるタイミングで、日本の低金利と米国の高金利のギャップが縮まるので、為替レートが円高に推移すると想定されます。どうしてそうなるかの背景は、以前書いたこちらの記事を読んでみてください。日銀の金融政策は「金融政策決定会合」という場で決まるので、ここでどんな結果が出てくるかが重要です。今年の日程は以下に出ていますが、メディア等では3月4月あたりがマイナス金利解除のタイミングではないかと見られています。FRBの動きとも合わせた為替相場の動き為替レートなどの相場は期待で動く(実際の決定よりもそれが見通された時点で動く)ことが多いので、金融政策決定会合の前の「要人発言」や「経済指標」も大きな影響を持ちます。足下の為替レートの動きだと、①植田総裁の発言(国会等に呼ばれて発言することがよくあります)、②関係者からのリーク(政府の容認姿勢など)が大きな影響を与えていました。また、為替レートは日銀だけでなく、米国側でFRBがどう動くか(=利下げがどうなるか)にも左右されるので、FRBの動きも合わせて見ると理解しやすくなります。例えば、FRB側での利下げ期待の高まりと、日銀側でのマイナス金利解除の見通しが同時に出ると、円高に進む可能性はかなり高くなります。ただ、「どこまで円高にいくか」は予想の立てにくいところです。マイナス金利解除に対する材料が一定は出ている今日時点(24/3/13)でも147円台とそこまで円高は進んでおらず、どのあたりが転換点になるか、年内で140円台を切る水準まで行くのかやや不透明な状況だと見ています。長期投資であれば、ドル円の動きにタイムリーに反応する必要はないですが、保有資産が変動している時に「あー日銀が動いたから円高(円安)になっているんだ」と理解できると、自分のやっている資産運用に納得感が出ると思うので、少し注目してもらえると良いかなと思います。

米国テクノロジー銘柄インデックス比較分析:M7 / FANG+ / US Tech Top20
こんにちは、ブルーモ証券代表の中村です。過去数年間の米国株式市場の成長を一部企業が牽引したこともあり、最近それらのテクノロジー銘柄に集中投資するインデックスが話題です。今回はこのテクノロジー銘柄インデックスについて解説していきます。この記事は投資初級者(投資はNISAとインデックスくらい)〜中級者(個別株やETFも少し買ったことがある)向けの内容です。筆者:中村 仁米国株長期投資アプリを提供するブルーモ証券の代表取締役。東京大学大学院経済学研究科(修士)を修了後、財務省にて総合調整・税務調査・国際金融業務に従事。その後、スタンフォード大学でMBAを取得し、米系コンサルティング会社のマッキンゼーにて主に金融機関向けのプロジェクトをリード。2022年にブルーモ証券を創業。大学院・財務省時代は各国の財政状況やニュースによって、国債金利がどのように変動するかをマクロ計量モデルで研究。目次M7 / FANG+ / US Tech Top20とは何か?Magnificent 7FANG+US Tech Top20M7 / FANG+ / US Tech Top20パフォーマンス比較投資する場合のオプション投資信託やETFを購入する該当する個別株を自分で保有するブルーモで簡単にテクノロジー銘柄インデックスに投資するM7 / FANG+ / US Tech Top20とは何か?それぞれ大型テクノロジー株の集合を示しており、「特に過去数年で急成長してきたテクノロジー企業を集めたもの」と認識していただければ大丈夫です。他の主要インデックスとの違いは、銘柄数が少ないこと、それに伴いリスク・リターンが大きいことになります。過去の急成長に注目はされますが、今後の成長を確証するものではないこと、少数銘柄に集中するためリスクは相応に高いことに注意する必要があります。M7→FANG+→US Tech Top20の順に銘柄数は多く・分散されています。以下が簡単な比較表です。Magnificent 7Magnificent 7とは、直訳すると「偉大な7社」で、映画「荒野の7人(原題:Magnificent 7)」から取って名付けられた7企業です。