【アップル決算みどころ】iPhone 16eとサービス成長で中国減速をカバーできるか(Apple)
本記事では、アップル(Apple)の2024年第4四半期決算を振り返り、5月1日に控える2025年第1四半期決算の見どころを解説します。アップルの2025年第1四半期(2024年10-12月期)決算は、売上高1,243億ドル(前年比+4%)、EPS2.40ドル(同+10%)と過去最高を記録しました。地域別では米国+4%、欧州+11%と好調な一方、中国は-11%と苦戦しています。新製品のVision Proは販売不振で生産縮小の可能性があり、生成AI機能の開発も遅れが生じています。一方で、iPhone 16eの投入により世界スマホ市場シェアで首位を獲得し、サービス部門は過去最高の263億ドルの売上を記録するなど、明暗が分かれる結果となりました。今回の決算は「減速する中国をその他地域やサービス収入で補えるか」がテーマといえます。iPhone販売台数やサービス収入の着実な伸びが確認できれば、アップルは逆風下でも成長持続可能との評価から株価にプラスです。一方、中国需要悪化やAI対応の遅れが響いて弱い決算となれば、一時的に株価が調整するリスクもあります。ただアップルは豊富なキャッシュを背景に積極的な株主還元と長期視点の事業投資を続けており、中長期の企業価値は底堅いと見る向きも多いです。2025年第1四半期(10~12月期)決算ハイライト2025会計年度第1四半期(2024年10~12月期)のアップルの業績は、売上高1,243億ドル(前年同期比+4%)と過去最高を記録し、希薄化後EPS(一株当たり利益)は2.40ドル(前年同期比+10%)となりました。地域別に見ると、米国+4%、欧州+11%、中国は-11%と地域間で明暗が分かれました。特に日本は+15%と大きく伸びており、2年連続の増収となっています。製品別では、iPhone売上高が前年同期比0.8%減とわずかに減少したものの、Macは+15%増、iPadも+15%増とパソコン・タブレットが好調でした。サービス部門(App Storeやサブスクリプションなど)は過去最高の263億ドルの売上を計上し前年比+13%増と引き続き高い成長を示し、ウェアラブル・ホーム・アクセサリ部門(Apple WatchやAirPods等)は-2%減とやや減速しました。純利益は363億ドルと前年を上回り、同四半期として過去最高水準です。こうした堅調な決算を受け、株価は決算発表後に上昇しました。発表当日(米国時間1月30日)終値は前日比0.74%安でしたが、時間外取引では+3.26%高の245.34ドルまで買われています。市場予想を上回る収益と、為替の影響を除けば堅調な次期売上見通しが評価されたためです。アップルは第1四半期に約300億ドル(約4兆円超)もの資金を自社株買いと配当の形で株主に還元しており、取締役会は四半期配当(1株0.25ドル)の支払いも決議しました。潤沢なキャッシュフローを背景にした株主還元策は株価下支え要因となっています。前回決算以降の主なニュースと動向Vision Proの販売状況: 2024年2月に米国で発売されたアップルの高価格帯MR(複合現実)ヘッドセット「Apple Vision Pro」は販売が伸び悩んでいます。報道によれば、アップルは需要低迷を受けて現行モデルの生産を大幅縮小し、2024年末までに一時生産停止の可能性もあるとのことです。実際、発売直後の四半期(2024年2~3月)に10万台も売れず、その後も需要減速から生産台数をピーク時の半分程度に抑制している模様です。アップルは第2世代Vision Proの開発を少なくとも1年延期し、まず低価格モデルの開発に注力する方針とも報じられています。超高額(米国で3,499ドル、日本では約50万円)の初代モデルでは市場拡大が難しく、価格引き下げと「キラーアプリ」の出現による普及拡大を狙う戦略と考えられます。現時点でVision Proの売上への貢献はごく僅かで、ウェアラブル部門全体の売上も前年割れとなっていることから、投資家は今後の販売動向と収益寄与を引き続き注視する必要があります。生成AI機能(Apple Intelligence)の開発動向: アップルはiPhoneやMac向けに独自の生成AI機能群「Apple Intelligence」の提供を進めていますが、その展開は計画より遅れています。2024年秋のiOS 18リリース時に一部機能を提供開始したものの、目玉であるSiriの高度な生成AIアップデートの開発が難航しています。アップルは2024年6月のWWDCで発表したSiriのAI強化機能の提供時期が当初予定(2025年4月頃)より遅れ、2026年初頭までずれ込む可能性を認めました。実際、2025年3月7日に広報を通じ「当社が考えていたよりもこれらの機能の提供に時間がかかる」と声明を出し、事実上の大幅延期を発表しています。このニュースを受けて株価は3月中旬に急落し、アップルのAI戦略への投資家懸念が高まりました。競合のGoogleやAmazonが音声アシスタントに生成AIを相次ぎ統合する中、アップルの出遅れは将来のiPhone買い替え需要に影響しかねないと指摘されています。