2023年にBank of AmericaのアナリストであるMichael Hartnettが呼称したことから広まり、現在では市場関係者から広く認知されるようになりました。この7企業の集合はインデックスとしてどこかの会社が管理しているものではなく、GAFA, GAFAMのような通称だと思っていただければ良いです。通称であるM7が注目されている理由は、この7企業の成長が2023年におけるS&P500指数の成長の76%だったという衝撃的な事実からです。この事実から、S&P500のその他企業を「S&P493」と呼称して、S&P500の成長は一部企業のものでしかないとする議論が生まれました。FANG+FANG+はICE社の提供する、大型テクノロジー企業10社で構成されたインデックスで、四半期に一度銘柄構成を見直しています。2017年から対外的に提供されており、3つのインデックスの中では最も歴史があります(とはいえ7年ですが)。現在の構成銘柄はM7に加えて、半導体のBroadcom、動画配信サービスのNetflix、データプラットフォームのSnowflakeが入っています。設定当初はAlibaba, Baidu, Twitterなどが構成銘柄に入っていましたが、その後Microsoft, Broadcom, Snowflakeに置き換えられていきました。構成銘柄は、Meta, Apple, Amazon, Netflix, Microsoft, Alphabetの6銘柄をベースとして、残り4銘柄を時価総額や平均出来高等でランク付して抽出しています。US Tech Top20US Tech Top20 indexは、Solactive AG社の提供する大型テクノロジー銘柄インデックスで、自動化・クラウド・コンテンツ配信・電子商取引・半導体に関係する企業を集めています。構成銘柄は各セグメントで分散するように大型企業から順に20銘柄を抽出しており、半年に1度見直しがされます。各銘柄は最大8%の構成比率になるように調整されています。M7やFANG+にない企業としては、半導体のAMD、会計システムのIntuit、中南米版オンライン売買プラットフォームのMercado Libre、デジタルコンテンツ編集のAdobeなどが入っています。今回紹介する3つのインデックスの中では最も分散されていますが、知名度はまだまだ低いです。M7 / FANG+ / US Tech Top20パフォーマンス比較比較的新しい指標・概念のため、実際に運用したパフォーマンスが全て存在するわけではないので、「現在の構成銘柄・比率に対して、X年前から円建てで投資していたらどうなったか」でリターンのパフォーマンスを比較します(為替の影響も含まれます)。なお、数値は全て2024年3月5日現在のものになります。結論から言うと、過去1年・3年では3指標ともほとんど変わりませんでした。過去5年で見ると、M7 (+760%) >FANG+ (+660%) >US Tech Top20 (+590%) の順にパフォーマンスは高く、コロナ後の2019−2020年あたりの成長率がM7とその他のテクノロジー銘柄で差がついていることが分かる結果となりました。リスクについては、銘柄を増やした方が分散できているのですが、当社で分類すると全て最高の7(S&P500のリスクを4とした場合)になっています。どの指標も価格変動自体は大きいので、もっとリスクを下げたいのであれば、他の資産と一緒に保有した方が有効です。リターンはあくまでの過去の結果でしかないので、M7企業の今後に対する確信が強ければM7やFANG+を、他のテクノロジー企業が伸びる可能性にも賭けたいのならUS Tech Top20で分散するのがおすすめです。投資する場合のオプション投資信託やETFを購入する今回紹介したテクノロジー銘柄指標に合わせて分散投資する投資信託・ETFが販売されるので、いくつか紹介します。ここ最近での販売開始が多いのは、これらの指標に対する注目度の高さを示していると言えます。投資信託やETFで投資するメリットは、自分で個別に銘柄を購入する必要はなく、インデックスの目標比率と保有比率がズレた時には、運用会社が自動でリバランスをしてくれることです。出典:米国大型テクノロジー株式ファンド, iFreeNEXT FANG+インデックス, 一歩先いく US テック・トップ20 インデックス該当する個別株を自分で保有するS&P500やオルカンのように銘柄数が多い場合は投資信託やETFで保有すると効率が良いのですが、今回紹介した7−20銘柄程度のインデックスであれば、自分で直接個別株に投資して保有するのも有力なオプションです。投資信託やETFを購入する場合に比べて、銘柄を入れ替えたり・比率を変更したりして自分の意思が反映させやすく、自分オリジナルなテクノロジー銘柄インデックスを作れる一方、個別に銘柄を購入したり、途中でリバランスするのは手間がかかります。ブルーモで簡単にテクノロジー銘柄インデックスに投資するここから先は宣伝になりますが・・・ブルーモ証券の提供する投資アプリ「Bloomo」では、米国株・ETFを組み合わせたオリジナルなポートフォリオで簡単に投資することが可能です。今回紹介したM7 / FANG+ / US Tech Top20も公式ポートフォリオに入れているので、ワンタップでコピーして投資開始することも可能です。投資信託と同様に日本円を入金するだけで分散投資できて、自分でやると面倒なリバランスもワンタップで実行できるので、テクノロジー銘柄インデックスに興味がありつつ、自分でも中身をいじりたい方にはおすすめできます。手数料も年率0.55%と、今回紹介した投資信託と同程度なので、安心してご利用いただけます。

元財務官僚が解説する、資産形成に役立つ世界経済と金融市場の初歩
こんにちは、ブルーモ証券代表の中村です。最近「オルカン」「SP500」などを入口に海外株での資産形成を始める方が増えているので、その数字がどうして動くのか?ニュースはどんな意味を持つのか?という仕組みを分かりやすく解説したいと思います。この記事は投資初級者(投資はNISAとインデックスくらい)〜中級者(個別株やETFも少し買ったことがある)向けの内容です。筆者:中村 仁米国株長期投資アプリを提供するブルーモ証券の代表取締役。東京大学大学院経済学研究科(修士)を修了後、財務省にて総合調整・税務調査・国際金融業務に従事。その後、スタンフォード大学でMBAを取得し、米系コンサルティング会社のマッキンゼーにて主に金融機関向けのプロジェクトをリード。2022年にブルーモ証券を創業。大学院・財務省時代は各国の財政状況やニュースによって、国債金利がどのように変動するかをマクロ計量モデルで研究。目次はじめに:経済動向をどのくらい気にするべきか?見るべき指標とその決定構造基本的な見るべき指標と経済の仕組み①米国株式市場にいま何が起きているのか②ドル円の為替レートにいま何が起きているのか2024年に想定される市場シナリオ米国の利下げ期待による米国株式市場の変動日米金利差の縮小による為替レートの調整最後に:ブルーモでも市場ニュースやデータを発信中はじめに:経済動向をどのくらい気にするべきか?最初に元も子もないことを言いますが、前提として日々の経済ニュースに対して長期投資家が大きなアクションを取る必要性は低いです。安心して投資を続けてください。世界経済は長期では年平均3−4%で成長し続けており、その成長する世界経済に対して適切に分散投資していれば、長期において一定のリターンを得られる可能性が高いです。短期の下落に対して狼狽して投資をやめることの方が長期投資であれば機会損失なので、どっしり構えるべきです。では、なぜ世界経済と金融市場の構造について解説するかというと、自分の大切な資産がどう変動するかについて、納得感を持ち、投資を通じて本業にも役立つ経済知識を得られた方が良いと思っているからです。そんな前提で、以下お読みいただければと思います。見るべき指標とその決定構造基本的な見るべき指標と経済の仕組みまず、海外株で資産形成する上で重要な指標(=自分の資産価格の決定要因)は「①米国株式市場の指数」と「②ドル円の為替レート」になります。全世界株式に投資する場合も、米国株と世界株の相関は指数レベルでは高いので、絞るなら米国株式市場の指数を見ていれば傾向を把握できます。株式指数と為替レートがどのように決まるかについて、簡単なモデルとして日本・米国それぞれを「実体経済」「株式・債券市場」「政府・中央銀行」という3セクターに分け、国際的な「外国為替市場」を間に置いて考えます。