もっともアップルはプライバシー重視からデバイス上で動作する省電力AIに注力しており、完成度を高めた上で順次機能拡張する方針です。個人投資家としては、秋発売の次期iPhoneに間に合う形でどこまでAI機能強化が進むか注目したいところです。iPhone販売と主要市場の需要動向: 前述のとおり、直近四半期(2024年末)のiPhone売上は前年比微減となりましたが、地域別の動向に特徴が出ています。中国市場ではiPhoneが不振で、第1四半期(10-12月)の売上高は前年同期比11%減少しました。背景には、中国本土でアップルの生成AI機能(Apple IntelligenceやChatGPT)が規制により利用できず魅力が削がれていることや、景気減速による消費低迷があるとアップル経営陣は分析しています。実際、調査会社Counterpointによると2024年Q4の中国におけるAppleスマホ販売台数は前年同期比18.2%減と大きく落ち込み、同年通期の中国スマホ市場シェアでもAppleは首位から4位に転落しました。一方、米国や欧州では年末商戦期の需要が堅調で売上横ばいを維持し、日本や新興国での需要は強い伸びを見せています。特に注目すべきはインド市場で、アップルは2023年に同国で初の直営店をオープンし販売体制を強化するとともに、製造面でもインド生産を拡大しています。直近1年間でインドでのiPhone生産量を60%増やし、世界出荷台数の20%がインド製となったことが報じられており、地政学リスク分散と現地需要取り込みに努めています。インドでのアップルのスマホシェアはまだ約8%程度ですが、2024会計年度の売上は約80億ドルに達しており今後も二桁成長が見込まれています。こうした新興国市場でのシェア拡大は、既に成熟した米欧中市場に代わる中長期成長シナリオとして重要です。さらに2025年2月末には新型の「iPhone 16e」を投入しました。これは現行のiPhone16シリーズの廉価版モデルで、価格を抑えつつ最新機能(Apple Intelligenceなど)を搭載した製品です。低価格帯の16e投入は新規需要を喚起し、日本やインドでの販売増に奏功したと伝えられています。調査会社のデータでは、2025年第1四半期(暦年、1~3月期)の世界スマホ市場シェアでアップルが19%を占め、サムスンを抑えて首位となりました。欧米や中国の販売が苦戦する中でも、iPhone 16eの寄与と日本・インドの堅調な需要が世界シェア首位奪還の原動力となっています。このように前回決算後、地域間で明暗を分けるiPhone需要動向が鮮明になりました。中国市場の減速を他地域での伸びと新製品投入でどこまでカバーできるかが、今後の業績を左右するポイントです。規制リスクと株主還元策: マクロ環境や規制面のニュースも見逃せません。米国と中国の間の貿易摩擦は2025年に入って激化し、米国政府が中国からの輸入品に最大150%の関税を課す可能性が取り沙汰されました。アップル株はこの報道を受け4月初旬に一時25%以上急落する場面がありました。その後、スマートフォンなど一部製品は関税適用除外となる見通しが伝わり株価は持ち直しましたが、依然として中国生産への依存や中国販売減速に対する地政学リスクは株価の重石となっています。また欧州ではデジタル市場法(DMA)の施行により、アップルはEU圏内でiPhoneへのサードパーティ製アプリストア解禁やアプリ内決済手段の開放を余儀なくされています。これは中長期的にApp Store手数料収入(サービス部門)に影響を及ぼす可能性があり、アップルは慎重に対応を進めています。こうした規制リスクの一方で、株主還元策は引き続き強化されています。アップルは12年連続で四半期配当を増配しており、前述の自社株買いも継続中です。昨年同時期(2024年Q2)には追加で1,100億ドル(約17兆円)もの自社株買い枠を承認し、四半期ベースで過去最高額の買い戻しを実施しました。これほどの巨額買い戻しは自社株への信頼の表れであり、1株当たり利益の押し上げ効果もあります。個人投資家にとっては、規制環境の変化による向かい風と、手元資金を活用した株主還元による追い風の両方を考慮することが重要です。今回発表(2025年第2四半期、1~3月期)決算の注目ポイントと株価への影響5月上旬に公表予定の2025年第2四半期決算(1~3月期)では、上述の動向を踏まえいくつかの重要ポイントが予想されます。それぞれが株価に与えるインパクトを整理しましょう。iPhone売上の回復または減速: 最大の注目点はiPhone部門の売上動向です。前年の2024年1~3月期は中国での販売低迷などからiPhone売上が減少(前年同期比 -X%)しており、今回はその反動による増収が期待されています(注: 2024年Q2はiPhone含む主力製品が軒並み減収でした)。特に今年は2月末に発売した「iPhone 16e」の販売寄与が約1か月分含まれるため、中価格帯需要の取り込みでiPhone全体を下支えした可能性があります。実際、前述の通り1-3月期の世界シェアでアップルは首位となっており、数量ベースでは健闘したとみられます。もっとも中国市場の需要回復は不透明で、引き続き前年比マイナスが続くリスクも残ります。iPhone売上が市場予想を上回る増収となればポジティブサプライズとなり株価上昇要因ですが、逆に回復が鈍く横這い~減収に留まる場合は失望売りを招きかねません。決算発表では地域別のiPhone販売動向や、新興国での伸長が中国減速をカバーできたか注視しましょう。サービス部門の成長継続: サブスクリプション収入やApp Storeを含むサービス部門は、第1四半期に過去最高売上を記録するなどアップルの稼ぎ頭となっています。第2四半期も前年比二桁増の堅調成長が続くかが重要ポイントです。足元ではApp Store規制緩和の動きもありますが、本決算への直接的な影響は限定的でしょう。むしろApple MusicやiCloud、有料保証AppleCare+の契約増加や値上げ効果で引き続き高い利益率の収入増が期待されます。サービス部門は粗利率が製品より高いため、売上成長が確認できれば利益面でプラス材料となります。仮に成長減速が見られると将来の収益予想に影響するため、有料サブスクリプション数の増減や地域別サービス売上にも注目です。サービス収入拡大が順調なら、アップルのエコシステム強化による安定収益源として評価され株価支援要因となるでしょう。中国市場の販売状況: 中国売上が前四半期(10-12月)に続き減少するか、あるいは春節需要などで持ち直すかも株価のカギを握ります。昨年末時点で中国売上は約185億ドルと全体の15%超を占めており、この巨大市場のトレンド変化はインパクトが大きいです。中国政府による消費刺激策や、ライバル華為技術(ファーウェイ)の勢いなど外部要因も絡みます。アップルは4月以降、生成AI機能の多言語展開により中国以外の地域で需要拡大を図ると述べていますが、肝心の中国本土でApple Intelligenceが使えない状況が続く限り販売回復は限定的かもしれません。もし中国売上が前年同期比で再び二桁減となればネガティブ材料ですが、一方で「底打ち」して減少幅縮小や横這いとなれば安心感から株価にはプラスでしょう。投資家は決算カンファレンスでのティム・クックCEOの中国市場に関するコメントにも耳を傾ける必要があります。Apple Vision Proの収益貢献: 2024年2月に米国発売となったVision Proの売上寄与が初めて今四半期に表れる見込みです。ただし前述の通り販売台数はごく少数に留まっているため、四半期売上(908億ドル※前年同期)に占める割合は数十億円程度とごく僅かと推測されます。それでも「Wearables, Home and Accessories」セグメントにおいて前年同期比の増減要因として触れられる可能性があります。むしろ重要なのは、アップルが決算説明でVision Proについて今後の販売国拡大や開発計画に何らかのアップデートを示すかどうかです。6月末には日本や欧州での発売も予定されており、その準備状況や初期ユーザーの反応などが語られれば、今後の収益モデルを占う手がかりとなります。仮に需要が想定以上に低迷し続ける場合、在庫や関連費用が業績圧迫要因となりかねず注意が必要です。投資判断としては現時点でVision Proに過度な期待を織り込むのは禁物ですが、長期的なプラットフォーム戦略として注視する価値はあります。ガイダンス修正の有無: アップルはパンデミック以降、正式な数値ガイダンスの提供を控えていますが、決算時に次四半期の売上トレンドについて定性的な見通しを示すことがあります。前回決算では「2025年1-3月期の売上高は為替影響を除けば中〜低シングル(一桁)台の成長」との見込みが示唆されました。今回その見通しに変化があるかどうか、例えば最近の関税問題や中国情勢を受けて保守的に下方修正するのか、あるいは新興国の好調や為替追い風で強気のトーンを維持するのかがポイントです。仮に経営陣が先行きに慎重姿勢を強めれば、将来成長への不安から株価は上値が重くなる可能性があります。逆に「業績は堅調に推移している」「需要は予想通り」といった自信を示せば、市場心理の改善につながるでしょう。特に今年後半にはiPhone新モデルや廉価版Vision Proの噂もあり、中長期見通しについて言及があるか注目です。加えて、例年この時期には新たな自社株買い枠の発表がなされる傾向があります。前述のように昨年は追加1100億ドル規模の買い戻しを決定しており、今回も巨額の資本還元策が示されれば株価の下支え要因となるでしょう。以上のポイントを総合すると、今回の決算は「減速する中国をその他地域やサービス収入で補えるか」がテーマといえます。iPhone販売台数やサービス収入の着実な伸びが確認できれば、アップルは逆風下でも成長持続可能との評価から株価にプラスです。一方、中国需要悪化やAI対応の遅れが響いて弱い決算となれば、一時的に株価が調整するリスクもあります。ただアップルは豊富なキャッシュを背景に積極的な株主還元と長期視点の事業投資を続けており、中長期の企業価値は底堅いと見る向きも多いです。個人投資家としては、決算数字そのものだけでなく経営陣のコメントや市場環境の変化に注意を払い、目先の株価変動に惑わされず長期的な視点でアップルの戦略と成長余地を評価することが肝要でしょう。