簡単化した経済モデル実体経済:企業による商品・サービスの提供や消費者による購入・労働活動全体を指す。この活動を定量化したものが「企業決算」や「経済指標(GDP・インフレ率など)」となる。株式・債券市場:株式や債券が売買される場で、個人投資家以外にも機関投資家が参加し、ここの活動で株価や金利が決定される。政府・中央銀行:経済の安定成長を促すために市場外から介入する存在で、中央銀行(日銀・FRB)は金融政策で金利を誘導・操作し、政府は財政政策で外部から需要を生んで景気に働きかける。外国為替市場:各国通貨が売買される場で、貿易等の実需に基づく取引のほか、国際的な投資のための取引もされる。①米国株式市場にいま何が起きているのか株式市場の動きは、その市場を構成する企業の業績と、それに対する市場参加者(個人投資家や機関投資家)の期待によって決まっています。よって、企業決算の業績が良かったり、経済全体の調子が良ければ(経済指標でポジティブな数字が出れば)、株式市場は上昇することになります。さらに、企業業績に対する期待を大きく作用するのが金利になります。金利が低ければ、企業は積極的に資金調達して経済活動を拡大し、結果的に景気全体が良くなる一方、金利が高くなるとその逆で景気が悪くなります。そして、金利の影響は急成長中の新興企業(いわゆるグロース銘柄)ほど大きくなります。なぜなら、成熟企業(=株主配当をたくさん出せるような企業)は、外部からの資金調達ニーズがそこまで高くないのに対して、新興企業は利益を犠牲に成長している最中であり、そのニーズが高いからです。結果的に、金利上昇の影響は株式市場全体よりも、NASDAQのようなグロース市場が大きく受けることになります。米国で利上げのあった2022年にNASDAQは大きく落ち込み、利上げの終わりが見えてきた2023年には利下げ期待から大きく株価を戻しました。【#米国株】2023年を振り返る👀✅年初来上昇率12月、NYダウは過去最高値を更新しました。利下げの期待が追い風となり、#SP500 も過去最高値に迫る勢いです🚀上下の動きはあったものの、米国株式は非常に強いパフォーマンスを見せた一年でした💪皆さんは、市場の動きをどう感じましたか? pic.twitter.com/l7UEnSX608— ブルーモ証券|米国株長期投資アプリ (@Bloomo_invest) December 29, 2023 ②ドル円の為替レートにいま何が起きているのかドル円の為替レートは、外国為替市場で決定されますが、それを動かす現時点での大きなドライバーは日本と米国の金利水準になります。2024年2月現在、日本国債利回り(10年)は0.7%に対して、米国国債利回り(10年)は4.1%と、大きな開きがあります。この状態だと、為替レートの変動を無視すれば、円でお金を借りて、ドルでお金を貸すと利鞘が生まれる状態なので、円売り・ドル買いが進んで円安が進みます。過去2年間で急速に円安が進んでいるのは、米国の中央銀行(=FRB)が金利を引き上げる中で、日本の中央銀行(=日銀)は低金利政策を維持したので、その金利ギャップによる資本移動が要因としてあると考えられます。2024年に想定される市場シナリオ経済構造について説明しましたが、具体的に日々のニュースで語られる市場シナリオの前提を以下説明します。難しい話も入っているので、ニュースを読む際に「ふーんそうなんだ」くらいに思う材料として眺めてください。米国の利下げ期待による米国株式市場の変動2024年にはFRBの利下げが想定されており、この利下げのタイミング(ないしはその時期を市場が確信したタイミング)で米国株式市場が上昇するのではないかと想定されています。FRBが2022年に利上げをした背景である米国におけるインフレ率(CPIやPCEデフレーターなどで示される)は沈静化しつつあり、市場全体としては年内の利下げ期待が形成されています。しかし、米国の消費や雇用が高金利下でも依然として強く、FRBは早期の利下げがインフレを再加熱させることを懸念しており、慎重に今後の金融政策を決めている段階にあり、利下げ時期については流動的な状況です。そして、市場が「このくらいの時期には利下げがされるだろう」と抱いた期待が変わる度に、株式市場は上昇したり下落したりします(利下げ期待が遠のくと、企業業績向上が遠のいたと見られ、株式市場は下がります)。よって、2024年2月現在では、FRBが利下げに対してどんな判断をするかという「材料」に対して相場が形成される(それによって株価や金利が動く)状態になっています。その「材料」になるのが「経済指標」で、代表的なものでいうとCPI(消費者物価指数)のようなインフレ指標や、雇用統計・景況指数のような実体経済の景気指標であったりします。特にインフレ指標はダイレクトに利下げ判断に繋がるので、期待からズレた時の株式市場への影響は大きいです(インフレが期待より高ければ利下げは遠のいて、株式市場は下落する)。おはようございます☀️✅ 1月の消費者物価指数(#CPI)予想を上回り、連邦準備理事会(#FRB)の利下げ開始時期を巡る観測が後ずれ✅主要株式指数急落📉✅金利動向に敏感な $GOOGL $MSFT $AMZN $META など大型株下落📉✅ #SP500 のセクター別では公益事業、不動産、一般消費財が大幅下落📉… pic.twitter.com/UtDB7EbEr7— ブルーモ証券|米国株長期投資アプリ (@Bloomo_invest) February 13, 2024 日米金利差の縮小による為替レートの調整ドル円の為替レートが円安に動いた要因の一つが日米金利差だと説明しましたが、今年は米国の利下げと日本の利上げという異なる2つの政策決定から日米金利差が縮小すると予想されています。最近ではFRBの利下げ期待が為替レートに与える影響は大きく、米国で利下げ期待が遠のくと(米国金利がしばらく高いと期待されると)、円安に振れるという動きもよく見られています。また、日本の中央銀行である日銀の利上げ(ないし金融政策の変更)も大きなドライバーです。日銀はこれまで低金利政策を長らく維持してきたので、「いつ利上げするか」が争点になっています。2023年12月に日銀の植田総裁が国会にて「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになる」と発言したことを受け、市場が早期に日銀の利上げ・日米金利差の縮小が起きること期待し、急速な円高が進む場面もありました。しかし、その後植田総裁は「例えば『3か月後、6か月後にFED(FRB)が動きそうだから、その前に焦って、私どもの政策変更をしておく』そのような考え方は不適切だ」と述べており、大きな政策変更はFRBの利下げ後になるのではないかと見られています。では、米国の利下げと日本の利上げが終わった時、長期的にどの程度までドル円に調整が入る(=円高になるか)かというと、その予想は難しく、専門家の見解も分かれている状態です。最後に:ブルーモでも市場ニュースやデータを発信中現在、ブルーモでは公式Xにて市場ニュースを発信しており、投資アプリ内では為替や指数のリアルタイムデータが閲覧できるようになっています。投資関連の情報は掘れば掘るほど出てきて、中々消化できないこともありますが、なるべくシンプルに海外株投資をする方向けにつくっているので、興味ある方は是非ご覧ください。また、Bloomoアプリで投資されている方は、「自分の投資ポートフォリオが変動している」→「市場全体の動きをアプリで見る」→「気になれば公式Xで詳しい情報も見る」という一連の投資体験ができるようになっています。雇用統計のサプライズを受け・FedWatchの3月金利据置予想は80%に・債券利回り、ドル円は急騰📈・多くの株価が下落する中 $META 20%越え上昇🚀— ブルーモ証券|米国株長期投資アプリ (@Bloomo_invest) February 2, 2024 SP500が5000を超えた!そんな歴史的な日に、ブルーモもリアルタイムの指数・為替表示機能をリリースしました pic.twitter.com/cPVdHUGVE9— Jin Nakamura | ブルーモ証券 CEO (@jinjin_japan) February 9, 2024 ご利用にあたっては取引に関するリスクと手数料をご確認ください